ロストエンパイア創造記   作:メアリィ・スーザン・ふ美雄

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 ネコ五匹目
(にゃあ~ん)
 BGM:玉座に縋り嘆く亡者←これが好き


童話【鎧を履いた騎士】

 

 むかしあるところに、三人の息子をもった、粉挽き職人がいました。もともと貧乏でしたから、自分の死後に残せる財産など、粉ひき臼をまわす風車と、ろばたちと、それから猫一ぴきだけしかありませんでした。

 ある日の晩に粉挽き職人が死に、三人の息子にはそれぞれ、長男から順番に、粉挽き小屋、ロバ、猫が分け与えられました。

 

「にいさんたちは、遺産をやりくり働けば、そのまま暮らしていけるけど、ぼくだけはまあ、この猫を食べてしまって、毛皮を剥いで何かをこしらえれば、あとにはなんにも残りゃしない。そのまま飢えて死ぬだけだ。どこかに仕事はないものか。にいさんたち、ぼくを手伝いに雇ってくれないだろうか」

 

 そんな三男のぼやきを聞いて、このまま食われたくない猫は言いました。

 

「ぼくを食べるなんてとんでもにゃい。

 まず、ぼくに長靴をくださいにゃあ。

 あなたの猫がどれだけ素晴らしいか近い内に分かります」

 

 三男は半信半疑で猫に長靴を与えてみたものの、命惜しさに出鱈目を口にした猫は、ウサギも満足に捕まえられず、王族に数々の無礼を働き、百姓から装備品を奪おうとするも失敗し、飼い主である三男ともども袋叩きに遭いました。

 

「この堕猫め。

 貴様など、食べる価値すらありゃしない」

 

 恥をかかされた三男は、間抜けで愚かなその猫を、底無し沼に蹴り落としました。でも、すでに汚名にまみれていた三男は、どこの家にも雇ってもらえず、そのまま飢えて死んだそうです。

 

「長靴なんて粗品をもらっても、何も出来るはずがにゃい。

 せめて鎧を履くことが出来たにゃら……」

 

 長靴に足をとられて沈む中、最期の言葉も虚しく泥の中に消え、猫はひっそりと生涯を終えましたとさ。

 

 

 

「はいここ」

 

 創造神メアリィ・スーは、普段の自由奔放っぷりからは想像もつかないほどまじめな様子で厚手の黒の布に包まれた複数のネコのシルエットを浮かべるなにかを改変しました。

 

 善い猫だろうが悪い猫だろうが、強い猫だろうが弱い猫どろうが、一切合切関係無しに、出自も性別もべつべつの猫を、なんかこー良い感じに現実改変に現実改変を重ねあわせるように、とびっきりのチートをやっていきます。

 

 名状しがたい冒涜的な融合のようなものが行われたその結果、童話【長靴を履いた猫】を取り込んで黒い布は収縮し、最後には【鎧を履いた騎士】として形作られました。

 

 あとはどんな感じに改変できたか"通し"で確認するだけです。

 

 メアリィの現実改変能力は、現実を改変することこそ失敗することはありませんが、いつも彼女の思い通りにキッチリ改変できるかというと、そういうわけではありません。

 

 気合い入れて創造した紅ずきんが想像以上のオーバースペックに成り果てたり、斧を投げ込まれて死んだはずの泉の精霊がゴミクズの精霊になったり、眠り姫が白痴の目覚めめいた現能を保持していたり、不幸の蒼い鳥が事前に想定していない夢渡りを取得していたり、イラついてちゃちゃっと書いた混沌の魔法使いがヤバイ出来映えになったり、と、大抵上振れしていました。

 

 もしこの"重ねあわせ"で適度な制御ができたなら、ロストエンパイア構想の核となる"主人公"候補たちから、ただ一人に選抜する必要なく、全部混ぜちゃえそうでした。

 

「さぁて、どんな童話になったかなぁ♪ 

 べつに上手くいかなくたっていいよ、面白くなってれば良いからねっ♪」

 

 メアリィは嗤いながら、状況を再構築していきました。

 

 

 

────状況を再構築しています────

 

 

 

