「鬼滅の刃」世界のあの世が「鬼灯の冷徹」世界だったら   作:淵深 真夜

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スランプ気味だったので、月一でこれだけは更新するんだ……と決めていたので、リハビリがてらに地獄めぐりを滑り込みで更新。



無惨様の楽しい十六小地獄めぐり(大叫喚地獄編)

「こんにちは、皆さま。本日も『パワハラの呼吸』『ブーメランの呼吸』『ペイズリーの呼吸』など、いらなすぎる全集中の呼吸を体得している鬼舞辻 無惨の楽しい十六小地獄めぐり、大叫喚地獄編を開始します」

「最後が意味不明すぎるわ! とりあえず私の特徴に呼吸付ければいいと思ってるだろ!?」

 

 いつも通りの真顔ローテンションのバリトンボイスで動画開始の挨拶を行い、これまたいつも通り地面にミノムシ状態で転がされている無惨が、ビチビチ跳ねながら正当性があるんだかないんだか迷う抗議を行う。

 そんな無惨を眺めて、狛治が「パワハラやブーメランが自分を表している自覚があったのか」と、割と真剣に感心した様子で呟き、そして今回というかこの地獄のゲストと言える獄卒が同意を示すように鼻をピスピスならしながら頷いた。

 

「そうですね。……自覚があって改善も反省もしないって、無自覚より救いがないのは心根の方でしょうか? 頭の方でしょうか?」

「うるさいわ、そこの兎!!

 年中発情期のまさしくケダモノに頭の心配をされるいわれなどない!!」

 

 大叫喚地獄のエース獄卒である芥子という兎が、狛治の発言に同意しながらこちらも率直な自分の感想と疑問を口にすれば、無惨の文句をつける矛先が彼女に移る。

 しかしここまで自分を棚上げする奴自体は珍しいが、地獄に落ちても元気いっぱいにクレーム三昧な亡者はわりといるので、芥子は慣れ切った様子で無視する。むしろ狛治の方が、「……文句をつける部分が頭だけなのか。性格悪い自覚はあったのか」と、今度は呆れが一周回って感心に変化したのがよくわかる呟きを零した。

 

「野生動物、しかも攻撃性が低くて寿命も短い小動物の類が繁殖力旺盛なのは自然の理で、責める要素はありません。

 なにより芥子さんは人間並、少なくとも確実にお前より賢く理性的だ」

 

 芥子自身はケダモノ呼ばわりを気にしていないが、動物好きの鬼灯には気に障ったらしく、無惨の頭を金棒でフルスイングし、無惨の頭は「異々転処(いいてんしょ)」の灼熱の河にまでホールインワンしてしまい、獄卒たちが慌てて回収に向かう。

 ちなみに異々転処はこの大叫喚地獄内の地獄であるが、現在地であるここ「吼々処(くくしょ)」から8つ離れている……。

 

「さて、無惨の頭を回収するまで時間が出来てしまったので、今回の地獄めぐりのゲストである芥子さんを紹介しましょうか」

 

 無惨を地獄じゃなかったらR18G間違いなしな物体にするのはいつもの事なので、もちろん鬼灯は気にせず話を進める。

 しかし無惨が余計なこと言って、鬼灯の呵責によるダメージから回復の間に芥子の紹介は予定通りだったが、このトンデモ飛距離は予定外で、芥子の紹介だけでは時間が余ってしまった。

 

「全く、頭が空っぽだから実によく飛んで迷惑ですね」

 

 自分でライジングインパクトしでかしたくせに、鬼灯は無惨並に無惨に迷惑を責任転嫁して、獄卒たちに「理不尽……」「ひでぇ……」と思われるが、無惨と違って笑い話の範疇にその感想が納まるのは、鬼灯の人徳というよりただただ無惨の自業自得である。

 

 そして無惨の頭部回収という待ち時間が出来てしまったのはこちらの話であって、動画はこの待ち時間をカットすればいいだけの話なのだが、ワーカーホリックで時間貧乏性な所がある鬼灯は、この時間も無駄にはしなかった。

 

「仕方ありません。ついでですから、おそらく原作を知らないであろう若い方々への補足と、芥子さんのテンションを上げる為に、こちらもご紹介します」

「鬼灯様! むしろそれやる為に無惨様の頭をかっ飛ばしたのでは!?」

 

 言って鬼灯が取り出したのは、芥子の過去が元になった御伽噺。

 ……狸が自分を助けてくれたおばあさんを殺した挙句に、その肉をおじいさんに騙して食わせて嘲り笑って逃げて行ったことが始まりである復讐譚、「カチカチ山」をそのバリトンボイスで朗読した。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

・大叫喚地獄の小地獄

 

 

 

「本日巡る地獄は詐欺罪などで堕ちる大叫喚地獄。こちらは『十六小地獄』と謳っていますが、特別に二つの地獄が追加されて、合計で18の小地獄があります。

 その追加された二つの地獄と追加された訳は、その地獄に着いてから説明するとして、まずは最初の小地獄、『吼々処(くくしょ)』から。

 こちらは恩を仇で返した者、自分を信頼してくれる古くからの友人に対して嘘をついた者が堕ちる地獄で、刑罰は獄卒が罪人の顎に穴をあけて舌を引き出し、毒の泥を塗って焼け爛れたところに毒虫がたかります」

「むしろ私は恩を仇で返されつづげっ!?」

「黙れこの恩知らずワカメ狸が!!」

 

 無惨の頭を回収してくっつけて、さっそく最初の地獄である吼々処の説明を鬼灯が行うと、相変わらず図々しすぎる自己弁護をわめきたてるが、全部を言い切る前に過去のトラウマを朗読されてテンションが既にMAXな芥子が錐で無惨の舌を貫き、そのままグリグリと穴の大きさを広げる。

 そしてとってもどうでもいいが、無惨の髪の特徴と芥子のトラウマかつ最大の侮辱の言葉を組み合わせたら、うどんかそばの種類みたいでなんだかおいしそう。

 

「てめーは自分の治療をしてくれてた医者を癇癪で殺してるのが全ての始まりだろーが!!

