「鬼滅の刃」世界のあの世が「鬼灯の冷徹」世界だったら   作:淵深 真夜

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鬼灯の原作に登場した地獄はそちらに合わせてますが、登場してない地獄で現代に合わない罪状だったりした場合は私の独自解釈で改変してます。
そのあたりをご理解の上、無惨の理不尽だけど因果応報自業自得過ぎる地獄堕ちをお楽しみください。




無惨様の楽しい十六小地獄めぐり(衆合地獄編)

「視聴者の皆様、お待たせしました。

 想像以上に好評だった『汚いカー〇ィ』『眠れる獅子専用目覚まし時計』『お薬飲めなかったね』と、数々の汚名を今なお増やし続ける立てば無惨、座れば無様、歩く姿は生き恥そのものな鬼舞辻 無惨の楽しい十六小地獄めぐり第2弾、衆合地獄編を開始したいと思います」

「勝手に増やしていってるのはお前だろうが!! もはや汚名なのかそれは!?」

 

 鬼灯が相変わらず無表情でカメラに向かって口調だけは実に明るく、内容は陰険なのかもよくわからない悪口を言いまくり、そして無惨も無惨で相変わらず獄卒に拘束されながらも懲りずに喚き散らして突っ込みを入れる。

 今回、無惨の口がふさがれていないのは、前回の動画で無惨の突っ込みが面白かったと大変好評だったからだ。

 

 しかし無惨の突っ込みが好評なのは、あくまで奴がどんなに自分を全力全開で棚上げしても、鬼灯がその上げた棚ごと無惨をぶっ潰す勢いで突っ込み返し、もしくは無惨以上の理不尽で物理的に叩きのめすからだ。

 なのでもちろん、鬼灯は視聴者の期待と自分の心からの欲求に素直に従って、喚く無惨の頭を金棒で叩き潰してひとまず黙らせる。

 

「さて、今回無惨が巡る地獄は衆合地獄。

 邪淫……つまりは性犯罪がらみによる地獄の為、罪状はもちろん刑罰もそれに関することがほとんどです。

 ですが、この動画は全年齢対象! 親御さんが安心して将来の獄卒を目指す子供に見せられる刑場紹介の為の動画です!

 なので、罪状と刑罰の内容を若干濁して紹介します。気になる方はぜひとも義務教育を卒業してから、自力で調べるなり、地獄に見学に来るなりしてください」

「おい待て! 前の動画がそもそも規制なしだったのか!?」

 

 頭を再生させた無惨がすかさず突っ込むが、鬼灯はいつもの事として、他の獄卒も無惨の突っ込みが理解できないと言わんばかりに首を傾げた。

 その獄卒たちの様子に無惨は全力でドン引いて「化け物共!!」と罵った気持ちは、実に癪だがわかる。

 

 けれど実際、獄卒たちには無惨の突っ込みの意味がよくわからない。そもそも、罪人に拷問する獄卒という職が公務員なのだから、価値観を亡者(にんげん)と一緒にする方がおかしい。

 ここに狛治がいたら、「人間の感性からしたら、拷問内容は規制がかかります」と突っ込み兼指摘をしてくれただろうが、残念ながら本日も狛治は欠席だ。「他のどの地獄でもそうですけど、この地獄の刑罰は一番見ていていたたまれない」と本人は言って、参加を断固拒否していた。

 

 地獄の良心が元とはいえ、上司の無様さをいたたまれないと思ってくれているからこそ、この動画は悪乗りをし続けることになっている事を無惨は知らない。

 そんな訳で、今日も突っ込みが無惨以外不在のまま撮影は続行。

 

 この地獄で注意すべきなのは、グロではなくエロによる規制。こちらは現世と同じくらいに規制がかかる。

 だからこの地獄で動画は諦めるか、ここだけ年齢制限をかけるかした方が良いという意見も出たが、鬼灯は「年齢規制なしで行きます」とゴリ押した。

 

 理由? 一人でも多くに無惨の無様を見て欲しいからに決まっている。

 その意見は元鬼殺隊の獄卒はもちろん、無惨に騙されたり襲われたりして鬼になった被害者たち、そして地獄の住人である鬼の獄卒たちからも支持を受けて、見事にノー規制で行くことが決まってしまった。

 

 なので、鬼灯も撮影獄卒(スタッフ)も真剣な面構えで撮影に挑む。

 今回の動画撮影の合言葉は、「俺達の(コンプライアンスに対する)戦いはこれからだ!」である。打ち切りにならない内に勢いだけで乗り切る気しかないな、こいつら。

 

「なので、無惨。あなたも発言に気を付けてください。あまり下品なことを言うようなら、あなたの顔面を猥褻物扱いでモザイクかけます」

「拷問がモザイクなしだから、モザイクかかった時点でそれが自動的に猥褻物扱いか!! おかしいだろ、どう考えても!!

