ロストエンパイア創造記   作:メアリィ・スーザン・ふ美雄

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 今日という日にはギリ間に合った感。


焼却処分【森の灰色熊さん】【金の盾、銀の盾】【人攫い魔術師】

 

 

 ある日森の中で灰色熊(グリズリー)に出逢った少女は、喰い殺されてしまいました。

 

 そんな事件がありましたので、森の近くの村人たちは、灰色熊を退治しようと話あいました。けれど臆病者の狩人は、灰色熊が恐ろしいから森には行かないと言いました。

 

 村人たちが困っていると、偶然にも金の全身鎧を纏う騎士と銀の全身鎧を纏う騎士の二人が立ち寄りました。

 

「いまの話は聴かせてもらった」

「俺達が退治してやろう」

 

 その二人組は、世直しの旅をする遍歴の騎士を名乗りました。有り難いことだと思って皆は騎士と神とに感謝しました。

 

「ここは我らに任せておけ」

「世のため人のため、その魔獣は討ち滅ぼそう」

「魔獣? いえ、ただのグリズリーですが」

「余人には分かるまいが、そやつらは魔獣に違いあるまい……ああ、金はいらない。お前達のためにとっておきなさい。見ての通り金の全身鎧だ。小銭欲しさのことではない」

 

 二人は思わせぶりなことをいって、森に入って行きました。

 ご都合主義にも、二人はすぐに灰色熊と出会いました。

 北風の騎士ボレアスは、疾風渦巻く冷風の剣で、正面のグリズリーを斬り伏せました。

 太陽の騎士アポロンは振り向いて、伸縮自在の光線剣で、背後から駆け寄ってきたグリズリーを斬り捨てました。

 

 一太刀で死んだ二匹のグリズリーの死骸から、名状しがたい青白い粒子のようなものが噴き出して、二人の全身鎧に吸い込まれていきました。

 

 次の瞬間、木から飛び降りて三匹目のグリズリーが不意討ちをしかけましたが、二人は容易に対応して返り討ちにしました。三匹目のグリズリーの死骸からも、名状しがたい青白い粒子のようなものが噴き出して、二人の全身鎧に吸い込まれていきました。

 

「正面に気をとられりゃ背後から。二匹倒して一安心したら真上から。凡百の人間なら三回は死んでたな」

「ッハ! 相手が悪かったな。クマさんよ」

 

 こうして魔獣『森の灰色熊さん(グリズリーx3)』は、二人の騎士の活躍で、村に平和が訪れましたとさ。

 

 

 

 童話【金の盾、銀の盾】

 

 むかしむかしとある森の中、二人の騎士が泉を通りすがると、魔術が盾を剥ぎ取って、泉に取り込んでしまいました。

 

「アアン? なんだァ今の魔術は」

「盾剥がしか……気を付けろ。この泉、どうやら魔獣が潜んでいるようだぞ」

 

 剣を構える二人の前に、泉の精霊が現れました。

 

「あなたがたが落としたのは金の盾ですか? 

 それとも銀の盾ですか?」

「金の盾は俺のじゃはよ返さんかいワレ」

「その銀の盾は俺のだが? さっさと返してもらおうか」

「あっ…………」

 

 オーマイゴッド。

 なんてこったい。

 全身統一の金銀コーディネートの二人組じゃねーか。

 恨みますよ神様。これじゃ私、いいトコなしじゃないですか。

 

 泉の精霊は目を見開いて、固まってしまいました。

 

 ここで種明かししてしまいますが、この泉の精霊は、嘘つきには持ち主を傷付ける呪われた装備を与え、正直者には装備に強力な祝福を与えサービスをつけて返す精霊なのでした。二人は正直に答えましたし、泉の精霊には金や銀より素晴らしいものを取り出すことが出来ないので、意味のあるサービスはできません。しぶしぶ泉の精霊は、泉の中から鉄の盾を取り出しました。

 

「……正直者の落し物には強力な祝福を与えてお返しし、鉄の盾もおまけしてあげましょう。今ならお徳用に三枚セットでいかがですか?」

「いやお前なんかの祝福とかいらんし」

「抱き合わせにゴミクズ押しつけようとすんなカス」

「……こんの無礼者がァ! 