 それのどこが、『むしろ自分の方が恩を仇で返され続けた立場』だ!!」

 

 割と普段は丁寧で穏やかで可愛らしい口調の芥子だが、テンションMAXに加え、この地獄に落ちる罪人こそ芥子が最も憎む狸と同罪ということもあって、たかるはずの毒虫も引く勢いで、芥子が穴を開けた舌で固定した無惨を櫂で滅多打ちにするのを、鬼灯と狛治はただ眺める。

 

 眺めつつ、狛治はポツリと呟いた。

 

「……無惨様が医者にしたことは弁護のしようがありませんけど、…………自分の体が人外に変質させられていると気付いたら、発作的に殺してしまう可能性、普通にありますよね?」

「あの医術界の縁壱さん、本当に間違いなく善良ですけど、致命的に想像力が足りなかったところも縁壱さんですね」

 

 * * *

 

「『受苦無有数量処(じゅくむうすうりょうしょ)』。

 嘘をでっち上げて目上の人を陥れた者が堕ちる地獄です。

 刑罰の内容は、獄卒に打たれて傷つくとその傷口に草を植えられ、成長し根を張ったところで引き抜かれます」

「私が一番上だったのだから、わざわざそんなことせんわ!!」

 

 芥子に散々叩きのめされても、やはり頭が軽すぎてゴルフだと別のコースにまで飛んで行ってホールインワンすると鬼灯が語る無惨は、腹が立つことに割と正論で自分は無関係だと主張する。

 

「鬼の中ではそうでも、人間社会では違ったでしょう」

「自分にとって都合のいい立場確保のためにやらかしたことで、あなたはストレートにここに堕獄しますよ」

 

 しかしそれが正論なのは狛治と鬼灯が言う通り、無惨自身が作り出した鬼の社会の中であって、人間に対しては思いっきりやらかしている。

 なので鬼灯はもちろん狛治も一切同情はなく刑罰執行の準備として、ガスマスクらしきものを被り、二人とも両手に分厚い手袋も装着する。

 

 彼らの言い分に無惨はまた反論になっていない反論をしようとするが、その恰好に呆気を取られて言いたかった言葉を忘れる。

 そしてその恰好の意味を訪ねる前に、同じように完全防御を施した芥子参上と、彼女が手にして掲げる物の説明で理解した。

 

「はい、それではこちらが本日無惨に植え付ける植物、ドラゴン・ブレス・チリやキャロライナ・リーパーを超えるスコヴィル値318万を叩き出した新作激辛唐辛子! ペッパーX!!」

「そんな防護装備が必要なものは香辛料ではなく猛毒だろうが!!」

 

 その感想は鬼灯も心の底から認めるまごうことなき正論だったが、正論だからこそ使用された。

 

 * * *

 

「『受堅苦悩不可忍耐処(じゅけんくのうふかにんたいしょ)』です。

 王や貴族の部下で保身のために嘘をついた者、またはその地位を利用して嘘をついた者が堕ち、罪人たちの体内の蛇が動き回り、肉や内臓を食い荒らします。まぁ、わかりやすく言えば蠆盆(たいぼん)ですね」

「生まれが貴族の私はこの罪状とは無関係だろう!」

「いや、生まれが貴族なら一応は『王の部下』だったでしょうが」

 

 前の地獄と同じように、自分が人を貶めていないという方向ではなく、自分が一番上の立場だからこそあり得ないと主張する無惨に、鬼灯は呆れながら突っ込みつつ、けれど顎に手をやって考える。

 

「ですが、認めるのは癪ですがこの罪状は実際にあまり無惨とは関係ないんですよね。

 平安貴族時代は病弱で政治とか仕事はほとんどしてなかったからこそ、下の者へのパワハラはしても上に関わること自体がなかったので。さて、どうこじつけて堕としますか」

「こじつけるな! 諦めろ!!」

 

 鬼灯が言った通り、癪だが無惨は隠れ蓑としての人間の立場でも、自分に都合がいい悪い関係なくただ自分のプライドの問題で崇められる、敬われる立場の人間を殺すなどしてなり替わって奪い取ってきたので、この地獄に落ちる条件が意外なことに揃ってなかったりする。

 だが当然、鬼灯はもちろん芥子も、そして狛治も無惨の「諦めろ」という要望を叶える気は皆無だ。

 

「受苦無有数量処の時と同じように、人間としての立場を保つために『保身の為に嘘をついた』を理由にすればいいのでは? 無惨様が利用した人間の立場は常に無惨様がトップの集団だったという訳ではないでしょうし」

「それが妥当ですが、いまいちインパクトに欠けますね」

「真顔でこじつけの屁理屈を考えるな、猗窩座あぁっ!!

 そしてインパクトで決めるな闇鬼神!!」

 

 無惨を無視して割と真剣に無惨を堕獄させる屁理屈を考える二人。雑な理由で落とすのはいいが、地味な理由は鬼灯にとってダメらしい。

 そんな二人に、芥子も無惨の正論なのに「お前が言うな」としか言いようがない抗議をまるッと無視して、可愛らしく挙手して彼女は自分なりの意見を述べた。

 

「はい、鬼灯様、狛治さん。落とす理由にインパクトがつけられないのなら、呵責内容につけたらどうでしょうか?

