レミリア・スカーレットの挑戦   作:Amur

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第十一話 『鬼の異変(後編)』

「そおおおらっ!」

 

 萃香が石や岩を萃めた巨岩を投げつけてくる。

 それをレミリアは回避───せずに自分から突っ込んだ。

 

「ん!?」

 

 レミリアが岩を避けた瞬間に、追撃をしようと構えていた萃香は訝しんだ。

 

「たかが岩で私をどうにかできると思うな!」

 

 翼で身体を包み、飛行しながら回転するレミリア。翼の先端がドリルのようになり、巨岩を砕く。

 

「あっはっはっ! そうきたか!」

 

 巨岩を砕いたレミリアはその勢いのまま萃香に迫る。

 

「ぬん!」

 

 レミリアのドリル状の翼を萃香が正面から殴りつける。

 

 ギャリリリィィ!

 

 金属同士がぶつかるような音が鳴り響くが、鬼の拳はわずかも傷つくことはない。

 徐々に回転が弱まり、上空に離脱するレミリア。

 

「鉄をも貫く私の翼で無傷なんて、さすがは鬼ね」

 

「鉄くらいと比べられちゃあ困る。せめて緋々色金あたりでないとね」

 

「ならばこれはどうかしら? シャドウ・サーバント!」

 

 レミリアの闇魔法が発動すると、地より湧き出したしもべたちが萃香に襲い掛かる。

 

「雑魚を呼び出しても無駄さ!」

 

 萃香が大きく息を吸い、なぎ払うように煉獄の吐息を放った。

 闇のしもべといえど、地獄の炎には敵わず消滅していく。

 

 そのまま萃香はレミリアにも炎を吹いたが、彼女は動じず口を開けると、凍える吹雪を吐き出した。

 煉獄の吐息と凍える吹雪が激突する。衝撃で周辺の地面はえぐれ、炎と吹雪の余波が地獄のような光景を生み出す。

 

 紫が結界を張っていなければ、被害はここだけに留まらず、周囲の草原は生物の住めない死の大地になっていたことだろう。

 

 

 

ーーーー

 

 

 

「恐れ慄くがいい! ミッシングパープルパワー!」

 

 萃香が全身に妖力を漲らせると、一回り身体が大きくなったように見えた。

 

「あまりの威圧感に相手が大きく見える錯覚───ではないわね」

 

 レミリアが呟く間にも二回り、三回りと萃香が大きくなっていく。最終的に元のサイズから10倍以上になったところで、巨大化は止まった。

 

『さあ、レミリア。こうなった私にどう攻める?』

 

「ふん、でかいだけの相手などただの的さ! クイーン・オブ・ミッドナイト!」

 

 レミリアが無数の闇色の光弾を放つ。確かにサイズの関係で、巨大萃香には適当に撃っても弾幕が当たる。しかし───

 

『追儺返しブラックホール』

 

 萃香の前に漆黒の渦が現れる。

 それはレミリアの光弾をあっさりと飲み込み、無力化してしまった。

 

「ぬう───!」

 

 ───うおおお!? いや、存在は知ってたけど、実際にブラックホールを生み出すのを見ると驚くわ。紫のスキマとも違う根源的な怖さがあるわよね。吸い込まれた弾幕はどこに行ったのよ。

 

『さあ、反撃だ』

 

 地響きを立てながら萃香が進撃する。あまりの巨体の為、歩くだけでもレミリアにとっては攻撃のようなものだ。

 

「弾幕はブラックホールで吸い込まれるから、否応なくこのでかいのと接近戦をする必要があるわけか」

 

『そういうこと!』

 

 萃香が巨大な足で踏みつける。大きくなっても敏捷性に変わりはない。つまり、サイズの分だけ敵を捕らえやすくなっていた。

 

「ちっ!」

 

 レミリアが飛び上がり回避する。その動きを見た萃香は、口から霧を吐き出して視界を覆った。

 霧が立ち込める中、萃香は再び石や岩を萃めて巨岩を造る。それはもはや岩ではなく山とも言えるようなサイズとなっていた。

 

『そらあああっ!』

 

 上空目掛けて萃香が山を放り投げる。それは大きさからは信じられない速度でレミリアへと迫る。

 

「視界を悪くしたのはこれが狙いか! だが、岩も山も私にとっては同じこと! スピア・ザ・グングニル───!」

 

 レミリアが紅い槍を投げて迎撃する。それは見事に山を砕いたが───

 

『もらった!』

 

 山が破壊される瞬間を待っていた萃香は鎖を放つ。狙い通りのタイミングで放たれた鎖はレミリアの足に絡みついた。

 

「しまった! 本命はこっちの鎖か!」

 

『そらあっ!』

 

