「鬼滅の刃」世界のあの世が「鬼灯の冷徹」世界だったら   作:淵深 真夜

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某なろう原作悪役令嬢もの、中の人が好きで関連スレを漁っていたら、まさかの自作をクロスされてて目玉飛び出た。
けど好きな作品とクロスしてもらえてめちゃくちゃ光栄だし、何より書きたい気持ちはあるけどついズルズルと更新しないままだったのに、未だ好きだと言ってくれたスレ主さんの存在が嬉しすぎてモチベが爆発してつい書き上げました。

スレの望む方向の話じゃないし、久々の更新が中の人知らない方からしたら訳分からん話で申し訳ないが、作中で狛治さんが読んだ話くらいまでなら無料で読めるサイトや漫画アプリは多いから、この話はともかく中の人は是非とも読んでほしい。


番外:「最悪すぎて女性版地獄巡り動画の主演に相応しすぎる」

「鬼灯様、それは……少女漫画ですか?」

 他庁への視察で汽車に乗り、向かい合わせで座った鬼灯と狛治。

 席について鬼灯が懐から本を取り出して読むのはいつものこと、乱読家の節がある上司なのでそれが漫画であることも、現世の作品であることも珍しくない。

 

 だが流石に、表紙が華やかなドレス姿のお姫様としか言いようのない女性を飾っているのは珍しすぎた為、つい狛治は軽く目を見開いて尋ねる。

 

 別に狛治に「男が少女漫画を読むなんて」という偏見は一切ない。

 しかし狛治は少女漫画に興味も正直いってない為、「少女漫画=甘酸っぱい青春恋愛もの」という偏見というか思い込みならある。

 その為、鬼灯がたとえ暇つぶしでしかないとしても、そういうものを読むとは思えなかったからこそ驚いて尋ねた。

 

「これは……分類として少女漫画なんですかね? 茄子さんと宇髄さんに勧められた、現世で今かなり人気の漫画だそうです。

 私も初めは布教を穏便に断る為、一話だけ読んで合わなかったと伝えるつもりでしたが……沼に嵌るとはこういうことなんですね。めちゃくちゃ私好みです」

「……少女漫画、なんですよね? その表紙のお姫様みたいな子が主人公なんですよね?」

 

 狛治の問いに鬼灯は、開いた本を閉じて答えてくれたが、狛治はその答えで更に困惑して、少女漫画であることを確認する。

 その困惑ぶりに鬼灯は、「わかる」とでも言うようにうんうん頷いて、彼は持っていた漫画をそのまま狛治に差し出した。

 

「これに関しては読んでみるのが一番です。

 話自体は狛治さん好みとは言いづらいですが、ざまぁ系……まぁ勧善懲悪な結末なので、嫌いでもないはずですよ。

 少なくとも主人公の彼女には、間違いなくあなたは感情移入します」

 

 まさかの鬼灯からも布教をされて、もう一度困惑と驚きで目を見開くが、そこまでいうのなら狛治の方も興味を持ち、「それではお言葉に甘えて」と彼は本を受け取った。

 受け取ったが、汽車移動中に一冊読み切る自信はなかったのと、どうもその漫画は現世で流行っているとあるジャンルから派生した、少し邪道系の話だったようで、鬼灯からそのジャンルの軽い説明をしてもらい、借りたその漫画を読み始めたのは次の日の昼休み。

 

 世界観などの説明が多い序盤な為、セリフやモノローグが多い漫画だったが、そのジャンルのお約束やテンプレといった前提知識を鬼灯から教えてもらったおかげで狛治は、昼休みの約一時間で読了。

 そして午後の就業開始と同時に、デスクワークを鬼灯としながら言った。

 

「鬼灯様、偽ピナも八大地獄巡りさせましょう」

「その前にレミリアさんをスカウトしなくては。彼女抜きで行ったら、最悪彼女を敵に回します」

 

* * *

 

 読み終わって狛治は、茄子と宇髄が鬼灯にこの漫画を勧めた訳も、鬼灯が嵌まった訳も心の底から理解できたし、納得した。

 これは、少女か少年かという分類なら少女漫画だろうが、ジャンルとしては復讐ものだ。

 

 それもただただ暴力的な展開が続くものではなく、復讐の是非を問うものとも違う。

 大切な人の名誉回復という清廉な目的を持ちつつ、己の憎しみを晴らしたいという自己満足を自覚した上で、真の自分を最愛にすら隠し通す覚悟で綿密に計画立て、加害者の逃げ場を完全に塞いで完膚なきまでに完遂するタイプ。

