レミリアは激怒した。必ず、かの邪智暴虐の
何もしていないのに神社が倒壊した腹いせとして霊夢に退治されたのだ。
これもすべてあの不良天人が、霊夢をおびき寄せるために地震を起こしたから。
「本来の時系列だと吸血鬼のレミリアは日光を遮る物が無い天界には行けない。けれど
そう思い立ったレミリアは妖怪の山の頂上から天界に乗り込んだ。ちなみに道中の番人などの妨害は透明化魔法や蝙蝠変化を駆使してすべて回避している。
「あれ、レミリアじゃない。やっほー、奇遇だね」
天界に到着すると昼間から飲んだくれている伊吹萃香を発見した。
「たしかに奇遇ね、萃香。どうしてここに?」
「ちょっと天界の一部を借りててね。しかし、お前さんに会うなんて思わなかったよ。ここは吸血鬼の苦手な日の光が降り注いでるのに」
「私くらいになると日光程度どうってことないのよ」
「へええ、流石だね。わざわざ天界に来たのはあいつに会いに来たのかな?」
「そう。そいつに会いに来たのよ」
「あいつとかそいつとか、私には比那名居天子という名前があるのよ」
そう名乗りながら現れたのは刃のない柄だけの剣を携えた少女。紅い瞳に腰まで届く青髪、頭には桃の実と葉が付いた帽子を被っている。
「早速お出ましか。お前――天子が地震を起こして博麗神社を壊した犯人ね?」
「うふふ……そうよ。まさか吸血鬼が来るとは思ってなかったけど、貴方も私を懲らしめに来たのかしら?」
「そういうことね。悪戯も結構だけど、少々やり過ぎたわ。お灸をすえないとね」
「ふっふっふ、吸血鬼風情に出来るかしらね? 生粋の天人たるこの私に」
――そういえば天子はこの段階だと手加減をしてわざと負けるんだっけ。それではつまらないわね。ここはひとつ、煽っておくかな。
「おまえを倒すなど造作もない。ついでに天界の一部をもらって私の別荘を建てるとしよう」
「は? 別荘?」
「ここなら見晴らしもいいし、悪くない立地ね」
「おおー、いいじゃないか、レミリアー! そこで宴会もできるね!」
「そういうことよ、萃香。早速、別荘の設計図の作成をパチェにお願いしないとね」
「建造は私も手伝うよー。だから私の部屋も作ってよね」
「ええ、いいわよ」
「さっすが、話がわかるー♪」
「ちょ、ちょっと待ちなさい! 何を勝手なことを言っているのよ! そんなの許すわけないでしょ!」
「私を呼び寄せたのはお前の暇潰しの結果だ、天子。不満があるなら力ずくで止めてみるんだな」
「む……」
「それと忠告をしよう。どうやらお前は私に手加減するつもりだったようだが、本気でやった方がいいぞ。そうでなければ相手にもならない」
「な……なんですって!」
「まあ私はどちらでもいいがな。お前がやる気になろうが、どうしようが、ここに別荘を建てるのは確定事項だ」
「――! ふ、ふふ……。たしかに博麗の巫女が来るまでは手加減をして適当にあしらうつもりだったけど、ここまで天人を馬鹿にされたら仕方ないわね。あんたはこの比那名居天子がコテンパンにしてあげるわ!」
天子が腕を振ると柄だけだった剣から刀身が現れた。
「そうでなくては面白くない。名乗りが遅れたな。私は紅魔館のレミリア・スカーレット。闇を統べる吸血鬼たちの女王だ」
「レミリアね。私を本気にさせたこと、すぐに後悔させてあげるわ……いくわよ!」
「かかってこい、天子!」
「これが天人だけが扱える緋想の剣よ!」
ガアンッ!
緋想の剣の一撃をグングニルで弾くレミリア。
まだまだと、天子は連続して切りつける。目にもとまらぬ早業が振るわれるが、レミリアは的確にいなしていく。
「はっは! 天人といえば軟弱な連中ばかりかと思ったが、なかなかの剣さばきじゃないか!」
「甘いわね! たしかに天人は穏やかで平和的な者が多い。けど、迎えに来る死神を返り討ちにする必要があるから皆それなりに腕は立つのよ! そして私はその中でも武闘派!」
「なるほどな!」
ガアアアン!
