妖精の尻尾のサイヤ人   作:ノーザ

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其の11 呪歌(ララバイ)

オニバス駅にて。

うっかりナツを連れ出すのを忘れてしまった一行は再び駅に戻っていた。

 

 

「なんという事だ!話に夢中になるあまりナツを置いてきてしまった!アイツは乗り物に弱いというのに!取り敢えず私を殴ってくれ!!」

 

 

「ま、まぁまぁ落ち着いて………」

 

 

ナツを置いてきたことを自分に非があると自虐するエルザにルーシィは宥めた。

しかし下手をすれば列車は隣町まで行ってしまってめんどくさくなる。

 

 

「そういう言う訳だ!列車を止める!!」

 

 

「どう言う訳………?」

 

 

唐突に言う彼女に駅員はただ困惑していた。

 

 

「………妖精の尻尾(フェアリーテイル )の魔導士ってみんなこういう感じなんだなぁ………」

 

 

「オイ!オレはまともだぞ!!」

 

 

「グレイ、ブーメランって知ってる?」

 

 

「仲間の為だ!わかって欲しい」

 

 

「そんな無茶言わないで下さいよ!一人のお客さんの為に列車を止めるなんて………」

 

 

すると彼女は駅員の背後にあるものが視線に入る。レバーのようなもので下には『緊急停止信号』と書かれていた。

 

 

「ハッピー!!」

 

 

「あいさー!」

 

 

「あ!ちょっと!!」

 

 

エルザの指示によりハッピーは羽を生やして駅員の頭上を通り越し、レバーを下に下げる。

ホーム内に警報ベルが鳴り響き、エルザは次の指示をする。

 

 

「ビート!舞空術でナツを!!」

 

 

「了解!レッツGO!!」

 

 

水色のオーラを纏ってビートは高く跳躍して猛スピードで列車を追って行った。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

一方列車内ではカゲヤマがナツに色んな話を持ちかけていた。ミラジェーンのことや、最近入った新人の女の子(恐らくルーシィ)のことなどを話して来るが今のナツはそんなこと出来る状態でない程苦しんでいた。

 

 

「ホントいいよなぁー妖精の尻尾(フェアリーテイル )。かわいい子が沢山いてさ………少し分けてよ」

 

 

「ハァ………ハァ………ハァ………」

 

 

「……………なーんてね。キーーーーック!」

 

 

「ぶほっ!?」

 

 

急に立ち上がってナツの顔面に蹴りを入れた。そしてさっきまでとは一変、気が優しい男から怪しく笑う男へとなった。

 

 

無視(シカト)はダメだなぁ~。闇ギルド差別だよ?」

 

 

「………あ?」

 

 

「お、ようやく喋ってくれたかハハハ!」

 

 

「な、何しやがる………」

 

 

「なに?小さすぎて聞こえないよ?」

 

 

蹴り出された脚を邪魔そうに退けるナツ。それでもカゲヤマは言葉を続けた。

 

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル )って随分目立ってるギルドだけどさ、正規ギルドだからってちょっと調子に乗りすぎじゃない?うちらがそっちのことなんて言ってるか知ってる?妖精(ハエ)だよ妖精(ハエ)。ハエたたきーっ!えいえいっ!!」

 

 

そう言ってナツの頭をペチペチと叩く。その行動によって彼の怒りが更に増す。

 

 

「てめぇ!」

 

 

「お?やる気?」

 

 

「おおぉぉぉぉぉぉぉぉ………うぷっ」

 

 

「アハハ!何だよそれは!魔法ってのは………こう使うんだよ!!」

 

 

「うごっ!?」

 

 

カゲヤマの足の影が伸びるとそこから拳が飛び出してナツにアッパーカットを繰り出した。

 

 

「ヒャハハハハハハ!いい気味だ!ハハハハハハ………あっ!?」

 

 

腹を抱えて笑っていると急に列車が止まった。緊急停止信号を受け取って止めたのだろう。慣性の法則により置いていた荷物から中身が出てしまう。

 

 

「き、急に止まりやがってさっさとしまわないと「迎えの時間だコラァ!!」なっ!?」

 

 

すると急に窓ガラスが割れて一人の少年が入って来た。言わずと知れたビートだった。

 

 

「ビート!何でここに!?」

 

 

「そりゃお前を連れ戻す為に………ん?何だコリャ?」

 

 

ビートは鞄から出てきた一つの笛に着目した。

 

 

「笛?」

 

 

「み、見たな貴様!!」

 

 

「そういえばまだやってなかったな」

 

 

「へ?」

 

 

「お返しだコラァ!!」

 

 

「ぐほっ!!」

 

 

ナツはカゲヤマに向かって火竜の鉄拳を放った。殴られたカゲヤマは後ろの車両まで吹き飛ばされた。

 

 

「ハエパーンチ」

 

 

「て、テメェ!」

 

 

「ナツ、アイツは?「先程の急停車は誤報によるものと確認出来ました。間も無く発車します」あ、やっべぇ!」

 

 

