ロストエンパイア創造記 作:メアリィ・スーザン・ふ美雄
むかしむかしロストエンパイアに、理解しがたい黄金郷エル・ドラードのような、宝石を除いたあらゆるすべてが黄金に輝く都がありました。
右も左もゴールド、ゴールド、ゴールド!
ロストエンパイアとして恥ずかしくないのか!
と言いたくなる有り様ですが、諸行無常の響きはのちほど。
そんな土地へと海を超え、旅商人のグースがやってきました。
黄金郷の住民は、黄金に光り輝いていないグースを見て、さぞや価値ある女だと思いました。
皆一様に金色に染まった都では、金に染まらぬ宝石のように、彼女のことこそが美しく輝いて見えたのです。生半可な者ならば、この都に入るやいなや、みんな黄金になってしまいますからね。
黄金郷ではもはや黄金はありふれすぎて価値はなく、黄金ではないもののほうがよっぽど価値がありました。
そんななか、グースは黄金の庭が粗末な様子の金の家に目をつけると、黄金色のドアノッカーをコンコンと叩きました。
出てきたのは、ルビーの目をした半裸の黄金の男です。
「こんにちは。
あたしは旅商人のグースというものなんですがね。
何か要りようじゃあございませんか?」
「やあやあ黄金じゃない者が来たぞ。
お前は
「毎度ありがとうございます」
グースがそう言って家に入ると、男はレアを味わおうと、グースの尻を鷲掴みしました。
「おっとっと。それではお代を頂戴しますよ」
グースは尻揉み男から、ルビーの目玉を抉りとると、たちまちその全身の金箔を剥ぎ取って、見窄らしい銅と鉛ばかりの姿にしてしまいました。
「なっ、何をするっ!
ちょっとケツ揉んだだけなのにこの仕打ちかよ!
返せっ! 私の、金をっ!」
「すみませんねえ。返品に応じるつもりはありません。
ああ、言い忘れていましたが、こちとら予告なく脱走してしまいますので悪しからず」
金の亡者はその言葉を聞き、グースに襲いかかりました。
グースは暗闇状態の男の股間を蹴っ飛ばすと、家から金目のものを持てるだけもって、飛んで逃げてしまいましたとさ。
グースは拠点にお宝を蓄えると、再び黄金郷にやってきました。
今度は黄金の庭の立派な黄金の豪邸に目をつけると、黄金の呼び鈴で黄金の召し使いを呼んで、黄金の屋内に招いて貰いました。
「黄金ではない旅商人よ。
よくぞ参られた。ゆるりとなされよ」
「さっそく商談なんですが、今回ご紹介するのはこちらになります」
黄金の豪邸の黄金の客室に案内されて、グースは黄金の椅子に座りました。そして彼女はマントめいた翼の内側に仕込んだ袋から、今まで殺してきた富豪から奪った『黒のソウル』を一つ取り出しました。
「どうです。禍々しいでしょう?
全ての命の源が、黒く染まった一品です。
これを使えば……ええ、ただ握り潰すだけでかまいません。
たったそれだけであなたはたちまち闇の力を得られるでしょう」
「ほう。それは素晴らしい。珍しいものもあるものだ。
幾らほしい? 黄金なら幾らでも払うぞ。
外の世界では、未だ黄金に価値があるのだろう?」
「そうですねえ。腐った黄土のような紛い物なんていりません。
お代はその命で払って貰いましょうか」
グースはバッと羽ばたいて、大物ぶった黄金色の男のサファイアの目を抉り取ると、たちまちその全身の金箔を剥ぎ取って、男を見窄らしい銅と鉛の姿にしてしまいました。
「グワーッ
強盗だっ! ものども、こいつを殺せーっ!」
見窄らしくなった男が叫ぶと、黄銅の鎧を来た用心棒が、わんさかわんさか現れました。
グースはすかさず煙玉を投げると、目が眩んだ連中に捕まらずに逃げてしまいましたとさ。
グースは拠点にお宝を蓄えると、再び黄金郷にやってきました。
その頃になるとグースの悪行は広まっていて、みんなグースを一目見かけると、逃げるか襲いかかるかするようになりました。
グースは逃げるものを追わず、集団で迫ってくる者からは逃げ、一対一ならば戦いました。
それで、うまく瀕死に追い込めた一人に、こんなことを聞きました。
「ちょっとお訪ねしたいんですが、蒼い鳥の目玉の在処を知ってます?
