妖精の尻尾のサイヤ人   作:ノーザ

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其の30 偽りの楽園

かつてのエルザの仲間のショウ達はエルザを楽園の塔へと連れて行かれる。

復帰した一行は後を追うように楽園の塔へ向かった。

 

 

「で、どこだよここ!?」

 

 

「ジュビア達迷ってしまったんでしょうか?」

 

 

ナツの鼻を頼りに小船で海に出た一行だが、辺りを見渡しても何もなく本当に迷ったように不安になる。当の本人は例の如く酔ってダウンしてる。

 

 

「くそっ!オレ達がのされてる間にエルザとハッピーが連れてかれたなんてよ!全く情けねえ話だ!!」

 

 

「本当ですね………エルザさん程の魔導士がやられてしまうなんて………」

 

 

「やられてねぇよ。エルザの事知りもしねぇくせに………」

 

 

「ご、ごめんなさい………」

 

 

「グレイ!落ち着いて!!」

 

 

ジュビアの発言に対してキツく対応するグレイにルーシィが宥める。

するとずっと表情が沈んでいたビートがボソリとこぼした。

 

 

「俺、ずっと昔からエルザと一緒にいたつもりだった………でも、エルザ事何一つわかってなかった…………」

 

 

本当の姉のように慕っていた彼にとって、エルザという存在は大きかった。

一番多く接したのは彼女だった。彼女もビートを弟のように可愛がり、組手の相手だってしてくれた。だけども彼女の過去なんて知りもしなかった。そんな自分が恨めしく思えて来た。

すると突然背筋がゾワリとした。そしてある方向へ勢いよく振り向く。

その先には一つの塔が建っていた。

 

 

「ビート?」

 

 

「あれだ………あの塔から不気味な気を感じる………」

 

 

「あれが楽園の塔………」

 

 

一行はそれを確認すると小船を漕ぎ始めた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

塔の中の地の底の底。エルザはショウとシモンに連行されて牢屋に入れられた。

 

 

「『儀式』は明日の正午。それまでそこにいろ」

 

 

(儀式?Rシステムを作動させるのか!?)

 

 

「しょうがないよね?裏切った姉さんが悪いんだ。今もジェラールはお怒りさ。そして儀式の生贄は姉さんに決まったんだよ」

 

 

「…………」

 

 

「もう姉さんには会えなくなるね。でも全ては楽園の為………」

 

 

吊るされた彼女腕が小刻みに震える。

 

 

「もしかして震えてる?生贄になるのが怖い?それともここが()()()()だから?」

 

 

シモンだけは出て行って現在二人がいる場所はかつて自分達が閉じ込まれていた牢屋だった。

ある日彼女達は脱走を企てたが、失敗して懲罰房へと連れて行かれた。その時連れて行かれたのはエルザだ。

 

 

「あの時はごめんよ………立案者はオレだった………でも怖くて言い出せなかった…………本当、ズルいよね………」

 

 

「………そんな事はもういい。それよりお前達は『Rシステム』で人を蘇らす事の危険性を理解しているのか?」

 

 

「へぇ、Rシステムが何なのか知ってたのか。こりゃまた意外だね」

 

 

「『R(リバイブ)システム』。一人の生贄の代わりに一人の死者を蘇らす………人道を外れた禁忌の魔法………」

 

 

「元々魔法に人道なんて無いよ。全ての魔法はヒューマニズムを衰退させる」

 

 

「黒魔術的な思想だな。まるで()()と同じだ」

 

 

「奴等はRシステムを生き返りの魔法としか認識してなかったんだよ。だけどジェラールは違う………その先の楽園へとオレ達を導いてくれる」

 

 

「楽園?」

 

 

「ジェラールが()()()を復活させる時、世界は生まれ変わるんだよ。」

 

 

オレ達は支配者となる。

 

 

