「鬼滅の刃」世界のあの世が「鬼灯の冷徹」世界だったら 作:淵深 真夜
作中での無惨の鬼の罪に関しての基準や、狛治さんが猗窩座だった頃の話は独自解釈と妄想の捏造が入ってます。
あと原作の片割れが基本クソ重い、もう片割れはコメディな為、その折り合わせで鬼滅側の設定説明を省いてたり軽くしていたりするので、その辺はご理解と許容していただけるとありがたいです。
「「…………ええぇぇぇっっ~~~~!!??」」
しばし口を開けたまま呆けていた小鬼二人が、鬼灯の発言と狛治の「黒歴史」発言を理解したのか、今度は大声を上げて驚く。
言われた事は理解できても、納得は出来てないのだろう。その証拠に、フリーズが解凍された途端、二人は口々に自分たちにとって「狛治が何百人もの人間を食い殺した元悪鬼」であることが信じられない根拠を口にする。
「え!? 嘘でしょ鬼灯様! 狛治さんが!?
大王の日課、煮え湯一気飲みを『そろそろやめましょうよ』って止めてくれてる狛治さんが!?」
「鬼灯様が白澤様を全殺ししようとしてるのを、いつも全力で宥めて止めてくれてる狛治さんが!?」
「EU地獄のサタン様のナルシスト自慢話を、鬼灯様の代わりに毎回全部ちゃんと聞いてくれてる狛治さんが!?」
「唐瓜の敏感肌とかに気を遣ってくれるし、喘息の発作の応急処置がプロ並みな狛治さんが!?」
「未だ夫婦ともにさん付け敬語で、もはや妬むのも辛いくらいの初々しい癒し夫婦で評判の狛治さんが!?」
「けど鬼灯様のフォロー役に板がつきすぎてて、鬼灯様の嫁とも言われてる狛治さんが!?」
「信じられないのはよくわかりますが、その辺で。狛治さんが羞恥で死にそうなので。
あと、誰だ最後の私の嫁扱いしている腐った輩は」
鬼灯の言う通り、何故か後輩からの褒め殺しのような状況に陥った狛治は、その場に頭を抱えてしゃがみ込むので、鬼灯が待ったを掛けつつ、最後の冗談でも嫌な発言の主を茄子に問う。
「あ、あはは~……。えっと、あの、……マジなんですか?」
鬼灯の問いを茄子は笑って誤魔化しつつ、狛治=元十二鬼月上弦の参という情報の真偽を問うと、鬼灯の代わりに赤い顔でしゃがみこんでいた狛治本人が「……本当だ」と答えた。
それから彼は立ち上がり、どこか寂し気な笑顔を浮かべて小鬼二人に言う。
「ごめんな。失望しただろう? 俺は鬼灯様や閻魔大王様たちの恩情でここにいる、本来ならお前達の上司や先輩どころか、お前達に拷問されるべき立場の
その笑顔と発言で、茄子と唐瓜は実は前から気になっていた、狛治に対する疑問が解けた。
彼は人間でありながらデスクワーク担当の獄卒どころか、拷問等の肉体労働担当の獄卒とも渡り合えるレベルの身体能力を持ち、なのに性格は穏やか温厚、目下への面倒見は良く目上には礼儀正しい、子供には優しく女性に対しては紳士的と、誰の目からみても完璧な人格者だというのに、狛治本人はいつも誰に褒められても「そんなことはない」と答えていた。
初めは普通に謙遜だと思い、謙虚な人だなと更に尊敬していたが、少し親しくなると狛治は他者に褒められても、照れている様子はなく、むしろ本気で困惑して申し訳なさそうなことに気付けた。
謙遜ではなく本心から「そんなことはない」と思っており、謙虚ではなく自虐的であることを唐瓜も茄子もすでに理解しているが、どうしてそんなにも自己評価が低いのかはわからなかった。
そんな疑問は、彼の生前の立場を知ってようやく理解できた。
「……お気づきでしょうがこの人、素の性格がこの善良さなので、裁判は十王全員が頭を抱えましたよ。
ちなみに言うまでもないかもしれませんが、この人が三大判決に困った亡者かつ、『地獄に落としていいのか、こいつ』代表でした」
「「納得です」」
狛治の自虐に鬼灯は呆れたような溜息をつきつつ、その善良さゆえの当時の苦労を軽く愚痴ると、唐瓜たちは同時に深々と頷いて同意。
そして二人は心から慕い、尊敬しているからこそ狛治の自虐が許せず、彼らはわきゃわきゃと狛治にまとわりつくようにして、彼の言葉に抗議して否定する。
「失望なんかするわけないじゃないですか! むしろ、鬼灯様が罪人に甘い顔する訳ないんですから、どう考えても狛治さんが気にしすぎですよ!!」
「そうだよ。っていうかそもそも、無惨の鬼の罪って裁判ではどういう扱いなんですか?」
唐瓜のフォローに同意しつつ、茄子は首を傾げて鬼灯に尋ねた。
しかし唐瓜や狛治は茄子の問いの意味がよくわかってないらしく、こちらも小首を傾げる。
「どういう扱いって、鬼に変貌しても元は人間だし、そもそもあれって死ねば人間に戻るんだから、普通に人間としての罪で裁かれるだろ」
「そうだけど、けどさぁ、人を食べちゃったのを罪に数えるのはおかしくない?
