このすば+α 作:Argo
暗闇が一気に色付く。ちょっとした浮遊感から解放され辺りを見渡せば、大きな城壁に現代日本ではほとんど見られなくなった青々とした草原。太陽は温かく大地を照らし、木々はその光を受け風に枝を踊らせている。
そして、所々にポツポツと緑の大きな点がある、あれはなんなのだろう?とりあえず、私はどうやら門の近くに転移されたようだ。
凱旋門よりは多少見劣りするが中世ヨーロッパ風の街へと続く入口である門に向かって歩く。
拠点を探さなくてはならないし、冒険者ギルドで登録をせねばならないからだ。蒼紺刀は紺色の鞘に収まり、機嫌良さげに私の背中に吊るされている。
今の私の格好は紺色の薄手のパーカーの中に青と白のボーダーの半袖、黒の靴、ジーンズ。黒のシンプルなキャップ帽だ。パーカーのポケットには折りたたみ財布、中身は見てないがきっとこの世界の通貨に変わっていることだろう。ジーンズのポッケには使えやしないスマホとイヤホン。音楽くらいは聴けるだろうか?まあ、端的に言えば浮いている。しかし!それを気にする私ではない!
意気揚々と門番の人に声を掛ける。
「こんにちは!門番さん!」
「こんにちは、お嬢さん。どこから来たんだい?」
「ここより、ずーっと遠い所からです!冒険者になりたくて!」
「そうか、ようこそ!駆け出し冒険者の街、アクセルへ!さあ、通って良いよ。」
「ありがとうございます!」
わりとスッと通れた。やった!さて、冒険者ギルドの存在は知ってるけど場所は知らない。門番さんに聞いておこう。
「門番さん、冒険者ギルドはどこですか?」
「ん、ああ。ここを真っ直ぐ行けば大きな建物がある。ま、行けば分かるさ。すまないね、案内できなくて。」
「いえ、ありがとうございます!」
とりあえず真っ直ぐ行こう。この道は大通りらしく屋台やら、お店やらが建ち並んでいる。
「いらっしゃい!いらっしゃい!キンキンに冷えたシュワシュワはどうだい?熱い夏にピッタリだよ!」
「焼き鳥はどうだ?今朝仕入れたばっかりでうめぇぞ!」
香辛料の匂いが食欲をそそる。しかし、今は冒険者ギルドが先だ。
門から5分ほどの場所にギルドはあった。
ドアを引き、中に入る。ウエイトレスらしき女性がテーブルの間を踊るように歩き回り。酔っ払った男達が騒ぐ。別の席には女性が集まっているテーブルもあった。
「えーと、確かカウンターに行けば良いはず。あぁ、そこか。」
奥の数人の女性が等間隔で並ぶ場所にスタスタと歩いていく。たしか、この人。
「あの、冒険者登録に来ました。」
「分かりました。では、千エリスとこちらの用紙に必要事項をご記入下さい。」
「はい!」
えーっと?名前に、髪の色に目の色?身長、体重?
「アオバ・アヤカ。黒に濃紺、162──。よし!出来ました!」
「はい・・・・・、記入漏れはありません。では、こちらのカードに触れて下さい。」
トレイに乗せられたカードを受け取る。すると文字が浮かび上がってきた。
「では、その数値から適した職業を紹介したいと思います。見せて頂きますね。」
とりあえず、カードをお姉さんに渡す。何になろうかな?
「は、はぁぁぁあ!?」
「う、うわぁっ!」
お姉さんがいきなり叫んだのでビックリした。なんなのだろう?
