「うーん……」
「おはようございます! あ、アヤさん。どうしたんですか? そんなに考えこんで」
「あ、イヴちゃんおはよう。実は、今度トークショーに出演させてもらうことになったんだけど……話の中身がなかなか決まらなくて」
「そうだったんですか。それでしたら、私がお手伝いしましょう! ブシは困っている人を助けるものですから!」
「わあ、ありがとう! それじゃ早速なんだけど、オープニングの自己紹介からね」
「私としてはいつもの自己紹介に加えて軽い小話を挟めればと思うんだけど……。何かいい案ないかな?」
「ここは自分のキャリアを話してみるのはいかがでしょうか! 『Pastel*Palettesの丸山彩です! もうバンドを組んで1年以上経ちました!』」
「あ! 間違えました! 『もうバンド組んで365日以上経ちました!』」
「いや、そこ言い換える意味ないよね?」
「後は……そうですね、日々日々上へ向かっているという意気込みを伝えるのが大事ですね!」
「例えば……『私、やる気と疲労の貯まり具合は誰にも負けません!』」
「それファンの人心配にさせちゃう! 疲労はいらないよ、疲労は」
「ではオープニングトークも華麗に終えたところで本題に移りましょう!」
「華麗……華麗?」
「トーク内容は……『最近不安なこと』ですか。アヤさんの不安なことは何があるんですか?」
「そうだね……本番に弱いっていうのは相変わらずだけど」
「でも、最近はいろんなお仕事を貰えるようになって現場の人たちと接する機会も増えてきたし、人間関係を上手く築けてるかが不安かな……。中には気難しい人もいるし」
「自分も相手も固くなりすぎると話しづらいですよね。もっと双方ニューワールドな雰囲気を保つべきです」
「それを言うなら柔和だね……」
「ではここでアヤさんと現場スタッフのやり取りを再現してみましょう! 周りの人にアヤさんがどんなことに不安を持っているのか共感してもらうチャンスです!」
「私が現場スタッフを演じますので、アヤさんはいつもの振る舞いで接してくださいね!」
「えぇ!? いくらなんでも急すぎるよ……」
「よーい、アクション!」
「お、お疲れ様です! Pastel*Palettesの丸山彩です! 本日はよろしくお願いします!」
「あ、アヤさん! いやぁ、わざわざ私のところまで挨拶に来てくれるなんて!」
「いえ、現場スタッフも共演者の一人ですから」
「ふふ、ありがとうございます。あ、すいませーん! ラーメン一丁!」
「ラーメン屋なのここ!?」
「ちょっと待ってイヴちゃん! なんかおかしいよ!?」
「そうでしょうか? 普通に会って、普通に挨拶しただけですが……」
「挨拶する場所が普通じゃないよ! なんで本番前にラーメン屋に行ってるの!?」
「日本の国民食であるラーメンを食べて精神統一をするものかと思っていたのですが……」
「挨拶は現場でするのが普通だよ! もう、次は現場にいるって設定でお願いね!」
「了解です! では、アクション!」
「お疲れ様です! Pastel*Palettesの丸山彩です! 本日はよろしくお願いします!」
「アヤさん。まだ本番前ですけど、どうしたんですか?」
「これから一緒に仕事するスタッフさんたちに挨拶しようと思いまして」
「そうでしたか。ここから右に曲がった部屋には大道具のみなさんがいますよ」
「ありがとうございます!」
「その奥の部屋はゴミ捨て場で、その向かいにディレクターさんが、その奥の部屋がゴミ捨て場で、もう一つ奥の部屋もゴミ捨て場となっています」
「ゴミ捨て場多いね!?」
「タイム! 何この構造!?」
「現場は多くの人が出入りしますから、ゴミ捨て場を多く用意するのは当然かと!」
「限度があるよ! ディレクターさんなんかゴミ捨て場に囲まれてるし……。もっとちゃんとしたやり取りにしたいのに!」
「じゃあ次は二人の会話に踏み込んでみましょう! アクション!」
「アヤさん、今日は早いですね!」
「こんにちは。今日は撮影の日ですけど、実はまだ不安なところがあって……。今のうちに練習しておこうかと」
「不安がある場所なら私が見てあげますよ! 私の前で演技してみてください!」
「そ、それじゃあ……『まんまるお山に彩りを! Pastel*Palettesの丸山彩です!』 ……どうでしょうか」
「うーん、20点ですかね」
「低い!」
「23点満点中」
「高い! でも上限が中途半端!」
「んー、でも少し改善点が必要そうですね」
「改善点ですか? 教えてください!」
「この自己紹介の『丸山彩』の部分を『白鷺千聖』に替えてみるのはどうでしょうか?」
「怒られるよ!」
「タイムタイム! ダメだよ! いろいろと!」
「私グループであの挨拶したらすごく紛らわしいことになっちゃうよ! ていうか全く別の人の名前出すってそれ自己紹介でもなんでも無いし!」
「お気に召しませんでしたか……」
「ほら、せっかく現場の人から話を聞いてるんだから、現場の人にしかわからないこととか聞くでしょ? 次はイヴちゃんがメインで話してみてよ」
「合点承知! アクション!」
「イヴさんはこの現場に入って何年目になるんですか?」
「そうですね……もう5年目になりますね。決して表に出ることはないとはいえ、私はこの仕事に誇りを持っていますよ」
「そうなんですか。良かったらもっとお話を聞かせてもらえないでしょうか!」
「この仕事は非常に繊細さを要求される仕事であり……『極意』を身に着けるまでに膨大な時間を要しました……」
「一時期は挫折も考えたこともあります。しかし、このおかげで多くの人の役に立てていると思うと、私のしてきたことは無駄ではないんだなと思えるようになりました」
「この……『針の穴に糸を通す』仕事は」
「そんな仕事無いよ!」
「タイムタイムターイム!」
「ええ? 今回のは上手くいったと思ったんですが……」
「途中まではね!? はあ……こんな調子でトークショーちゃんとできるかな」
「大丈夫ですよ! 今までの演技の中でアヤさんは自然なやりとりができていました! これならトークもバッチリです!」
「それに、ファンはアヤさんが一生懸命に仕事をしている姿を見たいものです。その期待に応えなきゃ、ですよ!」
「……うん、そうだよね。私、もっと頑張ってみるよ! いっぱい練習して、勉強して、ずっと目指してきたあの……」
「漫才師になります!」
「アイドルスターだよ!」
どうもありがとうございました。