 ……長靴に足をとられて沈む中、最期の言葉も虚しく泥の中に消え、猫はひっそりと生涯を終え……たと思われた次の瞬間、猫は鎧と出会いました。

 

『鎧が欲しいか?』

「にゃんにゃんにゃん。鎧がほしいにゃ」

『ならばくれてやる』

 

 その鎧は、さる国の王子に身につけてもらうために作られ、しかし荷運び馬車が事故に遭い、何の役にもたたずに底無し沼に沈んでいた無念の全身鎧でした。

 鎧は猫の願いに目覚め、自らの内に取り込み救ったのです。

 

 なんてご都合主義! これは改変チートの仕業に違いありませんね! 

 

 

 不思議なことに、その鎧の内側には、泥がしみこんでいませんでした。とてつもない名鍛冶屋が、その生涯の最高傑作として作り上げた、神秘宿る魔装の鎧だったのです。

 

『ただしひとつ条件がある。

 猫よ、俺を騎士にしろ。

 数多の騎士がそうであるように、一国の主に仕えるのだ。

 その誓約が守られる限り、俺はお前を守護るだろう』

「わかったにゃん。

 任せるにゃん」

 

 猫は鎧を履きました。

 鎧は猫を履きました。

 

 魔装の鎧は、身につけた者を守るというお役目を果たさんとするために、無念をひとつ晴らすかのように不思議な力を引き出して、底無し沼を天高く吹き飛ばしました。

 かくして鎧を履いた騎士は、自力で沼からあがりました。

 鎧は汚泥に塗れた様子などまったくなく、あたかも新品であるかのように、陽の光を浴びてピカピカと輝いていました。

 

 それから鎧を履いた騎士は、かつてカラバ公爵なる架空の主人に仕えていた、とうそぶいて、魔装の力で獲物を狩ってはその地の王様に献上しました。数ヶ月もすると、あの立派な全身鎧を着た騎士は誰だという風な話になって、とんとん拍子に鎧を履いた騎士は、さる国の王様に仕える事になりました。

 

 これには無念の全身鎧も大喜びで、がしゃがしゃと全身を鳴らしました。

 猫もまた自分が堕猫ではないと認められた気分になって、大喜びでにゃんにゃんと鳴きました。

 

 魔装の鎧は、身につけた者を守るというお役目を果たさんとするために、無念をまたひとつ晴らすかのように不思議な力を引き出し、どこからともなくグレートソードとタワーシールドを顕現させました。

 

 とてつもない重さと攻撃力をもつ大剣は、何人もの騎士をまとめて薙ぎ払えるほどの大きさで、とてつもない重さと頑強さをもつ盾は、塔の名に恥じぬほど巨大でした。

 

 鎧を履いた騎士はそれらを軽々と手に取り、自在に操ることが出来ました。

 そして国によく仕え、地位と権力を手にしました。

 

 

 

 にゃんにゃんにゃん、ぼくらは騎士だぞ。

 ぼくには鎧がいるから。にゃん。

 がしゃがしゃがしゃ、俺たちは騎士だぞ。

 俺には猫がいるから。がしゃり。

 

 

 

 でもある日、天下に武名を轟かせる怪力無双の【裸の王様】がその国へと攻めてきました。

 

 

 

「ちょっと待って。なんで?」

 

 創造神メアリィ・スーは、虚空から童話【裸の王様】を取り出そうとしました。

 何故か見つかりませんでした。

 処分済みだったのでしょうか? 

 既に焚書したのかどうか、メアリィは自信が持てません。

 

 まあ、別に、無くなったのは、スランプの時に書いた、寒気すらする良い話でしたから、あってもなくても構わないのですが。

 メアリィは、状況の最構築を続けました。

 

 

 

 ────ある日、天下に武名を轟かせる怪力無双の【裸の王様】がその国へと攻めてきました。

 これは勝てないと思った王様は、大人しく降伏の道を選ぼうとしました。

 しかし鎧を履いた騎士はいいました。

 

「ひとあたりもせず負けを認めれば、いまの国の形は失われましょう。

 ぼくが裸の王様と一騎討ちします。

 勝っても負けても、我が国は油断ならない強国だと示してみせましょう。

 降伏はそれからでも遅くありません」

 

