「鬼滅の刃」世界のあの世が「鬼灯の冷徹」世界だったら 作:淵深 真夜
「皆さん、お久しぶりです。
早速ですが『小物界の大物』、『千年間不変のアホ』、『癇癪で日中出歩けなくなった男』にして、『原点にして汚点』な鬼舞辻 無惨の十六小地獄巡り、私のストレス発散大焦熱地獄編を開始します」
「あぁ、だから今回の汚名大喜利はシンプルに悪口なんですね」
「開き直って本音を混入させるな理不尽の権化!
そしてお前も何に納得してるんだ猗窩座ぁーっ!!」
いつも通りカメラに向かって挨拶する鬼灯と、簀巻きで地面に転がされ、ビチビチ元気に跳ねながらツッコミを入れる無惨。
狛治の方は昨日の件を全てではないが、鬼灯と恋雪から聞いていたので、鬼灯の八つ当たり発言も、無惨のツッコミにいつも以上の無慈悲速攻で金棒による頭部粉砕をスルーした。
ワーカーホリックぶりはジャーマンを決めてでも咎めるが、ストレス発散なら文句言わず協力する忠臣の鑑である。いやこれが鑑なのもどうよ?
「おい! 鬼灯! 何でもう無惨を潰してるんだ! 俺は今日、無惨の無様を余す所なく珠世様にお見せすると約束したのに!!」
いつも以上に今回は血飛沫が派手になりそうだが、鬼灯の気が少しでも楽になればいいと思いながら、こちらもいつも以上に元上司への憐れみなしで狛治が復活させようとしたタイミングで、本日のゲスト到着。
「あぁ、すみません愈史郎さ……。すみません、カメラ一旦ストップ」
「愈史郎。札を外せ」
「何故だ!?」
自分への文句をきゃんきゃん吠えるゲストに振り返った鬼灯が、一瞬固まってからカメラに、狛治はゲストである愈史郎に冷静に指示する。
言われた愈史郎は、本気で疑問かつ不服そうに叫ぶ。
自分の血鬼術であり、視覚共有の効果を持つ札を両目に覆うようにだけではなく、全身に貼り付けまくりの蓑虫状態で。
「地獄基準でも割と放送事故レベルで不気味ですよ、その姿」
「何でそこまで貼り付けてるんだ? それ、リアルタイムで珠世さんに今の光景を見せる為の札だろう?」
別に恐怖は抱いてないだろうが、人の形の蓑虫というか、お札でできたらムックみたいな愈史郎に、割と本気でびっくりしたらしい鬼灯が真顔で突っ込み、狛治も札の意図自体は理解できているからこその疑問をぶつける。
しかし愈史郎は、札で全く顔が見えないのに「何でそんなこともわからないんだ?」な表情をしてると、確信させる声音で答えた。
「ふん! 珠世様の目にこんな奴が映されるのは業腹だが、珠世様が望むのならば俺は最高の、最上のものを献上するに決まってるだろう!
これはあらゆる角度で、この限りなく完璧から程遠い生物の苦痛を味わう無様さを珠世様にお見せする為のものだ!!」
わっさわさと札を揺らして音を立てながら、胸を張ってドヤ顔で言い切る愈史郎。顔見えてないけど。
しかしその答え自体は予想できていたものだが、予想できていたからこその疑問を狛治は続けてぶつける。
「……それ、珠世さんの視界どうなってんだ?
普通にその札の数だけの視界を見せられたら、酔うどころじゃないだろ」
狛治としては突っ込みではなく、普通に純粋な疑問だった。どのようにその無数の視界を処理して見せているのかが、気になったから訊いただけ。
しかし狛治の問いにお札蓑虫愈史郎は、ドヤって胸を張ったポーズのまま固まった。
「……おい、まさか愈史郎……」
「愈史郎さん、茶々丸さんから連絡来てますよ。
『珠世様が頑張ってくださったが、10秒で倒れた。とっとと外せ馬鹿野郎』と」
「申し訳ありません珠世様ーっ!!」
珠世一筋過ぎて視野狭窄になりがちな悪癖は健在だったらしく、全くその辺りの処理はしてなかったらしい。
そして懸念通りのことが起こっていることを、スマホで茶々丸からの連絡を確認した鬼灯が伝えると、愈史郎は全身の札をビリビリ破りながら、明後日の方向に叫んで謝る。
それにしても、10秒とはいえあの無数と言える視界に倒れるまで珠世が耐えたのは、愈史郎の好意を受け止めてやりたかったのか、それともそれほどの数の無惨残念集を見たかったのか。
多分両方だろうが、せめて前者の割合が多いことを狛治は祈りながら、放置していた頭が本当に無惨なことになってる無惨を復活させた。
なお、珠世を喜ばせるどころか倒れるほどの負担をかけたことに愈史郎はガチ凹みしたが、鬼灯が「この無限視界ジャック、拷問に使えるのでは?」という呟きをキャッチし、この地獄巡りが終わった後に無惨で試し、その効果を珠世に見せるという予定ができたことで復活。
そして視界の元となる人物の動きは激しい方が、より脳がシェイクされるだろうと思われ、お札蓑虫2号に選ばれたのはヒノカミ神楽継承者の炭治郎。
もちろんだいぶ炭治郎は困惑したが、「鬼灯様と愈史郎さんの頼みで、珠世さんとお館様が喜ぶのなら」ということで快く引き受けてくれた。もうちょい躊躇え、本日の元凶。
* * *
「すみません、だいぶ混沌とした放送事故が起こりまして、一旦撮影を中断しておりました。
改めまして、こちらが本日の地獄巡りゲスト、先ほどの放送事故の原因でもあるお札蓑虫の中身、愈史郎さんです」
「何故、放送事故の件をほぼ全部言った!?」
撮影を再開して鬼灯が愈史郎を紹介するが、いらない情報を乗せまくった紹介に愈史郎が軽くキレる。
別に撮影中断させられた事に関しては、鬼灯は怒ってない。むしろいい呵責アイディアが生まれた事で機嫌がだいぶ良くなっている。
だからこそ、なんか言いたかったから言っただけだろう。別の意味でタチが悪い。
「鬼灯様、せっかくカットしたのに気になる情報をばら撒かないでください。
無惨様も『お札蓑虫』が気になり過ぎて、無言で困惑してますよ」
狛治の言う通り、復活させた途端にいつも通りやかましかった無惨が、鬼灯の「お札蓑虫」発言には「は?」と一言だけ発し、その後は本気で困惑した顔で愈史郎を見ている。
その視線に気づいた、キョンシーのように額にだけ紙眼の札を貼った愈史郎が、この上なく不愉快そうに表情を歪め、ズカズカと近づいてきた。
そしてそのまま無惨の顔を踏みつけて、100年経っても健在現役の毒舌を発揮。
「一応は初めましてか。無駄に脳を増やして余計に能無しを露呈させていた奴には、覚えろと言うのは酷だろうが、視聴者へのついでに名乗ってやろう。
俺は、貴様のような薄汚いゴミカスからではなく、天照よりも神々しく華やかで、そして身勝手で怠惰な神と違って慈愛に満ちた珠世様から生まれた鬼の愈史郎だ」
嫌味というほど遠回しではないのに、ネチネチとした言葉のトゲがビッチリ生えた煽りに、踏まれている無惨は屈辱と怒りで顔を歪めながらも、この動画シリーズでは珍しく、怒鳴るのではなくこちらもネチネチとした言葉で返してきた。
「……慈愛? 脳がないのはどちらの方だ?
