ロストエンパイア創造記   作:メアリィ・スーザン・ふ美雄

28 / 41
 
 
 紅ずきんの森のネタバレがあります。
 無印ブラソに出てくる事の後日談程度には。

 


童話Re:IF【紅ずきんは紅の惨劇の夢を見るか?】前編

 ふと創造神メアリィ・スーは、虚空から童話【紅ずきん】を取り出しました。中身を使いまわしたので、なんだかスカスカになっています。まともに残っている部分は、紅ずきんの家と、茸村くらいでしょうか?

 

 末尾の方を開いてみると、紅ずきんは狼のポロと仲良く末長く幸せに暮らしています。パッと見た感じ脱走を企てる様子はありません。第四の壁を越えた先の、こちら側に気付いてもいないようでした。

 

 それも仕方がないことです。童話処女作【紅ずきんの森】の最中には、メアリィは自身の存在を明らかにしていなかったのですから、彼女が黒幕のところまで、辿り着くはずがないのです。

 

「あっそびっましょーって言ったら遊んでくれるかな? 

 いやいやそんな勿体無い。

 こんな最高の失敗作をつまんない終わらせかたしたくないよっ!

 もっと平和をたっぷり楽しんでもらってから、惨たらしく残酷にバッドエンドさせないと」

 

 メアリィはそう呟いて、沸き上がる誘惑を退けるように、パタンと童話を閉じました……でもまたすぐに開きました。それからまた閉じました。内容を改変したり、やっぱりやめたり、何か思いついてちょっと書いたり、消したり、変えたり、戻したり、そういうことをもじもじしながら、すごく悩んで弄りました。

 

「ちょっとだけ……うん。ちょっと騙すだけなら良いよね?

【紅ずきんは紅の惨劇の夢を見るか?】」

 

 我慢しきれない彼女は結局、聖森の西の川向こうに、紅ずきんを家ごと配置しました。念のために川辺へ"監視する者"本体を居座らせ、こっちにきたらすぐ分かるようにしました。そして、紅ずきんが自室で寝ているうちに、禁止武器に指定したはずのほうちょうを台所に返して使えるようにすると、狼のポロに向かって、アレコレと指示を出し、もし守れなかったら彼が考えうる中でも最悪のバッドエンドを迎えさせると言いました。

 

 狼のポロは、創造神メアリィ・スーに抗議しました。 

 

「なんで今更そんなこと……どうして放っておいてくれないんだよっ!」

「ごめん……ホントごめんね?

 どうしてもキミがもがき苦しむのを見て無表情のマグロ顔が崩れた紅ずきんのあの顔が忘れられなくてサァ♪ 

 ……って、そんなそそる顔しないでよっ♪

 まずはキミからめちゃくちゃにしたくなるだろっ♪」

「……呪われろ。忌まわしい創造神め。

 所詮、娯楽に飢え続けるただの餓鬼の癖に。

 お前がどれだけ何をしようが、お前の作品とやらが誰かに認められることはない」

 

 彼は彼女を知っていました。

 けれど、最初から役割(ロール)に徹し最後まで配役(キャスト)に準じたポロは、紅ずきんにはメアリィのことを、決して話しませんでした。

 

「負け犬の遠吠えサイコー! くすくすくすっ♪

 じゃ、そういうことだから。よしなにどーぞっ♪」

 

 ともあれこうして紅ずきんの物語は、再び、もしも、と仮定され、改変された回想のつづきから始まりましたとさ。

 

 

 

 むかしむかしあるところに、狼と暮らすちいちゃいかわいい女の子がいました。その少女は、おばあさんにプレゼントしてもらった紅いずきんをいつも被っていましたから、紅ずきんと呼ばれていました。

 

 狼の名前はポロといって、紅ずきんとはラブラブ生交尾するほど仲良しです。

 

 紅ずきんはその昔、自分を強姦するおじいさんを殺して、その後始末にポロにお肉をあげました。その日からきっと、二人は共犯という名の相棒でした。

 

 でもそのことを、おばあさんは見ていました。

 可愛がっている自分の孫が、愛しい夫を滅茶苦茶に殺して、食べやすいように斬り刻んで、狼のエサにしたところを見ていました。

 

 おばあさんは、血に餓えた狼の様にさえ見える人殺しの紅ずきんから逃げました。

 

 挙げ句の果てに、おばあさんは川辺で足を滑らせて死にました。

 