 具体的には、体内で暴れ回って食い荒らす蛇をヤマタノオロチさんにしてもらうとか」

「「物理的に不可能!!」」

 

 割といいアイディアだったのだが、具体例が無惨と狛治が素でハモる程に不可能だった。

 鬼灯も一瞬目を輝かせて「それいいですね!!」と言いかけたが、二人の突っ込みで我に返って渋々諦めた。

 代りに「大が物理的に不可能なら、逆に小を使いましょう」という発想が生まれ、無惨は蛇の代わりに似髻虫(にけいちゅう)に埋め尽くされた穴の中に落とされ、獄卒たちはちょっと同情した。内臓より尻に。

 

 * * *

 

「こちらは『随意圧処(ずいいあつしょ)』。

 他人の田畑を奪い取るために嘘をついた者が堕ち、さながら鍛冶師が刀を作るときのように罪人を鉄に見立てて火で焼き、ふいごで火力を強め、鉄槌で打たれ、引き延ばされ、瓶の中の湯で固められ、また火で焼く、ということが延々くり返されます」

「人間以外口にできなくなっていたのだから、田畑など私に何の価値もない!」

「この人、少しでも罪に逃れようと屁理屈こねてるんじゃなくて、ひたすらに短絡的なだけなんですね」

 

 相変わらず、「そうだけどそうじゃねぇ。それは一例であって、お前他のことはどストレート役満でやらかしてるだろ」という言い分を一切の躊躇いも恥じらいもなく言ってのける無惨に、芥子は改めて思い知った無惨という生き物の特徴を口にする。

 その感想には「うん」という肯定以外の返事のしようがなかったので、狛治は苦笑で流しつつガラガラと下に車輪がついた猛獣でも入ってそうな檻を運んでくる。

 

 それを見て、飽きもせずギャーギャー喚いていた無惨が一瞬絶句してから、素で尋ねる。

 

「……何だそれは?」

鋼鐵塚(はがねづか) (ほたる)さんです」

「名前を聞いた訳ではない!! っていうか、可愛いな名前!!」

 

 檻の中にいたのは、ひょっとこの面を付けた少なくとも成人はしているであろう割と体格のいい男。普通なら一番謎なのは、そんな「ひょっとこの面以外には変わったところがない男を檻の中に入れている」という状況の事だろうが、このシチュエーションに関しての謎は実はない。

 

「かかかか刀ああぁぁぁ~~っっ! 俺の打った、研いだ、刀ああぁぁぁ~~~っっ!!」

 

 そんなうわ言なんだか呪詛なんだかよくわからないことを呻きながら、今にも檻をぶち破りそうな勢いで鉄格子を掴んでガタガタ揺さぶり続けている男は、無惨以上に檻の中案件であることは間違いない。

 

「呵責内容が『刀鍛冶のように』という地獄なので、特別ゲストとしてお呼びしました。

 この方は日輪刀を制作していた刀鍛冶の一人、炭治郎さんを担当し、縁壱さんの刀を研ぎ直した方です。刀鍛冶としては優秀な部類で、職人気質と言えば聞こえはいいですが、こだわりが強くて自己中、話を聞かずに暴走して止まらない、刀が消耗品扱いだというのに折れたらキレ、しかも自分の腕ではなく使い手を責める、実は割と堕獄しておかしくない人です。

 ……こんなんですけど悪意の類は一切なく、本人なりに反省して改善の努力をしてるので、これまた判決に困った人でした」

 

 そんな無惨や無惨の鬼たちとは色んな意味で違う方向に危険人物の紹介を鬼灯は無惨と視聴者に語りながら、ガチャガチャと檻の端で何かをいじっている。

 

「まぁ、そんな人ですからこそある意味今回は重宝してます。

 という訳で、どうぞ鋼鐵塚さん。あいつこそ、あなたの刀を折りまくった元凶です」

 

 もちろん、いじっていたのは檻を封じていた鎖と錠前。鍵を開けてジャラリと鎖を解き、檻の戸を開けると鋼鐵塚は獣のような雄たけびを上げて一直線に無惨に跳びかかった。

 なお、鬼灯が戸を開けるまでの一瞬の間に、檻の中に実はあったらしいお手製のまな板も真っ二つな切れ味を誇る包丁を鉢巻に2本、両手にも1本ずつという八つ墓村スタイルに変身していた。

 

「……刀鍛冶、関係ない」

 

 八つ墓村スタイルでわかり切っていたことを呟く芥子に、もはや狛治は苦笑も返せない。

 鬼灯の言った「刀を折りまくった元凶」であることは間違いないのだが、鋼鐵塚がここまでバーサークしているのはこの為に鬼灯が鋼鐵塚の刀を使い潰して折りまくったから(わざと折った訳ではない。普通に仕事の拷問で使い潰した)だと知っていたらなおのこと何も言えなくなって、狛治はただ遠い目で明後日の方向を眺め続けた。

 

 * * *

 

「『一切闇処(いっさいあんしょ)』です。

 衆合地獄堕ちな行いをして裁判にかけられながら、王の前で嘘をついてしらを切り通し、かえって相手の婦女を犯罪者に仕立て上げた者が堕ちる地獄で、刑罰は頭を裂いて舌を引き出し、それを熱鉄の刀で引き裂き、舌が生えてくるとまた同じ事を繰り返します。

 ……おや? 今回は静かですね」

 

 いつも通り地獄の名前と堕ちる罪状、呵責の内容を説明していたのだが、いつもと違って無惨からの逆に楽しみになって来る棚上げ抗議が起こらないことに気付き、鬼灯が振り返ったら既に狛治が黙々と無惨の頭を叩き割って舌を抜いては、回復した頭をまた割って舌を引っこ抜くを繰り返していた。

 

「絶対に『生前に裁判にかけられたことがない!』という方向で喚くと思いましたので、口を塞いでおきました」

「そうですか。賢明です。そのままどうぞ続けてください」

 

