「鬼滅の刃」世界のあの世が「鬼灯の冷徹」世界だったら 作:淵深 真夜
「さぁ、お待たせしました皆さん。
『頭無惨』から始まり、『ジョジョのラスボス要素豪華全部盛り、ただしカリスマや悪の美学という魅力スパイス全部抜き』やら『虎の尾の上でタップダンスし、竜の逆鱗でDJする』など数々の汚名を物にする、癇癪もちの臆病者、八大を網羅して裁判なしで阿鼻直行が決まった大罪人、鬼舞辻 無惨の楽しい十六小地獄めぐりを開始します」
鬼灯がカメラの前、無表情で声だけはバリトンを良く響かせているが淡々と無惨をボロクソに言い放つ。
そしてボロクソに言われている臆病者のくせに我慢が全くできない癇癪もちはというと……。
「むがー! むがっ! もががっ! もがーっ!!」
鬼灯の背後で簀巻き猿轡をされた状態で、びたんびたんと魚やエビのように跳ねながら、皮肉なしで唯一褒められる顔に青筋をビキビキと浮かべて目を血走らせながら、何やら抗議してた。
「えぇ、化け物ですよ。だからあなたの常識など通用しません」
猿轡を付けられていても、自分の所業やら今までの言動やらを棚上げしまくった無惨の発言を理解できたのか、鬼灯は地べたで跳ねる無惨を足で踏みつけ、見下しながら言う。
それでも猿轡を取ってやったのは、やっぱり何言ってるのかわかりにくいのなら動画の再生数は取れないとでも思ったのだろう。
「この、化け物がっ!! 何なんだ、一体! 私に何をさせる気だ!? 何故、愚かでしつこい異常者どもがことごとく天国行きで、私がこのような目に遭わなければならないんだ!?」
猿轡を外した瞬間から、やはり突っ込みどころが満載過ぎて逆に言葉を失うレベルの自己弁護……ですらなく、本心から自分は悪くないと信じて疑わない暴言を無惨は吐き散らし、撮影係の獄卒をドン引きさせる。
しかし無惨の中身がない、ただただ自己愛のみで構成された言葉など鬼灯は聞き飽きているので、マルッと無視して撮影班の獄卒たちに指示を出す。
「あ、ライブ感を出したいのでぶっ続けで撮影します。なので、黒縄地獄から巡りますのでもう少し待ってください。
順序で言えば等活から行くべきなんですが、等活の最後がオチとして優秀なので」
「話を聞けーーーーっっ!! お前のその尖った耳は笹かまぼこか!?」
無惨の自己愛屁理屈は聞き飽きているが、最後の突っ込みはなかなか独創的だったからか、鬼灯は無視を止めて無惨に全くしてなかった説明をようやくしてやる。
「あぁ、すみません。そういえば全く、何の説明もしてませんでしたね。大丈夫ですよ。規制の関係で黒縄で公開できる地獄は三つ、等活は七つだけですが、拷問はちゃんと全部処でやります」
「お前の頭が大丈夫じゃないわ!!」
しかしその説明はしなくていい所だけだったので、無惨にだけは言われたくない突っ込みを入れられた。
それにしても、「お前が言うな」「お前が原因だろ」と言われまくる無惨の神経やすりで全力逆撫で発言だが、更に癇に障ることにこいつは感性そのものはわりとまともだからか、発言内容は否定できないことが多い。現に、どう考えても鬼灯の頭は大丈夫じゃない。
そんな風に獄卒たちが遠い目で気まずく思っていたが、頭無惨に大丈夫じゃないと言われた当の本人はそのことを自覚している為、まったく気にせずに小首を傾げて「一体何がそんなに不満なんですか?」と素なのか煽りなのか不明なことを尋ねている。
「何もかもに決まってるだろ!! 強いて今一番不満で疑問なのは、何だこのカメラは!? 何を撮影する気だ!!」
「あなたの楽しい小地獄めぐりですよ」
「楽しい訳あるか!! 楽しいのは貴様ら異常者の化け物共の方だろうが!!」
「まぁ、それは否定しません。現にこのカメラは、あなたの地獄めぐりを面白おかしく実況しつつ小地獄の内容を紹介して、地獄の獄卒を募集しようという試みでの動画撮影です」
ようやく本日の主旨を説明されて、無惨はまたせっかく唯一と言っていい美点の顔に青筋をもはやメロンのように立てながら「この、異常者の化け物が!!」と罵った。
「人の不幸がそんなに楽しいか!? 人の苦痛を笑いものにするとは下劣な趣味だな! さすがは地獄の鬼だ!! 私などと比べ物にならぬ、悍ましい化け物だな!!
