レミリア・スカーレットの挑戦   作:Amur

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第十四話 『永夜異変(中編)』

「では行くぞ、諸君。異変の首謀者を懲らしめにな」

 

「はい、お嬢様」

 

「あんたが仕切ってんじゃないわよ」

 

 文句を言う霊夢だが、首謀者を懲らしめるという点には同意なようで竹林に立つ屋敷を睨みつけていた。

 

「マスタースパークで入口を吹き飛ばして宣戦布告の代わりにするか?」

 

「やめなさい……まずは私の人形たちを偵察に行かせてはどうかしら?」

 

 物騒な発言をする魔理沙に対してアリスは慎重策を提案する。

 

「どちらも不要ですわ。この屋敷の住人なら私たちが来たことに気が付いています。普通に入口を開けて入りましょう」

 

「さてさて、ここの住人は龍料理を出してくれるかしらね~」

 

「そんな高いの出してくれるわけないじゃないですか、幽々子様」

 

 紫が冷静に告げて、屋敷の中に入っていく。

 おかしなことを言いながら幽々子と妖夢もそれに続いていく。

 

「しまった、一番乗りを取られたわ」

 

「本当だ! ずるいぜ、紫!」

 

「それはいけません。お嬢様こそが何でも一番であるべきなのです」

 

「魔理沙だけでもアレなのにレミリアもいると二乗で疲れるわね……」

 

「あんたら遊びに来たの……?」

 

 のんきな三人が紫たちを急いで追いかけ、呆れるアリスと霊夢が最後に屋敷に突入する。

 

 

ーーーー

 

 

 屋敷の内装は外観と同じく古い時代の日本を感じさせるものだった。

 外観と異なるのはその広大さ。

 入口から真っすぐ進むと左右に襖が並ぶ廊下に出るが、その幅も高さも巨人が暮らせるほどに大きい。

 更に廊下はどこまでも続いており、奥まで見通しても果ては見えない。

 

「内部の空間を操作して、外から見るよりも広くする……紅魔館のパクリがきたわね。このネタはすでに使ったのよ」

 

「なにを言ってんのよ、あんた」

 

「おい、二人とも。悠長にしゃべってる間にお出迎えが来たぜ」

 

 魔理沙の言う通り、廊下の奥から妖怪ウサギの群れが迎撃にやって来た。

 

「まずは私の魔法で蹴散らして───」

「斬!」

 

 ギャアアア!

 

「行く手を邪魔するなら斬ります! 邪魔をしないなら斬ってから先に進みます!」

 

 斬! 斬! 斬! 斬!

 

 魔理沙が魔法を放つ前に、妖夢が容赦なく妖怪ウサギたちを切り刻んでいく。

 

「ちょっ、おま……どんだけ斬りたいんだよ!?」

 

「安心してください。峰打ちです」

 

「とてもそうは見えないぜ」

 

 妖怪ウサギたちも弾幕で反撃をしてくるのだが、その程度は躱すまでもなく斬撃でかき消され、出てくる端から刀の錆にされていった。

 

「冥界の殺し屋のおかげで楽ができるわね、咲夜」

 

「はい、お嬢様」

 

「妖夢はいつの間に殺し屋に転職したの? 幽々子」

 

「おかしいわね。庭師をクビにしたわけではないのだけれど」

 

「ふははは! 斬───むっ!?」

 

 ゴウッ!

 

 斬りながら先頭を進む妖夢だが、一際大きな妖力弾が襲ってきたために、急制動をかけて横に避けてやり過ごした。

 

「ほほう……ウサギの親玉が来ましたか」

 

 その少女は先程のウサギたちとさほど変わらない見た目をしていたが、身体から感じる妖気は長い年月を生きた妖怪のものだった。

 

「ひどいやつらだねえ。いたいけなウサギを容赦なく斬りまくるなんて」

 

「勘違いしないでよね。斬っていたのはその刀を持ってるやつだけよ」

 

 妖怪ウサギの長の言葉に、一緒にされてはたまらないと霊夢が反論する。

 

「さぁ、ウサギの親玉よ! 斬られる前にここの主のところに案内しなさい!」

 

「私たちも鬼じゃない。素直にしゃべるならこれ以上の惨劇は起こらないだろうぜ。さあ、どうする?」

 

「怖い怖い。けれどお師匠様から言われてるんでね。そう簡単には進ませられない───」

「ならば斬るのみ!」

「ちょ、お前、もう少し駆け引きとか」

 

 魔理沙の制止も無視した妖夢が、親玉ウサギに突撃を仕掛けた。

 

「もうー! まだしゃべってる途中でしょうがー!」

 

 親玉ウサギは迎撃のスペルカードを発動する。

 

