レミリア・スカーレットの挑戦   作:Amur

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第十六話 『永夜異変(エピローグ)』

 『神をも恐れぬ永夜異変! 犯人はまたあの吸血鬼一派!』

 

 この幻想郷の妖怪で知らぬ者なき大異変――永夜異変。

 その名の通り、夜が明けず、月の進行が止まるという異常事態だった。

 それもただの月夜ではなく、満月の夜のことだった。

 

 月の影響が大きい妖怪たちはこの異常事態に震撼した。

 いったい誰が、何の目的で起こした異変なのか。

 

 この私、射命丸文は地道な聞き込みと推理によって、ついに異変の主を突き止めた。なぜ誰も気が付かなかったのか? 満月の夜が続くことは、かの種族の天下を意味するというのに。

 そう、吸血鬼。

 元凶はまたしてもあのお騒がせ幼女、レミリア・スカーレットである。

 

 私は果敢にも悪の巣窟、紅魔館に乗り込んだ。

 立ちふさがる門番や配下の妖精メイドを蹴散らし、逃亡を図るメイド長――十六夜咲夜を追い詰めることに成功!

 彼女に夜を止めたのか問いただしたところ、「そうだけど」と自供した。

 私の圧倒的な推理を前に観念するしかなかったようだ。

 

 過去にもレミリアは自分に有利な記事を捏造しろ、さもなくば焼き鳥にすると脅してきたことがある。

 もちろん、清く正しい新聞記者たる私はそんな脅迫に屈しなかった。

 あのどうしようもないお子様吸血鬼は――――――――――――――――

  ※ ここで記事が終わっている。なにかの血が飛び散っているようだ。

 

 

ーーーー

 

 

「ふむ、なかなか美味いわね。これが八目鰻か」

 

「そうでしょう、吸血鬼のお姉さん。屋台で焼き鳥なんてもう古いですよ」

 

 レミリアはミスティア・ローレライ(夜雀)の屋台で酒を飲んでいた。異変の時は一悶着あった二人だが、解決した後は普通の客と店主である。

 

「ところでその手に持ってる紙はなんなの?」

 

「書きかけの新聞よ。いるかしら? ちょっと、烏の血が付いちゃってるけど」

 

「新聞紙はよく油を吸うから重宝してるけど、血がついてるのはちょっとねー」

 

「なら捨てとくわ。……そういえば、店主は今日の宴会に来るのかしら?」

 

「ああ、迷いの竹林でやるやつ? 行くつもりだよ。こんな機会でもないと竹林にある屋敷なんて行けないからね」

 

「そう。もちろん私も行くわ。鳥料理が出ないといいわね」

 

「竹林だと何が名物なんだろ。ウサギ料理とか?」

 

「それが一番出ないと思うぞ」

 

 

ーーーー

 

 

 夜が明けない大異変が解決してから一か月後。

 

 本物の満月の光が照らす中、迷いの竹林にある永遠亭では宴会が開かれていた。

 月の民――永琳が満月を偽物の月とすり替えたとき、夜の間に異変を解決すべく、夜を長引かせていたのだが、大多数のものはその事実を知らない。

 その為、世間では夜の明けなかった点だけに注目して、永夜異変の名で記憶に残っていた。

 永遠亭が宴会を開いた名目も異変を起こしたお詫びではなく、幻想郷の仲間入りをお祝いしてというものだった。

 

 紅魔主従は永遠亭の入り口で八雲紫とばったりと会っていた。

 

「あら、紫」

 

「奇遇ですね、二人とも」

 

「霊夢は一緒ではないのですか?」

 

「誘ったのですけどね。異変も終わったし、妖怪と一緒に行くなんてダメと断られました」

 

「妙に固いですね、霊夢」

 

「普段の妖怪神社を見てると忘れるけど、巫女としてはそれが普通なんじゃないの?」

 

 

 

「あの異変の最後にレミリアたちが合流してきたときは、本当に驚きました」

 

「あら、私が勝つとは思ってなかったの? 紫」

 

「あなたの実力は認めていますが、それ以上に月の民の強大さも知っています。正直、足止めが精一杯と考えていました。まさか倒して連れてくるなんて」

 

「ふふふふ、もっと褒めていいのよ」

 

「お嬢様が月人にとどめの一撃を与えたあの雄姿。この咲夜のお嬢様メモリー398章にしっかりと残してあります」

 

「ねえそれって例えよね? 本当に映像か何かが398章分もあるわけじゃないわよね?」

 

「……」

 

「ちょっと、なんで無言なの!?」

 

 ――相変わらず、このお嬢様の平常時はカリスマがオフ……。従者に揶揄われる姿だけ見れば、とてもそれほどの妖だと思えませんね。

 

 

 

「永遠亭へようこそ」

 