 鬼灯の視線に気づいた狛治が振り返り、真顔で鬼灯の指示を待たずに呵責を行った理由を語り、鬼灯も咎めずむしろ続行を許した。

 おそらく、この地獄の罪状が生前、恋雪が剣術道場の息子にされかけた事、そしてやったことに当てはまるという狛治にとっての地雷なので精神的に余裕がない為、無惨の自分のしたことを全部すっとぼけてなかったことにする言い訳以上に神経逆撫でする抗弁が聞きたくなかったのだろう。

 

 なので無惨はもう言い訳を喚く気力がなくなるまで、狛治に黙々と舌を引っこ抜かれ続けた。具体的に言うと、5時間ぐらいぶっ続けで。

 

 * * *

 

「お次は、『人闇煙処(じんあんえんしょ)』。

 実際は十分に財産があるのに財産がないと嘘をつき、本当は手に入れる資格がないものを皆と一緒に分け合って手に入れた者が堕ちます。刑罰は獄卒に細かく身体を裂かれ、生き返るとまだ柔らかいうちにまた裂かれること。また、骨の中に虫が生じて内側から食われます」

「これは……『自分の財産を他人に分けた事なんかない』って方向で来ますよね」

「……だろうな」

 

 鬼灯が説明している後ろでコソコソと、芥子が無惨の言い訳内容を予測し、狛治も呆れきった様子で溜息をついて同意した。

 が、芥子どころか元部下である狛治も甘かった。

 

「むしろ私が自分の血という財産を無能な有象無象に奪われ続けたわ!!」

「「そう来たか!!」」

 

 どうやら無惨にとって、太陽を克服しない、青い彼岸花を見つけられない、鬼殺隊を壊滅させられなかった部下である鬼全てこそが「 十分に財産があるのに財産がないと嘘をつき、本当は手に入れる資格がないものを皆と一緒に分け合って手に入れた者」らしい。見ようによっては確かにそうかもしれないと思わせる言い分なのが、本当に神経を逆なでさせるなこいつ。

 

「お前の血は財産どころか汚物の方が肥料になるだけマシな害悪ですよ。

 お前の血によって鬼になってしまう事こそが、『人間性という財産の略奪』だからさっさと堕獄しなさい」

 

 どこまでも自分の非を一切認めず正当化する無惨の歪みなさを、ついうっかり狛治と芥子は感心してしまうが、その感心は最悪の気の迷いだと鬼灯が修正するように言い返し、束で無惨の尻に向かってもう一度似髻虫を投げつけた。

 

 ところで鬼灯、カッコイイこと言ってるけどその罪状はここの地獄に関係ない。

 

 * * *

 

「こちらは『如飛虫堕処(にょひちゅうだしょ)』。私が主に業務を行っている地獄でーす。

 堕ちる罪状は、人々から得た物品を高額で販売し、しかも儲けがなかったと嘘をついて自分だけ大儲けした者……つまりはえぇ、あの……あのケダモノが……狸親父共が落ちる地獄ってことですよ!!」

「芥子、落ち着け。深呼吸。はい、吸ってー、吐いてー」

 

 芥子自身が言ったように彼女が主に業務を行っている地獄なので、今回は鬼灯ではなく芥子がまず地獄の紹介をしてみたのだが、自分で自分の地雷を踏んで闇ウサギ化した芥子を狛治が慣れた様子で落ち着かせる。

 こうなることは予測済みだったので芥子のメンタルケアは狛治に任せ、地獄の説明は滑らかに鬼灯に代わって続けられた。

 

「刑罰の内容は獄卒が罪人を斧で切り裂き、秤で計って群がる犬達に食わせるという地獄の中でもシンプルなものですね。では、芥子さん。落ち着いたのなら、っていうか落ち着いてないのならそれはそれでどうぞ」

「『どうぞ』じゃない!! 私はこの地獄に堕ちるいわれはない!!」

「これも玉壺の壺売りの件ってことにしてます」

「あいつの駄作の流れ弾をこっちに向けるな!!」

 

 前回の地獄めぐりで大活躍した雑理由をまたしても使われて、無惨はキレて言い返す。これまた割と正論だが、今一番流れ弾をくらっているのは間違いなく無惨ではなく玉壺の方である。

 もちろん無惨は当然、玉壺に対しても何のフォローもなく、全然落ち着いてないバーサーク芥子によって無惨の呵責は執行された。

 

 * * *

 

「『死活等処(しかつとうしょ)』。

 出家人でもないのにその格好をし、人をだまして強盗を働いた者が堕ちます。

 獄卒に苦しめられる罪人たちの前に青蓮華の林が見え、そこに救いを求めて駆け寄ると炎の中に飛び込むことになり、目や両手足を奪われて抵抗できないまま焼き殺されます」

「半天狗が落ちる地獄だろここ!! 私より何より半天狗を落とせ!!」

「言われなくとも、あれはそもそも大叫喚の小地獄をほぼコンプリートしてますよ」

 

 この地獄に落ちる罪状の説明には、自分の棚上げよりも先に最もこの地獄に相応しい部下の名前を上げる無惨に、即座に肯定の反論を返す鬼灯。

 そしてついでに、鬼灯は無惨に尋ねる。

 

「ところで、ここの地獄をコンプリートしているはずの半天狗と今現在巡っているあなたが鉢合わせしてない理由は何故だと思います?」

「知るか!!」

「半天狗に限らず、あなたの部下と会ったら面倒な罵り合いが起きそうだから鉢合わせしないように、調節してるんですよ。けれど半天狗はここをコンプリしているからこそ少しの連係ミスで鉢合わせしてしまいそうですから、別の地獄に隔離しました。

 ……童磨の孤地獄に」

 

 鬼灯の問いかけに問いかけそのものを拒絶する即答をした無惨を無視して、鬼灯は勝手に語る。その拒絶したはずの答えに、思わず無惨は言葉を失って青ざめた顔で目を逸らした。

