獣は死して皮を留め英雄は死して名を残す   作:篠江菴

5 / 10
シリアス?…あいつはイイ奴だったよ…。

行間等手探り中です。前の方のページと書き方が違うかも…。


親しみを込めて人は呼ぶ

ーーーー鬱蒼とした森の中。張りつめた意識の隅でできる限り抑えた自分の呼吸音が耳を掠める。枝深い茂みに身を潜め周囲を確認してから深く息を吐き出した。

 

 

「まだまだじゃのう、七伽」

 

「……っ!」

 

 

頭上から降ってきた声に弾かれたように茂みを飛び出し、疲れた体を引きずって密集した木々の間を走り抜ける。

走っても走っても追いかけてくる人影に口汚く悪態をつきたくなるがそんな暇もなく足を動かし続けている。

チラリと後ろを確認しようとした時顔のすぐ横を黒っぽい物体が通りすぎていった。肌を刺していくチリチリとした鋭い風が本当に肌を裂いていったかと思った。

身の危険を感じて転がるように走るが一度始まったコレはしばらくは終わらない事をここ数ヶ月で私はよく知っている。

右に左に、時に木の影へ隠れながら黒っぽい物体ーー布に詰められた小豆であるーーを避けていくが投げられる数の多さに避けきれずに腕や足に細かい粒が痣を作っていく。

袋入りのマメくっそ痛い。つーかこれお手玉じゃん!!豪速球で投げても破れないお手玉ってなんだよ!?

鉛のような足が縺れるとおちょくるように的確に足に当ててきやがる…!

こんの……!!

 

 

「くっそジジイ!!足ばっか当てんな!!!」

 

 

「誰がジジイじゃ!爺様と呼べ!!」

 

 

「フギャッ!!」

 

 

勢いよく飛んできたお手玉が思わず振り向いて噛みついた私の額に良い音を鳴らしてぶつかった。

疲れていたのもあってか頭がグラリと揺れて意識がぶっ飛んだ。

 

 

あの日から早半年。

私は今、とある山奥で人外じみたジジイとババアに稽古をつけられながら人としての感覚を取り戻している最中である。

……動物に変身できるからって、野生への復帰訓練と間違ってないか?

 

 

 

*******

 

 

 

半年前。私は保護され、病院での精密検査を受けたり色々と調査を受けたりなんだりしてから今お世話になっている家に引き取られた。

 

母親は虐待で捕まり父親は蒸発して行方知れず。てっきり施設にでも預けられるのかと思っていたが、私には親戚がいたらしい。私が今まで住んでいた所からかなり離れた県にいたらしいが、私の親類を探してくれたらしい警察から連絡が回ってきて私を迎えに来てくれた。

実は両親が話していた、私を閉じ込めていたこと隠す為に近所についていた嘘をチラッと小耳に挟んで知っていたので、他県に親戚がいるって話も嘘だと思っていたのだ。まさか、実在するとは。

親戚は小さいお爺さんと大柄なお婆さんの2人組で、話を聞いて自分の事のように憤り、自分達には子どもがいないからと引き受けてくれた。

 

病院での検査では問題が浮上した。

私は保護された当時7歳になっていたんだが、育った環境のせいか成長が2歳ほど遅れていたらしい。2歳て。

多分原因は食事だ。最長3日間の断食生活の繰り返しに極端に偏った食生活が個性が発現してから続いていた。

個性によって私の味覚は変わってしまい、普通人間は食べられない生肉が食べられるようになった。きっかけは「動物になっているなら食べられるんじゃないか?」と生肉片手にやって来た父親だ。その日食べても異常がないことがわかってからは毎回の食事は生肉になった。今となってはそれに体が馴染んでしまったのか数日に一度は生肉を食べないと体に不調が出てしまう。

本来人間は肉を食べるだけでは生きていけない。色々な食材の中からたんぱく質だけじゃなく、脂質や糖質、ビタミン等色々な栄養をとらないと体に異常が出てくる。

それを私はたんぱく質しかとっていなかったのだ。生肉を食べられる体でも足りないものが多過ぎて成長不良に繋がったというわけだ。

これからちゃんと背が伸びるかわからないと言われて私はかなりへこんだ。

後は数年閉じ込められていた私のメンタルケアだ。今は家の近くにある大きな病院に定期的に通っている。

 

