獣は死して皮を留め英雄は死して名を残す   作:篠江菴

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数学なんてクソくらえ

「ついに来たなぁ」

 

 

天気は快晴。受験日和である。

眼前には端が見えない長い塀と物々しいゲート。

にしても……

 

 

「クソでっかいなー……」

 

 

やってきました、雄英高。

 

中学から学校に通い、襲い来る若いコミュ力のお化け共に揉まれ流されここまで来ました。

現役中学生の勢いこわい。中身おばちゃんはついてけない。正直外身に引っ張られて中身が子ども返りしてようが、ほとんど同年代と触れ合わない幼少期を過ごした私としてはブランクがデカイのである。

 

 

「四葦、行かないのか?」

 

「あ?悪い、今行く」

 

 

ヒーローを目指すという事で志望校は最難関の雄英にした。近場にもヒーロー科がある高校は無くはなかったが、やっぱり有名な所の方が力をつけるには近道だろ!とばかりに願書を出してからが若い力との本当の戦いだった…。

うなれ、拙僧のコミュ力!!!

 

ちなみに今一緒にいるのは障子目蔵君。

同中でクラスが被った事もあり、対人スキルに難がある私とも割りとスムーズに話せる御仁である。

体はでっかく心もでっかく、友達思いの紳士(ジェントルマン)である。

同じクラスでは大変お世話になりました。

 

先を歩いていた背中を追いかけながら玄関口に吸い込まれていく特色溢れた人の群れを眺め、ここから見える何人が夢への切符を勝ち取れるのだろうかと考える。

今年の偏差値は79、倍率は毎年300オーバー。

ヒーロー科への入学は、推薦入学者を除けば36人分しか枠がない。

実技はよっぽどの事が無ければ行けると思うが、筆記がなぁ……。不安だ………!

コンパスの長さが違い過ぎる障子の横に並ぶと、さり気なく歩調を緩めてくれた障子からちらりと視線が飛んでくる。

 

 

「……なんだよ」

 

「おまえなら大丈夫だろう」

 

「ハァ?……エスパーかよ」

 

「分かりやすいからな」

 

「マジでか」

 

 

障子の個性が索敵特化にしたってこんな所まで索敵してこなくっていいんですよ。

まあ、そこそこ付き合いある故か。

 

 

「あんがと。……試験じゃお互い競争相手になるが、頑張ろうぜ」

 

「そうだな」

 

 

お互いに拳を差し出しぶつけ合わせる。

ハァ〜〜、なんか青春っぽい。アオハルかよ。

いや年寄りくせぇな。

とりあえずやれるだけやりましょーかね。

 

 

 

*******

 

 

 

 

筆記終了。数学死んだ気がする。

前世でもどんだけやったって苦手だったんだよなあ。数Ⅰも数Ⅱも数Ⅲも仲良くなれない。

若い脳みそのお陰で前よりはよっぽど吸収率はいいんだけど。

 

そんでもってこれから実技、10分間の対敵想定の模擬演習。

これだけの受験者がいるから会場はいくつにも別れていて、同校の生徒はそれぞれ分けて配置された。個人の力を見る場だから当然だと思う。

 

動きやすい服装に着替えて試験開始まで待機。

格好としては、襟元や肩口が広く開いたタンクトップにウエストがゴム素材のハーフパンツ。その上から膝まで長さのあるフロントチャックのオーバーサイズトレーナーを着て、裾留めにチャックを少しだけ上げている。

なんちゃってバスケ部スタイルにトレーナーを中途半端に引っ掛けてるから変な格好だが、現状これが戦う時の最適解だ。変身するとタイトな服は破れて大惨事なんだわこれ。場合によっては布で首が絞まるし大事な所がモロリする。

個性のせいで一部の倫理観やら人間的な感覚が欠落しかかっている私でも、体に凸凹が出来てきた頃から流石にモロリは駄目だろと前世で培った人間性が猛抗議してきて……。中学上がる前に相澤さんにも注意されたし………。

悲しい事に、今の所変身と同時に服が消えるなんて魔法みたいな事は起きた試しがないから、何枚も服をダメにした末にこのスタイルに落ち着いた。

とりあえず中の服が破れたら上着閉めときゃどうにかなる。

ついでにだが、今日みたいにブカブカタンクトップだと胸が脆見えなので伸縮素材のチューブトップを着けている。

 

ちょいちょい周りからの視線を感じつつもそろそろかな〜と体を解しながら待っていると、

 

 

『ハイスタートー!』

 

 