 狛治が読んだのは一巻だけ、まだ序盤のはずなのにそう確信させるほど、鬼灯がスカウトしたがっている主人公の「レミリア」は、苛烈で冷酷で愛情深い女傑だった。

 

 鬼灯の言う通り、プロローグにあたるレミリアの復讐の動機である悲劇、エミという聖女というには俗っぽいが、だからこそ共感し、応援したくなる優しい慈愛の少女が、身勝手極まりない悍ましい悪意と、若気の至りでは済まされない愚行によって、彼女の努力も愛情も希望も尊厳も全て踏み躙られて奪われ貶められ、殺しに殺し尽くされた展開は、勧善懲悪と鬼灯から聞いていたから何とか耐えられたぐらいに、狛治にとってはフィクションだとわかっていてもストレスが溜まったので、おそらくどのような結末でも狛治にとってこの話は、「好きにはなれない」枠に収まってしまう。

 

 しかし同時に、「嫌いではない」という位置を維持しているのも、鬼灯の言う通り。

 自分を慈しんでくれた人に、同じだけの愛と幸福を返したいという思いも、そんな人を理不尽に奪われた憎悪の熱も、狛治は痛いくらいに共感したのもあるが、何よりも高熱で苦しんでいるのに、親どころか使用人も看病せず、自分で水を飲もうとしている幼レミリアに狛治は、エミと同じぐらい「この子を守る!!」と決意してしまった。あのシーンはちょっと狛治特攻すぎた。

 

「これって完結してるんですか?」

「漫画の方はクライマックスの起承が終わったところです。

 原作は商業されているものもありますが、小説投稿サイトに投稿されていたのが元で、今も削除されてませんし、漫画と展開そのものは変わってないので、先が気になるのでしたらそちらをお勧め……」

「? 鬼灯様?」

 

 一番ストレスが溜まる部分が終わったので、続きが普通に気になったらしく、狛治は鬼灯に尋ねると、沼ったと自己申告していただけあって鬼灯はスラスラ答えてくれたと思ったら、何故か急に思案するように眉間に皺を寄せて黙り込んだ。

 それに当惑しながら狛治が呼びかけると、鬼灯はやはり難しい顔をしながら「……読ませておいてなんですが、狛治さんは偽ピナの結末を知らない方がいいですね」と言い出す。

 

「は? え? まさか勝ち逃げするんですか?」

「それはあり得ません。たとえ死に逃げして別世界にまた転生したとしても、レミリアさんが追いかけて追い詰めて、ぜひともこちらが参考にしたい責苦を行うでしょう」

 

 勧めといてこの手の話で一番肝心な醜悪な加害者の末路を「知らない方がいい」と言われ、狛治は思い浮かぶ最悪の結末を口にするが、それは即座に否定される。

 そりゃそんな展開なら、鬼灯が気に入る訳がないなと納得する。そして鬼灯、本当にレミリアを気に入りすぎているなとも思った。

 

「そうではなく……最大限に濁して伝えると、彼女の末路はブラッドハーレーの馬車(自業自得)なんですよね」

 

 レミリアが復讐者として逃すはずがないことを断言してから、鬼灯は本当に濁しすぎて訳のわからない回答をする。

 が、訳がわからないのは「ブラッドハーレーの馬車」が何のことか全くわかってない者であって、むしろ知っている人からしたら濁してない。だいぶストレートにぶっちゃけている。

 

「……それ、唐瓜や茄子、烏頭さんどころか蓬さんもしばらくトラウマになっていた漫画ですよね? 俺、あの漫画を拾いあげただけで唐瓜が泣いて奪い取って、読んでないことを念押しで確認されたんですが……」

 

 幸運と言うべきなのか、狛治は読んだことはないがそれが漫画であることと、地獄の住人、それも獄卒を阿鼻叫喚に落ち入れた実績持ちのトラウマ製造機であることは把握していたので、やはり盛大に困惑したままそれ以上深掘りするのはやめた。

 懸命である。これ以上、彼にトラウマを増やす必要はどこにもない。

 

 なお鬼灯は、多分次の最新話で来るであろう割刳処(かっこしょ)(お口でニャンニャンして堕獄)や一切根滅処(いっさいこんめつしょ)(尻のアレでアレして堕ちる地獄)案件は別にいいだろうと思って、警告しなかった。

