拝啓、幻想郷の皆様。
私は紅魔館の当主にして吸血鬼の女王レミリア・スカーレットだ。
つい先般、外の世界からこの幻想郷へとやって来た。
私は3日後の朝に幻想郷が我が支配下に入った証として、すべての空を紅い霧で包むつもりだ。
それにより太陽の光は消え、名実ともにこの世界は私のものとなる。
さて、その前祝いとして記念式典を行うので、皆を我が紅魔館へと招待したい。
皆も幻想郷の新たな支配者の到来を祝いたいであろう。
是非とも腕に自信のある者は参加してもらいたい。
この招待状を受け取って以降はいつ来てもらっても構わない。
こちらの歓迎の準備は万全だ。
是非とも私を退屈させないでくれたまえ。
グッドラック!
敬具
レミリア・スカーレット
ーーーー
妖怪の山にレミリアからの招待状をもらった妖怪たちが集まっていた。
「ぬがあああっ! 吸血鬼ふぜいが……命がいらぬらしいな───!!」
レミリアからの招待状を読んだ大天狗は、そのあまりの挑発ぶりにここ100年見たことがないほどに荒れていた。
「大天狗様、落ち着いてくださいよ」
大天狗の側にいるのは烏天狗の射命丸文。
普段は新聞記者として昼行燈を気取っている彼女だが、その実、1000歳をこえる大妖怪であり、幻想郷でもトップクラスの実力を持っている。
「これが落ち着けるか! 射命丸! 我ら天狗がコケにされているのだぞ!?」
「いや、まあ……確かにすごい勢いで煽ってきてますが。このレミリアとやら」
「射命丸よ! すぐに手勢を引き連れて鎮圧してまいれ! 本気になった天狗の恐ろしさをこの若輩者に思い知らせてやれ!」
「はあ……わかりました」
「なんだその態度は! 本当であればわし自ら制裁してやりたいところだが、いきなり大天狗が出ていくのも体面が悪い。そこでそなたにわしの名代として兵を任せるのだ! もっとやる気を出せ!」
「おそらく相手は西洋妖怪でも上位の存在。実戦を離れて久しい大天狗様だと返り討ちにあう可能性大ですものね」
「な!? そ……そそ……そんなことはない! わしの名代になれるなど、名誉なことなのだぞ!」
「はいはい。光栄で~す」
「はいは一度でよい!」
「………」
自宅に招待状が置かれていた四季のフラワーマスター、風見幽香も八雲紫に誘われてここに来ていた。大天狗と違い、彼女は無言だった。それどころかにっこりと笑っていた。
強い者は大抵、笑顔である。 by稗田阿求
幻想郷の管理者である八雲紫と、その式の八雲藍はその様子を眺めていた。
「紫様。では我らも」
「ええ。ここまで単純にしていただいたのです。この挑戦、受けて立ちましょう」
ーーーー
翌日、紅魔館ではレミリアたちが来客の訪れを今か今かと待っていた。
「ではみんな、用意はいいわね?」
「は~い」
「何人たりとも門は突破させません!」
「問題ありません」
「問題しかないわ……」
やる気に満ちたレミリア、フラン、美鈴、咲夜と違ってパチュリーだけは嫌そうな顔をしていた。
「どうしたのよパチェ、いつも以上に暗い顔をして」
「いつも以上は余計よ……そりゃあ誰かさんの書いた招待状のせいよ」
「ああ、あれ? かなりよく書けてたでしょ」
「せめて一度目を通しておくべきだった……あんなものを幻想郷の古参妖怪が見たら、この館ごとチリにされても文句は言えない……」
「大げさねえ、パチェは。安心しなさい。私の運命を操る程度の能力によれば、悪い結末にはならないわ。それともこの私が信頼できないかしら?」
「………信頼はしている。けど信用はしていない」
「ひどい親友ねえ」
「───! 皆さん、どうやらお客様が近くまでやって来たようです。私は門を守りに行きます」
「任せたわよ、美鈴」
「はい、お任せください」
「けれど、無理はしなくていいからね。危ないと思ったら素直に引きなさい。門も大事だけど、それ以上に紅魔館の仲間であるあなたの方が大事なのだから」
「……はい、レミリアお嬢様」
ーーーー
妖怪の集団が紅魔館へと迫っていた。その中核をなすのは妖怪の山の天狗たち。保守的な彼らが外に向けて大規模に兵を動かすことは珍しいが、激怒した大天狗の命に従い、文が白狼天狗を率いて進軍していた。