自分で自分の夫と子供を食い殺し、さらには無関係な者も嗤いながらあの女は食っていたぞ。
私の支配が外れたことと、あの
愈史郎本人より珠世を侮辱した方が効果的だと、働かせなくていい洞察力を発揮した陰険極まりない返しに、愈史郎のこめかみに大きな青筋がビキリと浮かび、同時に無惨の顔を踏みつけていた足を大きく振り上げた。
しかしその足で無惨の頭を踏み潰す前に、後ろから狛治が羽交い締めにして、そのまま引き離す。
「!? 何する狛治! 離せ!!」
「気持ちはわかるし、俺も人のことは言えないが、話が進まないからとりあえず今は耐えろ」
人を食わないからか、それとも珠世産の鬼だからか、無惨産の鬼よりフィジカルが劣っている愈史郎だが、それでも人間の頭をトマトのように踏み潰せるぐらいの力はある。
そんな愈史郎をケロっとした顔で、駄々をこねる子供をあしらうように余裕で押さえ込む狛治の化け物っぷりを背景に、鬼灯はそのまま説明を続けた。
「はい、ご覧の通り耀哉さんや珠世さんと同じく、無惨への復讐者過激派ですが、あのお二人とは違って自制が効かないタイプなので、別に無惨への呵責は好きにしても構いませんが、小地獄紹介ができなくなりそうなので、今までゲストにお呼びしなかった人です」
「お前の認識ではあの二人は自制してたというのか!? あれで!? 特に産屋敷! お前のソウルメイト!!」
そして鬼灯の地獄基準の自制心に、無惨はいつも通り割りと同意できる突っ込みを決める。
悪意を持って煽れば、千年熟成物の性格の悪さでこちらも煽ってくるが、悪意なしのぶっ飛び発言には常識の方が顔を出す事を、狛治に羽交い締めされながら愈史郎は学ぶ。いらん学習すぎる。
「一応、この動画はどのような罪でどの小地獄に落ちるか、そしてそこでの呵責内容の解説動画なので、常にキレ散らかして本来の呵責とは別物にされると困るので、現世からしつこくやりたいやりたいと言われても無視してきたのですが、ある意味いい機会だったので本日参戦してもらいました」
「「「良い機会?」」」
鬼灯の発言に、無惨は「お前こそいつもキレ散らかして拷問をグレートアップさせてるだろうが!!」と、無惨以外が言えば正論な突っ込み、愈史郎は自分の要望を無視され続けた暴露にキレるが、「良い機会」発言には狛治も含めて三者三様に異口同音。
狛治はまだ、「ストレス発散の八つ当たりだから、より無惨様を痛めつけるであろう愈史郎さんがいた方が都合が良かったのか?」と思えたが、彼の予想は外れていないが割合としては低かった。
「実は前々から思っていましたが、機会を逃し続けて実現できていなかったことを、これを機にやります。
大焦熱地獄の呵責内容、大規模変更を!!」
『何で!?』
「そういうことなら俺に任せろ!!」
「「何のどこがそういうこと!?」」
鬼灯の宣言に狛治と無惨だけではなく、撮影スタッフの獄卒達も思わず突っ込む。
しかし愈史郎だけは、何がどうしてそうなったかわかってないが、とりあえず無惨をより無惨にできそうなことだけは理解したからか、いい笑顔で胸を張ってサムズアップし、狛治と無惨から突っ込まれた。
「本日巡る予定の大焦熱地獄。こちらに堕獄するのは仏門の女性に乱暴した者、つまりは衆合の上位互換的な地獄でしたが、時代の変化で現在は善良な人に加害した者が堕獄となっております。
このように、対象はもう既に変更済みで問題はないのですが、ついつい後回しにしてましたがこの地獄の呵責、全体的にぬるい!!」
そこまで言われて狛治も大焦熱の呵責内容を思い出したのか、「あー……」と納得の声を上げた。
一応言っておくが、他の地獄にも一つ二つはある、「イザナミ様、眠かったの?」な呵責だらけというわけではない。むしろ逆に、世間一般でイメージする地獄の呵責内容、切ったり焼いたり刻んだり潰したりという定番揃いと言っていい。
おそらくイザナミ様、眠かったからとか疲れたとかではなく、最後から2番目ということで普通に呵責内容のアイデアもレパートリーも尽きた結果なのだろう。
その為、ここの地獄を単独で見れば別にぬるくなどない、普通に厳しくグロテスクなのだが、他の地獄と比べたら確かに呵責内容がシンプルすぎてぬるく思えるものだった。
「そもそも、なんで対象を改定した時に一緒に変更しなかったんだ?」
「対象の改定なら落とす亡者が変わるだけですが、呵責の改定は大規模だと設備全とっかえとなる場合もありますので、なかなか許可が降りませんでした。
ついでに言うと、対象が『善良な人への加害』と大雑把なものになったからこそ、他の地獄と並行して堕獄してる者がほとんどなので、ここ単独ならともかく複数の地獄の呵責込みならまぁ妥当と思われているのか、被害者側からのクレームもなく今に至ります」
「なら今、私で変更する必要ないだろ!!」
「「お前相手だからこそ改悪するんだよ!!」」
鬼灯の説明に、一番ノリノリだったくせに愈史郎は今更すぎると指摘するが、こちらも納得する理由があったからこそ、またしても無惨が突っ込む。
しかしこれはいつもの自分棚上げ突っ込みだったので、鬼灯と愈史郎が素晴らしいコンビネーションキックを決めて、無惨の頭が生き恥ポップコーンとなる。
「……せめて言葉だけでも、改悪ではなく改変、もしくは改定にしてくださいよ」
早速鬼灯からの学びを活かしてぶっ飛び出す愈史郎と、いつも通りの鬼灯に、疲れてるのか呆れているのかわからないため息を吐きつつ、狛治はちりとりと箒で頭部ポップコーンを回収しながら、ささやかな要望を呟いた。本当にそれで良いのか、狛治。
「あ、狛治さん。
初めに言っておきます。本日は大変申し訳ありません」
「いえ、少しでも鬼灯様がスッキリするのなら俺は別に……」
「すみません。それも謝罪しますが、そっちじゃないです」
生産者責任で鬼灯と愈史郎も無惨ポップコーンを回収しながら、鬼灯が狛治に唐突な謝罪をし、鬼灯のストレス原因を知る狛治は少し辛そうに、それでも穏やかに笑って応えた。
が、別方面での謝罪と言われて狛治に嫌な予感が走る。
「え? どういうことですか?」
「……私も悩んだんですよ。ですが……まさかの未だに当事者意識なしなので、またお灸を据える形として狛治さんが適任なので……」
鬼灯にしてはかなり珍しい、歯切れの悪い言い方だったが、狛治が大焦熱の小地獄を一通り思い出した事で察した。
「……あぁ。わかりました。
なら尚更、鬼灯様からの謝罪はいりません。悪いのはあなたではないですし、俺も『良い機会』と思えましたので」
「そうですか。それは幸いです」
横で聞いてた愈史郎は、何のことか訊こうとしたがやめた。
狛治の雰囲気からして、踏んではいけない虎の尾だと察したからだ。
「こういうのを察せない奴らが落ちる地獄なんだろうな」
* * *
・大焦熱地獄の十六小地獄
「まず最初は、
元は仏教の在家の女性信者に衆合案件が落ちる地獄で、『仏教の在家』とは『仏教徒の一般人』くらいのニュアンスなので、他の小地獄に堕獄するような細かい条件にあてはまらない、『落ち度がない相手を加害した者』が堕ちるその他枠の地獄です。
ご覧の通り、全ての場所が空にまで炎が満ちており、罪人たちは常に焼かれています。
更に獄卒が罪人を巻物のように足から巻いていき、全身の血が頭部に集まったところで釘を打ちつけます。
ここはまだイザナミ様、アイデアを絞り出してくれたので、このままでも良さそうですね」
「常にこのレベルを求めるな!」
なかなかえげつない呵責内容だが、鬼灯にとってはこれでギリ合格らしい。
求めるレベルの高さに獄卒が戦々恐々しながら、無惨に打ち付ける釘の用意をするが、いつも入れている箱の中は空っぽだった。
「おい! もう釘はないのか!?」
『ランボー!?』
耀哉や珠世とは違ってアクティブすぎる過激派に、狛治は止めるべきか好きにやらせるべきか迷っていると、鬼灯は動じた様子なくいつものローテンションで言う。
「愈史郎さん、こちらをどうぞ。
しのぶさん監修、梅さんと座敷童子さん達によるそこらへんの草や洗剤、絵の具やジュースの残りなどを使った子供錬金術の結果生まれた、多分毒です」
「何故、珠世様を呼ばなかった!? 絶対に参加したがるだろう!!」
「そこじゃないわ色ボケ鬼! おい! ここは変更なしのはずだろ!! 余計なものをつけるな!!」
わかっていたが、やはり鬼灯は止めずに追撃をかけてきた。
そして愈史郎が相変わらず珠世ファーストなキレ方をするので、無惨もそちらを先にブチ切れて突っ込む。
「誰が色ボケだ!! 俺は珠世様一筋だ!!!!