 

今の家は、小さい町の山の麓にある。後ろが山でその前に無駄に広い敷地の家が建っていて、引き取ってくれた2人はその家で格闘技を教えているらしい。ちなみに山は私有地だそうだ。稽古でよく使うらしい。

私が引き取られてからは、数年室内から出ずに鈍ってしまった体を叩き起こすかの如く稽古と称して体術を教えられている。なかなかにスパルタで全くトラウマを思い出してる暇はなかった。荒療治にも程がある。

そんなこともあり、最初は丁寧に読んでいた呼び方もあっという間に崩れ、ついでに口も悪くなった。

 

 

 

*******

 

 

 

 

「七伽、お箸の持ち方上手になったねぇ」

 

「みちがえた?」

 

「調子に乗るんじゃないよ。」

 

「えーー、いいじゃんちょっとくらい!」

 

 

平皿に乗った小豆を箸で持ってそっと隣の皿に移す。またつまみ、それも隣の皿へ。それを何度も繰り返す。

日本人なら皆小さい頃にやったことがあるだろうか。豆を使った箸の練習である。前世では無駄に皿の移し替え競争とかあった。

今世では手先の器用さがいまいちなので7歳にもなってお箸の練習である。理由は、わかるな…?とりあえず昔途中まで習ってた食事のマナーの練習は無駄になった。

じいちゃんとばあちゃんは生活の基礎からしてできないことだらけの私に色んなことを教えてくれる。箸の持ち方から言葉使い等わからないことはなんでもだ。前世の知識でしゃべれはしても舌っ足らずはなかなか直らず、短い指では大人のように上手に箸を持つのも難しかったのでとても助かっている。鉛筆は平仮名片仮名の練習してたから地味に持てるんだけどな~~。

義務教育である小学校は、編入しないで通信教育を受けながら足りない部分を道場の門下生にいる近くの学校の先生にちょっとずつ教えてもらっている。前世ではなかった小学校の通信教育があるのは個人的に嬉しい。個性があって前世よりも難しい問題とか多そうだから、色々とニーズに沿った末に今の形になったんだろう。

 

私がちまちま平皿の小豆を移し替えている間、横に座っているばあちゃんは黒い布を繕いながら小豆を詰めていた。

ばあちゃんはデカイ。座っていても大人が立っているくらいの高さがある。個性に由来する背の高さだけど、それに合わせて天井も高くしてあるくらいだから押して知るべしである。そんなばあちゃんが使う物は普通より大きくしてあるものもあるから、巨人の家に紛れ込んだような気分になる。

そんなばあちゃんによって完成したお手玉はソフトボールくらい大きくて最早違う物体だ。

じいちゃんとばあちゃんは私に稽古をつけてくれるが、私が小さすぎるので(実質5歳)内容は結構ソフトにしてくれている。じいちゃんと鬼ごっこ、ばあちゃんと組み手、じいちゃんと投擲練習、ばあちゃんと筋トレ柔軟、etc……(※尚基本気絶までがセット)。あれ?やっぱりハードだな??

でもまだソフトな方なのだ。道場の門下生の人達の訓練見るとな……。

じいちゃんの鬼ごっこは足元が悪い山でする。反射神経や動体視力、体力を上げる稽古だから、走って逃げ回るだけじゃなく色んな物が飛んでくる。私はまだばあちゃん作のお手玉で手加減されているけど段階が上がってくるとこれが刃物になるらしい。クナイ、投げナイフ、棒手裏剣、チャクラム…。アサシン養成所かな???山からはよく悲鳴が聞こえてきます……南無。

更に段階が上がるとじいちゃんが個性を使ってくるようになる。じいちゃんの個性はナマハゲだ。見た目がナマハゲになって身体能力が上がる。ナマハゲが森の中を追いかけてくるだけでも恐ろしいのに、じいちゃんはナマハゲが着ている藁の衣装でも無音で背後に立っていたりするのだ。一度暗くなってから家の廊下で遭遇した時は泡を吹いて倒れた。意識が戻るとそのまんまの格好のじいちゃんに介抱されていてギャン泣きした。じいちゃんはばあちゃんにボコボコに怒られていた。

