ボクと契約してヒーローになってよ!   作:292299

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もう、そこにいない貴方

髪の毛を丸めて置いたような、特徴のある髪型だ。

モギモギという個性のせいで、そうなっているのだろう。

彼を言い表したいのならば、エロの一言で足りる。

 

「やあ、はじめまして。ボクはQB、魔法の使者だよ」

「QB先生! 女にモテたいですーー!」

 

彼こと峰田実は、滑り込みながら土下座した。

そのチャンスを全力で拾いに行く姿勢は好感が持てる。

ミノルにとって、命と人生を投げ出しても叶えたい願いなのだ。

ただの一度も叶えられなかった願いは、極大の質量を有する。

 

「お安い御用さ! でも、良いのかい? 君が女の子になってしまうんだよ?」

「変身してない間は男なんだろ? 魔力切れさえ起こさなけりゃへーきへーき!」

 

峰田実にとってモテる事は最優先だ。

確実な方法があれば、あらゆるリスクを許容する。

峰田実にとって恐ろしい事は、願いを叶える前に死ぬ事だろう。

峰田実にとって命は重要だけれど、目的ではなく手段にすぎない。

だから、こうして簡単に人生を、交渉の天秤へ載せてしまう。

 

「わかったよ! おめでとう! 君の精神は肉体を凌駕した!」

 

肉体から精神を取り出し、紫の宝玉として形成する。

峰田実の精神を閉じ込めた器、これこそソウルジェムだ。

 

「ほら、鏡だよ! 自分の姿を見てごらん!」

 

魔法少女になったミノルは、"女にモテたい"と願ったミノルを見た。

腰まで伸びる長い髪に、白に紫のラインが入ったジャージだ。

 

「か、かわいい?」

「そうだね! かわいいね!」

 

女にモテたいと願ったから、どんな姿でもモテるよ!

 

「これが女の胸ーー!」

 

自身の肉体を触り始めたミノルを置いて、ボクは立ち去る。

ボクは空気を読めるQBだからクールに去るのさ。

 

翌日、ミノルはジャージで登校した。

もちろん変身した姿、つまり魔法少女のままだ。

同級生の困惑する中、見知らぬ女子生徒の正体に気付いたのはデクだった。

 

「峰田くん!? まさかQBと契約したの!?」

「まーな」

 

「なんて事をーーもう皆と同じように歳を重ねる事はできないんだよ!?」

「つまり不老って事だろ? いーじゃん」

 

「魔女と戦わなくちゃいけない!」

「分かってるよ」

 

「分かってないよ! 魔女と戦って死ぬかも知れないんだよ!? 魔力が切れたら男に戻れなくなるんだよ!」

「いーじゃねーか。男に戻れなくたって」

 

「本気で言ってるの? どうしたの峰田くん、おかしいよ」

「ーー緑谷さん、そのように声を荒げてはいけません。峰田さんが怯えてらっしゃいます」

 

「えぇーー?」

 

デクを止めたのは、教室にいた女子生徒だ。

 

「大丈夫、峰田さん?」

「ちょっと緑谷、大声あげないでよ」

「峰田の気持ちも考えてあげなよ」

 

次々と集まった女子生徒は、壁のように取り囲んでミノルを守る。

 

「え?」

 

それに困惑しているのはミノルも同じだ。

信じられない物を見たかのように目を丸くしている。

女子生徒の圧力を受けたデクは、何も言えなくなってしまった。

 

「朝礼だ、座れ。それと峰田、制服の採寸は昼休みに保健室で行う」

「ええ!?」

 

驚いたのはデクを含む、男子生徒だ。

 

「なんだ?」

「いやいや! 峰田が女になってるじゃないですか!」

 

「だから制服を採寸する。ジャージは、それまでの代わりだ」

「なんで、峰田が女になってるんですか!?」

 

「事情は聞いた。だが、それは個人的なものだ。本人の許可なく話していい物ではない」

「それなら、どうして! 魔法少女の事を先生は聞いているんですか!?」

 

そう声を上げたのはデクだ。

 

「聞いている。なにか問題があるのか?」

「魔法少女になってはいけないんです!」

 

「なぜだ?」

「魔力を回復するために魔女と戦わなければなりません。危険です!」

 

「なぜ回復しなければならない」

「魔力が切れたら女性のまま、男性に戻れなくなります!」

 

「それは、なんの問題がある」

「男性でなくなったら大変です!」

 

「緑谷、それは女性よりも男性が良いと、そう言いたいのか?」

 

女性軽視かな?