 そういうのに関しては、裁判時に作中と似たような経緯で浄玻璃の鏡上映なんてよくあること。狛治も慣れて、死んだようなと言うより虚無そのものの目で見ているのだから大丈夫だと判断している。

 何故、ブラッドハーレーは気遣えるのに、こちらは気遣えないのかは謎。

 

「あれの末路は確か本編後の番外編で描かれているので、本編だけなら気持ちよく自業自得ですよ」

「そ、そうですか…。なら本編だけ読むことにします……。

 それにしても……なんていうか、あの……偽ピナ凄いですね。色んな意味で。

 変な話ですが、無惨様よりリアルにいそうなのに見たことがないほど邪悪で……」

 

 あまりに中途半端な情報だけ与えて、あとは読むなは流石に酷すぎたので、鬼灯はキリの良い安全圏を教えて、狛治も素直にそれ以上踏み込まないように決めた。

 逆に言えば虚無になる衆合案件は読む羽目となっていることに気付かぬまま、最初にネタで言ってみたその衆合案件元凶のヤバさについて引きながら語る。

 

 本当に一巻という序盤も序盤しかまだ読んでないのに、それでも「人間性がクソすぎて理不尽な呵責しても周囲から擁護なし」という無惨に並ぶと確信させる、本物のピナに対して失礼すぎて狛治もナチュラルに「偽ピナ」と呼ぶあのキャラ造形に慄いていると、鬼灯が補足情報をくれた。

 

「あのキャラクターは、原作者さんが今まで見聞きしたヤバい女性を悪魔合体させて作ったそうです」

「……リアルに感じる理由はそれか」

「要素を分解すると割とよくいるタイプですが、その集合体はあんなにも悍ましくなるものなのかと、いっそ感心しました。

 私、偽ピナがもし地獄(うち)に来たらどこ堕ちるかつい調べ上げてしまいましたよ」

 

 思わずゲンドウのポーズで納得する狛治に、彼の感想をだいたい代弁して、鬼灯は職業病なのかどうか微妙な時間の無駄遣いを語る。

 

 しかしそれは普通に狛治も気になったので、「いくつ当てはまりました?」と先を促す。

 これまたナチュラルに、偽ピナの堕ちる地獄は複数だと彼は確信していた。

 

「とりあえず、衆合の小地獄の大半をストレート堕獄してました」

「無惨様でもそこは当てはまらないやつの方が多かったのに!?」

「しかも堕獄しないであろう地獄は、獣と同性と近親のみです。これ、こじつけや邪推ではなく原作情報で確定のものなんですよ……」

 

 しかし狛治はまだ少女漫画というか女性向け作品に、甘い思い込みをしていた。

 無惨が少年誌ガードで意外と衆合地獄に確定堕ちはほとんどなかったのに対し、まさかの一番生々しい地獄をほぼコンプリートしていることにドン引いて突っ込むと、更にドン引く補足をされてしまった。堕獄しない地獄がこれまた生々しくて嫌だ。

 

「また本来のピナさんの体を勝手に使っての行為なので、女性なのに現代版ではなく初期の基準でも大焦熱地獄をほぼフルコンプできるんですよ」

「…………最悪すぎて女性版地獄巡り動画の主演に相応しすぎる」

 

 更に鬼灯は嫌すぎる偽ピナのフルコンプを告げ、狛治はまたしてもゲンドウのポーズになって呟くが、今度は雰囲気が怖い。

 

 怖くもなる。大焦熱地獄は今では「善良な人の善良さに付け入って騙したり傷つけた者」という解釈で堕獄するが、元は出家など仏門に下った女性を犯した者が堕獄する地獄。

 つまりは衆合の上位互換。現代版でも狛治の地雷を盛大に踏んでいるというのに、元の方で堕獄できる女など、女性を呵責できない狛治でもおそらく躊躇わず汚い花火に出来るだろう。

 

 そんな空気は冷たいのに灼熱の怒気が感じられる狛治を、いつものことながら全く気にせず、だが何故か真顔かつ強めに彼は言った。

 

「いえ、彼女では役者不足です。

 彼女は追い詰められて言い訳を必死で探している時はだいぶ面白いですが、逃げる余地がなくなれば誰かを罵って自己憐憫のワンパタなので、何気に変なタイミングで変なところを気にしたりする、突っ込みボケ適正が割と高い無惨と比べたら、動画はだいぶ見劣りします」