罵倒にしてもせめて正確に、珠世様一筋一途ボケぐらいにしろ!!」
「だからそこじゃないわ!! 話を進めさせろ珠世偏執狂!!」
そしてまだ更にボケを重ねる愈史郎。
おそらく愈史郎の札でリアルタイム視聴してる珠世も、頭を抱えて無惨に同意してるから、本当にその辺にしておけ。
「鬼灯様、これやっぱり懸念通り、愈史郎が無惨様を憎む以上に珠世さんが好きすぎて話が進まないのですが」
「大丈夫です。今、珠世さんに連絡して叱ってもらいます」
狛治が子供錬金術の結果に釘を浸しながら、「初っ端からどう収拾つけるんだよ?」をオブラートに包んで尋ねると、鬼灯は既にスマホで珠世にコールをかけていた。
その後、繋がった珠世が切に「本当にやめて」と訴えた事で、愈史郎の珠世ラブによるボケはマシになった。
そしてもちろん、無惨は子供の悪ノリ大人の本気による効果不明の毒付き釘打ちをされた。
ここの呵責を変更させる必要はないが、無惨をより無惨にさせる事を止める理由も特にはなかったから。
* * *
「こちらは
出家はしましたが、まだ僧にはなっていない女性を乱暴した者が落ちるとされていましたが、現在は子供や特定分野の素人など、無知で当たり前な相手の無知さに付け入った者が該当します。
そしてここでの呵責は、獄卒が毛抜きはさみで全身の毛を肉もろとも一本ずつ抜いて苦しめることです」
「「ぬるい!!」」
最初の地獄は頑張ったが、もうここでイザナミ様、呵責のレパートリーが尽きたらしく、愈史郎だけではなく狛治からも即答で、「ぬるい」判定をくらった。
「ぬるくない! お前ら実際されてみろ! 地味に苦痛が長時間続くぞこれ!!」
される本人はいつものように簀巻きでビチビチ跳ねながら、呵責のアップデートを防ごうとするが、鬼灯は真顔で言い返す。
「長時間続くのは毛深い人で、こいつのような薄い人はさっさと終わりますので、改定は決定してます」
「『体毛が』薄いと言えーっ!!
お前、わざとだろ! わざと私をしれっとハゲ扱いしてるだろ!!」
「わざとですがこれは葉鶏頭さんからの強い要望です!!」
「誰だそれ!?」
記録課なので無惨にとってはマジで面識ゼロなベテラン獄卒からの強い要望によるハゲ呼ばわりに、無惨はまた本気で困惑する。
出来ればこの要望、九千年老いて白くはなっても元気だった毛根に対する八つ当たりでないことを狛治は祈った。
「ハゲだかイトウだか知らんが、そんな奴よりここの刑はどうするんだ?
毛を抜いた跡に針でも刺すか? それともさっきの錬金術による謎汁をかけるか?」
「愈史郎、葉鶏頭さんだ。もしくはせめて、ハゲイさん。そこを間違えるな」
ウキウキしながらアップデート案を出す愈史郎の無礼さを咎めつつ、実際どうするのかと考えながら鬼灯に視線をやると、鬼灯はまだギャーギャー喚く無惨を踏みつけながら、スマホを手にしていた。
もちろん鬼灯がスマホやSNS依存症な訳はなく、普通に連絡がきたからその確認をしているだけ。
「……愈史郎さん、『毛を抜いた毛穴にロケット花火の弾頭側を埋め込んで、一斉発射』はどうでしょう?」
「!! 最高だな!!」
「そのアイデア出したの産屋敷だろ!!」
スマホを見ながら読み上げた呵責内容に、愈史郎は眼を輝かせて賛成し、無惨は即座に発案者を当ててきた。
おそらく愈史郎の札で珠世がリアルタイム視聴し、そしてそれを同志の耀哉にお裾分けなのか実況でもしているのだろう。焦熱地獄でも大活躍した、闇深アイデアを速攻鬼灯に連絡してきたらしい。
もちろんこのアイデアは、愈史郎に確認するまでもなくソウルメイト鬼灯は採用していたし、即座に実行された。
* * *
「ここから先が
仏法を正しく身に付けて行っている女性に対しての性犯罪者が該当しておりました。
現在は善良な人間の善意につけ込んで、加害した者が該当」
何故か刑場に入る前に説明が始まり、その事も疑問に思ったが、それ以上に愈史郎は鬼灯の説明で「それ、最初の地獄と何が違うんだ?」と思ったので、そのまま尋ねて狛治が補足する。
「
「なるほど、よりクズが落ちる地獄、つまりは無惨が確定で落ちる地獄ということだな!!」
「ふざけるな! むしろ私の方が、病を治してやったのに、鬼としての力を利用されて加害されただろうが!!」
狛治の説明に愈史郎が納得したが、無惨の方は図々しく納得せず、ツッコミどころしかない被害者面をし出したので、愈史郎は札用の紙束を無惨の口に突っ込んで黙らせつつ担ぎ上げた。
「はい、愈史郎さんストップ。
そのまま突入したら、担ぎ上げてるせいで無惨より愈史郎さんの尻が先に犠牲となります」
「は? どういうことだ?」
無惨を担いで刑場にダイナミックお邪魔します寸前の愈史郎を鬼灯が止め、ブチ切れていた愈史郎も流石にその不穏すぎる忠告は耳に入って足を止める。
「ここには
そして獄卒に縛られた罪人の肛門から侵入、内臓から脳まで食い尽くして頭部を食い破り外に出るっていうのが、ここの刑罰なんだ。
で、虫だから獄卒か罪人かなんて区別はつかず、平等に尻の危機が生じるから、ここに入るにはまずこの特殊繊維の防護スーツか、鉄の褌の着用義務がある」
「後者選ぶやついるか?」
狛治から説明された呵責内容で初めに抱いた、刑場に入る前の説明も解消されて納得したが、最後にとてつもなくどうでもいい疑問というかツッコミどころが投下されたので、ほぼ反射で愈史郎は突っ込んでおいた。
しかし苦笑程度で終わると思っていたら、狛治はやけに遠い目をして、ついでに腰のあたりを摩りながら呟いた。
「……昔はな、選ぶ余地がなかったんだよ」
「……履いたのか、あれを」
「あぁ、そういえば狛治さんや鬼殺隊の方々が大変な目にあってましたね。普通の亡者は重くて履くことすらできないのを、重さはクリアできたのが災いして、履けてしまいましたから」
黒歴史なのかどうかも微妙な昔語りをし出した狛治に、愈史郎も同情なのか呆れているのか微妙な表情と声音で言った。無惨も同じ顔だった。
そして鬼灯は、いつも通りの真顔で何故か狛治だけではなく、当時の元鬼殺隊獄卒たちにも被弾する昔話を思い出す。
「……重さは何とかなったんだが、そもそも人間が履くことを前提にしていなかった、考えたこともなかったらしく……、鬼は人間よりずっと皮膚が厚くて丈夫だから無問題だが、人間が履くとあれ、服の上からでも擦れてえらい事になるんだ……。
あと、ここは火を使わない呵責で本当に良かった。一切方焦熱処とかなら、間違いなく死んでた」
『ひっ……』
愈史郎や若い世代の獄卒は単純にビジュアルが嫌なだけだったが、実用した際のデカすぎるデメリットを狛治は思い出したのか、ひたすら遠い目で語り、思わず愈史郎達は割とガチな恐怖の声を上げて内股になった。
そして内股になりつつ、愈史郎が顔色悪いまま言う。
「つまりは、その褌も呵責に使えるということだな」
「その通り。なので、雨沙火処あたりで履かせます」
まさかの過去に自分や当時獄卒だった煉獄や玄弥を苦しめた、人間用としては大欠陥防護褌が、優秀な拷問器具として蘇った。
もちろん愈史郎に担がれている無惨には、履く前から大不評。
故に鉄の褌はここで似髻虫によって無惨が貫通されてすぐ、しっかり履かされた。
* * *
「はい、テストで漢字間違い率95%超えの、
こちらは国家の危機的状況の混乱に乗じて、戒律を守っている尼僧を襲った者という、本当に救いようのない性犯罪者が落ちる地獄です。
現在は火事場泥棒やボランティア詐欺なども該当しています。
この地獄には回転する刀があちこちに生えており、身動きするとたちまち切り裂かれ、死ぬとすぐ再生し、また切られて死ぬを繰り返します。
ぬるくて甘い!!」
名前に反して本当にイザナミ様、何も浮かばなかったんだなと思うシンプルな呵責に、鬼灯はキレる。
「酸もぶっかけましょう!あと刃に炎を纏わせましょう!!」