 

「ーーいいえ、そういう訳ではありません」

「女性か、男性か、性別を選ぶのは人の自由だ。だから、それは他人に押し付ける事ではないだろう」

 

このヒーロークラスの担任、イレイザーヘッドは合理的だ。

メリットとデメリットを比べて、メリットのある方を取る。

生徒の性別が変わったとしても、それを問題として捉えなかった。

 

「ーーところで、その魔法少女に年齢制限はあるのか?」

「QBの姿が見えないと、魔法少女の素質はないそうです」

 

「そうか」

 

ーー先生は残念そうだ!

 

朝礼は終わって、授業時間だ。

休み時間になると、ミノルの下に女子生徒が集まる。

女子生徒と取り囲まれて、ミノルの姿は見えないほどだ。

 

「かわいー!」

「ねえ、峰田。女の子のこと、私が教えてあげようか?」

 

「喜んで! おいらはーー」

「まあ、峰田さん。せっかく女性になったのですから、"あたし"と言った方が可愛らしいですわ」

 

「そ、そうか? あ、あ、あたーーわたし、は」

「あー、もう、かわいいなぁ! こいつめー!」

 

その様子を男子生徒は、呆然と見ていた。

 

「オレ達は、いったい何を見せられているんだ」

「オレも魔法少女になれば、あの中にーー!」

「峰田に頼めば、胸を揉ませてくれると思うか?」

「止めた方がいい。死ぬぞ」

 

そんな中、デクは極めて深刻だった。

 

「おかしいーーいくら何でも、峰田くんに対する好感度が高すぎる。今にも峰田くん争奪戦が始まっても不思議じゃないほどだ」

 

そうして昼休みになり、朝礼で言われた保健室へ向かう時間になる。

昼食を共に食べた女子生徒と別れ、やっとミノルは独りになった。

その前へ立ち塞がったのは、デクだ。

 

「峰田くん、QBに何を願ったの?」

 

ミノルは答えず、デクを無視する。

視線を合わせないように目を逸らしていた。

 

「それは、やってはいけない事だよ! そんな事したって本当はーー」

 

ミノルの腕を、デクは掴む。

 

「触るなよ!」

 

デクの手をミノルは振り払う。

魔法少女に変身しなければ、デクは4歳程度の力しかない。

 

「峰田くんーー?」

 

ミノルは怯えていた。

その表情から恐怖を見て取れる。

そのままミノルは走り去り、デクは引き留める事ができなかった。

 

「いったい、どうしたの、峰田くん」

 

まるで別人のように思えた。

ミノルの考えている事が、デクは分からない。

4歳で成長の止まったデクは幼く、恐がられる事もない。

それなのにミノルは、デクの何を恐れているのだろうね。

 

 

午後はバスで災害訓練施設へ向かう。

そこでヴィランの襲撃を受け、生徒は各所へ散らされた。

デクとミノルは蛙吹梅雨という、カエルの個性を有する同級生と行動を共にする。

変身して緑と白のドレスで身を包み、デクは魔法少女となって戦闘体勢を整えた。

そうして水難エリアのヴィランを行動不能にして、3人は入口へ戻ろうとしていた。

 

「ーーううっ」

 

ミノルが苦しみ、床に座り込む。

その手から転げ落ちたソウルジェムは黒く染まっていた。

 

「しまった、ずっと変身したままだったからーー峰田くん!」

 

ソウルジェムの魔力が尽きて、紫色の輝きもない。

ソウルジェムの表面が割れ、そこから黒い光が溢れ出した。

その光に照らされたデクの顔は暗くなり、その後ろは明るくなる。

 

「なんだ、これーーまるで光と影が逆になったような」

 

その黒い光に飲み込まれた。

周囲の風景は一変し、肉の壁に包まれる。

地面を踏んで見ればブヨブヨで、まるで生物の体内のようだ。

周囲を見回せば、ミノルと蛙吹梅雨も近くにいた。

 

「峰田くん、大丈夫?」

「あ、ああーーどこだ、ここ」

 

「魔女の結界だ。君のソウルジェムから魔女が生まれた。そうだよね、QB」

「うん。これが今まで、君の倒してきた魔女の正体だよ」

 

