「鬼滅の刃」世界のあの世が「鬼灯の冷徹」世界だったら   作:淵深 真夜

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原作があまりにも心抉る展開だからな所為か、あの世がこの世界だったらなぁという妄想が膨らんだ結果、爆誕。っていうか、絶対にもうすでに他に書いてる人いるだろと思っていたのにいないのがマジで意外。

鬼滅は本誌で最初から読んでますが単行本は買ってなくて、今はマジで手に入らない状況なので、記憶とwikiや大百科を参考にして書いてます。だから「もう鬼滅キャラが平和で幸せであと無惨ざまぁになってりゃなんでもいいや」という精神で読んでいただけるとありがたいです。


「俺達だって無惨大っ嫌いだよ!!」

「ん? 何だこれ?」

「おい、茄子。何やってんだよ?」

 

 地獄の資料室というのはもはや名分。

 実際はいるかいらないかわからない物をとりあえず置き続け、流石に容量の限界を感じた部屋を鬼灯が手の空いている獄卒たちに指示し、そして言い出しっぺだからといって自らも通常業務の合間を縫って断捨離している最中に、茄子がそれを見つけた。

 

 敏感肌で埃にも弱い唐瓜がマスクを着けたまま、「さぼるな」と幼馴染を軽く小突く。

 茄子は「ゴメンゴメン」と軽く謝りつつ、彼はお迎え課スペースにあった「それ」を広げて見せた。

 

「見ろよ、唐瓜。服だ服。洋服。何でこんなのがあるんだろう?」

 

 茄子が広げて見せたのは、黒い詰襟の上着。男子学生の学ランと言えばわかりやすいだろう。

 やけに古びているものだが、それだけなら特に不思議ではない。地獄の獄卒たちは、時々仕事や研修で現世を訪れることもあるから、その為の変装用の服だろうで終わる話だ。

 

 特にこの服が置いてあったのはお迎え課……、現世で死んだ者の魂をあの世に迎えに行く獄卒たちの部署だ。

 役割上、基本的に彼らは生者には見えない状態で現世に降りるが、死体から魂が完全に抜けた後、そのまま逃げ出してしまった亡者を捜すのも彼らの仕事。そしてその亡者の目撃情報を生者から得る為に、実体化して現世に降りることも多々あるのだから、これは学校などで目撃される亡者を捕まえる為、潜入用の服だと唐瓜は判断し、茄子にそう言ってさっさとしまえと指示を出す。

 

「いや……これ多分学校の制服じゃないと思う。つーか、そうだったら嫌すぎる」

 

 が、茄子は唐瓜の言葉を、困ったようなというか困惑したような顔で否定するので、唐瓜も小首を傾げて訊き返す。

 

「? いや、どっからどう見てもただの学ランだろ。ちょっと……いやけっこう古いっぽいけど。何がどう嫌なんだよ?」

「だって後ろ、こんなんだぜ?」

 

 唐瓜の疑問に、茄子は見せていた詰襟をくるっと翻して、背中側を見せることで答えを示す。

 そして背面を見て、唐瓜は深く茄子の言葉に納得しつつ絶句。

 

 その黒い詰襟の背面には、大きくはっきりと「滅」と刺繍されていた。

 

「……いや、これなんだよ? なんでこんな物騒すぎる刺繍がされた服がこんなところに……」

「おや、懐かしい。鬼殺隊の隊服じゃないですか」

 

 唐瓜が困惑真っ最中の中絞り出した疑問兼突っ込みに、思ったよりあっさり答えが返ってきた。

 

「「鬼灯様!」」

 

 段ボールを三箱ほど抱えた鬼灯が、茄子が持つ詰襟を見てそう言った。

 いつも通り仏頂面の見本のような無表情だが、だいぶ彼に慣れてきている小鬼二人には、わずかなその表情の機微に気付く。彼は確かに、何かを懐かしむようにいつも細い目を、わずかだが更に細めていた。

 

「鬼灯様、この服がなんなのかわかるんですか?」

 

 茄子は無邪気に詰襟を掲げて鬼灯に駆け寄り、この服の由来を上司に尋ねる。

 仕事中にすべきではないと、真面目な唐瓜は注意しようとしたが、彼自身も気になったからか、叱責の言葉はとっさに出てこなかった。気になったのは、あの刺繍の「滅」は何に対してのものかがすぐにわかる隊の名前、「鬼殺隊」の所為だろう。自分たちの種族的に物騒すぎる名前の集団のおそらく制服が、何故ここにあるのかという好奇心はどうしても殺しきれなかった。