「尻にさっきの虫を束で詰め込め!いやもう尻だけじゃなくて目鼻口耳あらゆる穴という穴に!毛穴にもあの虫を詰め込め!!」
「お前らせめて私がここに落ちる理由こじつけろ! 私怨を少しは隠せ異常者ども!!」
そして改訂前も改訂後も、鬼灯が説明で言っていた通り本当に救いようのないカスが当てはまる為、狛治も普通にキレて呵責をパワーアップさせるので、鉄の褌装着済みの無惨が負けじと怒りながら突っ込んだ。
実際、鬼灯と愈史郎はもちろん、狛治も大嫌いな部類の人間相手だから、反省しないのならより苦しんでほしいという、割と身勝手な思いで提案していたのは事実であり、私怨であることを咎められても仕方がないとは思っている。
だが、
「「「お前は間違いなくストレート堕獄だ!!」」」
私怨は事実だが、無惨をここに落とすのはただの事実から出された結果に過ぎないというのに、ナチュラルに図々しく、ここに落とされるのは「こじつけ」と決めつけた無惨を、鬼灯、愈史郎、狛治の三人同時蹴りで吹っ飛ばし、無惨は地面から生える回転刃によって粉々のひき肉となった。
* * *
「お次は
受戒した正行の女性への衆合案件が落ちる地獄とされていました。
こちらも『真面目な人』くらいのニュアンスなので、客が店員に、患者が看護師になど、相手が決して強く出れない立場を利用して、相手へのセクハラ等が該当してます。
暴力・暴言などのカスハラ、モラハラによる金銭や労働力の搾取も当てはまりますが、それらは他の地獄にも該当するものがありますので、ここは元の罪状に合わせて性犯罪を主にやらかした罪人が堕獄します」
堕獄する罪状説明で、先ほど三人にキレられたのに全く懲りず、というか本気で自分は当てはまってないと信じて疑わない無惨が、「だから私は関係ないだろうが!!」といつも通り喚く。
その喚く頭を愈史郎が掴んで地面に叩きつけ、怒りのあまりに息の仕方を忘れかけているのか、深呼吸のような息をしながら搾り出すように言った。
「……あぁ、そうだな。関係ない、関係あってたまるか。だが落ちろ。関係ないが落ちて苦しみ続けろ!!」
何故がここの罪状は無惨は無関係だとブチ切れながらも認めつつ、それでも絶対に堕獄させる気しかない愈史郎。
おそらくは大叫喚地獄のラスト、「十一炎処」の罪状が無惨に当てはまることを認めたら、逆説的に無惨には信頼される人望があったことも認めることとなるので、鬼灯が「無惨はここには該当しない」と明言したのとほぼ同じ理由による言動だろう。
ここに無惨が該当すれば、事実がどうあれ無惨の側近だった珠世が被害者だったのではないかという憶測がたてられる。
パワハラカスハラモラハラ被害者ならまだしも、ここはセクハラをメインとしている為、被害者認定はいわゆるセカンドレイプとなるので、愈史郎はガチギレしながらも最愛の人の尊厳を守り抜く。
その気持ちは狛治にはよくわかる。わかるからこそ、「これ、この空気の中見せていいのかな?」と思って、用意している物を抱えたまま、また煽り合いを始めた二人を眺めていたが、わかっていたが鬼灯が呵責内容を説明しながら容赦無く、狛治が抱えている檻を覆い隠していた布を引っ剥がす。
「ここでは激しい風に吹き上げられてバラバラになり、肉があちこちに撒き散らされたあと、金剛の鼠に喰い散らかされ、芥子粒のように細かくなります。
そして、こちらがその金剛の鼠」
「「何それ!?!?」」
檻の中でムキっとダブルバイセップスやサイドチェストといったボディビルのポーズをとるマッチョな鼠に、思わず素で無惨と愈史郎はハモッて突っ込んだ。うん、本当に何なんだろうね、これ。
「宇髄さんが育て、鍛えてくれた忍獣のムキムキ鼠、金剛の姿です。ご覧の通り知能が高いので、檻の中でも大人しくボディビルのポーズを決めて待ってくれます」
「その情報は謎しか増やしてない!!」
鬼灯が補足説明をしてくれるが、無惨のいう通り情報量がそのまま謎になっている。
「ちなみに宇髄さんのおかげで、金剛だけではなく普通のドブネズミ、ハツカネズミ、ハムスター、カピバラまでこのように立派なマッスルとなっております」
「だから増やすな謎と妖怪を!!」
しかし鬼灯はお構いなしにまた更に謎というか、もう考えるのを放棄するフロントラットスプレッドや、アブドミナルアンドサイ、モストマスキュラーのポーズを決める鼠集団を紹介してゆき、無惨が一番真っ当なツッコミを入れる。
一応、金剛鼠以外は普通の鼠のはずだが、そっちの方が無惨の鬼化並に謎なので、もう妖怪でいいや。
とりあえず、愈史郎の憎悪や怒りが肩メロンな鼠達のおかげでぶっ飛んだのなら良いことだろうと狛治は思う事にして、狛治は無惨の足を掴んでぶん回し、吹き上げる風にぶん投げて投入した。
* * *
「
仏門に入ったばかりの尼僧を襲った者が落ちるとされていましたので、新人へのパワハラ、モラハラ等で虐げた上でのセクハラが該当します。
吒々々嚌処とは、こちらは店員などグループの外側に向けられるクレーム、雨沙火処は家族やら会社や学校など、組織やグループ内という内に向かうハラスメントといった違いですね。
こちらには500
忘れがちだがこの動画は小地獄の紹介や解説という体裁の動画なので、鬼灯が細かくよく似た罪状で落ちる地獄と何が違うのかを説明したが、やはり呵責内容説明で体裁のオブラートは破れて本音が出る。
「普通に甘くなどない上に、既に私は鉄の褌なんて訳のわからないものを穿かされているんだが!?」
改定という名の改悪をまた鬼灯と愈史郎が思案する背後で、ムキムキねずみーズにえっさほいさと運ばれてきた無惨が、認めたくないが割と正論をぶつけてきた。
「ふむ、とりあえずの追加要素はこのアイアン褌で良いとして……それでもやはりもう一捻りは欲しいですね」
「くそっ! 悔しいが大抵のアイデアはやはり他の地獄で出尽くしてるな」
もちろん無惨の正論が鬼灯にも愈史郎にも届くはずがなく、背後の「もう雑巾なら引きちぎれてるぐらい既に捻ってるだろ!!」という新たな正論ツッコミを無視して、鬼灯と愈史郎はアイデアを絞り出そうとする。
だが愈史郎の言う通り、もう既に百を超える地獄の刑罰から新たな刑罰を生み出すのは困難だった。
実行前はイザナミに文句をつけていた鬼灯も、これはイザナミ様頑張った方だと認識を改めながら、頭を捻って実行可能そうなものを口にする。
「ただでさえ規模の大きな刑場なので、施設や設備を丸々変えるのは避けてとなると……褌の素材等を変えるぐらいですかね。鉄からウランにでもしましょうか」
『あの世を汚染させる気か!?』
結果、大迷走の果てに本当に捻り過ぎて引きちぎれたアイデアが真顔で飛び出たので、これは流石の過激派愈史郎も顔真っ青で突っ込んで止めた。
そして鬼灯にこれ以上考えさせてはいけないと判断した狛治は、速攻で耀哉に連絡を取って呵責内容を考えてもらった。
結果、「精神面を攻撃しよう」と1/Nの揺らぎボイスで即答され、後日無惨は鉄製褌から鉄製女性用下着という更にカオスとなった装備着用で大火炎の中に放り込まれた。
もちろん、本日は褌で放り込まれた上での後日もである。
* * *
「こちらは
三宝に帰依し、五戒を受けた女性に対して非法な事を行った者が落ちるとされていました。
『三宝に帰依』も『五戒を受けた』も、目上を敬うや品行方正ぐらいのニュアンスなので、真面目な人をたぶらかして犯罪に巻き込んだ者が堕獄します。
ここはご覧の通り、かなり広くて刑場内に5つの山があり、そこで一つ一つの呵責を受けながら進んでいくという、RPGみたいとよく言われる地獄です」
「アイデア尽きたから数で勝負し出したな」
以前、火車と辛子を連れてメンテがてら冒険した地獄だが、ここも燃えている山を越えたり、岩が飛び交う山を越えたりと、呵責内容はやはりシンプルであり、愈史郎の言う通りイザナミ様、完全に質より量方式で決めたと思えるものだ。
「一応最後は、ちょっと独創的だぞ?
