「鬼滅の刃」世界のあの世が「鬼灯の冷徹」世界だったら   作:淵深 真夜

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「原因は、暴投しているお前のアガペーだ」

 その日、新卒たちの賽の河原業務研修が行われた。

 

「本日は賽の河原の業務の研修です。

 現場での実技研修の前に、まずは皆さん『賽の河原』について、どれくらい知っていますか?」

 

 今年入って来た新人獄卒を集め、まずは鬼灯が尋ねてみるとほとんどの者が自信満々に手を上げ、いつものように鬼灯に付き従っていた狛治が、適当な者を指名して答えさせた。

 ちなみに手を上げていない正直者は、パッと見た限り茄子だけだった。

 

「はい! 親より先に死んだ子供が、親不孝者の罪として石を積む子供の地獄であり、俺達獄卒の仕事は、その石を崩すことです!」

「はい。今は石積みではなくジェンガになっていること、そして獄卒の業務に子供の世話も含まれていますが、まぁそれはいいでしょう。

 ……ところで、あなたは疑問に思いませんか?」

「え? えっと……な、何がでしょうか?」

 

 新卒の答えに鬼灯は淡々と補足しつつ肯定してから、訊き返す。

 自信はあったが、それでもまだ間違っている可能性は考えていた。しかしその指摘よりも予想外の返しをされ、獄卒はしどろもどろになって聞き返すと、鬼灯ではなく先程の問いで手を上げなかった茄子がしれっと言った。

 

「『親より先に死ぬ』ことがそこに落ちる条件なら、虐待とかで死んじゃった子もそこに落ちるのはおかしいってこと?」

「あ!」

 

 茄子の言葉に、横にいた唐瓜が声を上げる。

「システムとしてそういうもの」と、テスト勉強のようにただ暗記していただけだから気付けなかった、根本的な「おかしな部分」に、新卒たちはようやく気付いたのだろう。あたりがざわついている。

 そのざわつきを、狛治が手を2度ほど打って静かにさせ、鬼灯の代わりに話を続けた。

 

「茄子の言う通り、親より先に死ぬことは確かに最大の親不孝だろうが、病気や事故みたいに本人の努力で避けようがない原因はもちろん、ましてや親に殺された子供が『親不孝』はおかしい。

 

 そもそも、現代はともかく昔は子供なんて、『7つまでは神のうち』と言われる程に死にやすい環境だ。好きで死んだわけでもないのに、他の地獄と比べて遊びのような環境とはいえ、地獄に堕ちるのは刑罰じゃない。ただの理不尽だ。

 なら、何で『賽の河原』という子供の地獄が存在するか、考えたことがある奴はいるか?」

 

 今度の問いに、手を上げる者はいなかった。ほとんどの者が、恥じ入るように俯いている。

 そんな彼らを一瞥してから、鬼灯が淡々と語る。

 

「別に責めてはいませんよ。学校で教えられるものでも、採用試験などでテストとして出しているものでもありませんし。

 賽の河原業務を希望している方で、知らないし考えたことがないというのなら問題ですが、そういう訳でもないのでしょう?」

 

 幸いながら、鬼灯は新卒たちの勉強不足を責める気はなかった。

 賽の河原は不人気業務だということも、良く知っている。子供が嫌いや苦手な者はもちろん、罪人とは言えない、せいぜい腕白・おてんばレベルの子供に対し、彼らの努力を台無しにする役割なんて、グロ耐性持ちだからこそ罪人への肉体的な拷問より、自分の良心に刺さるこの業務の方が普通に嫌だ。

 

 そんな獄卒たちの心理をわかっているからこそ、鬼灯も狛治も新卒の賽の河原研修前にこのような説明の時間を取っている。

 なのでいつも通り、鬼灯は説明を続ける。

 

「まず最初にぶっちゃけますと、現在どころか昔から、賽の河原行きになる条件として、『親より先に死んだ』はほぼ無関係です。それと、病死や本人に非がない事故、虐待や殺人などによる死因の場合はもちろん、賽の河原行きにはなりません。

 そういった死因なら、よほどの問題が本人にない限り普通に転生か、前世がギリギリ天国にいけなかったぐらいに徳を持っていたのなら、天国行きになるかもしれませんね。

 

 現在、賽の河原にいる子供は、道路飛び出しによる事故死、食い過ぎなど食べ物をのどに詰まらせての窒息など、本人に非がある、親の言う事を聞かなかったから起こった死因の子供か、死因に非はありませんが地獄行きになるほど本格的サイコパスではなく、けれど転生させるには生前がわがまま三昧だった問題児などですね。

 ただこれも、親が早世したことで教育してくれる人がいなかった場合は情状酌量となり、結果的に賽の河原の子供たちは『親より先に死んだ子供』ばかりになるので、未だ世間一般では『親より先に死んだ子供が堕ちる』という勘違いが続いています」

 

 ここまでの説明で、新卒たちはまさしく目から鱗と言わんばかりに、両目をまん丸くして深々と頷いている。

 茄子も同じような顔をして、ちゃんと話を聞いている事を確認してから鬼灯は更に、「賽の河原」についての説明を続けた。

 

「だから、賽の河原は正確にいうと地獄とは違います。刑場ではないんです。

 子供に行うのは罪への罰、呵責ではなく、早死にしたことで生きている間に得られなかった、行われなかった、徳を積むための修業の場こそが、賽の河原となります。

 

 なので賽の河原での業務は、通常の地獄での業務とは大きく異なります。

 基本的に、子供を傷つけてはいけません。アホないたずらや悪ふざけ、舐めた口を叩いた時に躾としての鉄拳制裁はともかく、彼らに行う呵責は積み石……今はジェンガですが、それを崩すことのみです」

 

 長い前提の知識としての講釈を終え、鬼灯は賽の河原の業務に関して一番注意しておくべきことの説明に入る。

 

「子供たちは修行として積み石(ジェンガ)を行っているので、石を崩されるのを防ごうとこちらに立ち向かって来ても、それは他の地獄の亡者と違って反乱と考えるべきではありません。

 自分の努力を台無しにする理不尽への奮起と言えるので、そういう場合は暴力で解決するのではなく、大人として全力で暴力以外、知恵を駆使してその反乱を制圧し、石を崩しなさい」

「鬼灯様。新卒たちのハードルを爆上げしないでやってください。

 とにかく、いつも通りの呵責でいいと思うな。ここにいるのは、幼さゆえの短慮さや無謀さで命を落とした子供だ。そんな形での親不孝は罪かもしれないが、お前達が普段している呵責をされるほどではない事くらいはわかるだろう?

