パリィィィン!
という音と共に、カッツバルゲル+4が僕らの目の前で粉々に砕け散る。
モンスターの武器破壊技で刃がちょっと溶けたり、切っ先が欠けるのとは訳が違う。
完全に刀身がバラバラに砕け散ったという事は、その瞬間に耐久力が全損した事を意味する。
つまり、優子の愛剣、カッツバルゲルは完全に修復不能になってしまったのだ。
この現象を一番早く飲み込み、最初に動いたのは鍛冶屋のネズハだった。
「す、すみません! すみません! 手数料は全額お返ししますので‥‥‥本当にすみません!」
何度も頭を下げながら、謝罪を連発するネズハ。
しかし、謝られている当人である優子は、ネズハの謝罪の言葉に全く反応せず、ただただ呆然と立ち尽くしていた。
翔子も優子と同じように突然の事で何が起こったのか把握できないようで、呆然としている。
雄二は素早くこの状況を理解していたようだったが、何かを考え始めてネズハの言葉をまるで聞いていなかった。
仕方がないので、僕が優子の変わりに一歩前に出て、ネズハに声を掛けた。
「いや、あの‥‥‥ちょっと待って。手数料どうこうの前に、これは一体どういう事なのか説明してくれない? 僕は元テスターなんだけど、当時の公式サイトのプレイマニュアルには、三つのペナルティしかなくて、武器強化失敗ペナルティに武器消滅なんてなかったと思うんだけど?」
僕の記憶では強化失敗ペナルティは三つしかなくて、武器消滅はなかったはずだ。
ペナルティの一つは、素材ロスト。文字通り、強化するに当たって確立ブーストを上げるために使用した素材を失う事だ。
二つ目はプロパティチェンジ。これは簡単に言うと、鋭さを+1に上げるよう頼んだけど、丈夫さが+1上がるというものだ。
そして三つ目が、プロパティ減少。これが強化をお願いする時に、最も気をつけなければいけないペナルティーだ。
リュフィオールが受けたペナルティでもあり、最も多くの人が受けることになるペナルティで、+1だった武器が+0になるというペナルティ。
この三つだけだ。
間違っても武器消滅なんてペナルティはなかったはずなのだ。
「あの‥‥‥正式サービスで‥‥‥新しく四つ目のペナルティが追加されたのかも知れません。‥‥‥ウチも前に一度だけ‥‥‥同じ事があったんです。だから‥‥‥確立は凄く低いんでしょうけど‥‥‥‥‥」
武器の専門職であるネズハにこう言われたら、僕達には否定の材料はない。それに、仮にネズハが嘘をついていたとしたら、ネズハは僕達の目の前でシステムにはない、武器消滅ペナルティを引き起こした事になる。
そんな事を一プレイヤーであるネズハにできるはずがない。
「そっか‥‥‥分かったよ‥‥‥」
僕がネズハに小さい声で、そう呟くと、ネズハがチラリと僕達の方に視線を向けて、再び小声で謝罪してきた。
「あの‥‥‥本当に何とお詫びしたらいいか‥‥‥同じ武器をお返しできたらいいんですが、見ての通り、曲刀は在庫がなくて‥‥‥片手剣か短剣なら、種類もそれなりに揃ってるんですけど‥‥‥せめてものお詫びに、ウチの店にある武器のどれかお持ちになりますか?」
この問いに僕が答えるわけにはいかないので、僕はずっと黙ったままの優子に視線を向ける。
優子はずっと黙っていたが、少しだけ、本当に注意して見ていなければ、動いているのかどうか見落としてしまいそうな位小さく首を左右に動かした。
僕は注意深く優子を見ていたので、その反応に気づくことができ、もう一度ネズハに視線を向け、優子の代わりに受け答えする。
「いや、いいよ。こっちで何とかするよ」
こう言っちゃ何だけど、ネズハの店に置いてある武器はどれもこれも、そんなにいい武器じゃない。