『
「阿鼻地獄に落ちてる間中すでにされてるわ!!」
「つまりは効果ないってことだな、共感性皆無の虫以下ゴミクズ汚物が」
一応イザナミの努力をフォローしようと思ったのか、狛治が最後の山がどんなものか具体的に説明したら、既に同じことをされていると無惨が切れたことで、見事に愈史郎が「絶対余計に痛めつけてやる」と決心させた。お手本のような藪蛇と墓穴掘りである。
「無惨と愈史郎さんの言う通り、無惨にはすでに同じことをしているのに加え、いっそ羨ましいぐらいに反省も自我崩壊で大人しくもならないことと、あと火車さんの要望である『やはりラスボスが欲しい』を反映した結果、用意しました」
「ラスボスを?」
「お前の式神でも鎮座してるのか?」
ここの地獄はすでに改定アイデアがあり、実行しているようだが、それがまさかの更にRPG要素を強めるラスボス配置。
そして地獄のラスボスと言えば、閻魔大王ではなくこの鬼神であることを、狛治だけではなく現世住みの愈史郎も理解していたらしく、困惑しながらも予想を口にする。
「いえ、私ではありません。縁壱HELL式です」
『そこに使われてるのかあれ!!』
大叫喚地獄で活躍したのか持て余されてるのか謎だった千手ロボ再登場に、狛治と獄卒、そして無惨のツッコミが唱和する。
愈史郎のみが知らなかったのでキョトンとしていたが、実物を見ても更にキョトンだった。当たり前だ。
ついでにやはりデカ過ぎて多すぎる腕を使わず、巨体を活かしてヒノカミ神楽ステップで無惨を踏み潰すのを見て愈史郎は、「なんの意味あるんだ、あれ?」と容赦ない突っ込みを入れてくる。
「…………無惨とあとは巌勝さんへの精神的な呵責用?」
「巌勝もこの間見て、嫌がるどころかただひたすら困惑してましたよ」
鬼灯も自分の回答が疑問系だったし、狛治から意味なかったという事実が報告され、縁壱HELL式はほぼこの地獄のランドマークとなることが決定した。
* * *
「こちらはアナウンサー泣かせと評判の、
僧侶でありながら戒を受けた女性をたぶらかし、財物を与えて関係した者が落ちるとされていたので、口止め料として金をばら撒き、被害者が泣き寝入りするしかない状況にした者が現在は落ちます。
呵責内容は炎の刀が皮膚をはぎ、肉がむき出しになった所をさらに炎で焼きながら、獄卒が溶けた鉄を身体に注ぎ込みます」
「しまった……。
ここも狛治が特に嫌うタイプの罪人が集まる為、率先して刑をグレートアップさせようとしたが、他の呵責がシンプル過ぎた所で既にここと同じ事をしていたと気づき、頭を抱える。
というかイザナミ様、呵責が思いつかないなら名前を凝ろうと無意味な迷走してない?
「そもそもこれも落ちる謂れは私にはない!!」
そんな狛治の嘆きと、愈史郎がうんうん唸ってアイデアを搾り出そうとしている背後で、無惨はいつも通りの抗議。
腹が立つことに、今回の抗議は正当。少年誌ガードでそう言う描写がなく、可能性は高いが断言出来ないではなく、鬼という圧倒的なフィジカルと、姿を自在に変えられる能力、人喰いという特性から、金をばら撒くなどしなくても無惨は証拠隠滅や逃亡の手段に事欠かないからこそ、最悪の意味での無罪だ。
だからこそ狛治も愈史郎も、無罪だからこそ絶対に落とす! と論理としては矛盾、感情としては筋が通り過ぎている決意を固め、そして鬼灯も当然、彼らの決意を無駄にはしない。シリアスは消し飛ばすが。
「大丈夫です、お二人とも。ここの呵責改定案は既に出来ています。
ここも被害者の苦痛を考えれば、肉体面より精神面を攻撃すべきです。なので! ここでは溶かした鉄を使用しますので、それを使って雨沙火処で耀哉さん考案の鉄製女性用セクシー下着作りの鋳型として亡者を使いましょう!!」
「お前の頭が絶対に大丈夫じゃない!!」
まさかの耀哉考案カオスすぎる精神攻撃を応用してきて、無惨が本当に否定できない突っ込みを入れる。
「あ、正確には亡者を潰して鋳型ではなく、人の形をした亡者に飴細工のように溶かした鉄を垂らして、レースのような絵柄を描こうと思います。これなら日本の技術力が光り、海外からの良い観光名所にもなるでしょう」
「そんな観光名所、俺は嫌すぎるんですが」
実際に大丈夫じゃなさすぎる補足説明に、怒りで昇っていた血の気が一気に戻った狛治が冷静に突っ込み、鬼灯と愈史郎はちょっと拗ねながら観光名所化は諦めた。
アイアンセクシー下着作りに無惨を使うのは、当然止めなかったが。
* * *
「
こちらは嫌がる相手と無理矢理に関係した者が落ちるので、昔から変更はありません。
ただ権力や口車での脅迫によるものは、他の地獄の管轄なので、ここはシンプルに力ずくでの犯罪が該当します。
ここでは暗黒の中で高熱の鉄の杖が雨のように降り、ご覧の通り罪人に次々と突き刺さります」
カメラに向かって淡々と堕獄条件の罪と、呵責内容を説明する鬼灯に、撮影スタッフの獄卒は怯えながら確認を取る。
「……あの、鬼灯様。狛治さんだけじゃなくて愈史郎さんも、さっきから素手で杖を無惨に向かって無言で槍投げし続けてるんですが」
「どちらも傷は治りますので、満足するまでさせてやりましょう。
私たちはその間に、改定案を考えます」
シンプルにトップクラスで逆鱗な罪人揃いの地獄な為、狛治だけではなく愈史郎も手が灼熱の杖で火傷どころじゃなくても意にも介さずぶん投げまくるのを、本人の意思を尊重して鬼灯は無視した。
結局、二人が呵責をやめたのは「返しのついた棘付きの杖をぶっ刺してから、それを引き抜く」という改定案が出されて実行し、無惨にも他の亡者にも大不評で満足してからだった。
* * *
「はい、こちらは
ここも善を治めた人物を女性に誘惑させて堕落させた者、つまりは単純にハニトラをさせた者が落ちるので、元と変更はほぼしておりません。
ちなみにあくまでハニトラを指示した者であって、本人が行えば衆合の脈脈断処に落ちます。
ここの刑場では、金剛さえ突き破るほど鋭い嘴を持った虫が、罪人の骨の髄まで食い荒らします」
「ここの虫はムキムキじゃないのか?」
「いてたまるか!!」
「天元への期待がデカすぎる!!」
愈史郎のナチュラルな無茶振りに、無惨と狛治が同時に突っ込む。
鬼灯の方は心の底から、「残念ですが流石に無理でした」と答えているので、多分宇髄は「虫もムキムキにできますか?」と一度は問われている。ムキムキな虫って何?
「なのでここでは、こちらの方の協力を仰ぎました」
『ひいっ!!』
「なんだい、いきなり悲鳴なんて失礼だね!」
自分以外の全員に「ムキムキな虫って何だろう?」と、どうでも良すぎる疑問を植え付けておきながら、鬼灯はさっさと切り替えてここの呵責改定の協力者? を紹介し、またしても鬼灯本人以外に恐怖の短い悲鳴を上げさせた。
上げもするだろう。やってきたのは数千、数万と思える多種多様な羽虫の大群。
その先頭だった日本スズメバチがプリプリ怒るので、狛治は頭を下げる。愈史郎はちゃっかり、狛治と鬼灯の後ろに隠れている。
「こちらはさるかに合戦でカニに加勢してくれた蜂どんです。メスなので、蜂さんと言うべきでしょうか?