「文様! 門の前に妖怪が一人います!」
先陣を切る白狼天狗が文に報告した。
「ふむ……門番のようですね」
「たいした妖気も感じません! このまま蹂躙しましょう!」
「……そうですね。任せました」
「ようこそ紅魔館へ。私は門番の紅美鈴と申します。招待状を確認させていただきます」
「貴様の主からのふざけた招待状ならば確かにもらった! しかし、すぐに燃やしてやったわ!」
「おや、それは困りましたねえ」
「これが招待状の代わりでどうだ!」
「ハッ!!」
白狼天狗が斬りかかったが、美鈴がカウンターで放った掌底で吹き飛ばされた。
「がはあああっ!」
鳩尾に入った攻撃に悶絶する白狼天狗。それを見た仲間たちが激高する。
「き……貴様ああああ!!」
「気をつけろ! こいつの妖力は並みだが、武術を使うぞ!」
「複数で取り囲め! 4人で一斉に攻撃すれば対応できんはずだ!」
「さて、それはどうでしょうか……」
連携して迫る白狼天狗、それに対して美鈴が冷静に構えた時───まばゆい光が轟音と共に紅魔館の外壁を吹き飛ばした。
「な……なんですかっ!?」
門での戦いには目もくれず、巨大なレーザーを放った人物───風見幽香は破壊した壁から紅魔館の中に侵入した。
「あああああ!いきなり侵入されましたーっ! というかそれありですか!? 門を無視しないでくださいよ!」
「あやややや! 相変わらず無茶苦茶ですねえ。道を彼女が行くのではなく、彼女が行くところが道となる───ですか。では私もお先に失礼します。後は任せましたよ、皆さん」
「ははっ! お気をつけて! 文様」
「えっ!? ちょっと待っ」
美鈴の反応を待たず、文は目にもとまらぬ速度で門を突破して館内に突入した。
「あああ! 二人目!! お……怒られる! 危なくなったら引いてもよいと言われたけど、これは怒られる───!」
「ふはははは! いい気味だな! もっともこの程度では許してやらんがな!」
「ああ、もうっ! これ以上は絶対に通しませんからね!」
ーーーー
そのころ───紅魔館の玉座の間では早くもトップ同士が火花を散らせていた。
「……お前以外にも門から入ってこないやつがいるようだな」
「幽香が来たようですね。あなたは欲張りすぎですよ。天狗だけでなく、あの四季のフラワーマスターまで呼び寄せるなんて」
「なに、可愛い妹が遊び相手に不足していてな。そちらに行ってもらうとするよ」
「……すいぶん簡単に当主のもとに来れたと思いましたが、やはり私だけはここまで誘ったのですね」
「そうだ。お前がここに来るように運命を操作した。実質的な幻想郷のトップたるお前と紅魔館当主の私で雌雄を決するのが最もわかりやすい決着だろう? 他の連中は私の親友や片腕が相手をしているよ」
「運命操作ですか。ずいぶんと大それた能力ですこと…しかし、それならば最初から私だけを呼べばよいでしょう。あなたが各地でやんちゃをしてくれたおかげで、怒っている方が大勢いるのですが?」
「ふふふ……それでは寂しいだろう。せっかくの祭りだ。大勢に参加してほしいではないか」
「はあ……見た目通りの子供っぽい理由ですわ。けれど、いくら子供とて少し、おいたが過ぎたようです」
紫がそういうと空間にいくつもの裂け目ができた。その奥には多数の目玉が見える。
空間の裂け目───スキマは紫を取り囲むように浮かんでいた。
「不気味な目玉だ」
「その余裕がいつまで続くか試してみましょう───ではお灸を据えます」
その瞬間、スキマから一斉に光弾が発射されたが、レミリアは光弾のわずかの隙を縫うようにして回避した。
「上手く避けますね」
「グレイズは得意なんだ」
「ではこれはどうでしょうか?」
紫は先ほどの倍のスキマを呼び出すと、今度はレミリアを取り囲むように配置した。裂け目に浮かぶ無数の目玉がレミリアを睨みつける。
───回避不可能な弾幕は反則のはず……いや、この時代にスペルカードルールはない。となればこれも当たり前か。
「さあ、どうしますか?」
───すべて避けるのは不可能だな。なら不夜城レッド……いや、ここは攻める!
