獣は死して皮を留め英雄は死して名を残す   作:篠江菴

2 / 10
いざ、

脱走計画が整った。後は行動するだけである。

 

あれから色々作戦を立ててみたけど、難しく考えるのは止めた。結局のところ、檻から出る、逃げるの2つができればいいのだ。シンプルイズベストっていいよね。

 

機会を窺い始めてからしばらく、チャンスは案外早くやって来た。父親が出張で長期で家を開けることになったらしい。両親と私の3人で暮らしているこの家には他に人はいない。父親がいなくなるならこの家に残るのは私と母親だけになる。このチャンスを逃す訳ない…!

 

父親が出かける前の晩。父親は私の部屋にやってきていつものように動物になるようにオネガイしてきた。

父親が好きなのはライオンである。要求されてなる機会が一番多い。

 

私は父親の目が嫌いだ。

顔は人の良さそうな表情で微笑んでいるくせに、目の奥が笑っていない。動物になれるから野生の勘でも働くのか、嫌な感じがして胸騒ぎがする。

多分変身ができないとご飯抜きにされてたのも指示を出したのは父親だろう。それに従う母も母だが。

個性が出る前の記憶からすると、前は普通のお父さんという感じだったのに。

今は人を人だと思っていないような………、

 

 

 

 

「七伽。なにか考え事でもしてるのかい?」

 

 

 

ゾッとした。

 

笑っているのに父の顔の中で目だけがギラギラと輝いていた。

頭では落ち着いてボロを出さないようにと思うのに、勝手に全身の毛が逆立って尻尾が足の間に入ってしまう。

こんなの普通の子どもだったらギャン泣きしてしまいそうだ。

 

 

「な、なにも!パパがおでかけしちゃうならさびしくなるなっておもってただけだよ!」

 

「そうか、パパもママや七伽にしばらく会えなくなるから寂しいよ」

 

「はやくかえってきてね!」

 

「そうだね。お土産も買ってくるよ」

 

 

少し話して満足したのか父親が踵を返して入り口に向かって歩いていく。

早くでていかないかな、とその背中から視線を外さずにジリジリしていると、ドアに手をかけた父親がふと足を止めた。

 

 

 

 

「七伽」

 

「イイコにしてるんだよ」

 

 

 

 

パタン。ガチャリ。

 

コツコツ…と遠くの方へ足音が遠ざかっていく。

その音が完全に聞こえなくなると同時に体が床に崩れ落ちた。ライオンの姿のままだけど震えが止まらない。

 

怖かった。

思うことはそれだけだ。

変身が上手くできなくてご飯を抜かされていた時よりもずっと怖い。

脱走しようとしているのがバレたのかとも思った。本当にそうなら失敗した時が不味い。ご飯抜きなんて罰じゃ済まないだろう。

 

でも。

 

こんなところにずっといるのは嫌だ。

せっかく個性なんてものがあって新しい人生を歩んでいるんだから色んなことがしてみたい。

 

だから、

 

 

 

「あしたけっこうだ…!!」

 

 

 

絶対に成功させる。

 

 

 

*******

 

 

 

吾が輩は猫である。名前はもうある。

現在猫になって変身の練習を装って索敵中だ。

猫ってすごい。元々が狩猟生物だったのもあってとっても耳がいい。人間には聞こえない音がたくさん聞こえてくる。

 

昨日の今日でなにかあるんじゃ…?と警戒していた父親は朝からちゃんと出かけて行った。猫の聴力でいつも聞いて覚えていた車の音がでていくのをしっかり確認している。

朝食を運んできた母親も普段と様子は変わらなかった。その事に胸を撫で下ろす。

 

もうすぐ昼になる。母親が昼食を運びにきた時が計画の実行の時だ。

檻を破った後ならドアを破るのも簡単じゃないかと思うけど、昨日の父親を見た後だ。何があるかわからないから体力をできるだけ温存するようにして、外から鍵を開けられた時に突破した方がいい。

そこからはぶっつけ本番だ!!

 

 

足音が近づいてくる。部屋の前で止まって鍵を開ける音が鳴る。

 

ドアを開けて母親が部屋に入ってくる。

 

 

 

「七伽、お昼ご飯よ」

 

 

一歩二歩、三歩……、

 

 

 

今!!!

