ロストエンパイア創造記   作:メアリィ・スーザン・ふ美雄

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童話【醜いアヒルの子】

 むかしあるところに、生んだ卵を暖めて孵化を待つ母アヒルがいました。

 ぽんぽこぽんと卵は孵り、残すはあと一匹と言ったところで、山賊と化した敗残兵が、アヒルをパーンと撃ちました。

 

 略奪です。

 

 牧場の主を始めとし、敗残兵の男はシャスポー銃で、みんなをパンパン撃ちました。

 強い敵には敵いませんからこうして一人脱走し、弱い相手を的にしているのです。

 

 シャスポー銃は優秀で、弾があるうちは小汚い男が最後に頼れる味方でした。

 

 敗残兵の小汚い男は、あらかた弱いものイジメを終えると、家に押し入って服を奪い、敗残兵をやめて牧場の主になりあがると、母アヒルの死体を美味しく頂きました。逃げ惑う雛鳥も平らげて、飢えを満たしたそのころに、一回り大きい卵がちょうどパックリ孵りました。

 

「おやっ! こうしてみると、可愛いもんだなあ!」

 

 衣食足りねば無礼者、衣食足りて礼節を知るというような感じのことわざがあるように、空腹を凌いだ男の目には、色違いのアヒルの子が可愛く見えましたし、申し訳ないことをしたとも感じました。

 

 生まれたての雛鳥はというと、親兄弟を殺したその小汚い男を親と思って懐きました。

 

 愛くるしく懐いてくる雛鳥を殺害することができるほど、敗残兵は戦場で人間性を失ってはいませんでした。

 男はその色違い雛鳥を、殺さず胸ポケットに仕舞うと、大事に育てることにしました。

 

 男は元・牧場主達を土の中に隠すと、親戚のところへ頼ってきた猟師だと騙って住み着きました。頭をパーンと撃たれたくない村人は、うすうす嘘だと分かってましたが、おとなしく受け入れざるを得ませんでした。

 

 彼はそれから、胸ポケットに色違いのヒヨコをつれて、色んな獲物を狩って暮らしました。雛鳥は親の猟師の真似をして、水面を泳がず草木や泥沼に潜むことを覚え、ハンチング帽の代わりにマグカップを被り、銃弾の代わりに羽毛を打ち出すことを覚えました。

 

「こいつは良い拾い物をしたなあ。おまえ、俺の代わりに狩りに行け」

 

 雛鳥の働きぶりに、堕落の旨みを知った男は、日々の糧を得るのを雛鳥に任せ、狩る獲物を動物から人間に変えました。銃という武力を背景に、村娘をハントしに行ったのです。

 一方雛鳥はというと、親に喜んで貰いたい一心で、様々な鳥類を狩りました。ハトにカラスにキジにツバメ、老若男女の区切りなく、醜い雛鳥は赦しはしませんでしたとさ。

 

 

 

 それから少し。

 

 

 

 雛鳥はすくすくと育ち、猛禽類より鋭い眼差しをもち、ヘルメットを頭から被り、白い身体に汚泥や草木の汁を塗りつけて迷彩する、とても白鳥には見えない別のナニカに育ちました。

 

 ある日薄汚い白鳥が家に帰ると、村は戦火に巻き込まれていました。

 村で無法に働いていた白鳥の親は、あっさり死んでしまいました。

 戦争から逃げ出した敗残兵ですから、戦争には敵いませんでした。

 

 産まれたての幼い頃に嗅いだ死の臭いが、白鳥の脳裏に蘇り、なんだかいてもたってもいられず、父が遺したシャスポー銃を手に取りました。

 

「俺だって馬鹿じゃない。

 あの男が人間の屑だろうことは分かっていたさ……」

 

 迷彩柄の白鳥は、感情のままに空を飛びました。

 そしてこの村に襲い掛かった、兵隊の格好をした人間を、目に付いた順から撃ちました。

 

 シャスポー銃は単発式で、連射できるような銃じゃないのですが、滑空を半ば捨てながらボルトアクション式のリロードをして、またバサバサと羽ばたきます。

 

 二発目の射撃でこの三次元的な奇襲の正体がわかると、人間の小隊たちにどよめきました。

 

「うわあ! なんなんだあの化物は!」

「よくわからんが撃て! 撃ち落とせ!」

 

