「鬼滅の刃」世界のあの世が「鬼灯の冷徹」世界だったら   作:淵深 真夜

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今回はラストがグロ注意かな?
あと、焦熱地獄に落ちる罪状は現代だとピンポイントすぎておかしかったり、訳わかんないものだったりするのと、鬼灯原作でこの地獄はあまり取り上げられていなかったので、私の「現代ならこう」という解釈がめっちゃ多いです。
なので仏教や地獄に詳しい方から見たらめちゃくちゃかもしれませんが……、まぁ無惨が無様だったら何でもいいよね精神で読んでくれたら幸いです。




無惨様の楽しい十六小地獄めぐり(焦熱地獄編)

「皆さま、こんにちは。本日も当初は『残忍なイケメン』と認識されていましたが、徐々に『長所が顔しかない』と言われ、最終戦ではついに『イケメンが唯一のとりえだったのに』と言わしめた鬼舞辻 無惨の十六小地獄めぐり、焦熱地獄編を始めてゆきたいと思います」

「おや、今回の汚名大喜利は顔縛りなんだね。私としては逃亡シリーズが好きだよ。

 散々、臆病者だからこその逃げ足の速さに煮え湯を飲まされ続けたから、あれは趣深く思えるね」

「どんな趣だ!? 貴様は趣の意味を分かって使っているのか!?

 というか、何故お前がここにいる産屋敷!!」

 

 いつも通り、視聴者に挨拶と同時に無惨の汚名大喜利してから本日巡る地獄を語った鬼灯に、ゲストである産屋敷 耀哉は少女のようにあどけなく稚く笑って自分の感想を口する。

 そして無惨はいつも通り地面に簀巻きでビチビチと魚のように撥ねながら、周囲の獄卒たちの総意と言えるツッコミを入れた。

 

 存在自体が間違いそのものなのに、どうしてツッコミは割と正論なんだろう? と狛治は昨日、秦広庁から帰ってきた鬼灯が急遽決めた地獄めぐりの準備と、その影響で色々狂った仕事のスケジュールの疲労による現実逃避気味に考える。

 もちろんその疑問が晴れることはない。

 

 虚しい疑問を抱えた狛治は遠い目をしつつ、無惨の疑問である耀哉が今回の地獄めぐりにゲスト参加する理由は答えておいた。

 

「……耀哉さんが今回急遽ゲスト参加するのは、あなた唯一の長所であるその顔の所為ですよ」

「何でお前も『唯一の長所』を強調する!? というか、本気で意味がわからんわ! 私の容姿に嫉妬でもしてるのか!?」

「顔よりも未だ自分に絶対の自信を持つ君の精神性は、ある意味では凄く羨ましくて嫉妬するかもね」

 

 狛治としてはこの上なく直球でわかりやすく伝えたつもりだが、他者に迷惑しかかけてないのに自分こそが他者から理不尽な迷惑をかけられ続けていると信じて疑わない無惨が、相変わらず最悪のハイパーポジティブを発揮して、耀哉はわりと皮肉なしに言い返す。

 

 そんな二人のやり取りを横目でチラ見してから、鬼灯は視線をカメラに戻して今更だがゲスト紹介を始めた。

 

「早速舌戦を繰り広げている本日のゲストですが、本動画をエンドレスリピートされている方々、つまりは元鬼殺隊の方は知っているでしょうが、改めて紹介します。

 

 こちらは秦広庁の獄卒。秦広王の補佐官である小野 篁さんの部下、産屋敷 耀哉さん。

 生前は鬼殺隊の最高責任者、通称『お館様』。無惨が討伐された無限城の戦いの直前、太陽を克服した鬼である禰豆子さんの存在を知って、まだ彼女の居場所も見つけられてなかったのに、鬼殺隊の本拠地である産屋敷邸を見つけた事でテンション上がって、まっっっったくする必要のなかった挑発をしに来た無惨を見事に煽り返し、この人天国行きにしていいんだろうか? と十王たちが頭を抱えた『産屋敷ボンバー』をしでかした方です。

 

 そんなこの人が本日ゲストな理由は、狛治さんが言った通り。無惨とこの人、顔が似ているので少々生活に支障が出ているため、明確に別人だと周知させる意味合いがあります。

 まぁ、見ての通りただ単に参加したかったからしただけでもあるんですけどね」

 

 耀哉の裁判の面倒くささによる私怨なのか、「産屋敷ボンバー」というパワーワードを積極的に広めてゆく鬼灯の説明に、そのパワーワードが入るとわかっていた狛治や撮影獄卒(スタッフ)も脱力、もしくはドン引きなのだが、やらかした当の本人は相変わらず癒し系の変人だった。

 

「あれは本当に巻き込んだ妻子にも、前例のない裁判を煩わせた十王にも申し訳なく思って反省している。もし仮に同じような機会が今後あるとしたら、今度はせめて一人で自爆しようと決めた」

 

 のほほんと反省点を耀哉は述べるが、反省は本心なのだろうが方向性がやはり闇の深さ故に覚悟が決まりすぎている。

 

「耀哉さん、反省してるのならそもそも自爆を選択肢から外してください。俺からしたら顔よりも奥の手が自爆という点が、無惨様とそっくりですよ」

「わかった。やめよう。金輪際、私は爆発しない」

「おい! そこまで私と共通点があるのが嫌か!? 自爆行為そのものよりもそれが私との共通点になることが嫌なのか!?」

 

 そんな無惨の認めたくないが反論できない、「鬼殺隊は異常者の集団」発言の実例すぎる覚悟に狛治がドン引きながら突っ込むと、耀哉は急に真顔になって前言撤回。

 あのガン決め覚悟を掌返して、これまた凄いパワーワードで自分の新たな決意を語る耀哉に、無惨はビチビチ跳ねながら文句をつける。

 自分だって欲しくない共通点だが、自分ではなく相手が全面的に否定して拒絶することが大変ムカつくらしい。

 

「本日巡る地獄は焦熱地獄。ここは邪見を行った者が堕ちる地獄なのですが、『邪見』ではわからない方も多いでしょう。

『邪見』とは、元は仏の教えに背いた行いの事でしたが、昔から日本は仏教も神道もごちゃ混ぜちゃんぽんだったので、宗教的な教えは横に置いて道徳や倫理に背いた行いに屁理屈を付けて正当だと言い張ることだと思ってください」

 

 彼らのやり取りをBGMにして、鬼灯は今までの地獄と違ってどのような罪で堕ちるのかちょっとわかりにくい焦熱地獄を説明する。

 説明しながらちらりと視線を動かした。

 

 しゃがみこんで微笑みながら無惨を見下ろして煽っている耀哉を見てから、視線はまた動く。

 今度動いた方向は特に何もない、しいて言えば本日最後に無惨を落とす予定である刑場、「金剛嘴蜂処(こんごうしほうしょ)」の方向だった。

 