 童磨の孤地獄がどういうものかも知っていれば、呵責されている童磨自身がどんな生き物だったかを獄卒よりも知っているだけあって、そこは自分が落ちている阿鼻地獄より地獄であることが容易く想像ついたようだ。

 どこまでも自分本位な無惨には半天狗に対して「可哀相」程度の同情もないが、それでも半天狗の立場を想像する程度の共感性はあったらしい。

 

 ただその後に関する想像力と、自分の内心を顔に出さず隠すという器用さが良くも悪くもなかったのが無惨の自業自得な不幸。

 ものすごく嫌そうな顔をした時点で、鬼灯は「よし、次はこいつを入れよう」と思った。そしてこの地獄めぐりが終わった後、本当に半天狗と入れ替わりで入れられた。

 

 * * *

 

「『異々転処(いいてんしょ)』です。

 占いなどで嘘をつき、財産などを奪ったり人を貶める原因を作った者が堕ちます」

「もう既にお前の所為で堕ちたわ! 頭が!」

 

 最初に頭部がホールインワンした地獄にやっとたどり着き、無惨がその事を挙げて突っ込む。

 だがもちろん、「そうですね。では、さっさと次に参りましょう」とはならない。

 

「そうですね。ここの刑罰は目の前に父母や妻子、親友などの幻が出現し、助けを求めて駆け寄ると灼熱の河に落ちて煮られては再生し、河から出ても同じように幻が出現して今度は地面の鉄鉤で切り裂かれなどを繰り返し、最終的には獅子に襲われながら火の輪くぐりするんですけど、こいつじゃ誰の幻を出しても効果ないので、最初のようにひたすらフルスイングでホールインワンし続けましょうか」

「元の刑罰の原型がほぼないだろそれ!!

 あと最後、何でいきなりサーカスになってるんだ!?」

 

 無惨のこれは間違いなく無惨の方が正しい言い分かつ疑問に、狛治と芥子が反応に困りつつその突っ込みどころな最後の火の輪と獅子を用意する。

 用意しつつ、彼らはこっそり感想を口にした。

 

「鬼灯様……、無惨がここに堕ちる理由こじつけてませんよね?」

「無惨様も突っ込み忘れてるな」

 

 * * *

 

「こちらは『唐悕望処(とうきぼうしょ)』。

 病気で苦しんだり、生活に困ったりしている人が助けを求めているのに、助けると口先ばかりで嘘をついて実際には何もしてやらなかった者が堕ちる地獄です。

 ここの地獄はついた嘘に応じた罰があり、例えば飢えた人を見捨てたのなら、目の前においしそうな料理が出現するので駆け寄ると、途中に生えた鉄鉤で傷つき、しかもたどり着くと実は料理に見えたのは熱鉄や糞尿の池で、その中に落ちて苦しむ。夜露をしのぐ家を貸すといって貸さなかった者は、高熱の鉄汁に満たされた瓶の中に逆さまに浸されるなどです」

「無惨様の場合はどのような罰になるんですか?」

「私がその罪を犯した前提で語るな!!」

『お前が犯したことない前提で語るな!!』

 

 孤地獄ではないのに個人によって呵責の内容が変わる少し変わった地獄であることを鬼灯が説明し、狛治が思い返したくない無惨の悪行を仕事なので思い返して考えながら、鬼灯に尋ねる。

 そしていつも通り、もうこっちの頭がおかしくなりそうな程清々しい無自覚な吐き気を催す邪悪っぷりを発揮する無惨の抗議に、鬼灯と芥子はそれぞれ自分の武器を投げつけ、狛治は無惨の顔面を蹴りつけて黙らせた。

 

「無惨の場合は、珠世さんや累さんにしたように病気が治ると言いくるめて血を与えた事と……、巌勝さんの勧誘も当てはまりますね」

「ということは、相手を騙した内容と無惨が欲しくてたまらないものが『健康な体』『長寿』『化け物レベルに強い』なので、それらを兼ねそろえた縁壱さんにボッコボコにしてもらうのが一番妥当ですか?」

「妥当だが、縁壱さんに呵責してもらうのは無理だ。そもそも、あの人の性格だと普通に嫌がる」

「あー……。そうでした。縁壱さんにやらせたら、無惨じゃなくてあの人に対しての嫌がらせになっちゃいますね」

 

 鬼灯が語った、こじつける必要なく無惨が堕獄するに相応しいやらかしを語って、それに対応する罰を芥子が挙げるが、狛治がその罰の内容自体は肯定しつつも不可能だと告げる。

 芥子も納得して、更に頭を悩ませるがその必要はなく鬼灯はすでに用意していた。

 

「えぇ。なので、ご本人には劣りますがちょうどいいものを用意しました」

「「はい?」」

 

 芥子どころか狛治も聞いてなかったらしく、怪訝そうな声を上げて鬼灯が手で指示した方を向く。回復した無惨も同じく。

 そして絶句。

 

「技術課の皆さん、特に烏頭さんや平賀源内が真夜中テンションでノリにノッて作り上げた縁壱HELL式です! これで無惨をボコります」

『なにこの千手観音ロボ!!??』

 

 鬼灯が説明したのに、突っ込まれた。そして突っ込まれても当然の代物だった。

 刀鍛冶の里にあった元の零式は、腕が6本ある以外は本人に良く似せたからくり人形で、この時点で現代でもオーパーツすぎる技術の集大成だというのに、この地獄製縁壱ロボは狛治達が突っ込んだ通り腕の数が増えている。もうつけれるだけつけましたと言わんばかりの数なので、完全に千手観音状態だ。

 それだけの腕を付けて動かすために必要だったのだろう。でかい。でかすぎる。閻魔大王くらいある。

 

 そしてこれまた、顔の造形自体は縁壱に似せてあるので不気味すぎる。零式の時点でなかった似せる必要性を何故ここでも発揮したのかと思ったら、鬼灯はしれっと「無惨だけではなく巌勝さんにも使えるかと思って」と言い出した。

 

「さすがにそれはやめてあげましょう!! っていうか、巌勝もこれ見たら困惑する! ただひたすらに反応に困る!!」

 

 鬼灯の鬼すぎるアイディアが変な方向に空回っている呵責を、狛治は必死に止めている間に縁壱HELL式は無惨を呵責する。

 ただ閻魔大王サイズなので千手観音状態の腕はいくら振り回しても無惨に届かなかったので、その巨体を生かして踏みつぶした。意味ねぇな、これ!!

