ロストエンパイア創造記 作:メアリィ・スーザン・ふ美雄
滑り込みセーフ。今日の分どーぞ。
むかしむかしあるところに、まずしい二人の子どもがいました。お兄さんの名前はシリウス、妹の名前はミシェルと言いました。クリスマス・イブの日に二人の元へ、大好きなおばあちゃんがやってきました。
「わたしの孫が病気でな。しあわせの青い鳥を見つければ病気はなおるんじゃ。どうか二人で青い鳥を見つけてきておくれ」
「うん。わかった」
「まっかせて、おばあちゃん!」
二人は素直に頷き、空の鳥篭を抱えると、二人揃ってベッドで寝ました。おばあさんは悲しみました。きっと二人の脳内だけにある『思い出の国』とやらに旅立ったのでしょう。シリウスもミシェルも、自分が病気だと言われたことに気付いていないのです。
ある日両親に不幸なことがあって死に、子ども達の精神は病みました。今では空想の世界に入り浸り、たまに外でも遊ぶのですが、時折思い出したかのように悲鳴をあげます。それからしくしくと悲しんで、両親のところに行くと言って自殺しようとするのです。それはもうひどい躁うつでした。
残った家族は老い先短いおばあさんだけ。彼女に残せるような遺産は自宅くらいしかなく、二人の未来は暗いものです。それでもせめて聖夜くらい、幸せな夢を見てほしい。そんな老婆心から彼女はあんな言葉を言いましたが、果たしてその願いが叶うかどうか。
おばあさんはクリスマス前にあらかじめ買っておいた、青い鳥の入った鳥篭を取りに行きました。夜も更けたころにその鳥籠を子ども部屋に置いて、翌朝目覚めた二人が中を見れば、幸せは空想の中ではなく、身近なところにあると思い至るかもしれません。
おばあさんは二人に幸せな未来が訪れることを今夜も神に祈りつつ、自室の扉を開けました。
「くすくすっ。こんばんは」
部屋の中には創造神メアリィ・スーがいました。幻覚かもしれませんし、錯覚かもしれませんが、少なくともおばあさんの目には、そこに神が降臨しているように見えました。白の短髪。強膜の赤い紫の瞳。紫の唇。開いた口から飛び出す舌の中央には第三の瞳。肌が病的に白く、長く伸びた爪が紫色の、全裸の女の子がそこにいました。
前触れなく冒涜的旧支配者の仔を目撃したおばあさんは1D100のSANチェック。ですがここでTAS*1発動。次に行うダイスロールの出目は100確定です。
おばあさんは一見、不定の狂気に陥っていないかのように自身の頬をひねり、痛みを感じ、これが夢ではないことを確認しました。そして、呆けたように感情が消失しました。目の錯覚だとでも思いたかったのでしょう。創造神の姿かたちは、ヤバいところに目を瞑れば、人間の少女に見えないこともありませんからね。
おばあさんには、あらゆる全てが理解できませんでした。理解する事を放棄しました。理解してしまえばおしまいですから、急性痴呆症になるしかありませんでした。ですが手遅れです。創造神メアリィ・スーはそんなおばあさんの様子をクスクス笑いながら、全身から名状しがたい霧のようなものを吹き出して言いました。
「きみもきみの子どもたちは絶対に幸せになるよ。だって、ボクの助手として、末永く幸せに働くことができるようになるんだから」
その霧を全身に浴びて、おばあさんは突然、正体不明な飢えのようなものを感じました。魂の飢餓感とでも言うのでしょうか。おばあさんは創造神メアリィ・スーがどこからか差し出した鳥篭を受け取り、素手で中の鳥を引きずり出すと、生きたままバリバリと食べました。食べる事に抵抗感はありませんでした。
足りない。足りない。ソウルが足りない。ああ、ああ、このままではああああああぁぁぁああぁぁぁあぁあああぁぁぁあぁああぁぁぁあ!!!
声ならぬ悲鳴をあげて、おばあさんは冒涜的な生物に変身しました。その全身は、元のおばあさんより二回り大きな蒼い鳥に変容していきました。その顔は、瞳のない空洞の眼窩を見開いて、血涙を流していました。鋭く尖ったくちばしの奥からは、心根を震えさせるかのようなおぞましい鳴き声が響き渡りました。
元・おばあさんは、耳障りな声色でいいました。
「あなたが神か」
「そうです(ボクは真顔でそう言った)」
「失礼ですが神としての証明は?」
「チートがほしいか。ほーらやるぞっ♪」
創造神メアリィ・スーは、何事かをモニョモニョ呟くと、元・おばあさんの内面から、言語化しえない奇跡のようなものが溢れてきました。
「きみは『魔法使いのおばあさん』だ。
それはもう、決まっていることなんだよ?