「鬼灯様、無惨様のそんなところ評価してたんですか?」

 

 思った以上に鬼灯は、真面目に偽ピナを無惨の後継者に据えたかったのか、理不尽な呵責でも視聴者ノークレームは逸材だが、それ以外はエンタメとして映えないと悔しげに主張して、狛治の感想を否定。

 そして狛治はもう怒りとか全部吹っ飛んで、現上司による元上司のたぶんいらなすぎる評価に突っ込んだ。

 

* * *

 

「そういえば、偽ピナの罪状を纏めるついでに王子たち四馬鹿の罪状も纏めてみました」

「鬼灯様、仕事しないでください。休んでください」

 

 偽ピナの話題は「無惨並の逸材なのに使えない」という残念極まりない結論となり、本当に残念すぎるのでその話題をぶん投げ、鬼灯は同じ漫画の登場人物で、同じく堕獄しそうな奴らを話題に上げたら、そいつらよりも鬼灯のワーカーホリック具合に注目されて、普通に狛治に怒られた。

 

 ちょっとだけ拗ねたように唇を尖らせて黙り込む鬼灯を、狛治はまるで父親のような包容力全開の苦笑を浮かべてから、「すみません、鬼灯様。それで? あいつらはどこに堕獄が妥当ですか?」と、時間の無駄遣いでしかない話を聞いてやる。

 

「とりあえず4人共通で『吼々処(くくしょ)』、『十一炎処(じゅういちえんしょ)』辺りに堕獄するでしょう。

 あと『烏口処(うこうしょ)』にも是非とも堕として、その堕獄理由を教えてやりたい」

「烏口処……あぁ、確かにそこに堕ちるべきだし、知るべきですね」

 

 とりあえずで上げられた2つの地獄は、恩を仇で返した者、王や貴族という立場で私情まみれの判断をした者が堕獄するので疑問点はないが、「烏口処」は阿鼻の小地獄なので滅多に堕ちる者がいない為、一瞬狛治は戸惑った。

 が、すぐに対象を思い出したのか、また少し怖い雰囲気になりながら鬼灯に全面同意。

 

 烏口処に堕獄する罪人は、阿羅漢を殺した者。

 ここでの阿羅漢とは、小乗仏教の最高指導者のことだが、現代で解釈し直すと「聖人レベルの善人」くらいのニュアンスだ。

 つまり、エミを裏切って追い詰め、精神死させた罪であり、エミの存在を知らないまま生涯を終えるであろう彼らへ与える、死よりも残酷で自業自得な地獄に堕としてやりたいと、二人は割とガチで考えている。

 

「薬の影響がどこまで情状酌量になるか難しそうです嫌ですね、こいつらの裁判」

「そうですね。ですが義弟は比較的簡単ですよ。だからこそ罪状が偽ピナに次ぎますけど」

「は? 何やらかすんですかあのキャラ?」

 

 理不尽に罪を重くさせたいわけではないが、解釈次第ではエミを殺しておきながら、無罪放免になりかねないのは非常に気に食わないからか、狛治はうんざりした様子で言うと、鬼灯は同意しつつ、やはり狛治よりリアルに真面目に裁判を想像していたのか、別に嬉しくもない情報をくれる。

 

「もう既にやらかしてるんですよね。

 あの義弟、薬ほとんど効いてないんですよ。義姉と王子が破談になれば自分が義姉を娶れるかもと思ってしまった結果があの茶番断罪です」

「なんでその下心があって味方にならなかったんだあいつ!?」

 

 漫画の一巻しか読んでない狛治にはネタバレになる情報だったが、知ったからとて面白さが減るような内容でもないので、鬼灯がアッサリ教えると、やはり狛治はネタバレは気にせず、義弟のやらかしへ盛大に突っ込む。

 

 これに関しては、狛治からしたら本気で「何故その目的でそんなことした?」という謎ムーブでしかない為、怒りよりも困惑が勝っていた。

 そしてそれは鬼灯にとっても同じ為、彼も「さぁ?」で理解を放棄する。

 

「まぁそんな理由で、割と偽ピナと共犯関係なので結構いろいろ当てはまります。

 あの王子、本来は乙女ゲームのメイン攻略キャラに相応しい好人物だったそうなので、それを堕落させたのなら、『無間闇処(むけんあんしょ)』に間違いなく義弟は堕獄しますね」