 こうなったらあんたたちの装備、全部残さず祝ってやるっ!」

 

 魔獣『泉の精霊』は急に逆ギレしだしたので、アポロンとボレアスは二人連携『太陽ストリーム』で片をつけました。差し出していた鉄の盾三枚はどれもゴミクズに変容し、泉に還った精霊の残滓から、名状しがたい青白い粒子のようなものが噴き出して、二人の身体に入っていきました。

 

「何の価値すらありゃしねえ。この糞が」

「何も残さなけりゃ、ゴミクズよりマシなんだがな」

 

 二人の騎士の活躍で、魔獣『ゴミクズの精霊』は滅ぼされ、森に平和が訪れましたとさ。

 強力な祝福とは言っても、善良な祝福とは言っていませんからね。二人にとっては大した祝いではないので、即座に解呪……もとい解祝すると、何事もなかったかのように先へ進みました。

 

 

 

 童話【人攫い魔術師】

 

 むかしむかしあるところに、三階建ての塔がありました。

 そこで生まれ育った魔術師は、日がな魔術の深淵を目指していましたが、ある日急に女体の神秘を知りたくなりました。

 

「研究素材を集めなければ」

 

 勉強熱心な魔術師は、翼の生えた靴を履いて、塔から空へと旅立ちました。

 それで、最寄りの村から数えて五つ離れた町まで飛んで行き、汚れ知らぬムチムチ乙女を一人、塔へと攫ってしまいました。

 

 偶然にも町民が攫われてすぐに訪れた二人の騎士は、人々の話を聞き乙女の救助に魔術師の塔へと向かいました。

 

 塔の中では魔術師が、神秘の研究と称してムチムチ乙女の服を脱がせていました。

 そして手枷足枷で動きを縛り、女体の神秘を堪能しようと……ああっ! このままではR15以上の出来事が!

 

 その時です。

 アポロンとボレアスは、魔術師を成敗しにやって来ました。女体の局部には謎の発光現象が起き、かろうじて直視は免れました。

 

「そこまでだっ!」

「それ以上の狼藉は我々が許さんっ!」

「ええい俺の邪魔するな! 

 俺はただ、乳や尻やぶっともものムチムチ感を知りたいだけなのだ!

 お前達も女体の神秘を知りたかろう! 俺と一緒に堪能しようじゃないか!」

「ばっきゃろう!  ヤリたきゃ女に惚れさせてからヤれ!」

「女性に無理矢理迫るなんて最低だぞ!」

 

 アポロンとボレアスは、自分たちの神話の狼藉を棚にあげてそう言うと、ダブルガントレットナックルで魔術師を空の彼方までぶっ飛ばしました。汚れ知らぬムチムチ乙女は目をきらめかせて御礼を言いました。

 

「ああ、ありがとうございます! 

 格好良いです! ステキ! 抱いて!」

「……獣クセエな。いくらガワだけ整えようが、バレバレなんだよこの魔獣っ!」

 

 北風の騎士ボレアスは、助けにきたはずの乙女に疾風渦巻く冷風の剣を突きたてると、汚れ知らぬムチムチ乙女の皮を被った醜い老婆……魔獣『人攫い魔術師』が内側から無傷で現れました。太陽の騎士アポロンは、即座に伸縮自在の光線剣で一突きすると、魔獣『人攫い魔術師』は息絶えました。その死骸からも名状しがたい青白い粒子のようなものが吹き出して、二人の身体に入っていきました。

 

「オイ、こんな奴らじゃ相手になんねぇぜ太陽」

「知るか北風……が、油断大敵とは言っても気の抜ける相手ばかりだなァ。退屈だぜ」

 

 二人の騎士の活躍で、魔獣『人攫い魔術師』は倒され、ここいら一帯の平和を取り戻しましたとさ。

 

 

 

 その後更に何十と魔獣を討伐すると、二人は一区切りをつけて、篝火を作って休みました。

 

BONFIRE LIT

 

「……あの流星群の日から、一日ごとに化けモンどもが増えてくな」

「ああ、全く世の中どうなってんだか。狂ってやがる」

「ごめんねーボクの童話が刺激的な世界にしちゃってさっ。

 ちゃんと最後には二人ともバッドエンドにしてあげるから安心して頑張ってね?

