レミリア・スカーレットの挑戦   作:Amur

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第十八話 『月の異変(上編)』

「パチュリー様。これが香霖堂で購入した月ロケットの資料です」

 

「ありがと、咲夜」

 

 パチュリーは月に行くというレミリアの無茶振りに応えるため、日々、ロケットの開発を進めていた。

 

「ふむふむ……これが外の世界のロケットか」

 

「その資料は役に立ちそうですか?」

 

「ええ。どうやらロケットは3段で構成されているらしいわ。外枠はただの筒状としか認識してなかったから、これは大きな一歩ね」

 

「それは良かったです。お嬢様はお喜びになりますね」

 

「そのレミィの計画が無茶なのよね。いくら紫より先に月に行きたいからって、冬までに完成させろだなんて」

 

「冬ですか。先月、八雲の式に勧誘された例の計画のことですね」

 

「ええ、そうよ」

 

 

 ――――1か月前

 

 その日は珍しく八雲紫の式たる八雲藍が紅魔館を訪れていた。

 応対するのはレミリアで、後ろには咲夜とパチュリーが控えている。

 

「月の都への侵入ねえ」

 

「紫様は過去にもその技術を狙って月に侵攻したが、不慮の事故で撤退した。今回は二度目の挑戦ということになるな」

 

「不慮の事故って普通に負けたんでしょ。その後は月の賢者の策に嵌って撤退もおぼつかなかったらしいじゃない」

 

「んん……。私も当時の詳細は知らないので何とも言えんな」

 

「ま、そういうことにしておくわ」

 

「とにかく紫様はお前のことを買っているのだ。今回の再侵攻ではそのチカラを頼りにしたいと」

 

「ふーん」

 

 ――私の記憶にある会談と微妙に違う……? もっと藍は煽ってくる感じだったと思うけど。まあ、私はゆかりんとも上手くやってるから、そのへんが影響してるのかな。

 

 本人は上手くやってるつもりで、実際に紫との仲は悪くないが、お騒がせ度が尋常じゃないので、八雲一家要注意リストの上位に名前が載せられていることをレミリアは知らない。

 

「紫様にかかれば月に行くだけなら造作もない。湖に映った幻の満月と本物の満月の境界を弄り、湖から月に行けるようにするのだ」

 

「ほーお、さすがに紫の能力は便利ね。その入口から月に軍勢を送り込むってわけ?」

 

「いや、全面戦争はこちらも望んでいない。紫様はその通路を維持するので、お前にはその間に月の都に侵入して指定するお宝を入手してもらいたい」

 

「このレミリアにコソ泥の真似事をしろって?」

 

「そうじゃない。規模は小さいが、これは紛れもなく戦なのだ」

 

「……たしかに私も月には興味があるわ」

 

「では協力してもらえるのかな? 出発は今年の冬を予定している」

 

「生憎だけど断るわ」

 

「ほう……やはりこっそり忍び込むのは性に合わないか?」

 

「それもあるけど、月の地を踏むのなら、それは紅魔館の名で行くと決まっているのよ」

 

「月までの距離は理解しているのか? 独力で行くのは難しいぞ」

 

「問題ないわ。私の親友たる魔女が何とでもしてくれる」

 

 完全に丸投げなその言葉を聞いて、咲夜と並んで後ろに控えているパチュリーが微妙に嫌そうな顔をしていた。

 

「ふう……仕方ないな」

 

「ま、そっちの邪魔もしないから、お互い好きにやりましょう」

 

「やれやれ、紫様に怒られてしまうな」

 

「別にゆかりんは怒ったりしないでしょ。断られるのも想定内でしょうしね」

 

「そんな名前で呼ばれていることを知ったら怒りそうだが」

 

「大丈夫だって。何回か呼んでるけど、むしろ本人は喜んでたわよ」

 

「え……ウソだろう?」

 

「ホント、ホント。一度、呼んでみたら?」

 

「それは……いや、でもなあ……」

 

 

 結局、藍はレミリアの協力が得られずに、紫のもとに帰還することとなった。

 ちなみに後日、試しにゆかりんと呼んでみたところ、にっこり笑った紫に傘で折檻されたとか。

 

 

「あれから一か月……資料不足で煮詰まってたけど、ようやく進みそうね」

 

「そういえばお嬢様はどうしたのでしょう? 最近は毎日、図書館にロケットの開発具合を確認しに来ていたのに」

 

「なんか月に行った後の準備をしてくるから、月に行く準備は任せるとか言って出掛けたわ」

 

「行くための準備ではなく、行った後……ですか」

 