ほとんどが原初の町でも売ってるような武器ばっかりだ。
これなら僕等がドロップした曲刀から、優子の使いやすいのを選んでもらって、それを優子に渡した方が、これからの攻略にも役に立つ。
第一、武器の強化失敗ペナルティのリスクは鍛冶屋ではなく、依頼者本人が請け負うものだ。しかもネズハは今のスキル値での成功率を公開している。恐らく、1%もないであろう確立の武器消滅を引き当ててしまっても、その責任は全面的にコッチにあるものだから、ネズハが武器を弁償する必要は全くないのだ。
僕がネズハに伝えた通り僕等は武器を貰わずに、店を後にしようとした時、ネズハに声をかけられ止められる。
「あの‥‥‥せめて手数料の返金だけでも‥‥‥」
と言ってネズハは手を動かそうとしてくる。
僕はそれを見てすかさずネズハを止める。
「大丈夫だよ。プレイヤー鍛冶屋の中では回数を叩けば同じって言って適当に叩く人もいるけど、ネズハは一生懸命ハンマーを振ってくれていたのは、見てて分かったから」
僕がそう言った瞬間、ネズハは何故かビクッとして首を縮めたように見えた。
そして、消えてしまいそうな声でもう一度謝罪してくる。
「‥‥‥本当に、本当に‥‥‥すみませんでした‥‥!」
そう言って頭を下げたネズハを後に僕達は店を出て行き、とりあえず場所を移動することにした。
翔子が優子に付き添いながら一緒に歩いていたら、道中にベンチを見つけて
「‥‥‥優子、とりあえず座ろ?」
そう言うと、優子は何も言わずにベンチへと座り込む。
優子が座った後に翔子も優子の隣に座る。
「‥‥‥‥‥‥‥」
「‥‥‥‥‥‥‥」
‥‥‥‥‥弱った。言葉が何も出てこない。
翔子は元々無口なせいもあり中々喋らないし、優子は落ち込んでいて、自分から喋れるような精神状態ではなかった。
雄二に関しては、店に居た時から一言も話さず、今もなお考え事をしている。
つまり今、僕の周りの空気は物凄く薄い状態だった。
「‥‥‥あ、あのさ‥‥‥‥」
僕はこの空気にはとてもじゃないけど、耐えきれずに口を開く。勿論、自分が何を話すつもりとか、そう言った計画性はゼロの切り出しだった。
「その、ええっと、カッツバルゲルは残念‥‥‥だったけど‥‥‥でも、カッツバルゲルと同等の剣は、僕達が二層に上がってくるまでの道中でドロップした武器の中にあったと思うんだ。‥‥‥それに、隣の町の《マロン》では、カッツバルゲルよりも強い武器が店売りしてるんだ。勿論、安いわけじゃないけど、皆で協力すれば直ぐに予算も貯められると思うし、皆も事情を話したらきっと協力してくれるよ」
僕が必死で頭を捻り出した言葉はそんな言葉だった。
僕は自分のボキャブラリーのなさに嫌気が指したが、優子は僕に聞こえるギリギリの小さな声で言葉を発してくれた。
「‥‥‥でも‥‥‥あの剣は‥‥‥」
だが、優子が言葉を言い終わる前に、優子の頬に透明な雫が二つ流れたことにより、言葉を最後まで聞き取ることができなかった。
どうやら優子は、僕が思っていたよりもカッツバルゲルに愛着を持っていたようだ。
泣いてしまった優子の頭を翔子が優しく撫でて、慰めてくれている。
‥‥‥確かに優子が泣きたくなる気持ちは僕にも分かる。
もし、今僕の背中に吊っているアニールブレードが消えれば、僕も泣いてしまうかもしれない。いや、きっと泣くと思う。
けど、正直優子が剣を失って泣くようなタイプだとは思わなかった。どちらかと言えば、強い剣がドロップすると迷わずにそっちを使うタイプだと思っていた。
僕はその事に気付くと、余計に優子に掛ける言葉が見つからなくなった。
どれくらい無言の時間が経っただろうか?