 というか、私はその地獄に堕ちる要素は一切ない!! 女の方が勝手に寄ってきたから相手にしてやったのであって私は「コンプライアーンス」

 

 一応程度に鬼灯が無惨にも注意を促すが、もちろん無惨は割と普通の感性で納得せずに突っ込みを入れ、そして早速規制に引っかかりそうな発言で自分を正当化しようとしてきたので、鬼灯が実に気合いの抜ける掛け声でもう一回、無惨の頭を叩き割った。

 どうやら、モザイクやピー音の出番はなさそうだ。たぶん、必要になりそうになったら鬼灯がこれで全部誤魔化す。

 

 のちに完成したこの動画を見た桃太郎は、こう叫んだ。

「エロ規制をグロで上書きすんな!!」、と。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

・衆合地獄の十六小地獄

 

 

 

「はい、まず最初は『大量受苦悩処(たいりょうじゅくのうしょ)』です。

 この地獄は性こ…………ファイト一発の方法が異常だったり、それを覗き見して真似した罪に対応するもので、炎の剣で肛門から腰にかけて串刺しにされ、男は睾丸、女は卵巣を抜かれます」

「待て。色々言いたいことが多すぎて今、かなり困っているがまず言わせろ。

 この地獄で年齢規制なしは無理だろ。ぼかして言ったら最初から罪状が意味不明すぎるわ」

 

 無惨が怒鳴るでもなく素の困惑しているトーンでガチの正論をぶっこんできて、鬼灯もマジで返答に困って目を逸らす。

 それに調子づいたのか無惨は鬼灯を鼻で笑って、余計なことを言い出す。相変わらず、死んで100年たっても学習しない、墓穴掘り職人具合だ。

 

「はっ! 自分の欲求を優先して周りを見ないから、こうやって自分の浅はかさや愚かさを露呈させるのだ。恥ずかしいものだな」

「ここまで自分の発言全てがブーメランになる亡者(ひと)って、本当にあなたぐらいですよ」

 

 当然、先ほどの突っ込みは言い返せなかったが、こちらは言い返す必要もなく無惨に戻ってきているので、鬼灯がすることは刺さったブーメランをさらに深く埋め込むこと。

 なので炎の剣を構えて無惨の尻に狙いを定めるが、無惨は両手で尻をガードしながら慌ててまだしつこく抗議した。

 

「待て! そもそも『異常な方法』とは何を指すんだ!? そんなもの、それこそ個人の勝手だろうが!」

「相手の同意なしなら、全部『異常な方法』でいいんですよ。それならどうせ、あなたは絶対に何かしらやってるでしょ」

「勝手に決めつけるな!!」

 

 これまた正論で突っ込むが、鬼灯も正論だが理不尽すぎることを言って剣を離さない。が、実は前々から思うことはあったのか、無惨の抗議は無視して一人勝手にブツブツ呟き始める。

 

「……しかし、確かにどのような行為が『異常』なのかは、線引きが難しいですよね。本気で嫌がってるのを無理やりが罪になるのは当然としても、乗り気ではなかった程度でもさせた方を罪にするのは酷ですし。

 ………………とりあえず、喪服は別に異常に入りませんよね?」

「知るか!! 知りたくもなかったわ、お前の性癖など!!」

 

 その「思うこと」を何故かいきなり真顔で尋ねてこられたので、無惨はマジギレで返す。

 しかし、鬼灯の発言で他の獄卒たちも自分の秘める嗜好が世間一般で、「趣味の範囲だよね」か「犯罪レベルの異常」なのかが心配になってきたのか、ザワザワと小声で騒ぎ始めた。

 

「学生じゃなくて制服そのものが好きなのは、セーフだよな? 着せてるの嫁にだし……」

「ふ、踏んでもらうのはちゃんとその手の店でお金払ってるから……同意の上に入るよな?」

「だ、大丈夫だ。大丈夫。俺はエロ動画とか二次元で発散してる。だから痴漢ものもきっと大丈夫……」

「おい! 今、私より絶対にアウトな奴がいたぞ!!」

「えぇ。示しがつかないので、まずは先にあいつをヤります」

 

 その聞きたくもない性癖博覧会状態のささやきの中から、完全にここの地獄に堕ちる罪人予備軍と思わしきものの暴露を無惨が耳ざとく見つけて指摘し、そして地獄耳の鬼灯もしっかり気付いていたので、鬼灯の狙いが無惨からうっかり自白した獄卒に移る。

 

 獄卒の尻がどうなったかは、残念ながら動画では確認できなかった。

 

 無惨? しっかりぶっ刺されて、ゴールデンボールも引っこ抜かれたよ。

 っていうか、このシーンは本当に無修正でいいんか地獄。

 

 * * *

 

「こちらは、『割刳処(かっこしょ)』。

 罪状は…………口を使ってニャンニャンすることです。って、これこそ同意の上なら好きにさせてやれ! 私たちの方も裁判で確認したくないわ!

 けど、これこそ確認する必要なくお前はやらかしてるだろ! 刑罰は口に釘を打って頭から貫通させ、それを急に抜き取り、今度は口から耳へ貫いて抜き取りを連続で繰り返して苦しめること。または、溶けた赤銅を口から注ぎ込んで内臓を焼くことですので、さっさとしてしまいましょう」

 

 鬼灯がかなり頑張って規制がかからないように濁して罪状を言ったが、普通にその罪状が理不尽だと鬼灯自身も思って、突っ込みを先回りで入れる。

 そんでもってやっぱり決めつけで、釘と金槌を構えて無惨に打ち込む準備を開始するが、そんな鬼灯を前にしても臆病者なのに癇癪持ちだからか、妙な度胸だけはある無惨が堂々と、鬼灯様の決めつけに反論してきた。

 

「だから決めつけるなと言っているだろ、ムッツリ鬼が!!