後々これ稽古を自分が受けることになるだろうなと思うと手足の震えが止まらない。幼女()大きくなりたくなーい☆

まあ、そんな事言ってる場合じゃないんだけどね。

 

 

「七伽、そろそろ稽古に行こうか」

 

「わかった」

 

 

今日はばあちゃんと組み手の日だ。

さあ頑張るぞ~~(白目)

 

 

 

*******

 

 

 

そういえばこの家、乙木家という。

家の門や敷地内にいくつかある道場にも立派な木札に書いて掛けてあり地味に存在を主張している。

道場は使う用途によって分かれていて、今の所私が行ったことがあるのはばあちゃんメインの格闘技の道場とじいちゃんメインの飛び道具用の道場だ。まだ使ったことはないが剣術や長物を使う道場なんかもあるらしい。

中から響いている気合の掛け声を聞きながら道場に足を踏み入れる。今道場を見ているのはじいちゃんで門下生同士の組み手の指導をしていたようだ。

 

しっかり準備を済ませたあと、ばあちゃんと向かい合って礼をする。この数ヶ月でこのやり取りにも慣れてきた。糸がピンと張るように空気が張り詰めて肺をいっぱいに満たす。

 

 

「いつでもいいよ、かかってきな」

 

 

離れた所に立つばあちゃんの声を聞き、構える。

少し離れていてもばあちゃんの存在感は凄い。隙があるのかどうかなんて私にはまだわからないがひたすら練習を繰り返していくしかない。

 

いざ!

 

床を蹴って相手に向かって走り寄って振りかぶった拳をばあちゃんに叩きつける。私との稽古中ばあちゃんはその場からほとんど動かずに攻撃を対処してくる。手で拳を捌き足でいなし見て分かったことを指導する。武道を始めたばっかりの子どもが挑んだって倒せる訳がない相手なので、今は習ったことを繰り返し精度を上げていくしかない。

右、左、飛び退いて蹴り。受け止めてきた手を蹴って両手を着いて着地すると側面に回り込んで突きを放つ。当たりはしたがわざと避けなかったようで固い筋肉に阻まれてダメージは無さそうだ。

 

ばあちゃんは結構私と稽古する時はわざと当たってくれるところがある。門下生の人達との稽古を見ていると解るのだ。普段のばあちゃんは攻撃を全然くらわないし体に当たりそうな攻撃もキチンと捌いている。

多分私に武道を習うことがどういう事か教えてくれているのだ。もちろん習い始める前に格闘技を習う上での注意事項をみっちり教えてくれていた。

でも聞くだけじゃ理解したとは言えない。実際にやってみて、自分の拳が肉を打つ感触を知る。

 

「持てる者が人を傷付けてはいけない」というのはばあちゃんの言葉だ。

 

今の社会では人口のほとんどが個性を持っていて、各々自分の個性に慣れているがそれ故に人を傷付けてしまう事がある。一般人が普段個性を使うことは認められていないが、感情が制御できなかったり不意な事故等で無意識で個性を使ってしまったりと思ってもないところで人を傷付けることもあるのだ。更にヴィランなんて奴らもいるから悪意によって危険に晒されることだってある。

武道だってそうだ。護身の為に習ったものが、悪意があれば犯罪にだって使えてしまう。

 

だから、格闘技を教えているんだと、じいちゃんも言っていた。

 

私有地を道場として解放し個性を使えるようにする。ここに来ることで自分の個性をしっかり知り、武道を習うことで精神を鍛え力の制御の仕方を学ぶ。

その手伝いをしたいのだと。

この乙木の道場にはヒーローや警察が2人に師事しにやって来る。2人が空手でも柔道でもなんでも教えるし、何より個性が使える場所だから利用しやすいんだろう。

それから近所の不良なんかもよくやって来る。元々は2人が道場破りみたいなことをやっていた悪ガキを伸した上で受け入れたことが発端だって聞いたけど、子どもの素行を良くしたい親に放り込まれたり先に来ていた連中に連れてこられたり、そんな奴等が結構いるのだ。荒れてる連中は最初は暴れるけど2人にぶつかって伸されて行儀を正されている内にいつの間にか丸くなっている。