 その事を頭に入れて、決して忘れるな」

 

 普段は「亡者に遠慮はするな。少しでも逆らったら即殺れ」を基本に教え込まれている獄卒達に、賽の河原はそうでないことを改めて伝えておくのは確かに重要だが、やっぱり鬼灯には厳しさしかなかった。

 新卒には大分荷が重いことを命じ、狛治が突っ込みを入れつつ指示を訂正してハードルを下げてくれたので、新卒たちはホッと安堵の息を吐く。

 

「それでは、他に何か説明はありますか?」

「は~い、鬼灯様」

 

 とりあえずしなくてはならない説明は終えたので、締めくくりとして鬼灯が尋ねると、真っ先に手を上げたのは茄子だった。

 そして彼は、鬼灯に発言許可が出される前に質問を口にした。

 

「あのでかくて白目むいてる坊さんみたいな人は、何で泣いてるんですか?」

「新卒のやる気に満ちたフレッシュな雰囲気に感動してるんじゃないですか?」

「もしくは、怯えてる新卒を案じて泣いてるな」

 

 茄子を咎めず、鬼灯は投げやりな即答をする。

 そしてもう一つの可能性を狛治も口にしてから振り返り、新卒たちが話をちゃんと聞きたくても集中しきれなかったであろう元凶に言った。

 

「行冥。頼むから泣き止んでくれ。新卒が困惑して怯えている原因は、間違いなくお前だ」

 

 他の新卒たちは知らないが、とりあえず茄子と唐瓜は泣いている不審者としか思えない亡者の獄卒が鬼殺隊であることを確信した。

 確信した理由は、今まで会って来た隊士たちと負けず劣らずの変人具合だからというのは、流石にどうよと思いながら。

 

 

 

 * * *

 

 

 

「はじめまして。私はここ、賽の河原の獄卒で子供への呵責と世話を行っている、悲鳴嶼 行冥です」

 

 鬼灯たちの説明が終わり業務研修が始まると、新卒たちはそれぞれ指示された業務を行うか、賽の河原の先輩獄卒に質問をしたり、指示を仰いだりしているのだが、悲鳴嶼は明らかに新卒たちから避けられていた。

 避けられる理由は、まぁ語るまでもなく説明中の奇行と言える、静かな号泣だ。

 

「よろしくお願いしまーす! ところで、悲鳴嶼さんって鬼殺隊? 煉獄さんとか伊黒さんって知ってる?」

「いきなり仕事と無関係なことを訊くな馬鹿!!」

 

 そんな避けられまくっている悲鳴嶼に、自分から寄って行ったのも言うまでもなく、茄子と唐瓜だ。正確に言うと、積極的に寄って行ったのは茄子だけで、唐瓜は未だ若干引いている。

 が、茄子と同じく唐瓜も悲鳴嶼が鬼殺隊であることをほぼ確信している為、奇行に引きはしても怯えてはおらず、本心では茄子と同じ好奇心と疑問を懐いていた為、彼は幼馴染を叱りつつも悲鳴嶼の答えに期待した。

 

 そんな唐瓜の期待にも気づいているように、そして自分を恐れずに話しかけてくれたこと、自分を知りたいと思ってくれたことを喜ぶように、悲鳴嶼は微笑む。

 同時にその喜びを落涙でも表現する為、唐瓜だけではなく茄子にもまた引かれたが。

 

「はい。煉獄や伊黒と同じく、私は鬼殺隊最後の世代の柱の一人、岩柱を務めていました」

「おー、やっぱり柱だったのか」

「めちゃくちゃ強そうですもんね」

「実際、その人は当時の柱最強で、歴代でも縁壱さんという規格外を除けば最強格の一人ですよ」

「そうですね。俺は未だに手合わせでほとんど勝てないし、鬼だった頃でも負けてたかもな」

 

 悲鳴嶼の答えに二人が納得していると、鬼灯が補足を加えて、狛治もその言葉を肯定しながら、事実と自分の感想を笑いながら零し、聞いてた小鬼たちを驚愕させた。

 人間に戻っている今現在の狛治ならまだしも、無惨の鬼だった頃でも勝率があったのなら、そりゃ文句なしに鬼殺隊最強格だろう。

 

 縁壱に関しては忘れろ。彼を比較対象に入れると、基準や平均がバグる。

 

「悲鳴嶼さん、すげぇ! 岩属性とか筋肉モリモリの大男とか、かませの条件が揃ってるのに最強なんて……」

「「失礼すぎる感心をするな!!」」

 

 茄子の正直すぎる感想に、唐瓜と狛治が同時に突っ込み、唐瓜に至っては後頭部に拳もぶち込んでおいた。

 そしてそのまま幼馴染の頭を無理やり下げて、「すみませんすみません!!」と平謝り。

 幸いながら悲鳴嶼は、創作物におけるかませキャラのテンプレを知らないのか、茄子の発言に不思議そうな顔をするだけで、まったく怒っていなかった。

 

「? 意味がよくわからないが、気にしなくていいですよ。

 それより、そろそろ研修を始めましょう」

「あ、その前に悲鳴嶼さん、一つだけ教えて下さーい」

 

 小首を傾げながらも快く無礼千万な発言を許し、業務に取り掛かろうとした悲鳴嶼に、茄子は唐瓜の手が自分の頭から離れた瞬間に勢いよく顔を上げ、まったく懲りずに言い放った。

 

「悲鳴嶼さん、何で地獄の刑場じゃなくて賽の河原(ここ)の獄卒なの?」

 

 唐瓜が慌てて茄子の口を塞ごうとしたが、それより先に出てきた言葉は幸いながら失礼発言ではなく普通の疑問だったので、唐瓜は安堵しつつ答えを待った。

 彼も答えを聞く体勢に入ったのは、「当時の鬼殺隊最強」という鬼灯からの情報がなくとも、茄子だけではなく唐瓜にとっても普通に疑問だったから。

 

 2mを超える身長と、小鬼とはいえ決して貧弱ではない唐瓜たちのウエストくらいはありそうな腕の太さからして、力仕事、拷問という業務の方が、明らか悲鳴嶼には天職だ。

 なのにジェンガ崩しと子供の世話という、そのフィジカルをほとんど生かせないどころか、初めに鬼灯たちが説明したように、問題児寄りではあるが決して悪人や罪人ではない、普通の子供に嫌われまくるという、ぶっちゃけ不人気部署上位である賽の河原の獄卒であることを、疑問に持つのは当然だろう。

 

 が、茄子のその質問に、鬼灯と狛治は「あ」と声を上げた。

 明らかに、地雷を踏んだ者に対する「やっちゃったー」的な反応だった。

 

 そんな上司二人の反応に、唐瓜だけではなく茄子も戸惑う。悲鳴嶼が答えず、沈黙という反応もまた、彼らの戸惑いと不安に拍車をかける。

 そんな後輩たちと悲鳴嶼を思ってか、狛治が気まずげだが「行冥がここの獄卒なのは……」と説明を試みるが、沈黙していた悲鳴嶼が手で狛治を制するようにしてから、彼は自分で答えた。

 

「……贖罪……いえ、これは欺瞞ですね。私のしている事は、自己満足にすぎません。

 私は、子供が好きです。ですが、生前の私は子供に対して、あまりに酷い思い込みをしていたのです。

 その罪を、十王たちは『罪ではない』と言ってくれましたが、私は自分自身を許すことが出来なかった。……だから私は、犯した罪と同じことをすること……、子供にとっての理不尽と不条理そのものになることで、彼らの業を雪ぎ、徳を積む手伝いをしています」

 

 悲鳴嶼の答えは小鬼二人の疑問を深めるだけだったが、肝心の自分で語ろうと決めたはずの悲鳴嶼は涙腺崩壊してしまい、彼を泣き止ませるのは狛治に任せ、鬼灯が「結局こうなったか」と言いたげな溜息を吐きつつ、また悲鳴嶼の奇行に引いている二人に説明した。

 なお、狛治が悲鳴嶼に手ぬぐいを渡して「行冥! お前は悪くない!」と説得すると、悲鳴嶼はその優しさに感激してまた泣いた。放っておいた方が良かったかも。

 