食べなくちゃ生きていけない生き物に変わっちゃってたんだから、それは仕方がないことじゃん。食われたくないから人間側が鬼を退治するのは良くて、生きる為に食べた元鬼は死んだ後も罪扱いは変だろ」
首を傾げつつ唐瓜が、死ぬことで無惨の鬼は人に戻ることの証明である狛治を指して答えるが、茄子はさらりととんでもない発言をぶっ放す。
明らかに自分が鬼だった頃の罪を、必要以上に未だ重く抱えている狛治に対して、優しいと言えば優しいのだが、人間視点で見ればかなり残酷で、自分達のような純粋な鬼にとって人間は、家畜や野生動物と同じように思っていると勘違いされそうな発言だった為、唐瓜はギョッと目を見開いて慌てふためく。
唐瓜は茄子を殴って土下座で謝るべきかと考えるが、殴る前に「落ち着け」と言って止められる。当の土下座で謝ろうと思っていた狛治に。
「唐瓜、落ち着け。別にお前達のことは誤解していない。俺はもう
振り上げた拳を軽くだが、まったく茄子に向かって振り下ろせない力加減で掴まれて止められ、狛治はいつも通り穏やかに笑って言う。
その笑顔は、先ほどの自嘲の言葉の時とは違って寂しげではないことに唐瓜はひとまず安堵して、固めた拳から力を抜く。
唐瓜の殴る気が失せ、茄子も自分の失言に気付いて唐瓜と狛治に謝るのを見届けてから、鬼灯はポリポリ頬を掻きながらポツリと言葉を零す。
「……まぁ、そのあたりのことは茄子さんが正論です。
けど狛治さんの場合、鬼だった頃の罪を抜いても判決に困る人でした」
「「え?」」
鬼灯の零した言葉に茄子と唐瓜が同時に再び困惑の声を上げる。
そんな二人に対して狛治は困ったような苦笑を浮かべつつ、そっと目を逸らす。
鬼灯は懐から愛用の懐中時計を取り出し、時間を確かめながら言葉を続けた。
「気になるのでしたら、食事でもしながら話しましょうか。ちょうどもう昼食時ですし。
狛治さんも、かまいませんか? あなたの事ですので、話されるのが嫌なら遠慮せずに言うべきですよ」
「いえ。俺からしたら唐突な暴露だったから驚いただけで、全部隠してないので話されるのは構いません。俺の口から語るのも、客観性に欠けた話になりますし。
っていうか、何で俺の生前の話になったんですか?」
鬼灯がいつの間にかただの雑談になっていた倉庫整理を中断して、昼食を取ることを提案しつつ部下の過去話なので本人に許可を求めると、狛治は自分で言った通り別に嫌だったから最初に突っ込んだ訳ではないらしく、サラッと許可してついでに事の発端を尋ねる。
その発端である鬼殺隊の隊服を茄子が見せてからしまいなおし、唐瓜も鬼灯が運んでいた段ボールを手伝ってそれだけは片付けて4人で食堂まで向かった。
なお、3人は完全に素で忘れている閻魔大王による鬼灯の呼び出しを、呼ばれている本人はしっかり覚えていたが、あえて無視していた。
* * *
「まず、無惨の鬼による『食人』は、基本的に罪に数えません。
理由は茄子さんが言った通り。鬼になって生まれる食人衝動に関しては、無惨も別に好きで与えている訳でも得たものでもないので、罪に問うなら無惨を鬼にした医者ですね。……まぁ、この人も治療途中に無惨の癇癪で殺されたので、やっぱり悪いのは無惨ですけど。
とにかく、そこを罪にしてしまうと、じゃあ人を食った熊はどうなんだ? 人が家畜を食べるのは良いのか? となって来るので、割と早い段階で決まりました。
……そもそも、死ぬことで無惨の支配から解放されて体も心も人に戻るのだから、真っ当であればあるほど、罰など与えなくとも自ら背負ってしまうものですよ」