「自由を奪った奴等の残党に……オレ達を裏切った姉さんの仲間達に……何も知らずにのうのうと生きている愚民共に……評議院の能無し共に……全てのものに恐怖と悲しみを与えてやろう!!そして全てのものの自由を奪ってやる!!オレ達が世界の支配者となるのだァァァああアァあァーーー!!!」

 

 

狂ったように笑う彼を見限り、その拍子に顎に向かって膝蹴りを繰り出した。

隙だらけで喰らったショウはなす術なく失神する。縛っていた縄を自力でかじって解いた。

 

 

「なにをすれば人はここまで変われる?ジェラール…………貴様の所為か………」

 

 

いつもの鎧を纏って普段の姿になった彼女は牢の檻を蹴破って牢から出た。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「四角ーーーーーー!!何処だーーーーーー!!」

 

 

「エルザーーーーーー!!いるなら返事してくれーーーーーー!!」

 

 

「ちょっと二人とも声がデカい!!」

 

 

 

「「ほがっ!?」」

 

 

楽園の塔に着いたナツ達はジュビアが作った酸素を閉じ込めた水の球を用いて海を潜って地下から潜入した。

そこに警備兵がいたが全員で一人残らず倒した。その時に上に続く扉が開いて現在そこにいるのだが………。

 

 

「この扉誰かがここから開けたものじゃありませんよ。魔法で遠隔操作されています。」

 

 

「つまり俺達の行動は筒抜けってところか………」

 

 

「ところでお前のその格好はなんだ?」

 

 

グレイは先程のラフな格好とは違ってシャランとした綺麗な服を身に纏っていた。

 

 

「星霊界の服よ。濡れたままの服着てんのも気持ち悪いからさっきキャンサーに頼んだの。水になれるジュビアはともかく、アンタ等よく濡れたままでいられるわね………」

 

 

「こうすりゃすぐ乾く」

 

 

「あら!?こんな近くに乾燥機が!?」

 

 

ナツ自身が燃え上がってグレイのスボンやビートの道着がすぐに乾いた。因みにグレイはカジノを出る前に既に上半身裸になっている。

すると奥からさらに兵士が向かってきた。

 

 

「また奴等か!」

 

 

「下がってろ!あんな奴等俺のグミ撃ちで………」

 

 

両手に気功弾を作り出そうとすると兵士の奥から誰かが兵士を斬り裂いて行った。

次々と斬り裂き、遂には兵士全員を倒した。その者は両手に双剣を持ったエルザだった。

 

 

「エルザ!」

 

 

 

「よかった!無事だったんだね!」

 

 

「か、かっこいい………」

 

 

「!?お前達………何故ここに!?」

 

 

「決まってんだろ!お前とハッピーを取り返しに来たんだ!!」

 

 

「そうだ!なめられたまま引っ込んでたら妖精の尻尾(フェアリーテイル)の名折れだろ!あの四角だけは許さねぇ!!」

 

 

すると奥にいたジュビアに気付くと彼女はビクッと震える。元々彼女はファントムの魔導士だ。直接では無いにしろギルドを潰した集団の一人だ。

 

 

 

「あ、あの………ジュビアはその「帰れ」」

 

 

『!?』

 

 

「ここはお前達の来る場所ではない」

 

 

「なんでだよエルザ!それにまだハッピーが捕まってるって………」

 

 

「ハッピーが?まさかミリアーナが………」

 

 

「ソイツは何処にいる!?」

 

 

「さ、さあな…………」

 

 

「よし!わかった!!」

 

 

「何が!?」

 

 

「今ので何がわかったんだ!?」

 

 

ナツの発言に流石のビートも驚愕するも、彼はズカズカと歩み始める。

 

 

「ハッピーが待ってるって事だ!!」

 

 

「あ、おいナツ!」

 

 

「私達も後に「駄目だ。帰れ」っ!?」

 

 

彼を追おうとするもエルザが剣で行手を阻んだ。

 

 

「ミリアーナは無類の愛猫家だ。ハッピーに危害を加えるとは思えん。ナツとハッピーは私が責任を持って連れ帰る。お前達はすぐにここを離れろ」

 

 