 

「あぁ、最近のお若い(ひと)達は知りませんよね。けれど、学校の授業で学ぶはずですよ」

 

 幸いながら掃除をさぼって雑談していたことを咎める気は鬼灯にはなく、むしろ彼自身もそろそろ休憩しようと思っていたのか、抱えていた段ボールを下ろして話し始めた。

 

「『鬼舞辻 無惨』には聞き覚えがあるでしょう? 平安時代に人間の手によって、人間の身で『鬼』となり、そして自身と同じ『鬼』を増やし続け、大正時代にやっと滅ぼされた、最低最悪最凶の極悪人。

 それは、奴や奴の配下である鬼を根絶させるために生まれた、政府非公認組織の制服ですよ」

 

 * * *

 

 優等生の唐瓜はその「鬼舞辻 無惨」という名前で、学校で学んだ奴が犯した悪行、奴が元凶で起こった悲劇、そして奴に振り回された地獄の裁判関係者たちの苦労の数々が脳裏に浮かび上がり、手を叩いて「あぁ!」と声を上げる。

 

 しかし茄子の方はすぐには思い出せず、唐瓜の反応から一拍遅れて声を上げる。その遅れに唐瓜の気がやや抜けるが、茄子にしては一拍遅れで思い出せただけマシだということを、幼馴染はよく知っていた。

 だが、この記憶の仕方はさすがに予想外だった。

 

「あぁ! あいつか! やたらとペイズリー柄が好きなやつ!」

「どこを記憶してんだよお前!?」

 

 まさかの奴のやらかした数々の所業ではなく、教科書に載っていた姿絵で着ていた服の柄で茄子は記憶していたし、奴の印象も「ペイズリー柄が好きな奴」でしかなかった。

 

「そうなんですよね。何故かやたらとあれはペイズリー柄を好んでましたね。

 大正でも前衛的すぎるというのに、戦国時代でも着てましたし」

「マジですか、それ!? 何のこだわりがあるんだよ、ペイズリー柄に!!」

 

 しかし何故か鬼灯が茄子の記憶の仕方に、呆れのではなく深々と頷いて同意を示してから、唐瓜の困惑に追撃を掛ける。

 どうやら教科書の姿絵に描かれたペイズリー柄のシャツやらベストやらは、絵描きの好みとかではなくガチで鬼舞辻 無惨の特徴の一種だったらしい。

 

「あいつ、姿絵だとやたらとイケメンで落書きのし甲斐がありましたけど、実際はどうだったんですか? あとなんかすっげー色っぽい女の人も一緒に描かれてたけど、それはあいつの奥さんですか?」

「姿を変えれたので、どの時代でも通用する男前ですね。というか、顔を変える必要なんかないくらいに素顔も整ってます。むしろ、皮肉なしで純粋に奴の褒められる所はそこしかありません。

 あとその女性は、珠世さんじゃなければたぶん無惨本人です」

「マジでか。唐瓜の初恋の人なのに……」

「黙れ! マジで黙れお前!! っていうか鬼灯様! この服が鬼殺隊の服だってことはわかりましたが、何でそんな服がこんなところに保管されてたんですか!?」

 

 嫌すぎる情報を知らされるわ、茄子に黒歴史となった自分の初恋を暴露されるわで散々な唐瓜が、茄子を締め上げながら話を無理やり元に戻す。

 鬼灯も普段は表情の乏しい顔に憐れみを露わにして、それ以上この話題には触れずに脱線しまくっていた話を再開した。

 

「鬼舞辻 無惨と奴によって変貌させられた鬼は我々とは全く違う、むしろ海外の『吸血鬼』に近い存在であることはご存知ですよね?

 我々は獄卒どころかそこらの子供の鬼でも、普通の人間は手も足も出ない程の力を持ってます。奴らも同じくらいの力を持つだけではなく、純粋な鬼でも持っている者は珍しい、異能を操る者が多々いました。そして何より、奴らは強ければ強いほどに自己治癒や再生能力も桁外れに高いという、我々でも出来れば相手にしたくないような存在です。

 

 そんな奴らに、家族や大切な人を殺され、食われた者。もしくは家族や大切な人が、身も心も化け物に変えられた者達、つまりは復讐者こそが鬼殺隊の隊士です。……ごくごく稀に、鬼が全く無関係で入隊する人もいますけど。金目当てや婚活で。