 ハーイじゃあお前らは特に面白くなかったからとーろくまっしょーだよっ♪

 じゅじゅー。燃え尽きちゃえっ♪」

 

 いつの間にか篝火に同席した創造神メアリィ・スーが、会話に混ざるかのように口を開くと、童話【森の灰色熊さん】童話【金の盾、銀の盾】童話【人攫い魔術師】を篝火にくべて燃やしてしまいました。何故そんなことをするのかというと、言葉の通り、面白くなかったからです。彼女の構想する新しい箱庭世界『ロストエンパイア』には相応しくなさそうですし、残しておいても大した愉悦を得られそうになく、使い道を見出すほうがメンドくさそうなので、後腐れなくバッサリ切り捨ててしまっているのでした。

 

 アポロンとボレアスは、まるで創造神の姿が見えておらず、声も聞こえないかのように会話を続けました。

 

「……こりゃあよ、アレがいるな。裏で糸を引いてる黒幕ってヤツがよ」

「だろーな。幾らなんでもおかしすぎる。

 いくら幻想の世界とは言え、人には良心ってもんがあるし、常識ってもんがある。

 それなのにこんなホイホイ魔獣になりまくってたまるか。手引きしてるヤツがいるはずだ」

「うーんデキる。二人とも正解っ♪」

「しかし太陽の目からも北風の感触からも逃れるやつか。そんなことできそうなヤツなんていたか?」

「……もしそれが謎かけなら、俺は『影に潜む悪魔』と答えるね」

「おっ! なんかすごそう! メモメモっと♪

 他にはどんなネタがあるんだっ! 言ってみろっ!」

「ほう。経験が生きたな。確かに影なら、光の対極に逃げるし風では捉えられない。

 さてはおまえ、誰かに日陰に隠れられたことでもあるかぁ?」

「さてな。ともかく!

 どんな相手だろうが片っ端から片付けてきゃあ、いつかは黒幕にぶつかることになるだろーぜ。いちいち黒幕だけ探そうなんて、そっちのほうがメンドクセェ」

「くすくすっ。そうだよー?

 ちゃーんときみたちに憑いていって、たっぷり"オベンキョー"させてもらったら、絶望的な負けイベント用意してあげるからね?」

 

 創造神メアリィ・スーは、どこからか童話『紅ずきん』を取り出して、忌々しげにページを開きました。本の結末には、バッドエンドを向かえずにのうのうと生きている『紅ずきん』の挿絵が描かれていました。それは彼女の失敗作でした。失敗作なのに捨てたりせず手元においているのは、ちゃんと自分が納得できるエンディングまで"主人公"を導けるまで、いつでも改定できるようにと思ったからです。

 

「最近、少しずつ失敗した原因が分かってきたよ。

 ボクは君と距離を置きすぎてたんだね。

 もっと微調整できるように"主人公"とボクは寄り添うべきだったんだ。

 それこそ、手で触れ、身体を重ね、愛し合えるくらいにっ♪

 でもしょーじき女同士とかナシだし"次回作"の主人公は絶対に男!

 これはもー決定事項だねっ! 変更はなしで。

 紅ずきんはそうだなぁ―……次回は『赤狼』なんてタイトルにして、今度こそバッドエンドにさせてあげるから待っててねー?」

 

 創造神メアリィ・スーはそういうと童話【紅ずきん】を虚空にしまいました。そして真新しく真っ白な本やキャラクターの描かれていない本、文章のない本や断片しか書かれていない本をずらずらと取り出すと、さて次はどうしようか"素材"を集めるか新たな"出会い"を求めるか派手に"改変"してそれによって起こる劇的な変化を楽しむかと、心底遊びに熱中する子どものように悩ましげな笑みを浮かべるのでした。

 

 彼女が傑作を作れると確信できる"主人公たち"の意志あるいは遺志と出会うのは、まだもう少し先の話。

 

 

 

 

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