だからきみが魔法が使えるのは、当たり前のことなんだ」
そういわれると、元・おばあさんは、なんだかそんな気がしてきました。そういえば自分は『魔法使いのおばあさん』だったと過去も過程もないままに受け入れました。創造神の現能である、改変能力によるものです。
「さ、まずは身近な二人を幸せにしてあげてっ♪」
その言葉は強い陶酔感を伴って元・おばあさんの脳裏に染み渡っていきました。ああ従いたい。自分で考えたくない。この方の言う通りにしたい。この方に幸せになってほしい。元・おばあさんは鋭いカギ爪でドアを蹴破り、ばさりばさりと二人の孫が眠る部屋に行きました。
二人を幸せにしなければ。
こんな様子のまま現実を生きていたって、つらい現実しか待っていない。どうせ生きてて楽しい事なんてひとつもないでしょう。であるならば、幸福な夢を見ているうちに……そのための手段は、いましがた創造神様に与えられました。
「――――デス」
即死の魔法を浴びてシリウスは苦痛なく安らかに息絶えました。何拍かの間をおいて、元・おばあさんは再び即死の魔法を唱え、ミシェルもまた苦痛なく安らかに息絶えました。二人は幸せな夢を見たまま、両親と同じように不幸が訪れたのでした。
「『チルチル』と『ミチル』の頭を眼窩に嵌めれば、今日から君は魔獣『不幸の蒼い鳥』だ」
魔獣『不幸の蒼い鳥』と呼ばれた元・おばあさんは、微笑を浮かべて息を止めた二人の孫の首を、その鋭いカギ爪で切り落とし、空洞の眼窩の中へと収めました。あつらえたかのように二人の頭は眼窩に嵌り込みました。
『魔法使いのおばあさん』と『チルチル』と『ミチル』の三人は、これでずうっと一緒です。名前が違っているですって? いえ、間違っているのは本名です。創造神様は我々に正しい真名をお与えになりました。魂に拠る"まことの名前"を思い出させてくれました。両親から与えられた名前など現実をしのぶ仮の名に過ぎず、正しくは『チルチル』と『ミチル』だったに違いありません。
だって、神様の言うことなんですから!
チルチルとミチルは魔獣の一部となって、聖夜に訪れた新しい誕生祝いを喜びました。皆で仲良く冒涜的なキャロルを歌いました。ひとしきり歌い終えると、三人は神に直接感謝しようとしましたが、創造神はいつのまにやら影も形もなく消えさっていました。察しの良い魔獣は、おぞましい鳴き声をあげました。
「神はいま、自由に動けない……」
不幸の蒼い鳥の呟きは、むせかえるように血の匂いが溢れ始めた子ども部屋に、静かに響き渡りました。
「天変地異の悪夢……流星群の悪夢……しかしそのような現能は、きっと無限に使えるものではないでしょう……ならば人々が創造神様への祈りを思い出せるように、代わって私が飛び立ちましょう。チルチルとミチルは、素晴らしい目となりました。空想世界を渡り歩く二人の頭があるならば、どこへでも飛んでいける気がします」
『へー。そんな事できるんだー。すごいねー』
創造神メアリィ・スーは興味なさ気に呟きました。
直接脳内に彼女の言葉が届いた不幸の蒼い鳥は、神の意図を超えた傑作になれたことを喜び、己が身の幸福にうちふるえました。幸せは身近なところに……身内にあったのです。身内に不幸があることは、幸せなことなのです。原典から大いに歪められて再構築された不幸の蒼い鳥は、喜びのままに狭い部屋の窓を開け放つと、大空に翼を広げて、どこまでもどこまでも飛んでいきましたとさ。
「神様! ありがとうございます!」
「神様! わたしたち、幸せになってみせます!」
「神様! 他の何を不幸にしても、神様の言うとおりにがんばります!」
おぞましい三重奏は、今夜もまたなんらかの悪夢を見た狂人か誰かの戯言だと受け取られ、真に受ける人はいませんでした。最近多いですからね。不幸の蒼い鳥は空に溶けるようにして現実世界から消えていき、数多の童話を股にかける名脇役となりますが、それらはぜーんぶ別の話。
「うーん狂信者臭い。ありゃあダメだね。あーくっさ。
テキトーに下地造りに働いてもらったら、北風と太陽に処分してもらおーっと」
やる気に満ち溢れすぎる魔獣『不幸の蒼い鳥』を見て、メアリィ・スーは鼻を押さえて顔の前で手を仰ぎ、無慈悲にもそう呟きました。
もう片手には『ボクのかんぺきすけじゅーる帳っ♪』なる企画書がありました。
いま開いているページは、どうやら改変後世界の下図のようです。
そこには、以下のような書き込みがありました。
聖域(ボクや"主人公"の安置っ! 一見様お断り設定にするよっ♪)まだ
城(シンデレラがいるところ)まだ
塔(ラプンツェルがいるところ)まだ
森(眠り姫がいるところ)×やりすぎた! こいつは出禁! 六魔姫⇒五魔姫に変更。
雪国(白雪姫がいるところ)良い"素材"がいた。あの娘が美味しく実ったら次はコイツっ!
海(人魚姫がいるところ)配置済み。要微調整。
沼(カエルのお姫様がいるところ)まだ
まだまだ完成は程遠いようです。余白も多く、後で幾らでも書き換えられるでしょう。ですが幾ら寄り道しようと、着実に、確実に、ゆっくりと世界は変わっていくのでした。