 まぁ、それはいいとして……、そのような目的で入隊するのですから、鬼に対する殺意はあまりに高い。ですが、彼らはあくまで人です。特殊な訓練や剣技、呼吸という技術、そして日輪刀という特殊な武器を使っても、我々ですら手こずる相手に対しての戦績が良い訳はありません。

 相打ちで大健闘、異能を操る鬼なら、10人犠牲に倒しても黒字という世界でした。……そんな訳で、鬼殺隊の殉職率は半端なかったんですよ」

 

 そこまで言われたら、唐瓜はもちろん地頭は割と良いのではないかと思える茄子にもなんとなく、その続きとこの隊服がここにある訳に想像がついた。

 

「……お迎え課……襲われるんですね」

「えぇ。状況によっては迎えに行ったお迎え課の方々より亡くなった鬼殺隊員の方が多くて、数の暴力でフルボッコにされることもありました」

 

 青ざめた顔で唐瓜が自分の予想を口にすると、鬼灯は真顔で即答して、更にお迎え課が災難すぎるパターンまで教えてくれた。

 

「死後の裁判が嫌だからの抵抗なら、お迎え課(こっち)も遠慮なく実力行使すりゃいいけど……」

「どういう経緯でその立場になってそんで死んだかを知ってりゃ、襲われても反撃しにくいよな。死ぬ前や死んでからすぐに、俺達は無惨の鬼じゃないことを知っとけなんて、向こうからしたら無茶ぶりだし」

「しかもその人達が死んだ状況って、十中八九が鬼との戦死だろ? 鬼に殺されてすぐに獄卒(おれたち)が来たら、そりゃまだぶっ殺すモードだろうよ……」

 

 心の底から当時のお迎え課に同情しつつも、しかし鬼殺隊はもちろん、あの世側も対策のしようがなかったことを、唐瓜だけではなく茄子も悟って、思わず遠い目で呟く。

 

「その通りです。

 しかし、だからと言って向こうが話を聞いてくれるようになるまで、こちらがサンドバッグになる必要まではありません。っていうか、彼らは鬼と戦うだけあって、そんじょそこらの人間とは比べ物にならないくらい強いですし、武器がないからって戦意を失う人たちでもありません。武器がなければ、日の出まで相手にしがみついてかぶりついて心中する覚悟完了済みの方々ばかりです。

 そんな人達のサンドバッグになど、それこそ命がいくらあっても足りないのですから、対策として取ったのが、既に裁判を終えた鬼殺隊の隊士をお迎え課のチームに迎えることです」

「「やっぱりか」」

 

 ようやく地獄(ここ)に鬼殺隊の制服があった訳が語られるが、それはもう二人とも理解できていた。

 いくら鬼殺隊が根っからの鬼不信でも、現代ならともかく無惨がやっと討伐された大正ぐらいなら、「悪いことをしたら地獄に堕ちる」ぐらいの話を言い聞かされて育ち、「獄卒」という名は知らなくとも、罪人を懲らしめる役割の鬼という存在は知ってはいるはず。

 

 なので、獄卒というか地獄の住人である鬼が無惨由来ではない事、人食いではない事さえ知れば和解は可能だ。

 そのことを知ってもらうのが一番、迎えに行った獄卒にとってはハードな条件なのだが、鬼相手なら聞く耳どころかぶっ殺すモードに入ってバーサークする相手でも、同じ隊士の姿があれば頭も冷えるだろう。

 そう二人は納得しているところ、鬼灯はやや遠い目をしながらさらに情報を追加する。

 

「まぁ、多少はマシになりましたが実はあんまり効果的ではありませんでした。むしろ、お迎え課の味方をすることで裏切者認定されて、余計に加熱する事も多々ありましたね」

「「だめじゃん!!」」

 

 地獄のチッ〇とデー〇が仲良く勢いも良く同時に突っ込む。

 が、そんな突っ込みは、鬼灯含めて地獄で色んな人がやりつくした。

 

「顔見知りならともかく、知らない相手から『この鬼は無惨とは無関係で、悪い鬼じゃない』と言われても、騙しに来ているようにしか見えないのはわかりますけどね……。

 一番いいのは産屋敷の歴代当主に説得してもらうことですけど、いくら早死にの家系とはいえさすがにお迎え課を全カバーできるほどはいませんし、そもそもこちらも自分が知っているお館様でないと、『誰だお前?』ですし。耀哉さんレベルなら、初対面でも落ち着かせることができたんでしょうけどね。

 

