【仙界】
幻想郷とも異なる次元にある世界。
チカラのある仙人が生み出した、彼らが住まう空間である。
そこに今、招かれざる二人の侵入者がやって来ていた。
「我こそは紅魔館当主にして闇の支配者ッッッ」
「そして私は大地を操るスーパーエリート天人ッッッ」
空中に飛び上がり回転しながら名乗りを始める。
「「ダカダカダカダカ♪」」
二人のセルフドラムロールがほとばしる。
「レミリア・スカーレット!!!」
「比那名居天子!!!」
ダダンッ!
着地するとともに、口で奏でていたBGMを止める。
レミリアはこれ以上ないくらいに翼を広げて体を大きく見せ、天子は緋想の剣を高く掲げている。
「…………」
唐突に妙なものを見せられた仙界の主――豊聡耳神子はどんなリアクションをすればいいか分からず、固まっている。
「ふっふっふ。私たちのカリスマに言葉もないようね」
「しょっぱなから一発かます策は成功ね、レミリア!」
「そうね。やはり最初の印象が大事だからな」
ーーーー
時間は少し前の紅魔館に戻る――
「旧一万円札ですよ、レミリアさん! ついに復活を遂げたのです!」
珍しく紅魔館に来た東風谷早苗がテンション高く告げる。
「は? 古いお札が幻想入りしたってこと?」
こいつ相変わらず飛ばしてるな、という顔をしながら内容を確認するレミリア。
「違います! お札ではなく、旧一万円札に描かれた人が蘇ったのです!」
「旧一万円ってことは聖徳太子?」
「そうです! さすがによくご存じですね」
「そりゃそれくらいはね」
「ですが伝承と違って実際は女性でした。桜に混じって神霊が舞う異変が起こりましたが、その原因がかの聖人の復活だったのです!」
「ふむ……」
――そうか神霊廟か。星蓮船と連動してるだけあってずいぶん早いわね。もう神子が復活したのか。
何事か考え込むレミリアに早苗がおや?と反応する。
「さすがのレミリアさんも伝説の聖人が復活したとあれば警戒してしまいますか?」
「ふふ……馬鹿を言うんじゃない。神にすら膝を屈しないこの紅魔王レミリアが聖人の一人や二人でどうこうするはずないだろう」
「おおお! カ・リ・ス・マ!」
「だいたいあんたも神の一柱でしょ。現人神と聖人のどっちが上かは知らないけどさ」
「それはもちろん神子さんですよ! あ、神子さんというのは聖徳太子のことです。豊聡耳神子という名前ですが、あの方は凄いですよ!」
「ずいぶん素直に認めるのね」
「神子さんはただの仙人でなく神格らしきものも持っていますから。感服した私は神子さんのところで修行させてもらっています」
「はあ? あんた信仰を捨てたの?」
「いえいえ、まさか。道教を学ぶことで風祝として成長できるのではと考えまして。レミリアさんも神子さんに会われてはいかがですか? 今日は紅魔館の皆さんにあの方の偉大さを広めに来たのです」
「ふ~ん」
――こいつだいぶやられてるわね。さすが自機勢で影響されやすさナンバーワン。
「それにそれに! あの方はレミリアさんに勝るとも劣らぬほどのカリスマですよ! カリスマ同士、一度会っておくのもいいんじゃないでしょうか!?」
「ほほう……それは確かに面白そうだな」
「でしょう? 興味がおありなら私が――」
「そうです。神子様は貴方様にも比肩し得るチカラの持ち主です」
「え!? 誰ですか!」
どこからともなく聞こえてくる声の主を探して早苗はきょろきょろと見渡す。
しかし、部屋の中に姿は見つからない。
「青娥か」
レミリアは落ち着いて壁の方に目を向ける。
「正解! 霍青娥、ここに参上!」
ボコン!
