ロストエンパイア創造記 作:メアリィ・スーザン・ふ美雄
ああ、ついにヒロインの一人が羽虫の魔の手に!
創造神メアリィ・スーは、黄金がもつ魔力というものを甘く見ていました。
お金なんて、自分の現能の下位の下位の下位互換くらいにしか思っていません。
ですが大抵のものとできる黄金というのは、欲深い人間にとっては富と幸福の象徴です。
禁の鉱山(仮名)をロストエンパイア建設予定地に持ってきてから一冬も越さぬ間に、金の亡者達は炭鉱を掘り進め、これだけの黄金があればという豊かな想像力から黄金郷めいた楽園を創っていたのです。
全ては金を夢見る人間たちが、理想に理想を重ねた結果でした。
金の城壁。金の家々。金の家具。金の道路。金の木々。金の公園。金の池。金の城。金の塔……創造主ならぬ退廃主たちは、現実では叶わぬ夢が叶う箱庭の中で、贅沢の限りを尽くしました。
人喰い蟻も皆殺しキリギリスも、金を掘りに来た連中を頑張って食べているのですが、金の亡者と比較して、いくらか執念が足りないようでした。
「やっべー金に狂った人間欲深過ぎでしょ。
あーもーメチャクチャだよっ!」
彼女が考えるロストエンパイア構想には、黄金郷エル・ドラードめいたものを築くつもりなんてありませんでしたから、いらないものは当然捨てるつもりです。
愉悦成分込みで滅ぼすなら、コンキスタドールでも突っ込ませれば、連中から黄金を全部没収した上で土地も埋め立ててくれそうですが、そんな童話は創っていません。
前回あらかじめ用意しておいた童話【ドン・キホーテ】は、北風と太陽で遊ぶためにわざわざ調べて書いたものであって、筋書きとしてパク……リスペクト改変したのはクライマックス付近程度でした。
童話でもなんでもないものを書くためにとっても物知りなメイベルちゃん(本名匿名希望)のおうちに行ってコンキスタドールについて調べるなんてめんどくさいなあと思ったので、そんなことしませんでした。
もう貰うものはもらってますし、貰ったものは返せませんから、貰ったものについてバレるリスクを負うようなことはしたくなかったのでした。
「やらせるならアンドール騎士団あたりにさせるけどさぁ……調べて内容書換えて素材使って再結成して……あーメンドクサやめやめっ!
もーいーよ。好きなだけ栄えちゃえばいいじゃん。
積み上げれば積み上げるほど、最後に崩すのたのしーしねー♪」
メアリィはアドリブで愉悦成分を抽出する方面に思考をシフトさせました。
せっかく人間たちが頑張っているのですから、簡単に潰すのはもったいないです。
どうせなら、絶望のオーケストラが聞きたいですからね。
この黄金郷は、自ら手を加えたお手製の童話が馬鹿なことをしでかした展開とは違うのです。
人間が、自分の手で、自分のためだけに創りあげたものなのです。
素晴らしい。
この光景から得られる教訓は、人の欲望には限りがないということです。
それらを黒く穢し、貶める。
なんと心地良さそうな未来予想図でしょうか?
「今すぐ決めるの、やーめたっ!
この問題をどうするかは、もっとじっくり決めるべきだよっ!
