ロストエンパイア創造記   作:メアリィ・スーザン・ふ美雄

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童話【裸の王様】

 

 

 むかしある国に、筋トレが好きな、筋肉隆々の王様がいました。

 王さまはぴっかぴかの美しい筋肉が大好きで、身体を鍛える事ばかりに時間を使っていました。王さまの望むことといったら、自ら鍛えた身体を見せびらかし、国のみんなに褒められることでした。

 王様は毎日のように筋肉パレードを開き、自慢の筋肉を国民に見せつけました。

 

「裸だっ!」

「裸の王様だ!」

「キレてるよーっ!」

「ナイスバルク!」

「はっはっはっはっは! この世で誰よりも余のマッソウが美しい!」

 

 どこか可笑しな王様でしたが、武と秩序を重んじており、多くの国民や家来たちから深く慕われていたのでした。

 しかしある日、王様は生死に関わる難病に伏せてしまいました。

 

 国民は深く悲しみました。

 

 毎日のように開いていた筋肉パレードは行われず、まるで喪に服すように静まりました。

 国一番の名医によれば、王様の病は治せるものでしたが、けれど、後遺症として筋肉が一生衰えてしまうそうです。

 それを聞いた王様は言いました。

 

「我が筋肉こそ我が心臓。

 筋肉が死すのであれば、余も共に逝く運命だ」

 

 家来はすっかり困ってしまいました。王様は治療を拒否したのです。王様思いの家来たちは、なんとかならないかと外の国からも数々の医者を呼び寄せました。その条件は「筋肉が衰えることなく、この病を完璧に治療できる者には望む褒美をとらせる」というものでした。

 

 ある日、二人のさぎ師がその国にやって来ました。二人は人々に、自分は知る人ぞ知る名医だとウソをつきました。それもあらゆる万病を癒せると言いはり、人々に信じこませてしまいました。

 

 その話を聞いた人々はたいそうおどろきました。たいへんなうわさになって、たちまちこの名医の話は裸の王様の家来の耳にも入りました。

 

 切羽詰っていた家来たちは先払いでも良いからとさぎ師たちに治療を依頼しました。

 

「余の筋肉が蘇るのか。わくわくするわい」

 

 裸の王さまも喜びました。決して死を受け入れているわけではなく、筋肉と共に蘇られるなら、それに越した事はないと思っていたのです。

 

 

 

 当然の如く治療は失敗しました。

 

 

 

 王様の肉と皮はヨボヨボの老体となり、外から内臓の様子さえみえるかのよう。

 

 そんな状態でもまだ王様は生きていました。

 

 どこかで聞きかじっただけのさぎ師の治療法でも、その筋肉はここまで己を鍛えてくれた主人を生かし救ったのでした。筋肉ってすごい。

 けれど小虫ばりの青息吐息で、あまりの惨状に家来は言葉を失いました。

 藪医者の二人組は、貰うものを貰ってこっそり姿を消しています。

 

 王様は震えた声で家来達に聞きました。

 

「治療は成功したのか? 余の筋肉はどうなった?」

 

 家来達は互いに顔を見合わせ、重い口を開きました。

 

「治療は成功しました。

 筋肉も以前とは見違えるほど。

 素晴らしく輝いております」

 

 その言葉に王様が返事をする前に、無礼を承知で別の家来が付け足しました。 

 

「王の肉体は、ばか者には貧弱に見えるでしょう。

 真の賢者、地位の高いものならば、神すら妬む世界一の筋肉に見えるのです!」

 

 二人の言葉を皮切りに、家来たちは口々にウソをつきました。

 しっかりと身体を動かせるようになるには長いリハビリが必要なこと。

 鏡を見てしまえば途端に病魔が身体を蝕むこと。

 過負荷により体調が悪化してはいけないため、完治するまで筋トレはできないこと。

 

 苦しい言い訳。愚かな嘘。バレればお家断絶で、一家もろとも皆殺しでしょう。

 

 けれど、言いたくなかったのです。さぎ師二人に皆揃って愚かにも騙されていたなどと……しかし王様は一切の疑いをせず、家来の言葉を信じました。

 王様は家来を、国民を、心から信じ、愛していたのです。

 

 

 

「はー……なんだこれ(愕然)

 こんなの、ボクらしくないよ。ホントコレ書いたとき、何考えてたんだろ……胸糞展開だねっ。こんなんじゃバッドエンドなんて言えないよ」

 

 童話【鎧を履いた騎士】から童話【裸の王様】を抽出するメアリィは、スランプ時に書いた駄作を読み返しながらそんなことを呟きました。でも、ここからいい感じに改訂してしまえばいいですから、そこまで深く気にはしませんでした。

 

