レミリア・スカーレットの挑戦   作:Amur

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第三話 『吸血鬼異変(後編)』

 紅魔館に突入した射命丸文はすぐに異変を感じていた。

 

 ───おかしい。いくら何でも広すぎる。

 

 幻想郷一のスピードを誇る彼女が飛んでいるにも関わらず、館の廊下に終わりが見えない。

 

「どうやら館内の空間に手を加えているようですね」

 

 考えながら飛行を続ける文だが、突然、大量のナイフが目の前にあった。

 

「!!」

 

 緊急回避でナイフを避ける文。

 

「あ、危なかった。何ですか、これ」

 

「今のタイミングで避けますか。この紅魔館に乗り込んでくるだけはありますね」

 

 文が声の方を向くと、そこには完璧にメイド服を着こなした少女が立っていた。

 

「吸血鬼の館に人間……ですか?」

 

「はい、私は人間です」

 

「一応確認しますが、吸血鬼を狙うハンターではありませんよね?」

 

「そんな時期もありましたが……今の私は紅魔館のメイド長、十六夜咲夜です」

 

「そうですか。私は当主のレミリア・スカーレットに用がありますので、これで失礼します」

 

 文字通り、目にもとまらぬ速さで飛び去ろうとした文だが───咲夜が空間に干渉すると急速に動きが鈍くなった。

 

「私の動きが遅い……!?」

 

「招待客の方をもてなすのが私の役目。すぐにどこかに行かれては困ります」

 

 咲夜は戸惑う文にナイフを放つ。投げたナイフは一本だが、速度が凄まじく、文は辛うじて避けた。

 

 しかし、避けたはずのナイフが壁に当たり、反転して文を襲う。そしてそれを避けても再び反射したナイフが迫る。

 

「妙なチカラのせいで動きが鈍いですが、それでも私の方が速いですよ!」

 

「その状態で避け切るなんて凄いわね」

 

 咲夜は文を称賛しつつ、大量のナイフを操り一斉に放った。

 

「風よ!」

 

 文にナイフが殺到するが、彼女は自身を守るカマイタチを発生させ、すべてをはじき返した。

 

「厄介な風ね。ナイフでは突破に苦労しそうだわ」

 

「あなたがそれを言いますか。1000年を生きる私ですらあなたの能力は脅威ですよ」

 

「お褒めにあずかり恐悦至極」

 

「……仕方ありません、予定変更です。あなたを倒して当主のところに案内してもらうとしましょう!」

 

「やってみろ、この咲夜に対してッ!!」

 

 

ーーーー

 

 

「……」

 

「……」

 

 図書館ではパチュリー・ノーレッジとスキマで館内に侵入した八雲藍が対峙していた。

 藍は油断なく観察しているが、パチュリーの方は目の前の藍を気にせず、本を読んでいた。

 

「魔法使いよ、何故そんなにやる気がない。お前もこの館の一員だろう」

 

 藍が声をかけるとパチュリーが渋々、返事をする。

 

「……私としては幻想郷に来れればよかったの。暴れているのはレミィ───紅魔館当主レミリアのわがままよ。正直、私も困っているのよ」

 

「そ、そうか。お前も苦労しているようだな」

 

「分かったのなら帰って」

 

「だが、お前がチカラある魔法使いであることには違いない。紫様の命でレミリア・スカーレット以外の妖怪は捕縛させてもらう」

 

 藍が腕を振ると次々と魔方陣が現れる。

 

「大人しく捕まればよし、抵抗するなら少々手荒になるぞ」

 

 藍の周囲には合計十二個の魔方陣が配置されていた。

 

「……はあ。嫌になるわね」

 

 溜息を吐きながらも大人しく捕まる気はないようで、パチュリーは五色の石を呼び出した。

 

 

ーーーー

 

 

「さて、吸血鬼さんはどこかしら」

 

 壁にあけた穴から紅魔館に入った風見幽香はレミリアを探してうろついていた。

 

「やっぱり吸血鬼らしく地下にでもいるのかしら」

 

「残念、ハズレ~!」

 

 声と同時に炎を纏った紅い剣が幽香に叩きつけられる。

 

 幽香は避けようとはせず、妖力を高めた自身の腕でその一撃を受け止めた。

 

「うはっ! 凄い! 私のレーヴァテインを素手で止めたのはあなたが初めてよ!」

 

「それはどうも。お嬢さんもなかなか良い一撃だったわよ」

 

「私はフラン。フランドール・スカーレット」

 

「フランちゃんね。スカーレット……ということはこの館の当主の関係者かしら?」

 

「そうよ! 私はレミリアお姉さまにあなたの相手をするよう言われているの」

 