すべてのスキマから光弾が発射されると同時にレミリアは全身を羽で覆う。そして、高速回転しながら紫に向けて突進した。
いくつかの光弾はレミリアに命中するが、回転したことで威力を減らすことができたこと、また羽で全身を覆っていたことでそれほどのダメージにはなっていなかった。
「ずいぶんと強引ですね───!」
光の弾幕を潜り抜けたレミリアの手には紅い槍───グングニルが握られていた。弾幕を突破した勢いのまま、紫に向けて高速で迫り、グングニルが紫を貫く───かに見えたが、スキマから飛び出た道路標識のようなものに止められる。
だが、間髪入れずにレミリアの口から激しい炎が吐き出された!
「なっ!?」
まさか火を吐くとは思わず、不意を突かれた紫はまともに食らい、火だるまになっていた。
「───っ!」
すかさずレミリアはグングニルで追撃をかけるが、紫はスキマに緊急避難してこれを回避した。
「……やってくれますわね」
やや離れた位置にスキマから紫が現れたが、火は消えているようだった。
「妖獣タイプならともかく、その見た目で炎を吐くのは反則ではありませんか?」
「ふっふっふ……みんなそう言うよ」
───とはいえ、スキマに逃げられるのでは遠距離攻撃だと決定打を与えにくいな。どうにかして接近戦に持ち込んでみるか。
「さあ、今度こそ串刺しにしてやる!」
グングニルを持ったレミリアが強襲するが、紫は距離を取りつつ、高速のレーザーをスキマから発射して迎撃する。
レーザーを掻い潜りながら紫へと迫るレミリア。
徐々に紫との差が縮まっていくが、今度はスキマから光弾ではなく列車が飛び出し、レミリア目掛けて突撃した。それを紙一重で避けた───かに見えたが、列車が突如、大爆発を起こした。
「がああぁっ!?」
至近距離での爆発で思わぬダメージを負ったレミリアは動きが止まってしまった。
「次、行きますよ」
紫の言葉と共に2両目、3両目、4両目と止まらぬ爆弾列車がレミリアに襲い掛かる。
次々と列車が命中し、爆風に紅魔館が揺れた。
「……ダメージはあっても死んではいないでしょう? お嬢さん」
近づき過ぎず、距離をとった状態で語りかける紫。
反応がない為、気絶したかと考えたとき、爆炎の中から無数の蝙蝠が飛び出し、紫に襲い掛かった。
「───っ!」
スキマから光弾の雨を発射して迎撃するが、蝙蝠の速度は先程のレミリアの突撃よりも速く、数匹は紫への接触を許してしまった。
「キキッ!」
取り付いた蝙蝠は牙で紫の上半身に噛みつき、何かを吸い上げ始めた。
「───なっ……あ……う……っ」
蝙蝠から吸い上げられるたびに悶える紫。
「───ああああっ!!」
蝙蝠に吸われながら紫は自身をスキマに入れ、再び現れたときは蝙蝠から解放されていた。
それに対して無数の蝙蝠が集まり、レミリアも再び実体を取り戻す。
「───ぐ、眩暈が……何をした! 小娘!」
───うわ、ゆかりん怖っ。
内心ドキドキしながらも、エナジードレインを成功させてちょっと強気になったレミリアは不敵に笑って返した。
「ふっふっふ……その程度で済んで幸運だと思え。存在そのものを奪い取ったんだからな。あのまま続けていれば、いずれお前という存在は消滅していた」
「存在を奪う───!? 運命操作とやらだけが能力ではないわけね」
「直接吸ってやればもっと効くのだが、まあ分身だとこんなところか」
───直接吸った場合のエナジードレインが4レベルくらいとしたら、さっきのは1レベル分にも満たないか。まあやり過ぎてゆかりんが弱体化したら幻想郷的に困るからちょうど良かったかもね。
「………そういえば名乗っていませんでしたね。知っているかもしれませんが、私の名は八雲紫。妖怪の賢者とも呼ばれています」
「おっと、これは失礼。私は紅魔館の当主にして永遠に紅い幼き月、レミリア・スカーレットだ」
紫の目には最初にあった慢心がなくなっていた。そして、目の前の吸血鬼を一人の強敵として認めたからこそ名乗りを上げた。
「では、続きを始めましょうか」
「ああ」
妖怪の賢者と紅い吸血鬼が再び戦いを開始した───。
いきなり大将戦が始まっています。