考えるのに疲れたから遊びにいこーっと!」
彼女は鉱山の頂上から、黄金にまみれた人間達から逃避するように回れ右して遊びにでかけましたとさ。
ここから童話【黄金のガチョウ】
むかしむかしあるところに、一日一個、金の卵を産むガチョウが産まれました。
見た目は他のガチョウと同じなので、はじめのうちは普通に育てられたのですが、二度三度と金の卵を産むと、たちまち特別扱いされました。
「こいつさえいれば、俺はいつか大金持ちだ」
男はそうほくそ笑むと、病気で死んでしまわないように、ガチョウを大事に育てました。
ですがある日、金のガチョウは居なくなりました。
金の卵を産むガチョウは気まぐれで、特別扱いに飽きたある朝、飛び去ってしまったのでした。
そうとは知らずに飼い主の男は、誰かが盗んだに違いないと決めつけて、近隣住民に怒鳴りこみ、終いには盗人と決めつけた一人殺してしまい、自警団の御用になりましたとさ。
渡り鳥のように、金の卵を産むガチョウは別の家に上がり込みました。
見た目は他のガチョウと同じなので、はじめのうちはいつの間にか一匹増えたなと思われた程度でしたが、二度三度と金の卵を産むと、たちまち特別扱いされました。
「こいつさえいれば、俺はいつか大金持ちだ」
男はそうほくそ笑むと、檻に閉じ込め枷をつけて、手元から逃げ出さないようにしました。
風のうわさでガチョウのことを知り、二の舞を踏まないようにしたのです。
ですが金の卵を産むガチョウは、檻に閉じ込めたその日から、卵を産まなくなりました。
「なんで卵を産まないんだよっ!」
「こんな環境で気分よく卵を産めるわけがないでしょう」
「言われてみりゃあ、そりゃそうだ」
男がガチョウを檻から出して、枷も一緒にはずしてやると、ガチョウは男の両目を潰し、復讐を終えるとそのまま飛び去ってしまいましたとさ。
渡り鳥のように、金の卵を産むガチョウは別の家に上がり込みました。
見た目は他のガチョウと同じなので、はじめのうちはいつの間にか一匹増えたなと思われた程度でしたが、二度三度と金の卵を産むと、たちまち特別扱いされました。
「こいつの腹には、金の卵の元になる、金塊が詰まっているに違いない」
男はそうほくそ笑むと、鉈でガチョウの腹をかっ捌いて、そのまま殺してしまいました。
風のうわさでガチョウのことを知り、逃げられる前に稼げるだけ稼ごうと思ったのです。
中からは男の予想通り、内臓の代わりに金銀財宝ザックザク!
男は狂喜乱舞して、一生遊んで暮らそうと思いましたとさ。
ですが翌日、金銀財宝は跡形もなく消え去っていました。
「はあ? なんで……」
「すみませんねえ。
そいつは私のモツなんですよお兄さん。
はっ。強欲者は殺してしまえと、きっと神様があたしを蘇らせたんです。
神に祈ったことなんてないんですけどねえ」
男が後ろに振り向くと、インディアンめいて全身を羽毛で覆う、奇妙な女が立っていました。
奇妙な女は言いました。
「人間は醜い……どうせその内心には、ドロドロとした黒いソウルを蓄えているんでしょう?
目には目を。
歯には歯を。
内臓には内臓を。
その五臓六腑、怪盗グースがいただきますよ」
そうして創造神メアリィ・スーの遊び心から産まれた魔獣『怪物強盗グース』は、人ならざる力で男の内蔵を掠め盗って殺してしまうと、家中しっちゃかめっちゃかにして、金目のものをみんな奪ってしまいましたとさ。
けれどここで、怪盗グースは意外な行動に出ました。
元となった"素材"の味が滲み出たのか、怪盗グースはガチョウ殺しの男から奪った金目のものを、恵まれない者たちにみんな分けてあげたのです。
魔獣だと思われた彼女は、あらゆる全てが魔獣ではなかったのです。
『義賊グース』のベースとなる人格が誕生した瞬間でした。
「おー。割と内容スカスカな童話だから、こっからどういうオチになるかと思ったら……これはこれでアリだねっ!」
思いもよらないストーリー展開に、メアリィ・スーは大喜びです。
筋書きを書いていない部分においては、"主人公"たちは自由に動けるのですが、キャラクターが勝手に動いて意外性のあることをしてくれると、創造神冥利につきるというもの。
ここからどうバッドエンドにさせるかは、創造神の腕の見せどころでした。
義賊グースは、あるときはインディアン上がりの旅商人と詐称して、金の相場など分からぬかのように富豪に富を奪わせて、あるときは怪物強盗と化してその富豪宅へ目撃者を許さない残虐無比な強盗行為に働き、またあるときは義賊として金を貧民街にバラマキました。
ブクブクと蓄えて肥えた富をかっさばき、搾取されてきた者に再分配する……それは確かに気高い行いかもしれませんが、けれど貧しいものは市場経済を知らず、日々生きるためにお金を使うばかりですから、支配構造に変化はありませんでした。
ことの本質、構造そのものをどうにもしない、あるいはできないあたりが、メアリィには愉しくてたまりません。
ついに我慢できなくなったメアリィは、ある日妖精の皮を被ってグースに会いに行きました。
「こんにちわーっ♪
お姉さんが怪盗グースだねっ?」
「おやこんにちは妖精さん。
その名をどこで知りました?