唐突に優子は顔を少しだけ上げて、僕に質問を投げかけてくる。
「‥‥‥ねぇ、明久、あの剣が、アタシの剣が‥‥‥アタシの使ってた剣が帰って来ることはもう‥‥‥ないの?」
久々に聞いた声は、まだ涙声だった。
「‥‥‥残念だけど‥‥‥」
「そう‥‥‥」
僕が優子の質問に答えると、優子は又しても俯いてしまった。
「けど‥ね? 冷たい事を言うようだけど‥‥‥僕等が最前線で戦い続けるなら、嫌でも武装は次々と更新しなきゃいけないんだよ。‥‥‥仮にさっきの強化が成功していたとしても、カッツバルゲルは三層終盤まで使えるわけじゃないんだ。僕のアニールブレードも四層に行くと同時に、次の剣に変えないといけないんだ。‥‥‥RPGってそういうゲームなんだ‥‥‥」
僕はちゃんと慰めの言葉になるのかどうかも怪しい言葉を優子に掛けてしまったが、これが僕が掛けられる精一杯の言葉だった。
「‥‥‥そんなの‥‥‥アタシ、嫌」
一瞬の沈黙の後、優子がポツリと弱々しい言葉を発してきた。
「最初は剣なんて強ければ何でもいいと思ってたわ。‥‥‥けど、最近はそんな事思えなくなってきてた。だって‥‥‥あの剣はアタシと一緒に戦ってくれて、アタシを守ってくれた剣だったから‥‥‥それなのに‥‥‥」
優子はそう言いながら、新たな涙を再び流し始める。
「アタシ、明久の言うとおり剣を次々と変えなきゃいけないなら、上になんて行きたくない。‥‥‥だって折角一緒に頑張ってきたのに、使えなくなったら直ぐに捨てるなんてしたくない」
‥‥‥そっか。優子は物を大切に扱う人だったんだね‥‥‥けど、だったら
「だったら捨てなかったらいいんだよ」
「え‥‥‥‥?」
「‥‥‥さっきと言ってることが違う。どういうこと?」
僕がそう言うと、優子だけでなく翔子も理解できないようで、僕が言ったことの意味を聞いてくる。
「剣を変えなきゃいけなくなった時、今まで使ってた剣をインゴット化して、鍛冶屋にそれを持っていて、何か形のあるものに変えてもらうんだよ」
「‥‥‥何かって具体的にはどんなものにしてもらうの?」
翔子に、説明要求をされる。優子も翔子と同じ気持ちのようで、僕の方をじっと見てきた。
僕は最初に確認しておくと前置きをしてから二人にかくにんの言葉を投げかける。
「金属を使ってる物をインゴット化できるのは二人とも知ってるよね?」
僕の確認に肯定の意を示すように二人は頷いている。
それを確認して、僕は二人に説明を始める。
「インゴット化した物をアクセサリーとか、家を購入した時に、家に置いておける置物に変えたりするんだよ。そうすれば、その剣は姿形は変わっても捨てる事なく持っていられるでしょ? それに思い出としても残しておける」
「明久も‥‥‥そうやって思い出を残したりするの‥‥‥?」
「僕は主にアクセサリーに変えて残すようにしてるよ? まぁ当然、その分お金は余計にかかっちゃうんだけどね」
僕はβの頃にそれに気づいてからは、ずっと形を変えて残すようにしている。
勿論、正式サービスが始まり、この世界に閉じ込められた今もそのつもりでいる。
「僕はアクセサリーにするのが多かったけど、一部の人は新しく自分の武器を作る時に、インゴット化した金属を混ぜてもらってる人もいたから、そこは自分の好みで作ればいいと思うよ?」
まぁ、その場合はお金以外にもデメリットというか、意志の硬さが必要になるんだけど、それを今言っても仕方がないので、今は言わないでおく。
「剣を捨てずに、形を変えて思い出を残す、か‥‥‥アタシの剣もそうできたら良かったのにね?」
「それは‥‥‥」
そうなのだ、優子の剣は粉々に砕け散った。という事は、インゴット化もできなかったので、思い出を残す。という事ができなかったのだ。
「明日‥‥‥」
「え?」
優子が小さい声で何か呟いていたような気がして、僕が優子の言葉に耳を傾けると
「明日、マロンまで行って、新しい武器を選ぶの手伝ってくれる? 」
優子は涙を止めて、少しは元気が出たのか、明るくそう言ってくる。
どうやら優子は、僕達がドロップした武器は使わずに、新しく買うつもりのようだ。
まぁ、僕達がドロップしたものも、三層に入ると同時に、新しく変えないといけない代物ばかりだから、それも当然かな?
と、ここまで考えた僕は首を縦に振る。
「いいよ。明日迎えに行くから、そしたら一緒に剣を買いに行こう」
「‥‥‥私も一緒に行く」
「‥‥‥ありがと明久、翔子」
翔子も行くってことは雄二も一緒に行くのかな?
