レミリア・スカーレットの挑戦   作:Amur

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第二十四話 『風神録異変 裏ボス(後編)』

「さあ! 守矢の風祝とやらのチカラを見せてみろ!」」

 

 開始早々、レミリアは大量に紅色の弾幕をばら撒いた。一斉に放たれた紅弾は妖怪の山の空を紅く染めんばかりだ。

 

「さすがは隠しボス! 通常攻撃でこれですか!」

 

 すかさず早苗もお守り型の弾幕で迎撃する。レミリアの紅弾は無作為に放たれるものが多く、自身に迫るものを集中的に撃ち落として突破を図った。

 

 

「いいですよー! 紅魔館の当主VS守矢の現人神! これは良い記事に――!?」

 

 烏天狗が平常運転でシャッターを切っていると、いくつかの紅弾が飛んできた。

 

「うおおお!?」

 

「チッ」

 

 夢中で写真を撮っていた文だが、自慢のスピードで辛うじて弾幕を回避する。

 

「ちょっと、レミリアさん! ヒドイじゃないですか!」

 

「すまんな、偶然そっちに逸れたようだ」

 

「嘘! 嘘です! “チッ”って舌打ちが聞こえましたよ!」

 

「聞き間違いだろう」

 

 

 ───秘術「グレイソーマタージ」

 

 文と騒いでいたレミリアに容赦なく早苗のスペルカードが襲い掛かる。

 

「!」

 

「余所見とは油断しましたね! もらいました!」

 

 降り注ぐ星形の弾幕。

 タイミング的に回避は難しいように思われたが――

 

「油断? これは“余裕”というものだ」

 

 命中する寸前でレミリアは真下に急降下した。

 

「えっ、逃げ場のない地面に?」

 

 レミリアはそのまま錐もみ回転をしながら、地面を砕き、土中に飛び込んだ。

 

「ええ! それありですか!?」

 

 レミリアが激しく地中を掘り進む音が聞こえ、地面は振動で揺れ動く。

 

 

「モグラか、あいつは」

 

「吸血鬼、次に狙うのは地下帝国の建設か!? この見出しは目を引きますよー!」

 

 妹紅が呆れているが、文は記事のネタにすることしか考えていない。

 

 

「どこ……どこから来ます……はっ、そうです!」

 

 ───開海「海が割れる日」

 

 早苗は巨大な波を生み出し、レミリアが開けた穴に注ぎ込んだ。

 

「どんどんいきますよ!」

 

 大量の水が土中に流し込まれ、逃げ場をなくす。

 掘り進んでいるレミリアが水流に飲み込まれるのは時間の問題と思われた。

 

「さあ、このままだと水没しますよ」

 

 十分な水を流し込んだ早苗は、タイミングを見計らって霊力を溜めていた。

 しばらくじっと待つが、ついに地面の一部が割れて、水が噴き出す。

 

「そこです!」

 

 ドオオオン!

 

 水に続いて地中から何かが飛び出すが、それを待っていた早苗がおみくじ爆弾を命中させた。

 

「やりましたか!?」

 

 爆発の結果を確認しようとする早苗だが、そのとき別の地面が割れ、中から水流と共にレミリアが飛び出した。

 

「プハーッ!」

 

「え!?」

 

 レミリアは全身ずぶ濡れだが、特に負傷は見られないようだ。

 

 

「なるほど。最初に飛び出したのはレミリアでなく投げた槍で、そっちを囮にしたわけか」

 

「あの短い時間でよく考えたものですねー」

 

 解説者に回っている妹紅が誰に聞かせるともなく説明する。

 文はいうまでもなく実況ポジションだ。

 

 

「なかなかやるな、早苗よ。風祝という割に水を操るとはな」

 

「……私が仕える八坂神奈子様は風雨も司っていますから」

 

「ほう、それでか」

 

「私が奇跡を放てば貴方は必ず一撃で負けるでしょう。だから貴方の技をすべて見てからでも遅くはない……と思っていましたが」

 

「どこかで聞いたような台詞。いや、聞いてないか」

 

「生憎ですが、晩御飯の時間が近づいてきました。そろそろ終わりにしましょう」

 

「ふ――いいだろう。では私も博麗の巫女を震撼させたスペルカードをお見せしよう」

 

 そう言いながらもレミリアは腕を組み、静かに早苗の動向を伺う。

 

 

「刮目しなさい! これが現人神の――奇跡を起こす神の力です!」

 

 ───奇跡「客星の明るすぎる夜」

 