 全身鎧が指示するままに実直に働いていた長靴を履いていた猫は、こうやって王様にもの申せるほどの地位と権力を得ていました。

 鎧を履いた騎士がそういうならと、王は寡兵を率いらせ、鎧を履いた騎士を送り出しました。

 小部隊で道を歩いていると、全身鎧は猫の脳内に直接語りかけました。

 

『猫よ、猫よ。お前一匹では勝てぬ。

 仲間を求めよ。さらに猫を呼び寄せるのだ。

 猫五匹分のソウルあらば、俺は更に強くなって見せよう』

「にゃんにゃんにゃん。任せるにゃん」

 

 行軍の休憩中、鎧を履いた騎士は中から飛び出て、言葉巧みに猫仲間を集いました。

 そうしているあいだ、全身鎧は座ったまま動きませんでしたが、一緒についてきた兵士たちはいいますと、鎧を履いた騎士が座ったまま寝ていると信じて疑いもしませんでした。

 ところで猫はちゃくちゃくと仲間を集めました。

 

「騎士? なるなる! なりたいよ!」

「キッチンに入れるならついてくにゃ」

「? なんかよくわかんにゃいけど、来いっていうなら、いいよ」

「ところで人間は食べてもいいかにゃ?」

 

 と、そんなこんなで集まった猫は、そろって全身鎧にとびこみました。

 魔装の鎧は、身につけた者を守るというお役目を果たさんとするソウルパワーかける五倍に、仕える国を守るというお役目を果たさんとするソウルの力で、無念をさらにひとつ晴らすかのように不思議な力を引き出して、姿形をそのままに、その身を巨大に魔獣化させました。

 

 その巨大さは、遥かいにしえの伝説に残る塔の騎士を彷彿とさせるものでした。

 

「す、すごい魔術だ!」

「さすが鎧を履いた騎士!」

「俺達はこんな騎士様と共に戦えるのか!」

「勝てるぞ! これなら裸の王様にだって勝てる!」

 

 鎧を履いた騎士に率いられ、一騎討ちを見守るべく集められた兵は、口々に鎧を履いた騎士を褒めたたえました。長靴を履いていた猫は、王様には隠していましたが、実は一騎討ちの最中に、彼ら弓兵に裸の王様を射らせる計略をめぐらせていました。

 

 勝てば官軍。

 負ければ賊軍。

 

 どんな手を使ってでも、勝てばよかろうにゃのだ。とこっそり嗤うその猫は、果たしてその昔、数々の計略を企んでは失敗し続けた過去を忘れてしまっておりました。

 

 にゃんにゃんにゃん、ぼくらはつよいぞ。

 にゃんにゃんにゃん、ぼくらは騎士だぞ。

 がしゃがしゃがしゃ。俺たちはつよいぞ。

 がしゃがしゃがしゃ。俺たちは騎士だぞ。

 

 そんな調子でかわいい行進曲を歌いながら勇ましく進んでいくと、ついに鎧を履いた騎士たちは、裸の王様軍と合間見えることになりました。

 

 引き連れた弓兵の一人が、手紙を片手に、敵軍のほうへと駆け寄ります。

 その手紙には、降伏を望む旨と、鎧を履いた騎士と裸の王様と一騎討ちを望むというものでした。

 気が狂った裸の王様もとい鉄の王様にその手紙を読ませると、その一騎討ちを受け入れました。

 

「たかが巨大全身鎧ごとき、余の魔術の敵ではない! 

 木っ端微塵に打ち砕いてやるわ!」

 

 紆余曲折の末にありし日の筋肉を失い、衰えた筋肉を隠すために鉄の鎧を着込んで、すっかり人を信じられなくなった鉄の王様でしたが、

 

 

 

「待って待って待って。

 裸の王様ってそんな話だったっけ?」

 

 と、メアリィはおぼろげな記憶を呼び起こそうとしましたが、かわいそうにちっとも覚えていませんでした。

 これのどこがバッドエンドだよバカヤロー! こうじゃない! こうじゃないんだ! というような、その一冊を書きあげた後のしょうもないリアクションしか思い出せませんでした。

 

