問題でしたら消します。
昔は身体が小さかった。
俺と同じ姿をした奴と比べても差は歴然だった。
だから食べ物の取り合いになったらいつも勝てなくて、指をくわえて見てるしかなかった。
そんな、ある日のことだった。
腹を空かせて迷い込んだのは人間が住んでいる町の入口。
そこで俺は人間の少女に出会った。
彼女は俺を見るな否や抱えていたオレンの実をひとつ地面に置いた。
普通のポケモンならば毒でも入ってるんじゃないかと警戒するところだろう。
でも俺は躊躇わずオレンの実にかぶりついた。
変な味はせず、毒も入ってなさそうだった。
ふと、上を見上げてみる。
そこには太陽の光のような笑顔があった。
それから俺はたびたび町の入口へ行くようになった。
入口ではいつも色々な木の実を抱えて彼女が待っていた。
木の実を貰い、彼女の話につき合い、山にあるねぐらに帰る。
その繰り返しだった。
やがてはいつの間にか俺のあとをつけてきてた連中がいて、そいつらも彼女から木の実をねだるよ
うになった。
当然ここでも奪い合いになり、俺は負けた。
いつものことだ。
でも彼女は俺のために木の実をこっそりとっておいてくれていた。
いつからだっただろう。
木の実目当てではなく、ただ純粋に彼女に会いに行きたいと思ったのは。
あの笑顔をもっと見たいと思ったのは。
ある日俺は彼女をねぐらに案内した。
自分だけが知ってる場所を彼女にも知ってもらいたい。
理由はそれだけ。
でもあんなことになるなんて思っても見なかった。
前の日は雨が降っていた。
だから地面がぬかるんでいた。
普段だったらもっと用心深く歩いていただろう。
この時俺は彼女と一緒にいられて嬉しくて、足元なんて気にしていなかった。
だから足を滑らせて谷底に落ちた。
落ちてしまった。
斜面を転がって転がって、草に受け止められてようやく止まった。
落ちたはずなのに不思議と痛くない。
何か柔らかいものが巻き付いてくれたからだ。
上を見た正体がわかった。
その柔らかいものは――彼女自身だった。
彼女が俺を庇ってくれていた。
すぐに俺は彼女を軽く叩いたりゆすったりした。
けれどぴくりとも動かなかった。
幸い彼女は町の人間に発見され、空を飛んでる何かで連れていかれた。
次の日、俺は町の入口に行った。
でも、そこには誰もいなかった。
それから一週間、一ヵ月と時間が過ぎていく。
何度行っても結果は同じだった。
三カ月経ったある日、町の人間が彼女のことを話しているのを聞いた。
そいつによると、彼女は目が見えなくなって、別の町に引っ越したらしい。
そう聞いた時の驚きと後悔は今でも忘れない。
彼女の目が見えなくなったのは俺を庇ったせいだ。
それはあの頃の俺でも容易に理解できた。
山に帰った俺はためておいた木の実を集めて旅に出た。
目的はただひとつ。彼女に会うためだ。
急だったもんだから驚いた奴もいたが、分け前が増えると大喜びしている奴もいた。
お前は弱いから他のポケモンにやられてすぐ帰ってくるのが関の山だと行っていた奴もいた。
確かにどいつもこいつも強い奴ばかりで最初は逃げ回るしかなかった。
でもそれじゃいけないと思ったから戦うようにした。
戦うようにしたからといって何かが変わるわけでもなく、俺は負けてばっかりだった。
でも、ある時勝つことができて、だんだんと勝った回数が増えていった。
同じ姿をしていた奴より小さかった身長もすっかり大きくなっていた。
旅をしてから何度も自分に問いかけたことがある。
それは「俺は彼女に会ってもいいのか」ということだった。
彼女から光を奪ったのはこの俺だ。
そんな俺に彼女に会う資格は無いんじゃないのか。
会ったとしてもどうすればいいのか。
答えは最後まで出なかった。
旅に出てから半年くらい経った頃だろうか。
小さな林の中にある草むら。
そこで俺はようやく彼女と再開できた。
彼女は傍らに小さなポケモンを連れていた。
小さなポケモンが彼女の後ろに隠れる。
そいつにとって俺は恐ろしい相手に見えたからだろう。
俺のほうが大きいし、度重なる戦いで傷があちこちにできている。
こんな奴を怖がるのも無理もない。
「大丈夫だよ」
彼女は小さなポケモンを撫でて宥める。
そして、俺がいるほうを向いてふわりと笑った。
「また会えたね」
その笑顔はあの時と変わっていなかった。