「いつもながらレミィには何かが見えてるんじゃない? あまり気にしても仕方ないわよ。必要なことなら言ってくるでしょ」

 

「それもそうですね」

 

 

ーーーー

 

 

「たのもー」

 

 レミリアが永遠亭の外から声をかけると、鈴仙が出迎えに出てきた。

 

「はーい……って、えええ!?」

 

「いつもながら良いリアクションね」

 

「あ、あんた……何しに来たのよ?」

 

「ここは薬屋を始めたんだろう? 薬を買いに来たに決まっている」

 

「ええ~。あんたが?」

 

 明らかに疑っていますよ、という顔で鈴仙が見てくるが、レミリアは気にした様子もなく屋敷の中に入っていく。

 

「ほらほら、さっさと永琳のところに案内しなさい」

 

「普通の薬なら私が持ってくるけど?」

 

「このレミリアがわざわざ買いに来た薬よ。普通じゃないに決まっている」

 

「そんな自信満々に言われても困るんだけど」

 

 

 

「そういうわけで、特別な薬を作ってほしいのよ」

 

「珍しいお客さんだと思ったら、ずいぶんと単刀直入ね」

 

 八意永琳は苦笑しながらも、穏やかな笑みを浮かべながら対応していた。

 

「いまのあなたは竹林の薬屋さんだから、薬の注文はおかしくないでしょ?」

 

「まあね。けど、あなたはどこも悪いようには見えないけど」

 

「何かの治療ってわけじゃないのよ」

 

「へえ、じゃあなに? 胡蝶夢丸ナイトメアタイプで悪夢でも見たいの?」

 

「それはそれで興味があるけど、私が欲しいのは“穢れを消す薬”よ」

 

「――!」

 

 一瞬でその場の空気が変わった。

 永琳の目つきは鋭くなり、先程までの優しい薬屋さんの雰囲気は消え去っていた。

 

「穢れを消すといっても完全に消去する必要はないわ。一定期間、抑える程度でいい。あなたなら作れるわよね?」

 

「……作ることは出来るわ」

 

「さすがね」

 

「けど、作るとは言ってないわよ。いったい、それを使ってどうするつもりなの?」

 

「安心しろ、悪用するつもりはない」

 

「そう簡単には信用できないわね」

 

「むしろそれを用意するのは気を遣っているからだ」

 

「気を遣う……?」

 

「私は近いうちにある地に降り立つだろう。だが、そこの住人は穢れを嫌うと聞く。マナーとしてその地にいる間くらいは、穢れを抑えておこうと思ったわけだ」

 

「……なるほど。それは良い心がけね」

 

「どう? 作ってくれるかしら?」

 

「……」

 

「そんなに心配するな。そこに行く計画については、そのうち幻想郷中の人妖を招いて記念パーティーをするつもりだ。特にやましいことはない」

 

「む……」

 

「お礼は弾むわよ」

 

「……わかりました。ただし、その薬で穢れを抑えることが出来ても、気配などを消すことはできませんよ」

 

「問題ないわ。どっかの泥棒魔法使いじゃないんだから、気配を消して盗みなんてしないわよ」

 

「それならば良いでしょう」

 

「決まりね」

 

「ただし、私へのお礼ですがお金ではなく――――」

 

 

ーーーー

 

 

 紫は湖の上にスキマを呼び出して、そこに腰かけた状態で藍からの報告を聞いていた。

 

「そう。レミリアは独力で月まで行くつもりなのね」

 

「はい。こちらの邪魔もしないから、お互い好きにやろうとのことです」

 

「ふふふ、彼女らしいわね」

 

「ですが、たとえ外の技術を真似たとて、月に到達するのは難しいと思いますが」

 

「そうねえ。さすがに今年の冬までという期限付きでは達成は難しいでしょうね。()()()()()()()()()()()()()()

 

「そちらの方も抜かりありません」

 

「ご苦労様」

 

 妖怪の賢者は湖に映る月を見上げる。

 

「……」

 

 かつてはチカラで上をいかれ、策でも上をいかれた屈辱の地。

 

 純粋な武力ではまだ敵わないだろう。

 だが知略では負けるつもりはない。

 今回、嵌めるのはこちらの方だ。

 

「さあ、始めるわよ。美しき幻想の闘い、第二次月面戦争を――――!」

 

 




ついに月編が始まりました。
投稿開始の最低限の目標がこの月編でしたので、ここまで来たかという思いです。
(まだ三か月くらいですが)
それでは皆様、これからもどうぞよろしくお願いします。

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