ロストエンパイア創造記   作:メアリィ・スーザン・ふ美雄

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童話【狼少年】

 むかしあるところに、羊飼いの少年がいました。

 単調な毎日を過ごしていました。

 少年は変り映えのない毎日が退屈で仕方ありませんでした。

 

「まいにちまいにち羊の世話か……つまんないなあ。

 いつか都会に行ってみたいな! 学校ってとこに行ってみたい!」

 

 羊飼いの少年は毎晩のようにそんなことを思いましたが、そんな自由はありませんでしたから、勝手な真似をすることはできませんでした。

 

 ああ、なんでもいいからアッと驚くような非日常を体験してみたい!

 どうか神様お願いします!

 ビックリするほど不思議なことを起こしてみてください!」

 

 そんなことを祈ったある日から、彼は夢の中で北風と太陽が争い天変地異が起こる夢を見たり、ずっと遠くで海が空に繋がるほど大きな津波が起こっているのを見たり、流星群が地上に降り注ぐ光景を見ることができました。

 

「オーッ! ファンタスティーック!」

 

 すっかり夢の世界に夢中になった(重複表現)彼は、何度もそんな夢を見たくて、よく昼寝するようになりました。

 

 だって現実は単調な繰り返しばかり。

 

 なんとかして、現実でも非日常的なことを起こせないものか。

 何かないかと働いていると、不意に頭がボーッとしてきて、どこからともなく女の子が聞こえてきました。

 

 

 ああ、それは、禁じられた遊び

 狼が来たぞと、叫んでごらん

 血相をかえた、大人たちが

 武器を手に手に やってくる

 きみはそーんな 間抜け面を見て

 今のは嘘だと笑うのさ

 ボクはそーんなきみのことを見て

 嘘じゃないよって嗤うんだ♪

 

 

 ハッと少年が目を覚ますと、既に日は暮れかけていて、羊達は丘のあちこち散っていました。あわてて羊飼いの少年は、犬笛でたくみに牧羊犬を操り、あっという間に羊達を纏めて宿舎に戻していきました。

 宿舎には牧場主がいて、少年の帰りを待っていました。

 

「どしたい坊主。今日はちと遅かったな」

「いーやいや。ちょっと数匹、グズグズするのがいたからさ」

「……ん。今日もきっちり全頭いるな。

 ま、坊主の腕は心配してねぇ。明日もいつもどおり頼むぞ」

「うん。わかった。任せておじさん」

 

 なまじ腕が良いばかりに、彼は昼寝していても大きなミスをしでかす事はありませんでした。

 食事にスープとパンを与えられて、それをつまらなそうにサッと食べると、羊飼いの少年は羊宿舎の隣にある小屋ですぐに寝ました。

 

「うーん、禁じられた遊びかあ。ちょっとやってみようかな」

 

 羊飼いの少年は次の日、白昼夢で聞いた声を真に受けて、お昼の半ばを過ぎた頃に、狼が来たぞと叫んでみました。すると村の方から大人たちが武器を手に手にやってきて、狼は何処だと血相を変えて言いました。

 

 羊飼いの少年は、面白くて仕方がないというように大笑いし、今のは嘘だと言いました。

 

 牧場主はふざけた少年を力いっぱい平手打ち、衆目環視の中で叱りつけました。牧場主がそこまで言うならと、騙された村人は諭す側に回り、羊飼いの少年は許されました。

 

 その日からもう、羊飼いの少年は堪りません。

 現実でおきた非日常的な出来事は、彼にとてつもなく興奮しました。

 彼はいままで、平手打ちされたことも怒鳴り付けたことなどなかったのです。

 羊飼いの少年は、頬を張られた傷みさえも勲章のように感じてしまい、一月もしないうちにまた禁じられた遊びをやりました。

 

「狼が出たぞォオオオオオオオオオオッ!」

 

 再び村人は血相を変えて、武器を手に手にやってきて、狼は何処だと言いました。

 羊飼いの少年は、ああおっかしい、と大笑いして、今のは嘘だと言いました。

 