 レミリアたちを出迎えたのは長い黒髪の少女。

 手が見えないほど長い袖、スカートも地面に広がり、足も隠れていた。

 腋も足も丸出しの某巫女も見習ってほしい慎み深さである。

 

「よく来てくれたわね、歓迎するわ」

 

「姫自ら出迎えとは光栄だな」

 

 彼女こそ永琳の主にして月の姫――蓬莱山輝夜。

 

 月の使者は月の都から幻想郷への移動に満月を利用する。

 八意永琳は月に帰りたくない輝夜を使者から守るため、偽の月と本物の月をすり替える異変を起こしたのだ。

 

「さあ、こっちよ。会場までの案内は鈴仙がやってくれるわ」

 

 

「ようこそ、お客様! 会場はこちら――げっ!?」

 

 鈴仙が案内にやってくるが、それがレミリアたちと気が付いて顔を引きつらせる。

 

「おやおや、永遠亭では客にこんな態度で対応するよう教えているのか?」

 

「鈴仙、永琳に報告しておくから」

 

「師匠に!? 待って、待ってください、姫様! 謝りますから!」

 

「謝るのは失礼な態度をとったお客様に対してでしょう。私に謝ってどうするの」

 

「う……も、申し訳ありません。お客様」

 

「私は寛大だから許すさ。ゆかりんは激怒しているがな」

 

「してませんよ。私を何だと思っているのですか。あと、呼び方」

 

「私は別のお客様の出迎えをするから、きちんと案内しなさい」

 

「わ、わかりました」

 

 まだぎこちない鈴仙に案内されて会場に着いた一行に、因幡てゐが飲み物を渡してくれた。彼女は配下の妖怪ウサギと一緒に配膳を行っているようだ。

 

「どうぞ、永遠亭特製のお酒だよ」

 

「ありがと」

 

「……」

 

「おや、鈴仙。まだ、ギクシャクしてるのかい?」

 

「別に……そんなことないわよ」

 

「ちょっと手ひどくやられてからって、あまり根に持つのはよくないよ」

 

「ふん……!」

 

「まあそう言うな。こいつはお前が私たちにやられたと思って、友のために本気で怒ってくれたぞ」

 

「なっ!?」

 

「へえ~? なになに、鈴仙。心配してくれてたの?」

 

「う、うるさい!」

 

 赤くなる鈴仙をニヤニヤと揶揄いながらも、どこか嬉しそうなウサギの親玉。

 

 

「う~い、少し酔っちゃったぜ……おや、お前たちか」

 

「あら、先日振りね」

 

「魔理沙とアリスか。二人とも早いわね」

 

「ちょうどあの異変のときの五人が揃いましたね」

 

「あとの三人だと霊夢も先に始めてるよ。冥界の主従は知らんがな」

 

「幽々子と妖夢はゆっくり来るでしょうね」

 

「しかし、宴会が始まる前に飲み過ぎじゃない? 特に魔理沙」

 

「私たちは予定が詰まっていてな……お宝さがしとか

 

「ちょっと、あんたまさか永遠亭の……」

 

「いやいや、なんでもないぜ」

 

 ――完全に狙ってるでしょ。この屋敷のお宝とか古い魔道具とかを。

 

「じゃあもう行くぜ。輝夜に秘宝をどこにしまっているか聞かないといけないからな」

 

 魔理沙とアリスは泥棒をしに輝夜を探しにふらふらと行ってしまった。

 

「紅魔館の物は盗られてないかしら? 咲夜」

 

「パチュリー様の本以外は大丈夫です」

 

「なら問題ないわね」

 

「いやいや、あなたの親友のものでしょう。それも守ってあげなさいよ」

 

「あれは魔理沙とパチェの勝負だから手を出すのは無粋よ」

 

「そういうものですか……」

 

 

 

「ようこそ、永遠亭へ」

 

 レミリアたちを出迎えに永琳もやって来た。

 あの夜、永琳は月から幻想郷への移動を妨害する為、異変を起こした。

 だが元々、幻想郷は博麗大結界に守られていて、月からの追手が入ってこられない。

 自分の起こした異変が意味のないものだったと理解した永琳は月を還し、幻想郷側と和解したのである。

 

「案内に不手際はなかったかしら?」

 

「ん?……ふっふっふ」

 

 レミリアは会場の入口付近で来客の相手をしている鈴仙をチラリと見て言った。

 

「ああ。特に問題はなかったな」

 

「ふふ……それなら良かったわ。私も弟子をお仕置きしなくて済みそうね」

 

「今日はずいぶんと穏やかですね。そちらが素なのでしょうか」

 

「どちらも本当の私よ。今は懸念が解消されて気が抜けていることは否定できないけど」

 

「あのときは盛り上がったな。激しく熱い夜だった」

 

「いや、盛り上がったとかいうレベルじゃないんだけど。あなたの感覚はどうなってるの」

 

