ロストエンパイア創造記 作:メアリィ・スーザン・ふ美雄
「そろそろかな……さァ"白雪姫"候補ちゃん!
童話【くさったリンゴ】を喰らえっ!」
創造神メアリィ・スーは、前々から目をつけていた一家のお父さんに、童話【くさったリンゴ】を突っ込みました。その童話はずぶずぶと、一家のお父さんの身体が水になったみたいに、中まで飲み込まれていきました。結末までキッチリ書き終えてあるそれは、違えようもなくバッドエンドにたどり着くでしょう。
ついこの間、うっかり貴重な無限ループ……完結しないことが完結……である童話の習作をぶっ潰してしまいましたが、そんなうっかりにもめげず、彼女は外道を歩む道を止めることはありません。
あの影をなくした男が、影を求めてさまよう悪魔になり、どこかの誰かの男の影を奪い、しかしそこで悪魔の人格を影を無くした男に移して乗っ取ってしまうという、一見カンペキな無限ループでしたが、いつかはどこかが破綻するものということが今回のことで分かりました。
つまり、破綻することも物語に含めなければ、ロストエンパイア構想は完成とは言えないのです。メアリィはそのことをめもめもと、かんぺきすけじゅーる帳に書き足しました。
「壊した後の再構築かー……どうしよっかなー。
やりなおしに、繰り返し……そう、例えるなら、時計の針みたいにグルッと一周して、何回も難解もグルグル周回して、気付いたら一番最初に戻ってる、みたいな感じがいいな」
これを完成させるには、かなりのトリック、ギミック、歯車が必要そうです。
まあ、むつかしい話はここまでにして、童話【くさったリンゴ】のはじまりはじまり。
むかしむかしあるところに、とても仲の良い夫婦と娘がいました。
二人の家は屋根にこけや草が生えていて、窓はいつも開けっぱなしですが、それなりに立派なものでした。
庭には番犬が一匹いて、池にはアヒルが泳いでいます。
季節の花が門をかざり、リンゴの木も生えていました。
百姓の二人は、ライ麦畑の世話をしていて、季節がめぐると、ライ麦畑は黄金でできた絨毯のようにゆらぎました。
ある日の事と、お母さんがお父さんに言いました。
「ねえあなた。
今日は町で、市が立つのですって。
家のウマも何かととりかえちゃいましょうよ。
このごろずっとあのウマは、草を食べて小屋にいるだけだしさ」
すっかり紹介が忘れていましたが、夫婦の家には馬小屋もあり、馬も一頭飼っていました。
お父さんは乗馬が趣味でしたが、確かに最近は乗っていません。
このままロバ代わりにするよりは、ロバと取り替えたほうがいいかもしれませんね?
「俺はロバが良いと思うが、おまえは何ととりかえてほしい?」
「あなたに任せるわ。だって、あなたってばここ一番に強いんですから」
「おまえ……」
「あなた……」
お母さんとお父さんがイチャイチャしている玄関口から離れたところで、娘さんは手鏡に向かってもにょもにょと何か言っていましたが夫婦は聞いていませんでした。
それで、お父さんが久しぶりに馬に乗ってパッカパッカと町に進んでいくと、別の道から雌牛を引いてくる人がいます。
「ありゃ、見事なメスウシだ。きっといい牛乳がとれるぞ」
お父さんはそう思うと、その人に馬と雌牛をとりかえっこしてほしいと頼みました。