「はぁ……。この人、生前は子供に対して疑い深いというか、人間不信気味な所があったんです。

 その原因は、鬼殺隊に入るきっかけ。自分の寺で養っていた孤児たちが、無惨の鬼によって殺されたという事件です」

「え? 何でそれで子供を信じられなくなるんですか?」

 

 鬼灯の説明では因果関係が理解できなかったので、率直に唐瓜が尋ね返すと、鬼灯は一度視線を地獄の刑場……大叫喚地獄の方へ向けてから、詳しく語ってくれた。

 

「養い子の一人が寺の金を盗み、その事を知った他の子供がその子供を寺から追い出しました。悲鳴嶼さんが知ったら悲しむと思い、彼には黙ったまま。

 そして追い出された子供は無惨の鬼と遭遇し、自分を見逃す代りに悲鳴嶼さんと寺の子供たちを差し出し、寺に侵入する手引きをした為、夜中に悲鳴嶼さん達は鬼に襲撃されました。

 

 子供たちはパニックになりつつも、武器を取ってこようとしたり、助けを呼ぼうと行動に移しましたが、それはどれも叶わず鬼に食い殺されます。

 悲劇的なのが、見ての通り悲鳴嶼さんは盲目で、普段は他の感覚で完全に視力を補って、下手したら目が見えている人よりも察しが良いくらいなんですが、その時は彼も極限状態だったのに加え、鬼の侵入を手引きした者がいることを鬼自身が暴露した為、他の子供たちの行動の意図を読み違え、自分が頼りにならないと子供たちは判断したから、自分の指示を無視して、勝手に逃げようとしているように解釈してしまったのです。

 

 トドメに、唯一生き残った最年少の少女は夜が明けて、助けに来た者達に泣きじゃくりながら、『あの人が皆を殺した』と証言したことで、悲鳴嶼さんが子供の惨殺犯だと勘違いで投獄されてしまい、これを機に子供がトラウマになってしまいました」

「……私は、沙代を信じてやれなかったのです」

 

 もはや過去を思い出して泣いているのか、狛治の優しさに感涙しているのかわからなかった悲鳴嶼が、急に泣き止んで話に参戦して来た。

 唐瓜と茄子はその唐突さに面食らうが、鬼灯や悲鳴嶼を宥めていた狛治は無反応。

 

 これは彼らにとってはわかり切っていた反応だから。

 泣くことも出来なくなるほど、彼にとっては自分を許すことができない罪そのものであることを、彼らは知っている。

 

「彼女の言う『あの人』は、鬼のことだった。

 鬼を夜明けまで殴り潰し続けた私を恐れたのではなく、あの子は必死で私を庇ってくれた。私の無実を訴えてくれた。私が望んだ感謝をあの子はくれていたというのに……、私は気付けなかった。

 私は沙代が私を恐れ、保身で、私を化け物呼ばわりして見捨てたと被害妄想し、恨んでいたのです。そのことを私は死ぬまで……死後の裁判時まで、気付くことが出来なかった……」

 

 鬼に殺された子供達とは、自分が死んだことですぐに再会し、誤解を解いて和解することができた。

 けれど沙代とは、沙代が生きてくれていたからこそ、彼女が死ぬまで悲鳴嶼は謝ることが出来なかった。

 長生きしてほしかった。その願い通り、沙代は子や孫に恵まれて、長生きしてくれた。

 だけどその分、彼女は苦しみ続けた。自分の足りなかった、拙かった言葉の所為で悲鳴嶼が投獄されたこと。そのことを謝ることが出来なかったという罪悪感を、背負い続けた生涯だった。

 

 沙代は20年ほど前に天寿を全うした事で再会し、両者ともに号泣しながら謝罪し合って和解しているが、沙代が許してくれても悲鳴嶼自身が許せなかった。

 自分が守った幼子に、自分を守ろうとしてくれた優しい子に、長年負う必要がない罪悪感で苦しめ続けたことは、今も許せない己の罪。

 

 だからこそ、彼は鬼殺隊となる前のように子供を純粋に慈しみ、信じられるようになったからこそ、賽の河原という、あの世の中でも特殊な位置にある部署の獄卒になることを望んだ。

 子供を慈しんでいるからこそ、彼にとってここの業務、子供の世話はともかく、ジェンガと言えど子供の努力を踏みにじることは、子供より自分自身に対する拷問。

 

 狛治が十王から「無罪でよくない?」と思われていても呵責を望んだように、彼も優しく真っ当だからこそ、自身を痛めつけるようなことをしないと、それこそあの世でも生きて行けなくなるということは、もう語られるまでもなく唐瓜にも茄子にも理解できた。

 

 だからこそ彼らは、悲鳴嶼のことを言えないぐらいにボロボロ涙を零し、必死に言葉を探す。

 今更でも、少しでも悲鳴嶼の罪悪感が薄れるように。この優しい人が、自分を責めぬ方法を模索した。

 

「ひ、悲鳴嶼さんも、その沙代って子も悪くないですよ! 間が悪かっただけで、誤解が解けたのならそれ以上、悲鳴嶼さんが自分を責め続ける方がきっと、その子は悲しみますよ!」

「そうだよ! 悪いのは金盗んだあげくに鬼を手引きした奴だけなんだから、もう今からそいつを呵責しに行こうよ!!」

 

 唐瓜が月並みだか精一杯の言葉をかけ、茄子がそれに同意して、話の中で鬼以外の戦犯をやり玉に挙げる。

 これに関しては唐瓜も同意見だったが、悲鳴嶼は「気持ちは嬉しいが、それはちょっと……」とやんわりだが茄子を止めた。

 

 悲鳴嶼にとっては、金を盗まれても、惨劇の元凶と言っていい裏切り者であっても、その子も他の子供と同じく大切な養い子だったから、呵責を実行するのはもちろん、未だに責める気にはなれないのかと二人は思ったが、すぐに彼らは違和感に気付く。

 

 止めた悲鳴嶼が、豪快に見えていないはずの目を逸らしている事がまず第一の違和感。

 そしてその違和感に気付くと同時に、狛治と鬼灯も同じく豪快に自分たちから目を逸らして明後日の方向を見ているにも気づく。

 さらに言うと悲鳴嶼と狛治は気まずげな、何とも言えない表情をしており、鬼灯はいつも通りの無表情だが、彼は目を逸らしているというより、顔ごと別方向を向いてどこか遠くを眺めていた。

 

 っていうか、目を逸らしている二人も視線を向けている方角は、鬼灯と同じである。

 

 小鬼たちもポカンとしながらそちらに視線を向けると、鬼灯はやはり明後日の方向……大叫喚地獄の吼々処(くくしょ)の方角を眺めながら言った。

 

「参加したければ、あとでご自由にどうぞ。

 たぶん今日も元気に、桑島さんがしばき回してますから」

「いんのか! あっちに! っていうか、桑島さんって誰!?」

 

 やらかしたことからして、茄子が言うまでもなく堕獄しててもおかしくなかったが、何故か初耳な人に呵責されている事も告げられて唐瓜が反射で突っ込むと、鬼灯はやはり無表情でしれっと答えた。

 