 泥に汚れているとはいえ、空とぶ化物は目立ちますから、銃の格好の的でした。

 パンパンパンと、たくさんの銃が白鳥を撃ちました。

 

 その銃弾の多数は外れ、しかし一発は白鳥を貫き……しかし殺せませんでした。

 

 だらだらと赤い血潮を垂れ流しながら白鳥は墜落し、けれど彼はその衝撃で、狩りの基本を思い出しました。

 

 やられたフリをして雑草や家屋に紛れ、その二足と翼で匍匐前進し、死体を確認しにきた人間を離れたところから撃ちました。

 

「くそっ! まだ近くに潜んでいるはずだ! 総員警戒を密にせ」

 

 白鳥は叫ぶ男の頭を狙って撃ちました。

 匍匐姿勢でカチャカチャとリロードし、次の狙撃に備えます。

 

「あの人は俺を色違いのアヒルだと育ててくれた、たった一人の親だったんだ!

 そうとも! 俺はアヒルだ! アヒル人間だ! 『醜いアヒルの子』だ!」

 

 口の中で小さく叫んだその白鳥は、時に銃を撃ち、時に羽根を弓矢のように射ち、時に急ごしらえの火炎瓶を投げ……死肉に集るハエのように舞い、戦場に潜む蛇のように咬みました。

 

 強くなりたい。どんな暴力にもどんな理不尽にも敵うくらい、強くなりたい。

 白鳥は信じてもいない神に祈って、血と泥にまみれながら戦場となった小さな村を駆けました。

 

 やがて血と硝煙の臭いが収まり静かになったとき……そこにはどこにも勝者などいない、死屍累々とした地獄ができあがりました。

 

 こういった、人間がゴミクズのように死んでいく場所からも、創造神メアリィ・スーはきっと"素材"を調達しているのでしょう。彼女は天然モノの"逸材"をみて、フンフンと鼻息を荒くしました。

 

「いぶし銀でカッコいい! 紅ずきんくらいカッコいい!」

 

 彼女は思わず失敗作を引き合いに出して褒めてしまいました。

 なんだかんだ言っても、一度は主人公に据えるくらいですから、メアリィは紅ずきんのような存在のことが好きなのです。でも紅ずきんはメアリィ・スーのことが嫌いでしょうね。

 

 さて、醜いアヒルの子がその後どうしたかというと、静かになった廃村を巡り、どこぞのパーツが劣化したシャスポー銃を捨て、死体の兵士が抱えているドライゼ銃を拾いました。

 さっきまで使っていた銃より一回り以上大きいですが、武器がないよりマシですからね。

 

 それで、薬莢の詰まった袋を首から提げると、アヒルは次の戦場に飛び立ちました。

 いま起こっている戦争は、この小さな村だけが戦場ではないのです。

 

 そうして『醜いアヒルの子』は、家族を失った悲しみを忘れ去らんと、あるいは戦争という行為そのものに復讐するかのように、いくつもの戦場を渡りました。

 その過程でいくつもの銃に乗り換え、急ごしらえの火炎瓶から手榴弾に変え、血を流しながらも早々に死なず、人ならざる生命力で生き延びてきました。

 

 葉巻の味を覚えて、ある意味平和だった村のことを忘れるかのように吸いました。

 

「この芳醇な味わい……まるで戦場だ」

 

 フーッ、と、彼は小さな基地めいた場所のふかふかなソファに腰掛けて、そんなことを言いました。その基地の上官らしき男は頭を撃たれて死んでいました。醜いアヒルの子が撃ったのです。

 

 特に理由なく、目に付いた廃屋を少しばかり改装しただけのような基地に潜入し、警戒態勢に入った兵士達を撃ち殺し、その地を乗っ取ったのでした。

 

 ふらりと戦場に現れる、どちらの味方でもない醜い悪魔のような白鳥……いえ、返り血が錆びて鈍銀のようになったその姿を、どうして白鳥だと思えましょうか。

 人間はついに『醜いアヒルの子』を恐れ、本気で殺しにかかりました。

 

 何日かすると、彼の地獄耳には、この小さな基地を取り囲む、多数の人間を感知しました。

 

「醜い俺をみんながみんな殺しにくる。

 俺は今夜、殺されるだろうな。

……でも、かまわない。

さあ、俺を殺してみろ!