「なるほど……当主自らではなく妹を差し向けたのね」

 

「お姉さまは別の来客の相手で忙しいらしいから」

 

「ふぅん……つまり私はその来客より下に見られたということね?」

 

「さあ? お姉さまは何を考えているかわからないときがあるから。それにあなたも私を甘く見ない方がいいわよ? これでも西洋諸国では悪魔の妹として有名だったからね」

 

「それは失礼したわね。当主には後で言いたいことを言うとして、まずはあなたの相手に集中しましょうか」

 

 獰猛な笑みを浮かべながら幽香が妖力を高めていく───

 

 

ーーーー

 

 

 妖怪の賢者と紅い吸血鬼の戦いは続いていた。

 

 紫はスキマから大量の卒塔婆を発射する。あえて狙いを付けずに放たれた卒塔婆は無作為に襲い掛かる為、逆に動きが読みづらくなっていた。

 それに対して激しい炎を吐き出し迎撃するレミリア。

 卒塔婆と炎の衝突で発生した爆炎が視界をふさぐ中、紫は自身の上半身をスキマに滑り込ませる。

 レミリアの前には紫の下半身だけが残されていた。

 その下半身にグングニルの槍を投げつけるが、実体が存在しないのかすり透けてしまう。

 

 次の瞬間、背後から現れた紫の上半身が腕を振ると、巨大なツメが出現してレミリアを叩き落す。

 

「ぐはっ!」

 

 地面に叩きつけられるレミリア。

 すぐさま起き上がるが、そのときには再び紫が多数のスキマを呼び出していた。その数は10を超える。

 

 新たに呼び出されたスキマの奥に見えるのは、先程まであった目とも異なる巨大な目玉。

 それらすべてがレミリアをじっと見つめている。

 

「なんだ? こいつらは……ただ見ているだけか?」

 

「これらは幻想郷の変容を見守る眼。もちろん、ただ睥睨するのではなく、誰かさんのようなやんちゃ者を懲らしめる役目も持っています───こんな風にね!」

 

 紫は結界のごとき弾幕を放ち、レミリアを追い詰める。炎や弾幕で迎撃も考えるが、視界が悪くなることを考え、レミリアは回避を選択する。しかし、あまりの物量にすべてを避けることはできなかった。

 

「ちっ!」

 

 レミリアに弾幕が命中した瞬間、巨大な目玉のすべてから追撃の光弾が放たれる。

 

「なっ───ぐああああああっ!」

 

 レミリアは光弾を食らいながらも、グングニルを投げるが、紫にあっさりと避けられてしまう。

 

「───ふ、ふっふ……やってくれるな」

 

 それでもレミリアは笑うが、かなりのダメージが蓄積していた。

 

「まだ笑う元気がありますか。呆れた頑丈さですね、けれどもう終わりです」

 

「なに?」

 

 紫が腕を振ると多重結界が現れ、レミリアを取り囲む。

 咄嗟にレミリアは高速飛行で脱出しようとする。

 

「逃がしませんよ」

 

 多重結界が回転すると、逃れようとするレミリアを吸い寄せる。

 

「なんだと!?」

 

 一瞬、動きが止まったレミリアを紫がスキマからの高速レーザーで狙い撃つ。

 

「ぐっ!」

 

 レーザーが直撃したレミリアをすぐさま多重結界が取り囲み、今度こそ結界内に捕えてしまった。

 レミリアを捕らえた多重結界は内部に激しいスパークを巻き起こす。

 

「がああああああっ!!」

 

「ふーーー。この結界に捕らえるのは苦労しましたが、さすがに今の体力では脱出は不可能でしょう」

 

「グ……ギ……やってクれる───! たしかに……キついな───グッ!」

 

「ならば降参なさい」

 

 結界内でスパークを受けながら、尚もレミリアは笑う。

 

「ふははは───! ことわるぞ、八雲紫!」

 

「───! この魔力はどこから!?」

 

 大きな魔力を感知した紫が急いで周囲を確認すると、不気味に発光するグングニルの槍を見つけた。

 本来、妖力の塊であるその槍は投擲後に消えるはずだが、何故か地面に突き立ったまま残っていた。

 そして槍は6本あり、六芒星の頂点を描くように配置されていた。

 

「槍で六芒星を…!?」

 

「気が付いたか! だがもう遅い!」

 

 

 宇宙空間を隔てた彼方───月面に異変が生じていた。

 それも表の月ではなく、博麗大結界に遮断されていない方の月だ。

 その表面に無数の雷が発生していた。雷は数を増やしながら、徐々に一点に集中していく……集められたエネルギーが限界に達すると、それは巨大な光となり、幻想郷に向けて発射された。