ずっと側にいたボクは、姿を現して見せる。

魔法少女が魔女になる事をデクは知らなかった。

もしも魔女になると知っていたら、もっと必死でミノルを止めただろう。

だからボクは教えなかったし、知られないように隠していた。

 

「ボクが殺してきた魔女は人間だったの!?」

「それは人の定義によるね。魔力を動力として生きている生物も、人に含めていいのかな?」

 

「QB、君って奴はーー!」

「怒ってる時間はあるのかな? 今のミノルにソウルジェムはない。早く中身を取り戻さないと、本当に死んでしまうよ?」

 

「中身ってーー魔女!?」

「ほら、あっちから迎えも来ている」

 

ボクの示す先に、黒いゴムのような玉が跳ねていた。

あれは魔女の使い魔で、本来ならば攻撃的だ。

 

「襲ってこない?」

「招かれているのさ」

 

「ーーそうね、早く行きましょう。"彼"が待ってるわ」

 

蛙吹梅雨は虚空を見つめて、そう言った。

首に浮かび上がっているのは、見慣れぬ刻印だ。

それは魔女の口付けと呼ばれ、魔女に魅了されている証だった

とは言え、デクのような魔法少女ならば刻印を消すのは難しくない。

 

「ーーあら? 緑谷ちゃん、ここは何処かしら?」

「大丈夫、蛙吹さん?」

 

「よく分からないけれど、梅雨ちゃんって呼んでね」

「うん、元に戻ったね。よかった」

 

初めて見たように、蛙吹梅雨はキョロキョロと辺りを見回している。

 

「これってヴィランの個性かしら?」

「魔女の結界だよ。個性よりも複合的で大規模な、厄介な性質があるんだ」

 

そこでデクは気付いたようだ。

 

「峰田くんの事、どう思ってる? なにか変わってない?」

「そうねーーハッキリ言うけれど、女の子になるのなら努力した方がいいと思うわ。今のままじゃ、女の子として失格よ」

 

「そ、そんなーー!」

「やっぱり、峰田くんの魔法が解けてる」

 

女の子として失格だった事にミノルは落ち込む。

それに対してデクは、魔法が解けた事に安心していた。

クラスメイトを魔法で操っている様は、気持ちのいい光景ではない。

 

「確認だけど峰田くん、男性に戻れなくなってる?」

「ああーーうん、そうみたい」

 

それは前から言われていた事だ。

魔力が尽きれば男性へ戻れなくなる。

しかし男性に戻れないと知って、ミノルは安心した。

 

「まとめるよ。さっき峰田くんから魔女が生まれた。この魔女は絶望を糧とする存在で、倒せるものなら倒したい。でも今回は、ソウルジェムを取り戻さないと峰田くんが死んでしまう。だから、これからボクらは魔女の下へ向かいたい」

「良いと思うわ。ヴィランに襲われている皆には悪いけど」

 

蛙吹梅雨は賛成した。

とは言え、取り返すべきソウルジェムは砕け散った。

ソウルジェムが魔女ならば、どうやって取り戻せば良いのかデクは知らない。

 

「峰田くん?」

「おいらはーーわたしはーー」

 

ミノルは座り込んだまま悩んでいる。

どうしてミノルが迷っているのか、デクは分からない。

 

「進みたくない?」

「ーーああ」

 

「戻りたい?」

「ーーいいや」

 

「ここに居たい?」

「ーーいいや」

 

「峰田くん、ボクは君に死んでほしくない。だから連れて行くよ。いいね?」

 

返事はなかった。

まるで魂を抜かれてしまったように、気力が衰えている。

ソウルジェムが砕けてしまった事を考えれば、その例えも間違ってはいない。

 

ミノルを連れて、デクと蛙吹梅雨は進む。

ブヨブヨとした肉の床は、一歩進むごとに不快感を与える。

誰かの内臓を歩いているような空間の狭さも合わさって、窒息しそうな錯覚も覚えた。

 

「何か来る」

 

デクは足を止める。

前方の横穴から現れたのは、虚空を見つめフラフラと歩く集団だ。

魔女の口付けを刻印された人々は、生徒たちを襲撃したヴィランだった。

 

「ーーあれって、上鳴くん、耳郎さん、八百万さん?」

 