 鎖ごと振り回されたレミリアは地面へと激しく叩きつけられる。

 

「ぐはっ!」

 

 ───ヤバいっ! このまま振り回されるのも痛いけど、それ以上に確かこの技って───

 

『施餓鬼縛りの術』

 

 レミリアに絡みついている鎖が発光すると、魔力を吸い取り始めた。

 

「ぐ……あああ!!」

 

 咄嗟にレミリアは自身を無数の蝙蝠へと変えて、鎖から逃れた。

 

『!?』

 

「キキキキキーーー!」

 

 術から脱出した蝙蝠たちは萃香に襲い掛かる。

 

『ちっ!』

 

 再びブラックホールを発生させようとする萃香だが、蝙蝠は凄まじい速度で距離を詰めると、巨体のいたるところに取り付いた。

 

「キキキッ!」

 

 蝙蝠の牙では鬼の強靭な皮膚を破ることはできないが、接触した状態ならばエネルギーを吸い上げることは出来た。

 蝙蝠たちがエナジードレインを開始する。

 

『!!』

 

 身体から何かを吸われていると感じた萃香は、一瞬の判断で自身を妖霧へと変えて蝙蝠たちから逃れた。

 

 

「───ふうっ」

 

 散っていた蝙蝠が集まって、再びレミリアの姿になった。

 

 ───あ、危なかった……! どんな術か思い出したから対応できたけど、わずかでも遅れていたら魔力をごっそりと持っていかれていたわ。

 

 

 一方の萃香も妖霧が萃まり、実体を取り戻していた。

 

「……やるね。いまので決まったかと思ったけど、蝙蝠変化───吸血鬼のお家芸ってわけだね」

 

「蝙蝠状態で先程の攻撃が出来るのはそういないがな」

 

「へえ、そうなのかい」

 

 萃香が拳を握り、レミリアに相対する。

 

「さて次は何を見せてくれるんだ?」

 

「もう術はやめておく。ここからは純粋にこの肉体のみで相手をしよう」

 

「幾多の術を使う鬼だが、最後にして最強の武器は己の肉体か」

 

「そういうこと……さ!」

 

 萃香が今まで以上の圧力をもって殴りかかるが、レミリアは腕から紅い巨爪を出して迎撃する。

 

 

ーーーー

 

 

 それから互いに無尽蔵ともいえる体力と再生力に任せて殴り、抉られ、吹き飛ばし合った。

 

「はあっ、はあっ……! どうしたんだい、レミリア? 息が上がっているんじゃないか」

 

「はあっ、はあっ……! それはお前だろう、萃香? 見るからに呼吸が乱れているぞ」

 

 長時間の戦いで二人とも全身から血を流し、肩で息をしていたがその目はいまだ戦意で滾っていた。

 

「ははっ、あははははは!」

「ふふっ、ふふふふふふ!」

 

 

「まさかここまで本気で戦えるとは思っていなかった。楽しい……実に楽しい喧嘩だった」

 

「それは良かったわ」

 

「だけど、どれだけ楽しい祭りもいずれ終わる。だから───」

 

「!」

 

 口調は穏やかだが、佇む萃香からかつてない程の膨大な妖力が感じられた。

 

「これで決着をつけよう、レミリア・スカーレット」

 

「望むところよ、伊吹萃香」

 

 ───必死に修業はしたけど、それでも腕力では鬼の四天王に及ばない。最終攻撃に正面からぶつかるのは愚かといえる。なら、距離をとる───? ふふふ……無粋ね!

 

 レミリアの全身から紅い魔力が溢れ出す。

 

 ───足りない分は魔力で補うのみ!

 

 正面から迎え撃たんとするレミリアの姿を見て萃香がニヤリと笑う。

 

 二人の巨大な妖力と魔力のぶつかり合いに大地が鳴動する。

 紫の結界があっても尚、その揺れは幻想郷各地で確認できたかもしれない。

 

 

「四天王奥義───!」

 

 萃香が渾身の力を込めて拳を構える。

 それは一踏みで山を、二踏みで海を、三踏みで天をも砕くと謳われる鬼の四天王必殺の拳。

 

「轟然たる我が魔力の胎動───!」

 

 レミリアは溢れる魔力を腕に集中させる。

 それは神々の王すら恐れたという不死者王の最終奥義。

 

 

「───三・歩・壊・廃!!!」

「───ブラッディーーーカリイイイイイィィィスッッッ!!!」

 

 

 鬼の四天王の拳と吸血鬼の女王の爪が真っ向からぶつかり合った。

 

 

 

 

 遠くで涙目の紫が何か叫んでいるのが見えた。




涙目のゆか「やめてー! 幻想郷がー! 幻想郷そのものが……おぶっ!?」

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