 お前らのその手で殺してみろ!

 俺に戦いの喜びをよこせッ!

 俺に生きる実感をくれッ!」

 

 当時の志を忘れ、醜いアヒルの子はすっかり戦争に酔っていました。

 彼はもう、いつ死んでも構いませんでした。

 親を殺されたその日から、いつ殺されたって構わなかったのです。

 醜いアヒルの子は、とっくに殺される覚悟を決めていました。

 

「殺戮を楽しんでいるのだな、貴様は」

 

 だれだ、と言う前に、醜いアヒルの子は声の出所に羽毛を弾丸のように放ちました。

 ニードルガンのように、羽毛は壁に刺さりました。

 そこには誰もいません。

 ただ幻聴のように声がします。

 

「一人で一人を殺してもただの悪人だが……百人殺したら英雄だ。

 見事な英雄っぷりだなァ兄弟。」

「俺に家族はいない! おまえは誰だ!」

「名前などない。お前と同じだ」

 

 空間に滲み出るかのように、蒼い鳥が姿を現しました。

 醜いアヒルの子よりも何倍も大きい体躯。

 目には二人の人間の頭部。

 創造神メアリィ・スーに遣わされた、不幸の蒼い鳥がそこにいました。

 

「おめでとう」

「おめでとう」

「おめでとう。貴様のような英雄のソウルは、神の求めるところである。

 神は貴様が御許に下ることを許されました。

 さあ、神に選ばれる幸福に咽び鳴き、頭を垂れ、しあわせを受け入れるのです」

 

 チルチルミチルに魔法使いのおばあちゃん三人からの祝言に、醜いアヒルの子は本物の銃弾で返答しました。

 ですが不幸の蒼い鳥は、以前銃弾で痛い目にあっていますから、そうそう当たるつもりはありません。

 あらかじめ読んでいたかのように、巨体に見合わぬ速さでかわすと、その鋭いカギ爪で、アヒルの胴を抉りました。

 

「グハッ!」

「戦闘の基本は通常攻撃だ。銃や魔法に頼ってはいけない」

 

 純魔系にビルドされた不幸の蒼い鳥は、偉そうに講釈を垂れました。

 下に見下せる相手に対しては、なんだかとっても強気でした。

 醜いアヒルの子は、血をだらだらと垂れ流して、ぐったりと身を横たえました。

 神秘や魔術の欠片もない単発式の銃弾など、もう恐れることはありません。

 不幸の蒼い鳥はトドメを刺そうと、呪文の詠唱を始めました。

 ニイィ、と醜いアヒルの子は微笑みんでいます。

 床にコロコロと、小さな何かが転がりました。

 蒼い鳥の呪文詠唱が終わる直前、その小さな何かは爆発しました。

 

「ギャアアアアアアアアアアアアアア!!」

「……BANG!」

 

 バッと醜いアヒルの子は起き上がり、手榴弾の音と衝撃でブレイクしている不幸の蒼い鳥に、ありったけの羽毛を射ちつけました。

 

「接射は苦手なんだがな……四の五のいっていられんか!」

 

 単発式小銃では真似できないコロラド撃ちのような射撃で、頭にたくさん、胴体にたくさん、とにかくたくさん射ちこんで、さらに銃剣を突き刺しました。

 不幸の蒼い鳥は絶叫をあげました。

 

「あークッソいってぇ! もうなんなの!

 なんで私こんな配役(キャスト)ばっかりなの!?

 もっとこう、創造神様の腹心として活躍する機会を所望する!」

「ピーチクパーチクうるせえな。

 おままごとなら他所でやってろ。

 目障りだ」

 

 醜いアヒルの子は、口を動かしながらも葉巻に火をつけるマッチをバシュッとこすると、火のついたそれをピンと空中にはじいて、首から提げた薬莢いり袋の中身を、その軌跡に沿わせるように投げました。

 

「じゃあな。地獄で……会いたくはねえな、お前みたいなヤツとは」

「キッサマァァァァァァァアアアアアアアア!」

 

 紙薬莢の粗末な銃弾は、マッチの火だけで連鎖的に炸裂しました。

 こうして人間の兵隊達が突入する前に、廃屋を少しばかり改装しただけのような基地は、勝手に倒壊しましたとさ。

 

 

 

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