そんな化け物に気に入られて、私を嘲笑う鬼狩り共もやはり同類の異常者だ!! あぁ、嘆かわしい嘆かわしい! 異常者共が異常者だからこそ優遇されるあの世が嘆かわしい! あの世に鬼はいても神も仏もいないことがよくわかったわ!!」
またしても全力で自分を正当化して、地獄の鬼たちを罵倒するのは実際に感性が人間とは違っているのだからまだ仕方がないと言えるが、無惨がやらかした所業の被害者だからこそ異常者になるしかなかった鬼殺隊を見下し、罵る無惨に獄卒たちもキレかける。
が、鬼灯は無惨の傍らにしゃがみ込んで淡々と言い返したので、獄卒たちによる無惨の集団リンチは何とか回避。
「いえ、元鬼殺隊の方々はこの動画にあまり興味を示しませんでした。
死後、鬼に殺されたご家族や友人などと再会したことで鬼に対しての憎悪が薄れたのと同時に、興味も失ったようです。
あなたに対しても許す気はまったくないですけど、最近ではあなたを思い出すと憎悪より、ことごとく裏目に出るようなことばかりしてきたあなたの思考が本気で理解できない所為か、『変な生き物だったなぁ』という感想しか浮かばないと言ってましたね」
「あの異常者どもがあぁぁぁぁっっ!!」
獄卒たちからのリンチは回避したが、鬼灯からやはり素なのか煽りなのかよくわからない事実を教えられ、ブチ切れる無惨。
未だに自分以外の全てを下等だと見下しているので、今も鬼殺隊に憎まれているのは迷惑な逆恨みとしか思わないようだが、「どうでもいい存在」と自分が見下されることも忘れ去られた、路傍の石以下の存在と扱われるのはプライドが傷ついたようだ。
「……あ、すみません。最後の珍獣扱いな感想は、鬼殺隊ではなく狛治さんの感想でした」
「猗窩座ああぁぁぁぁっっ!!」
そして鬼灯からさらに屈辱的な情報が追加。
自分の手足どころか道具、それも役に立たないが恩情で使ってやってるから感謝しろとぐらい上から目線で思っていた元部下から、まさかの珍獣扱いという真実を知らされ、再びエビのようにビチビチ跳ねながら無惨は昔の名前で部下に対してキレた。
ちなみにその元部下は、本日は有休をとって嫁と天国でデート中である。
鬼灯のナチュラルな精神攻撃に、キレかかっていた獄卒たちもクールダウン……というか、改めて無惨を「アホだな、こいつ」と呆れかえってしまったが、やっぱり鬼灯は一人マイペースにこのカオスな空気の中で物事をさっさと進める。
「はい、それでは黒縄地獄に移動しますよ。今日はとりあえず二つの地獄を巡りますから、忙しいですね」
「おい待て化け物!! そもそも、そもそもだ! 私が阿鼻地獄という時点で不当で不満しかない判決だが、一度刑が決まっているのに、何故私は別の地獄の刑を受けなければならん!!」
手を叩いて
しかし当然鬼灯は、「何言ってんだこいつ?」程度にしか思っていない表情で即答。
「あなた、八大だけじゃなくて各地獄の小地獄の罪状もフルコンプしてますから大丈夫ですよ」
「してる訳ないだろ!!」
前半の阿鼻地獄逝きに対する不満はともかく、実は後半の抗議に関しては普通に無惨の方が正論なのだが、鬼灯はナチュラルにゴリ押した。
実際、「いや、これはさすがに無惨もしてないよ」という罪状で堕ちる小地獄はそこそこあるのだが、他の獄卒たちは曖昧に笑うだけで否定せず、機材と喚く無惨を抱えて予定通り黒縄地獄に向かって行った。
* * *
・黒縄地獄の十六小地獄
「はい、まず最初の地獄は黒縄地獄の『