「幻想郷ではこれが普通さ」

 

「いえ、お嬢様はかなり変わっている方かと」

 

「……まあ、それはともかく。私はあなたたちと(嫌というほど)濃い時間を過ごしたけど、姫様とはあまり話せてないでしょう。彼女、楽しみにしていたわよ」

 

「ああ、私もだ」

 

 

 

「変わった酒だな。美味いが、どこか物足りないというか」

 

「それが月の味よ。雑味が完全にないから、そんな味になるのよ」

 

「月か……。やはりこの酒のようなところなのか?」

 

「ええ、そうよ。穢れなき月の都。だからこそ退屈なところよ」

 

「お前はあまり好きではないようだが、私も一度くらい行ってみようと思っている」

 

「言ったでしょ、月の都は穢れを嫌うのよ。穢れの塊みたいな吸血鬼がそうそう入れる場所じゃないわ」

 

「私を病原菌みたいに言うな」

 

「昔、地上の妖怪軍団が月の都を攻めたけど、完膚なきまでに返り討ちにあったらしいわよ」

 

「ほお、そうなのか」

 

 ――まあ、知ってるんだけどね。ほら、紫がその話には触れるなって嫌そうな顔をしているわ。

 

「だいたい、どうやって月に行くつもり?」

 

「我が紅魔館には頼れる魔女がいてな。そいつに任せれば大丈夫さ」

 

「月に行くですか……また、パチュリー様にお仕置きされますよ、お嬢様」

 

「んん……ごほん。ま、まあパチェを説得する方法はよく考えるわ、うん」

 

「……その魔女さんは苦労してそうね」

 

「とにかく近いうちに乗り込んでやるわよ」

 

「月の都は技術が地上より進んでるだけでなく、怖い番人がいるわよ」

 

「ほほう、それは楽しみだ。余計燃えるじゃないか」

 

「たしかにあなたも強いみたいだけど。まさかあの八意永琳ともあろう者が不覚を取るなんて」

 

「ふっふっふ……まあな」

 

「いったいどうやったの? 永琳はあのときの話になると口数が少なくなるから、詳細を知らないのよね」

 

「一つ言うなら、あいつには道化師の人形でもプレゼントしてやれば喜ぶだろうということだ」

 

「はあ……?」

 

「お前の方はどうだったんだ? 輝夜」

 

「そりゃもう、物の見事にフルボッコにされたわ。いくら私が月人って言ってもあれは過剰戦力じゃない?」

 

「う~む……まあ、そうかもな」

 

 ――霊夢、紫、妖夢(殺し屋)、幽々子の四人か。なるほど、これはダメだな。

 

 

 

 宴もたけなわになっていると、輝夜が唐突に妙なことを言い出した。

 

「余興として肝試しをやってみない?」

 

「やりません……!」

 

 妖夢は考えることもなく却下した。

 

「ちょっと、内容も聞かないでひどいじゃない!」

 

「わざわざ怖いところに行く人の気がしれません」

 

「妖夢は怖い物が苦手なのよね~。私はやってもいいんだけど」

 

「ええ……」

 

 思わぬ妖夢の反応に困った輝夜がレミリアにこそこそと相談する。

 

「ちょっと、ちょっと。あの半人半霊が話に聞いていたよりチキンなんだけど。容赦ない殺し屋じゃなかったの?」

 

「刀を抜くと殺し屋モードになるから、無理やり連れて行けばいいんじゃない?」

 

「二重人格ってやつね。やっぱり幻想郷には面白いやつが多いわね」

 

「まあ二重人格は言い過ぎかもしれないけど」

 

「肝試しねえ。怖れるもの無き、この霧雨魔理沙にはあんまり向かないな」

 

 お宝探しを切り上げたのか、魔理沙とアリスも話を聞きに来た。

 

「安心なさい。そこでは本当の恐怖が味わえるわよ」

 

「へえ……。そう言われると興味が出てくるな。行ってみようぜ、アリス」

 

「まあいいけど」

 

「私は行かな――」

 

「面白そうですね。私と霊夢も参加しますわ」

 

「ちょっと、紫! なに勝手なことを言ってるのよ!」

 

 興味なさげにひたすら酒と食事を流し込んでいた霊夢が文句を言う。

 

「この流れで一人だけ行かないなんてダメですわ。ねえ、レミリア?」

 

「うむ、まったくだな。そんなだから博麗神社には賽銭が入らないんだ」

 

「うるさいわよ。賽銭とこれに何の関係があるのよ」

 

「お嬢様が行かれるのであれば、もちろん私に否はありません」

 

 

 満月の下、草木も眠る丑三つ時。

 物見遊山で出かける8人。

 待ち受けるは蓬莱の人の形。

 肝を試されるのは果たしてどちらか――。

 

 

 




妹紅戦はカット。

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