レミリア・スカーレットの挑戦   作:Amur

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第三十七話 『仙界異変(後編)』

 仙界――

 

 

 レミリアと天子は客間にて歓待されていた。

 そこには後を追ってきた早苗もいる。はじめはハラハラしていた彼女だが、和やかに歓談が進んでいき、ほっとしていた。

 その横で青娥はニコニコと微笑んでいるが、何を考えているかは表情からは伺えない。

 

「天子殿はどのような修行を経て天人となったのでしょうか? 私もゆくゆくは天人に至りたいと考えています。是非とも参考にお聞かせいただければと」

 

「修行? ふっ……それは素人の考えね」

 

 不良天人は神子の質問を鼻で笑った。

 

「し、素人……」

 

「いい? スーパーエリートの私は修行なんて無しに天人になったのよ」

 

「なんと!? そのようなことがありえるのですか」

 

「あらいでか! その証拠に私は天界でも最高クラスの実力を持っている。腑抜けた並の天人たちとは違うのよ!」

 

「ほ、ほう……」

 

 神子には天子が嘘をついているように見えない。だが、仙人の目標である天人に修行もせずに成れたなどという話を鵜呑みにすることは出来ないようだ。

 

「天人様! 是非とも我に稽古をつけてくれぬか? 我はきちんとした仙人になりたいのだ。天人様の教えて受ければその近道になるかもしれん!」

 

この布都の言葉から雲行きが変わっていく。

 

「ふふん。かまわないわよ。腹ごなしに私がいっちょもんであげましょう」

 

「おお! 有難い! ラッキーだな、屠自古よ。ここは胸を借りようぞ」

 

「え!? 私もやるの?」

 

「当然だ!」

 

 食後の運動気分で天子たちが表に出て行く。

 

「あ、ちょっと、皆さん!?」

 

 経験から良くない流れだと早苗は察するが、三人はさっさと外に行ってしまった。

 

「せっかくだ。あんたは私と一手どうかしら?」

 

「む。貴方とか」

 

 レミリアも神子を誘って外に出ようとする。

 

「ちなみに私は天子より強いわよ」

 

「なに!? いかに吸血鬼といえど天人様より上だというのか」

 

「なにせ私は幻想郷で最強を決める大会の優勝者だからね。そうよね? 早苗」

 

「あ、はい。それは間違いありません」

 

「――ということよ、聖徳王」

 

「……面白い。ならば貴方に勝てば私は幻想郷で一番ということかな?」

 

「そう言っても過言ではないわね」

 

「ふ、ふふ……そうか。まさか、こんなに早く機会がやってくるとはな」

 

「あら、私に勝てる気かしら」

 

「さてね。だが、人間を導く者として避けては通れない道だと思っている」

 

 永い眠りの果てに仙人と成った彼女だが、目覚めて間もないためか、為政者だった頃の気質が強く残っている。

 

「ではこのレミリアが胸を貸してあげましょう」

 

「幻想郷最強の御仁にそう言ってもらえるとは有り難い。遠慮なくお言葉に甘えよう」

 

 二人も建物を出て外に移動する。

 

 

 

「天子殿たちはずいぶんと遠くまで行ったのだな」

 

「あまり近いと住処を壊しちゃうからね。私たちも出来るだけ離れるわよ」

 

「ふむ……承知した」

 

 神子はこの会話を流れ弾が危ないから程度のことと軽く流した。

 意味としては間違っていないのだが、流れ弾の規模を正しく理解していなかった。弾幕ごっこが始まってからそれを実感することになる。

 

 

 

「うふふ。いつでいいわよ」

 

 レミリアは微笑みながら言った。

 悠然と腕を組み、そこには強者の余裕を感じさせる。

 

 

「ではいくぞ。豊聡耳神子、参る!」

 

 神子が何もない空間を剣で斬り裂いた。

 

「ん?……ほう」

 

 レミリアが一瞬、訝しむがすぐに何が起こるか理解する。

 神子の斬撃痕が空間に残り、そこから多数のレーザーが射出されたのだ。

 

 だが、吸血鬼は腕を組んだまま、動かない。

 

「何故避けない?」

 

 挨拶代わりのレーザーで相手の出方を伺おうとした神子だったが、レミリアが微動だにしないので、次々と光線が着弾する。

 この時点で並の人間なら穴だらけになっているだろう。

 

 ほとばしる光の雨がやんだとき、そこには同じように佇むレミリアの姿があった――無傷で。

 

「なにっ!?」

 

「これが噂の十七条の憲法か」

 

