レミリア・スカーレットの挑戦   作:Amur

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第二十三話 『風神録異変 裏ボス(前編)』

「今日も平和ね……」

 

 月から帰って以降、レミリアはだらけていた。

 目標としていた綿月依姫との戦いに勝利したことで燃え尽きた――とまでは言わないが、気が抜けていることは間違いない。

 

「思いっきり緩んでいるわね」

 

 その親友の姿に嫌そうな顔をするパチュリー。

 

「永夜異変からの野望だった月に行ったことだしね。いまは充電期間というわけよ」

 

「無駄にハイテンションなのも面倒だけど、明らかにやる気のない姿を見せられるのも、鬱陶しいわね」

 

「ひどい言い草だな、パチェ」

 

 ――ま、たしかに緩み過ぎるのも良くないけどね。修行をさぼっていると、よっちゃんが再戦に来た時にボコボコにされてしまうわ。

 

「あ、そうだわ」

 

「なに? また妙なことを思いついたの?」

 

「ほら、妖怪の山。あそこに新しい神社ができたらしいじゃない?」

 

「ああ、前に烏天狗から聞いたわ。私たちみたいに外の世界からやって来たそうね」

 

「そうそう。でも無礼なことに私に挨拶に来てないのよね。ここは一度、ガツンと礼儀を教えてあげるべきだと思うでしょ?」

 

「思わない。余計な騒ぎを起こさないで」

 

「ノリが悪いわね」

 

「だいたい、あの神社にはかなりの格の神が二柱もいるらしいわよ。わざわざ、吸血鬼なんかに挨拶に来るわけないでしょ」

 

「うぐ……そこは幻想郷の先輩としてね」

 

「新しい神社は妖怪の山の頂上付近にあるそうよ。勝手に入ったら天狗が騒ぐわよ」

 

「ふっふっふ、そこは大丈夫だ。伝手があるからな」

 

 

ーーーー

 

 

 ――人里

 

「――それで私に頼みに来たわけですか」

 

「そう、妖怪の山でも古参の文なら簡単でしょ」

 

 レミリアは人里をうろついていた射命丸文に神社への案内を頼んでいた。

 

「簡単ではないですよ。勝手に余所者を入れると、私が怒られるんですから」

 

「私は隠れてついていくから、あなたは先導してくれるだけでいいわ」

 

「ええ~、どうしようかな~? もう少し私への扱いが良くなるなら考えないでもないですけど~?」

 

 文はニヤニヤしながら、ここぞとばかりにレミリアに待遇改善を要求した。

 

 ――イラッ!

 

「あれあれ? そんな態度でいいんですかね~?」

 

 ――Be CooL……! Be CooLよ、レミリア。頼みごとをしているのはこっち。烏天狗の態度がウザイのは間違いないけど。

 

「……わかったわ。次に紅魔館に来るときは賓客として迎えると約束しましょう」

 

「むふふ、悪くないですね。でももう一声!」

 

「月から友人たちが来た時の独占取材権!」

 

「乗った!」

 

 レミリアと文が道端でわちゃわちゃしていると、注意する者があった。

 

「お前たち、往来の真ん中で騒いで迷惑になっているぞ」

 

「おや、失礼しました慧音さん。話が盛り上がって気が付きませんで」

 

 二人に声をかけてきたのは寺子屋の教師、上白沢慧音。彼女は白沢と人間のハーフだが人間の味方であり、人里を脅かす者に目を光らせている。

 

「烏天狗の新聞記者。いくらお前が里に慣れているとはいっても、妖怪を怖がる人間は大勢――」

 

 そこまで言ったところで、レミリアの姿を見て言葉を止めた。

 

「お前……そうか! あの夜に会った紅魔館の吸血鬼!」

 

「正解よ、ワーハクタク」

 

「レミリアさん、慧音さんと知り合いなんですか?」

 

「前に一度、咲夜が弾幕ごっこをしてね。私は見ているだけだったけど」

 

「そうなんですか」

 

「人間に化けて今度は何を企んでいる?」

 

「文を探しに来ただけよ。あなたと会った夜も別に里には何もしなかったでしょ」

 

「……まあそうだな」

 

「どうした慧音。なにか厄介ごとか?」

 

 慧音に続いて現れたのは、腰よりも長い白銀色の髪をした女性だ。下にはもんぺのような赤いズボンをサスペンダーで吊っている。

 

「妹紅か。いや、問題はないようだ」

 

「あら、肝試しのときの人間じゃない。こんなところで奇遇ね」

 

「ん? お前は――あのときの妖怪!?」

 

 彼女は藤原妹紅。

 蓬莱山輝夜の喧嘩友達で、永遠亭での宴会の夜にレミリアたちと戦った。そのときは妹紅対8人(レミリア・咲夜・霊夢・紫・魔理沙・アリス・幽々子・妖夢)という多勢に無勢だったので、ひどいことになった。

 

「意外と知り合いが多いですね、レミリアさん」

 

