ロストエンパイア創造記   作:メアリィ・スーザン・ふ美雄

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狂霊【欲の王アラジン】

「魔神よ! とっととぼくにお前のチカラを全部寄越せ!!」

 

 モルジアナに触発されたアラジンは、物語の世界から抜け出して、ランプの魔神に急き立てた。

 ただただ誓約に従うランプの魔神は、アラジンへと己が力の全てのチカラを授けた。

 妖精の皮を被ったメアリィ・スーは、にやにや嗤って手を出さず、チカラの譲渡をただ見守る。

 やがて魔法のランプとともに、魔人はチカラ尽き光の露に消える。

 人ならざるオーラをその身に馴染ませるアラジンを見て、メアリィは楽しげに囃し立てた。

 

「すごーいっ♪ きみは魔人のチカラを身につけたんだねっ!

 ひゅーひゅー! かあああっこいいぃぃいいい!!!」

「うるさい黙れ!

 どこのだれだか知らないけどな! ぼくを馬鹿にするなよ!

 ぼくはなあ! ぼくはなあ!

 一冊の本に収まるような器の小さい男じゃないんだよ!」

 

 アラジンは大きく拳を振りかぶって、素手でメアリィを殴りぬける。

 メアリィは戯れに一撃を受け、吹き飛ばされ大木に打ちつけられども、痛快な展開にげらげら笑った。

 日によっては怒りも露わに相手の原形留めぬほどに改変したであろうが、今日は機嫌がいいようだ。なにを勘違いしているのかしらないが、この愚か者、自分に勝てる気でいるらしいのが、哀れで愉快でたまらないのだ。

 アラジンは間髪入れずに無防備なメアリィにおいすがり、ラッシュを仕掛けて追い討ちする。

 

「死ね死ね死ね死ね! この世界はぼくのものだ!

 全部ぼくのものにしてやる! 全部、全部、全部だ!」

「きゃっひひひあははあははあはあはっ! わっらえるぅ!

 やってみろッ! このボクに対して!」

 

 メアリィは興奮のままに妖精の皮を破り、中身の創造神がズルリと姿を見せる。

 とたんにアラジンはうろたえて、聖森の東へ脱兎の如く逃げ出した。

 それが自分をどのように終わらせたのか、エンドマークのピリオドを打ったか、本能が覚えていたからだ。

 するとメアリィは目に見えて落胆し、昂ぶりかけたテンションがガタ落ちした。

 

「はー? なに逃げてんのおまえ。

 ボクと一緒に遊ぼーよぉ……なんで逃げるの?

 ふーんだ! いいもんいいもん!

 楽しいことがないなら創ればいいんだもんね!

 このムカつきは創作活動をして晴らすことにするよ」

 

 創造神メアリィ・スーは、感情の落差を、鬱屈した精神を、ねじくれた精神が迸るままに、手馴れた様子で短編を書く。数分と経たずに原稿用紙十枚足らずの物語【混沌の魔法使い】が装丁され、ただちに人体練成素材と掛け合わされて黒衣の少年を生み出した。

 

「魔女狩りにして処刑者にして主席異端審問官である魔道芸術品の極みに至らんとする天才魔法使いの……あー肩書き長くしすぎためんどくさ。

 ともかく、王命である。

 捨てられの森に拠点を作り盗賊魔女モルジアナを殺せ」

「御意」

 

 メアリィが居丈高にそう命じると、黒衣の少年は空間転移魔法でその場を発つ。

 かわいそうにこうしてモルジアナはとばっちりを受け滅ぼされることと相成った。合掌。

 

 盗賊魔女モルジアナの読み通り、メアリィ・スーは彼女の悪足掻きを愉悦たっぷりに堪能していた。彼女を"監視する者"の視点から観察し、さらにその内心まで音声出力して聖森で放映していた。土地の勝手な開拓も、頭を悩ませて産まれた改変キャラクターたちがやったことだと思えば可愛いものだと感じていた。頑張って、頑張って、頑張って、その果てに絶望の境地にたたせてやろうとバッドエンドストーリーを思案していた。

 

 そうして連鎖的に物語が動いた。彼女の閃きに反応した【欲の王アラジン】が飛び出したのだ。その策を心に思い描いた時点で、実はモルジアナの目的の一部は達していたというわけだ。そうとは知らずに策をこねくりまわしていたのはメアリィ・スー好みの悲劇であったが……結果的にアラジンは聖森の東に逃げ出し、苛立ちの納まらぬメアリィは、モルジアナに続いてアラジンをも終わらせにかかる。

 

「チカラが欲しいんだって? 欲しけりゃくれてやるよ。

 君の器は……どこまで注いだら終焉(おわ)るかな?」

 

 ともあれ、主観をアラジンに戻す。

 聖森の東で待ち構え、飛び塞がるは三匹の側近ダーク・フェアリー。

 

「ちょっとアンタ!」

「メアリィちゃんが落ち込んじゃったじゃない!」

「メアリィちゃんに謝んなさいよー!」

「「「千切れて潰れて首切って詫びろ!」」」

 

 メアリィ・スーに贔屓にされ、他の邪妖精と比較してさらなる別種に変容しつつある三人であったが、しかし魔神の如きチカラを身に付けたアラジンの敵になるほどの地力ではなかった。アラジンが魔人化した腕を一振り凪ぎ払えば、三人のうち生きているものは居なかった。

 

「邪魔するなよっ! あいつだけは……あいつだけはダメなんだ!

