ロストエンパイア創造記 作:メアリィ・スーザン・ふ美雄
童話 ナイチンゲール でググったらアンデルセン童話が出てきたので書きました。
むかしむかしとある国に、一枚に蒼い書状が送られてきました。
《王様のご殿は、世界一素晴らしい。
でも本当に一番素晴らしいのは、そのお庭のナイチンゲール》
それを読んで、王様は家来たちに言いました。
「ほう、世界で一番素晴らしいのは、わしの庭に住んでいるナイチンゲールとやらか。
みんな、今夜中にナイチンゲールを探してまいれ」
家来たちはご殿中を探しましたが、ナイチンゲールがどこにいるのかわかりません。
こまっていると、台所で働く娘が言いました。
「……その鳥なら、病気のお母さんに食ベ物を届けに行く時、森の中で良い声で歌ってくれるわ」
そこで娘は王様の家来を、森へ案内してあげました。
街道沿いに森を歩いていると、鈴をふるようなきれいな歌声がひびいてきます。
「しっ! あれがナイチンゲールよ」
娘は立ち止まると、枝にとまっている灰色の小鳥を指差し言いました。
そこにいたのは、やや濃い色のサヨナキドリです。
サヨナキドリは別名ナイチンゲール、ヨナキウグイス、墓場鳥とも呼ばれます。
娘はナイチンゲールに向かって、優しい声で言いました。
「あなたの歌を、王様に聞かせてあげて」
娘の言葉が通じたのか、ナイチンゲールはその晩、王様のご殿にやってきました。
そしてナイチンゲールは、王様の前で歌いました。
王様は、はらはらと涙をこぼして言いました。
「なんて素晴らしいのだ。
ナイチンゲールよ、どうかいつまでもわしのそばにいておくれ」
ナイチンゲールのために立派な鳥かごがつくられ、ご殿で暮らすようになりました。
チッ、チッ、チッ、とナイチンゲールは鳴きました。
それはまるで、何故夢の中でまで他者に干渉されなければならないのだと、舌打ちしているかのようでしたが、王様やその家来は、立派な鳥篭を作ってくれてありがとうと言っているように聞こえましたとさ。
それから少し。
王様がナイチンゲールのことを好きだと知ったとある国から、ダイヤモンドとルビーで飾られた美しい金のナイチンゲールの貢ぎ物が届きました。
お腹のネジを巻くと尾を振って、それはみごとに歌うのでした。
「ああ、この金のナイチンゲールがいれば、他には何もいらぬ」
その王様の言葉を聞くと、ナイチンゲールは鳥かごから抜け出して、森へと帰ってしまいました。代替品があるのなら、自分が歌ってやる必要もありませんからね。
自由になったナイチンゲールが森に帰ると、自分の住処の近くに、背を向けた大きな蒼い鳥が居ついていました。
今日の不幸の蒼い鳥は、こわーい目を見せずに勧誘業を頑張るようです。
「こんにちわ」
「……こんにちわ」
「フローレンス・ナイチンゲール様ですね?」
「……別人よ。他を当たって」
「空を自由に飛びたいと思ってそんな姿に?」
「うるさいわね。人が何を夢見ようと自由でしょう?」
「精神病院の改善は上手くいきましたか?」
「ここは夢よ。現実の話を持ち込まないで」
「ふぇっふぇっふぇ。では夢の話を。
クックロビンのように殺されないように気をつけなされ」
「何かと思えばマザーグースの一節? あれで死ぬのはコマドリでしょう?」
「怖い世の中ですからねぇ。
そんな姿をしていては、コマドリと間違えて射られるかも」
「で、アンタ誰?」
「チルチル!」
「ミチル!」
「こりゃおまえたち! いま大事な話をしとるんだから静かにしなさい!」
「……子どもがいるの?」
「ええ、まあ……そう、私はですね、今日は勧誘に参りました。
アナタのその強すぎる意思は、ひとつの力になれる」
「広告塔はもうたくさん。
有名人扱いはゴメンだわ」
「寝ても覚めても奉仕の心を以て自らの手で皆を救いたいとは思わないのですか?」
「私の看護はクリミア戦争で終わったわ。
いまは看護される側。
それと、紙束使って国を相手に看護の重要性を説く側でもあるわね」
「無理矢理連れ去っても良いのですよ?」
「へえ? どうするつもりか知らないけど……やってみる?」
不幸の蒼い鳥は自身の背の向こう側で、ナイチンゲールが精神の異形種に変容するのを感じました。
この者を自力で勧誘すればきっと神もお喜びくださる!