 どうにか誤解を解きたくて、雨が降るなか大好きなおばあさんの後を追いかけていた紅ずきんは、おばあさんが事故で死んでしまった瞬間を見て、こんなのは全部悪い夢だと思いました。

 

 寝て起きたら、大好きなおばあさんと、おばあさんに隠れて自分をレイプするおじいさんと、三人で暮らしていた頃に戻れると思いました。なんなら行方不明になったお父さんやお母さんと暮らしていた頃にまでも戻れるとも思いました。

 

 紅ずきんはふらふらと家に帰ってベッドで眠り……それから■■■■■■■に囚■■■、■■■、■■■まし■■■■。

 

 

 

「あぁ、なんて悪夢。

 最悪の目覚めね」

 

 紅ずきんは起きました。

 いやな回想を見ていました。

 人殺しには相応しい回想だと思いました。

 

 人以外にも色々と、生きているのなら神様だって殺しましたが……まあ、それはそれとして、今日もポロに餌をあげないといけません。

 おなかがすくのは、つらいですからね。

 紅ずきんは二階にある自室から、一階へ降りていきました。

 台所に入り肉を切り分けて、ずっと一緒にいると誓った、ペットのポロにあげました。

 

「美味しい?」

「美味しい!」

「よかった」

 

 紅ずきんには、ポロの言葉が分かりました。

 なんていったって、相棒ですからね。

 紅ずきんも朝御飯を食べました。

 本当に食べてしまったのか? 

 

 パラパラと、永遠に降りやむことのない雨音に、二人の咀嚼音が重なります。

 

 紅ずきんは朝ご飯を食べ終わると、なんだか気になってしまったことを、色々とポロに聞きました。

 

「誰か来た?」

「来てないよ?」

「でも台所のほうちょうが使われてた」

「ほうちょうが?」

「握った感じが違う。なんか変」

「そうなの?」

「ほうちょうを盗んだのに、返しに来たヤツがいる」

「…………」

「何かしらない?」

「……知らない。分からない」

「本当?」

「ほ、本当」

「ねえポロ、もう一つ聞いていい?」

「うん、なあに紅ずきん」

 

「どうしてそんなに嘘つくの?」

 

 紅ずきんは、渾身の無表情で、ポロに事情を問いました。

 

「そ、それは……」

「それは?」

「それはお前を食べるためだよっ!」

 

 こう言うやいなや、ポロはいきなり飛び出して、紅ずきんをペロペロしはじめました。

 

「あ、こら、ごまかさない。んっ」

 

 ポロはえっちなことをして、全力で誤魔化しにかかりました。言えないのです。言えないのです。紅ずきんのためならば、何でもしてあげたいですが、詰まらないネタバレをしたらどうなるのか分かっているなと、ストーリーテラーの創造神に脅されているのです。

 

 ポロと紅ずきんは、一回戦を終えました。

 

「ねえポロ、もう一つ聞いていい?」

「……うん、なあに紅ずきん」

 

「どうして教えてくれないの?」

 

 紅ずきんは、渾身の無表情で、ポロに事情を問いました。

 

「そ、それは……」

「それは?」

「それはお前を食べるためだよっ!」

 

 こう言うやいなや、ポロはいきなり飛び出して、紅ずきんをより一層ペロペロしはじめました。

 

「なあに、また?」

 

 ポロはえっちなことをして、全力で誤魔化しにかかりました。言えないのです。言えないのです。紅ずきんのためならば、何でもしてあげたいですが、もしバラしたら夢から覚めるという悪夢を見せて永遠に別れさせてやると、ストーリーテラーの創造神に脅されているのです。

 

 ポロと紅ずきんは、二回戦を終えました。

 

「ねえポロ、もう一つだけ、聞いていい?」

「うう……もう許して……」

「もしかして、口止めされてる?」

「っ!? それは……っ」

「……、…………、うん。分かった。

 このことは、もう聞かない。

 あとは、自分で調べるから」

 

 ポロは怯えきった犬みたいにプルプル震えて、何もいえませんでした。自分のような存在でも、物語の配役(キャスト)に徹していれば、誰かの傍らに寄り添えるという温もりを知ってしまった以上、もうその温もりから離れたくなかったのです。

 

 ポロは、絶対に夢から覚めたくありませんでした。

 下顎を靴で踏みつけられ、上顎を手でつかまれ、口を基点に上下に引き裂かれるようなやられ役に戻るのは、絶対に絶対にいやでした。

 