 あと、柱と呼ばれる隊の最高位が殉職して、お迎えにいく時は本当に最悪です。

 ただでさえ鬼殺隊は、格上と戦うことを常に前提としている人たちですよ? そしてお迎え課は、拷問担当の獄卒と違って、荒事に慣れてません。鬼殺隊以外の亡者は普通、(わたし)たちを見て逃げることはあれど、襲い掛かりはしませんから。

 死にこそはしませんが、柱相手だと一人でもお迎え課三人と説得役の元隊士さんがやられることもありました……」

 

 鬼灯の目が更に遠くなって、昔のしないよりはマシだけどしても面倒事が減らなかった厄介ごとを語り、もう二人は「うわぁ……」としか言えない。

 

「ただ流石にお迎え課と説得係の隊士も含めた4人組相手に、敵う方は柱でも滅多にいなかったのと、大勢の隊士が一度に死亡する事態も多くはなかったので、穏便には無理でも獄卒返り討ちなんて、ほとんどありませんでした。

 ……が、最後の最後、無惨の討伐成功した無限城での戦いが戦場でした。隊士たちはもちろんですが、お迎え課に限らず、地獄の獄卒全員にとってね……」

 

 鬼灯がフォローのつもりなのか、獄卒が鬼殺隊に返り討ちの事例はあまりなかったと語るが、彼の言葉を裏返せば、滅多にいなくても4人を単独で返り討ちにする人間はいたし、お迎え課が数の暴力で沈められるほどの死人が一気に出る事態もあったということなので、唐瓜も茄子も突っ込む気力が出て来ず絶句。

 

 その絶句している間に、懐かしみつつ思い出した当時の修羅場を鬼灯は、やや座った目で語り……いや、愚痴りだす。

 

「覚悟してました。覚悟はしてましたよ! 私も閻魔大王も他の十王達も、獄卒たちや協力者の元鬼殺隊やその関係者、無惨によって無理やり鬼にされた被害者と言っていい亡者たちも、ここでやっと無惨を仕留められることを期待しつつ、犠牲は過去最大になることを覚悟してましたよ!!

 

 けどですね! 覚悟はしてましたけど予想なんてできませんよ!! 何で妻子巻き込んで自爆してんですか、鬼殺隊のトップは!!」

「「そっち!? っていうかマジで何してんのその人!!??」」

 

 * * *

 

 だんだんとヒートアップしてゆく鬼灯に怯えつつ、何とかなだめようとしていた二人が全力で突っ込む。

 まさかの鬼灯がここまでテンション上げて愚痴るほど、決めていた覚悟以上の予想外の出来事をやらかしたのが無惨側ではなく、心情的に味方のはずの鬼殺隊トップ。

 そしてそのやらかしは、当時の事をよく知らない若い鬼である二人でも確かに、何年たってもソウルシャウトで愚痴りたくなる気持ちが理解できるほど、意味不明すぎる暴挙だ。

 

 しかし、唐瓜たちを困惑させつつも言いたいことをぶちまけて少しすっきりした鬼灯曰く、この自爆行為は無惨に少しでもダメージを負わせる+自分や家族が喰われて奴の養分にならないように+その後に控えていた人間化薬投与が確実に成功するように+隊士たちの士気を上げるためにやらかした事らしく、しかもちゃんと妻子は納得済みでのことだった。

 

「すみません。知っても訳わかりません」

「むしろわかりたくない」

「でしょうね。無惨もあの時、パニくりながら内心で『妻子は同意してたのか?』と思ってましたし、浄玻璃の鏡で見てた我々も『……それな』と思いましたよ」

 

 しかし説明されても、自爆の目的こそは理解できたが、なおさらにそれを実行する精神性も、納得して同意した覚悟の決まりぶりも、唐瓜と茄子はもちろん、鬼灯にも理解できなかった。

 

「ただでさえ産屋敷の人間は間違いなく善人なんですが、鬼殺隊の入隊試験はハ〇ター試験の方が死亡率は低いのでは? という過酷なものを実施し続けているので、いつも判決を困らせていました。

 そんな訳で、この自爆した産屋敷当主の耀哉さんは、無惨関係の裁判で三大判決に困った亡者の一人かつ、『天国行きにしていいのか、こいつ』代表でした」

「「でしょうね」」

 

 鬼灯の評価に心から納得しつつ、唐瓜は内心「これと並ぶ判決に困る亡者が二人いるのか……」と顔を青ざめる。その頃の獄卒ではなくて良かったと、心の底から思っているのだろう。

 そして実際に、その頃の獄卒は現場に出る者もデスクワーク担当の者も忙殺という言葉では生ぬるい惨状だったことを、またしても当時の修羅場を生々しく思い出した鬼灯の愚痴で知る。

