「レミリアさんたちがロケットで月に行ってから早25日。いまだ帰ってこないのは……やはりそういうことでしょうか」
射命丸文は月での体験を記事にしようと紅魔館前で待ち構えていたが、いつまでたってもレミリアたちが帰ってこないので諦めムードになっていた。
陽気な烏天狗には珍しく、やや寂し気に独り言を続ける。
「次の新聞のタイトルは決まりましたね。“吸血鬼一派、スペースデブリになる” ――知った相手がいなくなるのはいつになっても悲しいものですねえ……」
「お前をスペースデブリにしてやろうか?」
「!?」
バッと振り向けば、そこにはレミリア、咲夜、霊夢、魔理沙(+妖精メイドたち)が勢ぞろいしていた。海と山を繋ぐという綿月豊姫の能力で幻想郷まで送ってもらったのだろう。
「おお! レミリアさん。私は無事を信じていましたよ」
「あんた、さっき私たちは宇宙のチリになった的なこと言ってたじゃない」
「あやややや。誰ですかそんなことを言ったのは? ひどい話ですね~」
「……ったく、まあいいわ。まずは美鈴たちに無事の帰宅を知らせないとね」
「じゃあな、レミリア。帰還記念パーティーの時間にまた来るぜ」
「良いものを食べさせなさいよ」
魔理沙と霊夢は一度、自宅に戻っていった。
ーーーー
「お帰りなさい! お嬢様! 咲夜さん!」
咲夜に代わって館内の取りまとめをしていた美鈴が出迎える。
「ただいま。留守番ご苦労様、美鈴」
「ただいま、美鈴。私とお嬢様がいない間に問題はなかったかしら?」
「ここ最近は文さんが毎日様子を見に来る以外は侵入者もなく平和そのものでした」
「あなた毎日来ていたんですか? 暇ですね」
「スクープを独占するために、誰よりも先に接触する必要がありますからね」
「お前も相変わらずだな」
――実はちょっと心配してたとか? この烏天狗に限ってそんなわけないか。
「月はどんなところだったの?」
フランドールが興味津々でレミリアと咲夜に問いかける。
パチュリーもさすがに月には興味があるようで、じっと二人の話を聞いていた。
「月自体は静かなところだったわ。広い海には生き物一匹いやしない」
「ただ森の木には桃が生っていて、鳥の姿も確認できました」
「ふむふむ、なるほど!」
やっとインタビューが出来た文は猛烈な勢いでメモをしていく。
「さほど刺激的なものはなかったけど、フランも一度は行ってみるといいわ」
「そうだね。次の機会があれば行こうかな」
「月の姫二人とは友達になったから、そのうち遊びに来るかもね」
「へえ~」
「レミリアさん! そのときは是非私を呼んでくださいね! 取材したいので」
「嫌よ。幻想郷にマイナスイメージを持たれるじゃない」
「ひどい!」
ーーーー
――月からの帰還記念パーティー会場
「
「ええ、
レミリアと幽々子が挨拶を交わすが、妖夢は焦ったような顔をしている。
実は紫の策によって白玉楼の主従は月の都に潜入していた。
そのことは永琳や綿月姉妹にも気づかれていない。
ただし、綿月の屋敷に滞在しているときに、レミリアだけは二人の姿を目撃しているのだった。
(霊夢も視界には入れていたが、はっきり幽々子たちとは認識していない)
「どこまで分かっていたの?」
「なんのことだ? ハッキリ言ってもらわないと分からないな」
幽々子が問いかけてもレミリアはニヤリと笑って返すだけだった。
「まあ、どうでもいいじゃないか。互いに好きにやっていただけだろう。なあ、紫?」
幽々子の後ろから紫と藍もやって来た。
「ふふ……そうですね」
紫も笑って返すが、それはいつもの胡散臭い笑みではなく、悪戯が成功した子供のような笑みだった。
「ま、それもそうね」
幽々子もそれ以上の追及はせず、おっとりと微笑んだ。
「それでよっちゃん――綿月依姫とスペルカード戦をすることになったのよ」
「いや~手強い相手だったな。この百戦錬磨の魔理沙さんが負けるとは思わなかったぜ。まさかマスタースパークを斬るとはな」
「ほう……。あれを斬るとは凄いです。一度、腕試しをしてみたいですね」
同じ剣士として興味を引かれる妖夢。
「お前みたいな殺し屋とは会いたくないと言っていたぞ」
「誰が殺し屋ですか!」
「次に会ったらスピード重視の戦法で再戦を挑むぜ。パワーは向こうでもスピードは私の方が上だからな。なにせ私は世界一だから」
「おや? それを言うなら世界二では?」
スピードに自信のある文がそれを訂正しようとする。
「いやいや、私はこの星で唯一、空を超え月に至った人間の魔法使い。それ以外のスピード自慢はすべて二番手以下だぜ」
「――その挑戦受けました。オマケでロケットに乗せてもらえた分際で増長しているようですね」
「挑戦とは格下がするもんだぜ。私は受ける側だ」