 

 

 積み上げられた出鱈目はもはや後に引けないものばかり。その出任せを真実とするために、家来は勝手に法律を作って、国中から鏡という鏡が捨てられ、旅の賢者は王に謁見することはできなくなりました。昔から国のことは家来達がやっていたので、それは難しい事ではありませんでした。

 

 裸の王様はしかし、以前のように己の肉体を誰もに魅せられるようになりたいと望みました。筋肉を鍛える趣味の代わりに、リハビリの傍ら魔術の研鑽に没頭しました。

 

 馬鹿にも見える筋肉を取り戻すために。

 素養長ける王様はすぐさま数々の魔術を身につけました。

 しかしいつまでたっても馬鹿にも見える筋肉の魔術を編み出すことはついにできませんでした。

 

 そんなある日、よその国の王様がお見舞いにきました。

 

 家来達は皆止めたのですが、久々に自慢の筋肉を魅せられる相手だと思い、王様は裸で謁見しました。ありし日の裸の王様の肉体美を知っていたよその国の一王様は、治ったときいた彼の貧弱な筋肉を見て言いました。

 

「なんだその貧相な肉体は。

 まあ、まだ病み上がりだ。

 衰えた筋肉はそうそう戻るまい。

 養生した方が良いぞ」

 

 こうして嘘は暴かれました。家臣の言葉が真実であれば、よその国の王様からこのような言葉がでるはずがありません。だって相手は王様ですから、地位が低いだなんて言えません。その日から裸の王様は気が狂って、もう誰も信じられなくなりました。

 

 家来はウソつき。

 国民はウソつき。

(ホモはウソつき)

 みんなウソつき! 

 

 裸の王様は二度と他人に己の筋肉を見られぬよう、鉄の鎧を作らせ、その身を隠しました。なんだか凄い魔法のおかけで、貧相な肉体でも問題なく着て動けました。それから、自分の肉体を馬鹿にした国を滅ぼすと、どんどんいろんな国を侵略していきました。

 

 およそ病みあがりとは思えぬほどの狂気的な戦働きをもって、裸の王様は鉄の王様の異名を得ました。やがて鉄の鎧が壊れるころに数々の戦争は終わらせ、裸の王様は祖国に戻りました。

 

「裸だ!」

「裸の王様だ!」

「裸の王様が帰ってきたぞ!」

「万歳! 裸の王様万歳!」

「違あぁぁあぁあぁうッ!! 余は……! 余はぁぁあぁッ!! 余は鉄の……この鉄壁の鎧を身につけておるわぁあああ!」

 

 鉄の王様は己を裸だと揶揄する国民や家来を片っ端から殺しました。感情の昂ぶりは魔獣化を誘発し、返り血と魔獣化した皮膚とが反応し紫に変色していきました。筋肉がおぞましい勢いで膨れ上がり、その筋肉はオーガキングがいるなら見惚れてしまうほどの、見事な造形となりました。尋常ならざる牙を剥き出しにし、この世ならざる咆哮で逃げ惑う人々の足を竦ませ、男は殺し、女は犯しました。

 

 何も信じられなくなった鉄の王様は、ついに馬鹿には見えない不可視の鎧を全身に纏う金剛鉄壁の魔術を完成させていたのです。

 

「見よッ! この愚か者には見えない素晴らしい鎧をッ! 

 この鎧がある限り、余は無敵なのだッ! 

 余を崇めよッ! そして跪き、恐怖せよッ!」

 

 王様はそう吼えましたが、誰もが王様を裸だと言いました。もう王様にはこの国に住む全員が底抜けの愚か者どもにしか見えませんでした。

 

 だから王様は自らの手で、武と秩序を重んじる国を暴力と性欲が支配する国にしてしまいましたとさ。

 

 

 

「まーこんな感じでいーかなー。王様なら国滅ぼすくらいやらなきゃダメだよ」

 

 メアリィは謎の独自理論を振りかざし、童話【裸の王様】を虚空に仕舞いました。それから、各地からのお便りもとい祈りの言葉に耳を傾けると、なんか良さげな祈りが聞こえました。

 

『子供が欲しい』『孕みたい』『孕ませたい』『俺の子を産んでくれ!』『神様どうかお願いです!』『私に子宝を恵んでください!』『俺の妻に子を宿してください!』

 

「よしきた任せろー♪」

 

 子宝に恵まれぬ夫婦の、神への祈り。その条件が欲しかったメアリィは、童話【ラプンツェル】を取り出して、不妊の女の孕み袋を泳ぐ種無しのアレコレを追い出して、やることをやることにしましたとさ。

 

 

 






お知らせ
毎日投稿しんどくなってきたので、明日から止めます。


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