 私は口など使った事ないわ! いつも使わせて「コンプライアーンスっ!!」

 

 しかしまたしても最後まで言わせず、鬼灯は金槌と五寸釘を使って、ノック打ちの要領で無惨の眉間に打ち込んだ。

 地獄めぐり前の発言より直接的にヤバいと思ったのか、今度の掛け声には気合いが入っていた。どうでもいい。

 

 * * *

 

「ここは、『脈脈断処(みゃくみゃくだんしょ)』。

 男性にエロいことを迫った女性の罪に対応する、ある意味男の敵な地獄です」

「無関係すぎるわ、私!!」

「あんた今、ゴールデンボールがないでしょ?」

「最初の地獄でのことか!? もう生えたわ!! そもそも地獄に堕ちてから抜かれたのなら、やっぱり無関係だろ私は!!」

 

 やりたくても出来る訳がない罪状を述べられたので、無惨はこの動画名物の認めたくないが認めざるを得ない正論で突っ込み、そして鬼灯も視聴者の期待通り、っていうか期待されてなくてもやる、めちゃくちゃかつ雑な屁理屈で無惨を罪状に当てはめようとする。

 

「まぁ、この罪状はとっくの昔に女性差別なので、性別は無関係になってます。男女問わずセクハラした者が堕ちる地獄なので、当然お前は堕ちる。

 っていうかあなたは無惨子になれるんだから、元の罪状でも当てはまるでしょうが」

「決めつけるなと言ってるだろうが! というか、名前もうちょっと何か考えろ!!」

 

 しかし最初の屁理屈は無惨への嫌がらせでしかなかったようで、現在の改定した罪状を教えつつ鬼灯は、刑罰に使う溶けた銅を用意する。

 そして、その銅を飲ませる漏斗の役割の筒も持って向きなおり、改めて刑罰を説明開始。

 

「ここでの刑は、筒を通して口の中に溶けた銅を流され、『私は今、孤独です』と大声で叫ぶように促される事です」

「なんて?」

 

 自分のTSバージョンの名前の適当さ加減にキレていた無惨が、素で突っ込んだ。いや、素で訊き返しているのかもしれない。

 

「……筒を通して溶けた銅を」

「そこじゃない」

「…………『私は今、孤独です』と大声で叫ぶように促します」

「ここだけ、拷問の主旨がなんか違わないか?」

「私もそう思います。前の補佐官(イザナミさん)、本当に眠かったんでしょうね」

 

 思わず両者が素になるほど、唐突かつ毛色が違う辱めに鬼灯は遠い目で語りながら、それでも躊躇なく無惨の口に筒を突っ込んで、銅を流し入れた。

「私は今、孤独です」と叫ばせたのかどうかは不明。

 

 * * *

 

「こちらは『悪見処(あくけんしょ)』。

 他人の子供に性的虐待を行った罪に対応するもので、自分自身の子供が串刺し(意味深)になる様子を見せられます。そして本人には肛門に熱した銅を注いで、肉体的苦痛も与えます。

 無惨には、梅さんを遊女として利用し続けていたことがこの地獄の罪状に当てはまります。彼女は鬼になった年齢のまま精神年齢も止まっているので」

「あれの頭の悪さからして、それ以外の生き方など出来る訳ないだろ! 優しくしてやっただけ、感謝して欲しいくらいだ!!」

 

 無惨が絶対に「自分は当てはまらない」と言い出すことはわかっていたので、先回りで鬼灯が答えておいたがそれでも無惨はやはり、利用して貶めてきたものを更に貶めて罵り、自分を正当化させる。

 けれどそんな反応はわかり切っていたので、鬼灯は無視してそれよりも困った部分を注目して、軽く愚痴った。

 

「けど、ここの刑罰は無惨には無意味なんですよね。こいつ、実子がいるいない以前に、自分の為なら実子も躊躇なく身代わりにするタイプですから」

「そうですよね。なら、ここは銅をケツに注ぐだけですか?」

 

 幻覚とはいえ「親の因果が子に報い」が刑罰になっている為、自己愛の塊である無惨には通用しないことを残念がるように鬼灯が呟き、他の獄卒も同じく残念そうにしながらも銅を用意。

 だが、鬼灯は真顔で言った。

 

「いえ。串刺しも行いますよ。無惨の息子で」

「は? 何を言ってるんだ、貴様は。おらんわ、私にそんな…………まさかお前!?」

 

 存在しない「息子」を串刺しにすると言い出し、無惨は「またこの頭おかしい鬼は訳のわからんことを言い出した」と思っていたが、鬼灯の視線が自分の下半身に向いている事に気付き、顔から血の気が引いて内股になって叫ぶ。

 

 鬼灯は何も答えない。無言で彼は懐から大きな、実によく切れそうな裁ちばさみを取り出した。

 

 串刺しにされる前に、無惨の息子はちょん切られましたとさ。

 っていうか、本当にこのシーンは修正なしでいいのか地獄!?

