レミリア・スカーレットの挑戦   作:Amur

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第十三話 『永夜異変(上編)』

 ギャアアアァァァ───

 

 ミスティア・ローレライが焼き鳥になりながら落下していく。

 

「あいにくだが、今は焼き鳥ではなくフライドチキンの気分でな。これ以上お前の相手を

していられない」

 

「容赦ないですね。レミリアお嬢様」

 

「咲夜が夜を止めているとはいえ、この異変は早く解決する必要がある。そんなときにちょっかいをかけてきた夜雀が悪いのよ」

 

「それもそうですね」

 

「今の鳥もその前の虫も圧倒的な格上に挑んでくるなんて、長生きできないわね」

 

「お嬢様の言う偽物の月の影響でしょうか?」

 

「さあねえ。元から鈍いやつらだったのかもしれないわ」

 

 

ーーーー

 

 

 夜雀を焼き鳥にする数時間前───

 

「……なるほど。今宵の月───確かにあれは紛い物だわ」

 

 レミリアが夜空を───満月を見上げながら呟いた。

 

「咲夜」

 

 レミリアが腹心たるメイド長を呼ぶと、時間差なく返答があった。

 

「お呼びですか、お嬢様」

 

「異変よ。出発の準備をしなさい。私も出るわ」

 

「え? 異変ですか? いったいどのような……」

 

「月よ。咲夜にはどう見える?」

 

「綺麗な満月───どこもおかしくないように見えますが……」

 

「いいえ。あれは何者かによってすり替えられた偽物の月。人間には知覚しにくいと思うけど、夜の女王たる私にはすぐに分かるわ」

 

「あの月が偽物……では本物を隠した犯人を懲らしめるわけですか?」

 

「そういうことよ」

 

「それでしたら春雪異変のように私に命じてくだされば、解決してまいりますが」

 

「無理よ」

 

「え?」

 

「無理と言ったのよ、咲夜。今回の相手は強敵よ。それこそ私でも一人では勝てるか分からないほどに」

 

「そ、それほどなのですか? 元から西洋では無敵だったお嬢様ですが、この地に来て以降、更に強くなっています。そんなお嬢様が苦戦するなど……」

 

 ───そう、確かに私は強くなったわ。幻想郷に来る前からずっと自らを鍛えてきた。そして強敵との戦いを経るたびに自分が成長していく実感もあった。それでもどうなるか分からないのが月人という存在よ。

 

「それほどの相手よ。だから私とあなたで行くというわけ、いいかしら?」

 

「───かしこまりました。準備には文字通り、時間はかかりません。すぐに出発は可能です」

 

「グッドよ、咲夜。さあ、こんな異変は夜を止めてでも今夜中に解決するわよ」

 

 

ーーーー

 

 

 夜の幻想郷を二人が飛行していると咲夜がぽつりと呟いた。

 

「おかしいですね」

 

「なにがおかしいの? 咲夜」

 

「ここには人間の里があったはず。私は買い物でよく来るので覚えています」

 

「ふむ……」

 

 レミリアが探るように周囲を見回していると、声をかけてくるものがあった。

 

「ここには何も無かった。お前たちの見ている通りだ」

 

 その女性は一見、人間のようだった。だが、空を飛んでいる時点で一般人ではない。

 

「! あなたは確か寺子屋の───」

 

「教師をしている上白沢慧音だ」

 

 慧音と名乗った女性は長い銀髪、スカートと一体になった青い服と幻想郷の住人にしては普通の格好をしている。だが、帽子だけは特徴的でドーム、あるいは一軒家のようなそれを一度見れば忘れることはないだろう。

 

「その寺子屋の先生が何か用かしら?」

 

「用があるのはお前たちの方だろう。だが、ここには何も無い。そう見えるだろう? 不埒なことを企んでいたのだろうが、それも出来ない」

 

「……いや、見えるよ。たしかにそこに人間たちがいるね」

 

 ───私の地力が上がった影響かしら? その気になれば解除もできるわね、これ。やるつもりはないけどさ。

 

「!? バカな、お前ただの妖怪じゃないな!」

 

「当たり前だ。私は吸血鬼の女王にして永遠に紅い幼き月、レミリア・スカーレットだからな」

 

「あの紅魔館の吸血鬼だと!」

 

「ご安心ください。我らは人里に害をなしに来たわけではありません」

 

「こんな不穏な満月の夜に、吸血鬼を伴ってきてよく言えるな! まったく信用できんぞ!」

 

「それはまあ……否定できませんが」

 

「否定してよ、咲夜」

 

「くっ、里には指一本触れさせん! 返り討ちにしてやる!」

 

「お嬢様、ここは私が」

 

「ええ。任せたわよ、咲夜」

 

 

 十六夜咲夜は戦い、そして勝った。

 

「そして時は動き出す」

 

「ぐああああああああっ!」

 

 ───キング・クリムゾン並にすっ飛ばして終わったわね。

 

「ぐ……こんな不完全な満月でなければ、こうも容易くは……」

 

「満月だと何かあるのですか?」

 

「こいつはワーハクタク。月が真円を描く時に本領を発揮すると聞くわ。その強さは通常時の10倍だとか」

 

「10倍! それは凄いですね」

 

「いや、流石にそこまでは変わらんぞ! 別の種族の話が混じってないか!?」

 

「私たちは満月の異変を解決するために動いているのよ」

 

「なに? そうなのか……それならそうと言えばいいじゃないか」

 

