ボクと契約してヒーローになってよ!   作:292299

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誰も知らない終末記念日

無個性である事を4歳の緑谷イズクは告げられた。

オールマイトに憧れていたイズクは、それまでの文明を一掃されたような衝撃を受ける。

この世界で誰も彼も優れた個性を得られる訳ではなく、よくある事だ。

オールマイトに憧れた他の子供も、自身の個性を知って落ち込んだ事だろう。

 

しかし、無個性と告げられたイズクの精神は他の者よりも傷付いた。

それは結局、オールマイトのような個性を得られなかった事は重要ではない。

無個性であった事実こそ、イズクが立ち直れなくなってしまった原因だ。

それから10年先までイズクは、すでに折れた夢を見続ける。

 

友人もなく恋人もなく、幸福な記憶もない。

雄英高校に入学してから、それまでの学校に関する思い出もない。

存在しなかったかのように空白で、思い出すことを拒絶している。

無個性だった頃なんて存在しなかったと、イズクは思いたいのだ。

 

これから10年もイズクは幸福を感じる事もなく生きるのだ。

それはなんて、かわいそうなのだろう。

それならば殺してあげた方が幸せだ。

 

「初めましてだね、緑谷イズクくん。ボクはQB、魔法の使者だよ!」

「魔法? 個性じゃないの?」

 

猫のような生物が喋っても、イズクは気にしない。

異形型の個性は珍しい物ではなく、ありふれた光景だ。

美しさの感覚も違って、人で言う美しさは絶対ではなくなった。

 

これは人という規準が曖昧になっているからだ。

人の形をしていれば人類なのか、言葉を話せれば人類なのか。

では、人類ではない生物とは何なのか。

だからボクのような宇宙人も、人類として見てくれる。

 

「個性じゃなくて魔法だよ。プリキュアは知ってるかな?」

 

個性が世界に溢れても、プリキュアは不滅だ。

なぜならば個性は資格を得なければ、公的領域で使用する事は禁じられている。

プリキュアが個性を使い始めたら、すぐに放送休止となるだろう。

異形型への差別と批判されて消えたポケモンのようにーーユンゲラーの話は止めようか。

しかし魔法と言い張れば、放送できる訳だ。

 

「プリキュア?」

「そう、プリキュアだよ」

 

「しらない」

「そうだよ。そのプリーーえ?」

 

しまった。

ヒーロージャンキーを甘く見ていた。

オールマイトの動画を飽きもせず、無限ループするジャンキーだ。

ヒーロー番組しか見ていないに違いない。

 

「平たく言うと、ボクは個性のような魔法を君に与える事ができるんだ!」

「本当に?」

 

「もちろんだよ。たとえウソなら、イズクくんに害はないさ!」

 

ホントだった時は、害もあるけどね!

 

『だから僕と契約して魔法少女になって欲しいな!』

「でも、僕は男だよ?」

 

「もちろん構わないよ! 大歓迎さ!」

 

ーー大好物さ!

 

「そうなんだ。じゃあ、なる! ボク、魔法少女になるよ!」

「ありがとう! そう言ってくれると心強いね!」

 

まだ何も説明してないのに、そう言ってくれるなんて嬉しいね!

 

「魔法少女になってくれるのなら、願い事を1つだけ叶えてあげる事になってるんだ」

「えーとーーじゃあ、願い事を増やしたい!」

 

「この願い事は魔法の形を決める事にもなるんだ。だから色々と願うよりも、単純な方が強いよ!」

 

偏った願いで、戦闘能力ゼロになる事もあるけどね。

 

「そうなんだーーじゃあ、オールマイトになりたい!」

「それだとイズク君の姿がオールマイトになってしまうよ。お母さんは君と判別できなくなるんじゃないかな?」

 

オールマイトの姿で魔法少女になったら大変だよ!

ムキムキで巨乳なのは間違いないね!

ーー魔乳SMASH!!

