光り輝く呪いの歌 作:光子大爆発
されど、断罪でもあり、処刑でもあった。
必ず物事には側面がある。今回もまたその一例に過ぎない。
……意味ありげなことを書いてみるスタイルってカッコよくない?(多分イタイ)
スタジオの中に残響がこだまする。
ギターの氷川紗夜。
ベースの今井リサ。
ドラムの宇田川あこ。
ボーカルの湊友希那。
そして、キーボードを担当する私こと日陰涼。
この五人で奏でた音は演奏が終わっても耳に焼き付いて離れない。
「なに、この感覚は……」
私の前で、友希那が小さな声でつぶやく。
友希那は元来自分の思ったことを盛んに表に表すタイプではない。間違いなく驚いているのだろう。……演奏中に感じたあの感覚に。
最近、友希那はfuture・world・Fèsに出場するためにバンドを組もうとしている。
私は昔からの腐れ縁で、氷川さんは友希那にその技量をスカウトされてこのバンドの卵というべきグループの中にいる。
今回もあこちゃんのオーディション、リサはその補助という名目で私たち五人はセッションをした。
けど、そのセッションで私たちは異様な感覚を覚えた。それは形容するならば、何かに引き寄せられるかのように自分たちが奏でた音が一所に合わさって、昇華されていくようなそんな感覚。うまく言えてる気がしないけど、いわゆるバンドの力というものだろう。今まで私たちが知らずにいたものだった。
どうも友希那は戸惑いの方が大きいようだけど、私にはただただ美しかった。できればずっと浸っていたい、と思うほどに。
そして同時に悲しかった。
なぜならば、私は引き寄せられると同時にもう一つ別の力を感じていたからだ。
それは斥力だ。物を押し退ける力だ。排斥だ。
……どうやら私は取り除かれて然るべき異物らしい。
そのことを自覚した時、やり切れない激情が私のお腹のあたりを渦巻いた。
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私の名前は日陰涼。
浅く手広く音楽を嗜むしがない高校二年生だ。
最近は中学からの友達である湊友希那と一緒に近所のライブハウスでステージに立っていたりする。役割としては私がキーボードで伴奏して友希那がそれに乗って歌う。いわゆる合唱コンクールの感じを想像してもらった方がわかりやすいと思う。曲によってはスタジオにいる人に助っ人を頼むこともあるけど。
「涼、そろそろ控え室に入る時間よ? そんなところで油を売ってないで早く行きましょう?」
「わかった。けど、友希那。飲み物は買わせてほしいな。控え室の中には自販機はないから。手持ち無沙汰だと集中できないんだよ」
友希那は音楽に対しては非常にストイックな性格だ。そうさせた理由は知っている。話せば長くなるから一言でまとめるとお父さんの敵討ちだ。まあ、あまりに意識し過ぎていて時々心配になるのがたまに傷だけど、その悲壮な覚悟が友希那の歌に力を与えているのは否定できない。
それから楽屋で思い思いに過ごしてステージの上。
客席のキャパがオーバーしそうになるぐらいの人たちが私たちを見ている。
今日の私たちの出番は大トリ。つまりはライブ全体の締めを任された大役だ。
「ボーカルの湊友希那です」
.