黒縄地獄がそもそも窃盗に関する地獄であり、この小地獄が対象とする罪は生前に間違った法を説いた者、崖から投身自殺した者です」
「初っ端から私は関係ないだろ、この地獄!!」
一般公開できる地獄が三つしかないので、等活と順序を逆にしてまず最初に訪れた地獄の内容を説明していたら、さっそく無惨が突っ込んだ。
「関係ないのは、投身自殺した部分だけでしょ。
色々ありますがとりあえず下弦を解体した時の『私は間違えない』が思いっきり、『間違った法を説いた者』にあたりますよ」
「あいつらが弱くて無能なくせに、向上心も忠誠心もない、その場しのぎの為にできもしない事しか言わないのが悪いのだろうが!! 私は間違ってない!!」
「……ブラック中のブラック企業思考ですが、気持ちだけはわかるのが辛い」
無惨の「お前は何を言ってるんだ?」としか思えない発言に、呆れかえって鬼灯が言い返せば、無惨は悪びれずに下弦に全責任を転嫁してまた自分を正当化。
そしてその発言を肯定こそはしないが、部下に対する不満に関しては鬼灯が同意したので、他の獄卒たちは怯えて気を引きしめて背筋を伸ばす。
これ以上無惨に何かを言わせたら無惨のように私情による理不尽はないが、厳しさは同じくらいの鬼灯が「そこだけは同感だから見習おう」とぶっ飛んだ感心をしかねないので、獄卒たちは慌てて等喚受苦処の刑罰である、燃える黒縄で無惨を縛り付け、計り知れない程高い崖の上から鉄刀が突き出す熱した地面に突き落とす準備を始める。
「おい! やめろ! 離せ化け物共!!
おい! そこの一本角!! せめてこれだけは答えろ!!」
「何ですか?」
暴れてもがいて抵抗するが、死して人間に戻った無惨は普通どころか病弱ひ弱な体の為、獄卒たちにあっさり燃える黒縄に捕縛されるが、それでも熱さと痛みに呻き、喚きながらも鬼灯に対して尋ねた。
「……黒縄は窃盗の地獄のはずなのに、ここに堕ちる罪状に窃盗が無関係なのは何でだ?」
「……さぁ?
何故かすこぶるどうでもいいが、確かに謎な部分を割と素で不思議そうに尋ねる無惨に、鬼灯もこれまた素で答えつつ、崖から突き落した。
* * *
「お次は『
対象は病人が用いるべき薬品、麻薬の類を病人でもないのに用いた中毒患者。刑罰は烏、鷺、猪などが罪人の眼球や舌をつついて抜き出し、獄卒たちが杵や大斧で罪人を打ち据えます」
「だから! 私は関係ないだろその罪状!! むしろ私は訳のわからん薬を投与された被害者だろうが!!」
またしても無惨が突っ込むが、今度はものすごく、とてつもなく、心の底から癪だが、正真正銘無惨の方が正しい。
無惨は癇癪起こして医者の頭を鉈でカチ割った阿呆だが、まさか自分を一度鬼という人外に変質させることで病を癒してから人間に戻すなんて治療法をされているとは、阿呆とか頭いいとか関係なく想像できる訳がない。
っていうか、無惨ほど頭無惨な癇癪もちの患者じゃなくても自分が人外に変貌させられていると知れば、後で人間に戻すと言われてもパニックを起こして医者を殺してしまっても無理はない。
……医者は善良だったかもしれないが、どう考えても無惨より頭がおかしい。
そんな事は鬼灯だって百も承知。
むしろ百も承知だからこそ、鬼灯はガチギレしながら言い返す。
「その通りですよ! あの医者をここに堕としておけば、少なくともさっさと転生させておかなければ、お前をもっと早くにどうにか出来たのにと思って後悔しっぱなしですよ!!