 

 * * *

 

「『双逼悩処(そうひつのうしょ)』です。

 村々の会合などで嘘をついた者、悪口を言って集団の和を乱した者が堕ち、刑罰は炎の牙の獅子が罪人を口の中で何度も噛んで苦しめることです」

「……これまた無惨がパワハラの権化だからこそこじつけづらい罪状ですね」

 

 鬼灯の説明に芥子が頭痛を堪えるように前足で頭を抱える。

 芥子の言う通り、無惨は自分が鴉は白だと言えば鴉は自ら白くならなければ皆殺すパワハラの権化だからこそ、集団に対して嘘をつくということをしない。

 集団の和など初めから求めていない。唯々諾々と自分の命令に従うこと以外許さない暴君そのものだからこそ、罪深いのだがここに落ちるいわれは悪い意味で皆無だったりする。

 

「そうですね。さてはてどうしましょうか」

「おい! お前何も悩んでないだろ! 台詞が棒読み過ぎる!!

 っていうか、私に何をふりかけてるんだ!?」

 

 芥子の言葉にわざとらしいレベルの棒読みで悩んでいるふりをする鬼灯だが、悩むふりをしながら彼は無惨に何かの粉を大量にぶっかけている。

 それに咽ながら無惨は突っ込むが、その粉の正体はすぐに判明する。

 

 ゴロゴロ喉を鳴らしながら、獅子は刃物のような爪をむき出しにして無惨をがしっと拘束する。

 無惨を四肢で抱きかかえながら、やすりのような舌で肉を削りながらベロベロザリザリ舐められ、炎の牙で頭から獅子に丸かじりされることで無惨は理解する。あの粉はマタタビであるということに。

 

「おっとしまったー。うっかり手が滑ってマタタビを無惨にふりかけてしまいましたー」

「鬼灯様、過失と言い張るのならもう少し演技してください」

 

 もはや雑こじつけも面倒になってきたことを露骨に表す鬼灯の棒読みに呆れつつも、狛治は追加のマタタビをバケツで持ってきて手渡してくれた。

 これ、狛治も雑こじつけ面倒くさがってますね。

 

 * * *

 

「ここは『迭相圧処(てっそうあつしょ)』。

 親兄弟親戚縁者などが争っているときに、自分の身近な者が得するように嘘をついた者が堕ちる地獄です。

 罪人に騙されたものたち、本人の時もあれば野干などが化けた偽物が出現し、罪人の肉をはさみで切り取って口の中で噛んで苦しめます。ちなみに、切り取られた肉片にも感覚があります」

「ここの獄卒、鬼殺隊の歴代お館様じゃないですよね?」

 

 思わず無惨の「黙れお前」な抗弁より先に、狛治が素で訊いた。落ちる罪状といい、呵責の内容といい、少なくとも今日の呵責に彼らが参戦しない理由はないと思ったのだろう。

 

「残念ながら、違います。ご本人たちはぜひとも行いたかったそうですが、奥方や隊士の方々が『おそらく永遠に切り刻み続けて終わらないからやめてくれ』と説得したもので」

 

 幸いながら、狛治の案じた事案は狛治が心配した理由と全く同じ内容で既に説得済みだった為、杞憂で終わった。

 呵責が終わらないのも問題だが、正直言って狛治は何故この一族から無惨が生まれた? と思うほど穏やか温厚一族な産屋敷歴代当主が、無惨との血のつながりを唯一感じさせる闇の深さが全面に出るであろう呵責の光景を本気で見たくなかったので、心底安堵する。

 

「けど、そうなると誰が呵責するんですか?」

 

 無惨の「私は親類でも他者が得するようなことを言わない!」と、堂々と言うべきではない理由で無罪を主張する口にペッパーXを放り込んで塞ぎながら芥子が尋ねる。

 

「罪を償ったり、元々処罰対象ではなかった無惨の鬼だった方々で希望する方にしてもらうことにしました。認めたくないでしょうが、あいつの鬼ということは一時的とはいえ文字通り血が繋がっていたということでしょうし。

 なので、狛治さんもしたいのであればぜひどうぞ」

 

 しれっと答えて狛治にはさみを渡す鬼灯。

 渡された狛治は、無惨自体に別に恨みはないのと、呵責内容が自分のトラウマなので参加せず、遠い目になって他の元鬼たちの生き生きとした笑顔を眺めつつ思った。

 またしても、無惨をここに堕獄させる雑こじつけを鬼灯はしなかったなぁ、と。

 ここまで理不尽な堕獄にクレームがつかない無惨が凄すぎる。

 

 * * *

 

「『金剛嘴烏処(こんごうしうしょ)』です。

 堕ちる罪状は、病気で苦しむ人に薬を与えると言っておきながら与えなかったこと。刑罰は金剛のくちばしを持つカラスが罪人の肉を喰う。喰い尽くされると罪人は復活し、また始めから喰われます」

「この地獄にあの医者を落とせ!!」

「それは正直言って同意ですが、お前もここにストレートに落ちるわ!!」

 

 今回は無惨の血は薬どころか最悪の毒であったことを理由に落とせる地獄だったので、無惨の突っ込みに激しく同意しながらジャイアントスイングで鬼灯は無惨を空中に投げつけ、カラスの金剛のくちばしにダイレクト投入。