 

 * * *

 

「『団処(だんしょ)』。

 罪状は牛や馬を相手にファイト一発「ないわーーっっ!!」

 

 鬼灯の説明を最後まで言わせず、無惨が全力で叫んで否定する。当たり前だ。今までとは違ってこれはマジで拷問を受けたくないからではなく、正真正銘してないと否定したいだろう。

 

「ない! これは正真正銘、ないわ!!」

「あなた、最終決戦で下半身が獣っぽかったじゃないですか」

「関係あるか!! というか、それは服がなかったからだ! あったら普通に人間の足で出てきてたわ!!」

 

 しかし鬼灯は当然、見逃すわけがない。

 屁理屈ですらない無茶ぶりで、流石の無惨も全裸で再登場はしたくなかったからこそ、何とかした決戦時の下半身を理由にしてもちろん堕とす。

 だが、鬼灯の無茶ぶりは残念ながら意味なかった。

 

「……鬼灯様。さすがにこの地獄で規制なしは無理ですよ」

「あー……ですよね。拷問内容が、地獄産の体内が炎の牛馬に罪人が生前やらかしたことをやることで、罪人を焼き尽くすものですからね」

 

 他の獄卒が初めからわかっていたことを指摘し、鬼灯も認める。

 性関係には規制がかかる為、焼ける無惨はともかくその前がどうしても映せないのだ。

 

「そもそも私はそんなことしない!!」と主張する無惨は無視して、鬼灯は実に残念そうに言った。

 

「それもあって、ここの地獄の刑罰は無惨には効果ないんですよね。なので、ここはミノタウロス形式で行きます」

「は?」

 

 無惨の言う通り、動画に出来るかどうかの問題を横に置いても、そもそもそんな性癖はない無惨にはこの刑は全くの無意味だ。

 だからこそ鬼灯は初めから別の方法を考え、準備していた。さすがは孤地獄が一番好きな地獄と答えるワーカーホリック。

 

 獄卒が用意したのは、ハリボテの牛。それは人が一人……無惨くらいが入れる大きさのもので、その人が入れそうな扉っぽいもの(外に南京錠つき)の他には穴が一つ空いている。

 その穴の位置は……察して欲しい。

 

「それでは視聴者の皆さん。『ミノタウロス式』が何の事かわからなければ、ギリシャ神話を調べてください」

 

 無惨をハリボテの牛の中に押し込むのを背景に、鬼灯はそれだけを言って動画は暗転。

 気になる方は、自己責任で調べてみよう。「ミノタウロス」「母親(パシパエ)」あたりを検索ワードにして。

 

 * * *

 

「ここは『多苦悩処(たくのうしょ)』。

 男同「ある訳ないだろ!!」

 

 またしても、先ほどよりも早く割り込んで無惨は否定。尻を押さえているのは見ないであげて。

 

「あなた平安時代から大正まで生きてたんだから、そこまで全力否定する程の事ですか? 同性間がマイナー扱いになってきたのは明治後半からで、それ以前はちょっとその時代のことを調べたら、その手の貴族や武士の話がゴロゴロ出てきますよ?」

 

 無惨の全力否定ぶりに、鬼灯は割と本気で意外そうに尋ねる。

 そのマジで自分がそういう趣味だと思っている鬼灯にムカついて、無惨は「じゃあお前はその時代、男に手を出したことあるのか!?」と反論すれば、「ある訳ないだろう!!」と言い切られた。

 

 その時代や土地によって同性愛が普通に認められていたとしても、そういう嗜好がない者はないのだ。差別はいけないけど、強要や偏見だって同じくらいにいけません。

 

「普通に男にも手を出してると思ってました。すみません。

 けど、ここの地獄はぜひとも落としてほしいと、婦女子……いえ腐女子の方々から希望が殺到していたので、堕ちろ」

「最初の謝罪に何の意味があったんだ!? そしてその希望を出した奴らは焼き払え! 腐海に還せ!!」

 

 無惨の言う通り、まったく意味のない謝罪を口にしてすぐに理不尽すぎることを言い出しながら、鬼灯は無惨に紹介する。

 腐った方々が、この地獄に顔と声だけは皮肉なし純粋に褒められる無惨を落としてほしがった訳を。

 

「さて、紹介しましょう。こちらの獄卒が多苦悩処名物、燃えるイケメン(注:本当にいます)!

 そしてここでの刑罰は、生前に愛した男が燃やされている幻影を見せられます。罪人がそれを抱く(意味深)と相手の男から発する炎で共に焼き尽くされるを繰り返すことです。

 ……こちらも無惨の方から抱き着く訳がないので、獄卒の方から追いかけて抱いて(意味深)もらいましょう。さぁ、鬼ごっこの始まりです」

「来んなぁぁぁぁっっっ!!!!!」

 

 縁壱からも逃げきっただけあって、人間に戻っても逃げ足は割と早い無惨を、燃えるイケメンたちは貼り付いた笑顔で追う。

 そして再び、動画は暗転。しばし真っ暗な画面に「や〇ないか」という替え歌で有名になってしまった曲がBGMで、無惨の悲鳴が聞こえるまで流れ続けた。

 

 * * *

 