紅魔館の外壁をくり抜いて現れたのは仙人(邪仙)の霍青娥。
「壁から!? ちゃんとドアから入ってきてくださいよ!」
「これは失礼しました、お山の現人神様。しかし、偉大なる夜の女王ともなればそんな些事は気にしないと思いまして」
「ん……まあそれはその通りね」
レミリアは腕を組んでうんうんと頷いている。
「私の勘違いでなく良かったです☆」
「ええ……(レミリアさん、ちょろい)」
「それで、青娥。あんたはその神子とやらを知っているの?」
「それはもうよく知っています。なにせあの方に道教を教えたのは私ですからね」
「ほう」
「あの方は凄いですよ。師である私をも超えてすでに神霊の域に達しています」
「神霊ねえ」
「まともにぶつかればレミリア様とて無事ではすまないでしょう」
「ほ~お?」
「ちょっとー! 煽らないでくださいよ!」
これはヤバイと察した早苗は青娥を部屋の端まで連れていく。
「(何を企んでいるんですか! そんなレミリアさんを刺激するようなことを言って!)」
「企むだなんてそんな……。私はただ超越者たちが激突する様を観戦したいだけだというのに」
早苗は声を潜めて詰問するが、青娥は気にせず普通に返す。
もっともレミリアのデビルイヤーにはすべて聞こえているのだが。
「完全に愉快犯じゃないですか! どこが“だけ”なんですか、どこが!」
「安心しろ、早苗。このレミリアが安い挑発に乗ることはない」
「おお……! さすがは裏ボスです!」
安堵する早苗がレミリアの方を向くが、吸血鬼の女王は獰猛な笑みを浮かべていた。
目は紅く輝き、幼げな顔に似合わぬ凶悪な牙を口から覗かせている。どう見てもこれから戦いに赴くかのような顔だ。
「れ、レミリアさん……?」
「けれど、聖徳太子だか何だか知らないが、この私に挨拶にも来ないのはいただけない」
「え!?」
「安心しろ、早苗。真のカリスマたる私は怒ってなどいない。理不尽に怒るはずもない。彼女らは幻想郷のルールを知らないだけなのだからな。だからこそ、無知な仙人にすこーし教えてやるだけだ」
ブンブンブンブン!
早苗が必死に首を振るがレミリアは意に介さない。
「さて、行くとするか。案内しろ、青娥」
「仰せのままに♪」
ついでにたまたま遊びに来ていた比那名居天子にも声をかけると――
「新しく幻想郷に来た仙人のところ!? 行く行く! この私に助力を頼むとはお目が高いわねレミリア! 仙人だろうが道士だろうが、片っ端から切り刻んであげるわ!」
「いや、戦に行くわけではないが……まあいいか」
――と非常に乗り気で付いてくることになった。
ーーーー
仙界――
ピシッ
「……空間の揺らぎ。何者かが侵入したようですね」
ミミズクのような髪形の少女がポツリとつぶやいた。
彼女こそこの仙界を作り出した張本人であり、聖徳王と呼ばれる聖人――豊聡耳神子である。
「なんと! は、博麗の巫女でしょうか? 太子様。我々は何も悪いことをしていないはずですが」
神子の側近である物部布都は先の異変で戦った博麗霊夢かと身構える。
怯えているように見えるが、かなり手ひどくやられたのだろうか。
「いや、噂の命蓮寺――仏教の手の者かもしれません」
もう一人の側近である蘇我屠自古は他勢力が攻めてきたかと警戒する。
為政者としてかつては仏教も利用していた彼女らだが、自身は仏教徒ではない。
「――強大な妖気! 何かが来ますよ!」
神子が警告した瞬間、仙界の空が紅い霧に覆われた。
「これは――!?」
ザッザッザッ
まさかの事態に空を見上げていると、足音が近づいてきていた。
おそらく、この異変を成した者だろう。
「た、太子様……いったい何者でしょうか?」
布都が不安気に神子の方を向く。
「わかりません。しかし、何が起こってもいいようにしておきなさい」