「善逸さんの育手……雷の呼吸の師匠の方です。善逸さんの兄弟子なんですよ、悲鳴嶼さんの悲劇の元凶の阿呆は。

 ちなみに堕獄の理由は悲鳴嶼さんの件だけじゃなくて、他にも色々ありますが、最大の罪状は鬼殺隊を裏切って無惨の鬼になったことですね」

 

 鬼灯の情報量が多すぎる返答に、唐瓜も茄子も困惑していたが、やはり吼々処の方をチベットスナギツネみたいな目で眺めていた二人が呟いた言葉で、二人はもう深く考えることをやめることにした。

 

「……確かつい最近、桑島殿は樒様に尻たたきのコツを伝授してもらったらしいから、獪岳の尻が心配だ。いい加減、素直になって私はともかく我妻隊士に謝るのが、呵責を終わらせる一番の早道だとそろそろ気付いたらいいのだが……」

「……残念だが、まだ無理そうだな。……樒さん直伝の尻たたきはもう諦めて、それよりも天元が悪ノリして渡していた太鼓のばちが有効活用されていないことを祈ろう」

 

 狛治の祈りに思わず小鬼たちの目もチベスナ化したのは、言うまでもない。

 

 * * *

 

「はい。獪岳さんの尻がフルコンボで腫れ上がるのはもう決定事項ですから、心配せずにそろそろ仕事をしましょう」

 

 どこか遥か遠くにやっていた4人の精神を、鬼灯が身も蓋も獪岳に対する一分の情けもなさすぎる発言で戻して来て、仕事するように軽く叱責する。

 正論だが、獪岳に心配はしてやれ。なんで諦める方向で「心配せず」と言ってるんだ、この鬼は。

 

 そんな事を4人も思っていたが、実際に今更心配しても手遅れであろうことは、桑島とも獪岳とも面識ゼロの小鬼たちすら想像がついていたので、改めて二人は悲鳴嶼に「よろしくお願いします」と頭を下げた。

 

「そうですね。それでは……もう他の方々はそれぞれ、ジェンガ崩しなどの業務についているようですから、私たちはサボっている子供がいないか辺りを見回りましょう」

 

 悲鳴嶼も小鬼たちの言動で何とか気を取り直したのか、穏やかに笑って指示を出す。

 そんな3人に、「では、私たちもご一緒しましょう」と鬼灯は言い出し、狛治も返事をしてついてゆく。

 結局一緒に行動するのは、普通に鬼灯たちも業務として、子供ではなく獄卒達の様子を見回る必要があったからはもちろんなのだが、たぶん色んな意味でこの三人が心配だったのも多大にある。

 

「そういや、悲鳴嶼さんって性格的にも、真実知ったことで新たに生まれたトラウマ的にも、ここの業務って出来てるの?」

 

 そんな鬼灯と狛治の心配要素その1である茄子は、相変わらず人が言いにくい、聞きにくいことも躊躇わずズバッと口にする。

 実年齢はおそらく茄子たちの方が上とはいえ、獄卒としてはかなりの先輩であり、現在進行形で指導してくれている悲鳴嶼に対して、「仕事は出来るのか?」なんて無礼極まりない発言だが、これは正直言って唐瓜も狛治も責められなかった。

 

 だって現に悲鳴嶼は、他の先輩の指導の元で新卒にジェンガを崩された子供を見て、ボロ泣きしている。

 

「見ての通り、出来てるけど出来てませんよ」

 

 心配要素その2のいつも通りな奇行を一瞥してから、鬼灯は矛盾したことを言い出す。

 しかし彼も言っている通り、悲鳴嶼を見ればその発言は矛盾してないことが一目瞭然だ。

 

 どう見ても子供は、自分の努力を台無しにした鬼よりも、なんかいきなり泣き出した悲鳴嶼に怯えている。

 ジェンガを崩された直後は、子供らしく癇癪を起してジェンガを崩した獄卒に向かい、悪態をついて崩されたジェンガを投げつけようとしていたが、悲鳴嶼に気付いた瞬間、「ひゅっ!?」と息を呑んで、そのまま青い顔色でジェンガを拾い集め、大人しく積み上げ始めた。

 

「正直、私も皆さんと同じように、体格や戦闘能力的にも刑場の獄卒が向いていると思い、そっちにこの人が欲しかった。性格的にも、いくら贖罪とはいえ子供に理不尽なことができるとは思えなかったので。

 ……ですが、何かただそこにいるだけで子供がビビりまくる逸材だったので、今では必要不可欠な人材です」

 

 泣きつつも子供を宥めようとしていた悲鳴嶼は、さっきまで悪態をついていた獄卒の方にしがみついて、「なにあれ! 怖い!!」と泣きつく子供にショックを受ているのは、その哀愁漂う広すぎる背中で一目瞭然だ。

 それでも悲鳴嶼はやはり子供だけではなく、善良な者、真面目な者も心から慈しんでいるから、ものすごく気まずそうな新卒に「……とても崩し甲斐のある出来でしたなど、フォローを入れてやりなさい」と、子供を思っていることはかろうじてわかるが、それ以外が割と意味不なアドバイスを送っていた。

 

 子供をビビらすだけではなく、本気で誰も意図せずに他の獄卒と悲鳴嶼とで飴と鞭みたいになって、悲鳴嶼一人が子供たちのヘイトタンクになり、他の獄卒があまり子供の不満を向けられないという、賽の河原の平和の大きな要因になっているのは、悲鳴嶼としても本望なのかもしれないが、かわいそうすぎる。

 

 ただ幸いなことに、悲鳴嶼は生前と同じく同僚に恵まれていた。

 自分たちにとって嫌な部分を悲鳴嶼に全部押し付けるのではなく、少しでも彼が贖罪ではなく、ただ心穏やかにしたいことができるようにと思って、研修生を指導していた獄卒は苦笑いしながら伝える。

 

「あー……悲鳴嶼さん。さっき、向こうで救世主を見かけたから、そっちを頼むわ。たぶん、またあいつサボってるから」

「! わかりました。今すぐに向かいます」

「「救世主?」」

 

 獄卒の言葉に、悲鳴嶼はしょんぼりした空気が消え、わずかではあるが嬉しげな空気を纏うのは良いが、小鬼たちは唐突かつ意味不明すぎる単語をオウム返ししながら、首を傾げる。

 狛治の苦笑いは、わかりやすい悲鳴嶼に対してか。それとも小鬼たちの当然の疑問に対してか。

 どちらにせよ、とりあえず彼は懐いて当然の疑問に答えておいた。

 

「あだ名だ。つい最近、賽の河原にきたらしい子供のな。本名が木村……瑪紫愛(メシア)なんだよ」

 

 二人の疑問は氷解したと同時に、「あぁ……」と何とも言えない声が出た。

 その声音に含まれた感情は同情なのか、「最近の若いもんは……」的な感情なのか、それとも自分の黒歴史的な何かが疼いて共感性羞恥を発症しているのか、それは本人たちにもよくわからない。

 

「はい。食べ過ぎによる不幸な事故で亡くなった子供で、根は良い子ですがかなりの腕白で、反骨心がとても強い子です。

 私のことを他の子同様に恐れていますが、けれどいつも勇気を持って立ち向かう子なので……、問題児と言えば問題児ですが、環境や周囲がまともであればちゃんとその問題は修正され、頼りがいのある良き大人になると確信できる……そんな元気な子です」

 