目撃者はいない筈なんですけどね」
グースは妖精の皮を被ったメアリィ・スーを殴打しました(ノルマ達成)
死ななかったのでガチョウキックもくれてやりました(ナイスキック!)
通常攻撃が2回攻撃で義賊のガチョウ娘さんは好きですか?
それはさておき、不死性をもったメアリィは、なんともない様子でした。
「妖精は死なないから殴ったり蹴ったりしても意味ないよ?」
「そいつは参りましたねどうも。
怪盗の正体がバレるわけにはいかないのですが」
「まあまあそれは言いっこなし!
ボクは脅迫に来たんじゃないよっ!
今日は君を、金の亡者が集まる世界に招待しようと思ったんだっ♪」
「ほう?
その話、詳しく聞かせてもらいましょうか」
金の亡者と聞くた途端、グースの目の色が変わりました。
グースは自分と同じように、ハラワタに富を蓄えているものが大嫌いなのです。
"素材"の味かもしれませんし、同族嫌悪なのかもしれません。
「海の向こうに黄金郷エル・ドラードの再来が見つかったのは知ってる?」
「いえ、海外のことは寡聞として知りませんね」
「そこには金の亡者どもがうようよいてね。
このままじゃボクたちが住む聖森まで荒らされちゃいそう。
怪盗グースの腕を見込んで、どうか助けてくださいな」
「やれやれしょうがないですね。
神に代わってその亡者どもをあたしが仕留めてあげますか」
誓ってここでメアリィ・スーは、チート行為を行いませんでした。
現能を使わず"干渉"するなんて、なんだかイケナイことをしているようでドキドキしました。
彼女は興奮しまくりましたが、興奮が顔に出ないように頑張ってガマンしました。
果たしてグースは妖精の甘言に誘われ、二人は一緒に海を超え、二時間四十五分後くらいに箱庭世界の聖森へ辿りつきました。
「ただの森じゃあないですか。
富の気配はしませんね」
「わー鳥人間だっ」
「ハーピィだっ」
「羽毛ぬいちゃえっ」
「わわわ。何ですかこいつらは」
聖森の拠点領域『首吊り人の木』付近には、メアリィの思想、目指すべきビジョンに共感した三匹の側近の邪妖精がいて、わちゃわちゃとグースに絡みました。グースは殴ったり蹴ったりして三匹とも始末しましたが、すぐに復活してしまいました。
「ごめんねー? みんな気のいい子たちなんだけど。
知らない人がきてコーフンしてるみたい。
黄金郷はここから北東方面にあるよっ」
「そうですか。
それはご丁重にどうも。
さようなら」
聖森の妖精たちが鬱陶しく感じたグースは、捨てられの森の北東部に拠点を作ると、バサバサと飛んで牧場跡地を無視し禁の鉱山(仮名)を超え、黄金郷エル・ドラードの紛い物の土地にやってきました。
「話には聞いていましたがこれほどとは……腕がなりますね」
あらゆるものが黄金でできた都……それは、その地に住む人間もまた同じでした。
強欲の行きつく果て、その地に巣食った人間は、あたかも童話【幸福の王子】のように、全身が黄金になっていました。
目には宝石。指輪もジャラジャラ。
私は成金ですと言わんばかりに悪趣味な、醜い本性を露わにしていました。
「どうせただの金粉でしょう。
年がら年中金粉祭りだなんて、無駄遣いここに極まれり、ですね」
グースがお勤めにかかろうとすると、しくしくと悲しげな声が聞こえてきました。
両目を無くして血涙を流すみすぼらしい蒼い鳥が、目を取られ羽根を毟られたと泣いていました。
それを見たグースは、必ずやかの邪知暴虐な者どもに天誅を下す心に決めましたとさ。
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