(急に撮影を決めたので打ち合わせは何もしてませんが……、まぁ耀哉さんなら言わなくても勝手にやるでしょう。

 むしろ問題は狛治さんの方ですね)

 

 流石に急なスケジュール変更のしわ寄せに巻き込んだ部下に関してだけは、鬼灯は申し訳なく思ってその埋め合わせを考えつつも足はさっさと初めの地獄に向かっていた。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

・焦熱地獄の十六小地獄

 

 

 

「本日最初の地獄は、『大焼処(だいしょうしょ)』。

 ここは『殺生をすることで天に転生することができる』という邪見を述べた者が落ちます」

「これ以上なくストレートに無惨様が堕ちる地獄ですよね、ここ」

「ふざけるな! 私はそのようなことを誰にも一度も言った事などない!!」

「それが事実だとしたら、それはそれで最低極まりないけどね」

 

 この地獄に堕ちる罪状の説明を聞き、狛治が素直な感想を口にすると無惨はいつものように自分にそのような罪はないと喚いて主張。

 しかしその主張は耀哉がバッサリ切り捨てる。耀哉の言う通り、自分の下僕である鬼たちに殺生を正当化させる発言で誑かしてないのが事実だとしても、そもそもこいつは殺生どころか食人するしかない体に作り替えているのだから、むしろそう言って罪悪感をなくしてやった方が優しさなくらいである。

 

「耀哉さんに全面的に同意します。

 そして、最初から残念なお知らせになりますが、実はこいつにとってこの地獄は意味がないとまでは言いませんが、苦痛は最小限になってしまう地獄です」

「? どういうことかな?」

「……あ!」

 

 鬼灯も深々と頷いてから、うんざりした顔と声でこの地獄に無惨を落とすには問題があると告げ、耀哉がわずかに表情を険しくさせる。

 殉職した平隊士の名前や経歴も覚えていた耀哉は、その記憶力と言うより真面目さを発揮して、獄卒でも自分の持ち場以外は覚えていない地獄の名称を全て把握している。

 だが、流石に第一裁判所で下される判決はざっくりと天国か六道のうちのどれかを決めるくらいがほとんどなので、地獄行きが決まっても具体的にどの地獄に落ちるかまでを決めることはめったにない。

 なので名前は把握していても、そこに堕ちる罪状や行われる呵責内容はさすがにすぐには出てこなかった。

 

 逆に現場仕事もこなす狛治はすぐさま思い出して、声を上げてから頭を抱えて耀哉に教える。

 

「……耀哉さん。ここの呵責内容は……周囲の燃え盛る炎の他に、文字通り『後悔の炎』が体の内側から生じて罪人を焼き焦がすことなんです」

「よし。無惨にガソリンを飲ませよう」

「「即答!!??」」

 

 狛治の答えに溜めなしで耀哉は提案し、狛治と無惨が同時に突っ込んだ……というか慄いた。

 無惨に後悔の炎が生じる訳がないと嘆くかと思ったら、いつものアルカイックスマイルで例え線香程度でも爆発炎上させる方法を提案してくる耀哉の発想など予想できる者がいる訳……

 

「耀哉さん、飲ます方をやりますか? それとも漏斗を口に突っ込んで支える方ですか?」

 

 いたよ。

 しっかり事前用意していたガソリンの一斗缶と漏斗を耀哉に差し出して選ばせる鬼灯に、耀哉は非常に楽しそうに笑って、「あまり重いものは持てないから」との理由で漏斗を受け取った。

 

「実は私とではなくお前らこそ血縁あるだろ!!」

 

 その漏斗を口にぶっ刺される前に無惨が叫んだ発言には、狛治も内心で大いに同意した。

 なお、無惨は線香程度の炎すら生じなかった為、鬼灯と耀哉はそれぞれ火をつけたマッチを鼻の穴にぶっ刺して無惨を物理炎上させた。

 

 

 

 * * *

 

 

 

「『分荼梨迦処(ぶんだりかしょ)』。

『飢えて死ぬことで天に昇ることができる』という邪見を説いた者が落ちます」

「だから、そのような発言はない! むしろ私にとっては飢える奴の方が迷惑なゴミだったわ!」

「むしろ俺はその迷惑なゴミになりたかったんですけどね」

 

 これは確かに先ほどの地獄と違って言ってないと断言できるものだったが、食人衝動なんてものを植え付けられた側からしたら、そう言って飢え死にさせてくれた方が幸福だった者は間違いなくいる。

 そのいっそ飢え死にしたかった、だからこそ今もなお後遺症に苦しむ狛治が冷めた目で無惨を眺めながら、今度は彼が無惨にガソリンをふりかけた。

 

「ここでの呵責内容は、まずは体中から炎が吹き出すこと。そして苦しんでいる罪人の耳に、『ここには分荼梨迦の池があり、水が飲める』という声が聞こえ、その声に従って池に飛び込むとそこは水ではなく炎の中でさらに苦しむ羽目になるということなんですが……」

 

 最初の大焼処と同じく本来は身体の内側から後悔や罪悪感などと言った感情による炎が罪人を焼くのだが、そんなものがない無惨に再び火のついたマッチを投げつけて燃やしながら鬼灯は刑罰を説明する。

 

「……あれと血縁があるという事実が一番いやだと感じるのは、ああいう所だよ」

「でしょうね。同情します」

「だ、大丈夫ですよ、耀哉さん。俺はああいう奇行を見るたびにあなたと無惨様は全然似てないなと思いますから……」

 

 遠い目で呟いた耀哉の言葉に鬼灯は同情を示し、狛治は必至で慰めるが、二人の目も耀哉と同じくひたすら遠い。

 

 鬼灯によって火をつけられた無惨は、熱い、早く水を持ってこいなどと喚いてのたうち回りながら、「分荼梨迦の池」という幻覚をかけられている炎の海に飛び込んだ。

 火をつけられてから飛び込むまでの時間は、2秒である。間違いなく、罪人を騙す発言が聞こえる前、聞こえていたとしても最後まで言えていない。

 

 死後から今までの100年間で色んな地獄を体験しまくっているはずなのに、まったく学習しない無惨のアホさ加減を三人は奴が灰になるまで遠い目で眺め続けた。

 

 

 

 * * *

 

 

 

「こちらは、『龍旋処(りゅうせんじょ)』です。

 ここでの邪見は『欲、怒り、愚かさを断てば涅槃に入れる、という教えは嘘だ』というもの。もしくは礼儀作法の意味を解さなかった者が落ちる地獄です」

「言った言ってないは関係なく、無惨様の存在自体がそう主張しているようなもんですよね」

 