 

「そんな産屋敷ボンバーで始まり、無惨由来の鬼も死ぬわ鬼殺隊も死ぬわ、三大判決に困った『地獄に落としていいのか、こいつ』代表も、『地獄行きは決定事項だけど、どこの地獄なら責め苦になるんだよ!?』代表もほぼ同時に死ぬわ、挙句の果てに無惨は人間化薬を分解して復活してしまい、消耗を補うために鬼殺隊の隊士を貪り食うわ……。

 ……あの無限城の戦いで、霊感のある隊士さんがいらしたらすごい光景だったでしょうね。ただでさえ生者対鬼の阿鼻叫喚だというのに、羽交い締めてあの世に連れて行こうとしている獄卒を振り払って、亡者は何とか無惨に攻撃しようとするわ、説得役の隊士さんも無惨を前にしたら憎悪が蘇ったのか、役割忘れて参戦するわで……。

 

 ……最終的にはもうお迎え課も『俺達だって無惨大っ嫌いだよ!!』と叫び、殉職した隊士たちに怒涛の勢いで、無惨に対する愚痴を語ったことで仲間意識が芽生え、もう亡者回収を後回しにして無惨討伐を最優先に協力しました。その結果、鬼殺隊と獄卒の間に絆が生まれ、無惨討伐後に多くの元隊士さん達が地獄に就職してくれたのが、救いと言えば救いでしょうか……」

 

 先程とは違って当時の修羅場の疲労まで思い出しているのか、テンション低く語る鬼灯。救いと語る優秀な人員補充は本音だろうが、そう思わないとやってられないというヤケクソじみた感想も透けて見えるので、唐瓜は「お疲れ様です」と今更すぎるが、当時の鬼灯や獄卒たちを心から労わった。

 

 茄子の方も同じく労わり、同情もしていただろうが、それでも彼は幼馴染と違って思考の切り替えが早い。

 彼は想像するだけで疲労する当時の修羅場の話をさっさと変えて、ほがらかに自分が気になった部分の話題を持ち上げる。

 

「ということは、獄卒の中に当時の鬼殺隊の人とかいるんですね。柱とかには会ってみたいなー」

 

 決して好戦的という訳ではないが、それでも地獄(げんば)で拷問もこなすからこそ、多少鍛えていようが人間が自分たち鬼に敵わないことを知っているからこそ、4人がかりでも勝てなかった柱に興味を持ったらしい。

 そして「会ってみたい」と言ってから、彼も唐瓜も鬼灯が何かを答える前に、そもそも自分の知り合いというか上司こそが、その「柱」ではないかと思い当たる亡者(じんぶつ)が一人、頭に浮かぶ。

 

「あ! 鬼灯様、もしかして……」

「鬼灯様ー。すみません、大王がお呼びです。……その、さっき貰った書類の内容について訊きたいことがあるそうで……」

 

 思い浮かんだ人物の名を上げて、鬼灯に確認しようと思ったタイミングで、その張本人がひょっこり顔を出す。

 そして鬼灯は、「っち! やっぱり話を聞いてなかったな、あのジジイは」と閻魔大王に毒づいてから、彼はあまりに気が利いて素直で優秀だからついつい頼って、もはや自分の個人秘書のような立ち位置にいる部下を掌で指して、茄子と唐瓜に言った。

 

「茄子さん、訊きたいことはわかってますので今、答えます。

 彼はあなたが思った通り無惨討伐を期に就職しましたが……、改めて紹介しましょう。

 

 狛治(はくじ)さんこと、猗窩座(あかざ)

 鬼舞辻 無惨が率いる鬼の最高幹部である十二鬼月の上弦の参、つまりは戦力No,3の鬼だった亡者(ひと)です」

 

「いきなり何で俺の黒歴史を後輩に暴露するんですか鬼灯様!?」

 

 地獄の良心と名高い狛治が珍しく上司に向かって声を荒げて突っ込むのを、茄子と唐瓜は口をあんぐり開けてただ見ていた。

 




当初は五道転輪王の所でチュンのフォロー役でもやってもらおうかと思ったけど、本質が真面目で善良だからこその苦労性があまりに鬼灯様の助手というか側近ポジにぴったりだったので、狛治さんがレギュラー化した。

……自分で書いててなんだけど、この人マジで地獄に堕としていいの?
堕ちるとしたら、何地獄よ? 等活地獄? 等活(弱い者いじめをしたものが落ちる地獄)だとしたら、剣道道場連中に対して最大の皮肉だな。
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