けれど、想像つくか! 妖術も神通力も無関係、ただ純粋な技術で人間を鬼に変貌させる薬を作り出して、しかも純粋な善意で治療の一環で使う医者がいるなんて!! 何だあの、医術界の縁壱さんは!!??」
叫びつつ、完全な八つ当たりで鬼灯は自分の身体よりでかい杵で無惨をプチっと潰した。
これにはさすがに獄卒たちも無惨にちょっとだけ、ミトコンドリア程度に同情しつつ、それ以上に鬼灯に同情した。
鬼灯の言う通り、予測できるか。そんな医者。
* * *
「公開できる黒縄地獄で最後の地獄は『
対象は貪欲のために人を殺し、飲食物を奪って飢え渇かせた者」
「私は……」
「飲食物奪ったはまだしも、貪欲の為の殺生はしただろ。むしろ、お前の1000年は全部それだろ。さすがにそこは自覚しろ」
懲りずに自分はそんな罪を犯していないと主張しようとした無惨に、金棒で頭を叩き潰して鬼灯はデフォルトの敬語を捨てて突っ込んだ。
そして無惨が空っぽの頭を再生している間に、鬼灯は畏熟処の刑罰内容をカメラに向かって説明する。
「ここの刑罰は鉄の棘が生えた地面を杖、火炎の鉄刀、弓矢などを持った獄卒に追い回され、休む間もなくいつまでも走らされます。そして転倒すると金棒で何度も殴られ、水をかけられることですが……前から思っていたんですが、ここの刑罰はどうも地獄の中では甘い方ですね。
なので、試験的に罪人を追いかけ回す獄卒にこちらを使ってみます。お願いします。特別ゲスト、五道転輪王の補佐官、エンジェル朱色のモデルでもあるチュンさん」
「あいなー」
お団子頭にチャイナっぽい服装、可愛らしさと妖艶さが共存した美少女が鬼灯に呼ばれて登場。
そして彼女は紙に何やら、サラサラと描く。
「くっ……。暴力に訴えるしか能がない、低俗な化け物め」
潰された頭を再生させて、見事に発言のブーメランが刺さることを言い出す無惨が起き上がる。
そして、ずもももももっと自分の背後でえらく不穏な音がしている事に気付いて振り返ると……
「!!?? 何だこれは!? ムカデ? ね……猫? いや絶対に違う!! とにかく何なんだこれは!?」
「……何なんでしょうね?」
チュンがエンジェルクロッキーのモデルとなった、正式名称はしらんがそこそこよく見る描いたものが実体化する技で具現化した、山ほどある巨大ムカデっぽい何かに白澤のオリキャラ
なにげに、即行で否定したが猫好好が猫だと気付けた無惨は凄いかもしれない。
しかしもちろんそんなどうでもいい凄さに無惨は気付ける余裕などある訳もなく、病弱ひ弱な体でそれでも鬼灯や縁壱から逃げ続けた生き汚さを発揮して、ダッシュで逃げた。
「……他の亡者には効果的かもしれませんが、無惨には普通の刑罰の方が良さそうですね。体が大きすぎて、逃げるのが上手い奴相手では、あのムカデは不利なようです」
逃げ惑う無惨を見ながらそんな結論を鬼灯はメモをとり、仕方がないので転倒した時の刑を水ではなく熱した銅か屎泥処の汚物にするように指示を出した。
* * *
・等活地獄の十六小地獄
「それでは等活地獄に移りまして、こちらも全ては公開できないので紹介できる地獄は七つ。
まず最初は、『
対象は鳥や鹿を殺した者で、刑罰は沸騰した銅と糞尿が沼のようにたまっている中で苦い屎を食わされ、金剛の嘴を持つ虫に体を食い破られます」
「だから! ないわ!! 病弱だったから狩りをしたことがなく、鬼になってからは昼間は出歩けないのだから、ないと言い切れるわ!!