「まあね」

 

「ここで会ったが百年目! この間の借りを返すぞ! さあ、勝負だ!」

 

「なにを言ってるの。こんなところで戦ったら周りの迷惑よ。そうでしょ? 慧音先生」

 

「え、あ……ああ、そうだな。ダメだぞ、妹紅」

 

「お……そうか、そうだな……?」

 

「……(レミリアさんには周りの迷惑とか言われたくないですねえ)」

 

「じゃ、私と文はもう行くから」

 

「ああ、そうか……」

 

 

 

「――いや、ちょっと待て!」

 

「人里の外まで追いかけてきて、どうしたの?」

 

「どうしたじゃない! この前の借りを返すと言っただろう!」

 

「あのときは輝夜が肝試しをしましょうって誘うから8人で行ったのよ。文句なら輝夜に言って」

 

「輝夜! やはりあいつの嫌がらせか!」

 

「分かったならもういいわね。私たちはこれから妖怪の山に登るから忙しいのよ」

 

「なに? 妖怪の山……あそこにか……」

 

「なにか気になることでもあるんですか?」

 

「……ちょうどいい。私も同行させてもらおう」

 

「は? なにを言っているんですか?」

 

「あの山に住む不死を司る神――石長姫に用があってな。天狗や河童が入れてくれないから困ってたんだが、烏天狗が一緒なら大丈夫だろう」

 

「いやいや、待ってください。そんな勝手に――」

 

「いいんじゃない? せっかくだし、三人で行きましょう」

 

「よし、決まりだ」

 

「ちょっとー!?」

 

 結局、妹紅も一緒に妖怪の山に行くことになった。

 

 

ーーーー

 

 

 ――妖怪の山

 

「ここが妖怪の山か」

 

「悪くないところね」

 

「なぜこんなことに……」

 

 レミリアと妹紅、そして文は妖怪の山の麓に堂々と立っていた。

 最初は文が先導してレミリアは隠れてついていく計画だったが、妹紅は蝙蝠変化も透明化も出来ないので、結局は正面から行くことになった。

 

「ほら行くわよ。あなた妖怪の山の重鎮なんだから、誰もその歩みを邪魔しないでしょ」

 

「古株ではあっても重鎮じゃないですよう。ああ、絶対後で怒られる~」

 

「苦情は私に挨拶に来ない守矢神社とやらに出しといて」

 

「そんなことしたらまた揉め事になりますよ」

 

「このまま山頂まで行くのか?」

 

「いや、中腹より上の天狗の縄張りに入ったら流石に止められるでしょ」

 

「わかってるじゃないですか。策はあるんですか?」

 

「そうね……。たしかここにはあの便利屋たちも住んでたわよね?」

 

「おや、よくご存じですね。なるほど……都合の良い道具を譲ってもらうというわけですか」

 

「便利屋……?」

 

 

 一行は妖怪の山を進み、未踏の渓谷までやってきていた。

 そこにいる便利屋――幻想郷の技術者集団である河童から姿を誤魔化せるアイテムを入手するためだ。

 

 ――ここまでは割と簡単に来れたわね。文が一緒にいるからか秋姉妹や厄神さんが絡んでこなかったのもあるか。

 

「光学迷彩1つ」

 

「ほほう、お目が高いね。けどお値段の方はちょ~っと張るよ」

 

 レミリアと商談しているのは河童の河城にとり。河童というが、頭は青髪のツインテールに帽子を被せているため、皿があるかどうかは見えない。背中には甲羅の代わり?にリュックサックを背負っているので、種族は言われないとわからないだろう。

 

「こーがくめーさい? なんだそりゃ」

 

「姿を消せる道具よ。半分冗談だったんだけどね。いくら河童とはいえ驚いたわ」

 

「当然さ。私をそこらのモブ河童と一緒にしないでもらおうか。この河城にとりに作れないものなど、あんまり無い!」

 

「どこかで聞いたような台詞ねえ。ところでおいくらかしら?」

 

「う~ん、試作用の光学迷彩スーツ一着で530000円ってところかな」

 

「たっか!? ぼったくりだろう!」

 

「いやいや、私の超技術が入った最新の発明だからね。本来は100万以上は確実なんだけど、ちょうど試作品をいくつか作ったところだから、大サービスしてるよ」

 

「試作品ってことだけど、ちゃんと作動するんでしょうね?」

 

「ああ。テストは終了してるから問題ないよ」

 

「なら、買うわ。今は手持ちがないから後払いでお願いね」

 

「ええ~? お嬢さん、このへんで見ない顔じゃないか。そんな相手に後払いはちょっとね」

 

「そこは大丈夫。この射命丸文が保証してくれるわ」

 

「文さんが? ……まあそれならいいか」

 

「すいませんね、にとりさん(後でちゃんと払ってくださいよ、レミリアさん)」

 

「(私の名に懸けて約束しよう)」

 

「おいおい、そんな簡単に……。金持ちなのか? レミリア」

 

