レミリア・スカーレットの挑戦   作:Amur

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第三十三話 『お嬢様の華麗なる一日』

午前3時

紅魔館――

 

 レミリア・スカーレットの朝は早い。

 日光を克服した彼女に隙はなく、人間と同じ日中でも一般的な吸血鬼と同じ夜間でも好きな時に活動することが出来るからだ。

 

 この日のレミリアは香霖堂に用事があったので朝の3時に起床していた。

 幻想郷の自由な連中は昼夜関係なく香霖堂を訪れて店主を困らせているが、吸血鬼の女王として礼儀も弁えている紅魔館の主はきちんと日が出てから来店することにしている。

 

 

ーーーー

 

午前5時

香霖堂――

 

「おはよう、店主! このレミリアが来てあげたわよ!」

 

 勢いよく入り口を開き、ずかずかと店内に入るレミリア。

 ちなみに以前は扉に鍵がかかっていたが、傍若無人な少女たちに何度も壊された結果、店主は鍵を付けることをやめた。

 

「ダメじゃないまだ寝ているなんて! とっくに日は昇っているわよー!」

 

 レミリアが騒いでいると、店の奥から一人の男性が現れた。

 銀髪に金の瞳、眼鏡をかけ、黒と青の左右非対称の特徴的な服装をしている。

 彼がこの香霖堂の店主――森近霖之助だ。

 

「…………レミリア?」

 

「もう開店時間は過ぎているわよ!」

 

「いや、君。開店時間は……」

 

「さっそく最近仕入れた商品を見せてもらえるかしら?」

 

「……はあ。かしこまりました、お嬢様」

 

 諦めた霖之助は商品を棚から持ってくる。

 

 レミリアはそろそろ携帯が幻想入りしてるはず……とか言いながら商品の山をゴソゴソし始めた。どれも店主がそこらへんから拾ってきたものだ。

 

「……ところで霖之助」

 

「なんだい?」

 

 商品を探しながら何気なく問いかけるレミリア。

 

「慧音とはどうなのかしら?」

 

「ぶっ!?」

 

 唐突なレミリアの発言に噴き出す霖之助。

 

「な、なにを言っているんだい? 僕と慧音は別にそんな……」

 

「そう? なら魔理沙とは?」

 

「……魔理沙は可愛い妹分さ」

 

「ふ~ん……」

 

 ――う~ん。今のままだとちょっと厳しいわよ、魔理沙。はやいところ妹ポジションから脱却しないと負けてしまうわ。

 

 夜の帝王たるレミリアだが、少女としてやはり恋愛話に興味があるようだ。

 

 ガラケーが幻想入りしているだろうと探したレミリアだが、残念ながらまだ香霖堂にはなく、切り上げて人里に向かうのだった。

 

 

ーーーー

 

午前9時

人里――

 

「お前、すっかり人里に馴染んでいるな」

 

「今の私は謎の人間の少女レミィちゃんよ。馴染むのは当たり前」

 

 いつも通り、人里では羽を隠して人間の振りをしているレミリア。

 今は授業の準備をしている慧音の寺子屋で、のんびりと中華まんを頬張っていた。

 

「ところで慧音」

 

「なんだ?」

 

「霖之助とはどうなのかしら?」

 

「ぶっ!?」

 

 唐突なレミリアの発言に噴き出す慧音。

 

「な、なにを言い出すんだ? 私と霖之助は別にそんな……」

 

 ――こいつら、反応が同じ!

 

「いや、なに。今日は朝から香霖堂に買い物に行ってね」

 

「ほ、ほう?」

 

「そこで慧音の話題も出たのよ」

 

「ほ……ほほう?」

 

「――さて、授業の邪魔しちゃ悪いし。そろそろ行こうかな」

 

「!? お、おい……私の話題が出てどうなったんだ?」

 

「ん~……ひみつ♪」

 

「おいいい! そこまで言っておいて――」

 

 レミリアは脱兎のごとく寺子屋を出ていった。

 

 

「悪いわね、慧音。どちらかといえば私は魔理沙寄りの中立よ。これ以上は言えないわ」

 

 ひとりごとを言いながら、移動するレミリア。

 

 

ーーーー

 

午後1時

霧雨魔法店――

 

「ほら、魔理沙。キノコばっかり食べてないで肉も食べなさい」

 

 レミリアは持参した肉(非人間)でバーベキューをしていた。

 

「いや……レミリア。差し入れは有難いんだが、別に私はキノコしか食べていないわけじゃないぜ?」

 

「その割には発育が悪いわね」

 

「うるさいな。お前には言われたくないぜ」

 

「そんなことじゃあ、いつまでたっても妹分扱いで振り向いてもらえないわよ」

 

「は? なんのことだ?」

 

「霖之助のことよ」

 

「ぶっ!?」

 

 唐突なレミリアの発言に噴き出す魔理沙。

 

「な、なにを言うんだ? 振り向くって……私と香霖は別にそんな……」

 

「あんたら……もう三人で一緒に住んだら?」

 

「三人??」

 

 言われた意味は分からないが、呆れた目を向けるレミリアに魔理沙は憤然と言い返す。

 

「魔道の探求に忙しい私に色恋沙汰にかまっている暇なんてないぜ」

 

「あれだけ恋符やら恋心やらをスペカ名につけといて?」

 

「それはそれ、これはこれだ」

 