 

 

 

「う、ァ、ああああ!!!」

 

 

 

メキメキと音をたてて体が変化する。こんなに大きな動物になったことがないから音が鳴る程の変化に体が軋んでいるみたいだ。

今までは変身の度に勝手に大きさが変わっていた首輪はあまりに急激な大きさの変化に耐えられず千切れそう。

変化が収まって形になったのは長さのある太い角。体つきはゴツゴツしていかにも固そうだ。

私が檻を壊すのに選んだのはサイだった。

 

 

 

「ブォオオオオ!!!!!」

 

 

 

ガイイイインン!!!!

 

「きゃああ!!」

 

 

 

狭くなった檻の中で思いっきり勢いをつけて檻にぶつかる。2t超の重さが檻にかかって頑丈な棒がひしゃげた。でもまだ足りない…!足りないのなら、何度でも!!

 

ガン、ゴンと激しく檻にぶつかりにいく。何度目かで瓦礫を撒き散らしながら檻が壊れた。

 

檻の外で頭を抱えて踞っていた母親の側を走り抜けて鍵の開いた入り口を勢いのままにぶち破る。

久しぶりに見た家の中は昔と変わらず、その事実にホッとしながら玄関を目指した。

 

 

 

「ま、待ちなさい!七伽!!!」

 

 

 

後ろから聞こえてきた声は聞こえなかった振りをした。

 

 

 

 

*******

 

 

 

「、……はあ、ハッ……っ」

 

 

 

自宅から遠く離れた公園の遊具の中に身を潜めてから少し経つ。

 

あの後サイのままだと動きづらくて虎に変身し直して家から脱走した。ついでとばかりに玄関の扉も全力の体当たりでぶっ飛ばしたのは私です。

我が家の異変を不審に思ったのか自分の家から様子を見に出て来ていた人もいて、私が通り抜けた後は騒ぎになっていた。

なんせ虎だ。近所から変な音がすると思って見てみたら虎が出て来たりなんかしたらこの個性が存在する社会でも誰だってビビる。

虎になった理由は??パッと思い付いた動物がこれだっただけで特に意味はない。…そういや初っぱなから虎が警察に追われてるようなアニメを見たような……。意味はないったらない!

騒がせてすみません…!でも私の通報ついでにうちの家の異常にも気づいてくれ!!

 

檻生活をしていた時によく考えていたことは脱走方法の他に脱走した後のことだった。

中身は大人が入っていたって体は七歳。一人で社会の中で生きていくのは到底無理だ。

犬や猫になって野生で生きるのはごめん被る。

じゃあどうするか。警察で保護してもらえばいいじゃん。

情報が制限されていたからよくわからないけど、警察かそれに準ずる組織くらいあるだろ!

前世でも猿が町に出て来ただけでも大捕物があったくらいだから、絶対どこかが動くはず…!

捕まるときに麻酔銃くらい撃たれるかも知れないけどこっちが猛獣になってるんだからそればっかりは仕方ない(白目)

 

でもちょっと計画が狂ってしまった。

サイに変身した時に想像以上に体力を持ってかれてしまったのだ。

私の変身は一度変身すると自分で変身を解かない限りずっとその姿を維持していられる。その姿でいること事態にはエネルギーを使わないのだ。

変身する時が一番エネルギーを消費する。その消費量は変身する対象が大きくなるにつれて多くなる。初めて変身する動物なんかは慣れてないから尚更だ。

 

後、結構ボロボロだったりするのだ、実は。

檻を壊す時の体当たりで打撲と擦り傷まみれだし、額は瓦礫で切ってしまった。

オデノカラダハボドボドダ…!

 

だから作戦を変更して近くの公園の草むらで変身し慣れていて体力の消耗が少ない猫に姿を変えて、今いる公園まで逃げてきた。ほとんど繊維だけで繋がっていた首輪もそこに置いてきた。

 

 

 

「……にぁ、」

 

 

 

動物の姿でこんなに疲れきってると人の言葉がしゃべれなくなるなんて初めて知った。

まあ元々動物の声帯で言葉を喋れる時点で個性の力ってすげー!!って感じだったんだけど。

 

ちょっと休憩、と思って寝転がった遊具の冷たさが走り回って火照った体にじわじわ広がっていく。ひんやりして気持ちよくて、もう起き上がれる気がしなかった。

 

 

 

「(ちょっとだけ、ねてもいいかな……?)」

 

 

 

くたくたになった体を自分を守るように小さく丸める。

ちょっとだけ、ちょっとだけ……と思っているうちに、もう半分も目が開かなくなった。

 

 

 

 

「お前、大丈夫か?」

 

 

 

 

目が閉じきる前にキレイな赤色が見えた気がした。




とりあえず2話分…!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。