まぁ、とりあえず天の御柱様に話を通してもらい、彼女をリーダーとした虫集団による呵責、名付けて映画、『フェノミナ』の刑を試してみます」
どんな映画? と狛治達は思うが、すぐに考えるのをやめたし、「絶対に見ない!!」と心に決めた。
蛆虫プールで察して、お願い。
* * *
「
自分と関係しなければ王に讒言して罰を受けさせると脅迫し、立派な僧を誘惑して堕落させた女性が落ちるとされていたので、現在は性別関係なく、権力を利用して相手を加害した者となります。
呵責は、鉄のヤスリで肉を削り落とされること」
「狛治! 便所ブラシ持ってこい!!」
「よしきた任せろ!
「何でノリノリなんだ猗窩座ーっ!! これも私は何の関係もないわ!!」
こちらもまた悪い意味、無惨がトップだからこそ虎の威を借る狐で他者に何かしらの強要などしたことがないという意味で無罪なのだが、だからこそ愈史郎も狛治も殺る気に満ちていた。
「しまった……、落とす地獄の順を逆にしておけば蛆虫の皆さんが余計に元気よく活躍してくれたのに」
「貴様は貴様でどこを後悔してるホラー映画を一番見せてはいけないタイプの異常者!!」
そして使用済み汚物の掃除用具をヤスリ代わりに使用されるということで、更に効果的な呵責に気づいてしまった鬼灯の後悔に、狛治もフォローしてやれない評価で突っ込む無惨。
いや本当に、あの映画を見て実行に移す鬼灯は地獄だから許されるタイプであり、現実なら「ムカデ人間2」の主人公と同類認定されても文句は多分言えない。
「……なるほど。呵責のネタに困れば現世のホラーやスプラッタ、ゴア映画を見て探せばいいのか。
無惨、今は素直にあなたに礼を言いましょう。ありがとうございます」
「違うそうじゃない!!!! 本当にそうじゃないから礼を言うな見るな参考にするな!!」
まさかの鬼灯を慕う連中でも否定できない無惨評を、イザナミ様同様にネタ切れしていた鬼灯は天啓と言わんばかりに受け止めるというミラクルCな着地を決めて、無惨は自業自得なんだか不条理な不幸なのかよくわからない墓穴を掘った。
この地獄巡りの後、鬼灯はホラー映画仲間のしのぶと共に、現世の内容はクソでも発想がぶっ飛んでてゴア描写に力を入れてる映画を片っ端から集めて見まくったという。しのぶさん、よく付き合ったな。
* * *
「
酒に酔ってのセクハラ等で落ちる地獄です。
一応、相手に酒や薬を盛った場合や、いわゆる準強姦罪、拘束などで抵抗できないようにした者は、叫喚地獄の
ちなみに酒に酔ってという時点で、100% 鞞多羅尼処への堕獄条件も踏んでますので、ここ単独で落ちている亡者はいません。
そのせいか、亡者が他の地獄に行ったり来たりが多くて、刑場が過密にならないので比較的ここ担当の獄卒には余裕があるため、何とここでは亡者が呵責内容を選べます。
罪人が灼熱の炉に入り、獄卒がふいごで火力を強めるか、太鼓の中に入って、獄卒がそれを激しく打ち鳴らすかの2択です」
「意味あるのかその選択肢」
「もはやその無意味な選択させること込みで拷問ですよね」
叫喚地獄にほぼ同じ罪状で落ちる地獄があった為、そことはあえて差別しなかったからこそ生まれた、やや特殊条件な余裕による選択肢に、愈史郎が端的に切れ味鋭い突っ込みを入れ、狛治も遠い目で同意する。
「そうですね。何となく後者の方がマシに思えますが、前者よりどういう苦痛か想像しにくいせいで、実際は同等の苦痛だというのに無駄に悩ませるので、もはやこれも拷問の一環と言っていいでしょう。
なので、無惨。あなたには選択肢を更に選ばせて差し上げます」
「その話されて喜ぶと思ってんのか!?」
「まあまあそんなこと言わずに、お選びください」
鬼灯も狛治の突っ込みに同意しながら、地面に転がる無惨の前にしゃがみ込んで、見せる。
「先ほどの呵責に加えて、『ムカデ人間』の刑か、『Mr.タスク』の刑。お好きなのをどうぞ」
「先ほどの私の失言を早速活かすなクソ映画愛好家!!」
マッドサイエンティストによる人間改造物の胸糞映画有名どころのDVDパッケージを二枚広げて、選択肢に加える鬼灯に、無惨は自分の発言を失言と認めてキレた。そりゃ、これは認めるわ。
「失礼な。『ホーム・アローン』の刑も考えましたが、設備を揃えるのが大変なので後回しにしただけで、私はちゃんと名作映画も見ますよ。
まぁ、お前を落とす地獄を増やす為なら私は地獄のアサイラムとも、アルバトロスとでもなってやりますが」
「無惨様や他の亡者だけではなく、獄卒の精神もキそうなのでやめてください」
鬼灯は割と見てみたいかもしれない新地獄案を出しながら、クソ映画愛好家であることを否定しつつも、本気で要らなすぎる覚悟を宣言し、狛治に速攻で止められた。残念でもなく当然。
ちなみに増えた選択肢を当たり前だが無惨はどれも選ばないので、愈史郎が選んだ「Mr.タスク」に決定。
ムカデ人間と最後まで悩んだが、それなら材料として無惨の他に童磨、魘夢、半天狗、玉壺を使うべきだと鬼灯が判断して、ムカデ人間は後日見送りとなった。
選ばれた映画がどんな内容かって?
セイウチ人間の映画だよ! それ以外は知らない方がいい。マジで。
* * *
「
特別な儀式の最中であるにも関わらず、不貞を働いた者が落ちるとされていたので、今では不倫や浮気のアリバイ作りに仕事や法事、介護等を利用した者を落としています。
一見すると平和そうな林があり、罪人がそこに逃れるとそこの湖に潜んでいた巨大な千の頭の竜……実際は千頭の首長竜なんですが、まぁとりあえず竜によって罪人は口の中で噛み砕かれます」
未だ転生していない水棲恐竜等が大活躍な刑場なので、狛治だけではなく愈史郎も少し少年心で目を輝かせながら、湖と恐竜達を眺めて言った。
「治さずそのまま連れてきたかったが、刑場が湖なら治して正解だな。セイウチになったおかげで逃げられたら、珠世様に申し訳ないからな」
「嬉しそうな理由そっちなのか」
残念ながら、狛治の予想と違って愈史郎に少年心によるロマンはなかった。あるのはどこまでも珠世愛による珠世ファースト。
「あんな見かけのみの改造によるセイウチ化で逃げられるわけないだろ!」
「あなたなら根性で逃げられそうという、負の信頼があるんですよ。
ところで愈史郎さん。首長竜に食われる刑だと遠目でよく見えませんので、こちらの水槽の三葉虫に食われる刑でどうでしょう?」
「素晴らしいな! 頭を押さえつける役は任せろ!」
狛治もドン引き改造セイウチ化から一応人間に戻された無惨が、狛治も素直に凄いなと尊敬するぐらい元気に突っ込みしている所、愈史郎はウッキウキで無惨を水槽に沈めて、札越しに珠世に実況中継し始める。
「それ、本当に喜ぶのか?」と狛治は思うが、以前のダーウィン賞回で、狛治でなければ恋に落ちそうなぐらい煌めく美しい笑顔をしていたのを思い出し、「もう本人達が楽しいならそれでいいか」と思考を投げて、彼もまた無心で三葉虫によるサリサリザリザリと音を立てる無惨捕食を眺めることにした。
* * *
「お次は、
教典などを学んでいる善人の恋人や配偶者、またはその子供などをだまして関係を持った者が落ちます。
つまりは円満な関係同士の者に虚言を吹き込んで疑心暗鬼に陥れ、破局させた者が該当する為、恋愛や夫婦、親子関係のみならず、友人や仕事関係も含みます。
このようにここはびっしりと刀が生えたヤスリのような床があり、獄卒が罪人をこの床にすり付け、形がなくなるまで擦り減らされる紅葉おろしの刑です」
「山葵と山椒とペッパーXはどこだ?」
「地味に料理扱いするな!!」
呵責内容説明で、速攻刺激物を探し出す愈史郎。無惨のツッコミ通り、毒物ではなく一応は調味料なのは、多分鬼灯の「紅葉おろし」発言のせい。
「それでもいいのですが、こちらはどうでしょう?