 

「イズクくん、オールマイトのようになりたいーーなんて、どうかな?」

「それって、どう違うの?」

 

「イズクくんは、その姿のままで、オールマイトのようになれるんだよ!」

 

そう、永久にね。

 

「そうなんだ。じゃあ、そうする! ボクはオールマイトのようになりたい!」

「わかったよ! おめでとう! 君の精神は肉体を凌駕した!」

 

肉体から精神を取り出し、緑の宝玉として形成する。

緑谷イズクの精神を閉じ込めた器、これこそソウルジェムだ。

 

「新たな魔法少女の誕生だ! ハッピー・バースデー!」

 

 

それから10年後、魔法少女となったデクは、ヘドロ人間に襲われた。

その姿は魔法少女となった4歳のままで、中学生に見えない。

それは4歳の時点で、肉体の成長が止まっているからだ。

正確に言うと肉体は死んで、魔法によって維持されている。

だから魔法少女を辞めると、死ぬ。

 

「ーー変身」

 

緑の輝きに包まれて、その肉体は変化する。

男性から女性へ、地味な制服から白と緑のドレスへ。

魔力によって編まれたドレスは、魔力を伴わない攻撃の通用しない戦闘服だ

 

「なんだ、こいつーー変態か!」

「変態じゃない変身だ!」

 

「そっちの意味じゃねー! 男のくせにフリフリのドレスなんて恥ずかしくないのかー!」

「そういう個性なんだよ! 恥ずかしいに決まってるだろ!」

 

ヘドロに包まれたデクは暴れるものの、脱出は叶わない。

ヘドロによる口への侵入は、魔力の防壁によって防いでいる。

しかし、4歳の力を魔力で強化しても、人の力を超える事はなかった。

ちなみにデクは知らないけど、あのドレスはボクの趣味だ。

 

「くそっ! 子供のくせに妙に固いーー大人しく開きやがれ!」

「だれかー! 変態でーす! ここに変態がいますよー!」

 

「ーーSMASH!」

 

突然に暴風が巻き起こり、ヘドロ人間は吹き飛んだ。

バラバラになったヘドロは辺り一面に付着する。

 

「げぇーーオールマイト!? もう追いついたのか!」

「その通り、私が来た! 追いかけっこは、ここまでだ!」

 

ヘドロ人間はビンに詰め込まれ、封を施される。

オールマイトを見上げるデクは、憧れのヒーローに会えて感動していた。

 

「オールマイト! あの、サインをーー」

 

「すでに書いておいた!」

「家宝にします!」

 

「ずいぶんとヘドロまみれになってしまったようだ。遅れて、すまない」

「そんな事ありません!」

 

「本来ならば家まで送ってあげたい所なのだが、私も先を急いでいてねーー分かってもらえるだろうか?」

「はい、もちろんです! がんばってください!」

 

デクが引き止める事もなく、オールマイトは跳んで行く。

ヘドロ人間は間違いなく、警察へ引き渡されるだろう。

オールマイトの後継者として選ばれるイベントは無くなった訳だ。

とは言え、雄英高校に通ってから個性を伝授されるケースもあるけれど。

オールマイトが見えなくなっても手を振り続けるデクに、ボクは声をかけた。

 

「ところでデクくん」

「QBーーせっかくオールマイトに会えたんだから浸らせてよ」

 

「そうだね。じゃあ、後にするよ。嫌な事は後で聞いた方が良いからね」

「ーーもう! そういう風に言われると気になるんだけど」

 

「魔法少女に変身したままだよ」

「にぎゃああああああ!!」

 

デクは耐え切れず、地面に倒れてゴロゴロと転がった。

魔法少女のドレスが汚れてしまうけれど、あれは魔力に戻せば綺麗になる。

 

「もしも時間を戻せたら、過去の自分に言ってやりたいーーそいつは詐欺師だ!」

「そうなったら、デクくんは無個性のままだよ。それでも良いのかい?」

 

「せめて、もっと成長してから契約するとかさぁ! ボクの身長は一生このままなんだよ!? なんで大人になるまで待てなかったの!?」

「魔法少女だよ? 大人が少女になれる訳ないじゃないか」

 

「だましやすかったからでしょ!?」

「それは否定できない事実だね。でも、悪いことばかりじゃなかったはずさ。もしも無個性のままだったら、心ない差別を受けていたよ」

 

「恐いこと言わないでよ。ちょっと着替える時に、変な目で見られる事はあるけどーーかっちゃんはアレだけど、みんな庇ってくれるし」

「デクくんの学校は、男女が同じ部屋で着替えるんだね。初耳だよ」

 

「同じ部屋な訳ないだろ!? 普通の学校だよ!」

 

幸せだね、デクくん。

無個性でないから、そうだった時の気持ちが分からない。

欠けているからこそ、欲望は生まれる。

それを叶えてしまった君は、自身が幸福である事に気付かない。

君にとって優しい人は、誰かにとって怖い人だったんだ。

 