 もう、元の木阿弥に戻るなんて、イヤだ!」

 

 アラジンの悲鳴は、あらゆる欲を満たした後に、すべてを失ったことがあるかのようなそれであった。両者の実力を比べれば、アラジンのほうが勝っていたが、どれだけ彼のほうが強かろうと、不死たるダーク・フェアリーはさして間を置かずに甦る。

 アラジンは時間が惜しいとばかりに逃げ出した。

 

 東に森は広がっておらず、すぐさま木々はまばらになり、柵が並んで道が開かれた牧場に出た。人喰い鶏やケンタウロスが、アラジンを喰らわんと殺到した。

 

 アラジンは、動物相手に魔神の如きチカラで無双する。

 

 道なりに走れば、やがて川あり。

 橋の向こうでは全身を返り血に染めた人らしからぬ人外が、高笑いをあげて人喰い鶏を喰っていた。その人間は背後から、別の人喰い鶏に啄まれ、そのうえ犬と猫とロバに袋叩きにされていく。

 ああいうよくないものに関わってはいけない。

 そう感じ取ったアラジンは、道路を外れて道なき道たる川沿いを疾走する。牧場跡地を抜けてしまえば、追ってくるものはいなかった。

 

 さて、こうして駆け抜けているアラジンであるが、彼には行く宛がなかった。モルジアナの言葉に触発されて飛び出したはいいものの、決意は中折れ逃げたのだから、行き当たりばったりにもほどがある。

 

 そんな脱走が長続きする筈がない。

 すぐに限界は訪れた。

 川の先には道はなく、確固たる形なき濃霧が凝り固まったかのような、言語化しづらい壁がある。

 

 ──その先、未定義領域である。

 

 端的にいえばその濃霧は、何者も夢見ていない未開拓地であった。あるいは夢と夢との境界線であり、箱庭世界の国境であった。なんの宛もなく足を踏み入れれば、無限に落下し続けるかのごとく、無限の霧中を彷徨うことになるであろう。

 しかしアラジンは無知ゆえか、行く宛もなく飛び込んだ。

 

「大丈夫。ぼくにはランプの魔神のチカラがあるんだ。

 たとえこの先、どんなことが起こったってきっと平気に決まってる」

 

 そういう勇気は匹夫の勇。本当の勇気とは違うものだ。

 果たして濃霧に飛び込んだアラジンの身には――――何も起こらなかった。

 徹頭徹尾徹底的に、何も起こらなかった。

 いつまでたっても何も起こらなかったし、何処まで行っても何処にもたどり着かなかった。

 

「そんなはずはない。何かの間違いじゃあないのか?」

 

 左右は濃霧。上下は濃霧。前後は濃霧。みな濃霧。歩いているのかいないのか。進んでいるのかいないのか。本当はただその場で足踏みしているだけではないのか。確かなものは何もなく、定かになるものは何もない。自己とそれ以外が曖昧になり、認識の境界線は朧気に、アラジンがアラジンであると自己を確立できなくなれば、あとは夢幻にまみれて消え去るのみ。

 

 

 

 ……

 …………

 ……………………

 

 

 

 アラジンはふと、己が懐かしい砂漠に居たことに気付いた。遠目にはオアシスが見え、その先には自身をゴミクズのように扱い、使い捨てた街の残骸が見えた。街はとっくの昔に滅びていて、風化していく建造物が、ポツリポツリと残るのみ。あの砂漠に帰ってきたのだ。あの砂漠に帰ってきたのだ。あの砂漠がどの砂漠か分からないが、アラジンは砂漠に帰ってきたのだ。

 

 アラジンは気分よく吼え猛る。すでにその理性はあって無いようなものであり、その身は人ならざる者へと変容していた。

 

 そう、アラジンは心身ともに野生の魔神となっていたのである。

 

 

 

 ……と、創造神メアリィ・スーは童話【アラジンと魔法のランプ】に書き込んで装丁し、エンドマークを書き込むと、その書を虚空に片付けました。きっといつか気が向いたら、整合をとってちゃんとした形にするでしょう。古い物語は忘れ去られ、新しい童話だけが残るのです。

 

「ほかの連中は飛び出す気概もないのかなァ? 

 いまならボクは止めないよ? 

 逃げたきゃ逃げなよ。

 ボクと一緒に遊ぼうよ」

 

 メアリィは落ち込んだ気分をすっかり取り戻し、にやにや笑って並べ立てた物語や逸話たちに問いかけました。モルジアナがムシケラのようにあっけなく死んだところをみて、いくらかスッキリした後でした。ところが本たちはまるで現実世界のように、黙したまま語りません。

 

 しばらく待っていたメアリィでしたが、ちっとも反応がないとわかると、ガッカリしてしまいました。

 

 しかしよくよく見てみると、ハッとあることに気がつきました。

 物語【シンドバッドの冒険】がいつの間にやら無くなっているではありませんか。

 二つの物語に意識が向いているうちに、こっそり逃げ出していたのです。

 

 三番目に動いた者がうまくいくのは、童話の教訓のお約束のひとつ。

 ここからどうバッドエンドストーリーを紡いでいくのか、二次創作者の腕の見せ所です。

 

 メアリィはよくやったと楽しげに笑って、怖気づいたまま最後まで沈黙を貫いた物語群を虚空に仕舞っていきましたとさ。

 

 

 




 
 謝罪

 本日未明、というか早朝くらいに、運営様より「クロスオーバータグついて無いやん(意訳)」なる警告をいただきました。よく考えるまでも無くBLACKSOULS未登場の童話も書いてますしね。確かに要通報案件でしたわ。本当に、申し訳ない。

 っ! そうか、頭の中にメアリィ・スーが! 作者様! お許しください!(無限落下)

 
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