「十七条のレーザーです! なぜわずかの傷もない……まさか分身を?」

 

 仙術には分身に攻撃を肩代わりさせるものがある。吸血鬼も分身を生み出せる種族と聞くので、その系統の術かと予想する。

 

「いや、そんな素振りはなかったはず……(もしくは空間移動でやり過ごして、瞬時に元の場所に戻ったか?)」

 

「単に私が強いというだけよ」

 

 レミリアは右手の人差し指を立てた。

 指先にごく小さな、紅い球が浮かぶ。

 

「馬鹿な、そのからくりは暴いて見せますよ。ではこれならどうかな!」

 

 神子が右手を高く掲げると、人間大の天球儀が現れた。

 

 

 ───道符「掌の上の天道」

 

 

「いきなさい!」

 

 天球儀が回転しながらレミリアに迫る。

 

「遅いわね。よけろと言っているようなものよ」

 

「そうだな。だが当然これだけではない」

 

 神子の言葉通り、天球儀から青く輝く光球が無数に生み出されていく。

 その動きは不規則で逃げ道を塞ぐように飛び回る。

 

「さらにっ!」

 

 剣を構えた神子が高速で接近する。

 二方向からの同時攻撃だが、レミリアは尚もその場から動かない。

 

「ふふっ――!」

 

 吸血鬼が笑うと指先の紅球が一瞬にして膨れ上がった。

 その巨大さは天を覆うほどだ。

 

「なっ!?」

 

 

 くいっ

 

 

 レミリアが指先を曲げると巨大紅球が前進する。

 その動きは緩慢に見えるが、あまりの巨大さゆえの錯覚であり、あっという間に神子との距離を詰めていく。

 進行方向にある弾幕をすべて飲み込み、突き進む。

 

「うおおおおおっ!!」

 

 咄嗟に縮地のマントによる空間転移で巨大紅球を避ける神子。

 何とかやり過ごすことに成功したが、常識外れの弾幕に呼吸が乱されている。

 

「――はあ、はあっ! ふ、ふふふ……。大きさこそ驚きましたが、いかんせん鈍足に過ぎます。よけろと言っているようなもの、と言葉をお返ししましょう」

 

「まあ今の紅魔玉は挨拶代わりだしね」

 

 特に気にせずに肩をすくめるレミリア。

 

 

 カッ!!!

 

 

 遥か彼方で大爆発が起こり、仙界を激震が揺らす。

 紅魔玉が地表に着弾したようだ。

 それを見て流石の聖徳王も冷や汗を流す。

 

 ――む、無茶苦茶です。仙界を滅ぼす気ですか……!

 

 もちろんレミリアにそんな気はなく、言葉通りに挨拶代わりくらいに考えている。

 

 

 

 一方、そのころの天子たちは――

 

 

「ふはははは! 無駄無駄無駄ぁ!」

 

 布都が放った火種が地面に当たると、それが複数の火柱となり燃え上がる。

 一方の屠自古は天から雷の雨を降らせる。

 

 上下から激しい攻撃が押し寄せるが、天子は回避も防御もせずに前進する。

 それどころか自分から当たりにいっているようにすら見える。

 

「どういうことじゃ!? 痛くないのか!」

 

「頑丈ってレベルじゃないわよ……!」

 

 ありえない姿に布都と屠自古が戦慄していたとき、轟音が響き渡る。

 

 発生源に目を向けると、巨大な何かが地表に激突して大爆発を起こしていた。

 距離があるここからでも、それがどれほどの威力か理解できた。

 

「な、ななな何じゃあ!? 」

 

「あれはレミリアの弾幕ね」

 

「あ、あんなのが弾幕なのか……?」

 

「ここまで移動してきて正解だったでしょう?」

 

「う、うむ。そうじゃな……」

 

 一般的な弾幕ごっこの範疇から逸脱した光景に唖然とする布都。

 

「太子様は大丈夫なの……?」

 

「大丈夫じゃない相手に撃つやつじゃないわよ、レミリアはね」

 

「そ、そうですか」

 

 神子を心配する屠自古だが、天子は軽く流す。

 そこには友人への信頼があるようだ。

 

「ちなみに私はあれを正面から受けたことがあるわ! もちろん立って耐えたけどね」

 

「冗談……じゃよな? 天子殿」

 

「嘘でも冗談でもないわ。何なら後でレミリアに聞いてみるといいわよ」

 

「それくらい出来なければ天人としてやっていけないというわけですか?」

 

「そういうことよ!」

 