 無惨の突っ込みどころが満載過ぎる言い分を言われる前に狛治は否定する感想を口にしながら、呵責の為の龍を準備する。

 この地獄の龍は体から毒を発し、罪人の周囲で激しく旋回することで罪人は竜の毒だけではなく回転することで鱗がやすりの役割を果たし、摩擦で全身がボロボロに削られて砕かれるという拷問内容なのだが、その呵責を実行する前に耀哉は控えめに提案してきた。

 

「鬼灯殿に狛治。龍の鱗ではなく龍にこれらを取り付けて無惨を削ってはダメかな?」

 

 可憐な少女がささやかなおねだりをするような上目遣いで差し出してきたのは、使用済みと思われる便所ブラシ。

 可憐なのは外見だけ、控えめなのは態度だけだった。

 

「良いですね、それ。ダメージそのものが軽微になる分、苦痛が長引くのもまた素晴らしい」

「お前は何を考えてるんだー!! この異常者代表格!!」

「ははは。このブラシとアイディア提供者は、私ではなく篁殿だよ無惨」

 

 龍の毒や鱗よりも屈辱的かつ衛生的に嫌なものを持ってきたことに鬼灯は称賛し、無惨はキレて相変わらずお前が言うなだが否定できない罵倒を叫ぶ。

 しかし耀哉は全くその罵倒を気にせず、とっても楽しそうに笑いながらこの屈辱的な拷問アイディアは完全な愉快犯によるものだと暴露。

 

 狛治はその愉快犯である篁にGJと思うべきか、余計なことすんなと怒るべきなのかを迷いつつ、とりあえず持ち前の優しさでこれだけは主張しておいた。

 

「それ、取りつけられる龍が可哀相じゃないですか?」

「何故、龍の方を庇う猗窩座ああっっ!!」

 

 当然、その優しさは無惨には向かない。

 使用済みの便所ブラシをいくつも体に括り付けられる龍に心底同情しながら狛治はそう訴えたが、鬼灯の答えは「仕事です。我慢してもらいます」という無情なものだった。

 

 便所ブラシをくくりつけられた龍が涙目に見えたのは、狛治の気のせいではないだろう。

 ついでに無惨の周りを旋回して回転するスピードが異常に早かったのは、間違いなく龍のヤケクソだ。

 

 

 

 * * *

 

 

 

「お次は、『赤銅弥泥魚旋処(しゃくどうみでいぎょせんしょ)』。

 ここは簡単に言えば、『輪廻転生などはないから、今世を好き勝手生きた方が得』といった考えを説いたり実行した者が堕獄します。

 呵責内容は、ここの高熱の銅汁の海に落とすこと。この海には鉄の魚や悪虫がいまして、魚は銅汁に漬かっていない罪人の上半身を噛み、下半身は銅の海で焼かれながら海中の悪虫に食いつかれます」

 

 今回の地獄では珍しく、無惨は自分が無実だの不当だのと言った主張をしなかった。

 だがもちろん、殊勝に自分の罪を認めて呵責を受け入れた訳ではない。

 ただ単に喚くのではなく、ブツブツと文句をつけているだけだ。

 その文句の内容がこちら。

 

「ないも同然だろうが。このような目に遭うのなら、それこそ生前は何の遠慮もするべきではなかったわ」

『遠慮なんていつした?』

 

 無惨の発言に三人は反射的かつ真顔で問うた。

 こいつの身の程知らず、自分を棚に上げた発言はもういつもの事だと思ってあまり腹が立たない領域にまで至っている三人だが、流石にこの「遠慮」発言は聞き逃せない。

 

 しかしこれまたクソムカつくことに無惨にとっては説明するまでもなく、周知されていて当然の事象という認識らしく、奴は「何故、そんなこともわからんのだ?」と言いたげな憐れみと蔑みを込めた困惑の表情を浮かべて、地面に簀巻きで転がされていても上から目線で言い放った。

 

「はぁ? 鬼をさほど増やさなかったことを、元は私もそうだったという懐古による慈しみと遠慮と言わず何と言う気だ?」

『……………………』

 

 こいつ、ただ単に自分がオンリーワンでありたかったから増やしたくなかったことを完全になかったことにして、棚上げしている。

 いや、なかったことにしているのではなく、無惨にとっては並行して存在していてもおかしくない動機なのかもしれないが、何にせよこいつの慈しみはもちろん遠慮も全く遠慮になっていない。

 

 なので、もう否定するのも無駄だし面倒なので、鬼灯は無言で無惨を銅汁の海の底に犬神家になるように頭から投げ入れた。鬼灯様、呵責内容が変わってますよ。

 

「……というか、無惨様が主張する遠慮をやめて、縁壱さん対策に人類を全て鬼にしたとしたら、仮に縁壱さんを殺せても青い彼岸花が見つからないのでは?」

「それどころか、炭治郎みたいに無惨以上に鬼として才能がある者を目覚めさせて下克上も有り得たことをわかってないんだろうなぁ」

 

 そして狛治と耀哉は無惨の頭無惨ぶりが酷すぎて、鬼灯のやっている事をスルーして無惨の更に頭無惨な所をそれぞれ突っ込んでいた。

 

 

 

 * * *

 

 

 

「ここは以前、マキさんやミキさんが一日獄卒体験を行った時にも紹介しました、『鉄鑊処(てっかくしょ)』ですね」

 

 まずは割と最近行ったイベントを引き合いに出してから、鬼灯はいつも通り地獄紹介。

 

「『たとえ殺人を犯しても、もしもその殺された人が天に生まれ変われるなら殺人は悪くない』と説いた者、つまりは『被害者の為にしてやった』という屁理屈で殺人を正当化する者が落ちる地獄です。

 ここではまず『平等受苦無力無救』という高温の赤銅が茹っている釜で茹でられ、『火常熱沸』というさらに高温の赤銅、『鋸葉水生』というさらに高温の赤銅、同じくさらに高温の赤銅が入った『極利刀鬘』、圧力鍋で更に高温にした……何故か急にお湯の『極熱沸水』、最後に『多饒悪蛇』という蛇入りの茹で釜という六つの巨大な釜で罪人をひたすらに煮ます」

「前半四つもいるか!?」

「そのツッコミはミキさんから既に頂いております」

 

 久々に自分が無罪だと図々しさが天蓋突破している発言ではなく、呵責内容自体に正論なツッコミが入ったが、鬼灯の言う通りそれはミキが既に突っ込んでいる。っていうか、獄卒たちも大体がそう思いながら亡者を煮てる。

 

