レミリア・スカーレットの挑戦   作:Amur

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第十話 『鬼の異変(前編)』

 あらゆるものを焼き尽くす煉獄の吐息とすべてを凍てつかせる凍える吹雪が激突した。衝撃で周辺の地面はえぐれ、炎と吹雪の余波が地獄のような光景を生み出す。

 

「ハッハッハ! 口だけではないようだね! 吸血鬼って種族をちょっと見縊っていたよ」

 

 小柄な少女だった。煉獄の吐息で地形を一変させたとは思えないほどに幼い容姿だが、明らかに人間とは異なる点がある。

 頭の左右から生えた二本の角。

 この国において最も有名ともいえる妖怪───鬼の特徴だった。

 

「ふっふっふ……当然だ。私は吸血鬼の女王だからな。そちらこそ伝説と謳われた鬼のチカラ、こんなものではないのだろう? もっと見せてくれ」

 

 鬼に相対する吸血鬼───レミリア・スカーレットは傲然と言い放つ。

 

「言うじゃないか! だが、吸血『鬼』と呼ばれるなら判るだろう。鬼とは強いものの代名詞。その本家本元の鬼の実力、とくと見せてやろう!」

 

 

ーーーー

 

 

 鬼と吸血鬼の激突より半月前───

 

『博麗の巫女がまさかの通り魔!』

 

 衝撃的な話が飛び込んできた。

 冬の妖怪レティ・ホワイトロックが理由もなく人間に襲撃されたという。

 問題はその人間が博麗の巫女、博麗霊夢であるという点だ。おそらく彼女は長い冬に苛立って冬の妖怪に八つ当たりをしたのだろう。

 

 幻想郷の秩序を守るべき博麗の巫女が、一時の感情で妖怪を攻撃するなど嘆かわしいことである。

 

 一部では先日の冬の終わらない異変───春雪異変は博麗の巫女が解決したという話もあるが、天狗としては信じていない。

 

 普通の魔法使い、霧雨魔理沙や紅魔館のメイド長、十六夜咲夜がそれに助力したとも聞くが、こちらも裏が取れなかったので怪しいものである。

 

 春雪異変といえば、桜が咲く少し前に冥界のお嬢様の西行寺幽々子が桜の花びらを蒔いているのを目撃したことがある。本人は春を返していると訳の分からないことを言っていた。花びらをどこから持ってきたかは不明だが、おそらく、春が待ちきれずに桜の花びらで偽りの春を楽しもうとしたのだろう。

 

「ふ~む……いまいちですねえ」

 

 射命丸文は作成途中の記事を読み返しながら呟いた。

 

「博麗の巫女が気まぐれで妖怪退治をするなんて、普通のことでインパクトが足りません。ここは春雪異変の犯人はまさかの博麗の巫女!? という方向にしましょうかね」

 

 先日、節度のない記事を書いてレミリアにお仕置きされた文だが、まったく懲りていなかった。

 

「もしくは人間三人が起こした世にも珍しい異変というタイトルで……」

 

『相変わらずだねえ、文。 変わってなくて嬉しくなるよ』

 

「!?」

 

 誰もいない状況で声をかけられた文は驚愕して周囲を見渡す。

 

「誰……いや、この妖気はまさか───!」

 

『久しぶりに幻想郷に戻ってきたんだ。またよろしくね』

 

「……あなたほどの方が、ただ戻ってきたということもないでしょう。何をしようというのですか?」

 

『今年は春が短かっただろう? そのせいで私の好きな花見があまり出来なくてね。代わりに皆にたくさん宴会を開いてもらおうってわけさ』

 

「そうですか……私の立場からは何も言えません」

 

『堅苦しいなあ。もっと気楽にいこうよ』

 

「まあ……そうおっしゃるのであれば善処はします」

 

『宴会には文も是非来てね。じゃあまた~』

 

「はあ~~~。また幻想郷が騒がしくなりますね。何だか新しい記事を書く気力がなくなってきました……」

 

 

 

ーーーー

 

 

 

「明日もまた宴会か」

 

 ここ数日のレミリアは玉座に座りながら、異変解決者たちの動向を伺っていた。

 

「霊夢、魔理沙、咲夜……まだ誰も宴会を開かせている存在に気が付いていないようね」

 

 幻想郷中に広がる妖霧───それが皆を萃(あつ)めて三日置きに宴会を開かせていた。しかも、誰もそれに気が付いていない。

 

「人間トリオだけでなく、妖怪も萃めているようね。妖霧の影響がないのは紫くらいか……さすがにあいつは別格ね」

 

 異変解決トリオが早々に気が付くなら任せるつもりだったレミリアだが、現在まで呑気に宴会を開いているだけなので、自ら動くことにしたのだった。

 

「では行くか。次の宴会の主役はこのレミリアよ」

 

 レミリアが幻想郷中を回るべく、紅魔館を飛び立った。

 

 

ーーーー

 