「『忍苦処(にんくしょ)』です。

 戦争などで手に入れた他人の妻を寝取ったり、それを他人に与えたものが堕ちます。刑罰は、獄卒たちが罪人を木から逆さ吊りにし、下からの炎で焼き、息をすると肺まで燃え上がるような苦痛を与えて焼き殺すことを繰り返します。

 ……まぁ、つまりは珠世さんにやらかしたこと辺りが、当てはまりますね」

「あれは勝手に自分で夫と子を殺して好き勝手人間を喰らっておきながら、私に逆恨みしてただけだろうが!!」

 

 またしても尻を押さえながら、吐き捨てるように無惨は珠世を罵った。

 彼女を知る獄卒たちから一斉に敵意を向けられるが、鬼灯の方は何も言わない。彼女が反省して贖罪し続けている事は知っているし、それを評価はしているが、やけっぱちになって多くの罪なき人を自らの意思で食い殺した過去があるのも事実なので、鬼灯は彼女を擁護してやる気はない。

 

「別に珠世さんの事がなくても、心当たりは山ほどあるでしょ。

 あなた絶対に気に入った女は囲うって思われてますから」

「誰にだ!?」

「……夢女子?」

『何だそれ!?』

 

 しかし無惨の発言を認める気はもっとないので、やっぱりゴリ押しで罪状を押し付ける。が、その根拠が他力本願過ぎて、最後は無惨どころか獄卒たちからも突っ込まれた。

 それでも鬼灯は揺るがない。いや、少しは揺るげや。

 

「腐女子はなんとなく意味を理解してたようなのに、夢女子はわからないんですか、65位」

「何の話だ!? というか、何だその順位は!?」

「ちなみに、ワンパチという犬キャラに負けてますよ。ワンパチさんは15位でした」

「全く意味がわからんが、大概はその犬に負けてるだろその順位じゃ!!」

 

 無惨を逆さづりにしながら、まったく詳しいことを教えず、とりあえず屈辱的そうなことだけを教えてそのまま燃やす。

 ちなみに、ワンパチに惜しくも負けた16位は風柱、不死川(しなずがわ) 実弥(さねみ)……。ドンマイ! っていうか、ワンパチ高すぎない?

 

 * * *

 

「『朱誅処(しゅちゅうしょ)』。

 羊やロバ「ないと言ってるだろうが!! というか、統一しろ!! 何故分けた!?」

「一応、仏を敬わなかったって罪もあるからですかね?」

「仏が何の関係あるんだ、これ!?」

 

 団処と同じタイプの罪で堕ちる地獄だと察した瞬間、無惨は全力否定。

 鬼灯は本当に一応程度の団処とはわざわざ別の地獄として分けている訳を話すが、無惨の言う通り仏は何の関係があるかはわからない。

 わからないし、鬼灯としても一つに纏めてしまいたいのだが、纏めなかった理由はある。

 その理由を、鬼灯は金棒フルスイングしながら答えてくれた。

 

「お前を堕とす地獄が一つでも多い方が良いから纏めなかったんだよ!!」

「私が堕ちる要素ないのに、わざわざ残すな!!」

 

 肉や内臓、骨まで残さず喰らい尽くす鉄の蟻の所まで鬼灯は金棒で無惨をぶっ飛ばすが、ぶっ飛ばされつつも無惨は文句を忘れない。

 本当にこいつある意味すごいなと獄卒たちは、したくない感心をしながら吹っ飛んだ無惨を見送った。けど、仏を敬わない罪でも堕ちるので、ここの地獄には堕ちる要素あるぞお前。

 

 * * *

 

「お次は、『何何奚処(かかけいしょ)』。

 兄弟、姉妹を相手にやらかした者が堕ちます。刑罰はシンプルに、燃え上がる炎に焼かれて鉄の烏の大群に食い尽くされます」

「だから! 私に関係ない!!」

 

 これもまた無惨は全面的に否定するが、動物相手の団処・朱誅処、同性相手の多苦悩処ほど早く全力で全否定しないあたり、こいつの倫理観の低さがよくわかる。

 なのでもちろん、最初からだが遠慮しない。これも屁理屈をこねて、叩き落とす。

 

「あなたの血を分けた鬼という時点で、あなたの身内みたいなもんでしょう。で、絶対にお前は気に入った女は鬼でも人間でも手を出すし囲うから、この罪状は当てはまりますよ65位」

「だから、その順位は何だ!?」

 

 まだしつこく夢女子から選ばれた、名誉的なのかそうじゃないのかかなり微妙な順位を弄りながら、鬼灯は鳥獄卒たちにヒッチコックを実演させた。

 

 * * *

 

「『涙火出処(るいかしゅっしょ)』です。

 禁を犯した尼僧と、ニャンニャンした者が堕ちます。行われる拷問は、獄卒に毒樹のトゲを目に刺され、鉄のはさみで肛門を裂かれ、そこに溶けた白蝋を流し込まれますが、ここは土地そのものが特殊で、ここで流した涙はその名の通りに炎となって、当人を焼きます。なのでついでに、玉ねぎを用意してください!!」

「ついでで拷問を増やすな! あと、この地獄変だろ! 禁を犯した尼僧の方を罰しろ!!」

 