「何でか知りませんけど、イザナミさんがそう設定しちゃったんですよね。この辺は本当にイザナギへの私怨というより、ただ単に疲れてたんでしょう。

 一応、それぞれの釜で茹でながら更に拷問を行ったりするのでバリエーションはあるんですけど、やっぱり前半四つが温度上がるだけは面白みがないですよね」

「別に面白みを求めて言った訳ではない!!」

 

 鬼灯が説明になっていない前半四つの謎を説明しつつ、それでもミキに引き続いて無惨からも突っ込まれたワンパタをどうにかしようと首をひねり出し、今更無惨は自分の突っ込みが藪蛇だったことに気付いたのか更に突っ込み返す。

 

「汚物では等活地獄の屎泥処と被るから、高濃度の塩水や酸、あとはキムチみたいな刺激物で煮るのはどうだろうか鬼灯殿」

「塩水や酸はともかく、キムチは獄卒の食欲を無駄に刺激しそうなのでやめた方が……。あと、辛い物が苦手な獄卒にとっても辛いでしょうし」

「酸も釜を酸に耐えられる素材にしないと無理なので、すぐに採用できるのは塩水ですね。……水分がすぐに蒸発しそうですから、もう塩に埋めて焼いた方が早いか?」

「あぁ。それもいいね。とりあえず、『極利刀鬘』ではカツラ(内側に刃物がついた、屈辱的なデザインなもの)を被せる前に、髪を毟り取るのはどうだろう?」

 

 しかし当然、突っ込みは遅いどころか何もかも無駄。鬼灯と耀哉は生き生きと新しい拷問内容を考え、狛治も内容には突っ込みを入れても止めやしない。

 とりあえず、耀哉発案の「カツラを被せる前に毟る」は鬼灯が即採用して、実行された。

 お館様は実にいい笑顔で、爽やかに毟ってくれました。

 

 

 

 * * *

 

 

 

「『血河漂処(けつがひょうしょ)』です。

 文字通り血の河に漂う地獄で、河の中に群れ成して住む丸虫が罪人に取り付いて焼き焦がされるのがここでの拷問です。

 落ちる罪状は、何度となく戒に違反しながら、『苦行すれば全ての罪は許されるのだからかまわない』と考え、自らの身体を傷つけるような苦行を行うこと。つまりは自分の罪はペナルティは受けたのだからで終わらせ、反省せずさらに罪を重ねるような者が堕ちる地獄です」

「鬼灯様、ここはどうこじつける気なんですか?」

「こじつけるな! お前らこそ、先ほどのかその前の地獄に堕ちろ異常者ども!!」

 

 これまた毎回恒例、無惨がクズ過ぎてむしろ犯していない罪状の地獄だったのでいつものように狛治が尋ね、無惨が突っ込む。

 

「無惨が自分の血を与えることで人を鬼にしていたことでいいのでは? 一応、血を与えることは自傷行為と言えるしね」

 

 そして理不尽の限りを尽くした無惨が理不尽な目に遭っているのを、耀哉は「ねぇねぇ、今どんな気分? どんな気分?」とでも言いたげに笑って見ながら雑なこじつけを提案。そして鬼灯はこれまた即時採用して無惨を河に蹴り落とす。

 お館様のご家族と隊士の皆さま、お館様は実に幸せそうです。もうそう思って放っておいてあげてください。

 

 

 

 * * *

 

 

 

「こちらは、『饒骨髄虫処(にょうこつずいちゅうしょ)』。

 

 落ちる罪状は……、今よりも良い世界ではなく、当たり前の人間界に転生することを望んで戒を破り、牛の糞に火をつけて自らの身を焼くこと」

「あるか!! というか、いるのか本当にその自傷行為でここに落ちた努力の方向音痴!!」

「向上心がないのは問題ですけど、そこまでやったのならむしろ人間界に転生させてやって欲しいのですが……」

「……イザナミ様、元のインド地獄の内容を直訳してろくに内容を確かめずに採用してしまったのかな?」

 

 今までの地獄でも訳のわからない罪状で落ちる地獄はあったが、その中でもトップクラスに意味不明かつピンポイントな罪状だったので、無惨の突っ込みに狛治どころか耀哉でさえも素直に同意を示すように、困惑の苦笑を浮かべながら疑問を口にした。

 

「癪ですが、努力の方向音痴はまさしくぴったりですね。

 もちろん、だいぶ前にこれは改定されてますよ。現在は周囲の同情やそれによる施し目当ての詐病や、生活保護の不正受給した者などが当てはまります。

 そしてここでの刑罰は、鉄の杵で打たれて蜜蝋のように体をどろどろのミンチ状にされ、前世の罪のために虫となって地獄に落ちた者たちと混ぜ合わされて肉の山となり、火をつけて燃やされること」

 

 もちろんこの合理主義な補佐官はとっくの昔に同じ突っ込みを入れて改定しており、その改定後の罪状と刑罰の内容を口にしたら、無惨は鼻を鳴らして這いつくばったまま胸を張って言い切る。

 

「ふん! なんにせよ、私には無関係だ! 私は常に自身の向上を目指し、努力し続けてきたのだからな!」

「その結果が、下弦解体に産屋敷邸でのレスバトル敗退からの爆散、浅草ニードルで拘束、逃亡手段に最有効な鳴女さんの殺害などですか……」

「改めて思い返すと、無惨様の討伐って無惨様本人が一番貢献してる気が……」

「悪口は自己紹介の法則をここまで地で行くのは、もはや奇跡だね」

「やかましいわ!!」

 

 しかしドヤ顔で言い放った自分の努力が見事に空回って裏目に出まくったことを、もはや感心の域に達した目と声音で指摘されて逆ギレする。

 耀哉の言う通り、こいつこそ努力の方向音痴に相応しいぐらいの自滅っぷりであることを獄卒たちも思い知りながら、無惨を杵で叩き潰した。

 

 

 

 * * * 

 

 

 

「『一切人熟処(いっさいにんじゅくしょ)』。

 邪教を信じ、天界に転生する為に山林や草むらなどに放火した者が落ちるとされていましたが、現在は宗教に限らず自分の価値感、いわゆる俺ルールをTPO問わずに貫き通すわ、他者に押し付けて圧制するわな者が該当します。

 ……で、またしても残念なお知らせですが、ここの刑罰は罪人の目の前で家族や友人など、かけがえのない人々が焼かれるのを見せ、精神的な責め苦を与えるものなんです」

「じゃあ、無惨を焼きながら無惨にふさわしい呵責を考えようか」

「お前はただ私を焼きたいだけだろ!!」

 

 最初の地獄と同じどころかそれ以上に無惨には無意味、何の責め苦にならない刑罰だったが、ここでも耀哉は即答。

 代替案はさすがに即座に出てこなかったが、それが浮かぶまで放置ではなく焼きながら放置を提案するので無惨が喚いて突っ込んで抗議するが、この時ばかりは声を荒げて耀哉は言い返す。

 

「失礼な! その程度な訳ないだろう!!