 カラスにとって迷惑だからやめてあげろ。

 

 * * *

 

「こちらは『火鬘処(かまんしょ)』。

 祝い事の最中に法を犯しておきながら、しらを切った者が堕ちる地獄で、獄卒が鉄板と鉄板の間に罪人を挟み、くり返しこすって血と肉の泥にしてしまいます。

 まぁ、こいつの事ですから正月でも何でもどっかで法は犯していたでしょうから問答無用で落とします」

「『祝い事の最中に法を犯す』ってそういう意味じゃないだろ! こじつけが雑過ぎるわ!」

 

 雑くてもこじつけをするだけマシなことにたぶん気付いていない無惨が、未だ元気にぎゃんぎゃん喚いて抗議して抵抗するが、元が病弱な人間なので鉄板に挟まれたらそれだけでもう動けない。

 そしてトドメにその鉄板は上から踏みつぶされる。

 縁壱HELL式に。

 

「また出た!?」

「ここでも腕の意味がまるでない!!」

「もうこの大きさを活かすことにしました」

 

 縁壱HELL式、もう既に持て余されていた。

 

 * * *

 

「『受鋒苦処(じゅほうくしょ)』。

 布施しようと言っておきながら布施をしなかった者、布施の内容にケチをつけた者が堕ちます。刑罰は嘘をつくことはおろか泣き叫ぶこともできないように、獄卒に熱鉄の串で舌と口を刺されることです。

 ここの堕獄理由は……狛治さんへのパワハラってことにしましょうか。柱である煉獄さんを殺した報告を無碍にして責めたてていましたので」

「鬼灯様、わがままでしょうがそれを無惨様の罪にすると俺が罪悪感で死にそうなんですが……」

「それもそうですね。すみません。配慮が足りませんでした」

 

 鬼灯の挙げた堕獄理由に、狛治はさすがにやんわりとだが「勘弁してくれ」と抗議する。

 別に嫌味とかではなく煉獄本人がまったく気にしていないので、うっかり鬼灯も狛治のしたことや彼自身の自罰意識を忘れていたようで、彼は素直に非を認めて謝罪。

 

「まぁ、別に狛治さんに限らず似たようなパワハラをし続けの千年ですから、とりあえず串を刺しましょう」

「そうですね。玉壺が刀鍛冶の里を見つけたという報告をした時もまさしくパワハラでしたし」

 

 狛治にしたことは狛治の為に無罪にしても、余罪がありすぎるので他の雑こじつけをするまでもなかった。

 なお、無惨が静かなのは「狛治にパワハラ」と鬼灯が言った時点で、彼に対しても割とシンパシーを感じて結構好意を懐いている芥子がキレて、さっさと率先して無惨の舌と口に串を刺しまくっているから。

 その事に鬼灯と狛治が気付いた時には、もう無惨の口と舌は剣山状態だった。

 

 * * *

 

「『受無辺苦処(じゅむへんくしょ)』です。

 船長でありながら海賊と結託し、船に乗っている商人達の財産を奪った者が堕ちる地獄で、熱鉄の金箸で舌を引き抜かれますが、いくら抜いても舌は再生し、そのたびに抜かれます。さらに目を引き抜いたり、刀で肉を削られたりもしますね」

「船長だったことなどない!!」

「でしょうね」

 

 どこの小地獄にも一つはある、落ちる罪状がピンポイントすぎる謎地獄の一つに無惨がいつもの突っ込みを入れて、これには素直に鬼灯も認めて同意する。

 まぁ、この地獄の場合はイザナミ様が眠かったからではなく、ただ単に時代の変化で今になって見ると妙にピンポイントになってしまっているだけなのだが。

 

「これは……貿易商の社長のフリしてたんですから、もうそれで」

「お前せめて現代に合うように解釈した罪状を語れ!! あとあくびもせめて少しは隠せ!!」

 

 なので今回、眠かったのはイザナミではなく鬼灯の方だ。大叫喚は特別地獄が二つある為、本来ならここで終わるはずなのにまだ終わらないので実は結構、鬼灯は疲れていたのかもしれない。

 それでも無惨の舌をひっこ抜くのも目を抉るのも肉を削るのも、狛治や芥子、他の獄卒たちだけに任せず率先して自分も参加するのはただのワーカーホリックか、それとももっとただ単純に趣味だからなのかは、知らない方がきっと幸せだろう。

 

 * * *

 

「さて、ここからが最初に説明した追加の特別地獄。これら二つの地獄は言ってみれば権力者の地獄です。なんというか……そういう立場の汚職は一種の職業病なんですかね? どの時代にも一定以上は必ずいるので隔離したのがこれらの地獄です。

 

 まず特別地獄一つ目が、『血髄食処(けつずいじきしょ)』。

 王や領主の地位にあって税物を取り立てておきながら、まだ足りないと嘘をついて多くの税を取り上げた者が堕ちます。

 刑罰は黒縄で縛られて木に逆さづりにされた上、金剛のくちばしのカラスに足を食われ、罪人は流れてきた自分の血を飲むことです。

 あー、自分の血をむしろ部下の鬼に無駄に取り上げられたっていう面白みがない言い分は聞きませんよ」

 

 やっぱりマジで眠いのか、それともただ単に聞き飽きた自己弁護に本気で飽きていたのか、無惨が喚く前に鬼灯は無惨を逆さづりにする。

 黒縄ではなく、無惨自身の腸を使って。

 

「鬼灯様! 呵責内容が違う! クレームは来ないでしょうけど、意味もなく拷問内容をグロくしないでください!! これ地獄の住人以外も見る人がいるんですよ!!」

 

 * * *

 