足のバネに任せて集団の頭上を飛び越え市街地の中へと駆け出した。

手近な所は直ぐに激戦区になるだろうから今のうちに奥に進んでそっちから狩ろう。

後ろでは試験監督のヒーローに発破をかけられた受験生達が一気に飛び出してきていた。

急な合図で呆けてたんだろうけど、普通はそういう反応だよなぁ。私が家での突発的な戦闘に慣れてるだけか……。

 

奥へと駆ける道すがら、行きがけの駄賃とばかりに仮想敵を攻撃する。厳つい見た目の割に案外脆い。どの形でもまだ素手でいけている。

まだ個性は温存しているが、昔みたいに慢心して使っていないわけじゃない。私の個性は変身の時が一番体力を消費するから、可能な限り消耗は抑えておきたい。

だが足が速い奴等がそろそろ追いついて来たから、使わないままってのは無理な話か。

これまでに倒した数は13。デカイのが多かったからそろそろ30Pになるだろう。

結構奥まで来たし個性、使うか。

 

 

 

 

 

 

 

「29、30……!くっそ、小せぇのばっかり来やがる!!」

 

 

今何Pだ!!!

個性を使い始めてから足が速い1Pロボしか寄って来ない。

蹄に変わってる足のせいでガンゴン高い音が鳴るからか。

寄ってくるから探す手間は省けるが、合計何Pかわからなくなってきた。

周りに動かなくなった残骸が積み上がっていく。

ゴキゲンにヒュンヒュン飛んできやがって…、噛み砕くぞゴルァ!!

 

苛立ち紛れに山になった塊を蹴っ飛ばしながら跳ね上がると、轟音を立てながら真横の壁が崩れ、勢い良く振られた腕が…。……うで?ちょ、ま、今空中!!

 

 

「ハァアッッ!?!?!!」

 

 

咄嗟に脚を構えて蹄で受ける。景気良く吹っ飛ばされたが、折れては、ない!

衝撃が殺しきれてないからビリビリする……!

空中で体を捻ってどうにか怪我なく着地し状況を確認すると、少し離れた所に見上げる程に巨大なロボット。そこから放射状に逃げていく人の群れ。

アレが所謂ギミックか…!さっきのはヤバかった。一歩間違ったら大怪我じゃ済まなかったぞ……。

 

思わず鳥肌がたった腕を撫でる間にもアリの子を散らすように受験生達は逃げていく。

しまった、こんな所で突っ立ってる場合じゃないな。

もう時間はないだろうし、ギミックを躱しながら残ってるPを稼ぐか…?

そう思いながら、ヤツから距離を取ろうと駆け出したのに、

 

 

「……ッ!……けないッ!!」

 

 

伸びた耳が声を拾った。

 

バッと声が聞こえた方を向くと壊れたロボットの影に女の子が1人。この混乱の中で瓦礫が振動で崩れてきたんだろう。足が隙間に挟まれていた。

その子がいる場所はギミックの割りと近く。もうすぐ太い腕のリーチが届く。

どうする!?このままじゃあの子は……。

 

 

「頭伏せて!!」

 

 

気付けば脚は瓦礫を蹴り飛ばしていて。後ろには抜けた足を見てポカンとした女の子。

上手くいって内心ホッとしつつも、直ぐに女の子を掬い上げて走り出した。

 

 

「大丈夫か?」

 

「えっあ、どうにか!助かったよ!」

 

「よかった。このまま逃げるぞ!」

 

「ぇえっ!?」

 

 

耳元でなんだかわーわー言ってるけど、脂汗かいてる女の子を下ろすわけにはいかないなぁ。挟まれてた方の足が痛そうだ。流石にのんびり下ろしたりしてたら追いつかれる。

そうしていると、進路の先に今度は座り込んだまま腰を抜かした男子。マジかよオイ…。

 

 

「なあキミ、あの男子任せていいか?」

 

「ハ!?え、まさかアレと戦うの!!?」

 

「流石に2人も抱えるとなると機動が落ちて追い付かれる!」

 

「まず2人も持てる事にビックリなんだけど!って、ちょっと!!」

 

 

目標まで辿り着いたから問答無用で件の男子の横に下ろして来た道を戻る。

もう終わりが近いなら囮になって時間を稼いだ方がマシだ!!

まずは一丁…!

 

 

“パンプアクト”

「セィァアッ!!」

 

 

気合一閃。伸びてきた腕の下に潜り込んで関節部をかち上げる。メキリと歪むも取れたりはしない。

他のロボよりもかなり丈夫だ。

 

 

「もう、一丁ォ!!!」

 

 

凹凸がある金属の出っ張りを掴んでグワリと体ごと腰を捻ってもう一閃。力尽くでの一発に今度は派手な音を散らして肘らしき所から先のパーツが脱落した。

 

 

「ッハァ!次!!」

 

 

戦闘はまだ終わってない、まだ残りの腕が来る!!