「まずい!また揺れる!」

 

 

ナツは自身の荷物を取り出してビート共にずらかろうとする。

 

 

「貴様ら!鉄の森(アイゼンヴァルド)に手を出してただで済むと思うな妖精(ハエ)共がぁっ!!」

 

 

「こっちもテメェのツラ覚えたぞ!散々妖精の尻尾(フェアリーテイル )を馬鹿にしやがって!!今度は外で勝負してや………うぷっ」

 

 

「ああもう行くよナツ」

 

 

また酔いそうなナツを担いで外に出る。外に出た時には列車が動いていたのでそのまま後ろに飛ばされてしまう。すると列車の後ろからエルザ達が四輪車でこちらに向かって来てるのが見えた。それに丁度屋根にグレイが乗っている。

 

 

「グレイ!ナツ頼む!」

 

 

「は!?ちょっとま………」

 

 

グレイ向かってナツを投げると二人は顔をぶつけて仲良く四輪車から転落した。それを見たエルザが四輪車を停止する。

 

 

「ナツ!無事だったか!!」

 

 

「いってぇぇ!?何しやがるテメェ!?」

 

 

「今のショックで記憶喪失になっちまった。誰だお前?クセェな」

 

 

「何ィ!?」

 

 

「すまんナツ。色々と間違えた」

 

 

「ハッピー!エルザ!ルーシィ!ビート!ひでぇぞオレを置いてくなんて!!」

 

 

「おい………随分と都合のいい記憶喪失だな………」

 

 

「無事でなによりでよかった」

 

 

「硬っ」ガンッ

 

 

エルザが彼を胸に押し付けるが今彼女は鎧を纏っているので普通に痛かった。するとナツは何か思い出したように話し出す。

 

 

「そうだ!オレ列車に変な奴に絡まれたんだよ!」

 

 

「変な奴?」

 

 

「なんつったけ………鉄の森(アイゼンヴァルド)?って言っていたような」

 

 

「えっ!?」

 

 

「それって………」

 

 

「バカモノ!!」

 

 

「ゴエッ!?」

 

 

さっきの優しさは何処へ行ったのか。エルザはナツを思い切り平手打ちを放って彼の頬に大きな紅葉が出来た。

 

 

鉄の森(アイゼンヴァルド)は私達の追っている者だ!」

 

 

「そ、そんな話始めて聞いたぞ?」

 

 

「何故私の話を聞いていない!」

 

 

ナツは分からずに首を傾げる。それはエルザがナツを気絶させたからと敢えて口にしないルーシィであった。彼女は四輪車に向かい、供給用の腕輪を付け直す。

 

 

「兎も角奴等を追うぞ。そいつはどんな特徴をしていた?」

 

 

「あんまり特徴なかったような」

 

 

「強いて言えば黒髪で後ろで一つ纏めていたぐらいかな?あと変な笛も持っていた」

 

 

「変な笛?」

 

 

「うん。三つの目があるドクロっぽい笛」

 

 

 

「何だそりゃ。趣味悪りぃな」

 

 

「三つ目のドクロの笛………ううんまさかね、あんなの作り話よ。でも………」

 

 

 

「ルーシィ?」

 

 

「もしその笛が呪歌だとしたら………子守歌(ララバイ)……眠り……死……そうか!その笛がララバイだ!呪歌(ララバイ)………『死』の魔法!」

 

 

「何っ!?」

 

 

「呪歌?」

 

 

「死の魔法?」

 

 

確信したルーシィの言葉に一同反応するが、ナツはイマイチ理解できなかった。

彼女が知っている限り、禁止されている魔法に呪殺というものがある。呪殺とは言葉通り対象を呪い、死を与える黒魔法のことだ。それに対してララバイはもっと恐ろしいものだった。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「何とか封印は解きました。これが例のものです、エリゴールさん」

 

 

「ふむ………」

 

 

ナツと交戦したカゲヤマが向かった駅でエリゴール達と合流して列車をジャックした。

彼から渡されたララバイをじっくり拝見するエリゴール。銀の長髪に目の下に刺青のようなものが刻まれ、身の丈程の鎌を携える姿はまさに死神のそれだった。

 

 

「これがあの禁断の魔法の呪歌(ララバイ)か………」

 

 

『おおっ!』

 

 

「この笛は元々|呪殺の為の道具に過ぎなかったが、偉大なる黒魔導士ゼレフが更なる魔笛へと進化させた………。この笛の音を聴いた者全てを呪殺する………『集団呪殺魔法呪歌(ララバイ)』!!」

 

 

他の仲間達が感嘆の声を上げる中、カゲヤマがボソリと呟いた。

 

 

「これで妖精(ハエ)の奴等も………」

 

 

「…………妖精(ハエ)?」

 

 

「え?ええ。さっきまで列車に乗ってましね。全くふざけた奴等っすよ」

 

 

するとエリゴールが鎌を振るとカゲヤマの耳が切り裂かれた。両耳から血が溢れながら苦痛の声を上げた。

 

 

「いぎぃぃぃぃ!!」

 