なんだったらここでヒーローや警察に繋がりが出来てそっちの仕事に行った人もいるって話だ。

手助けをしたいと言った2人だからこそだと思う。

 

私の個性は簡単に人を傷付けてしまえる個性だ。それどころか力の加減を間違えれば命を容易く刈り取ってしまえる。

それがわかっているから2人は私にこうして稽古をつけてくれるんだろう。私が足を踏み外して後悔しないように。

 

 

「ハアッ!!」

 

 

バシン!と大きな音を立てて蹴りが受け止められる。すぐに足を戻してばあちゃんの周りを駆け回り何度も突きを繰り出し蹴りを放つ。毎日じいちゃんに追われて山を駆け回っているから体力がついてきて突きや蹴りの威力も上がって来ているのが少し実感できる。実感が伴ってくるともっと強くなりたい気持ちが湧いてくる。

 

 

「狙いが甘い!もっと腰を入れな!」

 

 

「っ、ハイ!!」

 

 

まだまだ成長が足りない子どもの体じゃ対応しきれないことも多い。出来なくたって稽古が終われば「頑張ったね」としっかり褒めてくれるのがばあちゃん達だ。こういうところに不良達も絆されるんだろう。

稽古がキツくて毎回気絶していても辞めようとは思わないのがばあちゃん達の凄さだ。

 

身を翻して腕を振りかぶった時ーーーー、

 

何かが目の前を飛んで行ってものすごい音がした。

気づけばばあちゃんに抱えられていて道場の壁際には壁に激突して伸びている門下生。

元不良がちょっとした反抗心でじいちゃんに殴りかかって反撃されたらしい。こんなことがよくあって週に一度は誰かが壁際で伸びている。

抱えられていた状態からゆっくり下ろしてもらってため息を吐く。その横でばあちゃんが噴火した。

 

 

「アンタ!どこに向かって蹴っ飛ばしてるんだい!!」

 

「なんじゃ五月蝿い。静かにせんかい!」

 

「何が五月蝿いだ!あと少しで七伽に当たる所だったじゃないか!!」

 

「お前がおったじゃろうが!それに当たっとらんじゃろ!!」

 

「こっちに飛ばしてくるのが問題なんじゃないかクソジジイ!!!」

 

「なんだとこのババア!!!」

 

 

この2人、仲が良いくせにめちゃくちゃ喧嘩が多い。

ちょっとしたことで喧嘩してドンドンヒートアップしては個性込みの大喧嘩になる。

 

ばあちゃんの体がメキメキ音を立てて変化する。立派な角が生え肌の色は赤く色付く。元々大きかった体は筋肉が膨れ更に大きく見える。

ばあちゃんの個性は鬼。おとぎ話に出てくる金棒を持っていそうな鬼になるのだ。

ばあちゃんが個性を使ったのを見てじいちゃんも個性を使ってナマハゲになる。こうなるともうお手上げだ。

 

伸びてる人を他の門下生の人達と回収して道場の外に避難する。中では喧嘩が始まったのか怪物みたいな気合の声と衝撃音が聞こえてくる。

「大丈夫かー」「災難だったなー」と声をかけてくる門下生達の声に苦笑しながら返事を返す。今日はもう稽古は無理だな……。

 

ドゴン!!と腹に響く破壊音が鳴って道場の壁に穴が開いた。

 

 

「"妖怪道場"って名前は伊達じゃないなー」

 

 

門下生の間からそんな声が聞こえてくる。

妖怪道場。乙木の道場につけられたあだ名である。というか門下生にも近所の人達にもわりと親しみを込めて呼ばれている。

由来はじいちゃんとばあちゃんの個性があれで、しょっちゅうこんな喧嘩が勃発しているからである。

"妖怪大戦争"って言われても納得の言葉しか出てこない。

 

乾いた笑いが止まらない私を尻目に門下生達は慣れた様子で他の道場で個人練習するために移動を始めた。私も誘われたので見学に行くことにした。

これが今の私の日常である。




幼少期、引き取り先にて。
幼女()頑張ります。


警察とかヒーローとか病院とか関連等々捏造だらけです。妄想100%。
「ここおかしいんじゃ??」ってところがあったらすみません(汗)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。