 サラッと拷問を増やす鬼灯だが、当然無惨は流さず突っ込む。ついでに神経質だからか、増やされた拷問より流してしまいそうな、おかしな所にもしっかり突っ込みを入れた。

 

「尼僧の方は、普通に脈脈断処に堕ちますよ。

 この地獄は正確に言うと、『向こうから誘って来たのだから、誘いに乗った自分は悪くない』という考えを罰するものです。なので現代では当然、相手は尼僧とは限りません。援助交際はモロここに当てはまりますし、水商売や風俗関係にのめり込む者もここに堕ちるでしょう」

「あぁ、なるほどな。だから『禁を犯して尼僧と』ではなく『禁を犯した尼僧』なのか」

「前者の場合なら、『何の非もない真面目な弱者に対する乱暴』ということで、より重い罪となり衆合どころか大焦熱地獄行きになりますね」

 

 説明しながら、実は無惨に突っ込まれるまでこのあたりはよく新卒が勘違いしていたりするので説明しなくてはと思っていたが、無惨をどうやってこの地獄に堕とす屁理屈をこねるか、そしてついでにより苦しむ拷問は何かに気を取られて、すっかりそのことを忘れていたことを鬼灯は思い出す。

 

 一応は刑場紹介が主旨という建前(本音は無惨を笑いものにする、もしくは鬼灯のストレス発散)の動画なので、説明不足では格好がつかない。

 なので、神経質で揚げ足取りの為なら細かい所をよく見ている無惨の突っ込みに、実は感謝していた。

 

 だから鬼灯は、その感謝をもちろん口にも態度にも出さないが、ついでに追加しようと思っていた「ねりワサビを鼻に詰め込んで泣かせる」はやめておいた。

 玉ねぎの方はやった。

 

 * * *

 

「ここは、『一切根滅処(いっさいこんめつしょ)』。

 女性の……おいど……だと尻だから意味が変わって来るな……………………『こ』か『ア』で始まる部分を使って、やらかした者が堕ちます。刑罰は獄卒が罪人の口を鉄叉で広げて熱銅を流し込み、耳に白蝋を流し込みます。そして鉄の蟻が罪人の目を喰い、刀の雨も降ります」

「もう年齢制限なしは諦めろ」

 

 ものすごくものすごく鬼灯は頑張って、罪状を濁してぼかして何とか全年齢対象にしようと思ったが、流石に無理がありすぎた。

 その為か、無限城で炭治郎と義勇に向かって言い放った「しつこい」「異常者」発言の時と同じように、無惨はうんざりしつつもあまりの異常者ぶりに引いて憐れんでいるような顔で、これまた正論を言うので鬼灯は刀の雨を自力で降らせた。

 ついでにさっきの地獄で使わなかったワサビも、結局使った。

 

 * * *

 

「『無彼岸受苦処(むひがんじゅくしょ)』です。

 ここはシンプルに、不倫・浮気の罪で堕ちる地獄です。刑罰もこれまたシンプルに火責め、刀責め、熱灰責め、病苦による責めなど、次から次へと責め苦がやってきます」

「不倫も浮気も私はしていない! 周りにいたのはただの処理道具だ!!」

「今、新たに『モテない男からの八つ当たりと言うには真っ直ぐな憎悪を込めた責め苦』が刑罰として追加されました」

 

 無惨の相変わらず過ぎる発言が見事な自爆を果たして、鬼灯の言葉通り新たな刑罰が爆誕する。

 皆様、「自業自得」と「口は禍の元」とはこういうことを言います。よく覚えて、反面教師にしましょう。

 

 * * *

 

「こちらは『鉢頭摩処(はちずましょ)』です。

 僧となりながら俗人だったときに付き合っていた女性を忘れられずに夢の中で関係し、さらに淫欲の功徳を人々に説いた者が堕ちます」

「昔の女などむしろ覚えてないわ! そして後半はともかく、前半は夢の中なら放っておいてやれ!」

 

 一つ前の地獄で余計すぎる自己弁護で新たな刑罰を生み出していたのに、まったく学習せずに最低すぎる自分の所業を根拠に、無関係を主張する頭無惨加減。今度は獄卒たちも、ムカつくよりドン引きが勝った。

 しかし鬼灯の方は、実際にこの地獄に堕ちる罪状はほぼ無惨無関係なので、余計なことを喚くのはありがたい。無関係でも、ここまで屑ならどこに叩き落としてもクレームが一切ないからだ。むしろ、落とさない方がたぶん炎上する。

 

「私もそう思います。なので今では解釈を広げ、『昔、関係があった相手のことを忘れられずにストーカー行為を行う者』が対象です。

 刑罰は、獄卒に瓶の中で煮られて鉄杵で突かれます。そしてあそこに池があるでしょう? 苦しむ罪人が見ると、あの池の中に蓮華が見え、そこに行けば救われると思って走り出すんですよ。しかしそこまでの道のりの地面には、敷き詰められた鉄鉤があり、それに足を引き裂かれ、やっとの思いでたどりつくと背後に控えた獄卒に刀や斧で散々に打たれる。

 鉢頭摩とは紅蓮華のことで、あたり一面その赤色をしているのは、その所為です」

「刑罰の説明より、私の何がこの地獄に堕ちる要素だったかを、せめてイチャモンでもいいから説明しろー!!」

 