 ――脱兎「フラスターエスケープ」

 

「さっそくスペルカードを切ってきましたか! 望むところです!」

 

「お前が突っ込みに回るのは珍しいな、魔理沙」

 

「あいつは脳筋すぎるぜ、レミリア」

 

「遅い! その程度では私を捕らえられません!」

 

 親玉ウサギのスペルカードは逃げ回るウサギを模した曲線を描く弾幕だったが、スピードは大したことがなく、妖夢は簡単に躱し切った。

 

「さあ反撃です!」

 

 ――剣伎「桜花閃々」

 

 妖夢が高速で移動し、親玉ウサギをすり抜けた。

 

「え? 外した……のか?」

 

「貴方はすでに斬られています」

 

「なにを――ぐああああああっ!」

 

 妖夢が通過した跡を無数の桜の花びらが舞い踊り、それが親玉ウサギを切り刻む。

 

「うむ……美しい」

 

「妖夢のスペルカードの半分くらいがただ斬ってるだけなんだが、あれは確かに良いよな」

 

 感心して見物するレミリアと魔理沙。

 

「やられた~」

 

 親玉ウサギは倒れて起き上がってこない。

 

「おや? もう降参ですか」

 

「ああ、降参だよ。これだけ働けば、もう十分に義理は果たしたさね」

 

「そうですか……」

 

 妖夢は斬り足りないのか微妙に残念そうだ。

 

「私は因幡てゐ。迷いの竹林は私の縄張りでね。竹林に建つこの永遠亭の住人とは協力関係にあるのさ」

 

「協力関係ということは、別にこの永遠亭とやらの主に忠誠を誓ってるわけではないのね?」

 

 決着がついたとみて、レミリアたちも近寄ってきた。

 

「そういうことさね。まあお師匠様と呼んでいる方はいるけど、一応は対等な契約相手ってところさ」

 

「そのへんの話はどうでもいいわ。負けを認めたなら黒幕のところに案内しなさい」

 

「それは無理だよ。私はこの回廊の前半で時間稼ぎを依頼されてるだけで、これより奥は担当外だから。どうなってるかも分からない」

 

「それは本当でしょうね? ウソをついていたことがわかったら、幽々子様の夕食の食卓に加えますよ」

 

「じゅる」

 

「ひいぃっ! 本当だって! 連中への義理は果たしたって言ってるでしょ!」

 

 刀で脅す妖夢と、どこまで本気かわからないが、ウサギ料理に期待する幽々子にてゐが慌てて言う。

 

「時間稼ぎということは敵はこの先に踏み込まれたくないと考えているわけね、紫?」

 

「そういうことですね。急いだほうが良さそうです、レミリア」

 

 

ーーーー

 

 

「うわ、もう侵入者が! 扉の封印はまだ完了してないのに! てゐのやつ、ちゃんと仕事したの!?」

 

 永遠亭の回廊をひたすら進んでいくと、今までの妖怪ウサギとは違うタイプの少女が待っていた。瞳こそ紅いものの、頭のうさ耳以外はほぼ人間に見える。

 

「あいつなら十分に頑張ったぜ。ただ、私たちが強すぎるだけだ。なあ、レミリア?」

 

「そういうことね。お前も同じ目にあいたくなかったら素直になることだ」

 

「あ、あんたたち、まさかてゐを……」

 

「あいつがどうなったかは自分の目で確かめるといいぜ」

 

「ふふふ……悪趣味ね、魔理沙」

 

 特に戦っていない二人が大きな態度でうさ耳少女に降伏勧告をするが、彼女はそれに震えて答えた。

 

「てゐ……悪戯ばかりでどうしようもないやつだったけど、あんたの仇はこの鈴仙・優曇華院・イナバがとるわ!」

 

 

「あの馬鹿二人を先に退治した方がいいんじゃないの?」

 

「あれも相手を怒らせて平常心を奪うというお嬢様たちの策……」

 

「そんなわけあるか」

 

 悪ノリが過ぎるレミ魔理のフォローを咲夜がするが、霊夢にバッサリと切られた。

 

「私は斬りに行かなくてよいのでしょうか? 幽々子様」

 

「あんまり大人数で囲んでも同士討ちになるからね~。あの二人に任せておいていいんじゃないかしら。ねえ、紫?」

 

「そうですね。実力は申し分ないですからね。実力だけは……」

 

 ――生薬「国士無双の薬」

 

「師匠特製のこの薬を飲めば、地上の妖怪になど負けるはずがない!」

 

 鈴仙が怪しげな液体をぐびりと飲むと、全身が緑色に発光し始めた。

 

「はああああああ――85、86、87、88%……!」

 

「ほう! これは!?」

「おおおおおお!?」

 