 唐瓜と茄子だけではなく、狛治と何なら鬼灯も懐くアレな名前に対しての感情に気付かず、悲鳴嶼は言われた方向へ向かいながら、瑪紫愛という子供について語った。

 同僚がフォローのようにその子供を任せたのも、悲鳴嶼が何だか少し嬉しそうなのも、その説明でわかったので、唐瓜は狛治と同じようにちょっと微笑ましげな苦笑を浮かべた。

 

 贖罪の為だけではなく、本音で言えばただただ子供と関わりたいからこそ、賽の河原の獄卒に悲鳴嶼はなったのだろう。

 それぐらい子供が好きだから、恐れられていても立ち向かうという形でも、自分に関わってくれる瑪紫愛を悲鳴嶼は好ましく思っているのが、誰から見ても明らかだった。

 

 しかしその好意は自身の一方通行であることを本人がちゃんと理解できている為、悲鳴嶼は歩きながらまたちょっとしょんぼりしだして、そのことを悩みだと言って語りだした。

 

「私にとってはとても好ましい子ですが……、私は瑪紫愛にとても嫌われていまして……。

 自由時間になれば私に話しかけてくれたり、遊んで欲しいと言ってくれる子供もいるのですが、瑪紫愛は自由時間こそ私を倒す時間だと思っているのか、最近では他の子供達なども味方につけて『れじすたんす』? というものを結成し、他の獄卒の皆さんにも攻撃的な所が最大の悩みです」

 

 どうやらジェンガ崩し中の奇行が、やたらと引かれて怯えられている悲鳴嶼だが、子供全員から四六時中避けられまくっている訳ではないことに、小鬼コンビはちょっとホッとする。

 そして初めからそこらへんは知っている鬼灯と狛治はスルーして、悲鳴嶼の軽い愚痴兼悩み事に関しての答えた。

 

「多分それも一種の甘えだろう。試し行為という奴だから、悩み過ぎずやりすぎなら叱ってやれ」

「そうですね。なんなら、このリーサルウェポンをお貸ししましょうか?」

「鬼灯様、その注射しまってください」

 

 いきなり対子供への最終兵器を鬼灯は取り出して、悲鳴嶼に押し付けようとしたので、狛治が鮮やか即座に却下して仕舞わせた。

 その事に感謝しつつ、けれど狛治のアドバイスを素直に受け取ることが悲鳴嶼にはできなかった。

 

「いえ、甘えというより本気で彼は私が気に食わないようです。

 まぁ、仕方ないでしょう。彼は名前からして、おそらくは仏教ではなく基督(キリスト)教を信仰しているのでしょうから」

『……ん?』

 

 悲鳴嶼の言葉に、狛治だけではなく唐瓜と茄子、そして鬼灯も困惑の声を上げる。

 どうやら、悲鳴嶼は瑪紫愛の名前をそのまま受け取りすぎて、彼が自分を毛嫌いするのは信仰する宗教が違うからだと思っているようだ。

 

 その事を4人は理解し、悲鳴嶼に「由来や将来のことを考えず、ペット感覚で子供に名前を付ける親」の存在を教えてもいいのだろうか? と悩むのだが、悲鳴嶼は大真面目に瑪紫愛のことを考えて、尊重しているからこそさらに悩んでまた泣き出したため、彼らの困惑や迷いに気付かず、そのままなんかズレた答えを出して鬼灯に頼み込む。

 

「鬼灯殿……基督教の聖人や天使を、賽の河原に招くことは出来るだろうか?

 私なりに基督教について調べ、瑪紫愛の名前の由来は素晴らしいこと、ここは日本だから神や仏の世界だが、いつかきっと瑪紫愛が信仰する神にも会えることを伝えていたのだが、やはり仏教徒の私では説得力がないのか、いつも『訳のわからないこと言うな! 名前を連呼するな!』と怒られてしまうので、いつかはあの子の信仰に関わる者と会わせてやりたいのですが……」

「そりゃ怒りますよ。っていうか、全力で怒らせにかかってますよ」

「行冥、それだ。嫌われている原因は、宗教の違いじゃない。宗教は欠片も関係ない。原因は、暴投しているお前のアガペーだ」

 

 悲鳴嶼の悩みと、彼なりに努力して起こした行動を語れば、鬼灯は呆れきった顔で突っ込み、狛治は瑪紫愛に同情しているような目で指摘する。

 どう考えても、嫌われている理由は彼のコンプレックスであろう名前を常日頃連呼して、明後日の方向のフォローでまた更に瑪紫愛の名前コンプレックスを刺激しまくっているからだろう。

 

 * * *

 

 狛治がかなり的確に突っ込みを入れてくれたのだが、悲鳴嶼は信仰に篤い僧であったことに加え、子供の将来も常に思いやっている善人だからこそ、将来的に苦労しか掛けないであろう名前を軽い気持ちでつける親の存在が心から想像できず、だからこそ狛治の突っ込みにも鬼灯の納得にも小鬼たちの呆れも理解できず、首を傾げた。

 

 そして悲鳴嶼がそんな浅薄な親の存在を知ったら、また子供を憐れんで号泣するのがもう本日初対面の唐瓜たちでもわかっていたので、4人は理解させることを諦めた所で、茄子が急に「あ!」と声を上げた。

 

「どうしたんだよ、なす……あ!?」

 

 幼馴染の声に唐瓜が真っ先に反応して尋ねるが、彼も茄子の視線の先に目をやって気付く。

 同時に鬼灯と狛治、そして盲目の悲鳴嶼さえ気づいた。

 

「!? 瑪紫愛!! 何をしている!?」

 

 子供を少しでも怯えさせない為か、口調も声も穏やかだった悲鳴嶼が怒鳴るように叫ぶ。

 その叫びに、歳のわりにがっしりした体格の子供が振り返り、子供らしくぷくぷくした顔を不満そうに歪ませて、「げっ! 泣きマッチョ!」と端的なあだ名で悲鳴嶼を嫌がった。

 それだけなら、サボりを見つけただけのようで、彼ら以外の者からしたら微笑ましいだけなのだが、子供……瑪紫愛のいる場所が全然微笑ましくない。

 

 瑪紫愛がいたのは、賽の河原……三途の川の石の上。

 河原から自分くらいの子供なら乗れる石、岩の上を飛び乗り続けたのだろう。瑪紫愛は川の半ばとまではいかないが、1/3くらいは進んでしまっている。

 

 川の向こう岸は此岸ではなくまだ彼岸の領域だが、それでもこちら側より格段に生者の世界に近い。

 だからこそ境界線たるこの川の流れは、奪衣婆たちがいる所よりは穏やかだが、それでも十分に激流と言っていい。

 

 そんな川の中、不安定な足場の上に立つ子供を心から案じ、思うからこそ狛治も同じように声を荒げて叫ぶ。

 

「戻ってこい、瑪紫愛! そこは子供が泳げるような川じゃない!!」

「降りれなくなったアホ猫のような状況だと素直に認めるなら、私の投げ縄で助けてやりますよ」

「鬼灯様! その縄仕舞って仕舞って!」

「なにそのカウボーイみたいな縄! たぶんそれじゃ首締まる! 助けてない! 絞首刑になるよそれ!!」

 

 狛治に続いて鬼灯が冷静に、脱獄したり暴れたりする亡者の捕獲用としていつも持ち歩いている縄を取り出し、投げる準備をするのは良いが、唐瓜に全力で止められた。唐瓜は悪くない。むしろグッジョブ。

 何故なら茄子の突っ込み通り、鬼灯の振りかぶっている縄は先端が輪になっており、持っている人物からしてめちゃくちゃ不穏。絶対に「これに捕まりなさい」という意味でこの鬼は投げない。首に輪をひっかけて、そのまま力づくで戻す気しかない。

 

 瑪紫愛も鬼灯の縄にギョッとしたが、悲鳴嶼に足をガクガク震わせつつも反抗し続ける根性がある彼は、距離が離れているのもあって強気に言い返す。

 

「いらねーし、戻ってたまるか! こ、こんな川、大したことねーし!