「このくらいポンと出せる程度には余裕があるわ」  ※ 後でパチュリーに叱られます

 

「そうなのか……」

 

「ではこちらが商品になります (レミリア? どこかで聞いた名前……)」

 

 

ーーーー

 

 

 妖怪の山を登っていくと、雄大な滝が流れる地に辿り着いた。

 九天の滝と呼ばれるここは天狗のテリトリー内だが、特に妨害を受けることもなく進んでいく。

 

『こちらを伺う気配を感じるけど、邪魔しては来ないわね』

 

『さすがに仲間の烏天狗にはいちいち絡んでこないか』

 

 一見、文が一人でいるように見えるが、レミリアは蝙蝠になって文の肩に、光学迷彩で透明になった妹紅はその後ろをついてきていた。

 

「ここが九天の滝です。気づいていると思いますが、すでに天狗たちに捕捉されています。迂闊な行動は控えてくださいね」

 

『わかったわ』

 

『ああ』

 

 

 途中で哨戒天狗に道を塞がれる――ということもなく、三人は無事に山の上の神社まで辿り着いた。

 

「ふうー、何とか誰にもバレずに来れましたか。おかしいですね、烏天狗の私が妖怪の山を登るのに緊張するなんて」

 

『意外とすんなり来れたな』

 

『ふっ、私の計算通りね』

 

「あの神様たちに余計な接触はするなと、誰かに止められるかと思いましたが、特に制止は入りませんでしたね」

 

 集団行動を得意とする天狗だが、普段から一人で好きなところに行っている文だったので、仲間の天狗たちにはいつものことかとスルーされた。

 

『さて、第一印象は大事だからね。一発かましてやるとするかな』

 

「ちょっと、レミリアさん? 神社に攻撃とかしないでくださいよ」

 

『私をなんだと思ってるんだ。そんなことしないわよ』

 

「あなたには色々と前科がありますからね」

 

 

 レミリアたちが神社の前で立ち止まっていると、中から一人の少女が出てきた。

 緑色のロングヘアーで頭には蛙と白蛇の髪飾りを付けている。特徴的なのは服装で、腋が丸出しの巫女服――それらを纏めてざっくり言えば色違いの博麗霊夢。

 

「おや、誰かと思えば文さんじゃないですか」

 

「こんにちわー、早苗さん。清く正しい射命丸文です」

 

「今日はどうしたんですか?」

 

「是非あなたたちに会いたいという方がいまして」

 

「おお! 入信者ですか? それは素晴らしい。いったいどなたでしょう?」

 

『私だ』

 

「え? 今の声はどこから……?」

 

『ふっふっふっふっふ』

 

「誰!? 姿を見せなさい!」

 

『いいだろう』

 

 そう言うと蝙蝠は文の肩から飛び立った。

 

「!?」

 

 カッ!

 

 蝙蝠は紅く輝くと一瞬で元のレミリアの姿を取り戻した。

 

「生憎だけど、入信者じゃないわよ」

 

「蝙蝠が女の子になっちゃいましたよ!? 貴方は一体……?」

 

「私は紅魔館のレミリア・スカーレット。吸血鬼の女王だ」

 

「吸血鬼! 実在していたんですね!」

 

「実在しているに決まっているだろう。西洋諸国の夜を恐怖で支配した我らだぞ」

 

「それで吸血鬼――レミリアさんは守矢神社にどんなご用でしょうか?」

 

「簡単な話だ。お前たちが幻想入りしてそれなりに経つが、一向に私に挨拶に来ないじゃないか。そこで仕方なくこちらから来てやったというわけだ」

 

「え? 幻想郷に来たら貴方に挨拶に行かないといけないんですか?」

 

「当然だ。なにせこのレミリアは幻想郷の裏ボスだからな」

 

「う、裏ボス!? 隠しボスということですか!!」

 

「そういうことだ」

 

 

『おい、文。レミリアたちは何を言っているんだ?』

 

『さあ? 外の言葉はときどきよく分からないことがありますね』

 

 

「幻想郷の表のボスが霊夢さんで、隠しボスは紫さんかと思ってましたが……」

 

「それは素人の考えね」

 

「でも隠しボスって普通はどこか人目につかない場所に潜んでいるものでは?」

 

「うむ、その通りだ。今回は特別だな」

 

「そうですか、特別……ふふ、そうですか」

 

 早苗はレミリアの登場に興奮していた。外の世界ではゲームを好んでやっていた早苗にとって隠しボスというワードは琴線に触れるものがあったようだ。

 

「さて、そろそろお前の名を聞こうか」

 

「おっと、名乗りが遅くなり、失礼しました。私は東風谷早苗。守矢神社の風祝(かぜはふり)です」

 

「そうか、早苗よ。これからすることはわかるな?」

 

「ええ。私もここでの挨拶の仕方を学びました――目と目が合ったら弾幕ごっこ!」

 

「そう! この幻想郷では常識に囚われてはいけないのだ!」

 

 

 

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