「レミリアに魔理沙! 何故あからさまなパワーアップを放置するのです!」

 

 鈴仙が妖気を高めていくが、目を輝かせて見てるだけのレミ魔理に紫が怒りの声を上げる。

 

「様式美というものよ。ここで手を出すのは三流だ」

 

「そういうことだぜ。さすがレミリアはわかっているな」

 

「こ、こいつら……時間がないというのに」

 

 

「――はああああああ!!!」

 

 そうこうしている間に鈴仙のパワーアップは完了した。

 

「……わざわざ待ってくれるなんて、余裕のつもり?」

 

「無論そうだ。私のような絶対強者は常に余裕と美学を心に行動するのさ」

 

「うひょー、シビれる! シビれるねー、レミリア!」

 

「その余裕が崩れる時が楽しみだ……わ!」

 

 鈴仙がその瞳をカッと見開くと、レミリアたちに紅い衝撃波が飛来する。

 

「うおっと! 眼から弾幕!?」

 

「そのようだな」

 

「目力だけで衝撃波を出すとか、凄いもんだ」

 

 鈴仙が次々と紅い衝撃波を放ってくるが、二人は軽やかに避けて会話する余裕すらあった。

 

「っとお! なかなかの威力の弾幕だな! ちょっとウサギの妖怪ってのを見くびっていたぜ」

 

「ウサギはウサギでも、こいつは先程の因幡てゐとは異なる種族のようだがな」

 

「ん……どういうことだ?」

 

「おそらくこいつは地上の妖怪ではなく――」

 

「そう、私は玉兎――月のウサギよ」

 

「へえ、月のウサギね。なるほど、満月の異変の元凶としちゃあ納得だな」

 

「あいにく満月に干渉しているのは師匠の八意永琳よ。あの方は月の頭脳と謳われるほどの超越者。地上の妖怪が敵う相手ではないわ」

 

「なんだ。お前もただの下っ端か」

 

「その下っ端にあなたたちは倒されるのよ」

 

 ――幻朧月睨(ルナティックレッドアイズ)

 

 鈴仙を中心に衝撃波の嵐が吹き荒れる。

 

「ちっ!」

「うおおお!」

 

 衝撃波は回廊に逃げ場がないほどの規模だったが、スピード自慢の二人だけあって、咄嗟に距離をとることでやり過ごした。

 

「やってくれるな、今度はこちらの番だ。私の速さについてこれるかな?」

 

 ――彗星「ブレイジングスター」

 

 魔理沙がマスタースパークを後方に放ち、それを推進力にして超高速で鈴仙に体当たりを仕掛ける。

 

「これが避けられるか!?」

 

 まさしく彗星のごとき突進に鈴仙も微動だに出来ず直撃――かに見えたが、魔理沙はそのまますり抜けていってしまった。

 

「なにっ!?」

 

 あまりの速度で飛行していた魔理沙は急には止まれずに、かなり遠くまで飛んで行ってしまった。

 

「……」

 

「ふふふふ。相方は勝手にどこかに行っちゃったわよ?」

 

 

「誰が相方ですか! お嬢様の相方はこの十六夜咲夜です!」

「あんたややこしくなるから黙ってなさい!」

 

 

 レミリアは無言で鈴仙に向かって、弾幕を放った。

 しかし、それも先程のブレイジングスターと同じようにすり抜けてしまった。

 

「ふふふ、どこを狙っているのかしら?」

 

「……なるほど、先程の一撃はただの攻撃ではなかったわけか。衝撃波を躱したにも関わらず、感覚が狂わされている」

 

「へえ? よく気が付いたわね。けどそれだけじゃないわ。ここに来るまでの長い廊下が感覚を狂わせる下地になっていたのよ。あなたたちはもう私の術中よ」

 

「薬のチカラも借りているとはいえ、このレミリアに術をかけるとは大したものだ」

 

「あら、ずいぶん素直ね」

 

「ふふふふ、だがお前に対して狙いが定まらないなら、狙いをつけなければいいだけだ」

 

「え? それはどういう――」

 

 

 ――核爆「ティルトウェイト」

 

 ズガアアアアアアアアアアアンッッッ!!!