 

「おかしいな」

 

「なにがよ? 魔理沙」

 

「文の新聞だ、霊夢。春雪異変の解決で、今度はどんなふざけた記事を書くかと思ったが───異変には触れずに当たり障りのない無難な内容だった」

 

「あんた、あいつの記事を毎回チェックしてるの」

 

「まあな。次の異変の記事では私の活躍を書かせるつもりだからな。ちょっと前にレミリアと私でお灸をすえてやったから反省して自重したのかね」

 

「そんなタマじゃないでしょ、あいつは」

 

「う~む」

 

「それより宴会の片付けをあんたも手伝いなさいよ。みんな、好きに騒いで片付けもせずに帰るんだから」

 

「私は幹事だからな。色々と忙しいんだ。ただでさえ、最近は宴会が多いから」

 

「今日はレミリアが幹事をやるらしいじゃない。丑三つ時に神社まで言いに来たわよ。怒って叩き出そうとしたけど、寝起きだったし、うっかりやられちゃったわ」

 

「私のところにも夜中に来たぜ。今日の幹事は任せろって幻想郷中に言って回ってたらしい」

 

「あいつも暇ねえ」

 

 

ーーーー

 

 

 紅魔館から少し離れた草原──

 

「私を呼ぶなんて珍しいじゃない? レミリア」

 

「ああ、紫。 用件はわかっていると思うが」

 

「さて……ね。私も全知全能ではないから、言われないとわからないこともあるわよ?」

 

「ふん。頼みたいことは二つ」

 

「……一つなら良かったのですが、二つの時点で猛烈に嫌な予感がしてきました」

 

「ふふふふ……さすがだ。これだけでわかってくれるとはな。一つ目は幻想郷中に広がった()()()を萃めてくれ。境界を操作すれば可能だろう」

 

「よく気が付いたものですね。違和感は感じても、はっきりと認識した者はあなたの他にはいないでしょう」

 

「当然だ、私はレミリア・スカーレットだぞ。それでどうだ?」

 

「いいでしょう。やって差し上げますわ」

 

「ありがとう。ではさっそく頼む」

 

「わかりました」

 

 紫が幻想郷中に広がった妖霧を、境界を一気に小さくすることで一つに萃めた。

 

「あ、あれ? まだ宴会前なのになにするんだよ、紫~」

 

 大きく広がっていた妖霧が一つになると、そこには小柄な少女が立っていた。

 頭には二本の角と大きな赤いリボン、手には鎖をつけた紫の瓢箪を持っている。

 

「こちらの吸血鬼のお嬢さんがあなたに用だそうよ、萃香」

 

「レミリア・スカーレットだ」

 

「んん……ああ、あんたか」

 

「おや、私を知っているのかな?」

 

「まあね。他の連中と違って、私の能力で萃められなかったから興味を持っていたんだよ」

 

「なるほど」

 

「それで? 私を呼んでどうしようっていうの?」

 

「なに、そろそろこの三日置きの宴会も終わりにしようと思ってね」

 

「ええ~? 花見の期間が短かった分、私はまだまだ宴会を楽しみたいのに」

 

「それなら最後にこの私が派手に遊んであげるわ」

 

「ふ~ん……吸血鬼風情に『鬼』たる私の遊び相手が務まるかねえ」

 

 萃香の挑発には乗らず、レミリアは紫に話しかけた。

 

「ふっふっふ……紫、あと一つの頼みの件だが」

 

「はいはい」

 

「派手に暴れるから、周囲に影響が出ないよう結界を張ってくれ」

 

「そこまでする必要があるかい? スペルカードルールだっけ、あれならそう酷いことにはならないだろう?」

 

「スペルカードルールは争いを解決するには良い手段だが、これからするのは別に争いじゃない。私とお前の個人的な遊びだ。あのルールは使わない」

 

「鬼に喧嘩を売るなんて若者は命知らずだねえ」

 

「ふっふっふ、わからないか? 紫が私の頼みを拒否しない理由を」

 

「ん?」

 

「つまり紫はこう考えているわけだ。“萃香とレミリアが喧嘩をすれば、簡単には決着がつかず、周囲への被害は甚大になる。だから結界を張るしかない”───とな」

 

 それを聞いた萃香が紫の方を向くが、彼女は否定せずに沈黙を保った。

 

「へえ……。ずいぶんとこの吸血鬼を買っているようだね、紫」

 

「さて、そろそろはじめよう。今日は最後の宴会がある。幹事として遅れるわけにはいかないからな」

 

「面白い……。この伊吹萃香に喧嘩を売るやつなんてどれくらいぶりだろう。ガッカリさせないでくれよ」

 

 二人が睨み合う間、紫は周囲への被害を抑えるための結界を展開し始めた。

 

 

 




喧嘩を止めたいけど、二人とも言っても止まりそうにないので、しぶしぶ結界を張ってくれる紫さん。心労で体重が減ったとかなんとか

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