「ボクは知ってるよ。デクって仇名を付けられて、いじめられてるんだよね?」

「そんな名で呼ぶのはQBとかっちゃんだけだよ! かっちゃんは、ほらアレだけどーーどうしてQBはボクを、そんな仇名で呼ぶの?」

 

「ボクは親愛を込めて、デクと呼んでいるのさ。特別な人は、特別な名で呼びたいものだろう?」

「かっちゃんと被ってるから、別の呼び方に変えた方がいいよ」

 

「そうするよ、イズクちゃん」

「ごめん、やっぱりデクでいいよ。手が滑ると危ないからね」

 

無個性だった君を知っているのは、この世界でボクだけだ。

だからボクは君を忘れないために、デクと呼び続ける。

 

 

オールマイトの修行を受ける事もなく、雄英高校を受験する日が来た。

たとえ世界が今年で滅ぶとしても、デクがヒーローを目指す事に変わりはない。

そもそも肉体の死んでいるデクは運動しても成長せず、いくら鍛えても無駄だ。

魔法を使わない限り、魔法少女としての攻撃力は人の力を超えられない。

 

そんな訳でロボットを壊してポイントを獲得する事も叶わず、デクの不合格は明らかだ。

そうして試験の終了時間は迫り、ポイントのない巨大ロボットが登場する。

その足下にいる逃げ遅れた受験生を、デクは見つけた。

しかし、どう考えても間に合わない。

だからデクは魔法を使うしかなかった。

 

「オールマイト・オーバーロードーー」

 

膨大な魔力が引き出され、デクのソウルジェムが急速に濁る。

その目は遠く離れた巨大ロボットを捉え、虚空を掴んだ。

デクの願いは、オールマイトのようになる事だ。

その願いは魔法となって、デクに与えられている。

 

「ーーSMASH!」

 

次の瞬間、巨大ロボットは破壊されていた。

なにかに殴られたかのように後ろへ倒れ、ビルに引っかかり、道路を叩き割る。

そうして試験が終わるまで動き出す事はなかった。

 

「残念だね。あんな倒し方じゃ、なにが起こったのか分からないよ」

「そうだね。でも、彼女は助かった」

 

「そんなに泣いてたら説得力がないよ」

「ーーうん」

 

逃げ遅れた受験生は、他の受験生に助け出されている。

その助け出した受験生に、お礼を言っていた。

 

その様子を見ながらデクは、ソウルジェムの汚れをグリーフシードに吸わせている。

グリーフシードは魔女を倒すと入手できるアイテムで、魔力を回復できる。

デクの魔法は燃費が悪く、一発で魔力を使い切ってしまうほどだ。

そうしてデクの受験は終わった。

 

 

「やっぱり故障じゃない。誰かに壊されている」

「でも、いったい誰に?」

「あの瞬間の受験生全員を、カメラの記録で確認しかねぇよな」

 

「ーーこの受験生か?」

「しかし手を伸ばしているだけのようにも見えるわ」

「個性は魔法少女ーー魔法少女って何だ。変身するだけの個性でもないだろ」

 

「でも推測だよなぁ。確たる証拠がない」

「周囲への聞き取り調査の結果も、変身する個性以上の事は出てこなかった」

「面接、申請してみる?」

 

「ダメだ。公平性に欠ける。提示した試験は、筆記試験と実技試験だ。面接を加えるのならば全ての受験生に行わなくちゃならん」

「じゃあーー不合格ね」

「ああ、結論だ」

 

それは困るなァ。

その様子を眺めていたボクは立ち上がった。

しかしボクを認識できない彼等は気付く事もない。

言い忘れていたけれど、普通の人にボクの姿は見えないんだ。

 

セキュリティなんて無いも同然だよ。

とあるパソコンの前に着いたボクは、前足でマウスを操作し、尻尾でキーボードを押した。

そうして緑谷出久をヒーローコースの合格リストへ移し、保存する。

レスキューポイントは60点、これで緑谷出久は7位になった。

 

ところで何か忘れているようなーー逃げ遅れた受験生だ。

無重力の個性を持つ彼女は、その力で緑谷出久を救うはずだった。

しかし、緑谷出久は落下する事もなく、彼女はレスキューポイントを与えられない。

リストを確認して見れば、彼女は不合格となっていた。

 

ふむーーまぁ、いいか。(無関心)

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