 牧場主はふざけたガキを力いっぱいブン殴り、衆目環視の中で叱りつけました。

 羊飼いの少年は酷く興奮しました。

 殴られた傷みさえも勲章のように感じてしまい、股間を熱くいきりたたせました。

 その熱さがなんなのか、彼は知りませんでした。

 

 村人は反省した様子のない羊飼いの少年を見て、牧場主に向かって三度目の嘘をついたなら分かっているなと警告しました。いつかこの牧場を丸ごと引き継いでやってもいいと思っている少年を失いたくない牧場主は、愛する我が子であるかのように愛をこめて叱りつけました。

 

 果たして羊飼いの少年は、またエキサイトな体験をしたくて、一週間もしないうちに禁じられた遊びをやりました。

 

 少年は自警団に捕縛されました。

 

「えっ?」

「お前は奴隷として商人に売り飛ばす。

 これは子供が三度続けて同じ罪を犯した時にと決められた、この村の昔からの掟だ。

 言っても分からん馬鹿を養えるほどこの村は裕福じゃないのさ」

「えっ? 嘘、でしょ?」

「俺達は嘘をつかない。お前と違ってな」

「えっ? えっ? えっ?

 嘘。嘘だ。こんなの嘘だっ!

 そんな、こんな、ただのちょっとした悪戯じゃないか!

 そ、それに、僕知ってるんだぞ! 奴隷制度なんて」

 

 小賢しい事を言おうとした少年を、自警団は殴って黙らせました。

 

「馬鹿が。せっかくあのガンコ者の親父さんがお前の腕を認めてたってのに。

 お前、ちゃんと説教聞いてなかったのかよ」

 

 確かに少年は牧場主に叱られていたとき、話を聞いていませんでした。

 ほっぺたヒリヒリするの面白いとか考えてました。

 叱られるの気持ちいいとか考えていました。

 三度罪を犯せば売られるという叱咤は、右から左に通り過ぎて、記憶していませんでした。

 

 こうして元・羊飼いの少年は、あわれ奴隷商人に連れていかれることになりました。

 その売り値は村のための貯蓄となりました。

 少年は叱りつけていた牧場主は、深い失意を抱いて老いさらばえ、後継者を残せないまま死にました。

 

 あまりにも非日常すぎる出来事に、元・羊飼いの少年は怖くなりました。

 

「ご、ごめんなさい! 助けて!

 も、もう悪いことしません! おうち……ぼ、牧場に帰して!」

「何いってんだいボウヤ。もうボウヤが帰る家なんざねえんだよ!」

 

 見知らぬ怖い奴隷商人に怒鳴られて、元・羊飼いの少年は勃起しました。その様子を抜け目のない奴隷商人の瞳は捉えていたので、元・羊飼いの少年は嗜虐願望の強い客ばかりが集まる倒錯的な男婦館に売られることになりました。

 

「アッー!」

 

 元羊飼いの少年は、毎日毎日ボロボロになるまで犯されました。嫌がる割には体のほうはしっかりいやらしく反応するものですから、サドでホモのショタの三重変態おじさんたちも堪りません。メス堕ちさせるのは俺だとばかりに連日客が一杯です。身も心も擦りきれるほどの苦痛のなか、精神を病んだ彼は、ある日客が部屋に入ってくると叫び始めました。

 

「おっ、おおっ、狼だ! 狼が来たぞォオオオおおおおおぉぉぉおおお!!」

「なんだいそりゃ誘ってんのか?

 悪い狼さんが食べちゃうぞー。なんてなァ!」

 

 客がそういうと、狼少年の主観では、客は本当に悪い狼に変身して、か弱い子羊である自分の全身をガブガブと食べているかのような錯覚に陥りました。

 

 男は狼。

 男は狼。男は狼。

 男は狼。男は狼。男はオオカミ。オオカミだっ!

 

 その日を境に狼少年と言う異名がついた彼は、狼が来たぞと繰り返しました。過酷な労働環境から精神だけでも逃れるために、狼少年は犯される度に叫びました。

 

 これは現実なのか?