「そして最後かつ特別地獄二つ目、『十一炎処(じゅういちえんしょ)』。

 この地獄は名前の通り、まずは10方向から炎が吹き出して罪人を焼き、罪人の体内から11番目の炎が生じて口から吹き出し舌を焼くという地獄です。

 堕ちる罪状は…………!!」

 

 名前が呵責の内容をわかりやすく表している地獄なので、珍しく呵責内容の方を先に説明してから罪状を説明しようとした瞬間、何かに鬼灯は気付いて目を見開き、そしてそのままなんと崩れ落ちるように地面に膝を屈してしまう。

 

「!? 鬼灯様!?」

「ど、どうしたんですか鬼灯様!?」

 

 鬼灯の何らかの大きなショックを受けたような反応に、狛治と芥子が困惑しながら駆け寄る。無惨も色んな意味で常に余裕、余裕がなければないで傍若無人な鬼神がこのような反応をするのは青天の霹靂過ぎて、ポカンと眺めることしか出来なかった。

 

 そんな周囲の心配や困惑に気付く余裕もなく、鬼灯は「……しまった。事前に確認しておくべきでした……」と酷く何かを悔やむ独り言を呟き続ける。

 

「どうしたんですか、鬼灯様! 一体何があったんですか!?」

 

 他者を思いやる狛治が本気で鬼灯を案じて泣き出しそうな声音で尋ねている事にようやく気付いたのか、鬼灯はまだ立ち上がれないままだが、それでも一縷の希望で誰かのフォローを信じてか、彼は気付いてしまった自分の過ちを語る。

 

「……狛治さん。私は大きな間違いを犯しました。これはさすがに、事前に話し合っておくべきでした」

「い、一体何のことですか? 何があったんですか!?」

「……狛治さん。この十一炎処に落ちる罪人は…………王、領主、長者のように人から信頼される立場にありながら、情によって偏った判断を下した者なんです」

 

 鬼灯がようやく語った「己の間違い」に、狛治のみならずその場の全員が一拍ほど間を置いた。

 

『……!? しまった!! こじつけようがない!!』

「悪かったな!! 情がなくて!!」

 

 一拍間を置いて、獄卒たちは皆鬼灯と同じようにその場に崩れ落ちて叫び、流石に自分が無情の人でなしなことは自覚があったらしい無惨が開き直りつつキレた。

 だが無惨はやはり頭無惨でまだ甘い。獄卒たちがこじつけようがなくて嘆くほど無惨にまったくないと思っているのは、「情によって偏った判断を下した」という部分だけではなく「信頼される立場」という部分もだ。

 

「む、無惨様が偏りまくった間違った判断を下すのはいつもの事ですから、それを理由に……」

「おいコラ、猗窩座あぁっっ!! 百歩譲って偏りはともかく私が一体いつ間違った!?」

「いえ、こいつは最低すぎてだからこそどのような呵責にもクレームがつかない逸材です。だからこそ、この地獄に堕とすことこそが、逆説的にこいつが『信頼される立場』であったことや『情で偏った判断を下した』と思われてしまうかもしれません!!」

「そういう理由で嘆いていたのか、闇鬼神!! というか、何故『信頼される立場』も否定してるんだお前は!!」

 

 狛治がなんとかこの地獄に落とす理由を絞り出すが、鬼灯はそもそもここに堕獄すること自体が無惨の評価を上げてしまうと主張し、狛治は黙るしかなかった。もちろん、説得力皆無、己を全然わかっていない無惨の主張は全力で無視された。

 

「……仕方がありません。認めましょう。ここは、ここだけは間違いなく無惨は無関係です。奴が堕ちるいわれはどこにもありません」

 

 そしてふらつきながら鬼灯は立ち上がり、血を吐くような声音で「無惨はどうせ全地獄の罪状をコンプリートしている」という当初の主張を撤回した。

 ようやく自分の「堕獄するいわれはない」という主張が通ったのだが、当たり前だがその理由は「自分がクズ過ぎてここに堕獄したら逆説で評価が上がるから」なことに無惨は不服そうだ。

 しかしその不満は即座に吹っ飛ぶ。

 

「なので、堕ちる理由はないですけどこいつを堕とします」

「何がどうなってそうなった!?」

 

 まさかの堕ちるいわれがないことを認めた上で、理不尽全開に堕とすという宣言に思わず罵倒を忘れて素で突っ込む無惨。

 

「いやだって、堕ちる理由はなくとも堕とさない理由はもっとないですよ。

 あなたをあの罪状で堕とすのが問題なのであって、ここの呵責を受ける理由にあの罪状は無関係だと明言すれば、ここに堕獄するのは何の問題もありません。

 という訳で、逝け」

 

 先程までのマジ嘆きはどこへやら、もういつも通りの無表情とローテンションに戻った鬼灯がしれっと無惨のパワハラ以上に理不尽だが、無惨の自業自得で筋が通りすぎてて誰も文句のつけようがない理屈を作りあげ、無惨をそのまま足で蹴り落とした。

 

 流石に鬼灯ほどさっさと切り替えが出来ない獄卒たちはポカンとそれを見送ってしまったが、比較的鬼灯に慣れている狛治と芥子はさっさと回復して、次の準備、今回の動画のオチとして最初に鬼灯が朗読した「カチカチ山」の再現のために使う芥子味噌を用意に移る。

 もちろん、使われている芥子はペッパーXだ。

 

 この為だけに堕ちるいわれがないと認められたのに堕とされた無惨に同情は、当然なかった。

 





鬼滅完結記念に炭治郎があの世に来た時の話を書いていたんですが、登場人物が多すぎるのと思い入れがあるからこそ筆が進まずスランプ状態だったので、リハビリがてらにまずこっちを書きました。
炭治郎が鬼灯世界にやって来た話はマジでもうちょっと待って……。

あと完結したことで変化・決定した設定は明日にでも修正します。
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