 焼くだけですますのはもったいないから、足先から薄切りして焼いていってその焼き肉を君自身に食べさせてやりたいぐらい思ってるよ!!」

「思うな異常者! 私でもそんな拷問を実施どころか考えたことないぞ!!」

「耀哉さん! そろそろ黙ってください! 炭治郎や胡蝶あたりがその発言知ったら泣く!!」

 

 どのあたりが失礼なのか、本当にそこまで思っている事を想定してほしかったのかと突っ込みたい願望を叫ぶ耀哉に無惨は本気でドン引き、狛治は涙目でストップをかける。

 流石に狛治に突っ込まれた事で耀哉も我に返って、深々頭を下げて言った。

 

「あぁ……、申し訳ない狛治。ついつい、大人げがないことを言ってしまった。

 君の前で食人を望むようなことは、無神経にもほどがあったね。誠に申し訳ない。心から謝罪するし、私の謝意と誠意が伝わらないのなら、君が望むことは何でもするから遠慮なく言ってくれ」

「それもありましたけど、そこじゃない。けどもうそれでいいので、とりあえずテンション落としてください」

 

 しかし元々、隊士たちの前でも本人的に自分の闇の深さを隠していたつもりはない為、耀哉の反省点は隊士たちのお館様像が砕ける言動の数々ではなく、狛治のトラウマを抉るような願望を口にしたことらしい。

 

 自分が涙目だった理由はそこが大きいが、ストップをかけた理由ではない部分を真摯に謝られた狛治はもう投げやりに開き直って、耀哉の上がり続けるテンションを抑えるよう念押し。

 だけど狛治の努力は、耀哉の願望を今度も採用した鬼灯によって台無し。

 

 けれど鬼灯もさすがに大事な部下のトラウマを抉りたくなかったので、無惨焼肉本人一人食べ放題は後日狛治がいない時にするとして、本日は無惨薄切り焼肉で手を打った。

 

 

 

 * * *

 

 

 

「お次は、『無終没入処(むしゅうぼつにゅうしょ)』。

 これもまた当初は、『動物や人間を焼き殺したものは、火を喜ばせたという理由で幸福を得られる』と考え、実行した者が落ちるという訳のわからないピンポイント罪状だったので、現在は躾と称した虐待や体罰、自分や自分に関わる者の評価を上げる為の他者を貶める行為、つまりはヘイトスピーチなどを当てはめています。

 刑罰は、燃え盛る巨大な山にまずは登らされ、手、足、頭、腰、眼、脳などに分解されてそれぞれが燃やされることです」

「鬼灯殿、鬼灯殿。西洋のおとぎ話の狼のように、無惨の腹に石を詰め込んでから登らせるのはどうだろうか?」

「お前こそこの地獄に落ちるべきだろうが、産屋敷!!」

 

 鬼灯の説明の後、彼の袖をクイクイと引きながら耀哉は目を輝かせてまた拷問内容をグレードアップ提案し、無惨はキレる。

 

「心外だね。私は別に君の更生なんて期待してないから、この提案は君の為ではないし、隊士(こども)達も優しいからこんな惨いことを望まないことも知っている。

 つまりは、純度100%私の願望で提案している事だから、私はこの地獄に該当しない」

「胸張って言う事か、それは!?

 間違いなく他の地獄には落ちること確定の自白したぞこの異常者!!」

 

 だが耀哉は無惨の言い分にニッコリ笑顔で穏やかに反論。本当に反論の内容がそれでいいのか、お館様。

 そう思いつつ、鬼灯は耀哉の提案を恒例採用して無惨の腹を裂く為のはさみを準備しながら、ボソリと呟いた。

 

「……無惨がここに落ちるのは、産屋敷や鬼殺隊を異常者扱いで、彼らの殺害や自身を正当化したことにしようと考えていましたが……、鬼殺隊はともかく耀哉さんに関しては無理ですね、これ。同意するのは業腹ですし、そもそもが自業自得ですが、耀哉さんが異常なのは隊士たちから見てもたぶん否定できない事実ですから」

「…………そうですね」

 

 鬼灯の独り言に同意しながら、狛治はその辺の業火に石を投げ入れて焼く。

 鬼灯が耀哉のアイディアを更に強化して、「焼き石を詰めるので準備をお願いします」と指示されたから、遠い目でそれを行いながら狛治は本気で鬼灯と耀哉は血縁があるのではないかと考え続けた。

 

 

 

 * * *

 

 

 

「『大鉢特摩処(だいはちとくましょ)』です。

 ここでの呵責内容は、花弁の中に無数の長い棘がある紅蓮華の花の中に落として、まずは全身串刺し。そしてその傷口から炎が吹き出すこと。

 

 またこれも『僧たちに食事を供する大斎の期間中に殺人をすれば望みが叶うと考え、実行した者』という、現代に限らず大半の方からしたら意味不明な罪状なんですよね。

 ようは他人の行動、特に善行などを利用して犯罪行為を行った者が落ちると考えてください」

 

 神道だった耀哉や、生前の環境から神仏を信仰していなかった狛治には、鬼灯が最初に言った罪状の内容がほとんど理解出来なかったが、現在の内容で大体は察してから無惨を眺める。

 

「まぁ、これもこじつける必要はない地獄ですね」

「こじつけ以前の問題だ! 私は善行に限らず他人を利用したことなどない! どいつもこいつも何の役にも立たなかった!!」

「……君の発想、本当に絶対に見習いたくないけどそこまで自分が悪くないと確信できる自信だけは、羨ましくないけど凄いと思うよ」

 

 狛治の率直な感想に無惨は噛みついて反論するが、その内容はまず「はぁ?」といいたくなる主張からの、天上天下唯我独尊を最悪の意味で体現する言い分だった。

 こいつの「利用してない」は、「使っても役に立たなかった」も入るらしい。

 

 その主張に狛治は言葉を失ってドン引きし、耀哉も怒りや嫌悪を飛び越えて、けれど感心もしたくないという非常に複雑な感情を持て余しながら、感想を呟いた。

 

「本当にあなたは、変わってゆけるのは自分自身だけだというのに、まったく進歩がないですね。

 そろそろ世界に打ちのめされて、負ける意味を知って紅蓮の花に内臓をぶちまけて咲き誇ってくださいよ」

 

 鬼灯はというと、何故か妙に詩的なのかどうかも微妙な言い回しで無惨を罵ってから、紅蓮華の中にダンクシュート。

 そのシュート後、「歌っても良かったのですが、伏字だらけのなるのもあれでしたので」と謎の呟きを漏らし、狛治と耀哉は首を傾げた。

 鬼灯様、第四の壁を壊しにかからないでください。

 