知らなきゃ目玉をほじくります」
「ヒィッ。知ってます知ってます!
金城の兵が、戦利品だと自慢してました!」
知りたいことが聞けたので、グースはそいつの目玉を抉らず、金箔を剥ぎ取るだけにして、そのまま逃がしてあげました。
グースは金ピカの城を見て、潜入しようと決めました。
瞳を奪われた蒼い鳥に、瞳を返してあげるためです。
とはいえ神出鬼没を気取るには、グースは目立ちすぎました。
無能な兵士たちを相手取るならともかく、城ともなれば都市部より、遥かに警備は厳重でしょう。
「仕方ありませんね。
コレだけは使いたくなかったんですが……やりますか」
グースは心底嫌そうに、いままで決して使わないようにしていた、真の
「あー! 御尋ね者の目潰しグースだっ! 捕まえろ!」
都内を巡回していた黄銅鎧の兵士が、グースを見つけて叫びました。するとその掛け声にあわせて、わらわら兵士がやってきて、みんなでグースを捕まえました。
「な、なにぃ!?」
「うわあ! なにがどうなってるんだ!」
「手が、俺の手が! こいつから離れない!」
【黄金のガチョウ】の真の力を発揮したグースは、自らに触れた兵士の手を固めて、動けなくしてしまいました。その兵士に触れた者の手も、その兵士から離れなくなってしまいます。そんな連鎖があちこち起きて、グースを捕まえようとした連中は、みんな一塊になってしまいました。
「忌まわしいことに富とはさみしがり屋でしてね。
より富がある方に、みんなで集まって固ろうとしてしまうんです」
その童話力は、かつてアホッコから富を奪おうとした者への仕置きとして……と、グースが過去を思い出そうとしてとたん、頭が痛くなりました。アホッコの顔も、彼から富を奪おうとした宿屋の娘たちの顔も、まるで思い出せないのです。
あれ、なんだっけ?
あたしは魔女で、息子の名前はジャック?
それとも、ジャックが買ってきたガチョウがあたし?
マザー・グースは何者だ?
元から破綻した存在が、それ以上、アイデンティティーを、考えては、いけない。
「くっ……ともかく、これであたしは無敵です。
塊で動けば、皆が盾になってくれますし。
このまま王城に乗り込みますよ」
金の亡者たちで出来たきんのたまの中心となったグース塊は、そのまま彼女の念じるままに、ゴロゴロ転がっていきました。
周囲の街並みを巻き添えにして、グース塊はどんどん大きくなっていきます。道行く黄金人も、金の家も、金の泉も、金の家具も、金の木々も、金の道路も、金の城壁も、みんな巻き添えになりました。
「なんなんだよこの悪夢は!」
「夢なら覚めてくれ……ぐえっ」
あまりの出来事にすっかり黄金恐怖症になった人から、そんな声が聞こえました。訳のわからないことが起こって、もう嫌になっているのでしょう。
ですが彼らは逃げられません。
蓄えた金を捨てて逃げるなんて、とてもできなかったのです。
そうしてグース塊は、どんどん大きくなって王城につきました。
グース塊が起こす地ならしが気になったのか、黄金の王城にいる王様は、テラスに姿を現しました。
王様は三メートル近くある巨人で、禁忌の皮衣を身に纏っていて、蒼白の仮面で顔を隠していました。胸元にある黒いオニキスのバッチは、外なる者のソウルのように黒く妖しく輝いています。
「おやおや。どこのだれかと思えば……
まんなかのお嬢ちゃんがこのおおきなきんのたまの主かな?
ちょっと教えて欲しいんだけど、メアリィ・スーを知らないか?