 

 デスクワークをこなしながら、鬼灯はいつもの無表情で淡々と義弟の確定で堕獄する小地獄をあげる。

 同じように書類仕事をこなしながら、狛治は気づいていた。鬼灯は先ほどの「烏口処に堕として、その理由を教えてやりたい」と言っていた時と同じ、とてつもなく意地の悪い楽しみを見出すような、微かな機嫌の良さがあることに。

 

 そしてその訳も、この優秀な第三補佐官は察している。

 

 無間闇処は、善を治めた人物にハニトラを仕掛け、堕落させた者が落ちる。

 偽ピナと義弟が示し合わせたわけではない、偽ピナが勝手にしていたことを義弟が利用できると思ってしたことだが、まさしく義弟が王子にしたことそのままの罪状だ。

 そう、王子に対してピッタリな罪状。

 

「……鬼灯様、それ義弟に『レミリアさんは全く誘惑されてませんし堕落もしてないので、レミリアさん由来の罰ではない』と教えるつもりでしょう?」

 

 呆れたように狛治はその察した訳を指摘する。

 狛治は呆れていた。

 鬼灯の性格の悪さにではなく、大人気のなさに。

 

「はい、もちろん。

 それを教えず何が罰ですか?」

 

 その答えも全面同意しかなかったので、鬼灯のことを性格悪いと思う資格など狛治にはない。

 何より、少し嬉しかった。

 

 鬼灯が思ったよりもずっと、怒っていること。許せないと思っていること。

 

 エミという少女の絶望と精神的な死を悼んでいる証明が、嬉しくて、少し悲しかった。

 

* * *

 

 

「本当に鬼灯様はこの話を気に入ってるんですね。

 やはりレミリアさんに共感するからですか?」

 

 ほんの少し感じた思いからか、狛治は少し踏み込んだ質問をする。

 復讐鬼として、乾燥こそはしても今も決して消えてなどいない、消えない憎悪の焔を持つ鬼へ、美しいあの復讐姫をどう思っているかを彼は訊いた。

 

「気に入ってるのは事実ですが、共感はあまりしてませんね。あの回りくどい復讐は、純粋に完遂したことを喜ばしく思い、尊敬もしますが、私自身はしようともしたいとも思わないものなので。

 ……あと私個人としては、レミリアさんは好ましい人物ですが、地獄の官吏としては『こいつも裁判めんどくさそう』が真っ先にきます」

 

 ドライな憎悪という独特な復讐心をしている鬼灯は、やはり自分の傷と言える部分に狛治が踏み込んでも気にした様子もなく、しれっと答える。

 ついでにやはりワーカーホリックをここでも発揮して、狛治をまた呆れさせた。

 

「えーと、それはレミリアさんの復讐が回りくどいからでしょうか?」

「それも大いにありますが、そもそもの話、異世界というこちらと法も常識も倫理観も違う世界の方々をどう裁いたらというのもあります」

 

 何度も言うようにまだ一巻しか読んでない狛治は、レミリアのしようとしている復讐は、自分がしてしまったもののように短絡的ではなく、「エミのレミリア像」を守ったまま名誉を回復し、偽ピナ達を社会的に抹殺することぐらいしかわかっていない。

 

 なので直接レミリア自身の手を汚さない方法で偽ピナたちを追い詰める手法が、どこまで罪に問われるかの判断が難しいと思って尋ねたら、本当にそもそもすぎる前提を今更ぶっ込まれ、狛治は脱力。

 

「……それを言われたら、今までのが本当に全部時間の無駄でしょうが」

 

 思わず机に突っ伏し力なく突っ込めば、流石の鬼灯も少しだけ気まずげに言い訳じみたことを口にする。

 

「偽ピナは元々こちらの住人ですから、こちらの法や常識で判断すべき相手ですし、四馬鹿も明らかにあの世界でも罪になると判断できたものですよ。

 ですがレミリアさんのしたことは、こっちの価値観でも判断が難しいからこそ、あちらの常識や倫理観が重要です。

 

 動機が復讐というだけで基本は善行ですし、偽ピナたちが破滅する方向に誘導しましたが、あくまで誘導。そこ以外の逃げ場を無くした訳ではありません。まぁ、馬鹿だから逃げ場があっても気づかず、こっちに来ると確信していたようですが。