 

 

 * * *

 

 

 

「こちらは、『悪険岸処(あくけんがんしょ)』といいます。

『水死したものは那羅延天に転生し、永遠にその世界に住み続ける』という、どこだ? と突っ込みたくなる罪状でしたが、現在はシンプルに他者が自殺するように唆したり、堕落するよう誑かしたりした者が落ちる地獄です。犯罪行為への誑かしや唆しはまた別の地獄の管轄なので、そこを間違えないようにしてください」

「私は役に立たない者を更に堕落することを許すほど愚かではないわ!!」

「パワハラをここまで堂々と正当化するのか」

 

 耀哉がしたくないけど感心してしまうほど堂々と無惨はパワハラを正当化して、自分の無罪を主張する。

 そしてこれも毎度恒例、無惨がクズ過ぎるからこそ当てはまらない地獄なのでさて鬼灯はどんな雑こじつけをするかと思って見ていたら、鬼灯は「そうですね」と無惨の言い分を肯定した。

 

「確かにこの地獄は、あなたが傲慢短気どクズなパワハラの権化だからこそ当てはまりません。

 なので、あそこの山の向こうなら安全なので、そこで少し待っていてくれませんか? 次の地獄の準備をしますので」

「するな!」

 

 鬼灯が無惨の主張を肯定しつつ、無惨の足の縄だけを解いて近くの山を指さして指示を出す。

 無惨は言う資格はないが言いたくなる気持ちはわかる突っ込みを捨て台詞に、上半身は縛られたままだが最終戦で炭治郎が一瞬呆気を取られる程、躊躇のない綺麗な逃亡フォームで駆け出した。

 何故か妙に素直に、鬼灯が指示した山の方向へ。

 

 鬼灯の指示で全てを察した耀哉が、心の底から「マジでか?」と言いたげな呆れと憐れみとあれの子孫が自分であるという悲しみが入り混じった顔で無惨を見送ってから、せめて自分が思ったよりアホではないことを期待して縋るように、隣の狛治に視線を移す。

 だが、狛治もあれが元上司だという羞恥に襲われているのか、両手で顔を覆ったままこの地獄の刑罰内容を語った。

 

「……ここの刑罰は、獄卒たちが罪人に『あの大きな山を越えれば苦を受けることはなくなる』と言ってそこに向かわせ、山の向こうの切り立った崖に落として、崖下の石の刀に刺さって燃やされるというものなんです」

「……何故、学習しない?」

「あいつ、誰も信じてないくせに妙に素直なのはなんでしょう?

 自己中とナルシストを極めているからこそ、誰も信じてないけれど自分を騙す不届き者は存在しないという矛盾を本気で信じてるんでしょうか?」

 

 鬼灯もまさかここまで素直に信じるとは思ってなかったのか、ややポカンとした顔で疑問と憶測を口にする。たぶん、その憶測が正解である。

 

 

 

 * * *

 

 

 

「……えーと、『金剛骨処(こんごうこつしょ)』です。

『この世にある一切のものは因縁などとは関係なく生じたり滅したりするので、仏法を信じるなどばからしい』と説いた者が落ちます。これも現代に直して言うと、他者の道徳や良心による善行を嘲って否定や邪魔をすること、または自分が原因で他者を害しておきながら自分は無関係だと嘯くことが該当します」

 

 騙されたというかほぼ自爆しておきながら、先ほどの地獄に関して「よくも騙したな!!」と元気に叫ぶ無惨に、流石の鬼灯もちょっと引いて困惑しつつ現在地の地獄を説明する。

 

「これは私の所に来た時の無惨の主張そのままだね」

 

 耀哉の方は先ほどの無惨のアホっぷりに、一応は血縁者な所為で感じなくていい自己嫌悪に近いものを懐いていたが、今はテンションを復活させてウキウキである。

 ここでの呵責は「獄卒に刀で肉を削られ、金剛のように固くなった骨だけにされる。骨だけになっても罪人の痛覚はあるので、罪人に騙された者たちがその骨を使ってチャンバラする事」なので、無惨に騙された訳ではないが、「自分が原因で他者を害しておきながら自分は無関係だと嘯いた」という罪の被害者に耀哉は当てはまる為、チャンバラ出来るのが楽しみなのだろう。

 

 しかし無惨はここでも自爆。

 

「あの主張は最終的には撤回しただろう!」

 

 その発言に、耀哉は笑顔のまま肉を削ぎ落す為の刃物で火事場の馬鹿力を発揮し、無惨の頭を縦に両断。

 全ての元凶である善意の医者にやらかしたことを再現された理由を、無惨は頭無惨だからこそこれから永遠に理解できないだろう。

 

「違うそうじゃない託すな死ね違うそうじゃない託すな死ね違うそうじゃない託すな死ね違うそうじゃない……」

 

 張り付いた笑顔のまま、耀哉はブツブツ呟いてそのまま無惨の肉を削ぎ落し続ける。

 彼にとって、最後の最後で最も頑張ってくれた炭治郎が最悪の結果を引き起こしかねなかった置き土産、その原因の一端が自分の発言であることが何より大きな後悔と罪の意識らしく、それを図々しい無罪の主張に使われたのは最大の地雷だったようだ。

 

 隠し切れていなかったが一応は抑えていた闇が、無惨お迎え時と同じくらいフルオープンになったことで狛治は引くどころか本気で怯える。

 

「耀哉さん、こちらもどうぞ」

 

 そして同じくらい闇深鬼神はというと、耀哉の隣で肉を削ぎ落す道具として亀の子タワシを渡していた。

 狛治はこの瞬間、鬼灯と耀哉がソウルメイトだと確信した。

 

 

 

 * * *

 

 

 

「『黒鉄縄剽刀解受苦処(こくてつじょうびょうとうかいじゅくしょ)』。

 ここは『人間の行いの善や悪などはすべて因縁によって決まっており、変えられないのだから、あれこれ頑張ってみても無意味だ』と説いた者が落ちます。

 ここは先ほどの『金剛骨処』とその前の『悪険岸処』の罪状をコンボで決めた者が該当すると解釈していただけたら結構です」

「だとしたら、狛治が被害者に当てはまるな。特に最後の寿退社の時が。じゃあ、どうぞ」

「寿退社って何のことですか? あと、結構です」

 

 狛治が無惨の洗脳を解いて、猗窩座から狛治に戻る直前のパワハラを持ち出す耀哉に、狛治はまさか自分の脱洗脳が「嫁による退職届投げつけの寿退社」と呼ばれている事を知らずに困惑し、そして笑顔で差し出された呵責用の鉄の縄を受け取り拒否した。

 

「遠慮しなくていいのに」

「遠慮じゃないです。先ほどの拷問というか闇の深さによる精神的な疲労が後引いているんです」

 