「一回、撃墜してから話し合うのが幻想郷流でしょ」

 

「それはごく一部の紅白巫女とか白黒魔法使いだけだが……。まあいい、満月の異変は迷いの竹林のあいつらが原因だろう」

 

「ほう?」

 

「それ以外にここまでのことが出来て、実行に移すやつなんて私は知らない」

 

「迷いの竹林とは厄介な場所ですね」

 

「竹林の中に古いが大きな屋敷が建っている。連中はそこにいる」

 

「情報感謝する。お礼として寺子屋を廃業したら紅魔館で雇ってやってもいいぞ」

 

「不吉なことを言わないでくれ……」

 

 

 

ーーーー

 

 

「そこまでよ! 時間の流れがおかしいと思ったら、やっぱりあんたらか!」

 

 竹林を目指して飛んでいると、紅白巫女とスキマ妖怪が飛来してきた。特に驚きもせず、レミリアも返事をする。

 

「霊夢とゆかりん。奇遇だな」

 

「誰がゆかりんですか、誰が」

 

「ゆかりん……ぶふっ」

 

 思わずふき出した霊夢を紫がじろりと睨む。

 

「ごほん! とにかく、夜を止めている犯人はあんたらね!」

 

「Exactly(そのとおりでございます)」

 

「いぐ……? おかしな言葉を使っても誤魔化されないわよ! まるで紅い霧のあの時みたいに大きなことをしてるわね! 退治よ、退治!」

 

「まあ待て、霊夢。別に私たちは───」

 

「問答無用! 館まで行く手間が省けたわ。この場で時刻の進みを正常に戻させる!」

 

 ───仕方ないか。傍から見たら夜を止めている吸血鬼一派って、完全に異変の元凶だからね。けど当然、紫は月の異変に気が付いてるはずだけど。

 

 霊夢を止めるよう紫をチラリと見るが、本人は口出しする気がなさそうだった。

 

 ───とりあえず霊夢には好きに一戦させるつもりか。まあ、止まりそうにないものね。

 

 レミリアが思案していると、咲夜も応戦の構えをとった。

 

「いいでしょう。いつぞやの借りをここで返すとしましょう」

 

「さあ! 覚悟なさい!」

 

 うおらああああああ!!!

 

 とても少女とは思えない雄叫びを上げながら霊夢が咲夜に襲い掛かった。レミリアは紫と並んでそれを見物していた。

 

「行くべきところは分かっているのか?」

 

「ええ、もちろんです。あなたこそ分かっているのですか?」

 

「竹林にある屋敷だろう」

 

「へえ。それもあなたの運命を操るという能力の一環ですか?」

 

「それもあるが、人里の方でワーハクタクが教えてくれたぞ」

 

「なるほど。上白沢慧音ですか」

 

「今回の元凶はずいぶんと手強いらしいな。お前が霊夢と手を組んでまで解決に動くほどに」

 

「満月に干渉するほどの術者です。ただ者ではないでしょう」

 

「うむ……そういえばお前と共同戦線を張るのは初めてだな」

 

「そうですね……。基本的にあなたが騒ぎを起こして私がその後始末、というのが多かったですからね」

 

「んん……ごほんごほ───!」

 

 レミリアが誤魔化そうと咳ばらいをしていると、彼方から目も眩むほどの派手なレーザーが発射され、竹林を薙ぎ払っていった。

 

「魔理沙のマスタースパーク? あいつも来ているのか」

 

「ではその相手は……なるほど、わざわざ冥界から出てきたのですね」

 

 魔理沙がマスタースパークを放った相手は魂魄妖夢。

 その近くには妖夢の主である西行寺幽々子が、反対に魔理沙の側にはアリス・マーガトロイドがいた。

 

「ちょうどいい。そろそろ咲夜と霊夢も止めて、皆に倒すべき相手は別にいると教えてやるとしよう」

 

「ええ、それがよいでしょう」

 

 その後、紫が異変の元凶は別にいると伝えることで、何とか霊夢や魔理沙たちを落ち着かせることが出来た。

 

 

ーーーー

 

 

 竹林の奥を目指して飛びながら、レミリアがアリスに話しかけていた。

 

「お前がアリスか。たまに宴会で見かけていたが、話すのは初めてだな」

 

「まあ、あなたと私では接点がないからね」

 

「そうだ。お前の主だという女に魔界であったぞ」

 

「魔界で……? でも主?」

 

「なんでもメイドとして使ってやったとか言ってたな」

 

「ぶっ!? まさかそいつって……いや、確かに無理矢理メイドをさせられたことはあるけど、もう昔の話よ!」

 

「そのうち紅魔館に遊びに来るだろうから、そのときはお前も招待しよう」

 

「行かないわよ!」

 

 その話を聞いていた魔理沙がレミリアに問いかける。

 

「なあレミリア。その女ってもしかして……」

 

「おしゃべりはそこまでにしましょう。着きましたよ」

 

 紫が注意を促すが、それがなくとも各々、空気が変わったことを肌で感じていた。

 目の前には竹取物語にでも出てきそうな古風な屋敷。

 まるでそこだけ時間の流れから取り残されたかのようだった。

 

 そこには紅霧異変、春雪異変の元凶と解決者が手を組んで挑むほどの相手───月の民が待っている。

 

 

 




各ステージのボスは原作通りに出てきているので、リグルもちょっかいをかけて冷凍蛍にされています。


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