 

 あと、私が読まない方がいいと言った偽ピナの末路、あれほぼレミリアさん無関与です。生き地獄を味合わせたかったから、死刑は反対した程度で、あとは長いこと情報を伏せられていて、やっと見つけ出した時には彼女大満足なブラッドハーレーの馬車でした」

 

 割とムキになって語る鬼灯をちょっと微笑ましく思って、狛治は笑う。

 また出てきたトラウマ漫画も気になったが、本当に知らない方がいいことは、読んだ者達のリアクションで学習済みなので、聞かなかったことにする。

 

 

 

 

 

“自分のものにならないウィリアルド王子の心を手に入れるために国を、罪のない民を犠牲にしようとした悪役だったけど。私には愛情を求めて泣きじゃくる子供にしか見えなかったから”

 

 

 

 

 

 聞かなかったことにした代わりに、ふと一巻の最後にあった小説、原作者の書き下ろしたSS(ショートストーリー)の一文を思い出した。

 

「はいはい。とにかく鬼灯様も嵌るくらい、とても面白い漫画だということがよく分かりましたよ」

 

 狛治が笑ってそんな風に話を締めくくろうとしたからか、子供をあしらうような対応に怒りこそはしてないが、やはり子供のように少し不満そうな顔で片手で頬杖をつき、鬼灯は言い返す。

 

「そうですね。キャラクターや話そのものをもちろん気に入ってますが、この漫画家さんも私は気に入っています。原作の魅力を完全に引き出すいい作家ですね。偽ピナの顔芸とか」

「そこですか、真っ先に出てくる画力の称賛ポイント。いや確かにあれは、顔は可愛いのに心根の卑しさや醜さを最大限に表してましたけど」

「茄子さんも大絶賛してたところですよ。あの素材は最高なのにそれを全て台無しにして、ネジ切りたいとしか思わせないアヒル口とか。

 あとそうですね、狛治さん。最新刊と最新話のドレスは素晴らしかったので是非とも見てください」

「え? 鬼灯様、それ俺に言ってます? 鬼灯様が、俺に?」

 

 まさかのドレスが素晴らしいというお勧め、拗ねた鬼灯の軽口レベルの嫌がらせにしてもあまりに訳のわからない方向性だったので、本日最大レベルで困惑しながら狛治は確認で尋ねる。

 

 しかし男かつファッションセンスが皆無の自覚がある狛治でも、この作者はとてもセンスがある人なんだろうと思わせる華やかなドレスが漫画では描かれていたのと、そういった可愛らしいドレスは恋雪が好みそうだなとは思ったので、冷やかしを兼ねてそういう夫婦の話題に気を使ったのか? とも一瞬考えた。

 

 が、もちろん鬼灯は色んな意味で、冷やかしにしてもそんな余計なお世話どころか明後日の方向すぎる気の回し方などしない。

 

「はい。是非ともあまりのダサさに『ダッ!?』と声が出ますが、言い切る前に言葉に詰まるハートまみれドレスと、それを超える作者の力作である二郎系雪見だいふくドレスを見てください」

「勧める理由そんなマイナス方面なんですか!? 作者の人に失礼すぎません!?」

「いやこれどちらも偽ピナのドレスで、彼女の幼稚さやら非常識さを表す意図的なダサさなので、むしろ最大の賛辞です」

「作中は惨事ですよね、それ」

 

 余計な気遣いより更に斜め上なお勧め理由に、狛治は盛大に突っ込む。

 失礼極まりないお勧めだが、作者が意図したものであったことだけは救いだと思いつつ、狛治は割と上手いこと事実を指摘しておいた。

 

 なお、鬼灯が拗ねつつ遠回しに主張していた「しょうがないでしょう。時間の無駄遣いでも深掘りしたくなるいい作品なんですから。だからあなたも嵌れ、沼に」は、あの斜め上すぎるお勧めポイントが本当に気になりすぎて、狛治はこの後最新刊まで借りたし、Web公開中の最新話も読んだ。

 

 結果、鬼灯が言った通りのリアクションをハートまみれドレスで取ったし、謎すぎた「二郎系雪見だいふくドレス」も現物をみて虚無の瞳で納得した。

 衆合案件な例のシーンは知らん。聞かないでやって。

 

 

 

* * *

 

 

 