 

「まさか感づかれちゃいねぇよな?」

 

 

妖精(ハエ)なんかに感づかれたところで!この計画は止められやしないでしょうが!!」

 

 

「当たり前だ」

 

 

耳を抑えながら若干キレ気味で応えるも、彼はララバイをペン回しのようにくるくる回す。

 

 

妖精(ハエ)が、飛び回っちゃいけねぇ森もあるんだぜ?」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

一方エルザ達はルーシィの話を聞いた途端すぐに次の駅のオシバナ駅まで向かった。駅が見えた時には煙が上がっていた。

駅に着くと騒ぎを聞きつけた者達が大勢いて、出入口を封鎖する形で集まっていた。

それでも中に行かなければいけない一行。何とか人混みを避ける。

最初に着いたエルザが駅員に尋ねた。

 

 

「中の様子は?」

 

 

「な、何だね君は『ゴンッ!』うほっ!?」

 

 

『!?』

 

 

答えなかった駅員に向かって彼女は頭突きを繰り出す。そしてすぐに近くにいた駅員に尋ねる。

 

「中の様子は?」

 

 

「は?『ゴンッ!』ゴエッ!?」

 

 

「中の様子は?」

 

 

「ヒェッ」

 

 

「そ、即答出来る人しかいらないって事なのね………。」

 

 

「段々わかってきたろ?」

 

 

答えられた駅員の情報を頼りに駅の中へ走る一行。ホームへと続く階段には戦闘で敗れた軍隊がやられていた。

相手は全員が魔導士。軍の小隊では歯が立たないのがよくわかる光景である。

倒れている兵士を避けながらホームへ向かうとそこには何十人者の魔導士がいた。この全員が鉄の森(アイゼンヴァルド)であろう。列車の上には鎌を肩に担ぐエリゴールの姿が。

 

 

「待ってたぜ妖精(ハエ)共」

 

 

「貴様がエリゴールか」

 

 

「ちょっとナツ起きて仕事よ!」

 

 

「無理だよ列車→魔動四輪車→ルーシィの3コンボだ!」

 

 

「私は乗り物なの!?」

 

 

最早ナツを運ぶ係と化していたルーシィがナツを揺さぶるが本人は未だにぐったりしている。

するとエルザが殺気を放ちながらエリゴールに聞く。

 

「貴様等の目的は何だ?返答次第ではただでは済まさんぞ」

 

 

「遊びだよ。あ・そ・びぃ。俺達も仕事が欲しいからサ」

 

 

彼は鎌を魔女の箒のように乗って風の魔法で飛び始める。

 

 

「問題。駅には何があると思う?」

 

 

「駅?」

 

 

エリゴールはゆっくりと列車の上にある物まで飛ぶ。そこでビートが気付いた。

 

 

「スピーカー?」

 

 

「ご名答」

 

 

「まさかララバイを放送する気かっ!?」

 

 

「ええ!?」

 

 

「何だと!?」

 

 

「ふはははは!!この駅の周辺に何百もの野次馬共が集まっている………いや、音量を上げれば町中に響くか………」

 

 

「大量無差別殺人だと!?」

 

 

激を上げるエルザに対しエリゴールを含め、その仲間達もケタケタ笑う。

 

 

「これは粛清なのだ。権利を奪われた者の存在を知らずに権利を掲げ生活を保全している愚か者どもへのな。この不公平な世界を知らずに生きるのは罪だ。よって死神が罰を与えに来た。『死』という名の罰をな!」

 

 

「ふざけるなっ!!」

 

 

さらに激を上げたのはビートだった。全員が彼に着目する中続ける。

 

 

「不公平にされたお前達は何をした?暗殺?殺人?そんな事した罰せられるのは当たり前だ!!お前等はそれを逆恨みしてるだけだ。何が死神の罰だ!そんなのただ人の所為にしている子供だ!!」

 

 

「ふっ、違うなサイヤ人。お前も世界に洗脳された哀れな奴にしか過ぎない。俺達が欲しいのは権利じゃない権力だ!それがあれば全ての過去を流し、未来を支配する事も出来る!!」

 

 

「戯言を!」

 

 

「そういう事だ妖精(ハエ)共。闇の時代を見る事なく信じまうとはな!!」

 

 

「きゃあ!」

 

 

「しまったルーシィ!!」

 

 

カゲヤマが自身の影を伸ばして鋭い腕がルーシィを襲う。

 

 

「やっぱりお前かぁぁぁぁ!!」

 

 

すると酔いから復活したナツが腕に炎を纏い、影の腕を切り裂く。

 

 

「ナツ!」

 

 

「今度は地上戦だな!」

 

 

ナツが復活したことによって全員が戦闘態勢に入る。その中でエリゴールだけが不気味に笑っていた。

 

 

「(かかったな妖精の尻尾(フェアリーテイル )。多少の修正はあったが、これで当初の予定通り。笛の音を聴かせておく奴がいる。必ず殺さねばならねえ奴がな!!)」

 

 

 

 

 

 

 


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