レミリア・スカーレットの挑戦   作:Amur

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第四話 『吸血鬼異変(エピローグ)』

 『吸血鬼軍団VS天狗軍団! 激闘の末、勝利したのは天狗軍団!』

 

 外の世界から幻想郷を侵略せんと襲来した強大無比な吸血鬼たち。彼の者たちは幻想郷に到着するなり瞬く間に各地を荒らしまわった。その所業を見過ごせず、妖怪の山の勇猛なる天狗たちは立ち上がった。

 連中の仕掛けた数々の卑劣な罠を突破し、たどり着いたるは返り血で染まったか如くおぞましき紅い館───それこそが吸血鬼の居城、紅魔館であった。

 立ちふさがる鉄壁の門番。妖しげな能力で空間すら歪めるメイド。精霊の力を自在に操る魔法使い。目についたものすべてを破壊する妹吸血鬼。そしてそれらを束ねる傍若無人悪鬼羅刹な姉吸血鬼!!!

 これらの猛者たちを我々は多大な犠牲を払いながらも鎮圧することに成功した。最後には姉吸血鬼───レミリア・スカーレットも天狗のチカラにひれ伏し、降伏を受け入れた。

 もはや彼女たちが暴れることはないであろう。

 我ら天狗が山を……いや、この幻想郷を守る限りは───。

 

「なにこれ?」

 

 レミリアは紫が持ってきた新聞を読みながら疑問の声を上げた。

 発行者はもちろん烏天狗の射命丸文。

 

「あなた天狗のチカラにひれ伏したの?」

 

 パチュリーが半目でレミリアに問いかける。

 

「いや、幻想郷側に降伏はしたが、天狗に対してどうこうは……ああ、あの文とかいう烏天狗に山で暴れたことを詫びてはおいたか」

 

「完全にそれですわ。あの天狗は1のことを10に、0のことを5にして記事を書きますから」

 

 紫がいつものことです、と言いながら説明をする。

 

「これだと私たちが天狗に負けたみたいじゃないですか」

 

 文を除く紅魔館に攻め寄せた天狗を一人で叩きのめした美鈴は不満げに言う。

 

「む……」

 

 完敗はしてないものの、文には形勢不利だった咲夜は微妙そうな顔をする。

 

「これって他の妖怪たちは参加してないことになってるの?」

 

 フランドールが疑問を投げかける。

 

「いえ、小さく端の方に数名の外部妖怪の協力もあったと書かれていますわ」

 

「えぇ……むしろ天狗が協力した側で主力は別よね。私の相手も花の妖怪のお姉さんだったし」

 

 ───この子の相手は幽香……よくもまあ彼女と正面からやり合えたものです。あの姉にしてこの妹といったところですか。

 

 スカーレット姉妹の脅威を再認識しながら、紫は再び話し始めた。

 

「天狗としてもメンツを潰されたわけですから、この程度は仕方ないでしょう」

 

「それは分かるけど多大な犠牲って何よ。後のことを考えて死者は出さないように気を付けていたわよ」

 

「……私との最後のアレは下手をすれば死んでいませんか?」

 

「ま、まあそれはともかく……あの文とかいう烏天狗には礼が必要だな。鶏肉を吊るす器具を用意しておこう。人間サイズが吊るせるやつをな」

 

「おやおや、怖いですわね」

 

 紅魔館側が敗北を受け入れたことで吸血鬼異変は終了した。その後、幻想郷側と契約を交わすことになる。契約内容は紫が食料になる人間を提供する代わりに、生きた幻想郷の人間を襲わない、という予想通りのものだった。

 

 ───提供する人間って外の世界から連れてきているのよね。たしか自殺者とかだっけ。

 

「さて、難しい話も終わったし、後はフリータイムね」

 

 レミリアは紫と藍の方をチラリと見て言った。

 

「? ええ、まあ」

 

 紫が訝しむ中、レミリアは───

 

「そりゃ!」

 

 掛け声と共に藍の尻尾の中に突撃した。

 