大きく振りかぶった緋想の剣を叩きつけるが、グングニルで受けられる。そのまま鍔迫り合いの形となり、押し切ろうとする天子だが、レミリアはニヤリと笑うと口を開いた。
「? なにを笑って――」
訝しむ天子に向かって激しい炎が吐き出された。接近した状態から放たれたそれは、躱す間もなく不良天人を飲み込む。
「ぎゃああああああーーー!?」
「あははははは!」
焼き天子になって転がるさまを大笑いしながら眺める萃香。
酔っ払いにとってはこの戦いもただの酒の肴である。
「ハアッ……ハアッ……! ずいぶんと舐めた真似をしてくれるわね!」
「おや、大丈夫か? まだ髪がチリチリ焦げているが」
「ぶっ殺す!!!」
激怒した天子が集めた気質を一気に解き放つ。解放された気質は衝撃波となり、周囲一帯に襲い掛かった。レミリアは吹き飛ばされないように、防御を固めて対抗する。
「むっ――!」
衝撃波で周囲を薙ぎ払った天子は、その余波に乗り、一息で上空に飛び上がる。
「はあああああああ!!」
上空の天子は巨大化させた物体――要石を抱えてレミリア目掛けて急降下する。
「うりゃああああっー! ぶっつぶれろォォッ!」
「おおっ!(ハルクかと思ったらDIO――!?)」
大地の力が働いているのか、凄まじい速度で落下する要石。
「ちいいいいっ」
横に回避することで隙が出来るのを嫌ったのか、レミリアは無数の蝙蝠に分裂することを選んだ。
「なにっ!?」
轟音を響かせて地面に激突する要石。衝撃でクレーターができ、岩や土砂が爆散する。
「どこに逃げた!?」
クレーターの中や吹き飛んだ岩石の影など隠れることが出来る場所を見ても、レミリアの姿はどこにもなかった。
「――?」
そのとき天界に住んでいる者にとっては珍しいことが起こった。
大きな影で太陽の光が遮断されたのだ。
ここは雲の上の天界。地上と違ってよほどのことがない限り、日光が遮られることはない。
ハッとした天子が上を見上げると、その原因はすぐに見つかった。
「ふふふ……気付くのが遅かったわね!」
「レミリア――!」
天界よりも更に上空を飛ぶレミリアは両手を上に掲げていた。
もちろんそれは降参のポーズなどではない。
両手の先には直径50mにもなる巨大な紅球が浮かぶ。
「これが――紅魔玉だ!!!」
満を持してレミリアが紅球を投げつける。
「はあああああーーー!」
対して天子は周囲の気質を緋想の剣に集め、上空に一気に解き放った。
「全人類の緋想天!」
レミリアの紅魔玉を天子の気質砲が迎え撃つ。
激しく空中で激突する両者のエネルギーだが、やや天子の分が悪いようだ。
溜めるのに十分な時間があった紅魔玉に比べ、即座に放った全人類の緋想天はチャージ時間が短く、周囲の気質を完全に集めきれていない。
「こんなもの………!!!! こ……ここ……こんな……もの…………!!!」
必死に支える天子だが、じりじりと紅魔玉に押されていく。
「こっ……こんな………!」
とうとう支えきれなくなったのか、天子からの気質砲の放射が止まる。
邪魔するものがなくなった紅魔玉は容赦なく地表に襲い掛かる。
天界とはいっても雲しかないわけではなく、山や植物、土を含む地面は存在する。
巨大な紅球は地表に激突すると大爆発を起こし、山が吹き飛び、要石の衝突を遥かに超える規模でクレーターが出来上がった。
「ああああーーーっ!」
天子は紅魔玉の爆発に悲鳴を上げる間もなく飲み込まれた。
先程叫んだのは寝転がって酒を飲んでいて逃げ遅れた萃香だ。
「ちょっとやり過ぎたかしらね?」
クレーターの傍に降り立って呟くレミリア。
天人がこれくらいで大けがを負うとは思っていないが、気絶くらいはしているかと辺りを見渡していると声がかかった。