その人も、市で雌牛と何かを交換しにいく人だったようで、快諾してくれました。
お父さんは馬から下りて手綱を渡すと、馬はお父さんとの別れを嫌がって、その人を蹴り殺してしまいした。
「えらいことになってしまった。自首しよう」
お父さんは馬を宥めて、その背中に乗りなおすと、雌牛を引いて、パッカパッカと町に進みました。
するとまた別の道から来た、のんびりと羊を連れた男に出会いました。
「こりゃ毛並みのいいヒツジだ。お母さんや娘には俺がいなくなっても楽をさせてやりたいし、雌牛と羊を交換してもらおう」
お父さんは雌牛と羊をとりかえようと、男に声をかけました。
ヒツジの持ち主は、大喜びです。
何しろウシは、ヒツジの何倍も高いのですから。
お父さんが馬から下りて牛の手綱を渡すと、牛はお父さんとの別れを嫌がって、男を蹴り殺してしまいました。
「どえらいことになってしまった。自首しよう」
お父さんは牛を宥めて、馬の背中に乗りなおすと、雌牛と羊をつれて、パッカパッカと町に進みました。
すると今度は、畑の方から大きな鵞鳥を抱いた大男が来ました。
「あんなガチョウが家の池に泳いでいたら、ちょっと鼻が高いなあ。
お母さんや娘には俺がいなくなっても楽をさせてやりたいし、羊と交換してもらおう」
そう思うとお父さんはさっそく、羊と鵞鳥のとりかえっこをしようと言いました。
鵞鳥を抱いた大男は、大喜びです。
何しろ羊は、鵞鳥の何倍も高いのですから。
お父さんが馬から下りて羊にあちらへ行くよう言い聞かせると、羊はお父さんとの別れを嫌がって、大男の股間を蹴り潰してしまいました。ついげきに馬と牛がスタンプ運動会を行って、大男は死んでしまいました。
「なんてこった! 大男が殺されちゃった! 自首しよう」
お父さんはみんなを宥めて、馬の背中に乗りなおすと、雌牛の背中に鵞鳥を乗せて、羊もつれて、パッカパッカと町に進みました。
町の近くまで行くと、雌鳥をひもでゆわえている人に会いました。
「メンドリはたいしたエサはいらねえし、タマゴも産む。
お母さんもあの娘も、きっと助かるぞ」
お父さんその人に、鵞鳥と雌鳥を取り替えないかと持ちかけました。
雌鳥の持ち主は、大喜びです。
何しろ鵞鳥は、雌鳥の何倍も高いのですから。
お父さんが馬から下りて、牛の背から鵞鳥を抱えて差し出すと、鵞鳥は牛の背から離れるのを嫌がって、雌鳥の持ち主の両目をついばんでしまいました。ついげきに馬と牛と羊がスタンプ運動会を行って、雌鳥の持ち主は死んでしまいました。
「ああ、これじゃまるで死の商人のようじゃないか。絶対に自首してやる!」
お父さんは固くそう決心すると、みんなを宥めて、馬の背中に乗りなおすと、雌牛の背中に鵞鳥と雌鳥を乗せて、羊もつれて、パッカパッカと町に入りました。
どこかの牧場主かと思って、みんなが道を譲りました。
お父さんはまっすぐ警察のところにいって、とりかえっこの話を聞かせました。
すると話を聞いた警察官は、そんな笑い話のようなことが起こるわけがないと言いました。
笑い事ではないですから、お父さんは真剣です。
「でもですね、お父さん、もしそれがホントだとしても、殺したのは動物たちで、お父さんではないでしょう?