 背後で無惨が「堕落するようには言ってない! むしろ働けと言っていた!」と、事実ではあるが別にそれで罪は軽くならねーぞな主張をし、鬼灯が金棒で黙らせるという光景が繰り広げられているが、いつもの事なので二人は軽やかに無視して会話を続行。

 拗ねた少女のようにちょっと唇を尖らせて耀哉は言うが、狛治は多少はやんわりだが正直に「お前の所為です」と主張して、無惨の呵責を拒否した。

 

「そうか。ごめんね。

 なら責任を取って、私が呵責するよ!」

 

 しかし狛治が拒否した意味、ほとんどなし。お館様を更に楽しませて、彼の家族や隊士たちに「どうしよう、この生き生きしたお館様……」と何とも複雑な感情を与えただけだった。

 

 呵責内容? 鉄の綱で縛られて、足から頭にかけて刀で細かく裂かれるってシンプルなものだから、すごく短く終わったよ。

 

 

 

 * * *

 

「はい、『那迦虫柱悪火受苦処(なかちゅうちゅうあくかじゅくしょ)』です。

 無惨が落ちる地獄です。以上」

「終わらせないでください!」

 

 過去最短の説明で鬼灯は終わらせ、無惨が説得力皆無の抗議や割と正論な突っ込みを入れる間もなく、奴の頭に大きな釘で刺して、地面に昆虫の標本のように縫い留めた。

 

 正直、他の地獄と違って元の罪状では意味不明、理不尽、ピンポイントすぎるものが多すぎるのがこの焦熱地獄で、説明が他の地獄より長くなってしまう事に面倒くさいと思っているのは確かにあるが、この投げた説明になった理由はそれだけではない。

 

「失礼しました。

 ここに落ちる罪状は、『宇宙にはこの世もあの世も存在しない』と説いた者というのが元なんですが、現在は宗教の自由という点から、犯罪行為に屁理屈をつけて正当化して反省しない者を対象としています。

 つまりは完全に無惨が落ちることが決定事項な地獄なので、要約しすぎました」

「それは納得できますけど、説明前にいきなり呵責を始めないでください。たぶん視聴者は困惑してますよ」

「そうだね。さすがに今のは性急すぎだと思うよ」

 

 狛治の方もこの地獄に落ちる罪は知っており、「この罪状で設定した際は、ここまで典型例にしてオンリーワン過ぎる極端な罪人がいるとは予想できなかっただろうな」と思っていたので、鬼灯の「説明これでいいや」という気持ちはわかる。

 だが、もちろん就職した獄卒相手ならこれくらいの雑な説明でいいかもしれないが、不特定多数の相手に見てもらう動画でこれはちょっと……と二人はやんわりと鬼灯を咎める。

 

「あれでは無惨も何が何だかわからないままだろうから、屈辱や不満も感じないと思うよ。あと、脳に釘を突き刺したら、自分の現状を感知しているかも怪しいから、不快な言葉を喚かないように口か喉辺りを貫通するように刺した方がいいと私は思うな」

 

 ごめん。咎めているの狛治だけだった。耀哉は無惨への呵責が甘いという指摘だった。

 当初と違って無惨の拷問に対する耀哉の視線にはもう娯楽に対する楽しげなものはなく、職人のように真摯なものに見えたのは、狛治の気のせいではないだろう。気のせいであって欲しかった。

 

「なるほど。ついつい他の亡者たちと同じ扱いで拷問を行っていましたが、やはり慣れで単純作業化してしまうのは問題ですね。

 ご指摘ありがとうございます、耀哉さん。もう既に虫が湧いてますので、虫たちが血を吸い尽くして肉を食い尽くして復活したら、それを実行させてもらいます」

「力になれたようで何よりだよ」

 

 鬼灯は鬼灯で、耀哉の指摘を真摯に受け止めて真面目に返答。こいつら、マジで魂の双子かもしれない。

 

 

 

 * * *

 

 

 

「『闇火風処(あんかふうしょ)』です。

『この世の法則には無常ばかりではなく一定不変なものもある』と説いた者が落ちる地獄なので、これもまた『嫌いなものは変化。好きなものは不変』とほざいていた、永久頭無惨なこいつが一直線に落ちる地獄です。

 刑罰はまず亡者は悪風に吹き飛ばされ、体が風の渦の中で回転し続けます。そして時折別の強風が吹くと体が砕かれて砂のようになりますが、すぐ再生して同じことのくり返しというもの。

 では、さっそく打ちますので狛治さん。無惨を私に向かって投げてください」

「私を野球の球扱いするな!! 第一、私は最後に変化を受け入れただろうが!!」

「……鬼灯殿。刀はないかい? 今なら私はヒノカミ神楽を舞えそうな気がするんだ」

 

 ある意味では本人が望んだ通り、学習能力皆無という不変さを見せつける無惨に呆れながら、またしても闇が出てきた耀哉が暴走する前に狛治は抱えた無惨を、金棒構えた鬼灯に遠慮なく投げつけた。

 

 無惨の突っ込み通り、見事に鬼灯は無惨をホームラン。風によって砕かれたというより、鬼灯にかっ飛ばされた空気の摩擦によって燃えて飛んで行った。

 

 

 

 * * *

 

 

 

「はい、ついに焦熱地獄最後の小地獄、『金剛嘴蜂処(こんごうしほうしょ)』です。

 ここに落ちる罪状は、『人間の世界は因縁によって生じたので、全ては因縁によって決定されている』という主張をした者」

「ん? それ、私が無惨に言ったことになるね」

 

 正確に言えば、本人に非がない被害も「前世の行いが悪いから」だと難癖付けたり、生まれなどといった努力ではどうしようもないことで起こった不幸に対して、「お前に原因があるんだろう」と筋が全く通っていない自業自得を言い張って責めたてる者が該当するのだが、確かに耀哉が無惨に語った「人の想いと繋がりによる永遠」、それによる「因果応報」に関しての話は大ざっぱにくくれば、ここの罪状に当てはまるかもしれない。

 

 その事に言った本人が真っ先に気付いて自分で指摘し、無惨はまさしく鬼の首を取ったかのような哄笑を上げる。

 

「はははははっ!! やっと貴様の異常者ぶりが裁かれる時が来たか産屋敷!

 そうだな! 貴様の言う通り因縁によって結果が決まるのならば、貴様の妻子も巻き込んで自爆という鬼にも劣るまさしく鬼畜の所業はどのような結果を招くのだろうな!