「やれやれ……そんなんじゃあ慧音や霊夢に先を越されるわよ」

 

「えっ? 慧音や霊夢って……あいつらに限ってそんな浮いた話があるわけ……まさか、ほんとに?」

 

「あら、色恋沙汰に興味はないんじゃなかったの?」

 

「う……いや、やはり親しい人間の交友関係は把握しておかないとな。それで、どうなんだ?」

 

「あー、昼間から肉を焼きつつ飲むワインは上手いわね」

 

「そ、そうだな。……ところでさっきの話だが」

 

「さて、あまり食べすぎて夕食が入らなくなったら困るし、このくらいにするかな」

 

「いや、だからレミリア」

 

「余った肉はあげるからしっかり食べなさい。じゃあね~」

 

「おい、ちょっと――」

 

 呼び止める魔理沙の声を振り切り、レミリアは紅魔館への帰路に就いた。

 

 

「個人的には味方をしてあげたいけど、あまりに贔屓が過ぎるのもね。ま、このくらい焦らせるくらいが魔理沙にはちょうどいいでしょ」

 

 恋愛合戦で魔理沙寄りの中立と自負するレミリアとしては、多少背中を押す程度の援護が落としどころなのだろう。

 

 

ーーーー

 

午後5時

博麗神社――

 

「霊夢には誰か良い人はいないの?」

 

「いないわよ」

 

「あっさりしてるわねえ。ほら、例えば香霖堂の店主とか」

 

「霖之助さんねえ。すでにあの人に好意を持っているのが何人かいるみたいだけど」

 

「それは知ってるわ」

 

 いかにも興味はありませんといった気配を出しながら霊夢は土産のお団子を食べながらお茶を飲んでいた。

 

「すましちゃってるけど、霊夢も昔は美形の女剣士(明羅)との結婚をOKしたとか何とか」

 

「ゴファアッ!?」

 

 思わぬところで黒歴史(旧作の話)を掘り起こされて盛大にお茶を噴き出す霊夢。

 

「ゴハッ! ゴハッ! ……あ、あんた何でそれを……!」

 

「ん~。情報源は秘密」

 

「魅魔ああああああっ! 覚えてなさいよおおおお!」

 

 霊夢は額に青筋を立てて叫ぶ。

 

「あらあら。私は魅魔から聞いたとは一言も言ってないけどね~」

 

「あいつ以外にそのことを知ってて、言いふらしそうなやつなんていないわよ!」

 

 魔理沙ですら自機ではなかった頃で、霊夢が当時の黒幕だった魅魔を犯人と考えるのは不自然ではないといえる。

 

「あらそうかしら? 例えば亀……とか」

 

 ハッとした顔をする霊夢。

 

「まさか、玄爺が……?」

 

 ニヤニヤとして何も言わないレミリア。

 

 本人(亀)に聞いた方が早いと思ったのか、霊夢はかつての相棒がいる池の方に飛び出していった。

 

 もちろん、レミリアは前世の知識として知っているだけなので、魅魔も玄爺もとばっちりである。

 

「ククク……なんだかんだ言って霊夢も年頃の乙女よね~」

 

 レミリアは悪い顔で満足気に頷きながら紅魔館に帰っていった。

 

 

ーーーー

 

午後9時

紅魔館――

 

 幻想郷の少女たちの恋愛事情を引っ掻き回した確認したレミリアは紅魔ファミリーに愚痴っていた。

 

「霖之助にも困ったもんだわ。まったく進展がないんだから」

 

「霖之助さんは積極的にいくタイプではないですからね。それこそ女性側からいかないと進まないのでは?」

 

 冷静に男女の立ち位置を分析する咲夜。

 

「ま、やっぱりそうなるわよねー」

 

「そういうお嬢様こそ、恋愛的な話はないんですか?」

 

 ないんだろうな、という雰囲気を出しながらレミリアに尋ねる美鈴。

 

「私? んー……私は実質、パチェと結婚してるようなもんだし?」

 

「ブハッ!」

 

 唐突なレミリアの発言に噴き出すパチュリー。

 

「ゴホッゴホッ!」

 

「ああ、ほら。急に噴き出すから咳が止まらなくなってるわ」

 

 パチュリーの背中をさするレミリア。

 

「誰が噴き出させたのよ……」

 

「ま、でもウソは言ってないでしょ? パチェが紅魔館に来る時のアレよ」

 

「う……それはそうだけど……」

 

「え? 冗談でなく、実際にそういう展開があったんですか!?」

 

「お、おおおお嬢様??」

 

 予想外の爆弾発言に驚愕する美鈴と驚きのあまり震えて紅茶をこぼす咲夜。

 

「まあねー」

 

「あー、あれかあ」

 

 フランドールは何か事情を知っているようで納得したように頷く。

 

「ど、どんないきさつなんですか!?」

 

 美鈴が勢い込む。

 

「うふふ……秘密♪ フランも言っちゃだめよ」

 

「はーい」

 

「ええ! ここで秘密とか酷いですよ、二人とも!」

 

 お預けを食らい、憤慨する美鈴。

 咲夜はまだ動揺から立ち直れておらず、震えている。

 

 レミリアとパチュリーの出会いに関してはいずれ語られることもあるだろうが、この日はレミリアがはぐらかしたので、これ以上の話はなかった。

 

ーーーー

 

午後11時

就寝

 




修行も弾幕ごっこもない、だらだらとしたおぜうさまの一日


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