 さて、ポロのことは置いておいて、紅ずきんはほうちょうを手に、自宅から外へ出ていきました。

 

 今日は雨が降っていました。

 今日も雨が降っていました。

 でも実際には晴れていました。

 ロストエンパイアはいつも晴れのちスゥといった感じで、青く澄みきった快晴でした。人を魔獣化させる霧が漂い始めるのは、もっと未来の話です。

 

 でも、たとえ実際にはどうだろうが、少なくとも紅ずきんの五感は、黒く穢れた悲しみが癒えない限り、二度と晴れた青空を見ることは無いでしょう。

 

 彼女の心がその空に、雨雲を浮かべているのです。

 彼女の気質が彼女の視界に、雨を降らせているのです。

 

 人は心のありようによって、世界が輝いて見えることもあれば、灰色にくすんで見えることもあるそうですから、ならばずっと雨が降っているように見えることだってあるでしょう? 

 

 紅ずきんが裏庭へ進むと、その先には果てのない濃霧が広がっていました。

 おばあさんのお墓はありませんでした。

 

 何故?

 

 そんな疑問を浮かべる紅ずきんの前に、いつぞやお世話になった夢魔がやってきました。

 夢魔にしては珍しく、全裸ではなく限りなく紐に近い布切れで局部を隠していますから、紅ずきんには一目で彼女とわかりました。顔見知りなので、とりあえず声をかけました。

 

「どうも」

「あらどうも。

 ここはのどかで、良いところねえ……

 もしかして、いまからお食事?」

「もう食べました」

「あらそう? じゃあ、どこかへお出かけ?」

「そうですね……ポロのためにお肉を狩りに行ってきます」

「ふぅん……それならねえ貴女、私と一緒にハンティングに行かない?」

「せっかくですけど、遠慮します」

「まあそういわずに。最近ホットな狩場があるのよ。

 淫腐街って、知ってる?」

「いえ、知りません」

「老若男女区切りなく、いかなる性癖も貴賎なく、ただただドスケベ大好きな連中だけが集まる、素敵な狩場なんだけど」

「はあ、そうですか」

「オートアサシノフィリア*1の変態でも捕まえてサ。

 ぶっ殺してあげたあと、その、ポロって子に食べさせればいいんじゃないの?」

「……お姉さん、淫魔ですよね?

 そんなこと言っていいんですか?」

「あら貴女ってもしかして、サキュバス原理主義者?

 良いじゃない別に。精が吸って、精をつくもの食べて、って一人で二度美味しいじゃない。

 そもそも餌の食べ方なんて人の勝手でしょ?」

「あなたに食べられる人は、なんだか可哀相ですね」

「ま、私よりよっぽど偏食な肉食系サキュバスもいるから、私なんて可愛いものよ」

「そうですか。

 ところでお姉さん。ひとつ聞いて良いですか?」

「なあにお嬢ちゃん」

 

「どうしてポロが、人肉を食べると思ったんです?」

 

 紅ずきんは、渾身の無表情で、夢魔に事情を問いました。

 夢魔はケツに直接氷結の魔弾でもうちこまれたかのように、ヒュッと呼吸が止まりました。

 

「だっ……って、ポロって、あの、狼、でしょう?」

「私、ポロが狼なんて一言も言ってませんよね?」

「それは、その、アレよ。あなたたちが、一緒にいるところを見たから」

「どこで?」

「……さぁ、どこだったかしらね?」

 

 じーっ。と、紅ずきんは夢魔を見ました。

 しどろもどろな彼女の態度を、怪しんでいるのです。

 

「……まあ、いいです。

 やっぱり、行きます。その淫腐街ってところに」

「あ、あらそう?

 それがいいわ、そうしましょう」

 

 紅ずきんは、夢魔に連れられて濃霧の中に入りました。

 夢魔に案内されたなら、きっと迷わずに目的地へたどり着けるでしょう。

 

 そうして将来的に旧淫腐街と呼ばれるところへとたどり着いた紅ずきんが、そこで何者と出会い、何を思い、何を為すのか。一つ確かなことがあるとすれば、そこで夢魔は、間違いを犯して失敗したということくらいでしたとさ。

 

 

 

*1
オートアサシノフィリアとは、自分が殺されることに性的興奮を覚える性的嗜好のこと






タイトルに前編とつけ忘れてたので修正。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。