「そんなの出来る訳ない!エルザも一緒じゃなきゃ嫌だよ!」

 

 

「これは私の問題だ。お前達を巻き込みたくない………」

 

 

「もう十分巻き込まれてんだよ。あのナツを見ただろ」

 

 

「…………」

 

 

「エルザ………この塔は何?ジェラールは誰なの?」

 

 

ルーシィの問いに対して彼女は沈黙を押し通す。そんな彼女にビートが静かに告げる。

 

 

「エルザ………言いたくない気持ちもわかる。でも、俺達はエルザの仲間だ。どんな時だってエルザの味方だよ」

 

 

「………帰れ」

 

 

先程よりも震えた声で尚も拒絶する彼女に痺れを切らしたグレイが後から言った。

 

 

「らしくねぇなエルザさんよぉ。いつもみたいに四の五の言わずについて来いって言えばいーじゃんヨ。オレ達は力を貸す。お前にだって偶には怖えと思う時があってもいいじゃねーか」

 

 

グレイの言葉にようやくエルザはこちらを振り返るが、その顔には涙を流していた。

 

 

「エルザ………」

 

 

「………すまんなビート。お前の前でこんな姿を見せぬとは決めていたのに………」

 

 

涙を拭って話始める。

 

 

 

「この戦い……勝とうが負けようが私は表の世界から姿を消す事になる………」

 

 

「え!?」

 

 

「どういう事だ!?」

 

 

「これは抗う事の出来ない未来。だから………だから私が存在している内に全てを話しておこう………」

 

 

この塔の名は楽園の塔。別名『Rシステム』。10年以上前に黒魔術を信仰する魔法教団が『死者を蘇らす魔法』の塔を建設しようとしていた。

政府も魔法評議会も非公認の建設だった為、各地から攫ってきた人々を奴隷にして塔の建設にあたらせた。

 

 

「幼かった私もここで働かされていた一人だった………」

 

 

「え!?」

 

 

「エルザが………奴隷………?」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

脱走がバレたエルザは懲罰房へ連行されたのをジェラールが救出しようとした時だった。

助けに来た時は既に看守にボロボロにされていたが、息があった彼女に告げたのだ。

 

 

戦うしかない。

 

 

そう言った直後に他の看守に見つかって彼はエルザの身代わりとなって罰を受けることになった。

牢屋に帰ってきたエルザだが、その時にショウが泣き出してまた看守がやって来て制裁を与えようとした。

彼女の脳裏にジェラールの言葉が浮かび上がり、看守の持っていた槍を奪い取って薙ぎ倒した。

 

 

従っても逃げても自由は手に入らない。

 

 

そしてエルザ達は自由の為、ジェラールを救う為に反乱を起こした。

その頃のジェラールはみんなのリーダーで正義感が強く、彼女の憧れでもあった。

 

 

だが、ある時を境に彼は変わってしまった。

もし人を悪と呼べるなら………エルザは彼をそう呼ぶだろう………。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「お前が神を崇めるその日までここから出さないからな!!」

 

 

罰を与えた看守が暴徒鎮圧の為に懲罰房を後にした。

そこに残っていたのはボロボロにされて宙吊りにされたジェラールだった。

 

 

「神………か………そんかものはいない。子供一人助けられない神などいてもいられない………憎い………」

 

 

憎め。

 

 

「全てが憎い………奴等も神もこの世界も全てが………」

 

 

人の憎しみが余を強くする………。

 

 

「!?」

 

 

『声』に気付いたジェラールは辺りを見渡すもその主は何処にもいない。

 

 

愉快な奴等よのう………余はここにいるというのに………。

 

 

「だ、誰だ!?」

 

 

わざわざ復活………『肉体』をくれるといのか………

 

 

「何処にいる!?出て来い!!」

 

 

いくら信じても無駄な事………強い憎しみがなくては余の存在は感じられぬ………うぬは運が良いぞ小僧………奴等の崇める神に会えたのだ………。

 

 

『我が名はゼレフ。憎しみこそが我が存在………』

 