優子にはマロンに着くまでは、僕等の持ってる剣を一つ暫定的にだけど、持ってもらうつもりだけど、使い慣れた武器じゃない分、想定外の事が起こったら対処できないかもしれない。
優子を守るためにも、壁にしても全く問題ない奴が一人パーティーに欲しいし、翔子に頼んで雄二も一緒に連れて行ってもらおう。
「じゃあ、明日迎えに行くよ。優子達の借りてるNPCの家に行けばいいかな?」
僕はアルゴに大金をはたいて、風呂付きの家を四軒教えてもらい、それを皆に教えて、今は皆それぞれ違う家に住んでいた。
四つしか家がないので、雄二と翔子の二人(雄二に拒否権はない)
優子と秀吉の二人。これは二人は姉妹‥‥‥ではなく、姉弟だからすんなり決まった。
で、もう一組が愛子とムッツリーニーだ。これは、愛子が
「明久には一層で宿を提供してもらったから、そのお礼として、一人で済ませてあげようよ」
という一言で決まったのだ。
‥‥‥後々考えてみると、一人だと家賃も一人で払わないといけないから、損したような気がしないでもなかったが、一人で部屋を借りるっていうのも気が楽でいいもんだと思う事にしている。
そんなわけで、今僕達は一緒に暮らしてないから優子の家まで迎えに行こうと思っての発言だったんだけど
「今日は家に帰る気分じゃないから、この町の安い部屋探して、そこで泊まるわ」
という事で、明日は優子の家ではなく、ホテルへ迎えに行くことになった。
「‥‥‥私も今日は優子と一緒に泊まる。‥‥‥雄二、今日は一人で帰って」
翔子も、今日は優子と一緒に泊まるようで、雄二にそれを伝えたみたいだが、肝心の雄二は
「ん? ああ、そうか分かった」
と心ここに在らずといった感じだった。
‥‥‥おかしい。
いつもなら、もっと喜んでいるはずの展開で、この反応はおかしい。
何か変なものでも食べたんだろうか?
「それじゃ、明久、雄二また明日ね?」
「‥‥‥雄二、浮気したりしたら許さない」
そう言って二人はホテルに向かって歩いていった。
「で? 何を考えてたの?」
僕は二人の姿が見えなくなってから雄二に声をかける。
雄二がさっきから一言も発さず、黙っていたのは優子にかける言葉が見つからなかったからじゃない。考え事をしてたからだ。
「武器強化についてちょっとな。何で三つもペナルティが存在するのに、四つ目を作る必要があったと思う?」
「そんなの僕に分かるはずないじゃない」
そんなもの作った本人にしか分かるはずがない。
単なるプレイヤーの僕が知ってるわけないし、分かるはずもない。
「だろうな。俺にもサッパリ分からん。だが、四つ目のペナルティは必要ないものだとは思わないか?」
「え? そりゃ僕達からしたら必要ないけど、製作者である茅場はいると思ったんじゃないの?」
作ったからには、茅場にとってはそれが必要な事だったという事なんじゃないだろうか?
「既に三つものペナルティが存在してるんだぞ? しかも、武器消滅ペナルティとか、他のペナルティに比べると、厳しすぎやしないか? 消滅ペナルティって事は一発で終了って事だ。強化試行回数を完全に無視してやがるんだぞ?」
‥‥‥確かに雄二の言う通り、四つ目だけペナルティが厳しすぎるような気がする。
最初の三つは、次こそはと思えるチャンスがある。けど四つ目にそれはない。なんせ欠片も残らずに完全に粉々に砕け散るんだから‥‥‥
「じゃあ何で、必要ないペナルティが存在してるの?」
「恐らく、四つ目のペナルティなんてものは存在しない」
「え!? じゃあ何で優子の剣は消滅したの!?」
雄二は一体何を言ってるんだろうか?
僕には雄二が何が言いたいのか、サッパリ理解できなかった。
「それを今から確かめに行く」
そう言って雄二が歩き出したので、僕は雄二がどこに向かって歩いているのかも分からず、ただただ雄二の後について行くしかなかった。
ようやくネタを思いつき、というか話の進め方を思いつけました!
原作ではキリトが一人で違和感に気づくんですが、本作でキリトの代わりを務める明久は、キリトのように頭が言い訳ではないので、必ず事件を解決するには雄二を出す必要があり、それを踏まえて、今後どうやって進めるのかを考えていたら、投稿するのが遅れてしまいました。
ここで、報告の方をさせてもらいたいと思います。
自分は今、新しくもう一つ連載するかどうか迷ってます。
それで、連載するどうかのアンケートを活動報告にてさせてもらってますので、暇な時にでも見てやって下さい。
それでは今回はこの辺りで
感想、評価お待ちしております!