 それに俺は、ちゃんとキューメードーイつけてるから、落ちたって泳いで向こう側まで行って、絶対に生き返ってやる!」

「……あれ、救命胴衣のつもりだったのか」

「ど、努力は認めるがそれは取れ! つけてる方が溺れた時ヤバい!! 空気は一瞬で抜けて、逆に水を含んでそのまま流されるから!!」

「!? 瑪紫愛はいったい今、どんな格好なんだ!?」

 

 鬼灯たちの説得や叱責を悪態で返すと、鬼灯が呆れと感心半々な言葉を呟き、狛治も同じような感情を懐きながらも健気に説得を続け、透明な世界でも見えないというか透明だからこそ見えない瑪紫愛の格好に、悲鳴嶼は盛大に困惑して尋ねる。

 

 その困惑に、唐瓜と茄子もやっぱり補佐官たちと同じような顔をして答えた。

 

「……なんか、お菓子とかの袋を腕やら足やらにつけてます」

「供養かなんかでもらった奴なのかな? ポテチ食いたくなってきた」

 

 二人の言葉で想像がついたのか、悲鳴嶼も心配から困り果てた顔になる。

 茄子の発言はほぼ彼の感想と願望だが、気持ちはわかるほどに瑪紫愛は供養などで供えてもらい、お地蔵様派遣時にもらったであろうお菓子の袋などを使って、手足に膨らませた袋を括り付けて、彼なりの救命胴衣的なものを作って身に着けていた。

 

 しかし当然ながら、所詮は幼稚園児か小学校低学年くらいの子が作ったもの。

 そもそも胴衣になってないし、ポテチの袋なので耐水性は期待できるが、ちゃんとした密閉などもちろん出来てないので、水に落ちたらまず間違いなく、空気は即抜けて逆に水を溜めて体を沈めた挙句に、川の流れの勢いに引かれてそのまま抵抗できずに流される要因になる。

 

 そこまではわかっていなくとも、瑪紫愛の体についている袋の半数以上が既に、ほぼ空気が抜けている状態なので、浮力に期待できない事くらいは幼子でも実はわかっているのだろう。

 しかし彼は、悔し気に顔を歪めて「うるせー! バーカ!!」と言いながら背を向け、そのまま水面からかすかに覗いている岩の上に飛び乗ろうと足を踏み出した。

 

「!! 瑪紫愛っ!!」

 

 同時に、悲鳴嶼は何の躊躇もなく川に飛び込んだ。

 彼には見えていた。視力がなくとも、黒死牟との死闘で見出した「透明な世界」でわかっていた。

 瑪紫愛が岩へ飛び移る事が出来ず、川に落ちることを。

 

 その事を理解した瞬間から、悲鳴嶼の頭に論理的な思考など存在しない。

 ただ、助けたかった。

 ここがあの世で、川から引き上げさえすれば蘇生が可能だなんて忘れていたし、覚えていたからとて悲鳴嶼が川に飛び込むのを躊躇する理由になどなりはしない。

 

 悲鳴嶼自身が、死後はもちろん生前も滝行は行っていたが、盲目いうのもあり本格的な水泳経験がないことだって、関係ない。

 

「! がぼっ! ごべっ!!」

「めしっ! ぶはっ! めしああぁぁぁっっ!!」

 

 飛距離が足りず、川の中に落ちて狛治達の懸念通り、手作り救命胴衣が最悪の働きを見せて、瑪紫愛はほとんど顔も水面から出せない。

 そんな彼の元まで、悲鳴嶼は現代でも日本人離れしている巨躯を生かして水中を進むが、この川が此岸と彼岸の境界たりうるのは流れの激しさだけではなく、深さも大きな一因。

 河原から2mも進めば、もう悲鳴嶼でも頭まで沈みきる深さがある為、激流も相まって水底に踏ん張って歩くより泳ぐ方が安全なので、悲鳴嶼はがむしゃらに手足を動かし、自分の視力以外の感覚器官全てを総動員して、瑪紫愛の元へ向かう。

 

 ……水泳経験がない悲鳴嶼には、クロールどころかバタ足すらよくわからない。

 なのでなるべく、呼吸ができるように顔を水から出しておきたかったのだろう。顔を出している状態で手足を派手に動かしたら水しぶきも激しくなって、顔を出している意味があまりないことも本能レベルの無意識で判断したのかもしれない。

 

「めしああぁぁぁっ!! いまっ! がはっ! 今、助けるぞ!!」

「ぼべっ! な、なぎまっ……だずげ……!? ぼぎゃぁぁぁぁっっ!!」

 

 結果、激流の中を爆速の犬かきでやって来る強面巨躯の男が誕生した。

 素直に助けを求めた瑪紫愛が、恐怖のあまりいきなり水泳スキルが覚醒して泳いで逃げたのは無理もないくらいの妖怪ぶりであった。

 

「……これ、どこか他の地獄の呵責に使えませんかね?」

「それは後で考えることにして、鬼灯様は行冥を捕獲してください! 俺は瑪紫愛を捕まえますから!!」

 

 悲鳴嶼の犬かきにポカンと呆気を取られていた鬼灯一行が、鬼灯の独り言で我に返り、狛治は上司に遠慮なく指示を飛ばして彼も川の中に飛び込み、無事に瑪紫愛とアガペーが暴走していた妖怪犬かき泣きマッチョ(命名:瑪紫愛)は捕獲されたという。

 

 * * *

 

「申し訳ない、鬼灯殿……。泳ぎ方もろくに知らないくせに、勢いだけで飛び込んで迷惑をかけて……」

「それはもうどうでもいいので、今度別の罪人に同じような感じで追いかけてくれませんか?」

「鬼灯様、それだと行冥は毒やマグマの中を泳がなくてはならないので諦めてください」

 

 瑪紫愛が保護された事で落ち着いた悲鳴嶼が、河原で正座して鬼灯に自分の暴走を謝罪するが、鬼灯はびしょぬれのまま真剣に先ほどの妖怪ぶりを拷問に使おうと検討していたので、狛治が瑪紫愛を小鬼たちに任せて上司の無茶ぶりを止める。

 

 ここならまだしも、刑場の水辺と言えるところは獄卒に泳がせる訳にはいかない水質であることを失念していた鬼灯は、悔し気に舌打ちしてから振り返る。

 唐瓜に全身を拭いてもらい、茄子が背中を叩いて飲んだ水を吐き出させている瑪紫愛を、鬼灯は睨み付けて言った。

 

「そういえばそうですね。まぁ、その件は諦めるとして……、さて、こちらはどうしますか。子供とはいえ、これは脱獄に等しい行為ですから、拳骨で終わらせてはぬるいですね」

 