 なにはともあれ、状況の再構築を続けます。

 

 

 

 

 ────紆余曲折の末にありし日の筋肉を失い、衰えた筋肉を隠すために鉄の鎧を着込んで、すっかり人を信じられなくなった鉄の王様でしたが、戦場の掟ならば破られることはないだろうと思っていました。

 

 二人の思惑は、すっかりアテが外れました。

 

 鎧を履いた騎士は、全裸が相手ならば、雑兵が放つ弓矢も容易く刺さると思っていましたし、鉄の王様は、まさか一騎討ちの最中に雨あられと弓矢が射かけられるなど思わなかったのです。

 けれどいまさら一騎討ちをとりやめることなどできません。

 時刻になると、二人はお互い、やあやあ我こそは、などと言いあって、戦場の礼儀にしたがい名乗りあげました。

 

 先手を打ったのは鎧を履いた騎士でした。その巨体から繰り出されるグレートソードは、容易く鉄の王様を一刀両断するかと思われました。けれど鉄の王様は片手で振るわれるのなら、どんな一閃だってパリィしてみせる、とばかりに鉄のガントレットで一撃をいなしました。反撃の一撃が繰り出されましたが、たいしたダメージがあるようには見えません。

 

 筋肉失せども技量は消えず。

 

 なんどもパリィをして鎧を履いた騎士が体制を崩したスキに、鉄の王様は数多の魔術を立て続けに唱えました。

 炎燃え盛り、稲妻が荒れ、闇が襲来し、聖光の刃で切りつけました。

 しかし鎧を履いた騎士の耐魔性は、それら魔術をいとも容易く耐えました。

 

 そのような打ち合いを数度繰り返し、パリィの技術をもって優勢を誇った鉄の王様でしたが、鎧を履いた騎士がサッと合図を出すと、一騎討ちの様子を見守っていた弓兵達が次々に矢を射かけました。

 

「卑怯な!」

『卑怯な!』

「卑怯にゃ!」

 

 鉄の王様の叫びと、無念の全身鎧の声ならぬ声と、騎士に憧れる猫の声が重なりました。矢玉はどちらも立派な鎧を着ていてノーダメージでしたが、突然の事に驚いた鉄の王様は、直後に鎧を履いた騎士が振るったグレートソードをパリィしそびれて直撃しました。

 

「ぬわーっ!」

 

 あわや一撃死になりかねないところでしたが、竜の加護が与えられたその鎧は、自身を解体することで鉄の王様の命を救いました。

 貧相な筋肉となってしまっている鉄の王様もとい裸の王様は、その全裸姿を衆目に晒され、あまりの恥ずかしさにこう叫びました。

 

「おヌシも裸を魅せよっ!」

 

 それは脱衣の魔術でした。

 いつかリハビリを終えて、在りし日の筋肉を取り戻したときのために……急に筋肉を見せびらかしたくなったときに、すぐ脱げるように開発した魔術でした。

 はたして鎧を履いた騎士の全身鎧には効果覿面で、魔法の光を浴びると、鎧は成仏したかのように影も形も無く消えてしまいました。

 

 果たして全身鎧は、己の無念を三つ引き出して、いくらか満足していましたし、戦場の掟すら守れぬ猫を、これ以上守りたくないと思ってしまったのです。

 

 全身鎧の中からは、五匹の猫が飛び出して……命欲しさに猫達は四方に逃げ出しました。

 

「にゃー! にゃー! 

 ぼくの鎧が!」

 

 でも、一番最初に魔装の鎧と出会った長靴を履いていた猫だけは、その場に残ってわめき散らしました。

 その様子を唖然と見ていた弓兵たちは、敵軍に皆殺しにされました。

 長靴を履いていた猫も、敵軍に殺されて食べられてしまいました。

 

 こうして、鎧を履いた騎士が仕えていた国は、戦場の掟すら守れぬ国などという汚名を背負って、徹底的に蹂躙されましたとさ。

 

 

 

「なぁにこれぇwww」

 

 メアリィは、たいへんカオスな展開になった童話を大変お気に召しましたから、その着想を生かして童話【裸の王様】もイチから書きなおしましたとさ。

 

 

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