ヴィランに混じって仲良く歩いているのは、同級生の3人だ。

その3人に近寄ったデクは、魔女の口付けに触れて解除する。

 

「あれ? どこだ、ここ?」

「あたし、いつの間に?」

「まあ、緑谷さん。助けてもらったようで、お礼を申し上げますわ」

 

3人も合流して、一緒に魔女の下へ向かう事になる。

しかし問題は、まだ魔女の支配下にあるヴィランの集団だ。

 

「"魔女の口付けーーですわね"。それは残したまま私の創造した縄で縛り、置き去りにするのは、どうでしょう?」

「でも意識のない状態で、"緑谷ちゃんの言う使い魔"に襲われたら危ないわ」

「その"魔女ってやつ"と戦ってる途中でジャマされたら大変でしょ? 魔女の口付けは解除して、その後ウチの個性で気絶させる?」

「このまま放っておいて、さっさと"魔女ってーの"を倒せば良いんじゃね?」

 

「緑谷さん。専門家としては、どうなのでしょう?」

「結界に取り込まれた人は、他の所にもいると思う。そういう人達よりも早く、魔女の下へ辿り着く必要がある。だから上鳴くんの考えに賛成するよ」

 

そういう訳でヴィランは放置し、一行は先を急ぐ。

すると、また肉壁の横穴から人が現れた。

 

「轟くん?」

「おまえら、無事だったのか」

 

「あれ? 轟くんは独りだったの?」

「ああ、誰も居なかった」

 

「ーーよく無事だったね、轟くん」

 

デクはジト目で、轟焦凍ことショートを見つめる。

 

「どうした。オレが何かしたのか?」

「さぁーー? さっきまで普通だったよな、緑谷」

 

するとデクは小さな背を伸ばし、ショートの胸をポンポンと叩いた。

 

「ーーうん、本物だね」

「なんだ、"魔女の使い魔"と疑ってたのか?」

 

そうしてショートを加え、肉で形作られた通路を進んで行く。

 

ーーそんな一行の背後で、まるで人が歩いているかのように、肉の床が沈んでいた。

 

魔女の使い魔の案内で、迷うこともなく魔女の下まで直行だ。

通路を遮断するように張られた肉の膜を破ると、これまでと違った通路に出る。

ピンク色だった肉は赤く染まり、ドクドクと鼓動を伝えていた。

 

「なあ、なあ、これってアレかな?」

「私の個性はカエルだからーー」

「いけません、耳郎さん、蛙吹さん。殿方もいらっしゃるのですよ?」

 

「なあ、これってソーセージに似てね?」

「こんな腸に詰められたソーセージは食欲が失せるな」

 

その足下が自動で動き始め、一行を前へ運び始める。

 

「なになに!?」

「罠か!?」

 

一行は足を曲げ、姿勢を下げて備えた。

 

「あれ、見て! 壁に何か映ってる!」

 

それは見知らぬ少女だった。

どこかの制服を着て、その上半身だけが映っている。

 

「ーーねえ、峰田って気持ち悪いよね」

「ーースカートばかり見て、気持ち悪い」

「ーー更衣室を覗こうとしたんだって、さいてー」

「ーーうわー、気持ち悪い」

 

壁に映った少女達は、次々に入れ替わって、そう言った。

 

「違う! これは私じゃない! 私じゃない! 私じゃない!!」

 

ミノルは耳を塞ぎ、叫ぶ。

しかし、ベルトコンベアのように止まる事を許さない。

床は加速を始め、映像が切り替わる速さも増していった。

次々に少女達は現れ、消えて、その言葉を口にする。

 

「気持ち悪い」

「気持ち悪い」

「気持ち悪い」

「気持ち悪い」

「気持ち悪い」

「気持ち悪い」

「気持ち悪い」

「気持ち悪い」

「気持ち悪い」

「気持ち悪い」

 

「ーー死ねば良いのに」

 

そうして通路の先へ辿り着き、最後の膜が破られる。

峰田実にとって最も恐ろしい敵が、結界の最奥で待っていた。

 

髪の毛を丸めて置いたような、特徴のある髪型だ。

モギモギという個性のせいで、そうなっているのだろう。

彼を言い表したいのならば、エロの一言で足りる。

 

「なあ、気持ち悪いよなぁーーおいらってさ」

 

そこに"彼"はいた。

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