 鬼灯の言葉というか怒りのオーラに、瑪紫愛の肩が大きく跳ね上がる。

 彼の「救命胴衣」発言と全身につけていたもののインパクトでスルーしていたが、瑪紫愛は自分で「川の向こう側に渡って生き返る」という趣旨の発言も同時にしていた。

 なのであれはただの好奇心や遊びではなく、明確に逃げ出そうという意思を持っての行動だった為、いくら賽の河原が正確には子供の地獄ではないとはいえ、ここは懸衣翁がいる地点に近い。

 つまりは第二裁判所に向かう亡者も見ている可能性が高いので、このまま説教程度で終わらせたら、周りの子供はもちろん、地獄落ち候補な亡者に対しても示しがつかない。

 

 鬼灯本人は別にさほど怒ってない、むしろ瑪紫愛の行動力や発想力を評価しているくらいだが、責任者として、大人として、厳しめに叱ろうとリーサルウェポンを取り出すのだが、それを瑪紫愛の尻にぶっ刺す前に、自分の背後で正座していたはずの悲鳴嶼が瑪紫愛を庇うように回り込んできた。

 

「鬼灯殿……。瑪紫愛を叱るのは当然だが、話も聞かずに叱責はやめて欲しい。

 この子は確かに、どのような理由があろうともしてはいけないことをした。けれど……それは理由を、この子の話を聞かなくていい理由にはなり得ない。

 

 お願いします。話を……どうか話だけは必ず、聞いてやって欲しいのです。ただ叱るだけでは、不満を懐いて余計に反抗的になり、同じ事を何度も繰り返すかもしれない。理由を知れば、もう同じことを繰り返さないように、私達の方で何か対策が取れるかもしれない。

 ……『話を聞いてくれた』という事実だけで、人は救われることもあるのです。

 だからどうか――――、話を聞いてやってください」

 

 鬼灯より上背のある悲鳴嶼が、深く深く腰を折って頭を下げ、頼み込んだ。

 これも自己満足だと、心中で自嘲しながら。

 

 自分の話を聞いてほしかった訳ではない。

 悲鳴嶼自身は、最終的とはいえお館様に話を聞いてもらえたので、当時の警察に冤罪で逮捕されたのは、仕方がないことだと受け入れている。

 話を聞いてもらっても、信じてもらえるような内容ではないことをわかっているから、お館様に出会えただけでも最大の幸運だと思っている。

 

 話を聞いてほしいのではなく、自分が聞いてやりたかった、聞くべきだった。

 悲鳴嶼の懇願は、自分が出来なかったことの後悔を鬼灯に押し付けているだけだ。

 

 泣きじゃくる沙代の話を、ちゃんと聞きたかった。聞くべきだった。

 これは自分のことと違って、「そんなことができる状況じゃなかった」とは思えない。警察に抵抗しても、沙代に落ち着くように宥めて、話を聞いてやるべきだったとしか思えない。

 

 話を聞けてさえいれば、警察は信じなくとも、今度はお館様に出会えず、死罪になったとしても、自分は救われた。

 そして沙代にも、笑って「ありがとう」と言えた。彼女に謝る必要などない、罪悪感など背負わなくていい、幸せでいて欲しいと伝えられなかった後悔は、彼女が転生した今でも失えない。

 

 そして……獪岳の話も、聞きたかった。

 何故、金を盗んだのか。その訳自体は、今も昔もどうでもいい。

 

 ただ、獪岳のしたことを「悪事」で終わらせず、どうしてそんなことをしたのか、どうすればそんなことをせずに済んだのかを一緒に考え、そして獪岳一人が悪いのではなく、私刑を行った子供達のことも叱っていれば……、例え獪岳が至る結末が同じ「鬼殺隊を裏切って鬼になる」ものであっても、最期どころか今でも「自分は誰にも評価されていない」なんて、あまりに見当はずれで寂しい思い込みをし続けることはなかったかもしれない。

 

 そんな後悔が耐えず胸の奥で疼き続けているから、悲鳴嶼は頼み込む。

 瑪紫愛の話を、何故あんなことをしてまで生き返りたかったのかを、聞いてほしいと懇願した。

 

 その懇願を、鬼灯はばっさり切り捨てる。

 

「それはあなたの仕事でしょう」

 

 優しさなど皆無の端的な即答。

 悲鳴嶼の後悔はもちろん、本当に彼がしたいことも理解しきっている言葉だった。

 

 だから悲鳴嶼は、きょとんとした顔を上げてから苦く笑い、「そうですね」と頷いて振り返る。

 自分の背後で、俯いたまま黙り込む瑪紫愛に向かい合って、その場に座り込んで尋ねた。

 

「……瑪紫愛。どうして、あんなことをしたんですか?」

 

 瑪紫愛はうつむいたまま、答えない。黙り込んで、自分の体にまだ残っていたポテチの袋を握りしめた。

 実は、鬼灯や狛治だけではなく小鬼たちも瑪紫愛が生き返りたがった理由を察している。

 

 彼が救命胴衣として使用していたお菓子の袋。

 当初はそんなものを何故、彼が持っていたのかが謎だった。賽の河原の獄卒達が、そんなものを瑪紫愛が保管している事に気付かなかったのか? と疑問に思っていたが、川から保護した瑪紫愛が身に着けていた袋を少しよく見てみたら、その訳は一目瞭然だった。

 

 そのすぐにわかる答えは、悲鳴嶼には見えない。

 だけど、透明な世界がなくても特に支障なく生きて行けた悲鳴嶼の感覚が知らせる。

 瑪紫愛が、転生ではなく「瑪紫愛」のまま生き返りたかった訳を、その耳が悲痛な願いを奏でる鼓動で悟る。

 

「……家族に、会いたかったのですか?」

「!」

 

 悲鳴嶼の言葉に、また瑪紫愛は肩を大きく跳ね上げた。

 そしてそのまま、ぶるぶる小刻みに震え出す。

 喉の奥から我慢しきれず嗚咽が零れ、溺れた所為で出ていた生理的なものとは違う涙や鼻水が溢れ出す。

 

 握りしめる。ポテチの、お菓子の袋を。

 ただ食べて終わらせなかった。ずっと持っていた、獄卒もそれを許したものを。

 

 ――「おにいちゃんへ」とあまりにつたない字で書かれた、自分に向けられた菓子袋を握りしめたまま瑪紫愛は泣きじゃくって叫んだ。

 

「……うぅ……うああああぁぁぁぁぁぁっっ! いきがえりだい! あいだいんだよ!