 大いなる奇跡が妖怪の山の空を照らし、レミリアもその光に飲み込まれる。

 

「むっ――――!」

 

「あっはっはっは! 種族を教えてしまったのは失敗でしたね、レミリアさん! 日光が吸血鬼の弱点なのは外の世界でも有名な話ですよ!」

 

 

「――残念だが早苗」

 

「え?」

 

 夜をも照らす輝きに包まれたはずのレミリアだが、光の檻を破り、悠然と現れた。

 いまだ腕は組んだままで静かに早苗を見つめている。

 全身から紅いオーラのようなものが立ち昇り、それが身を守っているようだ。

 

「あ……あれ? 倒れていない??」

 

「キサマのそのスペルは既に私が1年前に乗り越えたものだ」

 

「ちょっとー! 光を克服するなんて反則ですよ! 様式美! 吸血鬼の様式美はどこに!?」

 

「様式美を抑えつつ、そこから更に先を進むのがこのレミリアだ」

 

 ───息符「輝く息」

 

 レミリアは全身を震わせ、冷たく輝く息を吐いた。

 凄まじい極低温が大気すら凍らせる。

 

「ひああああああー!」

 

 完全に勝った気になっていた早苗は猛吹雪の直撃を食らい、一瞬で氷漬けになってしまった。

 

「現人神の氷像。紅魔館のエントランスにでも飾っておこうかしら」

 

 

ーーーー

 

 

「うわー、容赦ないですね、レミリアさん」

 

「おいおい、大丈夫なのか、あれ」

 

「カチコッチンになってるけど、中身まで凍らせたわけじゃないわ。仮にも神を名乗るならこれくらい平気でしょ」

 

「無事だとしても、神社の巫女っぽいのを倒してしまっていいのか?」

 

「そうですね。守矢神社の二柱が怒りそうです」

 

「大丈夫、大丈夫。これくらい挨拶みたいなものよ」

 

 

「早苗ー、なに騒いでるの? お腹すいたよ。そろそろ晩御飯にしよう」

 

 騒ぎを聞きつけたのか、神社の中から何者かがケロケロとやってきた。

 頭には目玉が二つ付いた帽子を被っており、どこが動作がカエルっぽい。

 

 ――八坂神奈子じゃなくケロちゃんが出てきたか。

 

 

「さな……え?」

 

 カエル少女は早苗を探していたが、氷像になっているのを見て驚きで固まっていた。

 

「早苗ーーー! なんで凍ってるのー! まさかチルノ(氷精)にやられたのか!?」

 

「これは、諏訪子様。チルノさんではありませんよ」

 

「そう、それは()()()との弾幕ごっこの結果ね」

 

「ああ? お前たちが……?」

 

 大事な神社の仲間にして家族の早苗が氷漬けという目にあわされて、カエル少女は静かに激怒してレミリアたちを睨みつけた。

 

「ちょっと、レミリアさん。その言い方だと私たちまで――」

 

「……お前、烏天狗の新聞記者じゃないか。天狗は守矢神社を敵に回すってことかい?」

 

「いやいやいや、違います、違います」

 

「私は紅魔館のレミリア・スカーレット。どうやらあなたも守矢神社の一柱らしいわね」

 

「紅魔館……? たしか吸血鬼の住まう館だったか。それで何で早苗を氷漬けにしたんだい?」

 

「なに、軽い挨拶代わりさ」

 

「……へええ。なら、私からの挨拶も受け取ってくれるかな?」

 

「いいだろう。だが私はさっきやったから、次は別の者に代わるわ――さあ、やってやりなさい! もこたん!」

 

「も、もこたん!? というか何故私が?」

 

「文はあまりやる気なさそうだしね」

 

「私がやると守矢神社と揉めるので勘弁してください。さすがに天狗の一員としては介入できませんよ」

 

「なんだ、仲間割れかい? 私に怯えているのか? だとしても……許さないよ」

 

 騒いでいるレミリアたちを巨大なカエルのようなオーラを出して威圧する諏訪子。

 

「ほほう……さすがの神力ね」

 

「――ガキンチョが生意気言いやがって。神だか何だか知らないが、あまり粋がると火傷するぞ」

 

 威圧してくる諏訪子だが、百戦錬磨の妹紅は意に介さずに睨み返した。

 

 ――おおー、さすがもこたん。趣味で月人と殺し合いをしているだけあるわね。荒ぶる神にも怯まないか。

 

「が、ガキンチョだと! 私が誰かわかって言ってるのか!?」

 

「知らん。誰だ?」

 