バチバチと火花を散らしながら外に出て行った魔理沙と文。
「何してるのあいつら」
霊夢は呆れて見送った。この巫女には宴会の酒と食事の方が重要そうだった。
「その剣士さんに魔理沙は負けたとのことですが、他の三人はどうだったんですか?」
「咲夜も負けたけど、私は戦ってないわ。その前にレミリアが暴れまくって依姫も消耗してたしね」
「仕方ないだろう。あれくらいしないとよっちゃんには勝てなかったぞ」
それを聞いた紫がブホッと酒を噴き出した。
「ゴホッゴホッ――!」
「紫様大丈夫ですか? そんな強い酒でもないのに珍しいですね」
藍が微妙にズレた心配をしているが紫はそれどころではない。
「ちょ、ちょっと待って、レミリア。あなたはあの月の使者に勝ったというの?」
「まあ何とかね」
「さすがはお嬢様だと、感激で震えました。あの戦いは何度見ても飽きません」
「ねえ咲夜、まさかまた録画とかしてないわよね?」
咲夜はにっこりほほえんで答えない。
「ええ、この従者……」
トントンと紫が咲夜の肩を叩いてこっそり呼ぶ。
「(ねえ、メイド長さん。もし録画してるなら私にも見せてくれない?)」
「(ダメです。私の宝物ですから)」
「(お礼はしますので、そこを何とか……)」
紫と咲夜が密談を始めていると、新たに宴会に呼ばれた者たちがやってきた。
蓬莱山輝夜と八意永琳の二人だ。
「四人とも無事に月から戻って来たようですね」
「なかなか楽しかったぞ。お陰様で月の都にも入れたしな」
「それは良かったです」
「お待ちしておりました」
紫は行儀よく二人を出迎える。
「今日はどういう風の吹き回しかしら? 八雲紫」
「普段の労をねぎらい、お酒でもと思いまして」
紫は不気味な笑みを浮かべ、永琳を伴って移動する。
「あなた月の都に入ったの? てっきり手前で追い返されるだろうと思ったけど」
輝夜が意外そうにレミリアに問いかける。
「番人の依姫やその姉の豊姫と仲良くなってな。私だけでなく四人全員で都に滞在していた」
「へえ。豊姫はともかく、あの堅物の依姫とよく友達になれたわね」
「まあ、一度スペルカード戦をすれば友誼を結ぶのは簡単だ」
「そういうもんかな。けど、月の都なんて地上と比べたら刺激もないし、退屈だったでしょ?」
「たしかに刺激は少ないし、ずっといると飽きそうだが、10日程度の観光にはちょうどよかったよ」
そのうち紫と酒を飲んでいた永琳がやって来たが、何やら顔色が良くなかった。
まるで人間が未知の怪物に出会ったかのような雰囲気であり、月の頭脳とまで呼ばれる彼女にしては珍しいことだった。
――どうやら紫の思惑通り、永琳に一杯食わせたようね。
幻想郷は妖怪と人間の世界である。
妖怪は人間を襲い、人間は妖怪に恐怖し、退治する。
しかし永遠亭の月人は人間社会で生きることを選んだにも関わらず、妖怪に恐怖しない。それは納税の義務を果たしていない状態だ。
そこで紫は今回の月の異変を通じて永琳から徴税したのだ。
正体の判らない者への恐怖という形で。
「そういえば穢れなき月の都の割に、普通に牢屋があったのは意外だったわね」
「牢屋? そんなのあったかしら」
「……! まさか……」
輝夜はピンときていないようだが、永琳は何かに気が付いたようで、驚いてレミリアの方を向く。
「あんた私が仕事させられている間に、そんなところにも行ってたの?」
「ふふふ、まあな。牢屋とはいっても大きな建物に囚人一人という変わったものだったが」
「レミリア……まさかとは思うけど、その牢屋の中に入ったの?」
囚人が一人だけの建物。永琳にはそれに思い当たる節があった。
だが、本来は地上の民が入れるところではないはずだが――
「牢屋というか、建物の中には入ったぞ。そこの囚人とは鉄格子を挟んでいろいろと話をしたな」
「ええ……」
「警備にも止められることもなく、ひょいっとね。なかなか話せるやつだったわよ、そこの囚人――嫦娥は」
「嫦娥……!」
その名を聞き、さすがに輝夜も驚愕を隠せない。
玉兎たちの真の主にして、自分や永琳と同じく蓬莱の薬を飲んだ罪人。
また、彼女を恨む神霊などが月の都を襲撃する理由にもなっている、いろんな意味で月における重要人物。
その話を聞いて頭が痛くなってきた永琳は月夜見に警備体制の問題について手紙を送ろうと考えていた。
一応、レミリアは透明化魔法なども使っていたが、それを差し引いても緩い警備だったことは間違いない。
「嫦娥ねえ」
何気なくレミリアから月の重要人物の名を聞いた霊夢。
本来の歴史ではここで彼女が知るはずもない名前だった。
これが未来にどのように影響するのかは誰にもわからない――
時系列的に次は緋想天ですが、戦闘カットになった妹紅さんや儚月抄の間に幻想入りした守矢神社の皆さんもそろそろ出番でしょうかね。