 いぎがっであいだい!! かーぢゃんにもどーぢゃんにも! ジャスディズにあいだいんだよおおおぉぉぉぉぉっっ!!」

 

 号泣しながら瑪紫愛は、幼いがあまりにも切実で純粋な願いを口にする。

 なお、瑪紫愛と悲鳴嶼以外の皆が弟の名前、「蛇寿帝寿(ジャスティス)」を即座に意識の外に放り投げた。木村家のセンスと思い切りの良さは、このシリアスのノイズでしかないので全力でなかったことにする。

 

「瑪紫愛……」

 

 初めからそのあたりを良くも悪くもまったく気にしてない悲鳴嶼は、シリアスを続行させたまま悲しげな顔をして、けれど決して涙は見せずに告げる。

 

「……そう願うのは、当然です。ですが……瑪紫愛。死者は決して、蘇りはしません。したとしたら、それは初めからまだ死ぬ運命ではなかった者です。

 …………特にあなたは、……親の言う事を聞かず、……だからこそ死んだ。……だから、……どんなに願っても、……反省していても……、あなたが生き返るということは……ないのです。

 ……あなたの死は……自業自得として……終わってしまった事なんです」

 

 何度も何度も言葉を詰まらせながら、それでも悲鳴嶼はあまりに残酷な、けれど正しい言葉を告げる。

 そして瑪紫愛は、幼いが決してバカではない。むしろバカなことを懲りずに何度も繰り返すが、そのバカなことのクオリティは向上させるという、割と学習能力そのものはあるタイプだ。

 

 何より、言われるまでもなく自分でもわかっていた。

 自分の食い意地が張っていた所為で、弟に分けてやろうなんて考えず、独り占めしようと焦って食べ過ぎた所為で喉に詰まらせて死んだなんてバカすぎる死は、全部全部自分一人がただ悪いことを知っていた。

 その事を後悔しているからこそ、会いたかった。

 会いたくて会いたくて仕方がなかったけれど、そんな資格はないことなんて、本当は自分が一番わかっている。

 

 だからもう瑪紫愛は声も出さず、出すことができないまま涙を零し続ける。

 

「だから……瑪紫愛。……あなたは早く、転生しなさい」

 

 見開いた眼が絶望に染まった子供に、悲鳴嶼は絞り出すような声で、自分も泣きたいのを堪えて笑い、告げる。

 

「あなたは……残念ながら『瑪紫愛』として生き返ることはできない。

 けれど、あなたは決して幸せになってはいけない訳ではない。……家族に会いたいと願うことは、罪ではないのです。……幸せに、なってもいい。なるべきです。

 

 だから……、ここで修業を積んで業を雪ぎ、転生すればきっと……あなたは弟にもう一度出会えるはずだ。

 今度は瑪紫愛が弟だろう。同じ両親の元に生まれることは出来ないかもしれない。けれど……あなたが早くに転生すれば、弟との歳の差はあまり大きくないのなら……出会って関わる可能性が高くなる。……友達になれるかもしれない」

 

 それは、あまりに苦し紛れの希望。

 転生は完全にランダムなので、同じ親の元に生まれる可能性はかなり低いし、幼い頃に出会って友達になれるようなご近所さんや、親の友人などと言った関係の所に生まれる可能性も似たようなものだ。

 

 第一、仮に同じ親の元に生まれても前世である「瑪紫愛」の記憶はなくしているので、そこに救いがあると言えるのかどうかも怪しい。

 

 上辺だけの慰めのような希望に過ぎない。

 それでも…………

 

「……おれ……てんせー……できるの?」

 

 悲鳴嶼を見上げ、瑪紫愛はたどたどしく尋ねる。

 転生という未来を、まるで想像できていなかったような言葉。

 

 きっと彼は、自分が反抗的な問題児であるという自覚はあったのだろう。

 だからこそ、「転生」という未来がいつか訪れるとは思えず、故に子供達で「レジスタンス」を結成して更に獄卒に反抗し、お地蔵様に転生を要求すると言った悪循環に陥っていたのかもしれない。

 

 どこまでも子供の浅はかさで、事態を悪化させている。

 それは生前、悲鳴嶼が絶望して子供を信じられなくなった要因だが、今ではその浅はかさも愛おしい。

 

 その根幹はただただ純粋な、「家族に会いたい」という願いであることを知っているから。

 だから、悲鳴嶼の言葉は全て本気。

 上っ面だけなんかじゃない。絶対にそうなると信じている、瑪紫愛の「罪」が償われた先にあるのは、彼の幸福であることを疑わないから。

 

 悲鳴嶼は大きな手で瑪紫愛の頭を撫で、笑って告げた。

 

「出来ますよ。

 瑪紫愛は強い者に立ち向かう勇気を持ち、弱い者いじめは決してしない優しい子ですから、……少しわがままな所さえ直せばすぐに、転生できますよ」

 

 悲鳴嶼の言葉に、瑪紫愛はむすっと頬を膨らませて「悪かったな! つーか、名前呼ぶなって言ってんだろ!」といつもの悪態をついて、悲鳴嶼の手を振り払う。

 拗ねながら、それでも笑っていたのを悲鳴嶼は感じ取っていたから、彼も笑ってまた泣いた。

 

「さて。それでは話が終わった所で、さっそくお仕置きの時間です」

「鬼灯様! もうちょっと間を開けてやってください! あと、その注射の中身何ですか!?」

 

 そして鬼灯が待ってましたとばかりにリーサルウェポンを携えて登場したので、瑪紫愛は悲鳴を上げて逃げ出し、悲鳴嶼は後を追い、狛治と小鬼たちは全力で中身紫色の液体で満ちた注射器を持つ鬼灯を止めた。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 多少のトラブルはあったが(紫注射はさすがに脅し用だったが、瑪紫愛は生理食塩水の注射を腕にぶっ刺された)、賽の河原研修が無事終わり、新卒たちが帰ってゆく中で鬼灯は悲鳴嶼に告げる。

 

「あぁ、そうそう悲鳴嶼さん。忘れる所でした。あの二人、樒さんの所でもダメでした」

「……そう、ですか。樒様でもダメとは……。二人は、樒様に何か失礼なことはしてませんか?」

「いえ、今回は正直言って悪いのは樒さんの方でしたね。暴言吐いてましたが、言ってること自体は向こうが全面的に正しかったので、お咎めはありませんよ」

 

 鬼灯の報告に、悲鳴嶼は残念そうに気落ちして尋ねると、鬼灯が割と訳のわからないことを言う。

 全面的に正しい暴言とは何だろう? と悲鳴嶼は思いつつ、それはこれから本人たちに訊けばいいかと思ってその話は終わらせ、これからのことについて話を続ける。

 

「それならひとまずは安心しましたが……、もう候補はほぼ全滅ですね。

 とりあえず、明日私が二人を閻魔殿に連れてゆきます」

「そうですね。もういっそ、閻魔殿で暮らしてもらってもいいかもしれませんね。座敷童さん達という、実年齢はともかく精神年齢の近い人が住むようになったので、お互いにいい影響を受けるかもしれませんし」

「……あの二人の逸材ぶりを思うと、正直『いい影響』を受けるとは思えないんですが」

 

 二人の会話に、撤収作業をしていた狛治が参戦して来た。

 

「それに明日は休みだからいいとして、在住するなら胡蝶が問題ですよ」

 

 率直な感想の次に出された問題点に、鬼灯と悲鳴嶼が「それな」と言わんばかりの顔で黙り込む。

 

 三人はまだ知らない。

 その明日休みのはずの胡蝶 しのぶが、姉の代わりに閻魔庁に訪れ、「彼ら」と出会うことを。

 





瑪紫愛の弟の名前はスピンオフである「シロの足跡」ネタですので、原作も弟がいたかは不明。

当初は悲鳴嶼さん、がむしゃらに泳いだらバタフライになってて、それに瑪紫愛がビビるというネタでしたが、「流石に偶然バタフライになるって無理がある気が……」と思って、割と真面目にあり得そうな泳ぎを考えた結果、より絵面が酷い「爆速の犬かき」が生まれました。
自分で書いてて、爆笑してしまうぐらいお気に入りだけど、悲鳴嶼さんごめん。
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