 狛治が二郎系雪見だいふくドレスをお目にかかる前。

 鬼灯から続きを借りて、次の日も同じように昼休みに読んでいた。

 だが、もう昼休みはあと五分ほどで終わるというのに、狛治は二巻目を読み終えていない。

 二巻目の最初の話、四話目の終わりからページを捲らず、ぼんやりとした様子でそのページをずっと眺めていた。

 

「あ、狛治さん」

「こんにちは、狛治さん。あれ、その漫画は……」

 

 そんな狛治に、食器を戻そうとしていた茄子と唐瓜が気づいて声をかける。

 狛治は呼びかけられてやっと気づいたようで、驚いたように顔を上げてから「……鬼灯様から勧められて借りた」と、本を閉じて表紙を見せた。

 

 元々鬼灯に布教した茄子はもちろん、唐瓜もすでに布教済みだったようで、二人とも「面白いですよね」と嬉しげに話しだす。

 

「少女漫画と思って舐めてましたけど、俺もすっかりハマってしまいましたよ」

「唐瓜、レミリア様がどストライクだもんな」

「え!? いやちょっ、確かに好みのタイプだけど俺はそんな……」

「ああ。確かに好みだろうな」

「狛治さんも即納得するくらい分かりやすいの俺!?」

 

 普通に感想を言い合いたかっただけなのに、自分の好みというか性癖をしれっと幼馴染に暴露されて唐瓜は焦るが、今更すぎる。

 そういうのに鈍いし疎い狛治でさえ、一瞬で納得するくらい彼は色っぽくてちょっとSっぽい女性がストライクなのは周知の事実だ。

 なので羞恥で悶える唐瓜を茄子はもちろん、狛治もスルー。

 

「狛治さんの推しはだれ? やっぱりエミちゃんですか? ちょっと恋雪さんっぽいし」

「お前ホント地雷のチキンレースいい加減にしろよ!!」

 

 しかし茄子の割とマジで無神経と言える発言に、唐瓜は悶えるのを即座にやめて後頭部をどつく。

 助けたくても手が届かない所で最愛の人を亡くした狛治にとって、エミと恋雪を重ねるのは確かに普通なら無神経この上ないので、唐瓜が焦るのも当然だ。

 

「そうだな。誰かの為にどこまでも頑張れる所がよく似ていて好ましい。

 けどエミさんと恋雪さんより、俺とレミリアさんが似ていると思ってるな。俺はあの人ほど、思慮深くなかったが。

 まぁ、とにかく俺はこの漫画も、エミさんもレミリアさんも好きだぞ」

「狛治さん!? 鬼灯様に似てきちゃってません!?」

 

 だが狛治はまさかのブラックジョークなんだか自虐ネタなのかもよくわからないことを笑って言い出したので、唐瓜が盛大に戸惑い、茄子もポカン顔。

 茄子に悪気がないのはわかってるので、全く気にしないぐらいなら想定内の反応だが、本当に鬼灯のような絡み辛い返答をしてきたので、唐瓜はガチで心配し始める。

 

「百年も経てばこれくらい開き直るし、そして百年も鬼灯様の部下をやってるんだ。そりゃ似ても来るだろう?」

 

 自分でもらしくない自覚はあるので狛治はちょっと気まずげに、それでも本当に開き直って言うので、唐瓜は更に訳わからなくなるが、始業のチャイムが鳴ったので、狛治は「それじゃあ、午後の仕事も頑張れよ」と言って法廷に向かって去ってしまった。

 

 その背中を「……どうしちゃったんだろ、狛治さん」と思いながら唐瓜は見送る。

 茄子の方もぼんやりと見送っていたが、彼はポツリと呟いた。

 

「……っていうか、レミリア様と似てると思ってるの自分じゃないだろ狛治さん。

 多分好きな理由もそっちだし」

「は?」

 

 何故か変な所を気にして、それも狛治の発言を少し否定する幼馴染を不思議そうな顔で唐瓜は見るが、残念ながら午後からの呵責の時間が迫っていたので詳しいことは聞けずじまいだった。

 

 

 

* * *

 

 

 

「いつまでゲームやってんだジジイ!! スマホ叩き割るぞ!!」

「もうワシの頭割ってる!!」

 

 法廷に着くといつも通りサボっていた閻魔大王が、鬼灯に比喩なしの鉄拳制裁を喰らっていた。

 大王の懲りなさと鬼灯の遠慮のなさに、いつも通り狛治は呆れる。

 呆れつつも、思い出す。

 