パチンと割り箸を割り、大もりの天丼をもしゃもしゃ食べながら鬼灯は語る。
最後はちらりと横の狛治、正確に言えば彼の昼食である愛妻弁当に視線をやって。
同じようにそちらに視線を向けて、唐瓜と茄子は理解する。
狛治が未だに自ら背負っている罰を。
狛治の弁当の中身は、おにぎりとおひたしや漬物、厚揚げなどで肉類が一切ない。
今まで一緒に食事をした時は、愛妻弁当を羨ましがっていただけで気付けていなかったが、思い返せば狛治は弁当に限らず、常日頃から全く肉類を口にしてなかった。
「……俺はマシな方だ。衝動に耐えられず家族や友人を喰らってしまい、死ぬことで記憶を取り戻してしまった者よりはずっと……」
「そういう方はむしろ、舌を抜くなど簡易な罰をあえて与えましたね。そうでもしないと、転生で前世の記憶を失っても潜在的に何かしら影響が出そうでしたので」
狛治はおにぎりを口にしつつ、悲し気な目で自分より悲惨な無惨の被害者を語り、鬼灯は淡々とその被害者はどうしたかを語った。
あえての軽い罰は、優しさだ。真っ当であればあるほど、誰も責めないからこそ余計に自分を許せなくなる。自分を許してやる方法がわからなくなって、苦しみ続けるのだ。
だから目に見える形で罰を与え、人間の三大禁忌の一つを犯した罪悪感、自分の最も大切な人を、自分の手で最も悍ましい結末を迎えた絶望を、少しでも軽くさせてやろうとしたのだろう。
思った以上の重い話に、唐瓜はもちろん茄子も定食に箸をつけることが出来ない。
そんな後輩二人を、狛治は困ったように眉を八の字にして何か言葉を、二人が気を病まずに済む言葉を探すが出てこない。
しかし狛治が探す必要などなく、鬼灯は口に含んでいた飯を飲み込んでからサラッと言う。
「ですが、罪として数えないのは『人間を食べた』という点においてだけです。なので、食べ過ぎなら普通に餓鬼道に落とします」
「鬼灯様、人間をそんなスナック菓子感覚、餓鬼道をライザップみたいに言わないでください」
鬼灯の鬼として、裁判関係者として正しいのだが、身も蓋もない発言に遠い目をしつつ、狛治は慣れた様子で突っ込んだ。
ちなみに鬼灯は重い空気をどうにかしたかったから、あえてぶっ壊した訳ではない。この
「というか、狛治さんのように肉がトラウマになる人は、鬼の頃も食人以外の罪はほとんど犯しませんね。せいぜい弱いものを狙って襲うくらいで、それも偏執的なまでに女子供などの弱者しか襲わなかったとかではない限り、生き物としては当然ですからあまり罪状に関係しません。
もちろん、度が過ぎればこちらも普通に等活地獄辺りに落とします。あぁ、けど16歳の女性を執拗に狙って食べていた奴は死後、人間に戻っても『女は16歳が最高で、それより上は全部ババアだ!!』と裁判でも主張してたので、落とす地獄は等活か衆合かで審議が始まってしまいました」
「両方で良いんですよ、そんな下種。今から俺がその二つの地獄の拷問を、全部そいつに実践しましょうか?」
「それは午後からお願いします」
更にどのようなパターンが罪になるかならないかを教えるついでに、やけに印象深かった元鬼を思い出して鬼灯が語れば、狛治は真顔で吐き捨てるように怖いことを言う。しかも鬼灯、止めるどころか実行させる気しかない。
鬼灯がこういう、良くも悪くも空気ブレイカーであることは狛治だけではなく、まだ獄卒になって日が浅い方の小鬼たちも既に理解している為、とりあえず狛治がなんか怖くなったが、罪悪感はどっかに吹っ飛んだようならいいやと遠い目で思いつつ、食欲をなくす空気が粉砕されたので食事を始めた。