 なのでまったく気にした様子なく、無惨を瓶の中に放り込んで鉄杵でつきまくり拷問実演しながら、現在の堕ちる罪状と刑罰の説明を鬼灯はして、まったく無惨が堕ちる理由に関してはノータッチであることに無惨がキレる。

 

 キレつつ、鬼灯が説明したのに鉢頭摩と呼ばれる罠でしかない蓮華の池まで逃げ出すのだから、本当に視野が狭くて目先の事しか見ていない。

 

「拷問のし甲斐があるのかないのか、本当によくわからない生き物ですね」

 

 狛治が以前言っていた感想に深い同意を呟き、鬼灯は池で獄卒にボコられる無惨を眺めた。

 

 * * *

 

「『摩訶鉢特摩処(まかはつづましょ)』。

 出家僧ではないのに僧であると偽り、しかも戒律に従わなかった者が堕ちます。詐欺宗教法人はもちろん、定義を広げて結婚詐欺もこの地獄の罪状に含まれます。

 刑罰は熱した白蝋の河に、罪人を落とします。ここに落ちると身体がバラバラ、骨は石に、肉は泥になり、最終的には魚になり鳥についばまれます」

「その謎の進化論にも突っ込みを入れたいが、私より童磨堕とせ。間違いなくあいつはここ行きだろうが」

「試しに堕としてみましたが、魚になったのは良い体験だったとか、ヘラヘラしてたんですよ……」

 

 不気味な魚がうごめいて泳ぎ、鳥についばまれる白蝋の河を眺めながら、無惨が自分の言うこと聞くのと強さだけを評価して、それ以外は心が読めるからこそドン引きし続けた部下の名を上げて堕とせと言うが、鬼灯は遠い目になってもう既にやってみたけど意味がなかったことを告白。

 

 鬼灯の告白に対しまさかの無惨から同情と、「……あぁ。わかる」と言いたげな理解の視線をもらってしまった。

 もちろん友情など芽生えるはずもなく、鬼灯は無惨を河に蹴り落とした。

 

 * * *

 

「ここは『火盆処(かぼんしょ)』。

 元は出家僧ではないのに僧のフリをして、そのうえで女性に興味を持ったり、身の回りの生活品に執着し、正しい法を行わなかった者が堕ちる地獄でしたが、僧を名乗る詐欺宗教系は先ほどの摩訶鉢特摩処に統一し、ここは医者や教師、警察など信頼第一の立場であることを利用した性犯罪者を、今は対象にしています。

 刑罰は蝋燭のように罪人自身の身体が炎に包まれ燃え盛り、泣き叫ぶたびに口や目鼻から炎が体内に入り、骨まで燃やし尽くします」

「だから、私は無関係だ! 女を相手にするのにわざわざ、立場を利用したことなどない!!」

 

 魚から何とか人間に戻ってすぐだと言うのに、相変わらず元気に無惨は自分の無関係さを、モテない獄卒を敵に回しつつ主張。本当に少しは学習しろよ、お前。

 

「そうですね。どちらかと言うとお前は、自分の表向きの社会的立場を得る為に、女性を利用してましたね。

 だから、とっとと燃えろ」

 

 そして鬼灯も慣れた調子で、一応は無惨の主張を認めつつ、けれど見逃す訳もなく、もっと最悪な所業を上げて金棒フルスイングで燃え盛る火の中に無惨を叩きこんだ。

 

 * * *

 

「衆合小地獄、最後の地獄は『鉄末火処(てつまっかしょ)』。

 出家僧だと詐称し、そのフリをしたまま、女性の舞いや笑い声、装飾品に心引かれてみだらな想像にふけった者が堕ちます」

「私を堕としたいから、また纏めなかっただろうこの地獄!!」

「当たり前だ! お前が苦しむ地獄を減らすわけないだろ!!」

 

 先程の火盆処、そしてその前の摩訶鉢特摩処と同じような罪状で堕ちる地獄なのに、現代に合うように改変した内容を言わない事で、無惨がその理由を団処と纏めなかった忍苦処と同じだと察してキレる。

 そして鬼灯もキレて、炎の熱鉄の雨が降りそそぐ刑場にソバットで無惨をぶち込んだ。

 

 どう見ても、鬼灯の逆ギレである。しかし誰も、無惨に同情しない。マジである意味すごいな無惨。尊敬しないけど。

 

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

「さて、前回は公開できる地獄が少なかったので物足りない方が多かったでしょうが、今回は無事、全ての小地獄を紹介出来ました。……一部、暗転があったのは大人の事情だと、理解していただけたらありがたい。

 まぁ、あの暗転シーンを生で見たい方がいましたら、ぜひとも義務教育を終えてから現場に見学、もしくは獄卒に就職してください。特に多苦悩処は男性獄卒が就きたがらないので、腐ったお嬢さん方は歓迎します。お仲間と和気藹々、薄い本のネタとモデルにどうぞ」

「お前は何を勧めているんだ!?」

 

 無事(?)コンプライアンスとの戦いを終えた鬼灯による、訳のわからん勧誘になっている締めの挨拶に、無惨が突っ込む。

 前回は撮影が終わったら、再生も待たずに阿鼻にポイっと落とされていた無惨だが、今回は何故かしっかり全身を完全再生させてから、まだここにいる。

 