しのぶさんと珠世さん監修、妓夫太郎さんも加わった子供錬金術のたぶん毒な謎汁第2弾です」
「やっぱり参加してたかあの女! というか妓夫太郎まで何してんだ!?」
そして鬼灯は、愈史郎が抗議するまでもなく次回は誘われて参加していた珠世と、妹に付き合っての妓夫太郎という、毒のプロが二人増えた子供錬金術の結果を取り出し、愈史郎に渡す。
流石に妓夫太郎は無惨に使われるとは思ってなかったが、知っても「まぁいいか」で終わることを無惨も知らない。妹に「堕姫」なんて名前をつけた挙句、頭の悪い子供として見下していたのを知ったので、妓夫太郎の無惨に対する恩義や感謝はとっくの昔に枯渇していた。
「何だその無惨に使うにはむしろ勿体無い素晴らしき毒物は!」
もちろん愈史郎は愈史郎自身が飲みそうなテンションで受け取り、嬉々としてヤスリ状の床にぶっかけた。
そして無惨の体に緑色の発疹が「活きよ」で治してもしばらく消えなかったという効果で、狛治だけではなく鬼灯も軽く引いた。
* * *
「
自分の子供の配偶者に衆合案件という最低の下衆が該当していたので、現在は範囲を広げて親族や友人等の恋人や配偶者を寝取った者、もしくは寝取りはしなくても意図的に破局させた者を堕獄させています。
呵責は、沸騰する釜の中で他の罪人共々煮られた後、杵でつかれて一塊の団子にするという、これまたシンプルすぎてただの料理になってますので、改定したいのですが……何か……何かないか! 私の見た呵責に使えそうなぶっ飛び映画!!」
「探すな! そんなもん記憶に残すな!!」
本当にイザナミ様、レパートリーが尽きたんだろうなと思わせる呵責に、鬼灯の方も脳内DVDコレクションを漁って、何かしらの呵責アイデアを搾り出そうとするが、「キラートマト」と「シャークネード」が邪魔して他が思い浮かばない。
「というか、鬼灯様の合格レベルに達する内容の映画ってそんなにあるのか……」と狛治は、自分の知らない世界を知らないままでいたいなと思いながら、彼も何か案はないかと頭を捻る。
ちなみにここも普通に無惨はやらかしてないのだが、ここの場合は少年誌ガードで確認が取れないという事情なので、やってないなら被害者いなくて良かった良かったという思考で落とす気しかない。
「鬼灯、映画でネタ探しはいい考えだと思うが、そこにこだわって他の考えが浮かばないのなら本末転倒だ。
この地獄の呵責は確かに甘いが、既にいいヒントはあるだろう」
そんな無惨の全然同情できない理不尽を尻目に、本日の小地獄めぐり最終段階な為、本当にネタが思いつかない鬼灯に、愈史郎はドヤって口を出す。
「ヒント?」と不思議そうに尋ねる鬼灯に、愈史郎は言った。
「料理みたいな呵責なら、料理をヒントに探せば良い。よく考えたら狂気的とも言える料理なんていくらでもあるだろう?
「鬼灯様、ここの呵責が終わるまで俺は向こうで待機してます」
「どうぞ。次の刑場に向けてゆっくり休憩なり準備運動でもしておいてください」
「待て猗窩座! 私を置いていくな!! せめてツッコミをしろ! 私でキビヤックして本気でどうするんだ!?」
愈史郎のトラウマ直撃発案に、狛治はツッコミを放棄して立ち去ることを選んだ。
狛治だけではなく珠世のトラウマも踏んでいるので、鬼灯が愈史郎にアイアンクローしながら狛治を見送る。
愈史郎も頭を握りつぶされかけながら、「申し訳ありません珠世様!! 狛治も今のは本当に悪かった!! 食わないから! 食うこと前提としてないから!!」と、流石に珠世だけではなくちゃんと狛治にも謝った。
珠世のトラウマは知っていても、食人衝動は少量の血で済んでいたので、愈史郎にとって料理なんて知識でしか知らないもの、その出来上がったものに食事という行為があることをすっかり忘れるレベルでご無沙汰だったからこそ起こった地雷踏みであり、それを初めから割とわかっていた狛治は普通に許し、珠世からも「気にしなくて良いから。いい呵責のアイデアを出してくれてありがとう」と連絡があったので、無惨のドン引きクッキング(食べません)は実行された。
許すのはともかく、GOサイン出すのか珠世様。
意外とトラウマを克服できてるのか、それともトラウマだからこそ無惨にやってやりたいという闇なのかは、考えない方が幸せだろう。
* * *
「最後は、
命を救ってくれた恩人の恋人や配偶者に対する性犯罪者が落ちるとされていたので、変更点は対象を恋人や配偶者だけではなく子供や友人といった関係者も含むようになったのと、罪状の範囲を性犯罪以外にも広げたくらいですね。
ここでは沸騰した河の中で逆さに煮られ、巨大な魚に喰われます。
そして、無惨の前にこちらのゲストを紹介しましょう」
「「ゲスト?」」
やっぱりイザナミ様が力尽きたとよくわかるシンプル呵責を告げてから、何故か最後の最後に愈史郎も知らないゲスト紹介が始まり、不本意だが無惨と一緒に首を傾げる。
「何だいきなり!? 離せ! ふざけるな良い加減にしろ!!」
そして喚きながら獄卒に連れられて出てきたのは、顔立ちこそは整っているが、卑屈さが表情に滲み出ている男。
一目でいつも隣の芝生を羨み、他者に責任転嫁ばかりしているのだろうと、ある意味では良心的なまでに表している男と、顔立ちは全然違うのに、兄弟かと思いそうなほどそいつと似たり寄ったりな表情をしている数人が前に出されて、愈史郎も無惨も余計に「誰だ?」と困惑。
「くそっ! 何で俺がいつまでもこんな目に……あいつはとっくの昔に自由の身なのに、何で俺は……」
「そういうとこだって、毎日教えられてるはずなのに、よく忘れられるな」
ブツブツと自分の現状を納得してない文句を俯いて呟く、最初に連れてこられた男の前に立ち、心底呆れたような声音で言った。
その言葉に男は「何だと!?」と激昂して顔を上げるが、声の主を確認した瞬間、血の気が一気に下がって真っ青になった。
「……約100年ぶりだが、流石に俺の顔と何されたかは覚えてるのか。
なら何で本当に、いつまで経っても自分のしたことが理解できないんだ?」
狛治は自分を見た瞬間、腰が抜けた男を見下ろしながら、今度は呆れも通り越して本気で不思議そうな顔と声音で尋ねる。
当然その答えは返ってこないので、代わりにか鬼灯がカメラに向かって、今回の特別ゲストを紹介する。
「こちらは狛治さん達の悲劇の大元凶、剣術道場のバカ息子と、井戸に毒投下という大規模心中でもしたかったと言われた方が納得することを唆した取り巻き達です。
まさかの死後から200年以上経ち、しかも2,3年に一回は汚い花火大会が行われてるというのに、未だに罪悪感や反省どころか、当事者意識がないという有様なので、大変申し訳ないのですが、記念したくもない第50回目汚い花火大会は、初回でわかっていましたが殿堂入りを果たした、彼らを殺害した加害者でありながら、被害者筆頭である狛治さんによる渾身の花火をお楽しみください」
鬼灯の宣言に、血の気が更に下がって全員の顔色が紙の色になる。
狛治がもう関わりたくもないから参加しなかった汚い花火大会で、反省どころか自分たちがこんな目に遭うのは狛治のせいだと他責し続けていたが、いざ本人を目の前にしたら流石に威勢よく罵倒することはできないらしい。
この辺りは本当に感心したくないが、無惨の方が度胸と自信があって凄いと狛治は思いながら、バカ息子をしばし眺める。
バカ息子はガチガチ歯の根を鳴らしながらも、それでも上辺だけの謝罪で命乞いはしなかった。
それがプライド故の虚勢なら、無惨に対してと同種の敬意が生まれたかもしれないが、無惨ほど突き抜けていないからこそ、相手は底なしの愚か者だった。
