『博麗の巫女が紅霧異変を解決!』
先般、我ら天狗により懲らしめられた紅魔館の吸血鬼が再び異変を起こした。“紅霧異変”と名付けられたそれは、幻想郷全体を紅い霧で覆い、日光を遮るというものだった。
吸血鬼の霧は妖気を帯びており、人間の中に体調を崩す者が現れた。妖怪にはさほど影響がないことを見るに、天狗の強大さを知った吸血鬼がターゲットを人間に絞ったと考えられる。
しかし、人間にも侮れない強者が存在している。そう、博麗神社の巫女である博麗霊夢である。人里の人間たちが家から出ることも出来なくなった状況に憤怒した博麗の巫女はすぐさま飛び立った。そして持ち前の勘で元凶が紅魔館にいると察知する。
道中、吸血鬼の配下に成り下がった宵闇の妖怪や氷の妖精を蹴散らしながら巫女は紅魔館にたどり着く。
今回の異変では新しい決闘法であるスペルカードルールが用いられた。
吸血鬼側も数々のスペルカードを準備して万全の態勢で迎え撃った。だが、美しき弾幕の雨が止んだ時、最後に立っていたのは博麗霊夢だった。幻想郷創世よりこの世界を守ってきた博麗の巫女――今代の博麗霊夢もその貫録を見せつけたと言えるだろう。
こうして吸血鬼の再度の幻想郷制圧の野望はくじかれた。連中もこの短期間で二度も敗北したことで流石に懲りたと思われる。もし吸血鬼が頭を垂れて天狗の下に付きたいと懇願するなら寛大な我らはそれを受け入れるだろう。
「おいおいおいおお! ふざけるな! 私の活躍はどこにいったんだよ!」
紅霧異変が解決した記念に博麗神社では宴会が行われていた。
そこで文の新聞を読んだ魔理沙が怒りの声を上げる。
「あなたがいなかったことにされてるのは良いとして、盗っていった本までなかったことにはしないでよ」
パチュリーが半眼で魔理沙を見ながら言った。
「そりゃないぜパチュリー。私たちの戦いもなかったことにされてるんだぜ」
「別にいいわ」
「つれない奴だぜ」
「けどさすがに天狗――というか文は調子に乗りすぎね。このレミリアが天狗の下に付きたいと言うはずがないでしょう。放置していれば侮られる。一度、お灸を据えるとしましょう」
「お、いいね。是非やってしまうべきだ、レミリア」
「ちょうど鶏肉を吊るす器具を手配したところだ。今度、あの烏天狗を紅魔館に呼んで活用するとしよう」
「そりゃいい。使うときは私も呼んでくれよ」
「ああ。私たちだけでは食いきれないからな」
「なんであいつらさっそく気が合ってんのよ」
霊夢がレミリアと魔理沙を眺めながらつぶやいた。
「お姉様と魔理沙、どっちも他に迷惑をかけまくるタイプの自由人だから波長が合うんじゃないの?」
「自分の姉にずいぶんと辛辣ね、あんた」
「お姉様のことは好きだけど、それはそれ、これはこれだから」
「あ、そう」
「私って吸血鬼の配下だったっけ?」
「レミリアお嬢様が夜の帝王なので、常闇の妖怪であるルーミアさんは広い意味では配下みたいなものかと」
「そーなのかー」
「ルーミアさんが霊夢さんに退治された理由は進路上にいただけって――交通事故みたいなものですね」
しれっと宴会に混ざっているルーミアに料理を出しながら咲夜と美鈴が答える。
「氷の妖精――チルノさんの方はどうなんでしょうね? 咲夜さん」
「霧の湖がお嬢様の領地(みたいなもの)なのでそこに住むチルノさんも配下と呼んでも過言ではありません」
「いや、さすがに過言ですよ……」
ーーーー
数日後――
「この私に記事を書いてほしいとは紅魔館の皆さんも見る目がありますね」
上機嫌で紅魔館を訪れたのは烏天狗の射命丸文。
「紅魔館側としては自分たちに都合の良い記事を書いてほしいのでしょう。さぞや豪勢な歓待を準備しているに違いありません♪ しかし、そう簡単に懐柔される私ではありませんよ」
「お嬢様。とりに……いえ、射命丸様が到着されました」
「射命丸専用の特別室にご案内してさしあげて」
「かしこまりました」
「わざわざ紅魔館へお越しいただき、ありがとうございます」
「いえいえ、お気になさらず。記事を書かせていただけるとあれば、地獄でも魔界でもどこでも行きますよ」
「それはよかったです」
「……そういえば吸血鬼異変でもこの廊下でお会いしましたね」
紅魔館の廊下を案内しながら、咲夜が文に話しかける。
「そうですね。あのときは招待状という名の挑戦状をいただいたので、妖怪の山から私が派遣されたわけですが」
「その妖怪の山では射命丸様はどの程度の地位にいるのですか?」
「おやおや、記者の私に逆に質問ですか。情報は財産ですが……まあ、その程度であれば構いませんか」
「ありがとうございます」
「単純に地位でいえば私の上に大天狗様、さらにその上に山の頂点である天魔様が君臨しています」
――もっと言えば、真の山の支配者たる『鬼』という絶対強者もいますが、それは今はいいでしょう。あの方々が咲夜さんと関わることはないでしょうしね。
「……あれほどの実力でせいぜい中間管理職なのですか。正直、驚きますね」
「たはは、まあそうですね。とはいえ、大天狗様はだいぶ鈍っているので咲夜さんと戦えば負けてしまうかもしれません」
「そうなのですか――到着しました。こちらの部屋でお待ちください」
「はいはい~」
文が案内された部屋はちょっとしたパーティーが開けそうな広さだった。
「豪勢な部屋です。やはり相当なお金持ちですね。そういえば霊夢さんが迷惑料を払わせたとか言ってましたが、そのあたりの話も聞きましょうか」
文が部屋の中を眺めていると、奥にも扉があるのを見つけた。
「おや、奥にも部屋があるのですね」
文が何となく奥の扉を開けて中をチラリと見ると――
「こ、これは――!?」
部屋には血まみれの椅子に、煮えたぎる油の入った鍋、さらに天井に調理前のとり肉を吊るす器具が並んでいた。
「い、嫌な予感がします……ここは用事を思い出したとして帰るほうが良さそう――」
「どこへ行こうというのかね?」
「!?」
文が後ろを振り向けば、いつの間にかレミリアが立っていた。
「こ、これはレミリアさん。ご招待ありがとうございます。ですが、急用を思いつきまして……」
「それを言うなら思い出すだろう……まあそう慌てるな。咲夜に聞いたぞ、お前が行きたがっているとな。その手伝いをしてやる」
「行きたがる……? どこへですか」
「もちろん――地獄へだ」
その日の夜、紅魔館で烏の悲鳴が響き渡った。
ーーーー
「さて、紅霧異変も終わった。今のところ、概ね原作の流れを壊さずに来れているわ。次は春雪異変だけど……紅魔館からは咲夜が出動して私の出番はないのよね」
レミリアは自室にて今後の動き方を考えていた。
「しばらく私はあそこで修行するのが良さそうね。なにせ今後出てくる連中が、鬼に月人二人――ふふふ、化け物揃いね」
いずれ相対する強敵を見据えてレミリアは静かに笑っていた。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。多くの方に読んでいただけるのが何よりのモチベーションになります。
次の春雪異変は原作ではレミリアが関わらないので、次回はオリジナル展開となります。とはいえ、なるべく主人公以外のオリキャラは出したくないので、少し内容に悩みます。
それでは皆様、これからもよろしくお願いします。