 その理由は、さっさと明らかになる。

 

「無事に全ての刑場紹介を終えましたが、おそらく皆さん思っているでしょう。オチが弱いと。

 前回のこいつの為としか思えない罪状で堕ちる地獄、極苦処の存在がオチに丁度良かったのですが、今回は微妙ですよね。回る順を変更して、多苦悩処を最後に持って行こうかとも思ったのですが……ふと、私は気付いたのです。

 こいつ……無惨は八大地獄を網羅している大罪人だからこそ、火車さんのお迎えで阿鼻直行だった為、死後の十王裁判をどこも受けていないことに」

 

 無惨の突っ込みをガン無視して、鬼灯はカメラに向かって語る。

 オチ扱いされている事にも無惨はキレて後ろで何か喚いているが、それも無視して語る鬼灯に何やら不穏なものを感じ始めたのか、その勢いは徐々に衰える。

 

 気付いたのは、不穏な鬼灯の雰囲気だけではない。無惨の目は、一度気付いてしまったらもうそれから離せなくなった。

 

「なので、最後はこちらにお願いしたいと思います」

 

 そう言って、鬼灯は無惨が目を離せなくなっている「それ」を指さし、カメラも勢いよくそちらを向いてライトが輝く。

 

「ご紹介しましょう! 宋帝庁の名物猫獄卒! 漢さんです!!」

「それ、猫!?」

「猫ですよ! どう見ても!!」

「私が知っている猫と違う!! 火車の方がまだ普通の猫に見える!!」

 

 ライトに照らされて登場したのは、ふかふかのクッションの上に足を組んで腕も組んで座って無惨をガン見している、やけに眉毛っぽい柄も顔の濃い……猫? だった。

 無惨が猫かどうかを本気で疑う気持ちはわかる。その猫、漢は手足が長くすらっとしていて、背筋も「お前、猫背はどうした?」と訊きたいほどに良いので、なんか妙に人間っぽい。あくまで猫獄卒、尾も一つなので猫又ではない、つまり妖怪ではないはずなのに、無惨の言う通り妖怪である火車の方が、ずっと普通に猫らしい。

 

「猫ですよ! 少なくとも白澤さんと茄子さんが量産する、あのハイチュウのお化けみたいなのと比べたら立派な猫です!!」

「何と比べてるんだお前は!?」

 

 この無惨の主張に関して内心では割と同意しているのだが、鬼灯は最も猫に見えない物体を例に上げて、漢が猫であることをゴリ押す。この後結構長い間、無惨は漢と比較された「ハイチュウのお化け」の謎に頭を悩ませた。

 

「まぁ、漢さんが猫であるかどうかは、今はどうでもいいことです。それより彼をゲストにお迎えした理由は……、漢さんの正確な所属は宋帝庁ではなく衆合地獄。宋帝庁は、主に邪淫罪に関して詳しく取り調べる庁なのです。

 ……そして、漢さんの役割は亡者の目を見て真偽を見極め、有罪の場合――」

 

 じっとやたらと濃い顔で無惨を見つめていた猫、漢がゆっくりと立ち上がる。二足歩行で。姿勢もやっぱり、舞台俳優やダンサーのようにやたらと良い。

 

「鬼灯殿、わかったぞ。まったく罪の意識がなかったから少しわかりづらかったが、まぁわからないのならとりあえず有罪にしとけばいいだろう」

 

 猫じゃなかったら大問題すぎる全然わかっていない発言をかますが、言ってるのが漢なのと言われているのが無惨なので、鬼灯は当然、他の獄卒も突っ込まない。無惨も漢に引きに引いているからか、言っていることが頭に入らず、突っ込みも出てこない。

 

 そんな無法地帯状態なのを良いことに、漢は尻尾をゆらゆら揺らし、直立不動を止めてようやく猫らしく四つん這いになる。

 ……無惨に向かって真っすぐ向き合い、頭を下げて尻を高く上げる、いわゆる狩りの姿勢を取った。

 

「は?」

 

 無惨の困惑の声の直後、鬼灯の言葉と漢の行動は同時だった。

 

「有罪の場合――、亡者のあそこをお噛みするのが漢さんの仕事です!!」

「裁判時点でそれか!? ジャブきつすぎだっ!!??」

 

 弾丸のような勢いで飛んで来た漢のジャブに、全部言えず無惨は悶絶。

 結果はわかっていたが、鬼灯以外の男獄卒はその強力すぎるジャブに思わず内股になった。




無惨の地獄めぐりは筆が乗りに乗るのは良いけど、乗りすぎてついつい文章量が多くなる。

あと、今回は衆合地獄だから白澤様相手でも鬼灯様は同じようなことをするだろうけど、白澤様でこれ書いたら普通に非難されると確信してる。
なのに無惨の場合は「無惨の口調がおかしい」みたいなキャラ再現とかの問題の非難はされても、展開の非難が来ないと確信できるあたり、マジで凄いなこいつ。ヘイトを溜めまくっている呪術の真人でもここまでボロクソの扱いは、ファンから抗議されそうなのに……。
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