童話の真似事というのに手間取って、ずいぶん遅れてしまったよ」
「そんな名前は知りません。
あたしはただ、蒼い鳥の目玉を盗みに来ただけです。
みんな纏めてべっしゃんこになりたくなかったら、哀れな鳥の目を返しなさい」
王さまは、仮面越しにグースをじっと見ました。彼には彼女がメアリィ製だと一目でわかったのですが、彼女はそんな名前知らないといいます。
きっとそういう遊びでしょう。
子どもの遊びを邪魔するなんて、夢を壊すようなことはできませんから、禁忌の皮衣の王様は、お小言だけ言って自分の箱庭に帰ることにしました。
「きみは市井で噂になってる、旅商人のグースだね?
ここは取引といこうじゃないか。
メアリィ・スーに伝言を頼むよ。
折角創った箱庭世界は、もっと大切に扱いなさい。
ジェノサイド・パーティーを開くなんて馬鹿なことはやめなさいってね。
蒼い鳥に目玉を返してあげるから、君も私の言う通りになさい」
「あたしの話聞いてませんね?
そもそもあたしはメアリィ・スーを知りません。
ぺっしゃんこになりたいんですか?」
「あまり私を怒らせない方がいい人の子よ。
吹けば飛ぶような貧弱なソウルで生意気をいうものじゃない」
温厚な王様はグースの生意気な態度に対しても穏やかにいさめ、仮面をほんの少しだけ外してソウル差をわからせました。
可哀想に黄金に目が眩み、仮面に隠されて黄金郷の真実を知らなかった住民は、みんな発狂してしまいました。
グースも正気ではいられません。
名状しがたいものが、童話による改変と蓄えたソウルで保護された彼女の存在の核に、触れてしまいそうになりました。
バラバラとグース塊のくっつきが解除されていき、肝心要のグースはというとヤバイヤバイと呟いて、わき目も振らずに逃げてしまいました。
そのあとなんやかんやあって、黄金郷はできそこないの鉛の都になりました。
キリギリスのように享楽に浸っていたものは、黄金の身体と宝石の目玉を無くし、自分の皮膚もなくして剥き出しの鉛のような醜い身体になりました。
でも一方、アリのようにまじめに禁の鉱山(仮名)に挑んだものは、金を手にいれては金を奪い合い、その隙に人食い蟻と皆殺しキリギリスの餌になっていきました。
蒼い鳥は、なんかよくわかんないうちに目玉戻ってきて助かった! と一安心しましたとさ。
捨てられの森の拠点に逃げ帰ってきたグースは、この地で稼いだお金を見回して、そろそろ富の再分配をしないと、故郷に帰らないと、と思いました。
この地が怖いんじゃあありません。
こうして富に取り囲まれていると虫唾が走るのです。
それで、海の向こうに帰ろうと、妖精のところへ一声かけに行く途中、その全身が淡い虹色の光に包まれて、グースの意識は途絶えました。
「くーボクとしたことが。
仮面を外されるまで気付かなかったなんて……」
創造神メアリィ・スーは、王様に影響を受けたっぽい部分を一つ一つ丁寧に添削していくと、可哀想に義賊グースはロストエンパイアに来てからの活動をほとんど忘れてしまいました。せっかく気に入り始めたところなのに、簡単に壊れられちゃあ困りますからね。
あの王様は『紅ずきんの森』に来るには遅すぎましたが『BLACKSOULS』に来るには早すぎました。
タイミング悪すぎるんだよなーと思うことしきりでした。
北東方面のことはしばらく放置するとして、メアリィは次のステージに進むことにしましたとさ。
第二回、なぜなにロストエンパイア創造記
Q1.グース塊ってなんやねん?
A1.童話【黄金のガチョウ】の逸話ででてきた電車ごっこ状態っぽいシーンを塊魂でパロディした結果ですな。
ちなみに前編にでてきた金の卵を産む話は、実は童話【ガチョウと黄金の卵】の改変なんですよ。
Q2.禁忌の皮衣の王様って何者? オリキャラ?
A2.ブラソ2DLC2で追加された忌々しき上衣ってどんなのかなーと想像した時に連想ゲームで思いついた、装備の元ネタだろうお方です。
原作未登場ですがいつか絶対登場するはず! でもキャラクター性は絶対違う形になるとおもう。