「おお、怖い怖い。
私の誘いがそこまで嫌なのですか?」
「人間の使命というものは胸の内から自然とあふれ出るもの。
他者にかくあれかし故にと諭されるモノではないと知れ」
この偉大な英雄のソウル。
なんとしてもロストエンパイアに持ち帰らねば!
不幸の蒼い鳥は、呪文を詠唱し終えると同時に振り返りました。
「では死ねいグワーッ!
Lady holding light GAAAAAAAAAAAA!!!」
振り向きざまに唱えた即死呪文デスは凄まじい光量のランプに目潰しされて外れました。
「天使とは、花をまきちらしながら歩く者ではなく、人を健康へと導くために、人が忌み嫌う仕事を、感謝されることなくやりこなす者である。
堕落へ誘う悪魔の遣いよ。あるべき場所に還るがいい……AMEN」
不幸の蒼い鳥は、光の向こう側からナイチンゲールにそう言われ、それからなんだかとっても暖かい、気持ちのいいぬくもりに包まれて……気付けば、聖森の篝火の前にいました。
篝火の近くには、妖精の皮を被ったメアリィ・スーが、こまごまと内装を弄っていました。
「アンタなにしてんの? 別に呼んでないけど」
「えっ、あっ、私はっ」
今しがたあったことを語ろうとして、不幸の蒼い鳥は言いよどみました。
過去の数々の失態を取り戻すべく先走りして、そのうえ失敗したなどと、どの口が言えましょうか?
チェシャ猫のように口が裂けたって言えません。
「申し訳ありません。寝違えました」
「あっそ。じゃ、眠気覚ましに童話【人殺し城】のとこ行ってきて。
シンデレラ・オーディションがどうなってるか聞いといてよ」
「はっ、仰せの通りに!」
不幸の蒼い鳥は、いそいそと空間に溶け込みました。
なんだかどんどん、自分の扱いが雑になっていくような気がして、彼女は怖くなってきました。在庫処分品のように篝火にくべられたくない、忘却の深遠に落とされたくない、いつまでも神の傍にいたい、なんとか役に立たなければ、と、そんなことばかり考えましたとさ。
ある晩、金のナイチンゲールはブルルルと震えたきり、動かなくなってしまいました。
王様は医者やカラクリ士をよんで、なんとか金のナイチンゲールを歌わせようとしましたが、心棒の折れた金のナイチンゲールを元のように歌わせる事は出来ませんでした。
それが分かった日から王様はぐったりと、寝床に伏せるようになりました。
王様は重い病気にかかり、誰が見ても助かりそうにありませんでした。
病気の王様にはないしょで新しい王様が決まり、病気の王様が死ぬと同時に王様が代わる準備がすすめられました。
病気の王様は、ベッドの中で涙をこぼしました。
「たのむ。もう一度歌ってくれ。ナイチンゲールよ」
そのとき突然、鈴をふるような歌声がまどのそばでひびきました。
歌っているのは、森のナイチンゲールです。
王様が苦しんでいると知って、なぐさめにきたのです。
森のナイチンゲールの歌声を聞いているうちに、王様の体に力がわいてきました。
森のナイチンゲールは、声をかぎりに歌いました。
(心の病は気の持ちよう、心一つで治るはず。
なんて、私ったら、夢の中でまでなにやってるのかしらねぇ)
次の日、ひさしぶりにナイチンゲールの素晴らしい歌声を聞いてぐっすりと眠った王さまは、気持ちの良い朝をむかえました。
病気で青ざめていた頬は、元のはだつやに戻っていました。
「ありがとう、ナイチンゲールよ。
これからもたびたび飛んできて、どうか私を励ましておくれ」
王様は、逃がしてしまった森の鳥に感謝を述べました。
森のナイチンゲールは森に帰って行きました。
入れ違いに、家来たちが王様の部屋へ入ってきました。
もう王様が亡くなったと思って、みんなで様子を見にきたのです。
すると元気になった王さまが、家来たちにビックリするほど元気よく言いました。
「おはよう、みなの者」