「私は洩矢諏訪子! この守矢神社の真なる祭神さ!」

 

「ふ~ん」

 

「リアクション薄っ! もっと畏怖するか、敬うかあるでしょ!」

 

「その見た目で畏怖しろって言われてもなあ」

 

「ふ、ふふ……初めてだよ。この私をここまでコケにしたのは」

 

「文句があるなら弾幕で語れ! 妹紅はそう言っているわ」

 

「言ってないだろ。いや、まあいいけどさ」

 

「上等さ! かつては祟り神として一国を支配した私のチカラ、見せてやろう!」

 

 

 諏訪子も妹紅も引かず、レミリアも煽ることでいよいよ二人が弾幕ごっこを開始した。

 この事態に文は一刻も早く騒ぎを収めようとする……はずもなく――

 

「これは素晴らしい! 普段はあまり表に出ない守矢神社の謎の神VS迷いの竹林の不死鳥! ここまで案内してきた甲斐がありました――って、あれ? レミリアさん、凍った早苗さんを持ってどこに行くんですか?」

 

「神社の中」

 

 

ーーーー

 

 

 レミリアは守矢神社の台所に来ていた。

 

「お、さすがは外の世界から来た神社ね。現代のキッチンが並んでいるわ。電力は河童から融通してもらってるのかしら?」

 

 我が物顔でヤカンに水を入れ、火をつけて沸くのを待つ。

 外からは妹紅と諏訪子が激しく戦う音が響いていた。

 

「私が炎で溶かしてもいいんだけど、失敗したら焼き早苗になっちゃうからね」

 

 ヤカンの水が沸騰したら、凍った早苗の頭にトクトクとかけ出す。

 何度かそれを続けていると段々と早苗を覆う氷が溶けていく。

 

「――あつ、あっつい! 顔が! 顔に熱湯があああ!」

 

「お、溶けた♪」

 

 顔の氷が溶けたことに気をよくしたレミリアはそのまま体にも熱湯をかけていく。

 

「しぶきが顔に! 出れる! 自分で出れますから、熱湯をかけるのをやめてくださいい!」

 

 バリバリと身体の氷を砕きながら、必死に這い出す早苗。

 

「復活おめでと。並の人間なら凍傷になってたわね」

 

「……いやいや、普通の人間なら死んでましたよ」

 

「さて、早速で悪いけど、ヤンチャしてる二人を止めに行くわよ」

 

「え? どういうことですか? 凍ってる間は外の情報が入ってないんですけど」

 

「あなたのとこのカエルの方の神が暴れているのよ」

 

「諏訪子様が!? いけません、あの方は正真正銘の祟り神ですよ!」

 

「まあその相手も只者じゃないけどさ」

 

 

ーーーー

 

 

「恐れ敬え! 我こそは土着神の頂点!」

 

 ───源符「厭い川の翡翠」

 

 早苗が生み出した水流をも超える鉄砲水が妹紅に襲い掛かる。

 

「常に水が火より強いと思うなよ! 吹き上がれ! フジヤマヴォルケイノオオオ!」

 

 富士山の大噴火が如き炎が諏訪子の鉄砲水とぶつかり合う。

 あまりにも大量の水が瞬時に蒸発した衝撃で、元々荒れていた神社の境内はさらに目も当てられない惨状となった。

 

「ちぃっ! 相殺しただけか。焼きガエルにしてやるつもりだったがな」

 

「ケロケロケロ。なるほど、言うだけの実力はあるね。だが、次こそ真なる恐怖を味わわせてあげよう」

 

「はん! この私に恐怖とはな。面白いじゃないか」

 

 

「はーい、諏訪子様! もう終わりですよー!」

 

「え、早苗? 氷は溶けたの?」

 

「ええ、私は大丈夫です。なので弾幕ごっこはそろそろ終わりにしてください」

 

「そうはいかない。祟り神が舐められたまま終われないよ。早苗もいずれ完全に神になるならそのあたりを――」

 

「晩御飯抜きにしますよ」

 

「さあ、祭りは終わりだ! いやーなかなか楽しめたよ、諸君」

 

 そう言うと圧倒的な手の平返しで神社の中に戻っていく諏訪子。

 

「ええ……おい、ちょっと……」

 

 勝手に戦いを止められた妹紅は消化不良で立ち尽くしていた。

 

「ご苦労様、妹紅」

 

「おい、レミリア。あのカエル神、自分勝手にもほどがあるんだが」

 

「神ってのはそういうもんでしょ。さ、私たちもご飯をいただきましょう」

 

「お、おう……」

 

 

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