 

 

 

『終了〜!!!!』

 

「、ぁあ!?」

 

 

 

終わっ、た……?

やっと終わった…!10分なのに最後めっちゃ長く感じた!!

腰に手を当てデカイ溜息を1つ。

目の前で停止したギミックを見上げる。……ふつーに試験だからって壊しまくったけど、これ誰か修理すんの?どんだけ予算持ってるだろ雄英……。

深く考えてはいけない。帰りましょーか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

救護の職員を探してとりあえず人の流れる方へ歩く。

片腕にかわいい女の子。反対の肩に図体のデカイ男。

俗に言う片腕抱きとお米様抱っこである。

肩の上のメンズはメンタルがやられて魂が抜けていた。

すまんな。体格的に小脇に抱えると引き摺るんだわ。

腰を抜かした自分を恨め。

メソメソしているメンズをチラ見して腕の上の彼女が苦笑した。

 

 

「……あんた、強いんだね」

 

「うん?いや、まだまだだよ。家じゃまだまだベッコベコに扱かれてる」

 

「ブフッ、あれだけ強いのに…?凄い家なんだね」

 

 

言い方が面白かったのか短い髪を揺らしながら笑う顔がかわいい。

……そういや今世まともに女子と触れ合ったことあったか?中学時代?あれはちょっとなんか違う。

最近は口が悪すぎる気がするから、対女子だしなるべく柔らかく話してるつもりだけど、…大丈夫そうだ。

あ"ーーーーーー、凄いマイナスイオンを摂取してる気がする……。これが癒やしか。

テンションも上がって耳がピルピル揺れる。

気になるのか頭の上で気配がソワソワしている。

 

 

「耳気になるか?」

 

「……気になる」

 

「どーぞ?」

 

「う、うん…」

 

 

さわり。そうっと伸ばされた指が優しいタッチで短い毛並みを撫でる。擽ったさに思わずピピンと跳ねた耳に驚きつつも「はわ…」と気が抜けた声が聞こえてきて吹き出してしまった。

 

 

「なんの個性か聞いてもいい?」

 

「簡単に言えば変身だな。動物になれる。今日はワピチって鹿だ」

 

「なるほど、確かに鹿の角じゃん。バキバキだね」

 

「何回も頭突きしてたら流石に向こうの強度に負けた」

 

「ロックだねあんた……」

 

 

なんかちょっと呆れられてる気がするぞ…。

安定の為に角の長めに残ってる部分を持ってもらってるから頭が動かせない。

 

 

「そうだ。…改めて、今日は助けてくれてありがと。ウチは耳郎響香。個性は耳に付いてるイヤホンジャック。……よろしく」

 

 

そっと頭を彼女に無理の無い範囲で動かして覗き見ると、頬を染めて恥ずかしそうにしている耳郎さん。

 

 

「かわいいかよ……(こっちは四葦七伽。こちらこそよろしく!!)」

 

「……あんたバカなの…!?」

 

「(俺今何を見せられてるんだろう……)」

 

 

しまった本音が。

真っ赤になってそっぽを向いた彼女に自己紹介をし直した。

 

会場の出口まで戻ってきて耳郎さんを職員に預け、腰が良くなったと言いつつもなんとなくヨボヨボしているメンズを開放して。

 

 

合流した障子と地元に向って帰る途中で、友達になった彼女と連絡先を交換していない事に気がついた。

ガッデム!!!!

 

 

 

(はじめて女子の友達ができました!)




数学がクソくらえなのは作者。
以下突っ込みきれなかった一部説明。
後々どこかで入れられたらいいなぁ。


☆パンプアクト
手足をパンプアップして瞬間的に攻撃力を上げる必殺技。

♀主は、道場にくるヒーローなんかの話を聞いてここ数年で必殺技(仮)を作ってる。けど、技名を言ったりするのは恥ずかしい。
だって中○病じゃん!皆一回は通る黒歴史じゃん!?オタクだったけど大学までいったよ!!人生やり直してもっかい通るどころかヒーローなるなら一生付き合っていかなきゃじゃん!!!!
うずく右腕、隠された魔眼……。うっ頭が…………!
まだ吹っ切れていない。

君にはもっと先に感じるべき羞恥心があるハズだ!!(クソデカボイス)
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