 昼休みに、昨日と同じく一冊なら読了できたはずなのにできなかった、ページを捲る手が止まってしまったシーンを。

 

 レミリアがその少女を助けたのは、打算だった。

 これからの復讐の為、エミから全てを奪った偽ピナへの復讐、「星の乙女」としての役割を、栄誉を「エミのレミリア」のものにする為、ヤツの存在意義を全て奪い取る為の第一歩にすぎなかった。

 

 それでも、そんなこと知る由のない少女にとって、颯爽と助けてくれただけではなく、礼の金品を受け取らないどころか「甘いものを食べると少し元気になる」と言ってドライフルーツをくれた彼女は、言い表すならただ一つの存在だった。

 

『聖女さま』

 

 その言葉に、レミリアはキョトンと目を丸くしてから、艶めかしく口角を上げて思った。

 見所のある子だと。

 

 偽ピナからその呼び名を、称号を奪う為、彼女が崇拝するエミにそれを捧げる為の第一歩が成功したから。

 きっと、彼女本人はそう思っている。

 ついつい良い気分になって、施しを与えすぎた訳を。

 

 だけど、狛治からしたらそれは

 その言葉に喜びを見出したのは、エミのレミリアでも、復讐者としてのレミリアでもなくーー

 

 ただ、大好きな人を褒められて自分のことのように喜ぶ、他の誰でもないただのレミリアにしか思えなかった。

 

 そう思うほどに、似ていたから。

 

『……えーと、まぁ、鬼灯君の言う事は極論もいいところだけど、事実なのは間違いないよ』

 

 自分の裁判の時、あの人は極論を言っていた。そしてそれは、確かに極論ではあるが、事実だと認められた。

 許さないことを許してくれた。

 

『だから……、溜め込んだものは正直に吐き出しちゃお? そうやって全部吐き出したら、今度こそ本当にきっと許せるようになるからさ』

 

 全然威厳などない、しどろもどろな言い方だったけど、とても優しい言葉をくれた人の横に、あの人はいた。

 

 笑ってなどいなかった。いつも通り、無表情というか不機嫌そうな顔で鼻を短く鳴らしただけだった。

 

 けれどそれは、どこか誇らしげだった。

 父親を自慢する子供のように思えた。

 

 そんなあの人に、似ていたから

 

 だから、「好きにはなれない」枠に収まっていたはずのこの物語を、「好き」になった。

 

「……何を笑っているんですか、狛治さん」

 

 法廷に狛治が来ていた事に気づいて鬼灯が、大王を金棒でグリグリ痛めつけながら訊く。

 疑問に思っているというより、昨日の雑談と同じく拗ねたような顔で。

「言えるもんなら言ってみろ」と言いたげな顔だった。

 

 なので狛治は、百年経って随分と厚くなった面の皮で言ってのける。

 

「いつも通り微笑ましいなと思って見てました」

 

 狛治の返答に大王は鬼灯の足元で「微笑ましくない! 全然微笑ましくないよ狛治くん!!」と訴えかけるが、やはり百年の年月で上司に似てきた狛治は、こともなげに笑って言う。

 

「地獄らしい微笑ましさですよ」

 

 大人びているようにも、あどけないようにも見える顔で狛治は言う。

 大切な人がそこにいることを、幸福であることを喜ぶ、安堵するような笑顔だった。

 

 

 

 

 

 それは、苛烈で冷酷で愛情深い、美しい復讐姫が最も愛した笑顔にきっと似ていると、乾いた復讐鬼はふと思った。




この話は本編に組み込んでも問題ない、ただの漫画の感想話だけど、スレのレス37の「リィナと童磨が手を組んで孤地獄脱走、レミリア様と鬼灯様達が混ぜるな危険すぎる二人の思惑を粉砕&エターナルフルボッコ」も書きたいと思ってる。
けど多重クロスになるので、チラシの裏にでも別枠で投稿するつもり。
そちらの方にここの設定でリィナ達が堕ちる地獄一覧とか、設定のすり合わせなどのコソコソ噂話も置くつもりなので、気長にお待ち頂けると幸いです
……せっかくモチベが爆発して全回復したのに、年明けから仕事が一番忙しい時期に突入するので更新頻度は本当に期待しないで。
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