「――生憎だけど、これくらいじゃ全然足りないわ」
「――!」
立ち込める煙の中から歩いてきたのは天子。その歩みは堂々としていて、一見、ダメージがないように見える。
それどころか身体の周りを赤いエネルギーがスパークして、圧倒的な強者の威圧を感じさせた。
「私の紅魔玉を耐えるとはやるわね」
「“無念無想の境地” ――超天子になった私はどんな攻撃も効かない無敵の魔神よ。あんたに勝ち目はないわ」
「ふっふっふ……面白い。では試してみるとしよう」
───息符「ドラゴンブレス」
レミリアの口から再度のブレスが吐き出された。
先程の炎とは違い、今度は龍属性を持つ、赤黒いビームのようなブレスだ。
それに対して天子は避けるそぶりを見せず、正面から受け止めた。
ブレスの直撃にダメージがないどころか、のけぞりすらしない。
「うふふふ! かゆいわね、レミリア!」
――たしか無念無想の境地はダメージを減少させるけど、無敵状態ではないはず。つまり、こいつはやせ我慢をしているだけ……それも凄いレベルで! なるほど、ドMの名をほしいままにするわけね。
「ならば直接攻撃に切り替えるまでだ!」
グングニルを構えて突撃するレミリア。
「無駄無駄無駄ぁ! 弾幕だろうと槍の一撃だろうと、この超天子には無意味とまだわからないの!」
先程と同じく、天子はその場から動かず、自分自身で攻撃を受け止めた。
「ぬん!」
ガアアアン!
身体の中心を貫いているはずが、硬すぎる天子はレミリアのグングニルですら外皮で止めてしまった。
「お返しよ!」
攻撃を自身の腹で止めた天子はそのまま緋想の剣でレミリアの左肩を貫いた。
「ぐっ――!」
「あっはっは! ようやくその顔を歪めてやったわ!」
「この私に傷をつけたことは誇っていいぞ! だが――」
緋想の剣に左肩を貫かれながら、レミリアは右手のツメを勢いよく天子の胸に突き立てる。
「――ツメ!?」
「そう! このレミリアの最強の武器はグングニルではなくこのツメだ!」
───エナジードレイン!
「あああああああああああ!!!」
吸血鬼の女王のエナジードレインが天人の生命力を根こそぎ奪い取りにかかる。
「な……めんじゃ……ないわよ――!」
生命力を吸われながら、緋想の剣をより深く食い込ませようと足掻く天子。
「ふはは! 我慢比べだな!」
左肩から胸にかけてじりじりと剣が食い込んでくるが、ツメを突き立たせたまま、離すそぶりを見せないレミリア。
「――う……あ……あああぁぁ………」
さすがに声が弱々しくなっていき、ついには力尽きる天子。
「タフなやつだ……ん?」
完全に意識を失ったはずの天子だが、緋想の剣を握りしめ、しっかりと両の足で立ったまま沈黙していた。
「意地でも倒れないか。天晴れよ、比那名居天子」
その後、吸いすぎた生命力をこっそりと天子に返すレミリア。
緋想の剣で斬られた箇所はかなり深い傷だったが、すでに見た目ではわからないくらい修復している。
「二人ともお疲れー」
紅魔玉の爆発に巻き込まれた為、見た目はボロボロになっている萃香が近寄ってきた。
並の妖ではチリも残らないが、流石に鬼の総大将はピンピンしていた。
「あら萃香、ずいぶんボロボロね」
「ひどいよレミリアー。私まで巻き込まないでよね」
「あんた油断して寝転がってるからでしょ」
「いやー、まさかあんな広範囲を吹き飛ばすやつがくるとは思わなかったから」
「地上だと紫がすっ飛んでくるからそうそう使えない技だけど、天界ならいいでしょ」
「そうだね。天界は土地余ってるし」
土地が余っていようが住人が聞いたら全力で否定するような会話を繰り広げながら、吸血鬼と鬼は天界の別荘をどんな風にしようか楽しく計画を練るのだった。