 

その時、彼の中の何かが反転した………。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

反乱の中、魔力が目覚めたエルザは看守達を蹴散らして懲罰房まで辿り着いた。

そこに宙吊りにされたジェラールを見つけ出し、剣を用いて縄から解放した。

 

 

「もう大丈夫だよ!全部終わったの!ジェラールが言ったように私達は戦った!シモンは重傷だし、ラブおじいちゃんは私を庇って…………。他にも犠牲になった人は沢山いる!」

 

 

「…………」

 

 

「でも勝ち取った!私達は自由になれる!行こう!ウォーリー達が奴等の定期船を奪ったの!この島から出られるんだよ!!」

 

 

ジェラールは静かに立ち上がると彼女を抱きしめた。

 

 

「もう逃げる事は無いんだ………」

 

 

「え?」

 

 

「本当の自由はここにある。」

 

 

一思いに抱きしめた後、彼女を離して奥に歩み始めた。

 

 

「ジェラール?何言っているの?一緒に島から逃げようよ………」

 

 

エルザ……この世界に自由などない。

 

 

その声は彼から発せられたものにも聞こえ、別の誰かが言ったようにも聞こえた。

 

 

「オレは気付いてしまったんだ………オレ達に必要なのはかりそめの自由なんかではない」

 

 

“本当の自由………ゼレフの世界だ”

 

 

振り返った彼の顔は自身の知っていたかつてのジェラールは残っていなかった。

そして歩み寄った先にはエルザが倒したが、まだ息のあった看守達が倒れ伏していた。

そんな彼等を彼は一人の頭を踏み潰した。看守の鮮血が足に飛び散るがそんなものに目をくれず今度は別の看守に腕を払うと体が破裂した。

エルザと同じく魔力が目覚めたが、彼のは根本的に何かが違った。

次々と看守達を殺して狂笑する彼をエルザは止める。

 

 

「ジェラール………しっかりしてよ………きっと何日も拷問を受けた所為で………」

 

 

「………オレは正常だよ?エルザ………一緒にRシステム………いや、楽園の塔を完成させよう………そしてゼレフを蘇らすんだ」

 

 

「馬鹿な事言ってないで!私達はこの島から出るのよ!!」

 

 

瞬間、彼はエルザに向かって魔力弾を放った。吹き飛ばされた先は土砂の山だったのでなんとか軽傷で済ませた。

 

 

「そんなに出て行きたければ一人でこの島を離れるといい………」

 

 

「一人………?」

 

 

「他の奴等は全員オレが貰う………楽園の塔の建設には人手が必要だからな。心配するな奴等とは違って服を与えたり食事を与えたり休みを与えたりなど不自由のないようにする。恐怖と力での支配は作業効率が悪すぎるからな」

 

 

「ジェラール………お願い……目を覚まして………」

 

 

彼が指を動かすと影から腕が伸びて彼女の首を絞め始める。

 

 

「お前はもういらない。だけど殺しはしないよ………邪魔な奴等を排除してくれた事には感謝してるんだ………。島から出してやろう。かりそめの自由を堪能してくるがいい」

 

 

「ジェ……ラール………」

 

 

「わかってると思うがこの事は誰にも言うな。楽園の塔の存在が政府に知れると折角の計画が水の泡だ。もしバレてしまったらオレは証拠隠滅の為にこの塔及びここにいる全員を消さねばならん………お前がここに近づくのも禁ずる。目撃情報があった時点で一人殺す。………そうだなまずショウ辺りから殺そうか………」

 

 

「ジェラール………」

 

 

「それがお前の自由だ!仲間の命を背負って生きろエルザァァァァ!!はははははははは!!」

 

 

最後に写ったのはジェラールではない誰かが狂ったように笑う姿だった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「そんなことが…………」

 

 

「私は………ジェラールと戦うんだ………」

 

 

ビートの目の前には自身の知ってるエルザではなく、一人の少女が涙を流す姿にしか見えなかった。

 

 


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