というか、なんだこのピンポイントすぎる罪状は!?」
地獄を黒縄から等活に移って最初の小地獄で、相変わらず無惨が元気よく突っ込む。そして今度もまた、無惨の方が正論だったりする。
「えぇ。だからこの地獄は改定されて、特に小さくてか弱いものをいじめ殺した者が堕ちることになりました。
…………つまり、あなたが虫けらだと見下していた人間、鬼殺隊の方々を殺した罪ですよ」
だが当然、その辺の突っ込みなどこの合理主義がしていない訳がなく、とっくの昔に改定済みで無惨が逃げられない罪状が対象になっている。
なので躊躇なく、鬼灯は屎泥に満ちた沼に無惨を蹴り落とす。
「虫けらなどいちいち殺したことに気付けるかーーっっ!!」
「……相手を見下していたことを否定しないまま、責任転嫁するのは本当に流石ですね」
落下しながら、鬼灯の言う通り、本心から見下していたことを口先だけでも否定せずに責任転嫁で「自分は悪くない」と叫ぶ無惨に、鬼灯は全く敬意を懐いていない感心を口にした。
* * *
「お次は『
対象は刀を使って殺生をした者。約70キロ四方の面積が鉄の壁に囲まれており、地上からは猛火、天井から熱鉄の雨が亡者を襲います。また、樹木から刀の生えた刀林処があり、両刃の剣が雨のように降り注ぎます」
「私は自分の手で殺してきたから、刃物など使った事がない」
「一番最初に医者の頭を鉈でカチ割っただろうが」
真顔で言い切った無惨に、こちらも真顔で鬼灯が鉈で無惨の頭をカチ割った。
* * *
「こちらは、『
…………刑罰は獄卒が罪人を鉄の
「おい待て。対象の罪状を何故言わん?」
いくつもの瓮が並ぶ地獄で鬼灯は説明するが、無惨の突っ込み通り、何故かこの地獄の対象である罪状は言わない。
「この地獄も生ぬるいですよね。『
屎泥処が近いので汚物が良いでしょうか。けど、それだとまんま屎泥処と刑罰が被りますし……難しい所ですねぇ」
「話を聞け! こっちを見ろ!! ここに堕ちる罪状は何だ!?」
何かを誤魔化すようにここでの刑罰内容の改定案を思案しだす鬼灯に、無惨はキレた。これは無惨も悪くない。
なので鬼灯も諦めて答える。
「……対象は動物達を殺して食べた者です」
「人間全員が対象になるわ!!」
ド正論の突っ込みが入った。これには獄卒も苦笑い。
「だから今では逆に、食べる為でもなければ生活の為でもない、己の楽しみの為に殺した者が対象です」
「最初からそう言え!! そして私はやっぱりこの地獄に堕ちるのは不当だろ!! 何だ!? 竈門 炭治郎の家族を残さず全部食べていれば無罪だったとでも言うのか!?」
「んな訳あるか」
そしてやはりこれも現代どころか肉食文化が広まった明治時代から無茶苦茶理不尽なので、とっくの昔に改定されていたが、その改定内容にも無惨が噛みつき、鬼灯は端的に否定してボコボコと沸騰した灼熱の湯の中に無惨を叩き墜とした。
これに関しては、もはや無惨と鬼灯どっちが理不尽なのかがわからなくなって獄卒たちは頭を抱える。
正解は、どっちも理不尽だ。
* * *
「『
対象は人を縄で縛ったり、杖で打ったり、断崖絶壁から突き落としたり、子供を恐れさせたりと……、ようは人々に大きな苦痛を与えた者。
その名の通り多い苦しみ、十千億種類の苦しみが用意されており、生前の悪行に応じた形で苦しめます」
「私は杖で打ちも、断崖絶壁から突き落したりも、子供を恐れさせたりもしていない。むしろ、子供には頭の悪いクソガキにも優しくしてやった」
「だから、それは例えでようは大きな苦痛を与えた者だって言ってんでしょうが」
またしても真顔で、自分はこの地獄に堕ちる罪状はないと言い切る無惨に、鬼灯も真顔だが面倒くさそうに言い返して、生前の悪行に相応しい「ティラノザウルスに食べられる」刑を執行した。
* * *
「ここは、『
対象は羊や亀を殺した者」
「だから!! 関係ないわ私は!! またしてもピンポイントだな!!」
最初の屎泥処並みにピンポイントな罪状に、もう一度無惨は突っ込んだ。
そして鬼灯も、「……何でこの地獄を作ったんでしたっけ?」と首を傾げている。
「まぁ、あなたにとっちゃ羊も亀も人間も同等でしょう。とっとと逝け。刑罰は、その名の通り真っ暗闇の中で、
「お前、ただ単に私を甚振りたいだけだろ!! せめて建前を用意しろ!!」