 そして夫や父に殺された妻子は、どのような罪を犯した結果だったのだろうなぁ!!」

 

 自分自身のみならともかく、妻子を巻き込みたくなど本心からしたくなかったであろう耀哉に、そこまでさせる程の憎悪の根源である無惨は、その自覚が本気でないからか、この時ばかりはその自覚があるからこその嘲弄なのか、ひたすらに耀哉の最期を嘲笑い、蔑む。

 

 ある意味では確かに覚悟を持って戦い抜いた耀哉の最期を、狛治は許容は出来ないが尊敬している。少なくとも、戦うことさえできなかった自分の人生と比べたら、羨ましいと思える潔く意義のある最期だった。

 その覚悟も意味も、出した犠牲に対する罪の意識も侮辱する無惨が、狛治の頭の中にある袋の緒を引き千切り、虎の尾は踏み潰されて、逆鱗は毟り取られた。

 

 しかしその怒りは、あの日のように爆発してぶつけられることはなかった。

 自分と同じくらいたくましい腕が、狛治の振り上げた拳を掴んで止めて淡々と告げる。

 

「狛治さん。今日はもう帰りなさい」

「!? 鬼灯様、何を……」

「あ、このはさみが呵責用だね。借りるよ」

 

 鬼灯が狛治を止めて、もう今日はこのまま直帰でいいといきなり言い出すので、完全にではないが無惨に対する怒りは鬼灯への困惑へと大部分が変換して、少し落ち着く。

 そんな少し落ち着いた狛治の耳に届いたのは、無惨の発言に全く動じずマイペースに拷問道具のはさみを借りる耀哉の声と……

 

 バチン!!

 

『……は?』

 

 勢いの良いはさみで何か硬いものを断ち切る音と、無惨と獄卒たちの何が起こったか理解できない困惑を極めた呆けた声が聞こえた。

 それらで狛治は、思い出す。

 この「金剛嘴蜂処」という地獄で行われる呵責の内容を。

 

「……あー、流石にこれは全部自力では無理だ。脳天から突き抜けるくらいに痛いね。

 で? これは食べればいいのかな?」

 

 ……獄卒がはさみで罪人の肉を少しずつちぎり取り、さらにそれを罪人自身に喰わせるという呵責内容をセルフでやろうとする耀哉がそこにいた。

 彼は自分で切り落とした左手首から先を拾い上げ、痛みで流石にびっしりと浮いた汗を残った右手で拭いながら、それでもやっぱりのほほんと微笑んで拾った手首を自分の口に持って行く。

 

「!? やめてくださいやめてくださいやめてください!! お願いですからやめてください!!」

「……耀哉さん。狛治さんのトラウマを全力で踏み抜かないで欲しいのですが」

「あ……ごめん。無惨の事になるとつい、視野が狭くなるな。

 狛治。大丈夫だから。私は自分でやったことだし、他者ではなく自分自身を食べようとしているし、何よりもこれは罰として行われている事なのだから、君は何も悪くない、気にしなくていいことだよ」

「お願いですからむしろあなた自身が気にしてください! 自分で躊躇なくしないでください!!」

 

 耀哉のセルフ呵責を狛治がマジ泣きで止め、こうなるとわかっていたから狛治を帰そうとしていたのに、思い切りが良すぎて行動が早すぎた耀哉を鬼灯はジト目で咎める。

 耀哉も先ほど以上に狛治の地雷踏みは申し訳なく思って、1/fの揺らぎを全力駆使して狛治を落ち着かせようとするが、未だに滝のように流れる左手首の血と右手に持つ手首から先が、説得力を壊滅させにかかって更に狛治を泣かせるわ、パニックにさせるわという大惨事。

 

「……最初からと言えばそうですが、これはもう完全に狛治さんのメンタルがヤバいのでここでの呵責、セルフカニバリズムは後日にしますか。

 とりあえず、私の短慮さが原因で起こった耀哉さんの風評被害は解決するでしょうし」

「私に似ている風評被害の方がマシなくらい、あいつは異常者ぶりしか発揮しなかったぞ!?」

 

 狛治に泣きつかれて治療を受ける耀哉を眺めて鬼灯が無惨に言うと、耀哉の否定できない異常者ぶりに怯えて慄いて硬直していた無惨が、周囲の獄卒たちも「……それな」と素直に同意する突っ込みを入れる。

 

「自分から脈絡もなく全力で曝け出すのは迷惑でしかないとわかっているから、普段は癒し系の変人なだけで、別にああいう闇の深さや報復に手段も選ばなければ神風特攻も躊躇しない思い切りの良さとか、耀哉さん自身はまったく隠していないのでいいんですよ。

 むしろ下手に優しくて穏やか、悪く言えば人を怒ることが出来なさそうな舐められやすい人だと思われるより、この素を周知させておいた方が本人や周りもお互いに幸福です」

 

 無惨の突っ込みを鬼灯はしれっと言い返す。フォローは一切していない。

 むしろあの1/fの揺らぎや洞察力による癒し系説得力のカリスマがなくとも、虚弱体質で力が弱くとも、間違いなく地獄にスカウトしたであろう素質を強調するのは、割と言葉通り耀哉と彼を甘く見るバカの為でもある。

 

 耀哉を見た目通りのか弱い子鼠だと思わない方がいい。彼は鼠は鼠でも、ペスト菌を保有している鼠だ。

 窮鼠猫を噛みを実行されたら、その毒が全身を廻って必ず息の根を止める。産屋敷 耀哉という男の本質はそういうものだと語りながら、鬼灯はシザーハンスのようなはさみを両手に準備。

 

「……待て。何する気だ?」

「あなた自身に食べさせるのは後日にするだけで、呵責を後日に回す訳ないでしょう。

 バラバラにしたこいつ自身は……せっかくですから不喜処にでも寄って不死川さんに動物たちのおやつとして渡します。今回の動画で胃を痛めそうな人筆頭ですから、そのお詫びということで」

 

 歪みないのが無惨で、躊躇がないのが耀哉なら、鬼灯は両方ない。

 無惨の「ふざけんなーっっ!!」という叫びは、鬼灯のシザーハンスが言い切る前に首を断ち切ったことで響くことなく消えていった。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 帰り道、「闇火風処」でふと耀哉は言った。

 

「そういえばここの罪状も私の主張では当てはまると思うのだけど、私も跳ばされて砕かれた方がいいかな?」

「あなたは地獄に落ちてもいいくらいの罪はあるかもしれませんが、あなたが呵責を受けると罪のない人たちの方がなんか精神的にダメージ入るので、悪いと思ってるのならむしろやめろ。大人しくしてろ。ドMか、実は」





前回の更新時点で鬼灯の最終巻が発売されてたけど、まだ手に入れてなかったので前回も今回も鬼灯の冷徹完結記念という訳じゃないです。
完結記念話は次回予定。

その次は鬼滅の映画公開記念で、無限列車のメンバー+鬼灯キャラの話を書く予定。
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