 それとも夢なのか?

 現実とは?

 夢とは?

 これが現実だなんて、到底受け入れられやしない。

 人生なんて、ちょっとしたことで全部壊れる幻想みたいなモノなのに!

 だったらこんなの! 全部夢に決まってる!

 

 狼少年は、狼が来たぞと叫び続けました。そんなものはプレイの一環だと思う客や男婦館の主人は、誰一人彼の言葉を真に受けることはありませんでしたとさ。

 

 

 

 実際に客が一人、まるで狼に襲われたかのように喰い殺されるまでは。

 

「……ああ、間違いなく死んでる。喉仏を噛み切られてる。

 ハラワタも食い荒らされて、片腕が……ああ、そっちにあるのか」

「どうやったら人間がこんな風に死ぬんだ?

 犯人はどうやって殺したんだ?

 この部屋は特注の男婦部屋だぞ?

 窓はがっちり鉄格子だし、部屋の鍵も外からしか開閉できないようになってる」

「こりゃあ例の……密室殺人ってやつかもな。

 まさか『モルグ街の殺人』みてぇな話が現実に起こるとは」

「馬鹿。アホ。密室になんかなってねーだろ。

 そもそもこの部屋にいたのは、被害者一人じゃなかった。

 どう考えても殺したのはヤツさ。口元が血まみれだったしな。

 この部屋の……っと、俺達が奴隷なんて言葉使っちゃダメだった」

「凶器も無しにあんなガキがか? どこにノコギリじみたモンがあるってんだ。

 もしできるとすりゃあ自前の歯でやったかもしれんが……

 ちょっと歯が尖ってる程度じゃ人間の片腕まるごと噛み千切れるわけねえよ」

「喉だけだったら、うまいことやりゃあイケるだろ。その後のことは……おい。

 腕の……ここんとこ見てみろ、歯型がある。

 大型犬? 少なくとも、人間のモンじゃねえ」

「不可解な謎だな。

 ここは動物が入りこむ隙間なんて無い密室。

 にもかかわらず、被害者は大型の肉食動物に襲われた……」

「やめろやめろ。推理小説の読みすぎだ。

 ここの主人が犬を飼ってる。

 そいつがどうにかして迷い込んで、死体損壊したんだろ」

「あの犬がか? べつに血まみれってワケじゃなかったけどよ」

「どうせうまいこと洗ったんだろ? しらねーけど」

 

 三人の刑事が事件現場で言いがかりのような推理をしていると、そのうち外から別の警察官がやってきました。

 

「刑事。取り調べなんですが、ありゃーもうダメです。

 あのガキ、完全にイカれてますぜ。

『狼が来て食い殺した』『なんで信じてくれないんだ』としか言いやしねえ」

「どうせ犬と見間違えたんだろ。

 あーもーめんどくせえな。

 どうせそのガキがやったんだ。

 もうベドラムにぶちこんじまえよ。

 話じゃ、今はまともになったんだろ?」

「どうだか。奴隷制度が廃止しても奴隷商まがいに強制労働自体がこっそり生き延びてるみてえに、裏ではまだ狂人どもは見世物扱いされてんじゃねーの?」

「フン。んなこたどうでもいいさ。

 犯人はあのガキ。客の喉を噛み殺した。自白はとれそうにない。

 なんらかの精神疾患が疑われるためベスレム病院への入院を勧める。

 あと、ここの男婦館で飼ってる犬に死体損害の疑いがある。

 おいそこの。ここの主人にゃ、飼い犬が害獣と疑われるから処分するよう言っとけ」

「了解」

 

 こうして杜撰な捜査の結果、狼少年は精神病院に入院する事になりました。果たして狼が来たのか犬と見間違えたのか……動物はどうやって来て、どうやって消えたのか。どうして客だけ死んで、狼少年は死ななかったのか。多くの謎が路傍の石ころのように放置されました。

 

 その後彼がどのように生き、そして消えていったのかは、創造神メアリィ・スーを除いて、どこの誰にも分かりません。

 

 

 

 

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