 光の柱は一瞬にして宇宙空間を駆け抜ける。

 

「宇宙から!?」

 

「さあ、共に吹き飛ぼうか、八雲紫! 私は頑丈さには自信があるぞ!」

 

 光の柱───月神降舞(ルナテック)が紅魔館を直撃した。

 

 

 一点に集中したとはいえ、そのエネルギーは膨大であり、紅魔館の玉座の間は完全に消滅。その周辺も瓦礫の山となっていた。

 

 

「お嬢様ーーーっ!」

 

 主の危機に思わずやって来たのか、咲夜が血相を変えて飛び出す。その姿は文との戦いでボロボロになっていた。

 玉座のあった周辺を探すが、レミリアの姿はどこにもなかった。

 

「ぐ……うう……」

 

「!」

 

 咲夜が振り向くと、そこにはスキマから這い出す紫の姿があった。

 辛うじて四肢は無事だが、その姿は満身創痍でもはや満足に動けそうにはなかった。

 

「貴様!お嬢様をどこにやった!?」

 

「……わかりませんわ。ただ、レミリアも彼女自身の攻撃に巻き込まれたようです。私は咄嗟にスキマに逃げましたが、完全には避けきれずにご覧の有様です」

 

「そんな……お嬢様───」

 

 

「……安心しなさい、咲夜。私はここにいるわ」

 

 瓦礫をどかしてレミリアがゆっくりと姿を現した。その姿は酷いもので、両翼はなくなり、上半身もひどい火傷を負っていた。しかし、少しずつ身体は再生を始めているようだ。

 

「お嬢様!良かった!」

 

 咲夜が駆け寄り、レミリアを支える。

 

「やあ、紫……お互い無事なようで何よりだ」

 

「これのどこが無事だと言うの……」

 

「どうする……まだ続けるか?」

 

「はあ……互いにそんな余力はないでしょうに」

 

「ふっふっふ……さて、どうかな?」

 

「終わりです、お・わ・り」

 

「そうか、なら引き分け……いや、違うか」

 

 

「ご無事ですか、紫様」

 

 藍がパチュリーを尾で捕らえた状態でやってきた。激しい戦いがあったようで、藍も疲労しているが、パチュリーは目を回している。どうやらこの九尾の狐に軍配が上がったようだ。

 

「だからこれが無事に見えますか」

 

「は、はあ……。しかし、まさか紫様がここまで追い詰められるとは……」

 

 

「おやおやっ!? これはスクープです! こんな姿の紫さんは滅多にお目にかかれませんよ!」

 

 咲夜が戦いを切り上げて玉座の間に向かったため、それを追って文もやって来た。見たところ、咲夜よりも消耗は少なそうだった。

 

「写真に撮ったら怒るわよ天狗……」

 

 釘を刺す紫だが、文の方は記事にする気満々だった。

 

 

「あなたがレミリア・スカーレットね? 困るわね、そんな状態じゃあ。せっかく手合わせをお願いしようと思ったのに」

 

「うわっ、お姉さま。凄いことになってるね」

 

 最後に風見幽香とフランドール・スカーレットがやって来た。それぞれの服は襤褸切れのような有様だが、余裕はあるようだ。また、何故か割と仲良さげな様子だった。

 

 ───藍、文、幽香か。やっばいわ……これ。幻想郷でも上位の化け物が三人も来ちゃったか。

 

 内心でドキドキしながらもレミリアは紅魔館の敗北を認めることにした。

 

「……どうやら私の仲間たちは敗退したか、形勢不利らしい。仕方ないな……特別に今回は紅魔館の負けということにしておいてやろう」

 

「なぜ敗北宣言がそんなに偉そうなのですか……」

 

「だが紅魔館はまだまだ強くなる。次はこうはいかんぞ」

 

「もう嫌です。次なんて考えたくもありません」

 

「ふふふ……まあ、そう言うなよ」

 

 

 

「ぜーっ、ぜーっ」

 

 レミリアが紅魔館の負けを認めたころ、門前では紅美鈴と天狗の軍勢の戦いも決着がついていた。

 その場で無事なものはいないが、立っているのが美鈴だけということは、彼女は門番としての仕事をやり遂げたということ。

 

「うおおおお! やりましたよ、お嬢様! この紅美鈴、門番の任を全うしました!!」

 

 天に向かって咆哮する美鈴。

 今回の戦いの中、紅魔館勢で完璧に勝ったのは彼女だけといえる。

 

 

 こうして吸血鬼異変は史実通り?紅魔館の敗北という形で幕を閉じた───。

 

 

 




 吸血鬼異変が終わりました。
 次はエピローグになる予定です。
 早く主人公勢を出したい。


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