動物が勝手に暴れただけで、アンタは悪くない。なんなら一筆書きますよ」
警察官はそういって、冗談交じりに御免状を書きました。
「うーん。どうにも釈然とせんなあ……それじゃあ私を捕まえんでくださいよ?」
「しないしない。ああ、面白い話だった」
そんなこんなで、お父さんは無実のまま警察署から出てくることになりました。
もちろんその警察官は、あとで酷い目にあいます。
今日はおかしなことばかりおこりますから、お父さんはなんだか君が悪くなってきて、食事をとったらすぐ帰ろうと思いました。
町の食事処の出入り口で、お父さんは大きな袋を持った男にぶつかりました。
「おっとっと。
おや、動物がたくさんだ」
「いや、すまん。大丈夫かね」
「大丈夫だけが取り得でね。ところでおじさん、腐ったリンゴはいらんかね?」
「腐ったリンゴ?」
「店で使うリンゴが腐ってやがった。
豚にでも食わせて処分してやろうと思ったんだが、あんたいいとこの牧場主だろう?」
「いやあ私は……」
「人助けだと思って、な? 一食タダで食わしてやるから」
そういうとお店の人は、お父さんに大きな袋を押し付けて、店に戻っていきました。
仕方なくお父さんは、リンゴの袋を持って店に入り、お酒を飲みパンを食べました。
ところがうっかりしていて、リンゴの袋を暖炉のそばに置いてしまい、店中に焼けたリンゴのにおいが広がりました。
その匂いにつられて、そばにいた大金持ちの男が声をかけてきました。
「気の毒に。ゴミクズを押し付けられましたね」
「いやあ、いいんだ、いいんだこれくらい」
お父さんは大金持ちに、悲劇的なとりかえっこの話を聞かせました。
なんならこの人が自分を裁いてくれたらいいと思っていましたから、残酷な語り口でした。
話を聞くと、大金持ちの男は目を丸くしました。
「なんとまあ。今日のあなたは、悪魔にでも憑かれているのではないですか?」
「私もそう思う。そうだ、懺悔に行こう。警察は、私の罪を裁いてくれなかったんだ」
お父さんはリンゴの袋を馬の背中に乗せて、みんなで教会に行きました。
それで、懺悔室で今日あったことを話すと、お父さんの罪は赦されました。
おかしい。
いえ、なかば定型句ではありますが、何人もの人が死んでいるのに、簡単に赦されていいはずがありません。
お父さんは衝動的に行き場のない動物達をみんな寄付しようと思いましたが、もしも今日あったようなことが教会でも起こったらと思うと、とても怖くて言い出せません。
お父さんはトボトボと家に帰りました。
「あなた、おかえりなさい。
あらあらまあまあ、大量ね」
と、出迎えてくれたお母さんに、お父さんは今日あったことを話し始めました。
「まずウマをね、メスウシととりかえたようとしたよ」
「へえ、そりゃお父さん、牛乳がとれてありがたいねえ」
「そしたらウマが持ち主を蹴り殺した」
「ひゃあ! おっかないわ!」
「おっそろしいことだよ。
それで、町に自首しに行く途中、連れ歩いたメスウシとヒツジにとりかえようとしたんだ」
「セーターが編めるのは嬉しいけど……大丈夫なのかい?」
「そしたらメスウシとウマがその持ち主も蹴り殺した」
「えええ! とんでもないことだわ!」
「ああ。とんでもないことだ。
それで、町に自首しに行く途中、連れ歩いたヒツジをガチョウととりかえようとした」
「ガチョウはお祝いの日に食べられそうだけど……大事じゃないかい?」
「私もそう思う。それで、町に自首しに行く途中、ガチョウとメンドリとかえちまおうとした」
「毎日タマゴを食べられるなんて嬉しいけど……大惨事じゃないかい?」
「本当に嫌な事件だった。
それで、町の警察署へ自首すると、笑われて御免状を渡された」
「なんでそうなるんだい?」
「わからん。なんでか、そうなった。
気持ちが疲れちまって、飯屋にいったら、痛んだリンゴを押し付けられた」
「その人は死んでないの?」
「死んでない」
「よかった」
「おう、よかった」
「で、そこにいた大金持ちの人に言ったら、悪魔に憑かれてるんじゃないかって」
「あたしもそう思う」
「それから教会に言って、全部告白してきた」
「どうなったの?」
「罪が赦された」
「そんな一言で……」
「なんでかわからんが、そうなった。
ほいでいま、帰ってきたとこだ……っ!
ああっ! そいつはお前が食べちゃダメだ!」
二人が喋っている間に、娘は大きな袋から、美味しそうな匂いのするリンゴを取り出して、もう食べてしまった後でした。
娘はたいそう苦しんで、苦しんで、苦しんで、苦しんで、死んでしまいました。
お父さんとお母さんは、天罰が下ったのだと嘆き悲しみました。
お父さんは今日一日、いろいろなものが手に入りましたが、娘の命ととりかえっこすることはできませんでしたとさ。