「当たり前だ。というか、もうそろそろ面倒くさい」
しかしもはや、罪状を改定してこじつけて無惨が堕ちるべき地獄という建前を作るのも鬼灯は放棄して、本音をぶちまけて無惨を闇冥処に投げ入れた。
これには流石に、無惨の方に同情した獄卒多数。
しかし暗闇の中でもひたすら鬼灯を罵り続ける元気な無惨の声で、「やっぱり同情しなくていいや」と秒でその同情は消え去った。
* * *
「『
対象は法螺貝を吹くなど、大きな音を立てて驚かせたうえで、鳥獣を殺害した者。昼夜を問わず火炎が燃え盛り、熱炎の嘴の鳥、犬、狐に肉や骨の髄まで食われます」
「法螺貝など吹いたことないわ!!」
だんだん恒例となってきた意外と無惨の方が正しい突っ込みだが、もちろん鬼灯は揺るがない。真顔で言い放つ。
「大ボラはいつも吹いてるでしょうが」
「ないわ!!」
「マジでか」
「意味が違うわ!!」みたいな突っ込みを予測していたら、これまた真顔即答で「ない」と言い切られ、これには鬼灯も驚愕する。無表情で。
そしてこれまた無惨も真顔で言い切る。
「私は生まれてこの方、一度も嘘などついてない」
「人間社会の人脈や社会的立場を利用するためにしたことは何だ?」
真顔で半天狗ばりに自分の所業をすっかりキレイさっぱり忘れて言い切る無惨に、これまた皮肉ではなく真剣に疑問として鬼灯は問いながら、不喜処の動物たちにGOサインを出した。
「……狛治さんの言う通りですね。もはや腹が立つとか憎いとか以前に、頭の中が理解出来なさ過ぎて『変な生き物』としか思えない」
ボリボリと動物たちに貪り食われる無惨を眺めながら、鬼灯はしみじみと奴の元部下、自分の現部下が以前言い放った感想に同意する。
* * *
「はい、それでは本日最後の小地獄は『
ここでの刑罰は、あらゆる場所で常に鉄火に焼かれ、獄卒に生き返らされて断崖絶壁に突き落とされることです」
瓮熟処と同じく、堕ちる対象の罪状を語らずに刑罰を先に語るが、今回は無惨に語りたくなかったからではなく、断崖絶壁に立たされている無惨から距離を取りながら、鬼灯は対象を語る。
「ここの対象は、生前にちょっとした事で腹を立ててすぐに怒り、暴れ回り、物を壊し、勝手気ままに殺生をした者。
……つまり、まさしくお前の為の地獄だ頭無惨ーーっっ!!」
「貴様も対象になるだろうがーーっっ! この、パワハラ闇鬼神!!」
鬼灯が順番を前後して最後に回した「オチに相応しい」と語った訳である罪状を叫びながら、十分にとった距離で助走をつけて無惨に全力のドロップキックを決めて断崖絶壁から突き落すが、胴体が真っ二つになりそうなドロップキックを決められながらも無惨は鬼灯を罵って墜ちていった。
本当に、歪みなさ過ぎて尊敬しないけど凄すぎない? さすがは頭無惨様。
「……さて、本日の地獄めぐりはこれにて終了」
無惨を突き落として少しすっきりした様子で鬼灯はカメラに向き直り、今回の動画のまとめと次回予告を口にする。
「次回は衆合地獄の小地獄めぐりを予定しております。
性犯罪に関係する地獄なので、刑罰も下に関係するものが多いです。いったい無惨の無惨が何本すっぽ抜かれるかが楽しみですね」
「鬼灯様! この動画、全年齢!! その発言はヤバい! ピー音がいる!!」
鬼灯のセクハラ……? 発言に
そして突っ込まれた鬼灯は困ったように顔をしかめて呟く。
「そういえばそうでしたね。ということは、次回は年齢規制と放送倫理規制などというコンプラとの戦いになりそうですね」
どうやら、衆合地獄めぐりを取りやめにする気も、年齢制限を掛ける気も皆無のようだ。
ピー音とモザイクで何やってるかわからない動画にならないことを祈る。
実は当初は、無惨様は何かと話題には上がるけど本人は登場しないというスタンスで行こうかと思ってましたが、地獄の刑罰とかそこに堕ちる罪状について調べている内に、「地獄めぐりさせよう」と決めました。
素で「無惨は各地獄の小地獄もフルコンプしてるだろ」と鬼灯様と同じことを思っていたら、意外とマジで無惨様無関係の地獄が多くて、だからこそネタになった。むしろ本当にフルコンプしてたら書かなかったかも。
そんな訳であと5つの地獄めぐりを適当なタイミングでまた書きます。
次回は、鬼滅と鬼灯の世界観擦り合わせた説明回にしようと思います。