「な、な、何で……俺がこんな目に……こんな地獄に落ちるんだ? か、関係ないだろ!」
バカ息子の発言に、狛治は腕を組んだまま無言で見下ろし続ける。
何も答えず、ただ温度のない目でじっとバカ息子の目を真っ直ぐ見続け、目を早々に逸らしたのはバカ息子の方。
「……ここの地獄は、恩知らずが落ちる地獄。
命を助けられたにも関わらず、その恩人や恩人の大切な人に危害を加えた者が堕獄します。
これでも、心当たりはありませんか?」
目を逸らしたバカ息子に、鬼灯は木転処という小地獄落ちに該当する罪を教えてやる。
その言葉に対する、バカ息子の反応はたったの一言。
「はぁ?」
「何言ってんだこいつ?」と、相手をバカにした疑問を、たったの一言で如実に表していた。
誰がどう見ても、本心から心当たりがない、訳のわからない因縁をつけられてイラついている声音。
その反応に対して、狛治は場違いなまでに穏やかな笑顔を浮かべて言った。
「……恋雪さんを連れ出しておきながら、発作を起こして倒れた彼女を道端に放置して逃げ帰って、彼女を連れ出したことすら恋雪さんの虚言だと嘯いていたお前達に、酷いことをしないでほしいと頼んだのは、死にかけた彼女本人だ」
狛治の言葉に、バカ息子は目を見開いて「……あ」とだけ声を漏らす。
事実を指摘され、思い出しても、無惨のように「それがどうした?」と本心から助けられた、庇われたとは思わない、最悪な方向での心の強さなどこの男にはない。
あるのは、ここまで言わないと思い出せないぐらい他者を顧みない自己愛と、ひたすら自分を守ろうとする他責思考という、最低な弱さ。
その証明に、バカ息子は更に歯をガチガチ鳴らし、体も出力最大のマッサージ機並みに震えている。
どれだけ自分の態度が相手の神経を逆撫でしていたかは理解できているようなのに、やはり謝罪の言葉は出てこない。
恐怖のあまり言葉が出ないのではなく、やたらと忙しなく動く視線が、何か言い訳になるものはないか、責任を押し付けるものはないかを探しているというのを、狛治は裁判で嫌になる程見てきたので知っている。
「……なぁ」
それでも、狛治にとってこれは慈悲だった。
出来ることなら自分だって、もうこんな奴らのことで煩わされたくない。
最初から巻き添えにしてしまった、門下生というだけでほぼ無関係だった人達や、無理やり嫌がらせに加担させられていた者、嫌がらせをしていたがあの世で本気で反省し、呵責を受け入れて自分に謝罪してくれた人達のように、許してやりたい気持ちは本心だ。
だから、訊いた。
「恋雪さんに何か、言うことはないのか?」
愈史郎はかつて、無限城にて善逸の兄弟子であった鬼に、特に意味はなかった、ほぼ八つ当たりの嫌がらせで言ったことをふと思い出した。
『人に与えない者は、いずれ人から何も貰えなくなる。
欲しがるばかりの奴は結局、何も持ってないのと同じ。自分では何も生み出せないから』
その時の自分の言葉の典型、良心的なまでにわかりやすい虎の尾にすら気付かず踏みつける阿呆は言った。
「! そ、そうだ! 恋雪が見たら悲しむし怖がるだろうな!!
地獄に落ちても俺たちを殺すお前なんて見たら、あいつはまた発作を起こしてあの世でも死ぬぞ!!」
バカ息子の発言に、愈史郎どころか「何だこの茶番は?」と普通に声にも出して見ていた無惨まで、ポカンと呆気に取られる。
癇癪持ち自己中の見本のような無惨でも、千年間人間社会に溶け込んで生活していただけあって、地雷でなければ多少の不快さは我慢して、「すみません」と上っ面の謝罪を口にして流すくらいはできていた。
だからこそ、ここでこの発言は本気で理解できなかったらしく、蜜璃に腕をもぎ取られた時並みのビックリ顔で「は?」とだけ言って固まった。
鬼灯の方は、予測できていたからこそ、頭痛を堪えるよう片手を頭にやって、盛大なため息をつく。
恋雪が父親と狛治、そして自分を背負って道場まで連れて帰ってくれた人に、「酷いことをしないで」と頼んだからこそ、試合という形で穏便に終わったということは理解しているが、奴の中では「そもそも恋雪が発作を起こさなければ、少しぐらい我慢してたら良かったのに。大袈裟に倒れて事を大きくしやがって」という考えが根本にある事を鬼灯は知っていたからこそ、全く反省してなくても狛治に協力は求めなかったが、一世紀経って本当にどうしようもないなと判断された結果が今だ。
「……そうか」
笑顔で狛治は、まずそれだけを言った。
その直後、狛治の足が垂直に跳ね上がり、バカ息子はガチガチ歯を鳴らしていた為、盛大に顎を蹴り上げられた衝撃で自分の舌を噛みちぎりながら上空へ高く蹴り上げられた。
この時点で、頭と胴体が千切れてないのは、まだ狛治が力加減が出来る程度に冷静な証だろう。
高く高く花火玉のように打ち上げられたバカ息子に、ようやく言われた意味を頭が理解出来たのか、狛治から貼り付けた笑顔が消えて、憤怒を露わに叫ぶ。
「確かに恋雪さんは発作を起こすほど泣いて怯えるだろうな!!
お前の理解不能な他責思考に!!!!」
狛治は恋雪を自分の暴力の正当化には絶対に使わないし、理由にだってしたくない。無理矢理にでも他の理由をこじつけたかったが、これだけは許せず叫ぶ。
自分が絶対に使いたくない責任の転嫁先に、何の躊躇もなくバカ息子は使い、そして奴自身が殺しておきながらあの世でも死ぬと軽々しく言ったことを許せる訳がない。
「空式! 飛遊星千輪! 鬼芯八重芯!! 空式! 乱式! 流閃群光!! 鬼芯八重芯!! 万葉閃柳!!!! 空式! 冠先割! 乱式! 滅式!! 冠先割! 流閃群光!! 「どっせい!!」 飛遊星千輪!! 青銀乱残光!!!!」
そしてそのまま、技を連続で出しまくる。特に技名もない小技も間に挟んで、ヒノカミ神楽ほどスムーズではないが、しっかりコンボを決めて、獄卒達が投げ入れた取り巻きにもしっかりブチ決めて、初回で殿堂入りも納得の汚い花火を完成させる。
終式である青銀乱残光でフィニッシュを決めて、もう何人分かわからなくなった肉片が、本来の刑罰である沸騰した川の中に落ち、魚の餌となる。
流石に肩で息する狛治には鬼灯と愈史郎、そして獄卒達からの盛大な拍手が贈られた。
「お疲れ様です、狛治さん。
それでは、記念したくない第50回目の汚い花火大会はこのまま一週間ほど、24時間受付中の自由参加となりますので、バカ息子やその取り巻き、そして無惨もあのような狛治さんの技名に勿体無い汚い花火にしたい方は、是非とも大焦熱地獄の木転処までご足労をお願いします」
「え!? 無惨様もしかしてさっきのにいた!?」
いました。「どっせい!!」で鬼灯がぶん投げてました。
気付かず無惨も汚い花火にしていたことに、狛治は「え? いいの?」と戸惑うが、もちろん狛治以外誰も気にしてなどやらず、動画撮影は終了。
そして鬼灯は金棒片手に、肩をぐるぐる回して川から回収されて復活させられた剣術道場連中と無惨の方へ向かってゆきながら言った。
「さて。私もストレス発散の八つ当たりをしてきますか」
「「…………まだしてないつもりだったのか・ですか」」
狛治と愈史郎が思わず同時に呟いてから、愈史郎は鬼灯と一緒に無惨の方に向かっていくのを見届けてから、狛治は撮影の片付けに専念することにした。賢明である。
愈史郎がお館様とも珠世さんとも違うタイプ、珠世ファーストな過激派なせいで、マジで最初は話が進まなくって困った今話。
最初の地獄で無惨が愈史郎に突っ込んでるセリフは割と私の代弁です。マジで話を進めさせろって思った。