「で、話を狛治さんに戻しますが、この人は鬼としての罪状はないに等しいです。
無惨の鬼の中では古株なので、犠牲者は余裕で3桁を超えますが、上弦ではぶっちぎりで最小。当時は弱者を嫌って見下してましたが、だからこそ自分から弱者を狙って襲いはしない。女性は論外。食い殺すどころか傷つけることすらできなかったので、母親などが家族を庇って前に出たりすれば、もうそれだけで何も出来ず、全員を見逃して退散してたので、逆にここまで最低限の食人で上弦の参だったのが怖いくらいですね」
天丼を食べながら鬼灯は前提を語り終えたので、本題の狛治の過去について語り出す。
しかしこれもまた、本題の前提でしかない。
狛治は「そんなの、すごくもなんともないですよ。炭治郎の妹は初めから誰も襲わず、食わず、稀血の誘惑にすら耐えきったのだから」と特例中の特例を持ち出して、自分を卑下する。
しかし無惨の鬼の強さは基本的に、食った人間の数と比例する。その法則の中、犠牲者最小でありながら実力はNo,3で、しかも元鬼の中で人間に戻っても、地獄の鬼たちと素手で渡り合える身体能力持ちは狛治しかいないのだから、狛治も十分すぎる程に特例中の特例だ。
そんな彼の卑屈な自虐に、呆れたというより飽きたような溜息を一度ついて、鬼灯は話を続けた。
「なので、十王たちを悩ませたのは鬼になる前、人間だった頃の事ですよ……。
この人、腕に刺青があるでしょう? あれ、罪人の証の刺青です。罪状はスリなどの窃盗……ですが、それは病床の父親の薬代の為です」
「……もうそれだけで、十王たちの抱えた頭の重さがわかりました」
「狛治さんが何をしたって言うんだ……」
「スリだ」
鬼灯が狛治の腕を一周する三つの刺青を指して、その刺青の意味と入れられた経緯、そしてその罪の動機を端的に語り、それだけで「地獄に落としていいのか、こいつ」代表に選ばれた理由を唐瓜は理解して思わずゲンドウのポーズ。
茄子も心底、狛治の善良さと真面目さが、最も不幸な形で発揮するしかなかった過去を嘆くのだが、何故か当の本人が妙な天然で物を言う。茄子が気にしているのはそこではない。
「しかも父親は、息子を犯罪に至らせた後悔と自責の念で自殺してしまうんですよね」
「「狛治さんが何をしたって言うんだ!!」」
「だから、スリだ」
その天然にちょっと空気が和んだが、空気ブレイカーが今度は悪い意味で発動し、あまりに救いがない父親の最期をこれまた淡々と語り、今度は唐瓜も加わって力いっぱい小鬼は叫ぶ。そして本人はまだ、何かズレていた。
もう父親のくだりだけで胸が苦しいが、話はまだまだ序盤であり、鬼灯はどこまでも淡々と狛治の過去を語り続け、狛治はほとんど口を挟まず静かに弁当を食べていた。
「父親は真っ当に生きろという遺書を遺しましたが、刑罰も苦ではない程に助けたかった最愛の父を亡くしたことで自暴自棄になり、狛治さんは江戸を追放されるほどに荒れましたが、そんなねじ曲がっていた狛治さんを文字通り叩き直したのが、のちの義父である慶蔵さん。そして同じくのちの奥方、恋雪さんです」
「鬼灯様、それだと恋雪さんも俺を叩きのめしたみたいです」
しかし愛妻が盛大に誤解されそうな部分は、しっかり突っ込んで訂正を求めた。
狛治さんの過去全部1話でまとめるつもりが、1万字超えそうだったのとオチもついたのでひとまずここで投稿。
次回あたりで、元上司と元同僚の愚痴を死んだ目で語る狛治さんを書けたらいいな。