「な、なんですか!?この数値!全てにおいてMAXに近い!これならもし冒険者を選んでも本職の方達と変わらないレベル、いや、それ以上に上手くスキルが扱えますよ!貴女は一体何者ですか!?」
「え、えぇ───」
どうしよう、ただの学生だし。勧められた職業を選ぼうと思ったのに、全部大丈夫とは。な、なんか視線が集まってきてる。
「と、とりあえずっ!職業は冒険者でお願いしますっ!」
「わ、分かりました!では、こちらをどうぞ!・・・・・ギルドスタッフ一同!貴女の活躍をご期待します!」
「あ、はい!頑張ります!」
カードを返してもらい、そそくさと冒険者ギルドから退散したのであった。
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財布の中身を改めて確認すると九千エリス入っていた。これなら、数日持つだろう。今日の寝床を確保するために宿屋を目指す。
「あ、依頼受け損ねた。う~ん、よし。バイト探すか~。」
宿と書かれた看板を見つけ、中へ入る。先頭の番台のようにポッチャリとしたおばさんがカウンターに立っていた。
「いらっしゃい、おや?見ない顔だね」
「はい、今日からこの街に来たんです!」
「そうかい。1泊千エリスだよ。」
「3日分お願いします。」
「三千エリスだ。・・・・確かに。207号室がアンタの部屋だよ。それじゃ、ごゆっくり」
「すみません、ここら辺で日雇いのお仕事はありませんか?」
「そうさなぁ、土木工事か、農家の手伝いくらいさ。仕事が欲しいならギルドに行くのが1番だ。」
「ですね、ありがとうございました!」
「はいよ」
う~ん、ギルドは2日くらいおいて行きたいな。よし、農家のお手伝いに行こう。確かこっちだ。
移動すること数分、街の外れの緑豊かな場所に来た。
「すみません!私を雇ってくれませんか?」
「おお、助かるよ今年のは活きが良くて収穫が大変なんだ。給料はあんたの働き次第、それでどうだい?」
「是非やらせて頂きます!私、アオバ・アヤカと言います」
「あたしはレーナだ。アヤカ、さっそくだが着いてきとくれ」
「はい!」
こうして、無事雇われたのだが・・・・。
私は少々失念していた。この世界の野菜は只者では無いことを・・・・・。
「うぅ、体中痛い・・・。食べられたくないのは分かるけど集団で襲いかかってくるとは・・・・。」
「初めてにしては良く出来たほうさ、お疲れさん。これが今日の給料だ。」
「拝見しても・・・・?」
「もちろん、それはアンタのだからね。」
ちょっとした巾着袋のような物を渡される。結構ズッシリだ。
「なっ!十五万エリス!?こんなに良いんですか!?」
「ああ、アンタが獲った野菜たちはどれも質が高かった。売れば十五万エリスなんて目じゃ無いだろうさ。
それに、その金はアンタの働きに対する私たちが下した正当な評価だ。胸を張ってこれだけ稼いだ事を誇りな。」
「は、はい!」
「夜ご飯はここで食っていくと良い・・・」
「何から何まで・・・・、本当にありがとうございます!!」
優しいレーナさんに心から感謝しつつ、有り難くこの世界で初めて食事をした。
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「ふぅ~!美味しかった。レーナさん、いい人だったな・・・・。」
独り言を言いながら宿屋に向かって歩く。1日でここまで稼げるとは、良い意味で予想外だ。
「戻ったら冒険者カードを確認しないとなぁ。野菜収穫の時にレーナさんが魔法使ってたからスキル習得できるハズだ。それに、さっきナンパして返り討ちにされた人のおかげでいくつか別の魔法も見たしなぁ・・・」
できれば戦闘とかに使ってるところを見たかったよ・・・・。何なの?異世界に来て最初に見た魔法が暴れ狂う野菜を集めるためにトルネードを絶妙なコントロールで巻き上げるって・・・・・。
しかも、その次に見た場面は酔っ払ったくすんだ金髪の青年が女の子に言い寄ってて、その彼氏が怒りの氷属性の魔法を鳩尾に的確に当てる所とか・・・・。・・・・・・はぁ。
3回目の転生初日は私の想像する異世界ライフをいとも簡単に崩したのであった。