「キーボードの日陰涼です」
「多くのことは語らないわ。ただ、私たちの歌を聴いて欲しい。それだけよ」
それから互いに目配せをすると同時に演奏を始める。
初めに演る曲は『深愛』。
私たちのライブの定番曲でもある。
本家にも遜色ない友希那の力強い歌声が、切ない歌詞をさらに印象強く伝えてくる。観客たちも静かに聞き入っていた。
やっぱり友希那の歌はすごい。
美しい上に有無を言わせない力がある。
私は今まで音楽に親しんできたけれど、これ以上の歌声となるとすぐには思いつかない。まあ、身内びいきは少なからずあるのだろうけど、私は友希那の歌が好きで好きでたまらなかった。
ライブが終わり、ライブハウスには静けさが漂っている。客足はすでにそのほとんどが帰路に着いていたが、私たちは反省会をやるためにまだ残っていた。
「ふへー、今日のライブは大変だったねー」
ライブハウス内に併設されたカフェでケーキとコーラを飲んで一息つく。ここのケーキの甘さは控えめであまり甘いのが好きではない私にはありがたい。
「今日はテンポが早い曲ばかりだったものね。あなたの指にはかなりの負担だったでしょう」
「まあね。けど、友希那にとっても今日は大変だったでしょ。それこそ叫ぶのが多くて最後の方はちょっと声量に陰りを感じたかな」
「やはり、涼には隠せないわね。ええ、確かに最後の曲の時、少し辛さを感じたわ。……どうにか取り繕ったつもりではいたけれど……」
「それを克服するためのあのセットリストだからね。でも、声量のような基礎的なものはすぐにできるものじゃない。何度も繰り返していかないと」
「しかし、それで間に合うのかしら。future・world・Fèsの予選会に……」
future・world・Fès。
それが、今の私たちが目標にしている大会だ。
プロですら落ちてもおかしくはないバンドの祭典で、プロだった友希那のお父さんを徹底的に打ちのめした舞台だ。友希那はこのフェスで優勝するのを目的にしているけど、三人以上のバンドじゃないとそもそもエントリーすらできない。
「それで今日出てたバンドで友希那のお眼鏡に叶う人はいたの?」
とはいえ、友希那のレベルはかなり高い。そこそこ腕に自信がある私とてどうにか食らいつくのが限界なくらいだ。正直なところ予選会の申し込み期限までにメンバーが集まるとは思えない。
「一人だけ。名前は覚えてないけれど、青緑の髪をした女の子よ。ギターの技量が飛び抜けて高かったわ。ほかのバンドメンバーの音を飲み込んでしまうほどにね」
「それは幸先が良いね。私が大変そうだけど、友希那なら負けることはない。次会った時、声をかけてみようか」
「ええ、そのつもりよ」
頷いて、友希那は抹茶アイスを口に入れる。うーん、実に様になる姿だと思う。……口の端の方にアイスが付いてなければの話だけど。
銀髪銀眼の友希那は外見からしてクールな印象を受けるけど、音楽以外のことだとなんというかちょっと抜けているところがある。
そこが、可愛いんだけどやっぱり心配になる。……正直、私もリサに聞いたところ友希那よりらしいからフォローも難しいだろうし。
リサは友希那の幼馴染だ。中学生の頃は私たちと一緒にバンドをやってた。高校になったらやめちゃったけど。
今でも時々、リサがいてくれればと考えることがある。
私も友希那もどこか浮世離れしているのは自覚している。だからお姉さんタイプのリサが入ればこのギャップは埋められる。おまけにリサはベーシストだからあとはドラムを探すだけ。
私も友希那もドラム以外はあらかたできるし、キーボードは最悪無くてもバンドは成立する。
「まあ、ないものねだりをしても仕方ないよね」
「何の話かしら?」
「ううん、こっちの話。そんな大したことじゃないよ」
「そんな言い方をされるとますます気になってしまうのだけれど……。特に自分の世界を作りがちなあなたの場合はね」
苦笑いを浮かべる友希那。
ちょっと考えごとしただけなのに、自分の世界というのはちょっと大げさだとは思うけど。
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今になって考えるとやはり妥当だったと思う。
私と友希那は疑いようもなく良きパートナーだ。同じ方向だって向いている。
けど、立っている位置が違った。
友希那は愚直に目標へと歩き続けた。時に生き急いでいるのではないかと思ってしまうほどに。
私はそんな友希那の後ろに立ってその背を追いかけていた。無論、友希那の目標を蔑ろにしているわけではない。
けれど、それ以上に私は真っ直ぐ歩き続ける友希那の背中を見ているのが好きだった。
ただ、私とて背中を見続けているだけではいけない。千変万化して過ぎゆくこの世界に私を永遠に刻みつける。
その夢を叶えるにはやはり自分も歩き出さなくてはダメだ。
二〇一七年 四月二十一日