「は、はい!」
侵入者は悠然と彼女たちの前に現れた。
神子は油断せずに観察する。
一人は小柄だが禍々しい妖気を放つ少女。
蝙蝠のような大きな翼を持ち、青みがかった銀髪に真紅の瞳。
西洋の伝承に聞く悪魔――それも吸血鬼と呼ばれる種族だろう。
もう一人の少女は青髪のロングヘアに同じく真紅の瞳。
隣の吸血鬼とは異なり、清浄な気を感じる。
仙人である自分に近しいような不思議な気配だ。
「吸血鬼と……もう一人は仙人かな? 私の仙界に何用でしょうか」
「ふっふっふっふ……天子!」
「ええ、レミリア!」
「「とう!」」
掛け声とともに飛び上がる二人。
神子は咄嗟に身構える。
そして冒頭のスペシャルカリスマポーズに戻る――
自信満々でポーズをとっているレミリアと天子。
「………あ、あの? お笑い芸人の方は呼んでいませんが?」
神子が恐る恐るツッコんだ。
あまりにもおかしな連中の登場に、流石の聖徳王もどう対応すればいいか分からない。
「おおー! これが幻想郷の芸人というやつか!」
「いや……たぶん違うんじゃないか?」
布都は素直に喜んでいるが、屠自古は自信なさげに否定する。
「誰が芸人だ!? どこをどう見たらそうなるというんだ!」
「いや、しかし、どう見ても……」
「まあまあ、レミリア様」
憤るレミリアの後ろからひょっこりと顔を出したのは霍青娥。
「青娥!」
かつての師の登場に神子は驚くが、すぐに誰がこの状況を作ったのか察する。
「これは貴方の仕業ですか」
「ご無沙汰しております、神子様。しかし、いやですわ。仕業とは人聞きが悪いですね」
「こいつは私に言われて案内しただけよ」
そう言いながらレミリアが一歩前に出る。
「……この吸血鬼と知り合いなのか? 青娥」
「ええ、とはいえ知り合ったのは最近ですが。ご存じの通り、私は強き者に惹かれる女です。幻想郷を探索しているときにこの方を見かけて知己となったのです」
「ふむ……(確かに仙界の空を紅く染めた妖力は強大だ。青娥が目をつけるのも理解できるか)」
そこで天子が話に割り込みをかける。
「あんた! 神子だったわね。さっき、私のことを仙人とか言ってたけどそれは大きな間違いよ」
「違うのですか? では仙人見習いの道士でしょうか?」
「もっと違う! よく聞きなさい。私は天人! あんたら仙人や道士が目指すべき頂にいる者よ!」
「て、天人!? 貴方は天人様なのですか!」
すぐには信じられず青娥に目で本当ですかと尋ねる神子。
「本当のことですよ、神子様。この天子様は天界に住む天人の一人であらせられます」
「なんと……!」
神子は青娥が断言したことで驚愕に目を見開く。
「おおお! 本物の天人様に会えるとは今日は善き日じゃ!」
「て、天人……。大丈夫かしら。私、消されたりしないよね?」
道士である布都はともかく、亡霊である屠自古は予想外の相手の格の高さに引き気味だ。
「この私がわざわざ来てあげたのよ! どう対応すればいいか分かるわね?」
「これは失礼しました。すぐに客間にご案内いたします」
「よろしい!」
いつにない相手の丁寧な対応に満足気な天子。
幻想郷では天人だろうが神だろうが気にせずに弾幕を飛ばしてくる連中がゴロゴロいるので、神子ほどの実力者で自分を立ててくれる相手は新鮮なのだ。
「なんかあんたの方に意識がいっちゃって、私の影が薄くなってない?」
やや不満気にレミリアが天子に言う。
「ん? ふふふ……これも私の高貴なオーラのせいね。つらいわー隠しようもない天人力がつらいわー」
「むう……」
――まあいいわ。私のカリスマターンはこれからよ。
「では私もお邪魔させてもらいますね」
妖しげな笑みを崩さずに青娥もそれについて行く。
こうして仙人と天人、そして吸血鬼の邂逅は始まった。