「おおお~。これは良い尻尾。極上ね!」

 

「な!? ななな……!」

 

 まさかいきなり尻尾に潜られるとは思っていなかった藍が言葉にならない様子で慌てる。

 

「あ、私も! そりゃ!」

 

 続けてフランドールも藍の尻尾に潜り込んだ。

 

 もふもふもふもふっ

 

「こらあっ! 貴様ら二人して何をしている!」

 

 スカーレット姉妹にもふられまくった藍が怒りの声を上げる。

 

「大丈夫よ。これだけボリューミィな尻尾だもの。まだまだ余裕はあるわ」

 

「違う! そういうことを言ってるんじゃない!」

 

「あのときパチェが藍の尻尾に包まれて遊んでたじゃない?」

 

「誰が遊んでるのよ。捕まってたんでしょ」

 

 パチュリーが否定の声を上げるが、レミリアは聞いていなかった。

 

「実は羨ましいと思いながら見てたのよね~」

 

「そ、そうですか……あなた戦ってる時と雰囲気がだいぶ違いませんか?」

 

 紫が戸惑いながらレミリアに問いかける。

 

「そこはスイッチのオンオフを切り替えてるからね」

 

「そういうものですか……」

 

 

 

「そうそう、今回の件で以前から危惧していた幻想郷の妖怪たちの衰えが浮き彫りになりました」

 

「たしかに各地でそれなりに暴れたが腑抜けたやつが多かったな」

 

 レミリアは藍の尻尾から頭だけ出した状態で答えた。フランドールは奥まで潜っている。

 藍はすでに諦めた顔でなにも言わなくなっていた。

 

「人間の数を減らさないために、幻想郷の妖怪はむやみに人を襲わなくなりました。しかし、それが妖怪の無気力化を招いてしまった」

 

「ふうん」

 

「それを解決する策を考案中なのですが、実行に移す時は貴方たち紅魔館にも協力してもらうことになるでしょう」

 

 ───妖怪の無気力化を防ぐ手立て……間違いなくスペルカードルールだな。

 

「へえ? まあ暴れた詫びとして多少のことなら協力もやぶさかではないが」

 

「そう言っていただけて安心しました」

 

 ───スペルカードルールは紫たちと博麗の巫女こと博麗霊夢が考案したもの……ではいよいよ紅魔郷が始まるわけか! 霊夢に魔理沙の主人公コンビに会うのが楽しみだ!

 

「では帰りますわよ、藍」

 

「はい、紫様……」

 

 尻尾からスカーレット姉妹を放り出した藍がやや疲れた様子で答える。

 

「あなたも苦労しているようね」

 

 パチュリーが藍に同情しながら言った。

 

「分かってくれるか……」

 

 

 

「さて……紫の言った策とやらの結果、最高に刺激的な二人が紅魔館にやってくることになるわ」

 

「能力で見られたのですか? お嬢様」

 

「そうよ、咲夜。楽しくなりそうね」

 

「また私の研究の時間がなくなるんじゃないでしょうね? レミィ」

 

「……」

 

「ちょっと、何か言いなさいよ」

 

 

ーーーー

 

 

 スキマで自宅に戻りながら紫は幻想郷の未来について思いを巡らせていた。

 

 ───レミリア……今の時点でも十分な強さですが、今後さらに成長すればいつか月と事を構えるときに頼りになりそうですね。

 

 千年以上昔の話だが、紫は月に攻め込んだことがある。

 しかし、彼女の率いる妖怪軍団は月の近代兵器の前に敗北した。

 それ以来、紫たちが月に干渉することはなくなった。

 

 だが、彼女はいずれ月と幻想郷に何らかの関わりができることを予感していた。

 そのとき幻想郷に強力な味方がいることは賢者として望ましいことなのだった。

 

 

 

「……いやな予感がする」

 

「レミィが言うとシャレにならないんだけど」

 

 

 




 次回は東方紅魔郷の開始!
 あの自機二人が乗り込んできます。

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