 当然ながら、そんな天人は比那名居天子くらいである。

 しかし、他の天人に会ったことのない布都たちにそんなことは分からない。

 

 普段から天子とレミリアは趣味と修行を兼ねた激しい弾幕ごっこをやっている。

 それにより、ドM天人の耐久力は更に向上し、取り返しのつかないレベルにまで至っていた。

 

 

「さあ、構えなさい! 次は私の弾幕をお見せするわ!」

 

 天子は緋想の剣を掲げ、周囲の気質を集め始めた。強大な圧力が大気を震わせる。

 かつてレミリアの紅魔玉を迎撃するときに使用した超高密度の気弾。

 それが当時を上回る威力で放たれようとしていた――

 

 

ーーーー

 

 

 神子が剣を鞘に納めた。

 代わりに愛用の笏を両手に構える。

 

「あら。それは武器なのかしら?」

 

「疑問に思うのも当然だが、慣れ親しんだこの笏の方がチカラを集中しやすいのだよ」

 

 そう告げると、神子はすべての仙力を掲げた笏に集め始めた。

 

「貴方には生半可な攻撃では通用しそうにない。私の最大の一撃にて勝負しよう」

 

「その思い切りの良さ。悪くないわよ」

 

 妨害するのは無粋と考えたレミリアは空中で仁王立ちのままだ。

 いや、わずかに下げた両腕を構えて来たる強大な攻撃に備えている。

 

「待ってくれるのか?」

 

「胸を貸すと言ったでしょう」

 

「ふふふ……そうだったな」

 

 

 集められたチカラが黄金のオーラとなり、神子の全身を覆っていく。

 一種のトランス状態になっているようで、髪は逆立ち、目からは感情が消えている。

 

 黄金のオーラが笏を核にして巨大な光の剣へと変わる。

 

 

 カッ!

 

 

「たわむれは……おわりじゃーーー!!!」

 

 天をも貫く光剣が吸血鬼の女王に振り下ろされた。

 

「――!」

 

 

 

 目も眩む光が収まったとき、そこには尚も不敵に笑うレミリアの姿があった。

 

「確かに命中したはず……! うっ――!?」

 

 レミリアの全身の傷が攻撃が直撃したことを物語っている。

 

 しかし、神子が凝視していると傷ついた皮膚が超高速で癒えていく。

 それはもはや再生というレベルではなく、時間が巻き戻っているかのようだ。

 

 ボロボロの服は再生しないが、小さな発光が起こると、一瞬で新品同様になった。

 

 

「そ、そうか。最初の弾幕もそうやっていたのか。ご丁寧に服まで魔法で新調することで、傍から見れば攻撃を躱したようにも見えるというわけだ」

 

「さすがにバレちゃったか」

 

 天子が頑丈さに磨きをかけたのに対して、レミリアは高い魔力を更に練り上げた。

 全力で再生に魔力を回せば、ある程度のダメージなら一瞬にしてなかったことになるほどに。

 

 要するに最初の十七条のレーザーに対してやったのは完全な力技である。

 

 

「ふ、ふははははははっ! なるほど、これは無理だ。天人様より強いと言うだけはある!」

 

「あら、降参かしら?」

 

「ああ。認めよう。今の私では勝ちの目が見えない」

 

「潔いわね」

 

「時には退くことが出来るのも為政者に必要な資質だ。猪突猛進するだけなら誰でもできる」

 

 

 ドグオオオオオオオンッ!!!

 

 

 神子が負けを認めたのと同じタイミングで爆音が鳴り響いた。

 レミリアの紅魔玉に比肩するような激しい振動が仙界を揺さぶる。

 

 

「天子が奥義を放ったみたいね」

 

「これが天子殿の――!」

 

「これであっちも決着がついたでしょ。見に行きましょう」

 

「布都と屠自古が無事であればよいですが……」

 

 

ーーーー

 

 

「あ、あああ……」

 

 吸血鬼と天人の暴れっぷりに早苗は震えていた。

 場合によっては自分が止めに入らねばと待機していたが、目の前の光景を前にそんな気持ちは消え去っていた。

 

「いくら現人神でもあんな中に割って入ったら死んじゃいますよう……」

 

 

 隣にいる青娥も震えているようだ。

 

「う、うふふふふ……」

 

 だが、早苗とはその震えの種類が違う。

 邪仙と呼ばれる女は妖しく笑っていた。

 

「これほどとは……。素晴らしい、素晴らしいですよ」

 

 幸か不幸か、仙界の惨状に呆然としていた早苗はその笑みに気付くことはなかった。

 

 

 

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