 

「きゃああああああーーー!」

 

 レミリアを中心に核融合爆発魔法が炸裂した。

 鈴仙の衝撃波もかなりの広範囲に渡ったが、この魔法はその比ではなく、あまりに巨大なエネルギーが回廊全体を揺るがすほどだった。

 

 

「あ、あ、あんた殺す気!?」

 

「いまのは核融合の爆発……無茶苦茶しますね。放射線は大丈夫なのですか?」

 

 離れていてもかなりの余波を受けた霊夢が怒り心頭でレミリアに詰め寄る。

 紫は使用された魔法の方が気がかりのようだった。

 

「安心しろ。スペルカード仕様だから殺傷力は抑えてある。魔法自体は異界で発動させているからこの世界に放射線の影響もない」

 

「スペルカードってつければいいわけでも――」

 

「それならいいのですが」

 

「――って、いいの!?」

 

 箒に乗った魔理沙が戻ってきて、爆発に巻き込まれ倒れている鈴仙を見つけていた。

 

「すごい爆発だったな。レミリアの魔法か? おいしいところを取られちゃったか」

 

「ふふふ、早い者勝ちさ」

 

「では進みましょう。あなたたちが遊んでいたのもあって余計な時間を食いました」

 

「そう言うなよ、紫。あの鈴仙という玉兎はなかなかの実力だったぞ」

 

「私もそう思うぜ。幻想郷内でも結構いい線いくんじゃないか?」

 

「この先に待っている術者は()()()()()()()などではありません。それこそ玉兎がただのウサギに見えるレベルでしょう」

 

「マジかよ」

 

「ふふふ……楽しみだな」

 

 

 

ーーーー

 

 

 

 その術者を見たとき、皆が先程の紫の言葉が決して大げさなものではないと感じた。

 

 回廊の最奥に佇む一人の女性。

 上の服は右が赤で左が青、スカートは逆に右が青で左が赤という配色をしている。

 

 特に妖気を放っているわけではない。

 だが、その姿を見ただけで全員が理解した。

 彼女こそ鈴仙の言う師匠――八意永琳であり、満月を奪うという途方もない術を行使した存在。

 

「……」

 

 屋敷内にも関わらず、上を見上げれば妖しく輝く巨大な満月。

 一行が前まで来ると、満月を眺めていた永琳はゆっくりと振り向いた。

 

「遅かったわね。すでに全ての扉は封印した。何人たりとも姫を連れ出すことはできないわ」

 

 紫と霊夢が前に出て永琳と対峙する。

 

「姫? 姫なんて興味は無いわ」

 

「月よ、月。元に戻しなさい。すぐに返せば、ほどほどの退治で勘弁してあげる」

 

「朝まで待ちなさい。そうすれば元通りにするわ」

 

「待てないわね。私の勘が言ってるわ。あんたの言う通りにしたら碌なことがないってね」

 

「せっかちな娘ね」

 

 

「どうしたレミリア? 黙ったままなんてらしくないぜ」

 

 永琳との会話に参加せず周囲を眺めていたレミリアだが、ある一点を指差して口を開いた。

 

「そこだな。その扉から真なる月を感じるわ」

 

「え?」

 

「!?」

 

 レミリアの言葉に霊夢は怪訝そうに、永琳は驚愕を浮かべた。

 

「その永琳とかいうのが呑気にしゃべっているのは時間稼ぎ。つまり、封印とやらは()()()()()()()()()

 

 その言葉を即座に理解した紫は、すぐさまレミリアの示した扉に向かう。

 

「行かせません!」

 

 扉をくぐろうとする紫たちに、輝く弓矢を構える永琳。

 

「行かせるさ」

 

 ゴウッ!

 

 レミリアが腕から紅い巨爪を繰り出して、永琳を切り裂く。

 

「くっ!」

 

 弓で紅い爪を防ぐ永琳。

 扉をくぐる紫と一瞬、視線が交差したレミリアはニヤリと笑いそれを見送った。

 

「吸血鬼ごときが――!」

 

 怒りを露わにする永琳だが扉の方を注視しているため、レミリアには攻撃をしない。

 

「私もいるぜ!」

 

 ――星符「ドラゴンメテオ」

 

「ぐあああっ!」

 

 魔理沙の空対地マスタースパークが炸裂する。

 まともに食らった永琳は紫たちへ追撃が出来ない。

 その間に紫、霊夢、幽々子、妖夢の四人は扉の奥に進んでいった。

 

 

「む……扉が閉まるか。ギリギリだったようだな」

 

「そうですね、お嬢様」

 

「扉の方に行かなくてよかったの? 魔理沙」

 

「ここは任せて先に行けってのも悪くないポジションだ。あっちは霊夢たちに任せるさ」

 

 この場に残ったレミリア、咲夜、アリス、魔理沙が永琳と向かい合う。

 彼女は誰が見ても明らかなほど憤怒していた。

 

「地上の妖怪や魔法使い風情がやってくれたわね。姫を危険にさらす大罪……生きて帰れるとは思わぬことです!」

 

「おいおい、私のドラゴンメテオが効いてないのかよ。どうなってるんだ」

 

「ふふふふ、そうこなくてはな」

 

 激怒する月の頭脳がいよいよレミリアたちにその矛先を向ける。

 

 

 

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